説明

熱交換器

【課題】臭気が発生し難く、また、撥水物質が浮遊する環境で使用された場合にも、撥水物質の付着による表面の撥水化が抑えられ、水飛び現象や結露水の凝集が抑制されるろう付けタイプの熱交換器を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の熱交換器は、媒流路を有する管体と、前記管体にフラックスを用いてろう付け接合されたフィン材とを備え、前記管体及び前記フィン材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、ろう付け接合後に前記基材上に順次形成された耐食性塗膜と親水性塗膜とを有し、前記耐食性塗膜及び前記親水性塗膜の被着量が、0.1〜10g/mであることを特徴とする。また、親水性塗膜は徐溶性成分を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコンディショナーなどに用いられる熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用エアコンディショナーの熱交換器は、通常、並列配置された複数のアルミニウムフィンと、該アルミニウムフィンを貫通する複数の銅管とを有し、各銅管は拡管されて各アルミニウムフィンに密着固定されている。
【0003】
しかし、近年、銅の価格高騰や、熱交換器の熱交換性能の向上への要求から、銅管の代わりに軽量性、加工性、熱伝導性に優れる上に低価格であるアルミニウムパイプもしくはアルミニウム扁平管の使用が検討されている。特に熱交換性能のよいアルミニウム扁平管をアルミニウムフィン材にろう付け接合したろう付けタイプの熱交換器が注目されている。アルミニウムは軽量性、加工性、熱伝導性に優れる上に低価格である。
【0004】
ところで、熱交換器では、結露水が凝集して水滴となり、隣り合うフィン間に水滴のブリッジが形成される場合がある。このような現象が発生すると、空気の通路が狭くなって通風抵抗が増大し、熱交換効率が低下することになる。また、凝集した水滴はアルミニウム材の腐食を誘発し、フィンの表面にアルミ水和酸化物等の白色粉末を付着させる原因にもなる。
このため、前述の拡管により銅管をフィン材に固定するタイプの熱交換器では、アルミニウムフィン材として、耐食性皮膜や親水性皮膜等が予め設けられたプレコートフィン材が用いられている。
【0005】
これに対し、ろう付けタイプの熱交換器では、ろう付け時に600℃程度に加熱されるため、組付け前のアルミニウムフィン材にプレコート皮膜を設けても、加熱処理により皮膜が焼失し、所望の効果が得られない。このため、ろう付けタイプの熱交換器では、ろう付け後に耐食性皮膜等を形成するポストコートが行われている。ポストコートを施したろう付けタイプの熱交換器は、例えば自動車用熱交換器として使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−131254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ポストコートが施された自動車用熱交換器をそのまま家庭用エアコンディショナーの室内機(家庭用室内機)に適用すると以下のような問題が生じる。
(1)自動車用熱交換器では、臭気に対する要求が家庭用室内機ほど厳しくないため、ポストコートも臭気防止を重視した構成となっていない場合が多い。このため、自動車用熱交換器の構成を家庭用室内機に適用すると、熱交換器から臭気の発生が問題となる。
(2)さらに、自動車用熱交換器のポストコート皮膜は、親水性において家庭用室内機のプレコート皮膜よりも劣る場合が多い。家庭用エアコンディショナーは、厨房などで発生する撥水物質(油やワックス様成分)が熱交換器に付着して表面が撥水化し、撥水化した表面で結露水が弾かれる水飛び現象が問題となるが、自動車用熱交換器においてこのような事情は考慮されないためである。このため、自動車用熱交換器の構成を家庭用室内機に適用すると、熱交換器の表面が早期に撥水化し、水飛び現象が発生したり、フィン材に付着した結露水が凝集して通風抵抗が増大する問題が生じてしまう。
【0008】
これに対して、特許文献1に記載の熱交換器では、親水性、防臭気性、耐食性を改善するために、ポストコート皮膜として、化成皮膜からなる第1保護膜層と親水性樹脂からなる第2保護膜層を設けているが、化成皮膜はろう付けに用いられるフラックスの表面には形成し難く、第1保護皮膜の皮膜膜面にフラックスが塗布されている場合には期待する効果が得られないのが実情である。
【0009】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、臭気が発生し難く、また、撥水物質が浮遊する環境で使用された場合であっても、撥水物質の付着による表面の撥水化が抑制され、水飛び現象や結露水の凝集が生じ難いろう付けタイプの熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得るに至った。
(1)アルミニウムフィン材の腐食によって生成されたアルミ水和酸化物等は、強い極性を有するため、冷房運転停止時に室内環境中の臭気成分を吸着する。そして、この状態で冷房運転が開始されると、アルミニウムフィン材表面に水が凝集し、この水と吸着していた臭気成分が置換され、臭気成分が一斉に室内に放出される。これが、臭気発生の主な原因となる。このため、臭気の発生を抑えるためには、臭気成分を吸着し易いアルミ水和酸化物等の生成を抑える必要があり、それには耐食性塗膜を設けることが有効である。
(2)ろう付けタイプの熱交換器には、極性の高いフラックスが付着しており、これもアルミ水和物等と同様の理由によって臭気を発生させる原因となる。このため、臭気の発生を抑えるためには、さらに、耐食性塗膜がフラックスを覆い隠す作用を有することが必要である。
【0011】
(3)通風抵抗増大を誘起する結露水の凝集を抑えるためには、耐食性塗膜の上に親水性塗膜を形成することが必要である。そして、この親水性塗膜が水溶性成分(徐溶性成分)を含んでいると、撥水物質が親水性塗膜に付着しても徐溶性成分の溶出に伴って親水性塗膜から洗い流され、表面の撥水化が効果的に抑制される。
本発明は、かかる知見に基づいて成されたものであって、以下の構成を有する。
【0012】
本発明の熱交換器は、冷媒流路を有する管体と、前記管体にフラックスを用いてろう付け接合されたフィン材とを備え、前記管体及び前記フィン材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、ろう付け接合後に前記基材上に順次形成された耐食性塗膜及び親水性塗膜とを有し、前記耐食性塗膜及び前記親水性塗膜の被着量が、0.1〜10g/mであることを特徴とする。
本発明において、前記親水性塗膜は、親水性樹脂と徐溶性成分とを含有し、前記徐溶性成分の割合が前記親水性塗膜全体に対して10〜60重量%であることを特徴とする。
本発明において、前記親水性塗膜に含まれる前記親水性樹脂は、親水性官能基を有する樹脂微粒子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱交換器によれば、耐食性塗膜及び親水性塗膜は、熱交換器を構成する各部の基材をろう付け接合した後に形成されたものであるため、ろう付け時の熱処理の影響を受けておらず、その機能を確実に発揮する。
適切な量を塗布した耐食性塗膜は、基材の腐食を抑える機能と、基材上に塗布されたフラックスを覆い隠す機能を有する。これにより、基材の腐食が抑えられ、基材の腐食に伴う極性物質(アルミ水和酸化物等)の生成も抑えられるとともに、極性の高いフラックスや基材が表面に露出せず、熱交換器の表面が極性の低い状態になる。ここで、臭気成分は極性の高い表面に付着し易く、付着した臭気成分の放出が臭気発生の原因となるが、この熱交換器は、このように表面が極性の低い状態となっていることにより、臭気成分が付着し難く、臭気の発生を回避できる。
耐食性塗膜の上に親水性塗膜が設けられているため、熱交換器の表面(親水性塗膜の表面)に結露水が付着しても、容易に濡れ広がって流れ落ち、結露水が凝集し難い。このため、この熱交換器は、結露が生じ易い条件で使用された場合でも、通風抵抗が小さく保たれ、高い熱交換効率を得ることができる。
【0014】
親水性塗膜が徐溶性成分を含有する場合、熱交換器の表面に撥水物質が付着しても、親水性塗膜から徐々に溶出する徐溶性成分が撥水物質を伴って流れ落ち、熱交換器の表面から撥水物質が効果的に除去される。このため、熱交換器表面の撥水化が抑えられ、水飛び現象(撥水化した表面で結露水が弾かれる現象)や結露水の凝集を抑制することができる。
また、親水性塗膜の親水性成分が、親水性官能基を有する樹脂微粒子である場合には、樹脂微粒子同士の間隙を通路として、徐溶性成分が親水性塗膜から容易に溶出するため、徐溶性成分による前述の効果をより確実に得ることができる。
【0015】
本発明の熱交換器を家庭用エアコンディショナーの熱交換器に適用した場合、臭気が発生し難く、水飛び現象や結露水の凝集による通風抵抗の増大を抑えた熱交換器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る熱交換器の一例を示すもので、図1(A)は全体構成を示す斜視図、図1(B)はチューブの一部を断面とした図、図1(C)はチューブとフィン材の接合部分の断面図。
【図2】図1に示す熱交換器を構成する各部材の断面を示す図。
【図3】図2に示す各部材が備える耐食性皮膜及び親水性皮膜の構成を模式的に示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の具体的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る熱交換器の一例を示す斜視図である。
図1に示す熱交換器11は、熱媒としての流体を通す複数本のチューブ(管体)12と、これらチューブ12が串刺し状態に嵌合することによりチューブ12の外表面に接触して熱を放散する多数のフィン材13と、各チューブ12を連結するヘッダ管14と、このヘッダ管14を通して流体をチューブ12に供給する供給管15及びチューブ12を経由した流体を回収する回収管16とを備える構成とされている。これらチューブ12、フィン材13、ヘッダ管14、供給管15、回収管16は、アルミニウム合金から構成されている。
また、チューブ12は、幅寸法に対して高さが小さい扁平形状とされており、長さ方向の途中で折り曲げ形成されることにより、直管部17の間にU字状の曲管部が屈曲形成され、その直管部17の各端部がヘッダ管14に接続されている。このヘッダ管14は、内部が複数に分割され、そのヘッダ管14の両端部に供給管15及び回収管16が接続されていることにより、供給管15から回収管16に向けて各チューブ12がヘッダ管14内を経由して順次連結状態とされ、流路が蛇行状に形成される。
また、このチューブ12の表面は、算術平均粗さRaが10μm〜100μmに形成されている。この算術平均粗さRaのチューブ12を得るには、押出成形したチューブの表面にワイヤブラシを回転させながら押しつけるなどの方法を用いることができる。
【0018】
一方、フィン材13は、一定の間隔をおいて相互に平行に配置されており、チューブ12を部分的に嵌合する穴19が複数形成されている。また、孔19の周縁部にはバーリング加工が施されており、図1(C)に示すように孔19の周縁部を垂直に立ち上げてなる立ち上げ部20が一体に形成されている。
そして、チューブ12とフィン材13とは、一定間隔に並べたフィン材13を串刺しするように、フィン材13の孔19内にチューブ12の直管部17が嵌合し、その直管部17の部分でフィン材13がろう付けにより固定されている。
なお、フィン材13の孔19とチューブ12の間の間隔は10μm以下とすることが好ましい。
【0019】
図2は、図1に示す熱交換器11におけるフィン材13を構成するフィン材材の部分断面である。この例においてフィン材13は、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる基材1と、基材1の両面に設けられたポストコート層2によって構成されている。
【0020】
フィン材13の基材1を構成するアルミニウムまたはアルミニウム合金としては、特に限定されず、一般的に熱交換器用の基材1に適用されている組成のアルミニウム材を適宜用いて良い。なお、フィン材13を構成する基材1として、クラッド材(芯材A3003、ろう材A4343を例示できる。
熱交換器11を構成するチューブ12、フィン材13、ヘッダ管14、供給管15、回収管16は、熱交換器11の形状に組み付けられ、ろう付けにより接合固定されている。
チューブ12、ヘッダ管14、供給管15、回収管16は、Al−Mnをベースとしたアルミニウム合金からなり、例えばSi、Fe、Mn、Ti、Cuを適量含み、残部アルミニウム及び不可避不純物の組成のアルミニウム合金からなる。一例として組成を示すならば、Si:0.1〜0.6%、Fe:0.1〜0.6質量%、Mn:0.1〜0.6質量%、Ti:0.005〜0.2質量%、Cu:0.1質量%以下、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を挙げることができる。これらの合金を用いて押出成形することによりチューブ12、ヘッダ管14、供給管15、回収管16を得ることができる。ろう材としては、特に限定されないが、Al−Si系合金が一般的である。
【0021】
また、基材1の表面にはろう付け時に残留したフラックス5が存在している。具体的には、NaCl、KCl等の塩化物やAlF等のフッ化物を含有するフラックスが挙げられ、塩化物及びフッ化物のいずれか一方を含有するものであっても良く、双方を含有するものであっても構わない。
【0022】
ポストコート層2は、耐食性塗膜3と親水性塗膜4からなる。
耐食性塗膜3は、各基材1を組み付けてろう付け接合してなる接合品を、耐食性成分を含有する処理液に浸漬した後、該接合品に付着した処理液を焼き付けることによって得られる皮膜(ポストコート層)である。処理液を焼き付ける際の温度は、例えば150℃〜250℃の範囲を選択できる。
ここで、チューブ12、フィン材13、ヘッダ管14、供給管15、回収管16を熱交換器11の形状にろう付けした接合品を処理液に浸漬した後、遠心分離等によって接合品に付着した余分な処理液を除去しても良い。これにより、膜厚の均一な耐食性塗膜3を得ることができる。
前記耐食性塗膜3は、ろう付け接合した後に形成されたものであるため、ろう付け時の熱処理の影響を受けておらず、その機能を確実に発揮することができる。
【0023】
耐食性塗膜3は、基材1の腐食を抑制する機能を有し、基材1の表面に塗布されたフラックス5を覆い隠して耐食性を高くする機能を有する。
これにより、基材1の腐食が抑えられ、基材1の腐食に伴う極性物質(アルミ水和酸化物等 )の生成を抑制でき、極性の高いフラックス5が表面に露出せず、熱交換器11の表面を極性の低い状態にできる。なお、臭気成分は極性の高い表面に付着し易く、付着した臭気成分の放出が臭気発生の原因となるが、本実施形態の熱交換器10は、このように表面の極性が低いため、臭気成分が付着し難く、臭気の発生を軽減できる。
耐食性塗膜3の構成材料としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
本実施形態では耐食性塗膜3の被着量を0.1〜10g/mに規定する。
本明細書中において、耐食性塗膜3及び後述する親水性塗膜4の「被着量」とは、下記式で求められる値を示す。
被着量(g/m)=(塗膜形成後の接合品の重量−塗膜形成前の接合品の重量)/接合品の全表面積
耐食性塗膜3の被着量が前記範囲より少ない場合は、耐食性塗膜3によって基材1やフラックス5を十分に覆い隠すことができず、これらの露出面に臭気成分が付着し、臭気が発生するおそれがある。被着量を前記範囲より多くしても、それ以上の効果は得られず、材料コストが増大する。また、被着量が多い場合、接合品の各箇所で塗膜が過剰に付着する塗料溜まりが発生し、隣り合うフィン材13間の空気通路が狭くなり、熱交換効率が低下するおそれがある。前記被着量について、0.2〜4g/mの範囲がより好ましい。
【0025】
親水性塗膜4は、親水性成分を含有する皮膜である。
親水性塗膜4は、耐食性塗膜3が設けられた接合品を、親水性成分を含有する処理液に浸漬した後、該接合品に付着した処理液を焼き付けることによって得られる皮膜である。処理液を焼き付ける際の温度は、150〜250℃の範囲を選択できる。
この場合、耐食性塗膜3の場合と同様に、接合品を処理液に浸漬した後、遠心分離等によって接合品に付着した余分な処理液を除去しても良い。これにより、膜厚の均一な親水性塗膜4を得ることができる。
【0026】
親水性成分は、水に対する接触角を低減する作用を有する。これにより、熱交換器11の表面に付着した結露水は、容易に濡れ広がって流れ落ち凝集し難くなる。このため、熱交換器11は、結露が生じ易い条件で使用された場合でも、通風抵抗が小さく保たれ、高い熱交換効率を維持することができる。
また、親水性塗膜4は、徐溶性成分42を含有していることが好ましい。
ここで、本明細書中において、「徐溶性成分42」とは、水溶性成分であって、親水性塗膜4に付着した結露水に徐々に溶解されて親水性塗膜4の表面に溶出し、親水性塗膜4の表面に付着した撥水物質を伴って表面から流れ落ちるものを意味する。
親水性塗膜4が徐溶性成分42を含有していることにより、熱交換器11の表面(親水性塗膜4の表面)に撥水物質が付着しても、親水性塗膜4から溶出する徐溶性成分42が撥水物質を伴って流れ落ち、撥水物質が効果的に除去される。このため、この熱交換器11は、撥水物質が浮遊する環境で使用された場合でも、表面が撥水化し難く、水飛び現象(撥水化した表面で結露水が弾かれる現象)や結露水の凝集を確実に抑えることができる。
【0027】
親水性成分としては、水酸基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、スルホン酸基のうち、1種又は2種以上などの親水性官能基を有する樹脂を例示することができる。より具体的には、ポリアクリル酸を主成分としたアクリル樹脂を例示することができるがこれに限るものではない。親水性樹脂は微粒子41からなるものを用いるのが好ましい。これにより、親水性塗膜4に含まれる徐溶性成分42が、樹脂微粒子41同士の間隙を通路として容易に表面に移行(溶出)することができ、前述の効果を確実に得ることができる。
【0028】
樹脂微粒子41の粒子径は特に制限されるものではないが、分散液の安定性と最終的に得られる親水性の観点から、平均粒径で0.5〜2μm程度が望ましい。
徐溶性成分42として、具体的には、ポリエチレンオキサイド(PEO)を用いることができる。
【0029】
親水性塗膜4における徐溶性成分42の量は、親水性塗膜4全体に対して10〜60重量%であることが好ましく、30〜50重量%であることがより好ましい。徐溶性成分42の量が前記範囲より少ない場合には、熱交換器11を長期間使用している間に徐溶性成分42が枯渇し、表面の撥水化を抑える効果が不十分となる可能性がある。また、徐溶性成分42の量が前記範囲より多い場合には、樹脂微粒子を構成する親水性樹脂によっては、徐溶性成分42の一部を樹脂微粒子の間隙に保持しきれなくなり、量に見合った効果が得られない場合がある。
【0030】
本実施形態では、親水性塗膜4の被着量を0.4〜4g/mの範囲とすることが好ましい。
親水性塗膜4の被着量が、前記範囲より少ない場合には、親水性塗膜4を設ける効果が十分得られず、熱交換器10表面の水に対する接触角が大きくなる(濡れ性が低くなる)。その結果、結露水が凝集し易くなり、凝集した結露水がフィン材間にブリッジを形成することによって通風抵抗が増大してしまう。また、被着量を前記範囲より多くしても、それ以上の効果は得られず、材料コストが無駄に増大する他、接合品の各箇所で塗膜が過剰に付着する塗料溜まりが発生し、フィン材13同士の間隔が狭くなる。これにより、熱交換器10の通風抵抗が増大し、熱交換効率が低下するおそれがある。
【0031】
本実施形態の熱交換器11において耐食性塗膜3及び親水性塗膜4は、熱交換器を構成する各部の基材をろう付け接合した後に形成されたものであるため、ろう付け時の熱処理の影響を受けておらず、その機能を確実に発揮することができる。
また、このうち耐食性塗膜3は、基材1の腐食を抑える機能と、基材1上に塗布されたフラックス5を覆い隠す機能を有する。これにより、基材1の腐食が抑えられ、基材1の腐食に伴う極性物質(アルミ水和酸化物等)の生成も抑えられるとともに、極性の高い基材1やフラックス5が表面に露出せず、熱交換器10の表面が極性の低い状態になる。ここで、臭気成分は極性の高い表面に付着し易く、付着した臭気成分の放出が臭気発生の原因となるが、この熱交換器10は、このように表面の極性が低いため、臭気成分が付着し難く、臭気の発生を軽減できる。
【0032】
また、耐食性塗膜3の上に親水性塗膜4が設けられていることにより、熱交換器10の表面(親水性塗膜の表面)に結露水が付着しても、容易に濡れ広がって流れ落ち、結露水が凝集し難い。このため、この熱交換器11は、結露が生じ易い条件で使用された場合でも、通風抵抗が小さく保たれ、高い熱交換効率を得ることができる。
【0033】
また、本発明の熱交換器11を家庭用エアコンディショナーの熱交換器に適用した場合には、前述のように臭気が発生し難く、水飛び現象や結露水の凝集による通風抵抗の増大が抑えられるため、快適な室内環境を実現することができる。
【0034】
以上、本発明の熱交換器の各実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
例えば、本発明が適用される熱交換器は、図1に構成に限るものではなく、本発明は、各種形態の熱交換器に適用することができる。例えば、本実施形態においてフィン材13の形状は蛇腹状であるが、フィン材13は、平板状、波板状などであっても良い。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
扁平多穴管(14mm×3mm×30mm)を3本、フィン材(22mm×0.1mm×45mm)を30枚用意し、ミニコア(熱交換器のミニチュアモデル)形状に組付けた。多穴管及びミニコアは、フィン材は片面クラッド材(ろう材A4343、芯材A3003)、チューブはA3003からなる。得られたミニコアにフラックスを吹き付け乾燥させた後、多穴管とフィン材とをろう付け接合し、接合品を得た。
次に、エポキシ樹脂(耐食性樹脂)を溶媒に溶解することによって処理液Aを調製した。そして、処理液Aに接合品を浸漬し、遠心分離によって液切りを行った後、処理液を200℃で焼き付け、接合品の全面に、耐食性塗膜を形成した。
次に、親水性を有するアクリル樹脂からなる微粒子が分散された分散液と、PEO(徐溶性成分)を含有する溶液を混合することで処理液Bを調製し、処理液Bに接合品を浸漬し、遠心分離によって液切りを行った後、処理液を220℃で焼き付け、耐食性塗膜の表面に、親水性塗膜を形成した。
形成した耐食性塗膜及び親水性塗膜の被着量(塗膜量)は表1に示す通りである。以上の工程により、熱交換器のミニコア形状の試料を得た。
【0036】
耐食性塗膜、耐食性塗膜量、親水性塗膜、親水性塗膜量、徐溶性成分量、親水性樹脂を表1に示すように変えた以外は、前記実施例と同様にして熱交換器のミニコアを得た。
【0037】
<評価>
各実施例及び各比較例で作製したミニコア形状の試料について、臭気、通風抵抗比、濡れ性、耐撥水性を評価した。評価の条件を以下に示す。
(1)臭気
各ミニコア形状の試料を、結露を想定した純水に3日間浸漬した後、50℃で乾燥した。その後、各ミニコア形状の試料からの臭気について5名のテスターによる官能試験を行い、以下の基準に従って評価した。なお、平均点が1.5点以下の場合を許容範囲とした。
1点:臭わない、2点:かすかに臭う、3点:臭う、4点:よく臭う。
(2)通風抵抗比
各ミニコア形状の試料について、耐食性塗膜及び親水性塗膜を形成する前の通風抵抗A及び各塗膜を形成した後の通風抵抗Aをそれぞれ測定し、その比(A/A)を求めた。この通風抵抗比が1.5以下の場合を許容範囲とした。
(3)濡れ性
各ミニコア形状の試料の水に対する初期接触角(未処理状態での接触角)を測定した。なお、初期接触角が20°以下の場合を許容範囲とした。
【0038】
(4)耐撥水性
以下の(i)〜(iii)を1サイクルとして、水に対する接触角が40°を超えるサイクル数を調べた。
(i)DOP(dioctyl phthalate)、パルミチン酸、ステアリン酸、ヘキサデカノールの4種の暴露物質を含有する暴露液を用意する。この暴露液を100℃に加熱し、各ミニコア形状の試料を16時間暴露する。(ii)次に、各ミニコア形状の試料を8時間水洗する。(iii)水洗後、試料を乾燥させ、水滴接触角を測定する。(i)−(iii)のサイクルを繰り返し、接触角が40°以上となるサイクル数を求める。
このサイクル数が多い方が耐撥水性に優れる(撥水化し難い)ことを意味し、5サイクル以上の場合を許容範囲とした。
以上の評価結果を以下の表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、実施例で作製した各ミニコア形状の試料は、いずれの特性も許容範囲内にあった。
これに対して、耐食性塗膜を設けていないNo.1の試料(比較例)は、臭気の発生があり、耐食性塗膜の被着量が多すぎるNo.9、10の試料(比較例)は、通風抵抗比が許容範囲よりも大きな値であった。
また、親水性塗膜を設けていないNo.11の試料(比較例)は、接触角が高く、水に対する濡れ性が低く、耐撥水性も不足していた。一方、親水性塗膜の被着量が多すぎるNo.19、20の試料(比較例)は、通風抵抗比が許容範囲よりも大きな値であった。
【0041】
また、徐溶性成分量を変化させたNo.22〜27の試料評価から、徐溶性成分量が10〜60重量%である場合に比較的優れた耐撥水性が得られ、この範囲を外れるNo.21、28、29の試料は耐撥水性が低下する傾向があることが分かり、30〜50重量%である場合により優れた耐撥水性が得られることがわかった。更に、親水性塗膜に含まれる親水性樹脂は、層状塗膜に対し樹脂微粒子を含む塗膜の方が耐撥水性の面においてより優れていることもわかった。
【符号の説明】
【0042】
1…基材、2…ポストコート層、3…耐食性塗膜、4…親水性塗膜、41…樹脂微粒子、42…徐溶性成分、5…フラックス、10…熱交換器、11…ヘッダーパイプ(管体)、12…チューブ(管体)、13…フィン材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒流路を有する管体と、前記管体にフラックスを用いてろう付け接合されたフィン材とを備え、前記管体及び前記フィン材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、ろう付け接合後に前記基材上に順次形成された耐食性塗膜と親水性塗膜とを有し、前記耐食性塗膜及び前記親水性塗膜の被着量が、0.1〜10g/mであることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記親水性塗膜は、親水性樹脂と徐溶性成分とを含有し、前記徐溶性成分の割合が前記親水性塗膜全体に対して10〜60重量%であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記親水性塗膜に含まれる前記親水性樹脂は、親水性官能基を有する樹脂微粒子であることを特徴とする請求項2に記載の熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−96631(P2013−96631A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239439(P2011−239439)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)