説明

熱不安定性成分を含む歯科用組成物、およびその使用

硬化可能または硬化性の歯科用組成物、およびかかる硬化可能または硬化した組成物を含む物品が提供される。硬化可能な歯科用組成物は、1つ以上の熱不安定正基を含む熱不安定性成分を含む。加熱の際、硬化性組成物は、例えば、硬化性組成物を用いて歯牙構造に付着した歯科矯正装具の結合強度を低減するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
歯科矯正治療は、偏位した歯を矯正学的に正しい位置に移動させるものである。ブラケットとして知られる小さな歯科矯正装具は患者の歯の外面に連結され、アーチワイヤは各ブラケットのスロット中に配置される。アーチワイヤは、正しく咬合するために所望の配置に歯を誘導する軌跡を形成する。アーチワイヤの末端区分は、患者の大臼歯に固定されるバッカルチューブとして知られる装具にしばしば支持される。近年、直接的もしくは間接的な方法を用いて、歯科矯正装具を歯の表面に結合するのに接着剤を使用するのが一般的になりつつある。施術者がブラケットを歯の表面に結合するために、様々な接着剤を使用することができ、多くの優れた結合強度を提供する。典型的に2年以上であり得る治療プロセスの持続時間にわたって、ブラケットが歯の表面に接着するのを維持するために高結合強度であることが望ましい。
【0002】
しかしながら、高結合強度を有する歯科矯正用接着剤は、他の困難を導き得る。例えば、歯科矯正治療プロセスにおいて非常に難しい態様の1つは、治療終了後のブラケットの取り外しであり得る。特定の剛性のブラケットと組み合わせて使用される特定の接着剤は、ある剥離条件下においてエナメル質の破壊をもたらし得ることが業界においては周知である。結果として、多くの市販のセラミックブラケットは、剥離プロセス中の歯の表面に対する損傷を防ぐために、ブラケットと接着剤の間の境界面で結合が崩壊するように設計されている。しかしながら、この試みは、ブラケットが取り外された後に歯の表面に多くの硬化した接着パッドが残される結果となる。典型的には硬質で十分に架橋されている接着パッドを取り外すのは、臨床医にとって時間がかかり、患者にとって不愉快なものであり得る。
【0003】
治療プロセスを通して、歯の表面に対するブラケットの十分な接着を提供し、治療完了の際に便利に取り外すことも可能である新規の接着剤および方法が求められている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの態様において、本発明は、1つ以上の熱不安定性基(例えば、付加環化付加物および/またはオキシムエステル)を有する熱不安定性成分を含む硬化した歯科用組成物(例えば、硬化した歯科矯正用接着剤、硬化した歯科矯正用セメント、および/または硬化した歯科矯正用プライマー)を使用して歯牙構造に付着する歯科矯正装具の結合強度を低減する方法を提供する。1つの態様において、この方法は、結合強度を低減するために、硬化した歯科用組成物を加熱(例えば、少なくとも42℃まで)することを含む。好ましくは、硬化した歯科用組成物は、加熱前(例えば、治療の持続時間中)に十分な結合強度を維持するが、加熱の際に結合強度が低減され、歯牙構造から歯科矯正装具を取り除くのが簡便となる(例えば、装具を剥離するのに必要な力が低減される)。ある実施形態において、熱不安定性成分および/またはそれを含む歯科用組成物を、境界面(例えば、接着剤−歯境界面または装具−接着剤境界面)における剥離の際に破壊(例えば、接着剤の破壊)が起こるか、または、剥離の際に硬化した歯科用組成物内で凝集破壊が起こるように配置することが可能である。例えば、接着剤−歯境界面における破壊によって、硬化した接着剤は取り除かれた歯科矯正装具に実質的に残り、歯牙構造を簡便に清浄化することが可能となる。
【0005】
他の態様において、本発明は、1つ以上の熱不安定性基(例えば、付加環化付加物および/またはオキシムエステル)を有する硬化可能な成分を含む硬化可能な歯科用組成物(例えば、歯科矯正用プライマー、歯科矯正用接着剤、歯科矯正用シーラント、および/または歯科矯正用結合セメント)を提供する。かかる硬化可能な歯科用組成物を表面に有する物品はまた、任意でプレコート物品として、並びに任意で異なる硬化可能および/または硬化した歯科用組成物の1つ以上の層を含んで提供される。ある実施形態において、1つ以上の熱不安定性基を有する硬化可能な成分は、エチレン系不飽和化合物である。所望により、硬化可能な歯科用組成物はさらに、付加的な硬化可能な成分(例えば、エチレン系不飽和不飽和化合物)、歯科用組成物の硬化を開始する反応開始剤、充填剤、および/または放射線−熱変換体を含む。ある実施形態において、硬化可能な歯科用組成物は、酸性の官能基を有するエチレン系不飽和化合物を含むセルフエッチング歯科矯正用プライマーまたはセルフエッチング歯科矯正用接着剤である。かかる硬化可能および/または硬化した歯科用組成物の作成および使用方法、およびかかる硬化可能および/または硬化した歯科用組成物を表面に有する物品も提供される。
【0006】
さらなる他の実施形態において、本発明は、ポリマー性の熱不安定性成分を含む歯科用組成物を提供する。ポリマー性の熱不安定性成分は、ポリウレタン、ポリエステル、および/またはポリアミドなどのポリマー基を含むことができる。
【0007】
定義
本明細書で使用する時、「歯科用組成物」は、歯牙構造に付着(例えば、結合)することができる材料(例えば、歯科用または歯科矯正用材料)を表す。歯科用組成物としては、例えば、接着剤(例えば、歯科用および/または歯科矯正用接着剤)、セメント(例えば、ガラスアイオノマーセメント、樹脂変性ガラスアイオノマーセメント、および/または歯科矯正用セメント)、プライマー(例えば、歯科矯正用プライマー)、修復材、ライナー、シーラント(例えば、歯科矯正用シーラント)、およびコーティング剤が挙げられる。しばしば、歯科用組成物は、歯科用物品を歯牙構造に結合するのに使用される。
【0008】
本明細書で使用する時、「歯科用物品」は、歯牙構造に付着(例えば、結合)することができる物品を表す。歯科用物品としては、例えば、クラウン、ブリッジ、ベニヤ、インレー、オンレー、フィリング、歯科矯正装具および装置、並びに人工器官(例えば、部分的または完全な義歯)が挙げられる。
【0009】
本明細書で使用する時、「歯科矯正装具」は、限定はしないが歯科矯正ブラケット、バッカルチューブ、舌側リテーナー、歯科矯正バンド、咬合開放器、ボタン、およびクリートを含む、歯牙構造と結合することを意図する任意の装置を表す。装具は接着剤を受け入れるベースを有し、それは金属、プラスチック、セラミック、またはこれらの組み合わせから作成されるフランジであることが可能である。あるいは、このベースは硬化性接着層(つまり、単一層または多層の接着剤)から形成される特殊なベースであることができる。
【0010】
本明細書で使用する時、「パッケージ化」物品は、容器中に受容される歯科矯正装具またはカードを表す。好ましくは、容器は、例えば水分および光を含む環境条件からの保護を提供する。
【0011】
本明細書で使用する時、「放出」基材は、物品の使用前または使用中に物品から取り外される物品と接触する基材を表す。
【0012】
本発明で使用する時、「放射線−熱変換体」は、入射光(例えば、可視光線、紫外線(UV)、赤外線(IR)、近赤外線(NIR)、および/または高周波(RF))を吸収し、入射光の実質的な部分(例えば、少なくとも50%)を熱に変換し、熱応答性添加物を軟化するのに有用であることができる。
【0013】
本明細書で使用する時、「軟化」は、材料における物理的および/または化学的変化の結果として起こる材料の弾性率の減少を表す。材料の柔軟性または変形性の程度は、材料の「コンプライアンス」として表され、ここでコンプライアンスはヤング率の逆数として定義される場合がある。
【0014】
本明細書で使用する時、「歯牙構造」は、例えば、天然および人工の歯の表面、骨、歯のモデル等を含む表面を表す。
【0015】
本明細書で使用する時、「多層」接着剤は、2つ以上の明確に異なる層(つまり、組成が異なり、および好ましくは異なる化学的特性および/または物理的特性を有する層)を有する接着剤を表す。
【0016】
本明細書で使用する時、「層」は、層とは異なる材料の全部分または一部分にわたって延在する不連続(例えば、模様付きの層)または連続(例えば、模様無し)材料を表す。層は、均一な厚さまたは変動する厚さであってよい。
【0017】
本明細書で使用する時、「模様付き層」は、模様付き層とは異なる材料の選択された部分のみにわたって(および、任意で付着する)不連続材料を表す。
【0018】
本明細書で使用する時、「模様無し層」は、模様無し層とは異なる材料の全部分にわたって(および、任意で付着する)連続材料を表す。
【0019】
一般的に、或る層とは異なる他の材料「の上」、「にわたって延在する」、または「に付着する」当該層とは、当該層と当該層とは異なる材料の間に1つ以上の付加層を任意で含むように広義の意味で解釈されることを意図とする。
【0020】
本明細書で使用する時、「硬化可能」は、例えば、溶媒の除去(例えば、蒸発および/若しくは加熱);重合および/若しくは架橋を誘起するための加熱;重合および/若しくは架橋を誘起するための放射線照射;並びに/または重合および/若しくは架橋を誘起するための1つ以上の成分の混合によって、硬化(例えば、重合化若しくは架橋化)することができる材料または組成物を記述している。「混合」は、例えば、均質な組成物を形成するために、2つ以上の部分を組み合わせ、混合することで遂行することができる。あるいは、重合を開始するために、境界面において混合する(例えば、自発的または剪断応力の付加によって)分離層として2つ以上の部分を提供することができる。
【0021】
本明細書で使用する時、「硬化した」は、硬化した(例えば、重合化または架橋化)または固化した材料または組成物を表す。
【0022】
本明細書で使用する時、「硬化剤」は、樹脂の硬化を開始するものを表す。硬化剤には、例えば、重合開始剤系、光開始剤系、および/または酸化還元開始剤系が挙げられる。
【0023】
本明細書で使用する時、「光退色性」は、化学線に曝露した際の色の消失を表す。
【0024】
本明細書で使用する時、「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート、メタクリレート、またはそれらの組み合わせの省略表現であり、「(メタ)アクリル」は、アクリル、メタクリル、またはそれらの組み合わせの省略表現を表す。
【0025】
本明細書で使用する時、化学用語「基」は置換することが可能である。
【0026】
本明細書で使用する時、「1つ(a 又は an)」は1つ以上を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、硬化可能な歯科用組成物、およびかかる組成物を含む物品を提供し、これらは硬化の際に歯牙構造に付着することができる。さらには、かかる硬化性組成物における歯牙構造への付着力(例えば、結合強度)は、典型的には簡便な条件下において加熱の際に低減され得る。付着力が低減されることで、もし歯牙構造から硬化性組成物を除去することが望ましい場合には有用となることができる。かかる硬化可能な歯科用組成物は、接着剤(例えば、歯科用および/または歯科矯正用接着剤)、セメント(例えば、ガラスアイオノマーセメント、樹脂変性ガラスアイオノマーセメント)、プライマー、修復材、ライナー、シーラント、およびコーティング剤のような、歯牙構造に付着(例えば、結合)することができる材料(例えば、歯科用および/または歯科矯正用材料)を包含する。しばしば、歯科用組成物は歯牙構造に歯科用物品(例えば、歯科矯正装具)を結合するのに使用することができる。
【0028】
ある実施形態において、かかる硬化可能な歯科用組成物は、硬化において、歯科矯正治療中に歯牙構造に歯科矯正装具が付着するのに十分な結合強度を提供することができ、さらに、例えば、施術者が歯牙構造から装具を取り除くことが必要な治療プロセスの最後に結合強度を低減するのに有用である。組成物、物品、および方法は、簡便な条件下において硬化した歯科用組成物の加熱の際に結合強度を低減するように設計される。結果として結合強度が低減されることで、歯科矯正装具を簡便に除去できるだけでなく、装具の除去後の歯牙構造にいかなる硬化した歯科用組成物も残さないことが可能となる。
【0029】
本発明の硬化可能および硬化した歯科用組成物は、本明細書に詳細に記載されている熱不安定性成分を含む。本明細書で使用する時、「熱不安定性成分」は、1つ以上の熱不安定性基を含む成分(例えば、化合物)を表す。本明細書で使用する時、「熱不安定性基」は、2つ以上の分離基を形成するために高温(つまり、少なくとも42℃)まで加熱する際に、当該基内の化学的結合が実質的に破壊される基を表す。
【0030】
熱不安定性成分は、治療中の歯牙構造に対する十分な付着力(例えば、歯科矯正装具に対して)を維持しながら、例えば、接着剤、セメント(例えば、ガラスアイオノマーセメント、樹脂変性ガラスアイオノマーセメント)、プライマー、修復材、ライナー、シーラント、およびコーティング剤を含む様々な歯科用組成物に、加熱の際に硬化した組成物の結合強度を低減するのに効果的なレベルで組み込まれ得る。治療は、1ヶ月、1年、2年またはさらにそれ以上続く歯科および/または歯科矯正治療プロセスを含む。
【0031】
特定の実施形態において、かかる歯科用組成物は施術者によって歯科矯正装具のベースに便利に適用され得る。あるいは、装具のベースにプレコートされる、かかる歯科用組成物を有する歯科矯正装具が提供され得る。典型的に、かかるプレコートされた装具は、例えば、米国特許第6,183,249号(ブレナン(Brennan)他)に記載されるような剥離ライナーまたはフォームパッドライナーを備えるか、または備えないパッケージ化物品として提供される。代表的な容器は当該技術分野において周知であり、例えば、米国特許第5,172,809号(ジェイコブス(Jacobs)他)および6,089,861号(ケリー(Kelly)他)に記載されている。
【0032】
本発明の硬化可能な歯科用組成物は、典型的に、エチレン系不飽和化合物、反応開始剤、および熱不安定性成分を含む。ある実施形態において、硬化可能な歯科用組成物は充填材も含む。ある実施形態において、硬化可能な歯科用組成物はさらに、酸性官能基を有するエチレン系不飽和化合物を含み、この硬化可能な歯科用組成物は、例えば、セルフエッチング歯科矯正用プライマーまたはセルフエッチング歯科矯正用接着剤であることができる。ある実施形態において、硬化可能な歯科用組成物はさらに、放射線−熱変換体;酸発生成分および酸反応性成分;および/または熱応答性添加物を含み、これらは全て以下に記載される。好ましくは、硬化の際、かかる組成物は、室温において少なくとも7MPaの結合強度(本明細書に記載の剪断剥離試験を用いる)で歯科矯正装具に結合することができる。
【0033】
熱不安定性成分
本発明の硬化可能な歯科用組成物は、熱不安定性成分を含む。本明細書で使用する時、「熱不安定性成分」は、1つ以上の熱不安定性基を含む成分(典型的には化合物)を表す。本明細書で使用する時、「熱不安定性基」は、2つ以上の分離基を形成するために高温(つまり、少なくとも42℃)まで加熱する際に、当該基内の化学的結合が実質的に破壊される基を表す。好ましくは、高温は200℃以下であり、より好ましくは150℃以下であり、さらにより好ましくは100℃以下であり、最も好ましくは80℃以下である。成分を高温に加熱する際に化学結合の実質的な破壊が起こるかどうかを決定する好適な方法は、当業者に明らかであろう。好適な方法には、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法(1H、13C、および/または他の適切な原子核);および紫外線(UV)分光法、可視分光法、および近赤外線(NIR)分光法を含む赤外線(IR)分光法のような分光法が挙げられる。例えば、1Hおよび/または13C NMRスペクトルは、溶媒(CDCl3)中に成分を溶解し、高温に加熱し、および成分から生じるピークの消失、または所望の温度において反応生成物から生じるピークの出現を観察することによって、NMRチューブに便利に注入されることが可能である。
【0034】
特定の実施形態において、熱不安定性成分を含む硬化した歯科用組成物は、ある温度(例えば、200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、および最も好ましくは80℃以下)まで加熱する際、熱不安定性成分を含まない硬化した歯科用組成物よりも多く軟化する。特に、高温(少なくとも42℃)まで加熱する際、高温における硬化した歯科用組成物の貯蔵弾性率は、同様の高温下において熱不安定性成分を含まない硬化した歯科用組成物の貯蔵弾性率と比較して減少する。好ましくは、高温における歯科用組成物の貯蔵弾性率は、同様の高温下において熱不安定性成分を含まない硬化した歯科用組成物の貯蔵弾性率の60%以下、より好ましくは40%以下、20%、10%、5%、1%、0.1%、またはさらに0.01%である。
【0035】
典型的および好ましくは、熱不安定性成分を含む硬化した歯科用組成物は、高温下(例えば、200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、および最も好ましくは80℃以下)でより低い結合強度を示す。特に、高温(少なくとも42℃)まで加熱する際、高温における硬化した歯科用組成物の結合強度は、同様の高温下における熱不安定性成分を含まない硬化した歯科用組成物の結合強度と比較して減少する。好ましくは、高温(例えば、70℃)における歯科用組成物の結合強度は、同様の高温(例えば、70℃)下において熱不安定性成分を含まない硬化した歯科用組成物の結合強度の90%以下、より好ましくは80%、50%、30%、20%、さらには10%である。さらに、特定の実施形態において、高温における結合強度が十分なレベル(例えば、施術者によって加圧される前に、患者の口内にブラケットが落下するのを防ぐため)で維持されることが好ましい。かかる実施形態において、高温(例えば、熱い食物にさらされる際)における歯科用組成物の結合強度は、高温下で少なくとも6MPaであることが好ましい。
【0036】
好ましくは、熱不安定性成分の荷重の50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、20重量%、10重量%、5重量%、またはさらには1重量%を含む歯科用組成物は、高温での結合強度においてかかる損失を示す。さらに、熱不安定性成分の同様の荷重において、好ましくは、室温(例えば、25℃)における硬化した歯科用組成物の結合強度は、同様の温度において熱不安定性成分を含まない硬化した歯科用組成物の結合強度の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、90%、100%、さらには100%を超えるものである。
【0037】
特定の実施形態において、本発明の硬化可能な歯科用組成物に使用するのに好適な熱不安定性成分は、好ましくは1つ以上の熱不安定性基を含む硬化可能な成分である。典型的には、各々の熱不安定性基は、複数(つまり2つ以上)の硬化可能な基と連結する多価基である。特定の実施形態において、硬化可能な熱不安定性成分は、エチレン系不飽和化合物である。例えば、かかる実施形態において、熱不安定性基は、2つのエチレン系不飽和基と連結する二価基であることができる。
【0038】
熱不安定性基は当該技術分野において公知である。例えばかかる基には、例えば米国特許第6,652,970号(エバラーツ(Everaerts)他)に開示されるようなオキシムエステル、並びに、例えば米国特許第6,825,315号(アウバート(Aubert))、6,147,141号(アイヤー(Iyer)他)、およびPCT国際特許出願公開番号第WO98/09913(ロテッロ(Rotello))に開示されるような付加環化付加物を含む基が挙げられる。
【0039】
1つの実施形態において、熱不安定性成分はオキシムエステルを含む。オキシムエステルを含む代表的な熱不安定性成分は、式(式I)で表わすことができる:
【0040】
【化1】

【0041】
式中、R1は水素または有機基であり;R2およびR3はそれぞれ独立して、例えば1つ以上のオキシムエステルおよび/または1つ以上の付加環化付加物を任意で含むことができる有機基を表し;各E1およびE2は独立してエチレン系不飽和基を表し;並びにmおよびnはそれぞれ独立して0または1である。R1、R2、およびE1のうちの2つ以上は、1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることができる。R3およびE2は、1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることができる。
【0042】
特定の実施形態において、R1は、水素またはC1〜C10有機基(例えば、C1〜C10脂肪族基、およびしばしばC1〜C10脂肪族部分)を表す。好ましくは、R1は水素またはメチルである。特定の実施形態において、R2およびR3はそれぞれ独立して、C1〜C10有機基(例えば、C1〜C10脂肪族基、およびしばしばC1〜C10脂肪族部分)を表す。
【0043】
本明細書で使用する時、「エチレン系不飽和基」は、1つ以上のエチレン不飽和を含む基を表す。したがって、エチレン系不飽和基には、1つ以上のエチレン系不飽和に加えて、他の置換基を含むことができる。各E1およびE2は独立して、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基(ジビニルベンゼン基のようなスチリル基を含む)、アリル基、およびそれらの組み合わせを含む様々なエチレン系不飽和基エチレン系不飽和基から選択されるエチレン系不飽和基(つまり、炭素−炭素二重結合を含有する基)を表すことができる。
【0044】
他の実施形態において、熱不安定性成分は付加環化付加物を含む基を含む。付加環化付加物を含む代表的な熱不安定性成分は、式(式II)で表わすことができる:
【0045】
【化2】

【0046】
式中、R4およびR5はそれぞれ独立して、例えば、1つ以上の付加環化付加物および/またはオキシムエステルを任意で含むことができる有機基を表し;Dは付加環化付加物を表し;各E3およびE4は独立して、エチレン系不飽和基(本明細書において上記で定義されるような)またはポリマー基(例えば、ヒドロキシル基とイソシアネートの反応によって形成されるポリエステル、ポリアミド、および/またはポリウレタン)を表し;oおよびpはそれぞれ独立して0または1である。R4、R5、E3、E4のうちの2つ以上、および/またはDは、1つ以上の環がDの熱不安定性(つまり、加熱の際のDが2つ以上の分離基を形成する能力)を干渉しない条件で、1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることができる。
【0047】
特定の実施形態において、R2およびR5 はそれぞれ独立して、C1〜C10有機基(例えば、C1〜C10脂肪族基、およびしばしばC1〜C10脂肪族部分)を表す。
【0048】
付加環化付加物は、当該技術分野において公知である様々な環化付加反応によって形成することができる。好適な環化付加反応としては、例えば、ディールス・アルダー反応、エン反応、1,3−双極性付加、〔2+2〕付加環化付加等が挙げられる。例えば、スミス(Smith)他による「マーチズ・アドバンスド・オーガニック・ケミストリー:反応、機構、および構造(March’s Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure)」、ワイリー社(Wiley)(2001年)を参照のこと。
【0049】
特定の実施形態において、付加環化付加物はジエンと求ジエンの間のディールス・アルダー反応によって形成することができるディールス・アルダー付加物であり、環状の付加物である。例えば、米国特許第6,147,141号(アイヤー(Iyer)他)および同6,825,315号(オーバート(Aubert))、およびPCT国際特許出願公開番号第WO98/09913(ロッテロ(Rotello))を参照のこと。かかる付加物は、例えば、一環式付加物、二環式付加物、または三環式付加物であることができる。例えば、ジエンと求ジエンの双方が非環式である場合には一環式の付加物が形成される。他の実施形態において、ジエンが一環式であって求ジエンが非環式であるか、ジエンが非環式であって求ジエンが一環式である場合には、二環式が形成される。さらに他の実施形態において、ジエンが二環式であって求ジエンが一環式である場合には、三環式が形成される。
【0050】
好適なジエン基には、例えば、ブタジエン基、シクロペンタジエン基、フラン基、アントラセン基、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0051】
好適な求ジエン基には、例えば、無水マレイン酸基、マレイミド基、シスおよびトランスケイ皮酸基およびエステル基、アクリロニトリル基、シアノエチレン基(対称性および非対称性のジシアノエチレン、トリシアノエチレン、およびテトラシアノエチレンを含む)、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0052】
本明細書で使用する時、用語「有機基」は、本発明の目的において、脂肪族基、環式基、または脂肪族基と環式基の組み合わせ(つまり、アルカリール基およびアラルキル基)として分けられる炭化水素基を意味するのに使用される。本発明においては、好適な基は、歯科用組成物の硬化または接着剤の長期老化を妨げないものである。本明細書においては、用語「脂肪族基」は、飽和または不飽和である直鎖または分枝鎖の炭化水素基を意味する。この用語は、例えば、アルキル、アルケニル、およびアルキニル基を包含するために使用される。用語「アルキル基」は、飽和である直鎖または分枝鎖の、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、第三ブチル、アミル、ヘプチル等を含む一価の炭化水素基を意味する。用語「アルケニル基」は、ビニル基のようなオレフィン性不飽和基(つまり、炭素−炭素二重結合)を1つ以上有する不飽和である直鎖または分枝鎖の一価の炭化水素基を意味する。用語「アルキニル基」は、1つ以上の炭素−炭素三重結合を有する不飽和である直鎖または分枝鎖の一価の炭化水素基を意味する。用語「環式基」は、脂環式基、芳香族基、または複素環式基として分けられる閉鎖炭化水素環基を意味する。用語「脂環式基」は、脂肪族基と特性が類似しているものを有する環状炭化水素基を意味する。用語「芳香族基」または「アリール基」は、モノ芳香族炭化水素基または多環芳香族炭化水素基を意味する。用語「複素環式基」は、閉鎖炭化水素環を意味し、ここで環中の1つ以上の原子は炭素以外の要素(例えば、窒素、酸素、硫黄等)である。
【0053】
議論および本出願を通して使用される特定の専門用語の詳細説明を単純化する手段として、用語「基」および「部分」(例えば、「有機基」および「有機部分」)は、置換が可能であるか、または置換され得る化学種と置換が可能でないか、または置換され得ないものとを区別するために使用される。したがって、用語「基」が化学置換を記載するために使用される際、記載される化学材料は非置換基および鎖並びにカルボニル基または他の従来の置換基中に、例えば、非ペルオキシO、N、S、Si、またはF原子を有する基を含む。用語「部分」が化合物または置換基を記載するために使用される際、非置換の化学材料のみが含まれることを意図する。例えば、表現「アルキル基」は、メチル、エチル、プロピル、第三ブチル等のような純開鎖飽和炭化水素アルキル置換基だけでなく、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルスルホニル、ハロゲン原子、シアノ、アミノ、カルボキシル等のような当該技術分野で公知の置換基をさらに備えるアルキル置換基を含むことを意図する。したがって、「アルキル基」としては、エーテル基、ハロアルキル、カルボキシアルキル、ヒドロキシアルキル、スルホアルキル等が挙げられる。一方、表現「アルキル部分」は、メチル、エチル、プロピル、第三ブチル等のような純開鎖飽和炭化水素アルキル置換基のみの包含に制限される。
【0054】
熱不安定性成分は、好ましくは、所望の温度に加熱する際に硬化した歯科用組成物の結合強度を減少するのに効果的なレベルで本発明の歯科用組成物に組み込むことができる。好ましくは、熱不安定性成分のかかるレベルによってまた、治療プロセス中の十分な付着が可能となる。熱不安定性成分のレベルは、使用されている特定の歯科用組成物に依存するが、典型的には、硬化可能な歯科用組成物は、歯科用組成物の総重量を基準として少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、20重量%、30重量%、さらには50重量%の熱不安定性成分を含むであろう。典型的には、歯科用組成物は、歯科用組成物の総重量を基準として95重量%以下、好ましくは90重量%以下、80重量%、70重量%、さらには50重量%の熱不安定性成分を含むであろう。
【0055】
熱不安定性成分は、典型的には、歯科用組成物を形成するために、例えば1つ以上のエチレン系不飽和化合物に溶解、分散、または懸濁される。
【0056】
ある実施形態において、熱不安定性成分は、硬化可能および/または硬化した歯科用組成物中に不均一に分配される。他の実施形態において、特に硬化可能歯科用組成物が歯科矯正装具のベースにプレコートされている実施形態において、熱不安定性成分は硬化可能な歯科用組成物の一部分に集結されることが可能である。例えば、熱不安定性成分は、剥離の際に歯牙構造付近で起こる破壊に影響する1つの表面(例えば、歯牙構造に接触する外面)付近に集結され得る。1つの表面付近に集結される熱不安定性成分は、硬化可能または硬化した歯科用組成物の表面に付着する熱不安定性成分を含む。
【0057】
硬化可能な成分
本発明の硬化可能な歯科用組成物は、典型的には硬化可能な(例えば、重合可能な)成分を含み、それによって硬化可能な(例えば、重合可能な)組成物を形成することができる。硬化可能な成分には、エチレン系不飽和化合物(酸性官能基を含むか、または含まない)、エポキシ(オキシラン)樹脂、ビニルエーテル、光重合システム、酸化還元硬化システム、ガラス・アイオノマー・セメント、ポリエーテル、ポリシロキサン等のような様々な化学物を含むことができる。ある実施形態において、組成物は、歯科用組成物の適用前に硬化される(例えば、従来の光重合および/または化学重合技術により重合される)ことができる。他の実施形態において、歯科用組成物は、歯科用組成物の適用後に硬化される(例えば、従来の光重合および/または化学重合技術により重合される)ことができる。
【0058】
特定の実施形態において、組成物は光重合可能であり、つまり、組成物は、組成物の重合(または硬化)を開始する化学線による放射の際の光開始剤(つまり光開始剤系)を含有する。かかる光重合可能な組成物は、フリーラジカル重合可能であるか、またはカチオン重合が可能であることができる。他の実施形態において、組成物は化学的に硬化可能である。即ち、組成物は化学線による放射に依存することなく、組成物を重合、硬化、または別の方法で硬化性の化学的反応開始剤(即ち、反応開始剤系)を含有する。このような化学的に硬化可能な組成物は、「自己硬化」組成物と呼ばれることもあり、ガラス・アイオノマー・セメント(例えば、従来型であり樹脂変性されたガラス・アイオノマー・セメント)、酸化還元硬化系、およびこれらの組み合わせを含み得る。
【0059】
本発明の歯科用組成物に使用することができる好適な光重合可能な成分は、例えば、エポキシ樹脂(カチオン系活性エポキシ基を含有する)、ビニルエーテル樹脂(カチオン系活性ビニルエーテル基を含有する)、エチレン不飽和化合物(遊離活性不飽和基(例えば、アクリレートおよびメタクリレート)を含有する)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。単一の化合物中にカチオン系活性官能基および遊離活性官能基の双方を含有する重合可能な材料も好適である。例としては、エポキシ官能性アクリレート、エポキシ官能性メタクリレート、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0060】
エチレン系不飽和化合物
本発明の組成物は、酸官能性基を備えるか、または備えないエチレン系不飽和化合物の形態で1つ以上の硬化可能な成分を含んでよく、それによって硬化可能な組成物を形成することができる。
【0061】
好適な硬化可能な組成物は、エチレン系不飽和化合物(遊離活性不飽和基を含有する)を含む硬化可能な成分(例えば、光重合可能な化合物)を含み得る。有用なエチレン系不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0062】
組成物(例えば、光重合可能な組成物)は、1つ以上のエチレン系不飽和基を有するモノマー、オリゴマー、およびポリマーを包含してもよいフリーラジカル的に活性な官能基を有する化合物を包含してもよい。好適な化合物は、少なくとも1つのエチレン系不飽和結合を含有し、付加重合を受けることが可能である。このようなラジカル重合可能な化合物としては、モノ−、ジ−またはポリ−(メタ)アクリレート類(即ち、アクリレート類およびメタクリレート類)例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1−(2−アクリロキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、およびトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリメタクリレート;(メタ)アクリルアミド(即ち、アクリルアミドおよびメタクリルアミド)例えば、(メタ)アクリルアミド、メチレンビス−(メタ)アクリルアミド、並びにジアセトン(メタ)アクリルアミド;ウレタン(メタ)アクリレート類、ポリエチレングリコール類のビス−(メタ)アクリレート類(好ましくは、分子量200〜500)、米国特許第4,652,274号(ボッチャー(Boettcher)他)に記載されているような、アクリレート化されたモノマー類の共重合性混合物米国特許第4,642,126号(ザドール(Zador)他)に記載されているような、アクリレート化されたオリゴマー類、並びに米国特許第4,648,843号(ミトラ(Mitra))米国特許番号に開示されているもののような、ポリ(エチレン部が不飽和の)カルバモイルイソシアヌレート類、並びにビニル化合物例えば、スチレン、ジアリルフタレート、ジビニルサクシネート、ジビニルアジパートおよびジビニルフタレートが挙げられる。他の好適なフリーラジカル的に重合可能な化合物としては、例えば、PCT国際公開特許WO00/38619(グーゲンベーガー(Guggenberger)他)、PCT国際公開特許WO01/92271(ウェインマン(Weinmann)他)、PCT国際公開特許WO01/07444(グーゲンベーガー他)、PCT国際公開特許WO00/42092(グーゲンベーガー他)に開示されているようなシロキサン官能(メタ)アクリレート、並びに、例えば、米国特許第5,076,844号(フォック(Fock)他)、米国特許第4,356,296号(グリフス(Griffith)他)、EP0373384(ワゲンネクト(Wagenknecht)他)、EP0201031(レイナーズ(Reiners)他)、およびEP0201778(レイナーズ(Reiners)他)に開示されているようなフルオロポリマー官能(メタ)アクリレートが挙げられる。必要であれば、2つ以上のフリーラジカル重合性化合物の混合物を使用することができる。
【0063】
硬化可能な成分は、単一分子内にヒドロキシル基およびエチレン系不飽和基も含有してもよい。このような物質の例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリセロールモノ−またはジ−(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンモノ−またはジ−(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールモノ−、ジ−、およびトリ−(メタ)アクリレート;ソルビトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、またはペンタ−(メタ)アクリレート;および2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−エタアクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(ビスGMA)が挙げられる。好適なエチレン系不飽和化合物は又、多種多様な民間の供給元、例えばシグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)(セントルイス)から入手可能である。必要であれば、エチレン系不飽和化合物の混合物を使用できる。
【0064】
特定の実施形態において、硬化可能な成分としては、PEGDMA(約400の分子量を有するポリエチレングリコールジメタクリレート)、ビスGMA、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、GDMA(グリセロールジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、米国特許第6,030,606号(ホームズ(Holmes))に記載されるようなビスEMA6、およびNPGDMA(ネオペンチルグリコールジメタクリレート)が挙げられる。所望であれば、この硬化可能な成分の様々な組み合わせを使用することができる。
【0065】
好ましくは、本発明の組成物はエチレン系不飽和化合物を、非充填組成物の全重量を基準として、少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、最も好ましくは少なくとも15重量%含む。好ましくは、本発明の組成物はエチレン系不飽和化合物を、非充填組成物の全重量を基準として、95重量%以下、より好ましくは90重量%以下、最も好ましくは80重量%以下含む。
【0066】
好ましくは、本発明の組成物は、酸性官能基を有さないエチレン系不飽和化合物を含む。好ましくは、本発明の組成物は、非充填組成物の全重量を基準にして、少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、および最も好ましくは少なくとも15重量%の酸性官能基を有さないエチレン系不飽和化合物を含む。好ましくは、本発明の組成物は、非充填組成物の全重量を基準にして、少なくとも95重量%以下、より好ましくは少なくとも90重量%以下、および最も好ましくは80重量%以下の酸性官能基を有さないエチレン系不飽和化合物を含む。
【0067】
酸性官能基を有するエチレン系不飽和化合物
本発明の組成物は、酸官能性基を備えるエチレン系不飽和化合物の形態で1つ以上の硬化可能な成分を含んでよく、それによって硬化可能な組成物を形成することができる。
【0068】
本明細書で使用する時、酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物とは、エチレン系系飽和および酸および/または酸前駆体官能基を有するモノマー、オリゴマー、およびポリマーを含むことを意味する。酸前駆体官能基としては、例えば、無水物、酸ハロゲン化物、およびピロリン酸塩が挙げられる。酸官能性としては、カルボン酸官能性、リン酸官能性、ホスホン酸官能性、スルホン酸官能性、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0069】
酸性官能性を持つエチレン系不飽和化合物としては、例えば、α,β−不飽和酸性化合物、例えば、グリセロールホスフェートモノ(メタ)アクリレート類、グリセロールホスフェートジ(メタ)アクリレート類、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、HEMA)ホスフェート類、ビス((メタ)アクリルオキシエチル)ホスフェート、((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシ)プロピルオキシホスフェート、(メタ)アクリルオキシヘキシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシヘキシル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシオクチルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシオクチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシデシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシデシル)ホスフェート、カプロラクトンメタクリレートホスフェート、クエン酸ジ−またはトリ−メタクリレート、ポリ(メタ)アクリレート化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリカルボキシル−ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリクロロリン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリスルホネート、ポリ(メタ)アクリレート化ポリホウ酸、などが挙げられる。これらは、硬化可能成分系内の成分として使用してもよい。また、(メタ)アクリル酸、芳香族(メタ)アクリル化酸(例えば、メタクリル化トリメリット酸)、およびこれらの無水物のような不飽和炭酸のモノマー、オリゴマー、およびポリマーも使用することができる。本発明の特定の好ましい組成物としては、少なくとも1つのP−OH部分を有する酸性官能性を有するエチレン系不飽和化合物が挙げられる。
【0070】
これらの化合物のいくつかは、例えば、イソシアナートアルキル(メタ)アクリレートとカルボン酸との反応生成物として得られる。酸性官能基びエチレン系不飽和構成成分の両方を有するこの種類のさらなる化合物は、米国特許第4,872,936号(エンゲルブレクト(Engelbrecht))および同第5,130,347号(ミトラ(Mitra))に記載されている。エチレン系不飽和および酸部分の両方を含有する多種多様なこうした化合物を使用することができる。任意で、このような化合物の混合物を使用することができる。
【0071】
酸官能基を有するさらなるエチレン系不飽和化合物としては、例えば、米国公開特許出願2004/0206932(アブエルヤマン(Abuelyaman)他)において開示された重合可能なビスホスホン酸;AA:ITA:IEM(例えば、米国特許第5,130,347号(ミトラ(Mitra))の実施例11に記載されたように、AA:ITAコポリマーと十分な2−イソシアネートエチルメタクリレートとを反応させて、コポリマーの一部の酸基をペンダントメタクリレート基に変換させることにより、製造されたアクリル酸をペンダントメタクリレートを有するイタコン酸のコポリマー);並びに米国特許第4,259,075号(ヤマウチ(Yamauchi)他)、同第4,499,251号(オムラ(Omura)他)、同第4,537,940号(オムラ(Omura)他)、同第4,539,382号(オムラ(Omura)他)、同第5,530,038号(ヤマモト(Yamamoto)他)、同第6,458,868号(オカダ(Okada)他)、および欧州公開特許出願EP712,622(トクヤマ社(Tokuyama Corp.))およびEP1,051,961(クラレイ社(Kuraray Co., Ltd.))に列挙されたものが挙げられる。
【0072】
また本発明の組成物は、酸官能性を有するエチレン系不飽和化合物の組合せを包含する組成物も包含することができる。好ましくは、組成物は自己接着性および非水性である。例えば、このような組成物は、少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基および少なくとも1つの−O−P(O)(OH)x基を包含する第1化合物で、式中、x=1または2で、且つ前記少なくとも1つの−O−P(O)(OH)x基および前記少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基が、C1〜C4炭化水素基によって互いに結合しているもの;少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基および少なくとも1つの−O−P(O)(OH)x基を包含する第2化合物で、式中、x=1または2で、且つ前記少なくとも1つの−O−P(O)(OH)x基および前記少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基が、C5〜C12炭化水素基によって互いに結合しているもの;酸性官能基を持たないエチレン系不飽和化合物;反応開始剤系;並びに充填剤を包含することができる。このような組成物は、例えば米国仮出願番号第60/600,658号(ルヒターハント(Luchterhandt)他)(2004年8月11日出願)に記載されている。
【0073】
好ましくは、本発明の組成物は、非充填組成物の全重量を基準にして、少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも3重量%、および最も好ましくは少なくとも5重量%の酸性官能基を有するエチレン系不飽和化合物を含む。好ましくは、本発明の組成物は、非充填組成物の全重量を基準にして、80重量%以下、より好ましくは70重量%以下、および最も好ましくは60重量%以下の酸性官能基を有するエチレン系不飽和化合物を含む。
【0074】
エポキシ(オキシラン)またはビニルエーテル化合物
本発明の硬化可能な組成物は、エポキシ(オキシラン)化合物(カチオン系活性エポキシ基を含有する)またはビニルエーテル化合物(カチオン系活性ビニルエーテル基)の形態で1つ以上の硬化可能な成分を含んでよく、それによって硬化可能な組成物を形成することができる。
【0075】
エポキシまたはビニルエーテルモノマーは、硬化可能な成分として歯科用組成物で単独で使用することができるか、または他の種類のモノマー(例えば本明細書に記載されるようなエチレン系不飽和化合物)と組み合わせて使用することができ、化学構造の一部として、芳香族基、脂肪族基、脂環式基、およびそれらの組み合わせを含むことができる。
【0076】
エポキシ(オキシラン)化合物の例としては、開環によって重合が可能なオキシラン環を有する有機化合物を含む。これらの材料は、モノマー性エポキシ化合物およびポリマー型エポキシ包み、脂肪族、脂環式、芳香族、または複素環式であることができる。これらの化合物は、一般的に平均で、1分子あたり少なくとも1つの重合可能なエポキシ基を有し、一部の実施形態では少なくとも1.5、他の実施形態では1分子あたり少なくとも2つの重合可能なエポキシ基を有する。ポリマー性のエポキシドとしては、末端エポキシ基を有する直鎖状のポリマー(例えば、ポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル)、骨格にオキシラン単位を有するポリマー(例えば、ポリブタジエンポリエポキシド)、およびペンダントになったエポキシ基を有するポリマー(例えば、グリシジルメタクリレートポリマーまたはコポリマー)などが挙げられる。エポキシドは純粋化合物であるか、または1分子あたり1つ、2つ、またはそれ以上のエポキシ基を含有する化合物との混合物であってよい。1分子あたりのエポキシ基の「平均」数は、エポキシ含有材料中のエポキシ基の総数を現存するエポキシ含有分子の総数で割ることで決定される。
【0077】
エポキシ含有材料は、低分子量のモノマー性材料から高分子量のポリマーまで変化し、それらの骨格鎖および置換基の性質において非常に変化し得る。許容される置換基の例としては、ハロゲン、エステル基、エーテル、スルホネート基、シロキサン基、カルボシラン基、ニトロ基、ホスフェート基等が挙げられる。エポキシ含有材料の分子量は、58〜100,000以上で変動し得る。
【0078】
本発明の樹脂系反応性成分として有用な好適なエポキシ含有材料は、米国特許第6,187,836号(オックスマン(Oxman)他)および6,084,004号(ウェインマン(Weinmann)他)に列挙されている。
【0079】
樹脂系反応性成分として有用な他の好適なエポキシ樹脂としては、3,4−エポキシシクロへキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−2−メチルシクロへキシルメチル−3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、およびビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−メチル)アジパートに代表されるエポキシシクロヘキサンカルボキシレートのようなシクロヘキサンオキシド基を含有するものを含む。この種の有用なエポキシドのより詳しい列挙においては、米国特許第6,245,828号(ワイマン(Weinmann)他)および同第5,037,861号(クリベロ(Crivello)他);および米国特許公開第2003/035899号(クレッケ(Klettke)他)で参照されている。
【0080】
本発明の組成物において有用であり得る他のエポキシ樹脂は、グリシジルエーテルモノマーがを含む。例としては、多価フェノールとエピクロロヒドリン(例えば、2,2−ビス−(2,3−エポキシプロポキシフェノール)プロパンのジグリシジルエーテル)のような過剰クロロヒドリンと反応させることで得られる多価フェノールのグリシジルエーテルである。この種のエポキシドのさらなる例としては、米国特許第3,018,262号(シュローダー(Schroeder))、および「エポキシ樹脂ハンドブック(Handbook of Epoxy Resins)」(リー(Lee)およびネビル(Neville)著、ニューヨーク州、マグローヒルブック社(McGraw-Hill Book)、1967年)に記載されている。
【0081】
樹脂系反応性成分として有用な他の好適なエポキシドは、シリコンを含有するものであり、これらの有用な例としては、国際特許出願WO01/51540号(クレッケ(Klettke)他)に記載されている。
【0082】
樹脂系反応性成分として有用なさらなる好適なエポキシドとしては、オクタデシレンオキシド、エピクロロヒドリン、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、グリシドール、グリシジルメタクリレート、ビスフェノールAと米国特許出願第10/719,598号(オックスマン(Oxman)他;2003年11月21日出願)で記述されるような他の市販のエポキシドのジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0083】
様々なエポキシ含有材料の混合物も意図される。かかる混合物の例としては、低分子量(200未満)、中分子量(200〜10,000)および高分子量(10,000超)のような2つ以上の重量平均分子量分布を有するエポキシ含有化合物を含む。あるいはまたはさらに、エポキシ樹脂は、脂肪族および芳香族、または極性および非極性等の官能性のような異なる化学特性を有するエポキシ含有材料の混合物を含有し得る。
【0084】
カチオン系活性官能基を有する有用な硬化可能な成分の他の型としては、ビニルエーテル、オキセタン、スピロオルトカーボネート、スピロオルトエステル等が挙げられる。
【0085】
所望であれば、カチオン系活性官能基および遊離活性官能基の双方を単一分子内に含有し得る。このような分子は、例えば、ジエポキシドまたはポリエポキシドと1つ以上のエチレン系不飽和カルボン酸を反応させることで得ることができる。このような材料の例は、UVR−6105(ユニオンカーバイド社(Union Carbide)より入手可能)と1等量のメタクリル酸の反応生成物である。エポキシおよび遊離活性官能基を有する市販材料としては、日本のダイセル化学(Daicel Chemical)から入手可能なCYCLOMER M−100、M−101、またはA−200のようなCYCROMERシリーズ、およびジョージア州アトランタ(Atlanta)のラッドキュアースペシャルティズ(Radcure Specialties)、UCBケミカルズ(UCB Chemicals)から入手可能なEBACRYL−3605が挙げられる。
【0086】
カチオン系硬化可能な成分は、ヒドロキシル含有有機材料をさらに含んでよい。好適なヒドロキシル含有材料は、少なくとも1つ、および好ましくは少なくとも2つのヒドロキシル官能基を有する任意の有機材料であってよい。好ましくは、ヒドロキシル含有材料は、2つ以上の一級または二級脂肪族ヒドロキシル基(つまり、ヒドロキシル基が直接非官能炭素原子と結合している)を含有する。ヒドロキシル基は末端に位置するか、ポリマーまたはコポリマーの側鎖であることができる。ヒドロキシル含有有機材料の分子量は、極低(例えば、32)〜極高(例えば、100万以上)で変動できる。好適なヒドロキシル含有材料は、低分子量(つまり、32〜200)、中分子量(つまり、200〜10,000)、または高分子量(つまり、10,000超)を有することができる。本明細書で使用する時、分子量は全て重量平均分子量である。
【0087】
ヒドロキシル含有材料は天然で非芳香族であるか、芳香族基を含有してよい。ヒドロキシル含有材料は、窒素、酸素、硫黄等のような分子の骨格鎖内にヘテロ原子を含有する。ヒドロキシ含有材料は、例えば、天然由来または人工調製されたセルロース性材料から選択されてよい。ヒドロキシ含有材料は、熱不安定性基または光分解不安定性基を実質的に含むべきではない;つまり、材料は、100℃未満の温度において、または重合可能な組成物における所望の光重合条件中に発生し得る化学光の存在下で揮発性成分を分解または遊離すべきではない。
【0088】
本発明において有用な好適なヒドロキシル含有材料は、米国特許第6,187,836号(オックスマン(Oxman)他)に列挙される。
【0089】
硬化可能な成分は、ヒドロキシル基およびカチオン系活性官能基を単一分子内に含有してもよい。一例としては、ヒドロキシル基およびエポキシ基の双方を含む単一分子である。
【0090】
ガラスアイオノマー
本発明の硬化可能な組成物は、典型的に主成分としてエチレン系不飽和カルボン酸(例えば、ポリアクリル酸、コポリ(アクリル酸、イタコン酸)等)のホモポリマーまたはコポリマーを用いる従来のガラスアイオノマーセメント、フルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラス、水、および酒石酸のようなキレート化剤が挙げられる。従来のガラスアイオノマー(つまり、ガラスアイオノマーセメント)は、典型的には、使用直前に混合される典型的に粉末/液体処方で提供される。ポリカルボン酸の酸性反復単位とガラスから浸出するカチオンとの間におけるイオン性反応に起因して、混合物は暗所で自己硬化するであろう。
【0091】
ガラスアイオノマーセメントは、樹脂変性ガラスアイオノマー(「RMGI」)セメントも含み得る。従来のガラスアイオノマーのように、RMGIセメントはFASガラスを用いる。しかしながら、RMGIの有機部分は異なる。RMGIの1つの型において、ポリカルボン酸は、酸性反復単位のいくつかが側鎖硬化可能基で置換するか、またはエンドキャップするように変性され、例えば、米国特許第5,130,347号(ミトラ(Mitra))に記載されるような第2硬化機構を提供するために、光開始剤が付加される。側鎖硬化可能基としては、通常、アクリレートまたはメタクリレート基が用いられる。RMGIの他の型において、セメントとしては、例えば、マティス(Mathis)他による「新規ガラスアイオノマー/複合樹脂ハイブリッド修復材の特性(Properties of a New Glass Ionomer/Composite Resin Hybrid Restorative)」概要No.51、歯科研究ジャーナル(J. Dent Res)、66:113頁(1987年))、並びに米国特許第5,063,257号(アカハネ(Akahane)他)、同5,520,725号(カトウ(Kato)他)、同5,859,089号(チェン(Qian))、同5,925,715号(ミトラ(Mitra))、および5,962,550号(アカハネ(Akahane)他)にあるような、ポリカルボン酸、アクリレートまたはメタクリレート官能性モノマーおよび光開始剤が挙げられる。RMGIの他の型において、セメントは、例えば、米国特許第5,154,762号(ミトラ(Mitra)他)、同5,520,725号(カトウ(Kato)他)、および同5,871,360号(カトウ(Kato))に記載されるような、ポリカルボン酸、アクリレートまたはメタクリレート官能性モノマー、および酸化還元または他の化学物硬化システムが挙げられる。RMGIの他の型において、セメントには、米国特許第4,872,936号(エンゲルブレヒト(Engelbrecht))、同5,227,413号(ミトラ(Mitra))、同5,367,002号(ファン(Huang)他)、および同第5,965,632号(オルロフスキ(Orlowski))に記載されるような様々なモノマー含有または樹脂含有成分が挙げられる。RMGIセメントは、好ましくは、粉末/液体またはペースト/ペースト系として処方され、混合および塗布される水を含有する。組成物は、ポリカルボン酸の酸性反復単位とガラスから浸出するカチオンとの間のイオン反応に起因して暗所で硬化されてもよく、歯科用硬化ランプからの光にセメントを曝露することにより、商業用RMGI製品も典型的に硬化する。酸化還元硬化システムを含有し、暗所で化学線を使用せずに硬化することができるRMGIセメントは、米国特許第6,765,038号(ミトラ(Mitra))に記載されている。
【0092】
ポリエーテルまたはポリシロキサン(つまり、シリコン)
歯科用印象材料は、典型的には、ポリエーテルまたはポリシロキサン(つまりシリコン)化学物に基づいている。ポリエーテル材料は、典型的には、ベース成分(例えば、末端基としてエチレンイミン環を有するポリエーテル)および触媒(または促進剤)成分(例えば、架橋剤としてのアリールスルホネート)を含む2部システムから成る。ポリシロキサン材料も典型的には、ベース成分(例えば、ジメチルポリシロキサンのような低〜中分子量のポリシロキサン)および触媒(または促進剤)成分(例えば、シリコンの付加の際には、ビニル末端基および塩化白金酸触媒を有する低〜中分子量のポリマー;またはシリコン縮合の際には、オクタン酸スズ懸濁液およびアルキルシリケートから成る液体)を含む2部システムから成る。両成分系はまた、充填剤、可塑剤、増粘剤、着色剤、またはこれらの混合物を典型的に含有する。代表的なポリエーテルの印象材には、例えば、米国特許第6,127,449号(ビッシンジャー(Bissinger)他);米国特許第6,395,801号(ビッシンジャー(Bissinger)他);および米国特許第5,569,691号(グッゲンベルガー(Guggenberger)他)に記載されるものが挙げられる。代表的なポリシロキサン印象材および関連するポリシロキサン化学物は、例えば、米国特許第6,121,362号(ワネック(Wanek)他)および同6,566,413号(ウェインマン(Weinmann)他)、並びに欧州特許出願第1475069A(ビッシンジャー(Bissinger)他)に記載されている。
【0093】
市販のポリエーテルおよびポリシロキサン印象材の例としては、限定はされないが、インプレガム(IMPREGUM)ポリエーテル材料、パーマダイン(PERMADYNE)ポリエーテル材料、エキスプレス(EXPRESS)ビニルポリシロキサン材料、ディメンジョン(DIMENSION)ビニルポリシロキサン材料、およびインプリント(IMPRINT)ビニルポリシロキサン材料が挙げられ、全てミネソタ州セントポール(St. Paul)の3M ESPEから入手可能である。他の代表的なポリエーテル、ポリシロキサン(シリコン)、およびポリスルフィド印象材は、以下の参考文献において議論されている:「歯科用修復材(Restorative Dental Materials)第10版」(ミズーリ州セントルイス(St. Louis)のモスビーイヤーブック社(Mosby-Year Book)、ロバートG.クライグ(Robert G. Craig)およびマーカスL.ワード(Marcus L. Ward)著)の第11章(印象材)。
【0094】
光反応開始剤系
特定の実施形態において、本発明の組成物は光重合可能である、つまり、組成物は、化学放射線の照射に際し、組成物の重合(または硬化)を開始する光重合可能な成分および光開始剤(つまり、光開始剤系)を含有する。かかる光重合可能な組成物は、フリーラジカル重合可能であるか、またはカチオン重合が可能であることができる。
【0095】
フリーラジカル的に光重合性組成物を重合するために好適な光反応開始剤(つまり、1つ以上の化合物を包む光反応開始剤系)としては、二要素系および三要素系が挙げられる。典型的な三要素光開始剤は、米国特許第5,545,676号(パラゾット(Palazzotto)他)に記載されるようにヨードニウム塩、光増感剤、および電子供与体化合物を包む。好ましいヨードニウム塩は、ジアリールヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロホウ酸塩、およびトリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸塩である。好ましい光増感剤は、400nm〜520nm(好ましくは、450nm〜500nm)の範囲内のいくらかの光を吸収するモノケトンおよびジケトンである。より好ましい化合物は、400nm〜520nm(さらにより好ましくは、450〜500nm)の範囲内のいくらかの光を吸収するα−ジケトンである。好ましい化合物は、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン、1−フェニル−1,2−プロパンジオンおよび他の1−アリール−2−アルキル−1,2−エタンジオン、並びに環状α−ジケトンである。最も好ましいのは、カンファーキノンである。好ましい電子供与体化合物としては、置換アミン、例えば、エチルジメチルアミノベンゾエートが挙げられる。カチオン系重合可能樹脂を光重合させるために有用な他の好適な第三光開始剤系は、例えば米国特許第6,765,036号(デデ(Dede)他)に記載されている。
【0096】
フリーラジカル的に光重合可能な組成物を重合するために好適な他の光反応開始剤としては、典型的に380nm〜1200nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドの部類が挙げられる。好ましいホスフィンオキシドフリーラジカル反応開始剤は、380nm〜450nmの機能的波長範囲を有し、米国特許第4,298,738号(レッケン(Lechtken)他)、同第4,324,744号(レッケン他)、同第4,385,109号(レッケン他)、同第4,710,523号(レッケン他)、および同第4,737,593号(エルリッチ(Ellrich)他)、同第6,251,963号(コーラー(Kohler)他);および欧州特許出願0173567A2(イング(Ying))に記載されているもののようなアシルおよびビスアシルホスフィンオキシドである。
【0097】
380nm〜450nm超過の波長範囲の照射時にフリーラジカル反応開始が可能な市販のホスフィンオキシド光反応開始剤としては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(イルガキュア(IRGACURE)819、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)、ニューヨーク州タリタウン(Tarrytown))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI403、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの25:75重量混合物(イルガキュア1700、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの1:1重量混合物(ダロキュア(DAROCUR)4265、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ)、およびエチル2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィネート(ルシリン(LUCIRIN)LR8893X、BASF社、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte))が挙げられる。
【0098】
典型的に、ホスフィンオキシド反応開始剤は、組成物の全重量を基準として0.1重量%〜5重量%のような、触媒的に有効な量で、光重合性組成物に存在する。
【0099】
アシルホスフィンオキシドと組み合わせて、三級アミン還元剤を使用してもよい。本発明において有用な実例となる三級アミン類としては、エチル4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエートおよびN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。存在する場合、アミン還元剤は、光重合可能な組成物中に、組成物の総重量を基準として0.1重量%〜5.0重量%の量で存在する。他の反応開始剤の有用な量は、当業者に周知である。
【0100】
カチオン系光重合可能な組成物の重合に好適な光開始剤は、二要素系および三要素系が挙げられる。典型的な三要素光開始剤には、EP0897710(ウェインマン(Weinmann)他);米国特許第5,856,373号(カイサキ(Kaisaki)他)、同6,084,004号(ウェインマン(Weinmann)他)、同6,187,833号(オックスマン(Oxman)他)、および同6,187,836号(オックスマン(Oxman)他);および米国特許第6,765,036号(ディディ(Dede)他)に記載されるようなヨードニウム塩、光増感剤、および電子供与化合物が挙げられる。本発明の組成物は、電子供与体として1つ以上のアントラセンベースの化合物を含むことができる。ある実施形態において、組成物は複数の置換アントラセン化合物または置換アントラセンと非置換アントラセンとの組み合わせを含む。光開始剤系の一部としてのこれらの混合アントラセン電子供与体を組み合わせることによって、同マトリックスにおける単一供与体光開始剤系と比較した際、著しい硬化深さおよび硬化速度および温度非感受性が向上する。このようなアントラセン系電子供与体を有する組成物は、米国特許出願第10/719,598号(オックスマン(Oxman)他;2003年11月21日出願)に記載されている。
【0101】
好適なヨードニウム塩としては、トリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリルクミルヨードニウムテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル−フェニル)ボレート)、および、例えばジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、およびジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート等のジアリールヨードニウム塩が挙げられる。好適な光増感剤は、450nm〜520nm(好ましくは、450nm〜500nm)の範囲内でいくらかの光を吸収するモノケトンおよびジケトンである。より好適な化合物は、450nm〜520nm(さらにより好ましくは、450nm〜500nm)の範囲内でいくらかの光を吸収するα−ジケトンである。好ましい化合物は、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノンおよび他の環状αジケトンである。最も好ましいのは、カンファーキノンである。好適な電子供与化合物には、例えばエチル4−(ジメチルアミノ)ベンゾエートおよび2−ブトキシエチル4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート等の置換アミン;および多環縮合芳香族化合物(例えば、アントラセン)が挙げられる。
【0102】
反応開始剤系は、所望の硬化(例えば、重合および/または架橋)速度を提供するために十分な量で存在する。光反応開始剤において、この量は、光源、放射エネルギーに曝露される層の厚さ、および光反応開始剤の吸光係数に部分的に依存するであろう。好ましくは、反応開始剤系は、組成物の重量を基準として、少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.03重量%、および最も好ましくは少なくとも0.05重量%で存在する。好ましくは、組成物の重量を基準として、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、および最も好ましくは2.5重量%以下の総量で存在する。
【0103】
酸化還元反応開始剤系
特定の実施形態において、本発明の組成物は、化学的に硬化可能である、すなわち、組成物は、化学放射線の照射に依存せずに、重合、硬化、または別の方法で組成物を硬化できる、化学的に硬化可能な構成要素および化学反応開始剤(すなわち、反応開始剤系)を含有する。こうした化学的に硬化可能な組成物は、「自己硬化」組成物と呼ばれることが多く、ガラスアイオノマーセメント、樹脂変性ガラスアイオノマーセメント、酸化還元硬化系、およびこれらの組み合わせを包含してもよい。
【0104】
化学的に硬化可能な組成物は、硬化可能な成分(例えば、エチレン系不飽和重合可能な成分)並びに酸化剤および還元剤を包含する酸化還元剤を含む酸化還元硬化系を包含してもよい。本発明において有用である好適な硬化可能な成分、酸化還元剤、任意の酸官能基成分、および任意の充填剤は、米国特許公開出願2003/0166740(ミトラ(Mitra)他)および同2003/0195273(ミトラ(Mitra)他)に記載されている。
【0105】
樹脂系(例えば、エチレン系不飽和構成成分)の重合を開始することが可能なフリーラジカルを製造するために、還元剤および酸化剤は、互いに反応するか、ないしは別の方法で協働すべきである。この種類の硬化は、暗反応、つまり、光の存在に依存せず、光が存在しなくても進行することができる反応である。還元剤および酸化剤は、好ましくは十分に貯蔵安定性があり、望ましくない着色がなく、典型的な歯科条件下においての保存および使用を可能にする。これらは、硬化可能な組成物の他の構成成分に容易に溶解する(および、硬化可能な組成物の他の構成成分からの分離を阻止する)ことを可能にするために、樹脂系(および好ましくは水溶性)と十分に混和性があるべきである。
【0106】
有用な還元剤としては、米国特許第5,501,727号(ワング(Wang)他)に記載されているようなアスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、および金属錯体アスコルビン酸化合物;アミン、特に4−tert−ブチルジメチルアニリンのような三級アミン;p−トルエンスルフィン酸塩およびベンゼンスルフィン酸塩のような芳香族スルフィン酸塩;1−エチル−2−チオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1−ジブチルチオ尿素、および1,3−ジブチルチオ尿素のようなチオ尿素;並びにこれらの混合物が挙げられる。他の二次還元剤は、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン(酸化剤の選択に依存する)、ジチオン酸または亜硫酸アニオン塩類、およびこれらの混合物を含んでもよい。還元剤はアミンであることが好ましい。
【0107】
また好適な酸化剤は、当業者に周知であり、過硫酸、並びにナトリウム、カリウム、アンモニウム、セシウム、およびアルキルアンモニウム塩のような過硫酸塩類が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる酸化剤としては、過酸化ベンゾイルのような過酸化物類、クミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、およびアミルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシド類、並びに塩化コバルト(III)および塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV)のような遷移金属塩類、過ホウ酸およびその塩類、過マンガン酸およびその塩類、過リン酸およびその塩類、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0108】
1つを超える酸化剤または1つを超える還元剤を使用することが望ましくてよい。また、酸化還元硬化の速度を加速させるために、少量の遷移金属化合物類を添加してもよい。ある実施形態では、米国特許公開出願第2003/0195273号(ミトラ(Mitra)他)に記載されているように、重合性組成物の安定性を増強するために、二次イオン性塩を包含することが好ましい可能性がある。
【0109】
還元剤および酸化剤は、適当なフリーラジカル反応速度を可能にするために十分な量で存在する。これは、任意の充填剤以外の、硬化可能な組成物の全成分を組み合わせ、硬化された塊(mass)が得られるかどうかを観察することにより評価できる。
【0110】
好ましくは、還元剤は硬化可能な組成物の成分の全重量(水を含む)を基準として、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%の量で存在する。好ましくは、還元剤は硬化可能な組成物の成分の全重量(水を包含する)を基準として、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在する。
【0111】
好ましくは、酸化剤は硬化可能な組成物の構成要素の全重量(水を含む)を基準として、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.10重量%の量で存在する。酸化剤は、硬化可能な組成物の構成成分の全重量(水を包含する)を基準として、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在する。
【0112】
還元剤または酸化剤は、米国特許第5,154,762号(ミトラ(Mitra)他)に記載されているように、マイクロカプセル化され得る。これは、一般に、硬化可能な組成物の貯蔵安定性を増強し、必要であれば、還元剤または酸化剤を共に包装することを許容するであろう。例えば、カプセルの材料の適切な選択を通して、酸化剤および還元剤は、酸官能性構成成分および任意の充填剤と組み合わせて、保存安定性状態を維持することができる。同様に、非水溶性カプセル材料の適切な選択を通して、還元剤および酸化剤は、FASガラスおよび水と組み合わせられることができ、保存安定状態で維持されることができる。
【0113】
酸化還元硬化系は、他の硬化系、例えば、米国特許第5,154,762号(ミトラ(Mitra)他)に記載されているような硬化可能な組成物と、組み合わせることができる。
【0114】
充填剤
本発明の組成物は、充填剤を任意で含有できる。充填剤は、歯科修復組成物等において現在使用される充填剤のような、歯科用途に使用される組成物に組み込まれるのに適した1以上の多種多様な材料から選択されてもよい。
【0115】
充填剤は、好ましくは超微粒子状である。充填剤は、一峰性(unimodial)または多峰性(polymodial)(例えば、二峰性)の粒径分布を有することができる。好ましくは、充填剤の最大粒径(粒子の最大寸法、通常は直径)は、20マイクロメートル未満、より好ましくは10マイクロメートル未満、最も好ましくは5マイクロメートル未満である。好ましくは、充填剤の平均粒径は0.1マイクロメートル未満、およびより好ましくは0.075マイクロメートル未満である。
【0116】
充填剤は、無機材料であることができる。また、それは、樹脂系(すなわち、硬化可能な構成成分)に不溶であり、任意に無機充填剤で充填される架橋された有機材料であることもできる。充填剤は、いずれにしても非毒性であるべきであり、口内に使用するのに適しているべきである。充填剤は、放射線不透過性または放射線透過性であることができる。通常、充填剤は、実質的に水に不溶性である。
【0117】
好適な無機充填剤の例としては、石英(すなわち、シリカ、SiO2);窒化物(例えば、窒化ケイ素);例えば、Zr、Sr、Ce、Sb、Sn、Ba、Zn、およびAl由来のガラスおよび充填剤;長石;ホウケイ酸ガラス;カオリン;タルク;ジルコニア;チタニア;米国特許第4,695,251号(ランドクレブ(Randklev))に記載されているような低モース硬度充填剤;並びにサブミクロンのシリカ粒子(例えば、デグサ社(Degussa Corp)(オハイオ州、アクロン)から商品名エアロジル(AEROSIL)、例えば、「OX50」、「130」、「150」および「200」シリカ、並びにキャボット社(Cabot Corp.)(イリノイ州、タスコラ)から商品名CAB−O−SIL M5シリカとして入手可能なもののような発熱性シリカ)を含む天然素材物質または合成物質が挙げられるが、これらに限定されない。好適な有機充填剤粒子の例としては、充填または非充填微粉ポリカーボネート、ポリエポキシド等が挙げられる。
【0118】
好ましい非酸反応性充填剤粒子は、石英(すなわち、シリカ)、サブミクロンシリカ、ジルコニア、サブミクロンジルコニア、および米国特許第4,503,169号(ランドクレブ(Randklev))に記載された種類の非ガラス質微小粒子である。また、これらの非酸反応性充填剤の混合物、並びに有機物質および無機物質から製造された混合充填剤も意図される。
【0119】
また充填剤は、酸反応性充填剤であってもよい。好適な酸反応性充填剤としては、金属酸化物、ガラス、および金属塩が挙げられる。代表的な金属酸化物としては、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、および酸化亜鉛が挙げられる。代表的なガラスとしては、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス、およびフルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラスが挙げられる。FASガラスが、特に好ましい。ガラスが硬化可能な組成物の構成成分と混合されるとき、硬化した歯科組成物が形成されるように、FASガラスは、典型的に十分な溶出性カチオンを含有する。また、ガラスは、典型的に十分な溶出性フッ化物イオンを含有するので、硬化した組成物は齲食特性を有するであろう。ガラスは、FASガラス製造分野において当業者に馴染みが深い技術を使用して、フッ化物、アルミナ、および他のガラス形成成分を含有する溶融物から製造することができる。FASガラスは、通常十分に超微粒子状の粒子の形態であるので、他のセメント構成成分と都合よく混合され得、得られた混合物が口内に使用されるとき、よく機能するであろう。
【0120】
一般に、FASガラスの平均粒径(典型的には、直径)は、例えば、沈殿分析器を使用して測定した場合、12ミクロン以下、典型的には10ミクロン以下、より典型的には5ミクロン以下である。好適なFASガラスは、当業者に周知であり、多種多様な商業的供給源から入手可能であり、多くは、ビトレマー(VITREMER)、ビトレボンド(VITREBOND)、リライXルーティングセメント(RELY X LUTING CEMENT)、リライXルーティングプラスセメント(RELY X LUTING PLUS CEMENT)、フォトタック−フィルクイック(PHOTAC-FIL QUICK)、ケタック−モラー(KETAC-MOLAR)、およびケタック−フィルプラス(KETAC-FIL PLUS)(3M ESPEデンタル・プロダクツ(3M ESPE Dental Products)、ミネソタ州セントポール(St. Paul))、フジII LC(FUJI II LC)およびフジIX(FUJI IX)(G−Cデンタル・インダストリアル社(G-C Dental Industrial Corp.)、日本、東京)、並びにケムフィルスーペリア(CHEMFIL Superior)(デンツプライ・インターナショナル(Dentsply International)、ペンシルベニア州ヨーク(York))の商品名で市販されているもののような、現在入手可能なガラスアイオノマーセメント中に見出せる。必要であれば、充填剤の混合物を使用することができる。
【0121】
また、充填剤と樹脂との間の結合を増強するために、充填剤粒子の表面は、結合剤で処理されてもよい。好適な連結剤の使用としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。特定の実施形態では、シラン処理ジルコニア−シリカ(ZrO2−SiO2)充填剤、シラン処理シリカ充填剤、シラン処理ジルコニア充填剤、およびこれらの組み合わせが、特に好ましい。
【0122】
他の好適な充填剤は、米国特許第6,387,981号(チャン(Zhang)他)および米国特許第6,572,693号(ウー(Wu)他)並びに国際公開特許第01/30305号(チャン(Zhang)他)、国際公開特許第01/30306号(ウィンディッシュ(Windisch)他)、国際公開特許第01/30307号(チャン(Zhang)他)、および国際公開特許第03/063804号(ウー(Wu)他)に開示されている。これらの参考文献に記載された充填剤構成成分としては、ナノサイズのシリカ粒子、ナノサイズの金属酸化物粒子、およびこれらの組み合わせが挙げられる。ナノ充填剤は、米国特許出願公開第2005/025413号(カンガス(Kangas)他);同2005/0256223号(コルブ(Kolb)他);米国特許第7090721号(クレイグ(Craig)他);および同7090722号(ブッダ(Budd)他)にも記載されており、これら4つ全ては2004年5月17日に出願された。これらの出願は、組成物を含有する以下のナノ充填剤について簡潔に記載している。
【0123】
米国特許出願2005/0252413(カンガス(Kangas)他)は、従来のアイオノマー組成物よりも改善された特性を有する組成物を提供するナノ充填剤を含有する安定アイオノマー組成物(例えば、ガラスアイオノマー)を記載している。一実施形態では、組成物は、ポリ酸(例えば、複数個の酸性繰り返し基を有するポリマー);酸反応性充填剤;少なくとも10重量%ナノ充填剤、またはそれぞれ平均粒子径200ナノメートル以下を有するナノ充填剤の組合せ;水;および任意に重合可能な構成成分(例えば、任意に酸官能性を有するエチレン系不飽和化合物)を含む硬化可能な歯科組成物である。
【0124】
米国特許出願公開第2005/0256223号(コルブ(Kolb)他)は、光学的に半透明および放射線不透過性であるアイオノマー系のような改善された特性を有する組成物を提供するナノジルコニア充填剤を含有する安定性アイオノマー(例えば、ガラスアイオノマー)組成物を記載している。ナノジルコニアは、アイオノマー組成物へのナノジルコニアの組込みを補助するためにシランで表面修飾されており、これは、一般に表面修飾がなければナノジルコニアと相互作用する可能性があるポリ酸を含有し、好ましくない視覚的不透明度を生じさせる凝固または凝集を引き起こす。一つの態様において、組成物は、ポリ酸;酸反応性充填剤;ジルコニア粒子が外表面上に付着する複数個のシラン含有分子を有するナノジルコニア充填剤;水;および任意に重合可能な構成成分(例えば、任意に酸官能性を有するエチレン系不飽和化合物)を包含する硬化可能な歯科組成物であることができる。
【0125】
米国特許第7090721号(クレイグ(Craig)他)は、光学的な半透明性が増強された組成物を提供するナノ充填剤を含有する安定性アイオノマー組成物(例えば、ガラスアイオノマー)を記載している。1つの実施形態において、組成物は、ポリ酸(例えば、複数個の酸性繰り返し基を有するポリマー);酸反応性充填剤;ナノ充填剤;光重合可能な構成成分(例えば、任意に酸官能性を有するエチレン系不飽和化合物);および水を包含する硬化可能な歯科組成物である。ポリ酸、ナノ充填剤、水、および任意に重合可能な構成成分を組み合わされた混合物の屈折率(硬化状態または非硬化状態で測定される)は、一般に酸反応性充填剤の屈折率の4%以内、典型的には3%以内、より典型的には1%以内、さらにより典型的には0.5%以内である。
【0126】
米国特許第7090722号(ブッダ(Budd)他)は、酸反応性ナノ充填剤(すなわち、ナノ構造充填剤)および硬化可能な樹脂(例えば、重合可能なエチレン系不飽和化合物)を包含できる歯科組成物を記載している。酸反応性ナノ充填剤は、酸反応性、非融合であり、三価金属(例えば、アルミナ)、酸素、フッ素、アルカリ土類金属、および任意にケイ素および/または重金属を包含するオキシフッ化物(oxyfluoride)材料を包含できる。
【0127】
充填剤を含む本発明のある実施形態(例えば、歯科用接着剤組成物)において、組成物は、組成物の総重量を基準として、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも2重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%の充填剤を含む。こうした実施形態において、本発明の組成物は、組成物の総重量を基準として、好ましくは40重量%以下、より好ましくは20重量%以下、最も好ましくは15重量%以下の充填剤を含む。
【0128】
他の実施形態(例えば、組成物が歯科修復材または歯科矯正用接着剤である)において、本発明の組成物は、組成物の総重量を基準として、好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも45重量%、最も好ましくは少なくとも50重量%の充填剤を含む。そのような実施形態において、本発明の組成物は、組成物の総重量を基準として、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下、さらにより好ましくは70重量%以下の充填剤、最も好ましくは50重量%以下の充填剤を含む。
【0129】
任意の光退色性および/または示温性染料
ある実施形態において、本発明の組成物は、好ましくは歯科構造とは明らかに異なる初期色を有する。色は好ましくは、光退色性または光発色性染料の使用を通して組成物に付与される。組成物は、好ましくは組成物の全重量を基準として、少なくとも0.001重量%の光退色性または光発色性染料を含み、より好ましくは少なくとも0.002重量%の光退色性または光発色性染料を含む。組成物は、好ましくは組成物の全重量を基準として、1重量%以下の光退色性または光発色性染料を含み、より好ましくは0.1重量%以下の光退色性または光発色性染料を含む。光退色性および/または光発色性染料の量は、吸光係数、初期色を区別する人間の目の能力、および所望の色変化によって変動し得る。好適な光退色性染料は、例えば、米国特許第6,670,436号(バーガス(Burgath)他)に記載されている。
【0130】
光退色性染料を含む実施形態において、光退色性染料の色形成および退色特性は、例えば、酸強度、誘電率、極性、酸素量、および大気の湿分含量を含む様々な要因によって変動する。しかしながら、染料の退色特性は、組成物を照射し、色の変化を評価することで容易に決定することができる。好ましくは、少なくとも1つの光退色性染料は、硬化可能な樹脂に少なくとも部分的に可溶性である。
【0131】
光退色性染料の代表的な型は、例えば、米国特許第6,331,080号(コール(Cole)他)、同6,444,725号(トロム(Trom)他)、および同6,528,555号(ニクトウスキィ(Nikutowski)他)に記載されている。好ましい染料としては、例えば、ローズベンガル(Rose Bengal)、メチレンバイオレット(Methylene Violet)、メチレンブルー(Methylene Blue)、フルオレセイン(Fluorescein)、エオシンイエロー(Eosin Yellow)、エオシンY(Eosin Y)、エチルエオシン(Ethyl Eosin)、エオシンブルイッシュ(Eosin bluish)、エオシンB(Eosin B)、エリスロシンB(ErythrosinB)、エリスロシンイエロー調ブレンド(Erythrosin Yellowish Blend)、トルイジンブルー(Toluidine Blue)、4’,5’−ジブロモフルオレセイン(4’,5’-Dibromofluorescein)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0132】
本発明の組成物における色変化は、光によって開始する。好ましくは、組成物の色変化は、例えば、十分な時間可視光または近赤外線(IR)光を放射する歯科硬化光を使用する化学線を使用して開始される。本発明の組成物において色変化を開始する機構は、樹脂を硬化する硬化機構から分離されるか、または実質的に同時に起こり得る。例えば、重合が化学的(例えば酸化還元開始)または熱的に開始する際に組成物は硬化され、初期色〜最終色の色変化は化学線への曝露の際の硬化プロセスに続いて起こり得る。
【0133】
組成物における初期色〜最終色までの色変化は、好ましくはカラーテストによって定量化される。カラーテストを使用する場合、ΔE*値が決定され、この値は3次元色空間における色の総変化を示す。人間の目は、通常の照明条件においておおよそ3ΔE*単位の色変化を検出できる。本発明の歯科用組成物は、好ましくは、少なくとも20のΔE*;より好ましくは少なくとも30のΔE*;最も好ましくは少なくとも40のΔE*を有する能力がある。
【0134】
任意の酸発生成分および酸反応性成分
任意で、本発明の硬化可能な歯科用組成物は、例えば、2005年12月20日に出願された米国特許出願第11/275238号(名称「結合強度の低減方法、歯科用組成物、およびそれらの使用(METHODS FOR REDUCING BOND STRENGTHS, DENTAL COMPOSITIONS, AND THE USE THEREOF)」)に記載されるような酸発生成分および酸反応性成分を含むことができる。
【0135】
酸発生成分は、典型的には酸発生化合物を含み、任意で増感剤を含む。好ましくは、酸発生成分は放射の際に酸(光酸)を発生する。典型的には、酸は、化学量論量より多くの酸反応性基と反応することができる。好ましくは、本発明の歯科用組成物は、発生した酸と酸反応性成分との所望な反応を妨げるのに十分な量の発生した酸を減少させる役割を果たすであろう基を含まない。
【0136】
代表的な酸発生成分には、ヨードニウム塩(例えば、ジアリールヨードニウム塩)、スルホニウム塩(例えば、トリアリールスルホニウム塩およびジアルキルフェナシルスルホニウム塩)、セレノニウム塩(例えば、トリアリールセレノニウム塩)、スルホキソニウム塩(例えば、トリアリールスルホキソニウム塩、アリールオキシジアリールスルホキソニウム塩、およびジアルキルフェンアシルスルホキソニウム塩)、ジアゾニウム塩(例えば、アリールジアゾニウム塩)、有機金属錯体カチオン(例えば、フェロセニウム塩)、ハロ−S−トリアゼン、トリハロケトン、α−スルホニルオキシケトン、シリルベンジルエーテル、およびそれらの組み合わせが挙げられる。酸発生成分は、カチオン性種(例えば、「オニウム」塩)の塩であって、塩における典型的な対イオンには、例えば、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルサナート、ヘキサフルオロアンチモナート、およびこれらの組み合わせが挙げられる。代表的な酸発生成分としては、例えば、クリベロ(Crivello)他による「フリーラジカル、カチオン性、アニオン性、光重合における光開始剤(Photoinitiators for Free Radical, Cationic and Anionic Photopolymerization)」、G.ブラッドリー(G. Bradley)編、第3巻、第6章(1998年)、および米国特許第6,187,833号(オックスマン(Oxman)他)、同6,395,124号(オックスマン(Oxman)他)、同6,765,036号(ディディ(Dede)他)、同3,775,113号(ボンハム(Bonham)他)、同3,779,778号(スミス(Smith)他)、同3,945,475号(ボンハム(Bonham)他)、同4,329,384号(ベスレイ(Vesley)他)、同4,330,570号(ジュリアーニ(Giuliani)他)、同5,089,374号(サエヴァ(Saeva))、および同5,141,969号(サエヴァ(Saeva)他)に開示されるものが挙げられる。
【0137】
好ましくは、酸発生成分はスルホニウム塩を含む。代表的なスルホニウム塩には、例えば、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモナート(Ar3+SbF6-、オクラホマ州カトゥーサ(Catoosa)のアドバンスドリサーチコーポレーション(Advanced Research Corporation)から商品名CYRACURECPI−6976として入手可能);プロピレンカーボネート中のトリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート(Ar3+PF6-50%溶液、ニューヨーク州レイクサクセス(Lake Success)のアセト社(Aceto Corp.)から商品名CYRACURECPI−6992として入手可能);およびトリアリールスルホニウムN−(トリフルオロメタンスルホニル)トリフルオロメタン−スルホンアミドアニオン(Ar3+N(SO2CF32-(これは米国特許第5,554,664号(ラマンナ(Lamanna)他)に一般的に記載されるように調製することができる)が、挙げられる。
【0138】
代表的な増感剤には、アントラセン誘導体(例えば、2−メチルアントラセン(2−MA、シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich))および2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン(EDMOA、シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich))、ペリレン、フェノチアゼン、並びに例えば米国特許第6,765,036号(ディディ(Dede)他)、および米国特許出願公開第2005/0113477(オックスマン(Oxman)他)に記載されるような多環式芳香族化合物、およびこれらの組みあわせが挙げられる。当業者は、過度な実験をせずに、例えば、クリベロ(Crivello)他による「フリーラジカル、カチオン性、アニオン性、光重合における光開始剤(Photoinitiators for Free Radical, Cationic and Anionic Photopolymerization)」(G.ブラッドリー(G. Bradley)編、第3巻、第6章(1998年))に記載される原理を基準として酸発生成分(例えば、スルホニウム塩)を増感するために適切な増感剤を選択することができる。好ましくは、増感剤は、光開始剤とは異なる波長を吸収し;酸発生成分中の対応する一重項若しくは三重項状態よりもエネルギーの高い一重項若しくは三重項状態を有し;および/または酸発生成分の低減がエネルギー的に好ましいような酸化電位を有する。例えば、2−メチルアントラセンはトリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモナートを増感するための適切な増感剤である。
【0139】
本明細書で使用する時、「酸反応性成分」は、1つ以上の酸反応性基を含む成分(典型的には化合物)を表す。本明細書で使用する時、「酸反応性基」は、2つ以上の分離基を形成するためにしばしば高温(つまり、少なくとも42℃)まで加熱する際に、酸との反応後に基内の化学的結合が実質的に破壊(例えば、分光技術によって観察可能)される基を表す。好ましくは、高温は200℃以下であり、より好ましくは150℃以下であり、さらにより好ましくは100℃以下であり、最も好ましくは80℃以下である。成分と酸との反応後に化学結合の実質的な破壊が起こるかどうかを決定する好適な方法は、当業者に明らかであろう。好適な方法には、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法(1H、13C、および/または他の適切な原子核);並びに紫外線(UV)分光法、可視分光法、および近赤外線(NIR)分光法を含む赤外線(IR)分光法のような分光法が挙げられる。例えば、1Hおよび/または13C NMRスペクトルは、非酸性溶媒(例えばCDCl3)中に成分を溶解し、酸(例えばCF3CO2D)を付加し、および成分から生じるピークの消失、または所望の温度において反応生成物から生じるピークの出現を観察することによって、NMRチューブに便利に注入されるのが可能である。
【0140】
本発明の硬化可能な歯科用組成物に使用するのに好適な酸反応性成分は、好ましくは1つ以上の酸反応性基を含む硬化可能な成分である。典型的には、各々の酸反応性基は、複数(つまり2つ以上)の硬化可能な基と連結する多価基である。特定の実施形態において、硬化可能な酸反応性成分は、エチレン系不飽和化合物である。例えば、かかる実施形態において、酸反応性基は、2つのエチレン系不飽和基と連結する二価基であることができる。
【0141】
酸反応性基は、当該技術分野において公知である。かかる基には、例えば、有機合成における保護手法に典型的に使用される機能性を含み、この保護基は酸性条件下で分離するように設定することができる。例えば、グリーン(Greene)他による「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」、ワイリー・インターサイエンス(Wiley-Interscience)(1991年);タイラー(Taylor)他、「材料化学(Chem.Mater.)」,3:1031〜1040頁(1991年);および米国特許第6,652,970号(エバランツ(Everaerts)他)を参照のこと。
【0142】
任意の熱応答性添加物
任意で、本発明の硬化可能な歯科用組成物は、例えば、2005年12月20日に出願された米国特許出願第11/275240号(名称「熱応答性添加物を含む歯科用組成物、およびそれらの使用(DENTAL COMPOSITIONS INCLUDING THERMALLY RESPONSIVE ADDITIVES, AND THE USE THEREOF)」)に記載されるような熱応答性添加物を含むことができる。
【0143】
本明細書で使用する時、「熱応答性添加物」は、添加物の分解温度より低い温度(例えば、200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、および最も好ましくは80℃以下)まで加熱する際に軟化する添加物である。特に、高温(つまり、少なくとも42℃)まで加熱する際、高温における添加物の貯蔵弾性率は、室温(例えば、25℃)における添加物の貯蔵弾性率と比較して低下する。好ましくは、高温における添加物の貯蔵弾性率は、室温における添加物の貯蔵弾性率の80%以下、より好ましくは、60%以下、40%、20%、10%、5%、2%、1%、0.1%、さらには0.01%である。特定の温度における材料の貯蔵弾性率の測定方法は当該技術分野において公知であり、例えば、ルディン(Rudin)による「ポリマーサイエンスおよびエンジニアリングの要素(The Elements of Polymer Science and Engineering)」(第2版、11章、pp、(1999年)に記載されるものが挙げられる。かかる方法には、例えば、動的機械分析(DMA)のような技術を用いて動的機械測定が挙げられる。
【0144】
かかる熱応答性添加物は、典型的に42℃〜200℃の範囲内で起こる、最大貯蔵弾性低下率を典型的に有する。かかる最大貯蔵弾性低下率は、例えば、融解遷移(Tm)、ガラス遷移(Tg)、液晶における固体からスメクチックまたはネマチックまでの相遷移、液晶における等方性融解遷移等を含む遷移に対応することができる。
【0145】
特定の実施形態において、添加物の分解温度より低い温度(例えば、200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、および最も好ましくは80℃以下)まで加熱する際、熱応答性添加物を含む硬化した歯科用組成物の軟化は、任意であり必須ではないが、同条件下で熱応答性添加物を含まない硬化した歯科用組成物においてよりも、より多く観察され得る。
【0146】
ある実施形態において、熱応答性添加物はポリマーであることができる。様々な形態を有するポリマーを使用することができる。例えば、熱応答性添加物は、半結晶性ポリマー、非晶質ポリマー、またはこれらの組み合わせであることができる。ある実施形態において、熱応答性添加物は液晶(例えば、非ポリマー液晶またはポリマー液晶)であることができる。ある実施形態において、熱応答性添加物はワックスであることができる。
【0147】
有用な半結晶性ポリマーは、少なくとも42℃の融解遷移温度(Tm)を典型的に有する。有用な半結晶性ポリマーは、典型的に、200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、および最も好ましくは80℃以下の融解遷移温度(Tm)を有する。
【0148】
有用な非晶質ポリマーは、少なくとも42℃のガラス遷移温度(Tg)を典型的に有する。有用な非晶質ポリマーは、典型的に、200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、および最も好ましくは80℃以下のガラス遷移温度(Tg)を有する。
【0149】
熱応答性添加物に使用することができるポリマー部類の例としては、ポリ((メタ)アクリル)、ポリ((メタ)アクリルアミド)、ポリ(アルケン)、ポリ(ジエン)、ポリ(スチレン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルケトン)、ポリ(ビニルエステル)、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(ビニルチオエーテル)、ポリ(ビニルハライド)、ポリ(ビニルニトリル)、ポリ(フェニレン)、ポリ(無水物)、ポリ(カーボネート)、ポリ(エステル)、ポリ(ラクトン)、ポリ(エーテルケトン)、ポリ(アルキレンオキシド)、ポリ(ウレタン)、ポリ(シロキサン)、ポリ(スルフィド)、ポリ(スルホン)、ポリ(スルホアミド)、ポリ(チオエステル)、ポリ(アミド)、ポリ(アニリン)、ポリ(イミド)、ポリ(尿素)、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(シラン)、ポリ(シラザン)、炭水化物、ゼラチン、ポリ(アセタール)、ポリ(ベンゾキサゾール)、ポリ(カルボラン)、ポリ(オキサジアゾール)、ポリ(ピペラジン)、ポリ(ピペリジン)、ポリ(ピラゾール)、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピロリジン)、ポリ(トリアジン)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。当業者は、過度な実験をせずに、所望の遷移温度を有する上述で列挙されたし部類のポリマーを選択することができる。例えば、「ポリマーハンドブック(Polymer Handbook)」(第4版、J.ブランドラップ(Brandrup)他(1999年))の選択されたポリマーにおける溶解遷移温度およびガラス繊維温度のリストを参照のこと。
【0150】
例えば、「液晶ハンドブック(Liquid Crystals Handbook)」(第1〜3巻、デムス(Demus)他編(1998年))を含む熱応答性添加物に様々な液晶を使用することができる。好適な液晶は、典型的には少なくとも42℃の等方性遷移温度を有する。好適な液晶は、典型的に、200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、および最も好ましくは80℃以下の等方性遷移温度を有する。当業者は、過度な実験をせずに、所望の遷移温度を有する液晶を選択することができる。
【0151】
液晶の有用な部類には、例えば、ビフェニル(例えば、R−Ph−Ph−CN);テルフェニル(例えば、R−Ph−Ph−Ph−CN);エステル(例えば、R−PhC(O)O−Ph−OR’、R−PhC(O)O−Ph−CN、およびR−PhC(O)O−Ph−Ph−CN);トラン(例えば、R−Ph−C≡C−Ph−OR’);シッフ塩基(例えば、R−Ph−N=CH−Ph−OR’およびR−O−Ph−CH=N−Ph−CN);アゾ化合物(例えば、R−Ph−N=N−Ph−OR’);アゾキシ化合物(例えば、R−PhーN=N+(O-)−Ph−OR’)およびスチルベン(例えば、R−Ph−C(Cl)=CH−PhOR’が挙げられ、ここで、各RおよびR’は独立してアルキル基を表す。Rは好ましくは高級アルキル基であって、典型的には少なくともC7アルキル基であり、時にはC12アルキル基である。R’は好ましくは低級アルキル基であり、典型的にはC1またはC2アルキル基である。
【0152】
熱応答性添加物に使用することができるワックスの例としては、パターンワックス、ベースプレートワックス、シートワックス、インプレッションワックス、スタディワックス、ポリカプロラクトン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテートコポリマー、ポリエチレングリコール、カルボン酸と長鎖アルコールのエステル(例えば、ベヘニルアクリレート)、長鎖カルボン酸と長鎖アルコールとのエステル(例えば、蜜ロウ、非ポリマーワックス)、石油ロウ、酸化ポリエチレンワックス(例えば、ノースキャロライナ州シャーロット(Charlotte)のクラリアント社(Clariant Corp.)からCERIDUST3719の商品名として入手可能なワックス)、微粉末化された有極性高密度のポリエチレンワックス(例えば、ノースキャロライナ州シャーロット(Charlotte)のクラリアント社(Clariant Corp.)からCERIDUST3731の商品名として入手可能なワックス)、カルナウバワックス(例えば、オハイオ州シンシナティ(Cincinnati)のマイケルマン社(Michelman Incorporated)からMIWAXの商品名として入手可能なワックス)、並びにそれらの組み合わせ(例えば、マイクロクリスタリン(microcystalline)ワックス、カルナウバワックス、セレシン、および蜜ろうのうち2つ以上の組み合わせ)のような、歯科用ワックスを含む。有用なワックスは、オリゴマーまたはポリマーでもあることができる。有用なワックスは、マクロクリスタリンまたはマイクロクリスタリンであり、天然または合成であってよく、官能基(例えば、カルボキシル基、アルコール基、エステル基、ケトン基、および/またはアミド基)を含有し得る。好適なワックスは室温(例えば、25℃)以上、典型的には40℃以上、および時には50℃以上で溶解する。好適なワックスは、典型的には低溶解温度(例えば、200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下、および最も好ましくは80℃以下)を有する。好適なワックスは、様々な物理特性を有することができる。例えば、室温において、好適なワックスの物理特性は、混練可能〜硬いまたは脆い;粗〜結晶性;および/または透明〜不透明(好ましくは透明)まで変動することができる。
【0153】
任意の放射線−熱変換体
任意で、本発明の硬化可能な歯科用組成物は、例えば、2005年12月20日に出願された米国特許出願第11/275243号(名称「放射線−熱変換体を含む歯科用組成物、およびそれらの使用(DENTAL COMPOSITIONS INCLUDING RADIATION-TO-HEAT CONVERTERS, AND THE USE THEREOF)」)に記載されるような放射線−熱変換体を含むことができる。放射線−熱変換体を含む硬化した歯科用組成物は、組成物を照射することで硬化した歯科用組成物を加熱することを可能とする。
【0154】
放射線−熱変換体は、典型的に入射光を吸収する放射吸収体であって、入射光の少なくとも一部分(例えば、少なくとも50%)を熱に変換する。ある実施形態において、放射線−熱変換体は電磁スペクトルの赤外線、可視光、または紫外線領域中の光を吸収し、吸収した放射線を熱に変換する。他の実施形態において、放射線−熱変換体は高周波(RF)を吸収し、吸収した放射線を熱に変換する。放射吸収体は、典型的には、選択された画像放射線において吸収性が高い。
【0155】
様々な放射線−熱変換体には、例えば、有機化合物、無機化合物、および金属有機化合物が使用することができる。かかる放射線−熱変換体には、例えば、染料(例えば、可視染料、紫外線染料、赤外線染料、蛍光染料、および放射極性染料)、顔料、金属、金属化合物、金属フィルム、および他の好適な吸収材料が挙げられる。有機および金属有機染料の多くの部類は、「赤外線吸収染料(Infrared Absorbing Dyes)」(マツオカマサル(Masaru Matsuoka)編、プレナムプレス(Plenum Press)、(ニューヨーク州(1990年))に記載されている。これらの染料の部類には、アゾ染料、メチンおよびシアニン染料、ポルフィリン染料、フタロシアニン染料、アントラキノンおよびナフタキノンのようなキニーネ染料、ピリリウムおよびスクアリリウム、アミニウムおよびジイモニウム染料が挙げられる。米国特許第6,759,177号(シマダ(Shimada)他)も参照のこと。放射線−熱変換体は、例えば、特定の硬化可能な歯科用組成物または溶媒における溶解度および/または相溶性、並びに吸収波長帯を含む特性を基準にして当業者によって所望であるよう選択されることができる。典型的に、染料および/または顔料は、電磁スペクトルの赤外線、可視光、または紫外線領域における光を吸収する放射線−熱変換体として使用されるのが好ましい。
【0156】
ある実施形態において、近赤外線(NIR)吸収顔料および/または染料は、NIRを照射することで加熱が可能となる放射線−熱変換体として使用されるのが好ましい。かかるNIR吸収材料は、典型的には750ナノメートルを超える波長、および時には800、850、さらには900ナノメートルを超える波長を吸収する。かかるNIR吸収材料は、典型的には2000ナノメートル未満、および時には1500、1200、さらには1000ナノメートル未満の波長を吸収する。
【0157】
様々な顔料および/または染料をNIR吸収放射線−熱変換体として使用することができる。有用な顔料としては、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)、アンチモン酸化スズ(ATO)、他のスズ酸化物顔料、六ホウ化ランタン(LAB6)、ポルフィリンおよびフタロシアニン顔料、チオインディゴ顔料、カーボンブラック顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、ニトロソ顔料、天然顔料、およびアジン顔料が挙げられる。有用な顔料としては、例えば、NIR吸収シアニン染料、NIR吸収アゾ染料、NIR吸収ピラゾロン染料、NIR吸収フタロシアニン染料、NIR吸収アントラキノンおよびナフタキノン染料、ニッケルまたはプラチナジチオレン錯体、スクアリリウム染料、カルボニウム染料、メチン染料、ジイモニウム染料、アミニウム染料、クロコニウム染料、キノネイミン染料、およびシグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)(ミズーリ州セントルイス(St. Louis))またはエポリン社(Epolin Inc.)(ニュージャージー州ニューアーク(Newark))から商品名IR−27およびIR−140として入手可能なもののようなピリリウム染料が挙げられる。
【0158】
ある実施形態において、放射線−熱変換体は高周波(RF)吸収磁気セラミック粉末であることができ、RF放射線を放射することで加熱することを可能とする。代表的なセラミック粉末としては、例えば、ナショナルマグネティックグループ(National Magnetics Group)((ペンシルベニア州ベスレヘム(Bethlehem))から商品名FERRITEN23として入手可能であって、報告された1.0マイクロメーターの平均粒径および95℃のキュリー温度(Tc)を有するNiZnフェライト;およびナショナルマグネティックグループ(National Magnetics Group)((ペンシルベニア州ベスレヘム(Bethlehem))から商品名FERRITERとして入手可能であって、報告された1.0マイクロメーターの平均粒径および90℃のキュリー温度(Tc)を有するMg−Mn−Zn混合フェライトが挙げられる。かかるセラミック粉末は、高周波(RF)を吸収し、それによって温度を向上することができる。報告されたキュリー温度において、フェライトはもはや高周波を吸収せず、温度が上昇し続ける。本発明において有用である典型的なRF放射線は、10μW/cm2〜100μW/cm2の強度範囲、および10KHz〜10KHzの周波数を有する。
【0159】
種々の任意の添加物
任意に、本発明の組成物は、溶媒(例えば、アルコール(例えば、プロパノール、エタノール)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(例えば、酢酸エチル)、他の非水性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロロリジノン))、および水を含有してもよい。
【0160】
必要であれば、本発明の組成物は、指示薬、染料、顔料、阻害剤、促進剤、粘度調整剤、湿潤剤、緩衝剤、安定剤、および当業者に明らかであろう他の類似成分のような添加物を含有できる。粘度調整剤は、熱感応性粘度調整剤(例えば、BASFワイアンドット社(BASF Wyandotte Corporation)、ニュージャージー州パーシパニー(Parsippany)から入手可能なプルロニック(PLURONIC)F−127およびF−108等)を含み、調整剤上の重合可能な部分または調整剤と異なる重合性構成成分を任意に含んでもよい。このような熱感応性粘度調整剤は、米国特許第6,669,927号(トロム(Trom)他)および米国特許公開第2004/0151691号(オクスマン(Oxman)他)に記載されている。
【0161】
さらに、薬剤または他の治療用物質を、任意に歯科組成物に添加することができる。例としては、歯科組成物に使用されることが多い種類の、フッ化物源、増白剤、抗う歯剤(例えば、キシリトール)、カルシウム源、リン源、無機構成成分補給剤(例えば、リン酸カルシウム化合物)、酵素、息清涼剤、麻酔剤、凝固剤、酸中和剤、化学療法剤、免疫反応変性剤、チキソトロピー剤、ポリオール、抗炎症剤、抗菌剤(抗菌性脂質構成成分に加えて)、抗真菌剤、口腔乾燥症治療剤、減感剤等が挙げられるが、これらに限定されない。また、上記の添加物のいずれかの組合せを採用してもよい。いずれか1つのこうした添加物の選択および量は、過度の実験をせずに望ましい結果をもたらすために、当業者により選択され得る。
【0162】
方法
本発明の硬化可能および硬化した歯科用組成物(例えば、1つ以上の熱不安定性基を含む熱不安定性成分を含む特定の実施形態における組成物)は、歯牙構造に付着(例えば、結合)することのできる材料を利用する様々な歯科用および歯科矯正装具に使用することができる。好ましい使用には、硬化した歯科用組成物がある時点で歯牙構造から除去されることが望まれる場合における適用を含む。かかる硬化可能および硬化した歯科用組成物における使用は、例えば、接着剤(例えば、歯科用および/または歯科矯正用接着剤)、セメント(例えば、ガラスアイオノマーセメント、樹脂変性ガラスアイオノマーセメント、および歯科矯正用セメント)、プライマー(例えば、歯科矯正用プライマー)、修復材、ライナー、シーラント(例えば、歯科矯正用シーラント)、コーティング、およびこれらの組み合わせとしての使用が挙げられる。
【0163】
これらの硬化可能または硬化した歯科用組成物における好ましい使用の1つは、歯科矯正装具の歯牙構造への付着を含む。本発明の硬化可能または硬化した歯科用組成物をベースに有する歯科矯正装具における代表的な実施形態を、図1〜6に示す。このような実施形態において、施術者は硬化可能な歯科用組成物を歯科矯正装具のベースに適用し、次に任意でその組成物を硬化することに注目すべきである。あるいは、ベースに硬化可能(または硬化した)歯科用組成物を有する歯科矯正装具は、例えば、製造者が「プレコートした」歯科矯正装具として供給されることが可能である。さらに他の実施形態において、施術者は硬化可能な歯科用組成物(例えば、歯科矯正プライマー)を歯牙構造に適用し、任意で組成物を硬化し、次に歯科矯正装具(典型的に、表面に硬化可能な歯科矯正用接着剤を有する)を歯牙構造に付着することができる。
【0164】
図1および2において、代表的な歯科矯正装具は数字10で表記され、ブラケットであるが、バッカルチューブ、ボタンおよび他のアタッチメントのような他の装具も可能である。装具10は、ベース12を含む。装具10は、ベース12から外側に延在する本体14も有する。ベース12は、金属、プラスチック、セラミック、およびこれらの組み合わせから作成されるフランジであることができる。ベース12は、細線ワイヤスクリーンのようなメッシュ状構造を含むことができる。ベース12は、粒子(破片、砂、球体、または刻み目を任意で含む他の構造等)を含むことができる。あるいは、ベース12は1つ以上の硬化した歯科用組成物層(例えば、本発明の硬化した歯科用組成物、硬化した歯科矯正用接着剤、硬化した歯科矯正プライマー、またはこれらの組み合わせ)から形成される特化されたベースであることができる。結合ウィング16は本体14に連結され、アーチワイヤスロット18は結合ウィング16間の空間を介して延在する。ベース12、本体14、および結合ウィング16は、口腔内に使用するのに好適であり、治療中にかけられる矯正力に十分耐えられる強度を有する多くの任意の材料から作成され得る。好適な材料としては、例えば、金属材料(ステンレス鋼等)、セラミック材料(単結晶または多結晶アルミナ等)、およびプラスチック材料(繊維強化ポリカーボネート等)が挙げられる。任意で、ベース12、本体14、および結合ウィング16は、単一成分として一体に作成される。
【0165】
図1および2で示される代表的な実施形態において、典型的には歯科矯正用接着剤、歯科矯正用プライマー、または歯科矯正用シーラントである、本発明の硬化可能または硬化した歯科用組成物の層22(以下、「組成物層22」)は、装具10のベース12に広がって延在する。組成物層22は、治療の過程中に意図しない歯からの脱離に耐えるのに十分な強度を有する結合によって、装具10を患者の歯に強固に固定するために全部分または少なくとも部分的に提供されることが可能である。1つの実施形態において、組成物層22は製造者によって装具10のベース12に適用される。歯科矯正装具10は、組成物層22と接触して、任意で歯科用組成物の付加層(例えば、歯科矯正用接着剤、歯科矯正用プライマー、またはこれらの組み合わせであって、これらは図1および2に示されていない)を含むことができる。特に、かかる付加層はベース12と組成物層22との間;ベース12と対向する組成物層22;または双方にあることができる。かかる層は、同様の領域を被覆してもしなくてもよく、独立して、接着剤22の全てまたは一部分に広がって延在する不連続(例えば、模様付き層)または連続(例えば、模様無し層)材料であってよい。かかる付加層を含む代表的な装具は図4〜6に示される。
【0166】
本明細書で記載されるような複数の硬化可能または硬化した歯科用組成物層を含む歯科矯正装具は、当該技術分野において公知の方法によって調製することができる。好適な方法としては、例えば、装具または基材上に組成物の層を適用、分散、または印刷することが挙げられる。複数の層を同時に、または連続的に適用してよい。
【0167】
歯科矯正装具または基材上に硬化可能な歯科用組成物の複数の層を適用するのに有用な方法としては、例えば、アシムテック(Asymtek)(カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad))からAUTOMOVEの商品名として入手可能な自動化流体分散システムを使用することが挙げられる。このような自動化流体分散システムは、模様付きおよび模様無し層の双方を分散するのに有用である。例えば、他の有用なシステムとしては、例えば米国特許出願第6,513,897号(トキエ(Tokie))および米国特許出願公開第2005/0136370A1(ブレンナン(Brennan)他)に記載されるようなピストン分散システムおよび多重解像度流体アプリケーター(multiple resolution fluid applicators)が挙げられる。
【0168】
硬化可能な歯科用組成物層は歯科矯正装具または基材に適用されると、装具または基材は簡便に容器内にパッケージ化されることが可能となる。代表的な容器は当該技術分野において公知であり、例えば、米国特許第5,172,809号(ジェイコブス(Jacobs)他)および6,089,861号(ケリー(Kelly)他)に記載されている。
【0169】
図3を参照すると、ベース上に硬化可能な歯科用組成物層が被覆された歯科矯正装具42を含むパッケージ化物品40の代表的な実施形態が示される。パッケージ44は、容器46およびカバー48を備える。当初から提供されるものとして容器46に取り外し可能に連結されるカバー48は、歯科矯正装具42の取り外しを目的としてパッケージを開けるために容器46から剥離される。図3において、カバー48は、部分的にパッケージ44を開けるために容器46から剥離される。
【0170】
好ましい実施形態において、パッケージは、硬化可能な歯科用組成物(例えば、光硬化可能な材料)の劣化に対して、長時間経過後でさえも良好な保護を提供する。かかる容器は、接着剤に対する色変化における特徴を付与する染料を保護する上で特に有用である。かかる容器は、広範囲のスペクトル領域にわたって化学線の通過を特に効果的にブロックし、結果として、組成物は保管中に早期に退色しない。
【0171】
好ましい実施形態において、パッケージはポリマーおよび金属粒子を含む容器46を備える。一例として、容器46は、例えば、米国特許公開番号2003/0196914A1(ツオウ(Tzou)ら)に開示されているような、アルミニウム充填剤と混合するか、またはアルミニウム粉末でコーティングされたポリプロピレンで製造されてもよい。ポリマーと金属粒子の組み合わせは、色変化染料への化学線の通過に対して非常に有効なブロックを提供し、かかる染料は光感受性が非常に高いことは公知である。かかる容器は、良好な蒸気防護特性も示す。結果として、硬化可能な歯科用組成物の粘弾性的特性は、長時間にわたってほとんど変化しない可能性が高い。例えば、かかる容器の蒸気防護特性が向上することで、組成物が早期に硬化または乾燥しないか、あるいは他で不十分とならないように、接着剤の操作特性の悪化に対して実質的な保護を提供する。かかる容器において好適なカバー48は、組成物が早期に硬化されないように、化学線の透過に対して実質的に不透明である任意の材料から作成することができる。カバー48において好適な材料の例としては、アルミホイルとポリマーの積層体が挙げられる。例えば、積層体はポリエチレンテレフタラート、接着剤、アルミホイル、接着剤、および配向ポリプロピレンの層を含んでよい。
【0172】
ある実施形態において、本発明の硬化可能な歯科用組成物を表面上に含むパッケージ化歯科矯正装具は、例えば、米国特許第6,183,249号(ブレンナン(Brennan)他)に記載されるような剥離基材を含んでよい。
【0173】
他の実施形態において、本発明の硬化可能な歯科用組成物を表面に含むパッケージ化歯科矯正装具は、剥離基材を備えない。1つの実施形態において、パッケージは内面を有する少なくとも1つの凹部を備える基材を備える。パッケージは、凹部から装具を外す際に組成物層が装具から離れないようにするため、歯科矯正装具を凹部の内部に位置決めする手段を備える。好ましくは、パッケージはさらに、凹部のカバーと、カバーを基材に接触させたままにする手段とをさらに備える。ここで歯科矯正装具の位置決め手段は、組成物層が凹部の内面に接触しないように凹部中に装具を懸垂する手段を備える。かかるパッケージは、例えば、米国特許第5,172,809号(ジェイコブス(Jacobs)他)に記載される。
【0174】
他の実施形態において、歯科矯正装具は、装具を歯牙構造およびベースから延在する本体に結合するためのベース、および本体から離れて延在する少なくとも2つの対向する結合ウィングを有する。ベースおよび結合ウィングの少なくとも1つは、歯肉方向において本体を越えて延在し、歯肉凹部に存在する。ベースおよび結合ウィングの少なくとももう1つは、咬合方向において本体を越えて延在し、咬合凹部に存在する。パッケージは、互いに向かって延在する1組のアームを有するキャリアを備える。各アームは外端区分を有し、この外端区分は互いに距離を空けており、それらの間にチャネルが存在する。歯科矯正装具はチャネル中に配置され、アームによって指示され、外端区分の1つは咬合凹部中に延在し、もう1つの外端区分は歯肉凹部中に延在する。かかる歯科矯正装具およびパッケージは、例えば米国特許第6,089,861号(ケリー(Kelly)他)に記載されている。
【0175】
ある実施形態において、パッケージ化物品は歯科矯正装具のセットを備えることができ、装具の上に少なくとも1つは本発明の硬化可能な歯科用組成物を有する。物品および装具セットのさらなる例は、米国特許出願公開第2005/0133384A1(シナダー(Cinader)他)に記載されている。パッケージ化歯科矯正装具は、例えば、米国特許出願公開第2003/0196914A1(ツゾウ(Tzou)他)、および米国特許第4,978,007号(ジェイコブス(Jacobs)他)、同5,015,180号(ランドクレブ(Randklev)他)、同5,328,363号(チェスター(Chester)他)、同6,183,249号(ブレナン(Brennan)他)に記載されている。
【0176】
本発明の硬化可能な歯科用組成物をベース上に有する歯科矯正装具は、当該技術分野において公知の方法(例えば、直接または間接結合方法)を用いて歯牙構造に結合され得る。歯科矯正装具を歯牙構造に適用する際、本発明の硬化可能な歯科用組成物を硬化させ、歯科矯正装具を歯牙構造に付着させることができる。様々な好適な組成物の硬化方法が当該技術分野において公知である。例えば、ある実施形態において、硬化可能な歯科用組成物は、紫外線または可視光への曝露によって硬化することができる。他の実施形態において、硬化可能な歯科用組成物は、2つ以上の部分を結合する際に硬化する多部分組成物として提供することができる。
【0177】
所望である場合には、典型的には歯科矯正治療プロセスの完了の際に、施術者が歯牙構造から歯科矯正装具を取り外す必要がある。本発明の硬化した歯科用組成物は、加熱の際の結合強度を低減するように設計され、歯科矯正装具の取り外しだけでなく、装具の取り外し後に歯牙構造に残った任意の硬化した歯科用組成物の除去をも簡便にすることが可能となる。
【0178】
硬化した歯科用組成物は、限定はされないが、例えばレーザー、温水、電熱剥離ユニット、加熱ゲルトレイ、による加熱を含む従来の方法、並びに当該技術分野において公知の他の方法によって加熱することができる。
【0179】
あるいは、放射線−熱変換体を含む硬化した歯科用組成物において、硬化した歯科用組成物は、任意で、放射線−熱変換体によって吸収される放射線を照射することで加熱することができる。例えば、レーザー、半導体レーザー、石英−タングステン−ハロゲンランプ、水銀ランプ、ドープ水銀ランプ、ジュウテリウムランプ、プラズマアークランプ、LED源、および当該技術分野で既知の他の源を含む、様々な放射源を使用することができる。
【0180】
硬化した歯科用組成物は、任意で、結合強度を低減するのに十分な時間をかけて簡便な温度まで加熱され、歯牙構造から歯科矯正装具を簡便に取り外すことが可能となる。好ましくは、温度および時間は、例えば、ザッハ(Zach)他による、「歯内治療学(Endodontics)」(ベンダー(Bender)編、515〜530頁、(1965年))に記載されるように、歯牙構造への損傷を防ぐために選択される。ローファー(Laufer)他による「ジャーナルオブバイオメカニカルエンジニアリング(Journal of Biomechanical Engineering)」(第107版:234〜239頁(1985年));ローネ(Launay)他による「レーザーズインサージェリーアンドメディシン(Lasers in Surgery and Medicine)」(第7版:473〜477頁(1987年));アゼウ(Azzeh)他による「アメリカンジャーナルオブオルソドンティックスアンドデントフェイシャルオルソペディクス(American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics)」(第123版:79〜83頁(2003年);およびユイサル(Uysal)他による「アングルオルソドンティスト(Angle Orthodontist)」(第75版:220〜225頁(2005年)も参照のこと。典型的には、歯科用組成物を迅速に加熱する加熱技術を用いて、歯牙構造に損傷を与えることなく、より短い持続時間でより高い温度を用いることができる。
【0181】
特定の実施形態において、硬化した歯科用組成物の少なくとも一部分および好ましくは全ては、少なくとも42℃、時には少なくとも50℃、またある時には少なくとも70℃まで加熱される。典型的には、硬化した歯科用組成物は、200℃以下、時には150℃以下、またある時には100℃以下、さらにある時には80℃以下まで加熱される。選択された温度は、結合強度の望ましい減少をもたらすのに十分な時間保持される。特定の実施形態において、時間は、10分以下、時には10秒以下、またある時には1秒以下である。結合強度が減少することで、典型的には硬化した組成物層内において破壊がもたらされる。
【0182】
ある実施形態において、歯科矯正装具は付加歯科用組成物層を備える。かかる付加歯科用組成物としては、例えば、硬化しない、または硬化した歯科用組成物(例えば、特定の実施形態において、熱不安定性成分を含まない従来の歯科用組成物)が挙げられる。本明細書中、以下で記載するように、付加層を包含することで、例えば、歯牙構造から歯科矯正装具を剥離する間に起こる破壊位置に影響することが可能となる。
【0183】
例えば、図4は、歯科矯正装具10が組成物層22と接触する1つの付加歯科用組成物層24を有する実施形態を示している。組成物層22は、本発明の硬化しない、または硬化した歯科用組成物のどちらかであり得る。付加層24は、ベース12に対向する組成物層22上にある。付加層24は、典型的に硬化しない歯科用組成物(例えば、歯科矯正用接着剤、歯科矯正用プライマー、またはこれらの組み合わせ)である。歯科矯正装具10を歯牙構造に適用する際、付加層24(および組成物層22(また硬化していない場合))は、歯牙構造に歯科矯正装具を付着するために本明細書で上述したような様々な方法で硬化することができる。
【0184】
ある実施形態において、付加層24は、表面に組成物層22を有する歯科矯正装具が歯の表面に付着される前に、歯牙構造上に適用される(および任意で硬化される)硬化可能な歯科矯正用プライマーであることができる。
【0185】
歯科矯正治療の完了の際、硬化した組成物層22の少なくとも一部分を結合強度を低減するために加熱することが可能であり、好ましくは歯科矯正装具を取り外す際に加熱された組成物層22内で破壊が起こることが可能である。加熱された組成物層22内で破壊が起こることによって、歯科矯正装具の近く且つ歯牙構造から離れて破壊がもたらされる。さらには、加熱された硬化した組成物層22(例えば、歯科矯正用接着剤)は典型的には弾性率がより低いため、より軟性であり、硬化した組成物の残存物を容易に清浄および/または除去することが可能である。したがって、歯科矯正治療後、図4の1つの実施形態は、組成物層22と付加層24の双方が硬化した歯科矯正用接着剤である場合のものである。他の実施形態において、組成物層22は硬化した歯科矯正用接着剤であり、付加層24は硬化した歯科矯正用プライマーである。
【0186】
図5は、歯科矯正装具10が組成物層22と接触する1つの付加歯科用組成物層20を有する場合の他の実施形態を示す。付加層20は、ベース12と組成物層22との間にある。付加層20は典型的には硬化しない、または硬化した歯科用組成物(例えば、歯科矯正用接着剤、歯科矯正用プライマー、またはこれらの組み合わせ)である。組成物層22は、典型的には硬化しないものとすることができる。歯科矯正装具10を歯牙構造に適用する際、組成物層22(および付加層20(まだ硬化していない場合))は、歯牙構造に歯科矯正装具を付着するために本明細書で上述したような様々な方法で硬化することができる。
【0187】
ある実施形態において、組成物層22は、表面に付加層20を有する歯科矯正装具が歯の表面に付着される前に、歯牙構造上に適用される(および任意で硬化される)硬化可能な歯科矯正用プライマーであることができる。
【0188】
歯科矯正治療の完了の際、硬化した組成物層22の少なくとも一部分を結合強度を低減するために加熱することが可能であり、好ましくは歯科矯正装具を取り外す際に加熱された組成物層22内で破壊が起こることが可能である。加熱された組成物層22内で破壊が起こることで、歯牙構造近くでの破壊がもたらされる。組成物層22が歯科矯正用プライマーであり、付加層20が歯科矯正用接着剤である実施形態において、硬化した歯科矯正用接着剤は、実質的に取り除かれた歯科矯正装具上に保持される。本明細書で使用する時、「取り除かれた歯科矯正装具に実質的に保持される」とは、取り除かれた歯科矯正装具上に、少なくとも50重量%および少なくとも75重量%の歯科矯正用接着剤が保持されることを意味する。硬化した歯科矯正用接着剤が実質的取り外された歯科矯正装具に保持される際、歯牙構造上に接着剤がほとんど残らないので、歯牙構造上に残存する歯牙構造上に残存する任意の接着剤を清浄および除去するのはより容易である。さらに、歯牙構造に残存する任意の組成物は、好ましくは実質的に本発明の硬化した歯科用組成物であって、任意で組成物を軟化するために加熱されることが可能であり、それによってより容易に接着剤を除去することが可能となる。したがって、歯科矯正治療後、図5の1つの実施形態は、組成物層22および付加層20の双方は、硬化した歯科矯正用接着剤である。他の実施形態において、組成物層22は硬化した歯科矯正用プライマーであり、付加層20は硬化した歯科矯正用接着剤である。
【0189】
他の実施形態において、図6は歯科矯正装具10が組成物層22と接触する2つの付加歯科用組成物層(20および24)を有する場合の他の実施形態を示す。付加層20は、ベース12と組成物層22との間にある。付加層20は典型的には硬化しない、または硬化した歯科用組成物(例えば、歯科矯正用接着剤、歯科矯正用プライマー、またこれらの組み合わせ)である。組成物層22は、硬化しない、または硬化することができる。付加層24は、ベース12に対向する組成物層22上にある。付加層24は、典型的に硬化しない歯科用組成物(例えば、歯科矯正用接着剤、歯科矯正用プライマー、またはこれらの組み合わせ)である。歯科矯正装具10を歯牙構造に適用する際、付加層24(および組成物層22および付加層20(まだ硬化していない場合))は、歯牙構造に歯科矯正装具を付着するために本明細書で上述したような様々な方法で硬化することができる。
【0190】
ある実施形態において、付加層24は、表面に付加層20および組成物層22を有する歯科矯正装具が歯の表面に付着される前に、歯牙構造をコーティングする(および任意で硬化される)硬化可能な歯科矯正用プライマーであることができる。
【0191】
歯科矯正治療の完了の際、硬化した組成物層22の少なくとも一部分を結合強度を低減するために加熱することが可能であり、好ましくは歯科矯正装具を取り外す際に加熱された組成物層22内で破壊が起こることが可能である。加熱された組成物層22内で破壊が起こることによって、歯科矯正装具と歯牙構造との間に、離れて安全な破壊がもたらされる。したがって、歯科矯正治療後、図6の1つの実施形態は、組成物層22と付加層20および24が硬化した歯科矯正用接着剤である場合のものである。他の実施形態において、組成物層22は硬化した歯科矯正用接着剤であり、付加層20および24は硬化した歯科矯正用プライマーである。
【0192】
さらなる層または層の配列が存在する場合、さらなる実施形態が意図されることが理解される。さらに、各層の厚さは独立して要望に応じて変更することが可能である。さらに、本発明の歯科用組成物は、明確に画定された層中に存在する必要がないだけでなく、歯科矯正装具のベース上の全体または一部に、均一または非均一に分散して存在することができる。
【0193】
本発明の目的および利点は、下記の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の物質およびその量は、他の諸条件および詳細と同様に本発明を過度に制限するものと解釈すべきではない。指示がない限り、全ての部およびパーセントは重量基準であり、全ての水は脱イオン水であり、全ての分子量は重量平均分子量である。
【実施例】
【0194】
試験方法
ガラス棒試験方法を用いた結合強度
8cm長のガラス棒の末端部に接着剤試料を1滴適用し、平均直径が0.254mmである少量のガラスビーズ(3M社、Z−ライト球体(Z-light spheres)、W−160型)を接着剤上に振りかけた。次に、ガラス棒をより太い4cm長ガラス棒に軽く押し付け、引き離して10分間乾燥させた。ホルダー内に長い方のガラス棒を接着剤側を上にして垂直に保持し、短い方のガラス棒を上部に対して垂直にバランスを取らせ、歯科用ハロゲンランプ(3M社、モデル2500、3M ESPE)を使用して30秒間接着剤を硬化させた。使用したガラスビーズの厚さによって接着剤層の厚さを決定した。
【0195】
上方にあるガラス棒上の小穴に取り付けられたワイヤをMTSシンテック引っ張り試験機(Sintech tensile tester)(ミネソタ州エデンプレイリー(Eden Prairie)のMTAシステムズ社(MTS Systems Corp.)のモデル#T30/87/100)に取り付け、ガラス棒アセンブリ間の接着結合が破壊されるまで、12.9mm2の領域を2.54mm/分の速度で引いた。(TRANSCEND6000ブラケット(カリフォルニア州モンロビア(Monrovia)の3Mユニテック(3M Unitek))の部品番号59543−01)の実面積は約12.5mm2であることに留意すべきである。)室温(RT、約23℃)を含む様々な温度における接着結合の破壊力は、MPaで測定され、2回または3回の繰返しの平均したものが報告された。試料の加熱を可能とするために、シンテッククランプをオーブン中に載置した。
【0196】
歯における結合破損時間の試験方法
歯科矯正ブラケットを以下のような光硬化手順によってウシの歯の表面に結合した:中粒度のイタリアンパミス(Italian pumice)(ニュージャージー州パラマス(Paramus)のサーバラブ(Servalab))の水性ペーストを使用してウシの歯を口腔ケアし、続いて水を使用して洗浄した。乾燥空気流で歯を乾燥し、次にADPER PROMPT L−POPセルフエッチングプライマー(3M ESPE)を用いてエッチングおよびプライム化した。TRANSCEND6000セラミックブラケット(カリフォルニア州モンロビア(Monrovia)の3Mユニテック(3M Unitek)の部品番号59543−01)は、モデル2500歯科用ハロゲン光源(ミネソタ州セントポールの3M ESPE歯科用製品部門(Dental Products Division))を使用してAPCプラス(APC Plus)歯科矯正用接着剤(カリフォルニア州モンロビア(Monrovia)の3Mユニテック(3M Unitek))でエッチングおよびプライム化された歯と結合した。
【0197】
実施例7において、上述の歯の口腔ケア、エッチングおよびプライム化における手順の後に、実施例7に記載のポリウレタンプライマーの薄いコーティング(0.00254cm厚)を適用した。ビクトリーシリーズ金属ブラケット(Victory Series)(部品番号017−401、3Mユニテック(Unitek))またはTRANSCEND6000セラミックブラケット(部品番号59543−01、3Mユニテック(Unitek))を、モデル2500歯科用ハロゲン光源(3M ESPE)を使用してAPCプラス(APC Plus)歯科矯正用接着剤(3Mユニテック(Unitek))で調製した歯と結合した。実施例7におけるコントロールは、ポリウレタンプライマーを適用せずに結合した。さらに、熱電対をコントロール試料の接着結合中に埋め込んだ。
【0198】
結合強度を測定するために、5.08cmの直径孔を有する2つのスターレットマイクロメーター(xおよびy方向において、それぞれ2.54cmの走行距離、0.00254cmのステップ)で供給されるアーデル/キナマティック(Ardel/Kinamatic)2軸リニアステージは、固定された10.16cm高のプラットホーム上に載置した。ポットされた歯にすでに取り付けられているブラケットがステージに固定されるように、鋼線をリガチャー溝の上部且つブラケットの下部を通過させることで、2本の鋼線(直径0.0508cm)を2軸ステージの孔から0.3cm離れてめぐらせた。歯からブラケットを引き離すために一定値4.9N(500gの力)(重力により)を提供するように、ポッティング材料中にフックをねじ込む手段によって、ポットされた歯の底部から500gの重りをつるした。接着結合が破壊するまで、177℃であると推定される120Vの熱はんだごての先端をブラケットに接触させ、その破壊した時間を、3回の繰返しの平均として記録した。
【0199】
【表1】

【0200】
実施例1
OX−1 DMAの調製
【0201】
【化3】

【0202】
化合物OX−1 DMA(実施例1)を米国特許第6,652,970号(エベラーツ(Everaerts)他)の実施例2に詳述の合成経路で調製した。
【0203】
実施例2
ジオール−10(DIOL−10)の調製
【0204】
【化4】

【0205】
22.1グラムの1,1−(4,4’−メチレンビスフェニレン)ビスマレイミド(シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich))と48グラムのフルフリルアルコール(シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich))から成る溶液を150〜200mlの塩化メチレン中で調製した。溶液を一晩還流した後、放置して室温まで冷ました。十分量のジエチルエーテルを生成混合物に加え、生成物を沈殿させた。沈殿物を真空濾過で収集し、より精製するために、塩化メチレンで再溶解し、さらにジエチルエーテルを1〜2回加えて再沈殿させた。最後に、沈殿した材料を真空濾過で収集し、真空下で乾燥した後、さらに一晩風乾させた。NMR分光法により、生成物ジオール10(実施例2)の同一性を確認した。
【0206】
実施例3
ジオール10(DIOL−10) DMAの調製
【0207】
【化5】

【0208】
フルフリルアルコールの代わりにフルフリルメタクリレート(シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich))を使用した以外は、実施例2の合成手順によって化合物ジオール−10 DMA(実施例3)を調製した。
【0209】
実施例4A〜Bおよび5A〜B
熱不安定性ジ(メタ)アクリレート化合物を含有する接着剤組成物
実施例4A(33重量%)および実施例4B(66重量%)を提供するために、実施例3(化合物ジオール−10DMA)をADPER単結合接着剤(ASBA;3M社)に入れて手攪拌し;実施例5A(33重量%)および実施例5B(66重量%)を提供するために、実施例1(化合物OX−1DMA)をASBAに入れて手攪拌することで、様々な重量%濃度で熱不安定性ジメタクリレート化合物を含有する接着剤組成物を調製した。
【0210】
実施例6
熱不安定性ジメタクリレート化合物を含有するプライマー組成物
実施例6を提供するために、実施例3(化合物ジオール−10DMA)を25重量%でHEMAに入れて攪拌することで、熱不安定性ジメタクリレート化合物を含有するプライマー組成物を調製した。
【0211】
実施例4A〜B、5A〜Bおよび6の結合強度評価
実施例4A〜Bおよび5A〜Bを個別にエチルアセテート(65重量%)に溶解し、本明細書に記載のガラス棒試験方法に従って、結合強度(2本のガラス棒間)を評価した。さらに、ASBA(添加物を含まない)を適用する前に、乾いた空気と共に薄膜に1滴(約10mg)吹き付けるようにして、実施例6プライマーを上方のガラス棒に適用する以外は、本明細書で記載のガラス棒試験方法による結合強度に従って、プライマーとして実施例6(HEMA中のジオール−10DMA)を評価した。結果を表1に提供し、添加物を含有しないASBA(コントロール)の結合強度と比較した。
【0212】
【表2】

【0213】
表1のデータは、単一加熱(ASBA;コントロール試料)は2本のガラス棒間の結合強度の低減に若干影響していたが、ジオール−10もしくはOX−1DMAのどちらかが存在する熱不安定性化合物より著しく結合強度が減少し、接着剤中の化合物の濃度と関連する(つまり、化合物の濃度が上がると結合力が下がる)と考えられた。最高試験温度である126℃における熱不安定性化合部含有接着剤の結合強度は非常に低いものであった。実施例6(プライマーとしてジオール−10DMA/HEMAを適用し、続いてASBAのを適用する)の場合、プライマーは室温(RT)における結合強度を実質的に上昇させ、温度上昇とともに再び劇的に結合強度が減少(126℃で非常に低い結合強度が記録された)した。
【0214】
これらの評価は、熱不安定性ジ(メタ)アクリレートを硬化した歯科用組成物に組み込むことで、結合された材料が加熱された際に実質的に低い結合強度を提供できることを示している。
【0215】
実施例7
熱不安定性ジオール化合物を含有するプライマー組成物
実施例2(ジオール−10)と表2に示すような他の成分と組み合わせることで、熱不安定性ジオール化合物を含有するプライマー組成物(実施例7)を調製した。典型的な手順には、28グラムのTHF中で、7.0グラムのH12MDIと8.0グラムのTERATHANE650にジブチルスズジラウレート(シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich))を1滴を加え、終始攪拌しながらIRランプを使用して1.25〜8時間加熱した。続いて、22.3グラムのTHFおよび0.49グラムのVORANOL225中に7.4グラムのジオール−10を加え、混合物を周囲温度で一晩攪拌した。2270cm-1付近のイソシアネート吸収バンドの消失をFT−IRモニタリングしながら、N,N−ビス(3−アミノプロピル)メチルアミンを使用して、過剰イソシアネートをクエンチした。次に、生じたポリウレタンを60℃の炉に一晩載置し、全てのTHF溶媒を除去した。歯の試験方法における結合破損時間において記載されるように、生じた組成物を実施例7のプライマーとして使用した。
【0216】
【表3】

【0217】
実施例7のプライマーを用いた結合強度評価
実施例7をプライマーとして用いた後、APC PLUS歯科矯正用接着剤(3Mユニテック(Unitek))を塗布し、本明細書に記載の歯の試験方法における結合破損時間に従って、結合強度(歯科矯正ブラケットとウシの歯との間)を評価した。結果を表3に提供し、ウシの歯表面と金属およびセラミックブラケット(コントロール試料)との間でのAPCPLUS歯科矯正用接着剤(実施例7プライマーを含まない)の結合強度と比較した。
【0218】
【表4】

【0219】
表3におけるデータは、高温での剥離における時間は、熱不安定性ジオールを含有するポリウレタンプライマーを使用することで著しく低減されることを示している。さらに、より一般的に観察されるブラケットと接着剤の境界面とは対照的に、歯と接着剤との境界面において接着結合破損が観察された。
【0220】
実施例7は、熱源として半田ごての代わりに10.6μm(カリフォルニア州サンタクララ(Santa Clara)のコヘレント社(Coherent Inc.)のパフォーマンスパッケージ(Performance Package)を有するダイヤモンド84CO2レーザー)で作動するCO2レーザーを使用したこと以外は、本明細書に記載の歯の試験方法における結合破損時間に従って、結合強度(歯科矯正ブラケットとウシの歯の間)も評価した。レーザーは非常に早く加熱され、パルスされるワット数およびパルスされる秒数を記録し、結果は以下のようになった。
【0221】
【表5】

【0222】
これらの結果は、歯表面からブラケットを取り除く際の剥離および配置の制御において、熱崩壊性層を使用することの有用性と一致する。
【0223】
本発明の範囲および趣旨を逸脱しない本発明の様々な変更や改変は、当業者には明らかとなるであろう。本発明は、本明細書で述べる例示的な実施形態および実施例によって不当に限定されるものではないこと、また、こうした実施例および実施形態は、本明細書において以下に記述する特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図する、本発明の範囲に関する例示のためにのみ提示されることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】ベース上に本発明の硬化可能または硬化性の歯科用組成物を有する歯科矯正装具の斜視図である。
【図2】図1の歯科矯正装具の側面図である。
【図3】ベース上に本発明の硬化可能または硬化性の歯科用組成物を有する歯科矯正装具が容器内にあり、カバーが部分的に開いている、パッケージ化物品の斜視図である。
【図4】ベース上に複数層を有する歯科矯正用装具の側面図であって、この複数層のうち少なくとも1つの層は本発明の硬化可能または硬化した歯科用組成物である。
【図5】ベース上に複数層を有する歯科矯正用装具の側面図であって、この複数層のうち少なくとも1つの層は本発明の硬化可能または硬化した歯科用組成物である。
【図6】ベース上に複数層を有する歯科矯正用装具の側面図であって、この複数層のうち少なくとも1つの層は本発明の硬化可能または硬化した歯科用組成物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化した歯科用組成物で歯牙構造に付着した歯科矯正装具の結合強度を低減する方法であって、前記方法は前記硬化した歯科用組成物の加熱を含み、前記硬化した歯科用組成物は1つ以上の熱不安定性基を含む熱不安定性成分を含む、方法。
【請求項2】
前記1つ以上の熱不安定性基は、付加環化付加物、オキシムエステル、およびこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱不安定性成分は、
式(式I)で表される化合物:
【化1】

(式中、Rは水素または有機基であり;RおよびRはそれぞれ独立して有機基を表し;各EおよびEは独立してエチレン系不飽和基を表し;mおよびnはそれぞれ独立して0または1であり;RおよびEは1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることが可能であり、および/またはR、R、及びEのうちの2つ以上の基は、1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることが可能である);
式(式II)で表される化合物:
【化2】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して有機基を表し;Dは付加環化付加物を表し;各EおよびEは独立して、エチレン系不飽和基を表し;oおよびpはそれぞれ独立して0または1であり;R、R、E、Eはのうちの2つ以上および/またはDは、1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることが可能であり、但し、1つ以上の環はDの熱不安定性に影響しない);および
これらの組み合わせ、から成る群から選択される1つ以上の化合物を重合することで形成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記硬化した歯科用組成物は少なくとも42℃まで加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記硬化した歯科用組成物はレーザーを使用して加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記硬化した歯科用組成物はさらに放射線−熱変換体を含み、加熱には硬化した歯科用組成物への放射線照射を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
歯牙構造への硬化した歯科用組成物の付着力を低減する方法であって、前記方法は、付着力を低減するための前記硬化した歯科用組成物の加熱を含み、前記硬化した歯科用組成物は、1つ以上の熱不安定性基を含む熱不安定性成分を含む、方法。
【請求項8】
1つ以上の熱不安定性基を含む硬化可能な成分であって、但し、アゾ基又はニトリフェニル基を含まない成分;および
歯科用組成物の硬化を開始するための反応開始剤、を含む硬化可能な歯科用組成物。
【請求項9】
前記1つ以上の熱不安定性基を含む前記硬化可能な成分はエチレン系不飽和化合物である、請求項8に記載の硬化可能な歯科用組成物。
【請求項10】
熱不安定性基のない硬化可能な成分をさらに含む、請求項8に記載の硬化可能な歯科用組成物。
【請求項11】
熱不安定性基を含まない前記硬化可能な成分は、エチレン系不飽和化合物である、請求項10に記載の硬化可能な歯科用組成物。
【請求項12】
付加環化付加物、オキシムエステル、およびこれらの組み合わせから成る群から選択される1つ以上の熱不安定性基を含む硬化可能な成分;及び
歯科用組成物の硬化を開始するための反応開始剤、を含む硬化可能な歯科用組成物。
【請求項13】
前記1つ以上の熱不安定性基を含む前記硬化可能な成分は、式(式I)で表される化合物:
【化3】

(式中、Rは水素または有機基であり;RおよびRはそれぞれ独立して有機基を表し;各EおよびEは独立してエチレン系不飽和基を表し;mおよびnはそれぞれ独立して0または1であり;R及びEは1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることが可能であり、および/またはR、R、及びEのうちの2つ以上の基は、1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることが可能である);
式(式II)で表される化合物:
【化4】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して有機基を表し;Dは付加環化付加物を表し;各EおよびEは独立してエチレン系不飽和基を表し;o及びpはそれぞれ独立して0または1であり;R、R、E、Eのうちの2つ以上および/またはDは、1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることが可能であり、但し、前記1つ以上の環はDの熱不安定性に影響しない);および
これらの組み合わせ、から成る群から選択される、請求項12に記載の硬化可能な歯科用組成物。
【請求項14】
1つ以上の熱不安定性基を含む硬化可能な成分;
放射線−熱変換体;および
歯科用組成物の硬化を開始する反応開始剤を含む、硬化可能な歯科用組成物。
【請求項15】
式(式II)で表される熱不安定性成分を含む歯科用組成物:
【化5】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して有機基を表し;Dは付加環化付加物を表し;各EおよびEは独立してポリマー基を表し;o及びpはそれぞれ独立して0または1であり;R、R、E、Eのうちの2つ以上および/またはDは、1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることが可能であり、但し、前記1つ以上の環はDの熱不安定性に影響しない)。
【請求項16】
少なくとも1つのポリマー基は、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、およびこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項15に記載の歯科用組成物。
【請求項17】
歯科矯正装具であって、歯牙構造に該装具を結合するためのベースを有する歯科矯正装具;および
前記装具のベース上の硬化可能な歯科用組成物を含み、前記硬化可能な歯科用組成物は、1つ以上の熱不安定性基を含む硬化可能な成分;および前記硬化可能な歯科用組成物の硬化を開始するための反応開始剤を含む、物品。
【請求項18】
前記1つ以上の熱不安定性基は、付加環化付加物、オキシムエステル、およびこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項17に記載の物品。
【請求項19】
前記1つ以上の熱不安定性基を含む硬化可能な成分は、
式(式I)で表される化合物:
【化6】

(式中、Rは水素または有機基であり;R及びRはそれぞれ独立して有機基を表し;各E及びEは独立してエチレン系不飽和基を表し;mおよびnはそれぞれ独立して0または1であり;RおよびEは1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることが可能であり、および/またはR、R、およびEのうちの2つ以上の基は、1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることが可能である);
式(式II)で表される化合物:
【化7】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して有機基を表し;Dは付加環化付加物を表し;各EおよびEは独立してエチレン系不飽和基を表し;oおよびpはそれぞれ独立して0または1であり;R、R、E、Eのうちの2つ以上および/またはDは、1つ以上の環を形成するために任意で組み合わせることが可能であり、但し、前記1つ以上の環はDの熱不安定性に影響しない);並びに
これらの組み合わせから成る群から選択される、請求項17に記載の物品。
【請求項20】
歯科矯正装具であって、歯牙構造に該装具を結合するためのベースを有する歯科矯正装具;および
前記装具の前記ベース上の硬化性歯科用組成物を含み、前記硬化性歯科用組成物は、1つ以上の熱不安定性基を含む熱不安定性成分を含む、物品。
【請求項21】
前記物品はさらに、異なる硬化可能および/または硬化した歯科用組成物の1つ以上の付加層を含む、請求項20に記載の物品。
【請求項22】
歯牙構造に、硬化可能な歯科用組成物であって、1つ以上の熱不安定性基を含む硬化可能な構成要素;および前記硬化可能な歯科用組成物の硬化を開始するための反応開始剤を含む硬化可能な歯科用組成物を塗布すること;及び
前記歯牙構造に前記硬化性組成物を付着するために、前記硬化可能な歯科用組成物を硬化すること
を含む歯牙構造の治療方法。
【請求項23】
歯科矯正装具を歯に結合する方法であって、
前記装具を歯牙構造に結合するためのベースを有する歯科矯正装具を提供すること;
1つ以上の熱不安定性基および硬化可能な歯科用組成物の硬化を開始するための反応開始剤を含む硬化可能な成分を含む硬化可能な歯科用組成物を提供すること;
前記硬化可能な歯科用組成物を前記歯牙構造及び前記歯科矯正装具のベースと接触させ;および
前記硬化可能な歯科用組成物を硬化すること
を含む方法。
【請求項24】
前記硬化可能な歯科用組成物と前記歯牙構造および前記歯科矯正装具の前記ベースとの接触は、
前記硬化可能な歯科用組成物を前記歯牙構造に塗布すること;および
前記歯科矯正装具の前記ベースと前記歯牙構造上の前記硬化可能な歯科用組成物を接触させること
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記硬化可能な歯科用組成物と前記歯牙構造および前記歯科矯正装具の前記ベースとの接触は、
前記硬化可能な歯科用組成物を有する歯科矯正装具を前記ベース上に提供すること;および
前記硬化可能な歯科用組成物を表面上に有する前記装具のベースを前記歯牙構造に適用すること
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記歯科矯正装具は、前記装具のベース上に前記硬化可能な歯科用組成物を有するプレコート装具として提供される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記プレコート装具はさらに、異なる硬化可能および/または硬化した歯科用組成物の1つ以上の付加層を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ベース上に前記硬化可能な歯科用組成物を有する前記歯科矯正装具の提供は、さらに、前記硬化可能な歯科用組成物を前記歯科矯正装具の前記ベースに塗布することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
歯科矯正装具を歯に結合する方法であって、
前記装具を歯牙構造に結合するためのベースを有する歯科矯正装具であって、ベース上に熱不安定性成分を含む硬化した歯科用組成物を有する装具を提供すること;
硬化可能な歯科矯正用接着剤を提供すること;
前記硬化可能な歯科矯正用接着剤を前記歯牙構造および表面上に前記硬化した歯科用組成物を有する前記歯科矯正装具のベースと接触させること;並びに
前記歯科矯正用接着剤を硬化すること
を含む方法。
【請求項30】
前記硬化可能な歯科矯正用接着剤と前記歯牙構造及び表面上に前記硬化した歯科用組成物を有する前記歯科矯正装具のベースとの接触は、
前記硬化可能な歯科矯正用接着剤を前記歯牙構造に塗布すること;および
前記硬化した歯科用組成物を表面上に有する前記歯科矯正装具のベースと前記歯牙構造上の硬化可能な歯科矯正用接着剤とを接触させること
を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記硬化可能な歯科矯正用接着剤と前記歯牙構造および表面上に前記硬化した歯科用組成物を有する前記歯科矯正装具のベースとの接触は、
前記ベース上の前記硬化した歯科用組成物上に前記硬化可能な歯科矯正用接着剤を有する歯科矯正装具を提供すること;および
前記硬化した歯科矯正用組成物上に前記硬化可能な歯科用接着剤を有する前記装具のベースを前記歯牙構造に貼り付けること
を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記歯科矯正装具は、前記歯科矯正装具のベース上の前記硬化した歯科用組成物上に前記硬化可能な歯科矯正用接着剤を有するプレコート装具として提供される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記プレコート装具はさらに、異なる硬化可能および/または硬化した歯科用組成物の1つ以上の付加層を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ベース上の前記硬化した歯科用組成物上に前記硬化可能な歯科矯正用接着剤を有する前記歯科矯正装具を提供することは、さらに、前記硬化可能な歯科矯正用接着剤を前記歯科矯正装具の前記ベース上の前記硬化した歯科用組成物に塗布することを含む、請求項31に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−520025(P2009−520025A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547255(P2008−547255)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/045888
【国際公開番号】WO2007/075257
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】