熱サイクル処理装置
【課題】 試験結果に無用なバラツキが生じることなく、試験を精密かつ能率的に行うとともに、全体のイニシャルコストの削減,省スペース化及び省エネルギ化を図る。
【解決手段】 被処理溶液を収容する複数の試験管C…を熱交換可能に保持する処理ブロックと、この処理ブロックを加熱冷却するペルチェ素子を用いたサーモモジュールと、少なくともサーモモジュールに対して通電制御を行うことにより熱サイクルによる処理を行う制御機能部を備える熱サイクル処理装置を構成するに際して、処理ブロック2…及びサーモモジュール3…を有する複数の処理ユニット4a…と、複数の処理ユニット4a…を装填する本体ハウジング5と、各処理ユニット4a…のサーモモジュール3…をそれぞれ独立して作動制御する複数の制御部6a…及びこの制御部6a…を包括的に制御するコントローラ7を有する制御機能部8とを具備する。
【解決手段】 被処理溶液を収容する複数の試験管C…を熱交換可能に保持する処理ブロックと、この処理ブロックを加熱冷却するペルチェ素子を用いたサーモモジュールと、少なくともサーモモジュールに対して通電制御を行うことにより熱サイクルによる処理を行う制御機能部を備える熱サイクル処理装置を構成するに際して、処理ブロック2…及びサーモモジュール3…を有する複数の処理ユニット4a…と、複数の処理ユニット4a…を装填する本体ハウジング5と、各処理ユニット4a…のサーモモジュール3…をそれぞれ独立して作動制御する複数の制御部6a…及びこの制御部6a…を包括的に制御するコントローラ7を有する制御機能部8とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理溶液を収容する複数の試験管に対して熱サイクルによる処理を行うDNA増幅装置等に用いて好適な熱サイクル処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、DNAを増幅する手法として、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)が知られている。PCR法は、DNA検体に対して当該DNA検体と反応させるプライマ,酵素及びデオキシリボヌクレオシド三リン酸を加え、この反応溶液(被処理溶液)を、所定の温度パターンにより変化する熱サイクルにより加熱(冷却)するとともに、この熱サイクルを順次繰り返すことによりDNAを増幅する手法であり、特許文献1には、このようなPCR法を実現するためのDNA増幅装置、即ち、無機質基板の上に設けた加熱・冷却手段と、この加熱・冷却手段の上に格子状に形成した複数の反応セルと、この反応セルの上面に設けた温度測定手段を有し、加熱・冷却手段に、P型ペルチェ素子およびN型ペルチェ素子を一対とする電熱変換素子を用いるとともに、これを反応セルに対向する位置に格子状に配置したDNA増幅装置が開示されている。
【0003】
しかし、このような従来のDNA増幅装置は、セル部とサーモモジュール間の熱容量及び熱膨張係数が大きく、かつ熱伝導性を低下させるブロック盤が介在するなどの構造により、反応溶液(被処理溶液)に対して昇温及び降温を繰り返す熱サイクルの処理性能、特に、迅速な昇温制御及び降温制御を実現できない問題があった。結局、昇温制御及び降温制御を迅速に行えないことは、融通性のある的確な温度制御が実現されないのみならず、1工程にかかる所要時間が長くなり、処理効率の低下及び省電力性の低下を招くとともに、熱サイクルの繰り返し動作は、サーモモジュールにおける半田接合部に対して各部の縦弾性係数,熱膨張率及び温度に依存した熱膨張差によるクリープを発生させることになり、半田接合部に接触不良や断線等の熱応力破壊を来しやすい。
【0004】
一方、本出願人は、この問題を解決するDNA増幅装置を、すでに特許文献2により提案した。このDNA増幅装置は、DNA検体を含む反応溶液を収容可能なセル部を有する処理ブロックと、この処理ブロックを加熱冷却するペルチェ素子を用いたサーモモジュールと、少なくともサーモモジュールに対する通電制御を行うコントローラを備えるDNA増幅装置において、処理ブロックを、金属素材による上基板部と金属素材又はセラミックス素材による下基板部を固着してなる基盤部及びこの基盤部に支持されるセル部により構成し、セル部は、上基板部に設けた少なくともセル部を位置決めするセル位置決め部を介して上基板部及び/又は下基板部に固定するとともに、下基板部における少なくともセル部の下方に位置する部位の厚さを1.0〔mm〕以下に選定し、かつ基盤部の下面にサーモモジュールを当接させたものである。
【特許文献1】特開2003−174863号公報
【特許文献2】特開2006−223292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種のDNA増幅装置は、試料遺伝子を増幅するため、温度,さらし時間及び変換点(変更タイミング)を設定した制御パターンを設定回数だけ繰り返す熱サイクルに基づく制御を行うとともに、一回に多数のセル部を処理することができることから、複数の試料遺伝子を同時に処理する際には能率的に行うことができる。一方、この種のDNA増幅装置では、温度とさらし時間が未知の遺伝子(厳密には遺伝子とプライマの組合わせ)の場合、最適な温度とさらし時間を見つけるための確認試験も必要となり、この場合には、異なる温度,さらし時間及び繰り返し回数を設定した複数の条件(制御パターン)により試験を行い、この結果を対比して最適な温度条件等を見出している。
【0006】
しかし、従来のDNA増幅装置では、異なる複数の条件毎に試験を繰り返す必要があるため、膨大な試験時間が必要となり、能率的な試験を行うことができないとともに、異なる時間(時刻)に行うため、外気温等の環境変動や試料の放置時間等が微妙に影響したり極微量の試料調合量が不均一となる不具合を招き、試験結果にバラツキを生じる虞れがあるなど、精密な試験を行うことができない問題があった。なお、これらの問題を解消するには、同一のDNA増幅装置を複数台用意すれば可能であるが、膨大なコストや設置スペースの確保を強いられるとともに、複数のDNA増幅装置間の性能のバラツキ(機差)も無視できない。
【0007】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した熱サイクル処理装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る熱サイクル処理装置1は、上述した課題を解決するため、被処理溶液を収容する複数の試験管C…を熱交換可能に保持する処理ブロックと、この処理ブロックを加熱冷却するペルチェ素子を用いたサーモモジュールと、少なくともサーモモジュールに対して通電制御を行うことにより熱サイクルによる処理を行う制御機能部を備える熱サイクル処理装置を構成するに際して、処理ブロック2…及びサーモモジュール3…を有する複数の処理ユニット4a,4b…4fと、複数の処理ユニット4a,4b…4fを装填する本体ハウジング5と、各処理ユニット4a…のサーモモジュール3…をそれぞれ独立して作動制御する複数の制御部6a,6b…6f及びこの制御部6a,6b…6fを包括的に制御するコントローラ7を有する制御機能部8とを具備してなることを特徴とする。
【0009】
この場合、発明の好適な態様により、処理ブロック2…は、試験管C…を保持する複数の試験管カップ11…を熱交換プレート部12の上面に所定間隔おきに配置固定した熱交換部13と、熱交換プレート部12の上方及び試験管カップ11…の側方に充填させた断熱材14を備えて構成できる。また、サーモモジュール3…の下面に当接し、かつ下方に突出したヒートシンク15…と、本体ハウジング5の内部に配することにより、各ヒートシンク15…に対して同時に送風可能な送風ファン16を有する空冷機構部17を設けることができる。さらに、処理ユニット4a…には、処理ブロック2…の上方に配し、かつ当該処理ブロック2…の上面を覆い又は開放する開閉可能なカバー機構部18を設けることができる。一方、コントローラ7は、アプリケーションソフトウェアPsを格納した汎用コンピュータ19を用いることができる。また、制御機能部8には、各処理ユニット4a…の作動を一緒に開始する際に所定の遅延時間tdを介して順次通電を開始させる機能を設けることができる。
【発明の効果】
【0010】
このような構成を有する本発明に係る熱サイクル処理装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0011】
(1) 異なる複数の条件毎に試験を繰り返す場合であっても各条件に係わる試験を同時に進行させることができるため、外気温等の環境変動や試料の放置時間等の影響、更には極微量の試料調合量が不均一となる不具合を排除し、試験結果に無用なバラツキが生じることなく、試験を精密かつ能率的に行うことができる。しかも、一台の熱サイクル処理装置1により行うことができるため、全体のイニシャルコストの削減,省スペース化及び省エネルギ化を図れるとともに、複数の装置間(機差)により発生する性能のバラツキを排除できる。
【0012】
(2) 好適な態様により、処理ブロック2…を、試験管C…を保持する複数の試験管カップ11…を熱交換プレート部12の上面に所定間隔おきに設けた熱交換部13と、熱交換プレート部12の上方及び試験管カップ11…の側方に充填させた断熱材14を備えて構成すれば、処理ユニット4a…間の熱的干渉を回避して各処理ユニット4a…毎に精度の高い制御を行うことができる。
【0013】
(3) 好適な態様により、サーモモジュール3…の下面に当接し、かつ下方に突出したヒートシンク15…と、本体ハウジング5の内部に配することにより、各ヒートシンク15…に対して同時に送風可能な送風ファン16を有する空冷機構部17を設ければ、一台の送風ファン16を共有できるなど、部品共有化により全体のコストダウン及び小型コンパクト化を図ることができる。
【0014】
(4) 好適な態様により、処理ユニット4a…に、処理ブロック2…の上方に配し、かつ当該処理ブロック2…の上面を覆い又は開放する開閉可能なカバー機構部18を設ければ、外気温等の外乱を受けにくく、試料の出し入れの際に他の処理ユニット4a…の試料の温度が低下してしまう等の影響が生じない、より安定した試験(処理)を行うことができる。
【0015】
(5) 好適な態様により、コントローラ7に、アプリケーションソフトウェアPsを格納した汎用コンピュータ19を用いれば、一般的なパソコンを利用できるため、容易かつ柔軟に試験(処理)を行うことができるとともに、熱サイクル処理装置1の発展性を高めることができ、しかも専用のコントローラが不要になるため、コスト削減にも寄与できる。
【0016】
(6) 好適な態様により、制御機能部8に、各処理ユニット4a…の作動を一緒に開始する際に所定の遅延時間tdを介して順次通電を開始させる機能を設ければ、大きな突入電流の発生を防止できる。したがって、一時的な電源電圧低下等の不安定動作を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明に係る最良の実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
まず、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1の構成について、図1〜図6を参照して説明する。
【0019】
図1中、1は熱サイクル処理装置を示し、この熱サイクル処理装置1は、大別して、複数(例示は六台)の処理ユニット4a,4b,4c,4d,4e,4fと、この処理ユニット4a…を収用可能な本体ハウジング5と、各処理ユニット4a…をそれぞれ独立して制御可能な制御機能部8を備える。
【0020】
本体ハウジング5は、図1及び図2に示すように、熱サイクル処理装置1の外郭を形成するケースとなり、上面5uには開口部21を、前面5fには通風口(排出口)22を、底面5dには通風口(吸込口)23をそれぞれ設けるとともに、本体ハウジング5の内部における底面5d付近には、共有する一台の送風ファン16を配設する。また、本体ハウジング5には制御ボックス24を備える。制御ボックス24は、図6に示すように、三つの制御基盤25…を内蔵し、一つの制御基盤25はデュアル処理、即ち、二系統の独立した制御を行うことができるマイコンを実装する。したがって、三つの制御基盤25…により六系統の独立した制御部6a,6b,6c,6d,6e,6fを構成する。さらに、制御ボックス24には、六つの電源部(ドライバ)26…を内蔵し、後述するサーモモジュール3…に対する通電を行う。各電源部26…は各制御部6a,6b…6fによりそれぞれ独立して制御される。
【0021】
また、各制御部6a,6b…6fは、外部のコントローラ7に接続する。このコントローラ7には、図6に示すように、アプリケーションソフトウェア(制御プログラム)Psを格納した汎用コンピュータ19を用いる。汎用コンピュータ19は、CPU等を内蔵したコンピューティング機能を有するコンピュータ本体51を備え、このコンピュータ本体51には、各種データを記憶可能なメモリ52を内蔵するとともに、ディスプレイ53、キーボードやマウス等の入力部54、図示を省略したプリンタ等が接続される。したがって、汎用コンピュータ19には一般的なパソコンが利用可能である。これにより、各種設定は、ディスプレイ53に表示される設定画面Vs(図5参照)を利用し、温度,さらし時間,変換点,PID制御定数等の各種設定事項を入力部54から入力することができるとともに、設定した事項は、各制御部6a,6b…6fに送信される。また、動作中の温度や動作状況等はディスプレイ53により表示される。このように、コントローラ7には、一般的なパソコン等の汎用コンピュータ19を利用できるため、容易かつ柔軟に試験(処理)を行うことができるとともに、熱サイクル処理装置1の発展性を高めることができ、しかも専用のコントローラが不要なため、コスト削減にも寄与できる。この場合、各制御部6a,6b…6f及びコントローラ7は制御機能部8を構成する。
【0022】
一方、各処理ユニット4a…は次のように構成する。なお、例示する各処理ユニット4a…は同一である。処理ユニット4aは、図3及び図4に示すように、試験管C…を保持する複数の試験管カップ11…を熱交換プレート部12の上面に所定間隔おきに配置固定した熱交換部13と、熱交換プレート部12の上方及び試験管カップ11…の側方に充填させた断熱材14と、試験管カップ11…の上端位置に配した上プレート部31とを有する処理ブロック2を備える。このような構成を採用することにより、処理ユニット4a…間の熱的干渉を回避して各処理ユニット4a…毎に精度の高い制御を行うことができる。なお、試験管Cには、容積が0.2〜1.5〔ミリリットル〕のポリプロピレン製蓋付容器を用いることができる。
【0023】
熱交換プレート部12は、金属素材により形成した上板部12u及び下板部12dを固着して構成する。上板部12uは、例えば、厚さを0.2〜0.5〔mm〕程度に選定した銅素材(無酸素銅等)による薄板材により形成するとともに、上板部12uの面上には、複数のカップ固定部12c…を配列させて設ける。一つのカップ固定部12cは、上板部12uから上方に起立し、試験管カップ11…の下部外周面が嵌合(圧入)可能な筒状となるようにバーリング形成する。また、下板部12dも、例えば、厚さを0.2〜0.5〔mm〕程度に選定した銅素材(無酸素銅等)を用いた薄板材により形成し、上板部12uの下面に固着する。上板部12uと下板部12dの固着は、銀素材を主体としたロー材を用いて接合することができる。なお、32…は、熱交換プレート部12の端辺部から切込みを入れたスリット部であり、このスリット部32…により、使用時の温度変化に伴う熱交換プレート部12に発生する反りを有効に吸収し、処理ブロック2における物理的作用の正確性及び安定性の確保、更には耐久性向上に寄与できる。さらに、熱交換プレート部12の上面には、熱交換プレート部12の温度を検出する温度センサ27を付設する。他方、試験管カップ11…の上端位置に配する上プレート部31は、試験管カップ11…の上端外径にほぼ一致する開孔部31h…を有し、この開孔部31h…に、試験管カップ11…の上端を図4に示すように嵌合させる。上プレート部31は断熱性素材により形成することができる。
【0024】
試験管カップ11は、熱伝導率の比較的高い銅素材(無酸素銅等)による薄板材(厚さ0.2〜0.3〔mm〕程度)をプレス加工により絞り成形し、試験管Cを収容可能なカップ状に形成する。したがって、試験管カップ11の内部形状は、試験管Cの少なくとも下部形状に一致させる。そして、試験管カップ11の下部外周面をカップ固定部12cに圧入して固定する。なお、試験管カップ11の下面は下板部12dの上面に上板部12uと一緒にロー付けしてもよい。この試験管カップ11は、一つの処理ユニット4a…において、横に3個、縦に8個配列させる。図1は一個の試験管カップ11のみを原理的に示している。
【0025】
さらに、図2に示すように、各処理ブロック2…の上面にはそれぞれ独立したカバー機構部18…を付設する。カバー機構部18…は、処理ブロック2…の上方に配し、かつ当該処理ブロック2…の上面を覆い又は開放することができるように開閉可能に構成する。カバー機構部18は、カバー本体33を備え、このカバー本体33の後端側をヒンジ機構部34を介して上プレート部31の上面後部に回動可能に取付ける。カバー本体33は偏平なボックス状に形成し、内部には結露防止ヒータ35を内蔵する。また、カバー本体33の下面33dには、試験管C…の上端を位置決めして保持する保持プレート部36を設けるとともに、外縁に沿ったシーリング材37及び前端側に配したロック部38を設ける。このロック部38は、カバー本体33を閉じた際に本体ハウジング5に係止する。さらに、カバー本体33の前端には取手部39を設ける。このようなカバー機構部18を設ければ、外気温等の外乱の受けにくい、より安定した試験(処理)を行うことができる。
【0026】
他方、熱交換プレート部12の下面には、熱伝導グリースを介在させることにより、複数(例えば、三つ)のサーモモジュール3…の加熱冷却面(上面)を、ネジ等の固定具を利用して取付ける。サーモモジュール3は、複数のペルチェ素子を連結して直列集合体とし、この直列集合体を一対の基板で挟む構造を有する。この直列集合体に対する通電方向を、順方向又は逆方向に切換えれば、サーモモジュール3…を加熱動作又は冷却動作させることができる。また、サーモモジュール3の下面には、熱伝導グリースを介在させることにより、ヒートシンク15を、ネジ等の固定具を利用して取付ける。ヒートシンク15は、サーモモジュール3の下面に面接触可能な基部15bと、この基部15bから下方に突出した多数の放熱フィン15f…を有し、全体をアルミニウム等の伝熱性素材により一体形成する。
【0027】
このように構成する処理ブロック2は、処理ブロック2自身の熱容量及び熱膨張差による反り等の変形の影響を小さくできるとともに、熱伝導性を高めることができるため、迅速な昇温制御及び降温制御が可能となる。これにより、融通性のある的確な温度制御を実現できるとともに、1サイクル(1工程)にかかる所要時間の短縮により、処理効率の向上及び省電力性の向上を図ることができる。また、処理ブロック2における熱応答性が良好になることにより、サーモモジュール3…のヒートシンク15側における温度変化も小さくなるため、サーモモジュール3…での熱応力破壊を防止でき、もって耐久性(寿命)を高めることができる。しかも、サーモモジュール3…を構成するペルチェ素子に付加されるストレスを低減し、より耐久性を向上させることができる。さらに、熱交換プレート部12を、金属素材により形成した上板部12u及び下板部12dを固着して構成すれば、品質の高い処理ブロック2を容易に得ることができる。
【0028】
次に、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1の使用方法及び動作について、図1〜図11を参照して説明する。
【0029】
例示は熱サイクル処理装置1をDNA増幅装置として使用する。まず、六台の処理ユニット4a,4b…4fを用意し、本体ハウジング5の内部にセットする。この場合、各処理ユニット4a…を図1及び図2に示すように、本体ハウジング5の上面5uに設けた開口部21から内部に収容し、図面に現れない本体ハウジング5の背面から四本のボルトにより位置決め固定する。そして、図6に示すように、各処理ユニット4a…の温度センサ27…と制御ボックス24の制御部6a…をコネクタ61…により接続するとともに、サーモモジュール3…と電源部25…をコネクタ62…により接続する。また、図2に示すように、カバー本体33を開き、試料遺伝子を含む反応溶液(被処理溶液)Lを収容した試験管C…(図3参照)を試験管カップ11…に差し込み、カバー本体33を閉じる。
【0030】
一方、汎用コンピュータ19には制御パターンを設定する。図5は、汎用コンピュータ19のディスプレイ53に表示される設定画面Vsを示す。図5に示す設定画面VsはCH1のみを示すが、CH2〜CH6も同様に表示される。この設定画面Vsにより制御パターンを設定することができ、図中、Dta,Dtb,Dtcは温度、Dca,Dcb,Dccはさらし時間、Dnは繰り返し回数の設定部である。そして、1st.から5th.の五段階により、より複雑な制御パターンを設定できる。
【0031】
図7は、制御パターンの一例を示す。この制御パターンは、設定温度の一部(アニール温度)を試験管C…毎に段階的に変化させることにより温度勾配(グラジエント)を設定し、時間を固定した状態で遺伝子増幅の温度条件を見出すためのパターンである。これにより、どの試験管Cが最も良好な増幅を行うことができるかを探すことができる。アニール温度は遺伝子増幅にとって極めて重要であり、通常2〔℃〕の相違により増幅産物に劇的な変化をもたらす場合があるため、このような試験を行うことにより、最適なアニール温度条件を比較的簡単かつ的確に把握することができる。図7において、Zcが1サイクル、Zaがアニール工程を示す。このアニール工程Zaにおいて、例えば、処理ユニット4a(CH1)にアニール温度45〔℃〕を、処理ユニット4b(CH2)にアニール温度47.5〔℃〕を、処理ユニット4c(CH3)にアニール温度50〔℃〕を、処理ユニット4d(CH4)にアニール温度52.5〔℃〕を、処理ユニット4e(CH5)にアニール温度55〔℃〕を、処理ユニット4f(CH6)にアニール温度57.5〔℃〕を設定することができる。したがって、図5の設定画面Vsでは、「2nd.」における一段目のDtaにアニール温度45〔℃〕を、二段目のDtbにアニール温度72〔℃〕を、三段目のDtcにアニール温度95〔℃〕を設定すればよい。
【0032】
図8は、図7の制御パターンにより試験を行ったCH1〜CH6に対する温度勾配(グラジエント)Qiを実線で示すとともに、従来の専用試験装置の場合の温度勾配Qrを仮想線で示す。従来の専用試験装置では、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1のように各処理ユニット4a…が完全に独立していないため、CH1〜CH6に相互の熱的干渉が発生し、温度勾配Qrは直線性に劣るS字特性となる。また、一体型のため、さらし時間を個々に設定することができず、高精度の試験を行うには限界がある。これに対して、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1の場合には、温度勾配Qiは直線性の高い特性となり、高精度の試験を行うことができる。特に、アニール温度の最適な温度条件を模索する試験においては、従来、2〜3日を要していた試験を半日程度に短縮可能である。
【0033】
図9は、図7の制御パターンにおいて更に時間を変化させた状態で遺伝子増幅の最適条件を見出すためのパターンである。従来のグラジエント(温度勾配)タイプでは、アニール工程のさらし時間を個々に設定できないため、十分な最適条件を見つけにくいが、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1では、各処理ユニット4a…が独立しているため、各処理ユニット4a…毎に温度設定できることに加えて時間設定も可能になる。一般的なDNA増幅の場合、最適条件を求める際には、アニール工程のさらし時間と温度が最も重要な要素になるため、アニール工程以外の工程では、図9に示すようにプログラミングされた制御パターンを用いることができる。同様に、アニール工程と並んで重要な繰り返し回数を設定する場合、従来では同一のDNA増幅装置を複数台用意するか或いは1台を何日にもわたって繰り返し使用する必要があるが、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1では、各処理ユニット4a…毎に設定できるため、最適な繰り返し回数の設定も1日程度で模索できる。
【0034】
図10は、他の制御パターンを示す。同図(a)はCH1であり、アニール温度の差を確認する試験である。したがって、この場合、図示を省略したCH2には、異なるアニール温度を設定し、両者の比較を行うことができる。同図(b)はCH3であり、インキュベータとして時間tsで立ち上げた状態を示す。同図(c)はCH4であり、伸長工程の長めの遺伝子増幅試験中を示す。同図(d)はCH5であり、時間thから保存温度に移行した状態を示す。なお、図示を省略したが、CH6においてもCH1〜CH5とは異なる独自の試験を行うことができる。このように各処理ユニット4a…は独立して使用できるため、例えば、複数の研究者により一台の熱サイクル処理装置1を自由に共用可能となるなど、弾力的利用が可能である。
【0035】
他方、熱サイクル処理装置1(DNA増幅装置)は次のように動作する。まず、汎用コンピュータ19のスタートキーをオンにする(押す)ことにより、各制御部6a,6b…6fが動作を開始する。また、加熱動作時には送風ファン16が作動する。この送風ファン16の回転数は固定であってもよいし、インバータ制御により可変させてもよい。この場合、送風ファン16は、六台の処理ユニット4a…のヒートシンク15…に対して同時に送風することができ、各ヒートシンク15…と送風ファン16は空冷機構部17を構成する。このように構成する空冷機構部17を設ければ、一台の送風ファン16を共有できるなど、部品共有化により全体のコストダウン及び小型コンパクト化を図ることができる利点がある。
【0036】
また、汎用コンピュータ19は、図11に示すように、各処理ユニット4a…の作動を一緒に開始する際に、所定の遅延時間td…を介して順次通電を開始させる機能を備えている。したがって、汎用コンピュータ19のスタートキーをオンにすることにより、最初にCH1の処理ユニット4aのサーモモジュール3…に通電が開始し、次に、遅延時間tdを経てCH2の処理ユニット4bのサーモモジュール3…に通電が開始し、次に、遅延時間tdを経てCH3の処理ユニット4cのサーモモジュール3…に通電が開始する。以後、同様にCH6の処理ユニット4fまで遅延時間tdを介して順次通電が開始する。この場合、CH1の処理ユニット4aがONしてからCH6の処理ユニット4fがONするまでの全体の時間は、0.25〜0.5〔秒〕程度を目安に設定することが望ましい。これにより、大きな突入電流の発生が防止され、一時的な電源電圧低下等の不安定動作を回避することができる利点がある。
【0037】
一方、加熱動作時には、サーモモジュール3…の加熱冷却面(上面)により処理ブロック2…における熱交換プレート部12が加熱され、かつサーモモジュール3…の下面が空冷機構部17により放冷する。熱交換プレート部12が加熱されることにより、熱交換プレート部12に一体の試験管カップ11…が加熱され、試験管カップ11…に保持された試験管C…、更には試験管C…に収容された反応溶液Lが加熱される。この際、断熱材14により無用な熱漏れは回避される。他方、冷却動作時には、サーモモジュール3…に対する通電方向が逆方向に制御され、サーモモジュール3…における加熱冷却面により処理ブロック2…における熱交換プレート部12が冷却され、かつサーモモジュール3…の下面が空冷機構部17により常温冷却される。このような加熱制御及び冷却制御が予め設定された制御パターンに従って実行される。なお、温度制御は、温度センサ27…による検出温度が制御部6a…に付与され、予め設定された設定温度との偏差に基づいて電源部26…が通電制御(フィードバック制御)される。
【0038】
よって、このような本実施形態に係る熱サイクル処理装置1(DNA増幅装置)によれば、異なる複数の条件毎に試験を繰り返す場合であっても各条件に係わる試験を同時に進行させることができるため、外気温等の環境変動や試料の放置時間等の影響、更には極微量の試料調合量が不均一となる不具合を排除し、試験結果に無用なバラツキが生じることなく、試験を精密かつ能率的に行うことができる。しかも、一台の熱サイクル処理装置1により行うことができるため、全体のイニシャルコストの削減,省スペース化及び省エネルギ化を図れるとともに、複数の装置間(機差)により発生する性能のバラツキを排除できる。
【0039】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。例えば、金属素材としては、銅素材が最も望ましいがアルミニウム素材等の他の金属素材の利用を排除するものではない。また、処理ユニット4a…は、全て同一の場合を示したが、処理ユニット4a…は異なってもよい。具体的には、使用する試験管C…のサイズや形状等が異なる場合には、対応する試験管カップ11を有する処理ユニット4a…を用いることができるし、或いは一部の処理ユニット4a…に、試験管C…を除去し、ガラスプレートの上に微量試料液を滴下する試験等も行うことができるユニットを加えてもよい。一方、試験管C…は、試験管カップ11…に対して着脱式であるが、試験管カップ11…に固定されていてもよいし、試験管カップ11…を直接試験管C…として使用するような形式であってもよい。なお、本発明に係る熱サイクル処理装置1は、例示したDNA増幅装置をはじめ、酵素反応装置などの熱サイクル処理を行う各種類似装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る熱サイクル処理装置の構造を示す原理的断面構成図、
【図2】同熱サイクル処理装置の全体斜視図、
【図3】同熱サイクル処理装置に備える処理ブロックの拡大断面構成図、
【図4】同熱サイクル処理装置に備える処理ブロックの断熱材を省略した一部斜視構成図、
【図5】同熱サイクル処理装置に備えるコントローラのディスプレイに表示される設定画面図、
【図6】同熱サイクル処理装置に備える電気系(制御系)のブロック系統図、
【図7】図熱サイクル処理装置において設定する制御パターン図、
【図8】同熱サイクル処理装置の各CH(処理ユニット)に対する温度特性図、
【図9】図熱サイクル処理装置において設定する他の制御パターン図、
【図10】同熱サイクル処理装置の各CH(処理ユニット)に設定する他の制御パターン図、
【図11】同熱サイクル処理装置における各CH(処理ユニット)の通電開始タイミングを示すタイムチャート、
【符号の説明】
【0041】
1:熱サイクル処理装置,2…:処理ブロック,3…:サーモモジュール,4a,4b…4f:処理ユニット,5:本体ハウジング,6a,6b…6f:制御部,7:コントローラ,8:制御機能部,11…:試験管カップ,12…:熱交換プレート部,13:熱交換部,14:断熱材,15…:ヒートシンク,16:送風ファン,17:空冷機構部,18:カバー機構部,19:汎用コンピュータ,C…:試験管,Ps:アプリケーションソフトウェア,td:遅延時間
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理溶液を収容する複数の試験管に対して熱サイクルによる処理を行うDNA増幅装置等に用いて好適な熱サイクル処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、DNAを増幅する手法として、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)が知られている。PCR法は、DNA検体に対して当該DNA検体と反応させるプライマ,酵素及びデオキシリボヌクレオシド三リン酸を加え、この反応溶液(被処理溶液)を、所定の温度パターンにより変化する熱サイクルにより加熱(冷却)するとともに、この熱サイクルを順次繰り返すことによりDNAを増幅する手法であり、特許文献1には、このようなPCR法を実現するためのDNA増幅装置、即ち、無機質基板の上に設けた加熱・冷却手段と、この加熱・冷却手段の上に格子状に形成した複数の反応セルと、この反応セルの上面に設けた温度測定手段を有し、加熱・冷却手段に、P型ペルチェ素子およびN型ペルチェ素子を一対とする電熱変換素子を用いるとともに、これを反応セルに対向する位置に格子状に配置したDNA増幅装置が開示されている。
【0003】
しかし、このような従来のDNA増幅装置は、セル部とサーモモジュール間の熱容量及び熱膨張係数が大きく、かつ熱伝導性を低下させるブロック盤が介在するなどの構造により、反応溶液(被処理溶液)に対して昇温及び降温を繰り返す熱サイクルの処理性能、特に、迅速な昇温制御及び降温制御を実現できない問題があった。結局、昇温制御及び降温制御を迅速に行えないことは、融通性のある的確な温度制御が実現されないのみならず、1工程にかかる所要時間が長くなり、処理効率の低下及び省電力性の低下を招くとともに、熱サイクルの繰り返し動作は、サーモモジュールにおける半田接合部に対して各部の縦弾性係数,熱膨張率及び温度に依存した熱膨張差によるクリープを発生させることになり、半田接合部に接触不良や断線等の熱応力破壊を来しやすい。
【0004】
一方、本出願人は、この問題を解決するDNA増幅装置を、すでに特許文献2により提案した。このDNA増幅装置は、DNA検体を含む反応溶液を収容可能なセル部を有する処理ブロックと、この処理ブロックを加熱冷却するペルチェ素子を用いたサーモモジュールと、少なくともサーモモジュールに対する通電制御を行うコントローラを備えるDNA増幅装置において、処理ブロックを、金属素材による上基板部と金属素材又はセラミックス素材による下基板部を固着してなる基盤部及びこの基盤部に支持されるセル部により構成し、セル部は、上基板部に設けた少なくともセル部を位置決めするセル位置決め部を介して上基板部及び/又は下基板部に固定するとともに、下基板部における少なくともセル部の下方に位置する部位の厚さを1.0〔mm〕以下に選定し、かつ基盤部の下面にサーモモジュールを当接させたものである。
【特許文献1】特開2003−174863号公報
【特許文献2】特開2006−223292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種のDNA増幅装置は、試料遺伝子を増幅するため、温度,さらし時間及び変換点(変更タイミング)を設定した制御パターンを設定回数だけ繰り返す熱サイクルに基づく制御を行うとともに、一回に多数のセル部を処理することができることから、複数の試料遺伝子を同時に処理する際には能率的に行うことができる。一方、この種のDNA増幅装置では、温度とさらし時間が未知の遺伝子(厳密には遺伝子とプライマの組合わせ)の場合、最適な温度とさらし時間を見つけるための確認試験も必要となり、この場合には、異なる温度,さらし時間及び繰り返し回数を設定した複数の条件(制御パターン)により試験を行い、この結果を対比して最適な温度条件等を見出している。
【0006】
しかし、従来のDNA増幅装置では、異なる複数の条件毎に試験を繰り返す必要があるため、膨大な試験時間が必要となり、能率的な試験を行うことができないとともに、異なる時間(時刻)に行うため、外気温等の環境変動や試料の放置時間等が微妙に影響したり極微量の試料調合量が不均一となる不具合を招き、試験結果にバラツキを生じる虞れがあるなど、精密な試験を行うことができない問題があった。なお、これらの問題を解消するには、同一のDNA増幅装置を複数台用意すれば可能であるが、膨大なコストや設置スペースの確保を強いられるとともに、複数のDNA増幅装置間の性能のバラツキ(機差)も無視できない。
【0007】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した熱サイクル処理装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る熱サイクル処理装置1は、上述した課題を解決するため、被処理溶液を収容する複数の試験管C…を熱交換可能に保持する処理ブロックと、この処理ブロックを加熱冷却するペルチェ素子を用いたサーモモジュールと、少なくともサーモモジュールに対して通電制御を行うことにより熱サイクルによる処理を行う制御機能部を備える熱サイクル処理装置を構成するに際して、処理ブロック2…及びサーモモジュール3…を有する複数の処理ユニット4a,4b…4fと、複数の処理ユニット4a,4b…4fを装填する本体ハウジング5と、各処理ユニット4a…のサーモモジュール3…をそれぞれ独立して作動制御する複数の制御部6a,6b…6f及びこの制御部6a,6b…6fを包括的に制御するコントローラ7を有する制御機能部8とを具備してなることを特徴とする。
【0009】
この場合、発明の好適な態様により、処理ブロック2…は、試験管C…を保持する複数の試験管カップ11…を熱交換プレート部12の上面に所定間隔おきに配置固定した熱交換部13と、熱交換プレート部12の上方及び試験管カップ11…の側方に充填させた断熱材14を備えて構成できる。また、サーモモジュール3…の下面に当接し、かつ下方に突出したヒートシンク15…と、本体ハウジング5の内部に配することにより、各ヒートシンク15…に対して同時に送風可能な送風ファン16を有する空冷機構部17を設けることができる。さらに、処理ユニット4a…には、処理ブロック2…の上方に配し、かつ当該処理ブロック2…の上面を覆い又は開放する開閉可能なカバー機構部18を設けることができる。一方、コントローラ7は、アプリケーションソフトウェアPsを格納した汎用コンピュータ19を用いることができる。また、制御機能部8には、各処理ユニット4a…の作動を一緒に開始する際に所定の遅延時間tdを介して順次通電を開始させる機能を設けることができる。
【発明の効果】
【0010】
このような構成を有する本発明に係る熱サイクル処理装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0011】
(1) 異なる複数の条件毎に試験を繰り返す場合であっても各条件に係わる試験を同時に進行させることができるため、外気温等の環境変動や試料の放置時間等の影響、更には極微量の試料調合量が不均一となる不具合を排除し、試験結果に無用なバラツキが生じることなく、試験を精密かつ能率的に行うことができる。しかも、一台の熱サイクル処理装置1により行うことができるため、全体のイニシャルコストの削減,省スペース化及び省エネルギ化を図れるとともに、複数の装置間(機差)により発生する性能のバラツキを排除できる。
【0012】
(2) 好適な態様により、処理ブロック2…を、試験管C…を保持する複数の試験管カップ11…を熱交換プレート部12の上面に所定間隔おきに設けた熱交換部13と、熱交換プレート部12の上方及び試験管カップ11…の側方に充填させた断熱材14を備えて構成すれば、処理ユニット4a…間の熱的干渉を回避して各処理ユニット4a…毎に精度の高い制御を行うことができる。
【0013】
(3) 好適な態様により、サーモモジュール3…の下面に当接し、かつ下方に突出したヒートシンク15…と、本体ハウジング5の内部に配することにより、各ヒートシンク15…に対して同時に送風可能な送風ファン16を有する空冷機構部17を設ければ、一台の送風ファン16を共有できるなど、部品共有化により全体のコストダウン及び小型コンパクト化を図ることができる。
【0014】
(4) 好適な態様により、処理ユニット4a…に、処理ブロック2…の上方に配し、かつ当該処理ブロック2…の上面を覆い又は開放する開閉可能なカバー機構部18を設ければ、外気温等の外乱を受けにくく、試料の出し入れの際に他の処理ユニット4a…の試料の温度が低下してしまう等の影響が生じない、より安定した試験(処理)を行うことができる。
【0015】
(5) 好適な態様により、コントローラ7に、アプリケーションソフトウェアPsを格納した汎用コンピュータ19を用いれば、一般的なパソコンを利用できるため、容易かつ柔軟に試験(処理)を行うことができるとともに、熱サイクル処理装置1の発展性を高めることができ、しかも専用のコントローラが不要になるため、コスト削減にも寄与できる。
【0016】
(6) 好適な態様により、制御機能部8に、各処理ユニット4a…の作動を一緒に開始する際に所定の遅延時間tdを介して順次通電を開始させる機能を設ければ、大きな突入電流の発生を防止できる。したがって、一時的な電源電圧低下等の不安定動作を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明に係る最良の実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
まず、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1の構成について、図1〜図6を参照して説明する。
【0019】
図1中、1は熱サイクル処理装置を示し、この熱サイクル処理装置1は、大別して、複数(例示は六台)の処理ユニット4a,4b,4c,4d,4e,4fと、この処理ユニット4a…を収用可能な本体ハウジング5と、各処理ユニット4a…をそれぞれ独立して制御可能な制御機能部8を備える。
【0020】
本体ハウジング5は、図1及び図2に示すように、熱サイクル処理装置1の外郭を形成するケースとなり、上面5uには開口部21を、前面5fには通風口(排出口)22を、底面5dには通風口(吸込口)23をそれぞれ設けるとともに、本体ハウジング5の内部における底面5d付近には、共有する一台の送風ファン16を配設する。また、本体ハウジング5には制御ボックス24を備える。制御ボックス24は、図6に示すように、三つの制御基盤25…を内蔵し、一つの制御基盤25はデュアル処理、即ち、二系統の独立した制御を行うことができるマイコンを実装する。したがって、三つの制御基盤25…により六系統の独立した制御部6a,6b,6c,6d,6e,6fを構成する。さらに、制御ボックス24には、六つの電源部(ドライバ)26…を内蔵し、後述するサーモモジュール3…に対する通電を行う。各電源部26…は各制御部6a,6b…6fによりそれぞれ独立して制御される。
【0021】
また、各制御部6a,6b…6fは、外部のコントローラ7に接続する。このコントローラ7には、図6に示すように、アプリケーションソフトウェア(制御プログラム)Psを格納した汎用コンピュータ19を用いる。汎用コンピュータ19は、CPU等を内蔵したコンピューティング機能を有するコンピュータ本体51を備え、このコンピュータ本体51には、各種データを記憶可能なメモリ52を内蔵するとともに、ディスプレイ53、キーボードやマウス等の入力部54、図示を省略したプリンタ等が接続される。したがって、汎用コンピュータ19には一般的なパソコンが利用可能である。これにより、各種設定は、ディスプレイ53に表示される設定画面Vs(図5参照)を利用し、温度,さらし時間,変換点,PID制御定数等の各種設定事項を入力部54から入力することができるとともに、設定した事項は、各制御部6a,6b…6fに送信される。また、動作中の温度や動作状況等はディスプレイ53により表示される。このように、コントローラ7には、一般的なパソコン等の汎用コンピュータ19を利用できるため、容易かつ柔軟に試験(処理)を行うことができるとともに、熱サイクル処理装置1の発展性を高めることができ、しかも専用のコントローラが不要なため、コスト削減にも寄与できる。この場合、各制御部6a,6b…6f及びコントローラ7は制御機能部8を構成する。
【0022】
一方、各処理ユニット4a…は次のように構成する。なお、例示する各処理ユニット4a…は同一である。処理ユニット4aは、図3及び図4に示すように、試験管C…を保持する複数の試験管カップ11…を熱交換プレート部12の上面に所定間隔おきに配置固定した熱交換部13と、熱交換プレート部12の上方及び試験管カップ11…の側方に充填させた断熱材14と、試験管カップ11…の上端位置に配した上プレート部31とを有する処理ブロック2を備える。このような構成を採用することにより、処理ユニット4a…間の熱的干渉を回避して各処理ユニット4a…毎に精度の高い制御を行うことができる。なお、試験管Cには、容積が0.2〜1.5〔ミリリットル〕のポリプロピレン製蓋付容器を用いることができる。
【0023】
熱交換プレート部12は、金属素材により形成した上板部12u及び下板部12dを固着して構成する。上板部12uは、例えば、厚さを0.2〜0.5〔mm〕程度に選定した銅素材(無酸素銅等)による薄板材により形成するとともに、上板部12uの面上には、複数のカップ固定部12c…を配列させて設ける。一つのカップ固定部12cは、上板部12uから上方に起立し、試験管カップ11…の下部外周面が嵌合(圧入)可能な筒状となるようにバーリング形成する。また、下板部12dも、例えば、厚さを0.2〜0.5〔mm〕程度に選定した銅素材(無酸素銅等)を用いた薄板材により形成し、上板部12uの下面に固着する。上板部12uと下板部12dの固着は、銀素材を主体としたロー材を用いて接合することができる。なお、32…は、熱交換プレート部12の端辺部から切込みを入れたスリット部であり、このスリット部32…により、使用時の温度変化に伴う熱交換プレート部12に発生する反りを有効に吸収し、処理ブロック2における物理的作用の正確性及び安定性の確保、更には耐久性向上に寄与できる。さらに、熱交換プレート部12の上面には、熱交換プレート部12の温度を検出する温度センサ27を付設する。他方、試験管カップ11…の上端位置に配する上プレート部31は、試験管カップ11…の上端外径にほぼ一致する開孔部31h…を有し、この開孔部31h…に、試験管カップ11…の上端を図4に示すように嵌合させる。上プレート部31は断熱性素材により形成することができる。
【0024】
試験管カップ11は、熱伝導率の比較的高い銅素材(無酸素銅等)による薄板材(厚さ0.2〜0.3〔mm〕程度)をプレス加工により絞り成形し、試験管Cを収容可能なカップ状に形成する。したがって、試験管カップ11の内部形状は、試験管Cの少なくとも下部形状に一致させる。そして、試験管カップ11の下部外周面をカップ固定部12cに圧入して固定する。なお、試験管カップ11の下面は下板部12dの上面に上板部12uと一緒にロー付けしてもよい。この試験管カップ11は、一つの処理ユニット4a…において、横に3個、縦に8個配列させる。図1は一個の試験管カップ11のみを原理的に示している。
【0025】
さらに、図2に示すように、各処理ブロック2…の上面にはそれぞれ独立したカバー機構部18…を付設する。カバー機構部18…は、処理ブロック2…の上方に配し、かつ当該処理ブロック2…の上面を覆い又は開放することができるように開閉可能に構成する。カバー機構部18は、カバー本体33を備え、このカバー本体33の後端側をヒンジ機構部34を介して上プレート部31の上面後部に回動可能に取付ける。カバー本体33は偏平なボックス状に形成し、内部には結露防止ヒータ35を内蔵する。また、カバー本体33の下面33dには、試験管C…の上端を位置決めして保持する保持プレート部36を設けるとともに、外縁に沿ったシーリング材37及び前端側に配したロック部38を設ける。このロック部38は、カバー本体33を閉じた際に本体ハウジング5に係止する。さらに、カバー本体33の前端には取手部39を設ける。このようなカバー機構部18を設ければ、外気温等の外乱の受けにくい、より安定した試験(処理)を行うことができる。
【0026】
他方、熱交換プレート部12の下面には、熱伝導グリースを介在させることにより、複数(例えば、三つ)のサーモモジュール3…の加熱冷却面(上面)を、ネジ等の固定具を利用して取付ける。サーモモジュール3は、複数のペルチェ素子を連結して直列集合体とし、この直列集合体を一対の基板で挟む構造を有する。この直列集合体に対する通電方向を、順方向又は逆方向に切換えれば、サーモモジュール3…を加熱動作又は冷却動作させることができる。また、サーモモジュール3の下面には、熱伝導グリースを介在させることにより、ヒートシンク15を、ネジ等の固定具を利用して取付ける。ヒートシンク15は、サーモモジュール3の下面に面接触可能な基部15bと、この基部15bから下方に突出した多数の放熱フィン15f…を有し、全体をアルミニウム等の伝熱性素材により一体形成する。
【0027】
このように構成する処理ブロック2は、処理ブロック2自身の熱容量及び熱膨張差による反り等の変形の影響を小さくできるとともに、熱伝導性を高めることができるため、迅速な昇温制御及び降温制御が可能となる。これにより、融通性のある的確な温度制御を実現できるとともに、1サイクル(1工程)にかかる所要時間の短縮により、処理効率の向上及び省電力性の向上を図ることができる。また、処理ブロック2における熱応答性が良好になることにより、サーモモジュール3…のヒートシンク15側における温度変化も小さくなるため、サーモモジュール3…での熱応力破壊を防止でき、もって耐久性(寿命)を高めることができる。しかも、サーモモジュール3…を構成するペルチェ素子に付加されるストレスを低減し、より耐久性を向上させることができる。さらに、熱交換プレート部12を、金属素材により形成した上板部12u及び下板部12dを固着して構成すれば、品質の高い処理ブロック2を容易に得ることができる。
【0028】
次に、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1の使用方法及び動作について、図1〜図11を参照して説明する。
【0029】
例示は熱サイクル処理装置1をDNA増幅装置として使用する。まず、六台の処理ユニット4a,4b…4fを用意し、本体ハウジング5の内部にセットする。この場合、各処理ユニット4a…を図1及び図2に示すように、本体ハウジング5の上面5uに設けた開口部21から内部に収容し、図面に現れない本体ハウジング5の背面から四本のボルトにより位置決め固定する。そして、図6に示すように、各処理ユニット4a…の温度センサ27…と制御ボックス24の制御部6a…をコネクタ61…により接続するとともに、サーモモジュール3…と電源部25…をコネクタ62…により接続する。また、図2に示すように、カバー本体33を開き、試料遺伝子を含む反応溶液(被処理溶液)Lを収容した試験管C…(図3参照)を試験管カップ11…に差し込み、カバー本体33を閉じる。
【0030】
一方、汎用コンピュータ19には制御パターンを設定する。図5は、汎用コンピュータ19のディスプレイ53に表示される設定画面Vsを示す。図5に示す設定画面VsはCH1のみを示すが、CH2〜CH6も同様に表示される。この設定画面Vsにより制御パターンを設定することができ、図中、Dta,Dtb,Dtcは温度、Dca,Dcb,Dccはさらし時間、Dnは繰り返し回数の設定部である。そして、1st.から5th.の五段階により、より複雑な制御パターンを設定できる。
【0031】
図7は、制御パターンの一例を示す。この制御パターンは、設定温度の一部(アニール温度)を試験管C…毎に段階的に変化させることにより温度勾配(グラジエント)を設定し、時間を固定した状態で遺伝子増幅の温度条件を見出すためのパターンである。これにより、どの試験管Cが最も良好な増幅を行うことができるかを探すことができる。アニール温度は遺伝子増幅にとって極めて重要であり、通常2〔℃〕の相違により増幅産物に劇的な変化をもたらす場合があるため、このような試験を行うことにより、最適なアニール温度条件を比較的簡単かつ的確に把握することができる。図7において、Zcが1サイクル、Zaがアニール工程を示す。このアニール工程Zaにおいて、例えば、処理ユニット4a(CH1)にアニール温度45〔℃〕を、処理ユニット4b(CH2)にアニール温度47.5〔℃〕を、処理ユニット4c(CH3)にアニール温度50〔℃〕を、処理ユニット4d(CH4)にアニール温度52.5〔℃〕を、処理ユニット4e(CH5)にアニール温度55〔℃〕を、処理ユニット4f(CH6)にアニール温度57.5〔℃〕を設定することができる。したがって、図5の設定画面Vsでは、「2nd.」における一段目のDtaにアニール温度45〔℃〕を、二段目のDtbにアニール温度72〔℃〕を、三段目のDtcにアニール温度95〔℃〕を設定すればよい。
【0032】
図8は、図7の制御パターンにより試験を行ったCH1〜CH6に対する温度勾配(グラジエント)Qiを実線で示すとともに、従来の専用試験装置の場合の温度勾配Qrを仮想線で示す。従来の専用試験装置では、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1のように各処理ユニット4a…が完全に独立していないため、CH1〜CH6に相互の熱的干渉が発生し、温度勾配Qrは直線性に劣るS字特性となる。また、一体型のため、さらし時間を個々に設定することができず、高精度の試験を行うには限界がある。これに対して、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1の場合には、温度勾配Qiは直線性の高い特性となり、高精度の試験を行うことができる。特に、アニール温度の最適な温度条件を模索する試験においては、従来、2〜3日を要していた試験を半日程度に短縮可能である。
【0033】
図9は、図7の制御パターンにおいて更に時間を変化させた状態で遺伝子増幅の最適条件を見出すためのパターンである。従来のグラジエント(温度勾配)タイプでは、アニール工程のさらし時間を個々に設定できないため、十分な最適条件を見つけにくいが、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1では、各処理ユニット4a…が独立しているため、各処理ユニット4a…毎に温度設定できることに加えて時間設定も可能になる。一般的なDNA増幅の場合、最適条件を求める際には、アニール工程のさらし時間と温度が最も重要な要素になるため、アニール工程以外の工程では、図9に示すようにプログラミングされた制御パターンを用いることができる。同様に、アニール工程と並んで重要な繰り返し回数を設定する場合、従来では同一のDNA増幅装置を複数台用意するか或いは1台を何日にもわたって繰り返し使用する必要があるが、本実施形態に係る熱サイクル処理装置1では、各処理ユニット4a…毎に設定できるため、最適な繰り返し回数の設定も1日程度で模索できる。
【0034】
図10は、他の制御パターンを示す。同図(a)はCH1であり、アニール温度の差を確認する試験である。したがって、この場合、図示を省略したCH2には、異なるアニール温度を設定し、両者の比較を行うことができる。同図(b)はCH3であり、インキュベータとして時間tsで立ち上げた状態を示す。同図(c)はCH4であり、伸長工程の長めの遺伝子増幅試験中を示す。同図(d)はCH5であり、時間thから保存温度に移行した状態を示す。なお、図示を省略したが、CH6においてもCH1〜CH5とは異なる独自の試験を行うことができる。このように各処理ユニット4a…は独立して使用できるため、例えば、複数の研究者により一台の熱サイクル処理装置1を自由に共用可能となるなど、弾力的利用が可能である。
【0035】
他方、熱サイクル処理装置1(DNA増幅装置)は次のように動作する。まず、汎用コンピュータ19のスタートキーをオンにする(押す)ことにより、各制御部6a,6b…6fが動作を開始する。また、加熱動作時には送風ファン16が作動する。この送風ファン16の回転数は固定であってもよいし、インバータ制御により可変させてもよい。この場合、送風ファン16は、六台の処理ユニット4a…のヒートシンク15…に対して同時に送風することができ、各ヒートシンク15…と送風ファン16は空冷機構部17を構成する。このように構成する空冷機構部17を設ければ、一台の送風ファン16を共有できるなど、部品共有化により全体のコストダウン及び小型コンパクト化を図ることができる利点がある。
【0036】
また、汎用コンピュータ19は、図11に示すように、各処理ユニット4a…の作動を一緒に開始する際に、所定の遅延時間td…を介して順次通電を開始させる機能を備えている。したがって、汎用コンピュータ19のスタートキーをオンにすることにより、最初にCH1の処理ユニット4aのサーモモジュール3…に通電が開始し、次に、遅延時間tdを経てCH2の処理ユニット4bのサーモモジュール3…に通電が開始し、次に、遅延時間tdを経てCH3の処理ユニット4cのサーモモジュール3…に通電が開始する。以後、同様にCH6の処理ユニット4fまで遅延時間tdを介して順次通電が開始する。この場合、CH1の処理ユニット4aがONしてからCH6の処理ユニット4fがONするまでの全体の時間は、0.25〜0.5〔秒〕程度を目安に設定することが望ましい。これにより、大きな突入電流の発生が防止され、一時的な電源電圧低下等の不安定動作を回避することができる利点がある。
【0037】
一方、加熱動作時には、サーモモジュール3…の加熱冷却面(上面)により処理ブロック2…における熱交換プレート部12が加熱され、かつサーモモジュール3…の下面が空冷機構部17により放冷する。熱交換プレート部12が加熱されることにより、熱交換プレート部12に一体の試験管カップ11…が加熱され、試験管カップ11…に保持された試験管C…、更には試験管C…に収容された反応溶液Lが加熱される。この際、断熱材14により無用な熱漏れは回避される。他方、冷却動作時には、サーモモジュール3…に対する通電方向が逆方向に制御され、サーモモジュール3…における加熱冷却面により処理ブロック2…における熱交換プレート部12が冷却され、かつサーモモジュール3…の下面が空冷機構部17により常温冷却される。このような加熱制御及び冷却制御が予め設定された制御パターンに従って実行される。なお、温度制御は、温度センサ27…による検出温度が制御部6a…に付与され、予め設定された設定温度との偏差に基づいて電源部26…が通電制御(フィードバック制御)される。
【0038】
よって、このような本実施形態に係る熱サイクル処理装置1(DNA増幅装置)によれば、異なる複数の条件毎に試験を繰り返す場合であっても各条件に係わる試験を同時に進行させることができるため、外気温等の環境変動や試料の放置時間等の影響、更には極微量の試料調合量が不均一となる不具合を排除し、試験結果に無用なバラツキが生じることなく、試験を精密かつ能率的に行うことができる。しかも、一台の熱サイクル処理装置1により行うことができるため、全体のイニシャルコストの削減,省スペース化及び省エネルギ化を図れるとともに、複数の装置間(機差)により発生する性能のバラツキを排除できる。
【0039】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。例えば、金属素材としては、銅素材が最も望ましいがアルミニウム素材等の他の金属素材の利用を排除するものではない。また、処理ユニット4a…は、全て同一の場合を示したが、処理ユニット4a…は異なってもよい。具体的には、使用する試験管C…のサイズや形状等が異なる場合には、対応する試験管カップ11を有する処理ユニット4a…を用いることができるし、或いは一部の処理ユニット4a…に、試験管C…を除去し、ガラスプレートの上に微量試料液を滴下する試験等も行うことができるユニットを加えてもよい。一方、試験管C…は、試験管カップ11…に対して着脱式であるが、試験管カップ11…に固定されていてもよいし、試験管カップ11…を直接試験管C…として使用するような形式であってもよい。なお、本発明に係る熱サイクル処理装置1は、例示したDNA増幅装置をはじめ、酵素反応装置などの熱サイクル処理を行う各種類似装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る熱サイクル処理装置の構造を示す原理的断面構成図、
【図2】同熱サイクル処理装置の全体斜視図、
【図3】同熱サイクル処理装置に備える処理ブロックの拡大断面構成図、
【図4】同熱サイクル処理装置に備える処理ブロックの断熱材を省略した一部斜視構成図、
【図5】同熱サイクル処理装置に備えるコントローラのディスプレイに表示される設定画面図、
【図6】同熱サイクル処理装置に備える電気系(制御系)のブロック系統図、
【図7】図熱サイクル処理装置において設定する制御パターン図、
【図8】同熱サイクル処理装置の各CH(処理ユニット)に対する温度特性図、
【図9】図熱サイクル処理装置において設定する他の制御パターン図、
【図10】同熱サイクル処理装置の各CH(処理ユニット)に設定する他の制御パターン図、
【図11】同熱サイクル処理装置における各CH(処理ユニット)の通電開始タイミングを示すタイムチャート、
【符号の説明】
【0041】
1:熱サイクル処理装置,2…:処理ブロック,3…:サーモモジュール,4a,4b…4f:処理ユニット,5:本体ハウジング,6a,6b…6f:制御部,7:コントローラ,8:制御機能部,11…:試験管カップ,12…:熱交換プレート部,13:熱交換部,14:断熱材,15…:ヒートシンク,16:送風ファン,17:空冷機構部,18:カバー機構部,19:汎用コンピュータ,C…:試験管,Ps:アプリケーションソフトウェア,td:遅延時間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理溶液を収容する複数の試験管を熱交換可能に保持する処理ブロックと、この処理ブロックを加熱冷却するペルチェ素子を用いたサーモモジュールと、少なくとも前記サーモモジュールに対して通電制御を行うことにより熱サイクルによる処理を行う制御機能部を備える熱サイクル処理装置であって、前記処理ブロック及び前記サーモモジュールを有する複数の処理ユニットと、前記複数の処理ユニットを着脱式に装填可能な本体ハウジングと、各処理ユニットのサーモモジュールをそれぞれ独立して作動制御する複数の制御部及びこの制御部を包括的に制御するコントローラを有する制御機能部とを具備してなることを特徴とする熱サイクル処理装置。
【請求項2】
前記処理ブロックは、試験管を保持する複数の試験管カップを熱交換プレート部の上面に所定間隔おきに配置固定した熱交換部と、前記熱交換プレート部の上方及び前記試験管カップの側方に充填させた断熱材を備えることを特徴とする請求項1記載の熱サイクル処理装置。
【請求項3】
前記サーモモジュールの下面に当接し、かつ下方に突出したヒートシンクと、前記本体ハウジングの内部に配することにより、各ヒートシンクに対して同時に送風可能な送風ファンを有する空冷機構部を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の熱サイクル処理装置。
【請求項4】
前記処理ユニットは、前記処理ブロックの上方に配し、かつ当該処理ブロックの上面を覆い又は開放する開閉可能なカバー機構部を備えることを特徴とする請求項1,2又は3記載の熱サイクル処理装置。
【請求項5】
前記コントローラは、アプリケーションソフトウェアを格納した汎用コンピュータを用いることを特徴とする請求項1記載の熱サイクル処理装置。
【請求項6】
前記制御機能部は、各処理ユニットの作動を一緒に開始する際に所定の遅延時間を介して順次通電を開始させる機能を備えることを特徴とする請求項1記載の熱サイクル処理装置。
【請求項1】
被処理溶液を収容する複数の試験管を熱交換可能に保持する処理ブロックと、この処理ブロックを加熱冷却するペルチェ素子を用いたサーモモジュールと、少なくとも前記サーモモジュールに対して通電制御を行うことにより熱サイクルによる処理を行う制御機能部を備える熱サイクル処理装置であって、前記処理ブロック及び前記サーモモジュールを有する複数の処理ユニットと、前記複数の処理ユニットを着脱式に装填可能な本体ハウジングと、各処理ユニットのサーモモジュールをそれぞれ独立して作動制御する複数の制御部及びこの制御部を包括的に制御するコントローラを有する制御機能部とを具備してなることを特徴とする熱サイクル処理装置。
【請求項2】
前記処理ブロックは、試験管を保持する複数の試験管カップを熱交換プレート部の上面に所定間隔おきに配置固定した熱交換部と、前記熱交換プレート部の上方及び前記試験管カップの側方に充填させた断熱材を備えることを特徴とする請求項1記載の熱サイクル処理装置。
【請求項3】
前記サーモモジュールの下面に当接し、かつ下方に突出したヒートシンクと、前記本体ハウジングの内部に配することにより、各ヒートシンクに対して同時に送風可能な送風ファンを有する空冷機構部を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の熱サイクル処理装置。
【請求項4】
前記処理ユニットは、前記処理ブロックの上方に配し、かつ当該処理ブロックの上面を覆い又は開放する開閉可能なカバー機構部を備えることを特徴とする請求項1,2又は3記載の熱サイクル処理装置。
【請求項5】
前記コントローラは、アプリケーションソフトウェアを格納した汎用コンピュータを用いることを特徴とする請求項1記載の熱サイクル処理装置。
【請求項6】
前記制御機能部は、各処理ユニットの作動を一緒に開始する際に所定の遅延時間を介して順次通電を開始させる機能を備えることを特徴とする請求項1記載の熱サイクル処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−51265(P2010−51265A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221076(P2008−221076)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(503004138)サーモジェン有限会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(503004138)サーモジェン有限会社 (3)
【Fターム(参考)】
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