説明

熱中症指標観測表示装置

【課題】熱中症の警告ができる気象観測装置及びネットワーク装置。
【解決手段】熱中症の指標を温度と湿度から求め、指標データを現場で表示できる他、ネットワークを経由して、現場の指標を収集できる気象観測装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気温と湿度のデータからWBGT熱中症指標等の指数情報を測定するための気象観測技術に関するものである。
【背景の技術】
【0002】
熱中症は、人がかかる熱障害の総称である。基本的には環境の急激な変化や、体温調節機能の低下等により、一時的に体内の熱を発散させることができない場合に発症しやすい。このように、熱中症は温度だけではなく、汗を蒸発させやすくする湿度、肌と接する空気の流れ、体内の水分等に大きく影響される。
【0003】
熱中症対策として重要な指標であるWBGT熱中症指標は、湿球温度、乾球温度、黒球温度からから算出する。
【0004】
また、熱中症指標の他に、気温、湿度等の気象データから、インターネットを通じてリアルタイムで取得し、洗濯指数、風邪引き指数などの生活に密着した情報を提供する技術が開発されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生活に密着した指数情報を現場で即時的に把握するためには、気温と湿度のデータを計算式にあてはめて手作業で求める必要がある。熱中症対策に欠かせないWBGT熱中症指標については、気温、湿度のみならず、黒球温度を測定する必要がある。黒球温度の測定は特殊な大きな球を用意する必要がある。
【0006】
学校の校庭等の屋外に気象観測用センサーを設置する場合、リアルタイムで別の場所でデータを読みとる場合は通信ケーブルを敷設する必要がある。ところが、百葉箱等の設置場所は建物から遠く離れた運動場の隅にある場合が多く、電源、通信ケーブルを敷設する場合は多額の費用がかかる。
【0007】
従来でも、電源工事や通信線の配線工事無しでシステムを構成する方法はあった。データ通信を無線で行い、大型の電池を使用するか、煩雑に電池を交換するか、太陽エネルギー等の自家発電を行う方法である。
【0008】
通信距離は、従来の微弱無線では数十m程度で、到底校庭の百葉箱から受信機のある校舎まで届かない。微弱無線以外で送信電力の大きい無線方式はあるが、消費電力は大きい。一般に通信距離が倍になれば、消費電力は4倍になる。
【0009】
送信機の消費電力が大きくなれば、電池も大きくなり、高価なものが必要になる。太陽電池を使う方法は、曇天、雨の日が連続しても切れないようにするため、バッテリーのバックアップが必要である。また、太陽電池パネルは強風でも飛ばされないように機械的強度が必要であり、バッテリーバックアップにしても太陽電池にしても、高価になり、実用的ではない。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みたもので、より正確に、より安価に熱中症の発生する危険性を予測し、熱中症を回避できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
気象観測センサーの気温と湿度のデータのみからWBGT熱中症指標等の指数情報を算出する手段と、それらの指数情報を即時に表示する手段により、指数情報の現場での把握を可能とすることを特徴とした気象観測装置、及び外部ネットワークへこれらの指数情報を送信する手段を有することを特徴としている。
【0012】
また、気象観測センサーから無線でデータを送出し、気象観測センサー部及び送信部は電池駆動が可能で、センサーの設置に関して配線工事を不要としている。また、送信機の消費電力が微弱であっても、送信無線電波の帯域を狭くして、微弱無線電波でも実用的な通信距離を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
熱中症対策に欠かせないWBGT熱中症指標については、気温、湿度のみならず、黒球温度を測定する必要があったが、気温と湿度のみからWBGT熱中症指標を得ることができる。
【0014】
また、生活に密着した指数情報を現場で即時的に把握できるとともに、外部ネットワークへ指数情報を送信できる。また、WBGT熱中症指標等を学校や屋外作業の現場で即時的に把握できることにより、熱中症被害軽減のための対策を早めに行うことができる。また、外部ネットワークへ指数情報の観測値を送信することにより、指数情報の予測値を観測値で補正することができ、指数情報の予測精度向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0015】
以下、本発明を図に示す実施例により具体的に説明する。図1は本発明による気温と湿度による指数情報観測用無線ネットワークシステム構成を示す説明図,図2は本発明の屋外センサーから受信機までの無線方式を説明する説明図。図3は本発明によるWBGT熱中症指標の推定精度検証例を示す説明図、図4は本発明による無線ネットワークノードにおける指数情報の表示例を示す説明図である。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0016】
図1において、装置10は気象観測センサーを接続した無線送信機2、装置20は無線受信機4と外部ネットワークとのインターフェースを備えた無線ネットワーク装置である。
【0017】
装置10にはセンサケーブルを介して、外部に設置された気温・湿度センサ1と接続され、百葉箱内部の気温と湿度データを測定するようになっている。装置10は、電池3による電源供給を受け、測定データは、装置10の無線送信機2により微弱無線により送信される。
【0018】
無線送信機3と無線受信機4とは消費電力が少ない微弱無線方式で通信を行う。送信機の消費電力が少なくなれば、電池も一般的なものが使え、煩雑に電池を交換する必要もない。従来の同じ微弱送信エネルギーで通信距離を向上させる方法は、受信時のノイズを極力減らすことである。
【0019】
以下図2の電波帯域の説明を行う。図2は広帯域無線と狭帯域無線の比較のための図であり、横軸が電波の周波数、縦軸が電波の強さである。空中には多数の妨害電波が飛んでおり、この中から如何に目的の電波を受信するかは受信機の性能によるが、最大の対処法は送信電波帯域を狭める方法である。
【0020】
送信電波帯域とはその電波が領有する周波数の帯域である。例えば中心周波数300MHzの搬送波が変調により290MHzから310MHzまで変化する場合、その帯域は20MHzである。ナローバンドは狭帯域のことであり、ブロードバンドは広帯域のことである。
【0021】
一般的に帯域が狭いと高速通信は困難で、ブロードバンドになると高速通信が可能になる。今回の発明では帯域を3KHzに設定した。こうすることにより、例えば300MHzの中心周波数がわずか3KHzしか変化しないので、この周波数を選択的に増幅し、付随するノイズ成分を減少させることができる。
ノイズ成分が減少すると受信機の増幅率を上げることができ、等価的に送信機の出力を上げなくても通信距離が延びることになる。
【0022】
装置20の無線受信機4により受信された気温・湿度データは、CPU8においてWBGT熱中症指標等の生活に密着した指数情報に演算処理され、データ表示部5に表示されるほか、ネットワーク接続装置6にて、外部ネットワークへファイル送信される。
【0023】
WBGT熱中症指標の推定式は、WBGT熱中症指標計による気温・湿度及び黒球温度の観測データから求められるWBGT測定値を目的変数とし、気温及び湿度データを説明変数とする、重回帰分析によって求めた。
【0024】
図3は、夏の様々な気象条件(地域・時間)におけるWBGT測定値と、気温と湿度から本推定式により算出されたWBGT熱中症指標推定値の、誤差を示したものである。横軸がWBGT測定値、縦軸が気温と湿度により算出されたWBGT推定値である。
【0025】
両者が45度の傾きの直線状に並んでいれば、推定値の誤差が少なく、精度良く推定されていることを表す。図示のように、両者は45度の傾きの直線状にほぼ乗っており、相関係数は0.989、標準誤差は0.41度、の誤差でWBGTを精度良く推定できることが分かる。
【0026】
表1は、気温と湿度から本推定式を用いて推定した、WBGT推定値を示したものである。日本体育協会の「熱中症予防運動指針」によると、WBGTが25度以上の場合には、熱中症「警戒」ランクとして水分補給に加えて積極的に休息することとされており、表1に示すように、気温が同じであっても、湿度が高いほど熱中症に警戒を要することが分かる。
【0027】
図4は本発明による無線ネットワークノードにおける指数情報の表示例を示す説明図である。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】気象観測用無線ネットワーク装置の構成図。
【図2】本発明の無線方式を説明する図。
【図3】本発明によるWBGT熱中症指標の推定精度検証例を示す説明図。
【図4】本発明による無線ネットワーク装置における指数情報の表示例を示す説明図
【符号の説明】
【0029】
1 温度。湿度センサー
2 無線送信機
3 電池
4 無線受信機
5 表示機
6 ネットワーク接続装置
7 サーバ装置
8 CPU
10 気象観測センサーを接続した無線送信機。
20 無線受信機と外部ネットワークとのインターフェースを備えた無線ネットワーク装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象観測センサーの気温と湿度のデータのみからWBGT熱中症指標等の指数情報を算出する手段と、それらの指数情報を即時に表示する手段により、指数情報の現場での把握を可能とすることを特徴とした気象観測装置、及び外部ネットワークへこれらの指数情報を送信する手段を有することを特徴とした、気象観測用無線ネットワーク装置。
【請求項2】
請求項1記載の気象観測用ネットワーク装置において、
気象観測センサーから無線でデータを送出し、気象観測センサー部及び送信部は電池駆動が可能で、気象観測センサーの設置に関して配線工事を不要とした気象観測用無線ネットワーク装置。
【請求項3】
請求項1記載の無線ネットワーク装置において、
送信機の消費電力が微弱であっても、送信無線電波の帯域を狭くして、微弱無線電波でも実用的な通信距離を実現できることを特徴とした、気象観測用無線ネットワーク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−271043(P2009−271043A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146257(P2008−146257)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(501489465)ワイマチック株式会社 (8)
【出願人】(397039919)財団法人日本気象協会 (29)