説明

熱伝導性絶縁樹脂成形体

【課題】本発明は高放熱性の絶縁樹脂材料を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を解決する手段として、高分子化合物を含むコア粒子(2)と、熱伝導性かつ絶縁性の無機化合物を含むシェル(1)とを備えるコア/シェル粒子(3)が提供される。コア/シェル粒子(3)の集合体を加圧および/または加熱して成形される絶縁樹脂成形体(4)は、連続した熱伝導路(5)を内部に有するため、優れた放熱性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路基板等の絶縁性と放熱性が求められる部材の材料として有用な、熱伝導性絶縁樹脂成形体およびそれを製造するためのコア/シェル構造を有する粒子を提供する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物からなる樹脂は成形性に優れた安価な絶縁材料であることから、電子回路基板用基材、モータ絶縁材、絶縁接着剤等の様々な電子部品に用いられる。
【0003】
近年、これら電子部品の高密度化・高出力化に伴い、電子部品からの発熱量が増大している。このため電子部品の熱を放出させるための対策が強く求められている。
【0004】
この課題に対し、従来技術では樹脂内部にアルミナやシリカなどの無機物からなるフィラーを充填し、樹脂の熱伝導度を高める方法が用いられている(図2参照)。例えば特開平11-233694号公報、特開平9-270483号公報、および特許第3559137号公報には、結晶性シリカ、酸化アルミニウム等の無機物の粒子を高分子樹脂中に付加して熱伝導性を付与する技術が開示されている。この場合、無機物のフィラー粒子が繋がって形成される連続体が熱の伝導路として機能する。すなわち、樹脂内に充填された無機物のフィラー粒子は相互に接触している必要がある。このため、効率的な熱伝導のためには多量の無機フィラーを充填する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-233694号公報
【特許文献2】特開平9-270483号公報
【特許文献3】特許第3559137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無機フィラーを含有する従来の放熱性絶縁樹脂成形体は、無機フィラーを多量に添加する必要があったため以下の技術的課題を有していた。(1)重量が重い。(2) 無機フィラーは硬いため加工性が悪い。(3)無機フィラーと樹脂の界面に空隙が発生し易く水が滞留するため耐湿性が低い。(4)無機フィラーは高価であるため製造コストが高い。(5)無機フィラーの充填量を多く含む樹脂は形状を保持するのに一定の厚みが必要であり、薄肉形成が困難である。
【0007】
そこで本発明は、無機物フィラーの使用量を高めることなく放熱性の高い樹脂材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高分子化合物を含むコア粒子と、熱伝導性かつ絶縁性の無機化合物を含むシェルとを備えるコア/シェル粒子の集合体を加圧および/または加熱して成形される樹脂成形体が、同量の無機化合物を無機フィラーとして含有する従来の放熱性絶縁樹脂成形体と比較して高い熱伝導性を有することを見出した。この効果は、各コア/シェル粒子の表面の前記無機化合物のシェルが成形時に三次元状にネットワーク化され、連続した熱伝導路を形成することによる効果であると考えられる。本発明者らは、前記コア/シェル粒子自体も新たに提供する。すなわち本発明は以下の発明を包含する。
【0009】
(1) 高分子化合物を含むコア粒子と、該コア粒子を被覆する、熱伝導性かつ絶縁性の無機化合物を含むシェルとを備える、コア/シェル粒子。
(2) 前記高分子化合物が極性官能基を有する高分子化合物である、(1)のコア/シェル粒子。
(3) 前記無機化合物がアルミニウムの酸化物、アルミニウムのフッ化物、またはシリカである、(1)または(2)のコア/シェル粒子。
(4) 前記無機化合物が2〜30重量%含まれる、(1)〜(3)のいずれかのコア/シェル粒子。
(5) 溶媒中に前記コア粒子が分散した分散液を準備する分散液準備工程と、
該分散液中に、前記無機化合物の前駆体、および該前駆体から前記無機化合物を生成する反応の反応開始剤を添加する添加工程と、
前記コア粒子の表面に前記無機化合物を含むシェルを形成させるシェル形成工程と
を含む方法により製造される、(1)〜(4)のいずれかのコア/シェル粒子。
(6) 前記無機化合物の前駆体がケイ素または金属のアルコキシドである、(5)のコア/シェル粒子。
(7) 前記分散液の溶媒がイオン液体である、(5)または(6)のコア/シェル粒子。
(8) 前記分散液準備工程が、前記溶媒中にモノマーおよび重合反応開始剤を添加し、重合反応を進行させ、高分子化合物を含むコア粒子を生成する工程である、(5)〜(7)のいずれかのコア/シェル粒子。
(9) 前記モノマーが、スチレンと、スチレンと共重合可能な、極性官能基を有するモノマーとの混合物である、(8)のコア/シェル粒子。
(10) (1)〜(9)のいずれかのコア/シェル粒子の集合体を加圧および/または加熱して成形される、熱伝導性絶縁樹脂成形体。
(11) 高分子化合物を含むコア粒子と、該コア粒子を被覆する、熱伝導性かつ絶縁性の無機化合物を含むシェルとを備える、コア/シェル粒子の製造方法であって、
溶媒中に前記コア粒子が分散した分散液を準備する分散液準備工程と、
該分散液中に、前記無機化合物の前駆体、および該前駆体から前記無機化合物を生成する反応の反応開始剤を添加する添加工程と、
前記コア粒子の表面に前記無機化合物を含むシェルを形成させるシェル形成工程と
を含む方法。
(12) 前記無機化合物の前駆体がケイ素または金属のアルコキシドである、(11)の方法。
(13) 前記分散液の溶媒がイオン液体である、(11)または(12)の方法。
(14) 前記分散液準備工程が、前記溶媒中にモノマーおよび重合反応開始剤を添加し、重合反応を進行させ、高分子化合物を含むコア粒子を生成する工程である、(11)〜(13)のいずれかの方法。
(15) 前記モノマーが、スチレンと、スチレンと共重合可能な、極性官能基を有するモノマーとの混合物である、(14)の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコア/シェル粒子の集合体を成形することにより、等量の熱伝導性無機化合物を無機フィラーとして含有する従来の放熱性絶縁樹脂成形体と比較して、熱伝導性が優れた、絶縁性の樹脂成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のコア/シェル粒子を成形して伝導性絶縁樹脂成形体を得る場合の、成形前後での形状変化を模式的に示す図である。
【図2】図2は、無機フィラー粒子を樹脂成形体中に分散させた従来の熱伝導性絶縁樹脂成形体の模式図である。
【図3】図3は、シード分散重合法を用いたポリスチレン(PS)/シリカ(コア/シェル)粒子の合成スキームを模式的に示す図である。
【図4】図4は、塩酸(a)またはジメチルアミン(b)水溶液をゾル-ゲル法における開始剤として用いて合成された、PS/アルミニウム化合物粒子を含有する分散液の写真である。
【図5】図5は、塩酸またはジメチルアミン水溶液をゾル-ゲル法における開始剤として用いて合成された、PS/アルミニウム化合物粒子のTGAプロファイルである。
【図6】図6は、アルミニウム化合物析出前(a)および後(b)のPS粒子形態観察像である。
【図7】図7は、アルミニウム化合物析出量と塩酸水溶液濃度との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、アルミニウム化合物析出量と1 mol/L 塩酸水溶液添加量との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、イオン液体(a)および有機溶媒(b)中で得られたアルミニウム化合物のXRDプロファイルである。
【図10】図10は、イオン液体で調製されたコアシェル粒子成形体の断面TEM像である。
【図11】図11は、PSシード粒子にアルミニウム化合物を被覆したコアシェル粒子(a)、およびP(S-HEMA)シード粒子にアルミニウム化合物を被覆したコアシェル粒子(b)のTEM像である。
【図12】図12は、キャスティング法により形成されたP(S-nBA-AA)/アルミニウム化合物複合膜の断面TEM像である。
【図13】図13は、P(S-nBA)およびP(S-nBA-AA) シード粒子を用いたコアシェル粒子のTGAプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1. コア/シェル粒子の構造
はじめに図1に基づいて本発明のコア/シェル粒子の構造および機能について説明する。コア/シェル粒子3は、高分子化合物を含む(好ましくは、高分子化合物からなる)コア粒子2と、コア粒子2を被覆する、熱伝導性かつ絶縁性の無機化合物を含む(好ましくは、該無機化合物からなる)シェル1とを備える。
【0013】
コア/シェル粒子3の集合体は、加圧および/または加熱により成形されて熱伝導性絶縁樹脂成形体4となる。熱伝導性絶縁樹脂成形体4の内部では、無機化合物シェル1が連続して、連続的な熱伝導路5を構成する。熱伝導路5は、熱を伝導する役割を果たす。本発明の熱伝導性絶縁樹脂成形体4の構造は、図2に示す、無機フィラー粒子6が高分子化合物からなる樹脂相7中に分散された従来の熱伝導性絶縁樹脂成形体8とは異なり、無機化合物により三次元的にネットワーク化された熱伝導路5を有する。このため、少量の無機化合物により効率的に熱伝導路を形成することが可能である。
【0014】
以下、各材料の特徴および製造方法について説明する。
【0015】
2. コア粒子
コア粒子は直径 50nm〜2,000nmとすることが好ましい。
コア粒子を構成する高分子化合物としては電気絶縁性を有する高分子化合物であれば特に限定されず、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の極性官能基を有さないモノマー、ならびにアクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ジメチルアミノエチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸i-ブチル、アクリロニトリル、メタクリル酸ベンジル等の極性官能基を有するモノマーから選択される1種以上のモノマーの単独重合体または共重合体を使用することができる。極性官能基を有する高分子化合物からなるコア粒子を用いることにより、無機化合物のシェルを厚く、均一に形成することができる。従って、高分子化合物としては、極性官能基を有する、1種以上のモノマー成分の単独重合体または共重合体、或いは、極性官能基を有する、1種以上のモノマー成分と、スチレン等の極性官能基を有さないモノマー成分との共重合体を使用することが好ましい。共重合する場合は、極性官能基を有するモノマー成分をモノマー成分全量に対して80重量%以下の割合で使用することが好ましい。コア/シェル粒子の集合体を加熱成形(例えばキャスティング法)により熱伝導性絶縁樹脂成形体とする用途のためには、コア粒子を構成する高分子化合物のガラス転移温度Tg(軟化温度)が40℃以下となるようにモノマー成分が組み合わされることが好ましい。
【0016】
コア粒子は市販品を購入し使用してもよいし、シェル形成反応の前段階において調製してもよい。好ましくは、溶媒中にモノマー成分および重合反応開始剤を添加し、重合反応を進行させ、高分子化合物を含むコア粒子を生成させる。この工程により得られる、コア粒子が溶媒中に分散した分散液に、引き続き、シェルを構成する無機化合物の前駆体、および該前駆体から前記無機化合物を生成する反応の反応開始剤を添加することにより、後述するシェル形成反応を進行させることができる。高分子化合物粒子の形成反応(重合反応)に用いられる溶媒としては特に限定されず、イオン液体、水、エタノール、メタノール、プロパノール、アセトン、石油エーテル、ヘキサン、酢酸エチル等を使用できる。工程数を少なくするためにはシェル形成反応と同一の溶媒を重合反応にも使用することが好ましいことから、例えばイオン液体を使用することが好ましい。イオン液体については、シェル形成反応に関して後述するものが使用できる。
【0017】
重合反応開始剤は、使用されるモノマーに応じて適宜選択することができ特に限定されないが、例えば2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](VA-061)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル) (V-65)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニル) (V-40)等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、クメンヒドロキサイパーオキサイド等の過酸化物、または、過酸化ベンゾイル-ジメチルアニリン等のレドックス開始剤が使用できる。
【0018】
重合により生成したコア粒子を分散させるために溶媒中には分散安定剤を添加することが好ましい。分散安定剤としてはポリビニルピロリドン(PVP)、部分ケン化ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、およびポリエチレングリコールや、ドデシル硫酸ナトリウム等の低分子界面活性剤を使用できる。
【0019】
3. 無機化合物のシェル
上記コア粒子表面は、熱伝導性かつ絶縁性の無機化合物を含む(好ましくは該無機化合物からなる)シェルにより被覆される。
「熱伝導性かつ絶縁性の無機化合物」としては、アルミニウム、マグネシウム、ゲルマニウム、インジウム、チタン等の金属、ホウ素、またはケイ素を含む無機化合物、特にこれらの酸化物、フッ化物、窒化物、炭化物挙げられ、なかでも、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、フッ化アルミニウム、酸化マグネシウム、および酸化チタンが好ましい。これらの無機化合物はシェル中において結晶状態であってもアモルファス状態であってもよいが、結晶状態であることがより好ましい。
【0020】
熱伝導性かつ絶縁性の無機化合物の含有量は、コア粒子の全重量に対して、2〜30重量%であることが好ましく、3〜20重量%であることがより好ましい。無機化合物の含有量は、TGA (Thermal Gravimetric Analysis, 熱重量)分析によりコア/シェル粒子を分析することにより算出することができる。
【0021】
無機化合物のシェルは、コア粒子をシードとするシード分散重合法により形成することが好ましい。シード分散重合法では、コア粒子を溶媒中に分散させた分散液に、無機化合物の前駆体、および該前駆体から前記無機化合物を生成する反応の反応開始剤を添加し、コア粒子表面に無機化合物を析出させてシェル層とする。コア粒子の分散液としては、上述の、コア粒子の形成反応後の反応混合物をそのまま使用することができる。
【0022】
コア粒子を無機化合物で被覆するために特に好ましい方法が、ゾル-ゲル法である。ゾル−ゲル法は溶液中で、前駆体から脱水縮合反応を用いて無機化合物を生成する方法である。前駆体としては、ケイ素または金属のアルコキシド(例えば炭素数5以下の一価アルコールとのアルコキシド)を使用することができる。ゾル-ゲル法においてアルコキシド化合物等の前駆体から無機化合物を生成する反応の反応開始剤としては、塩酸、酢酸、ギ酸等の酸開始剤と、ジメチルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のアルカリ開始剤とがあり、いずれも好適に使用できる。
【0023】
コア粒子を含む分散液の溶媒は、アルコール、イオン液体、水、ヘキサン、石油エーテル、アセトン、酢酸エチル等が使用できる。
【0024】
アルコールとしては2-プロパノール、エタノール、メタノール、ブタノール等を使用することができる。
【0025】
ゾル-ゲル法により、前駆体から無機化合物を析出させる場合、得られる無機化合物はアモルファスであることが通常である。このため、無機化合物の析出直後では熱伝導度が低い可能性がある。一方、イオン液体中でのゾルゲル法により析出する金属酸化物は結晶性が優れているという報告がある(M. Antonietti et. al, Angew. Chem. Int. Ed. 43, 4988-4992 (2004))。本発明者らは、コア粒子の分散液の溶媒としてイオン液体を用いて無機化合物のシェル形成を行った場合、結晶性の高い無機化合物のシェルが得られることを見出した。
【0026】
イオン液体はカチオンとアニオンとからなる。カチオンとしては、例えば
【0027】
【化1】

【0028】
(R1〜R7の基は好ましくは、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基(例えばメチル、エチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル基)、エトキシメチル基、またはアリル基である)
で表されるカチオンが使用できる。アニオンとしては、例えば
【0029】
【化2】

で表されるアニオンが使用できる。実施例では水と相溶性がある1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート([Bmin][BF4])を使用した。
【0030】
コア粒子分散液中への無機化合物の前駆体の添加量、開始剤の量、シェル形成反応の反応温度、反応時間等の各条件は特に限定されないが、好適な条件としては以下の条件が挙げられる。無機化合物前駆体はコア粒子に対して重量比で2〜50%であることが好ましい。触媒としての酸またはアルカリ開始剤は必須ではないが使用する場合には無機化合物前駆体1モルに対して1〜80モルが好ましい。シェル形成反応の反応温度は室温〜90℃、時間は3〜48時間であればよい。粒子が沈降または浮上しないように攪拌を行うことができる。
【0031】
図3には、ポリスチレン粒子(コア粒子)の表面にシリカのシェル層を、シード分散重合法を用いたゾル-ゲル法により形成する工程の一例を模式的に示す。水中でポリスチレン(PS)粒子を分散させた分散液に、シリカの前駆体としてのテトラエトキシシランと、反応開始剤である水酸化ナトリウムを添加し、70℃で24時間反応させることにより、緩慢な速度でゾル-ゲル反応が進行してコア粒子表面にシリカのシェル層が形成される。
【0032】
4. 樹脂成形体
本発明のコア/シェル粒子の集合体を加圧および/または加熱して成形することにより、熱伝導性絶縁樹脂成形体が得られる。加圧および/または加熱を伴う成形加工により、個々のコア/シェル粒子が変形して相互に密着し、シェル層による連続した熱伝導路が形成される(図1参照)。加圧および/または加熱による成形方法としてはホットプレス法、キャスティング法、混練法等が挙げられる。
【0033】
ホットプレス法の条件は特に限定されないが、例えば温度条件としては50〜120℃が挙げられ、圧力条件としては10〜80MPaが挙げられ、処理時間としては1〜20分間が挙げられる。
【0034】
キャスティング法の条件は特に限定されないが、例えば温度条件としては10〜120℃が挙げられ、処理時間としては12〜48時間が挙げられる。
【0035】
成形体の形状は用途に応じて自在に選択することができる。例えば、板状、フィルム状、ブロック等の形状とすることができる。
【実施例】
【0036】
1. コア/シェル粒子の合成
アルミニウムアルコキシドを前駆体としたゾル−ゲル反応を応用して、ポリスチレン(PS)のコア表面に、アルミニウム化合物のシェルが被覆された構造物(コア/シェル粒子)を合成した。
【0037】
1.1. ゾル-ゲル反応開始剤の比較
実験を行った配合比を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
最初に、コアとなるシード粒子(ポリスチレン粒子)の合成を行った。所定量のスチレンモノマーと分散安定剤PVP(ポリビニルピロリドン)をイオン液体([Bmim][BF4])中に溶解させ、反応開始剤V-40を添加してPS粒子を合成した。重合反応は、ガラス容器中で、90℃、攪拌速度400rpmにて24時間行った。
【0040】
得られたPS粒子分散液中にアルミニウムイソプロポキシド(AliPO)を加え、130℃×3時間に加熱し液中に溶解させた。室温まで冷却後、ゾル−ゲル反応開始剤である塩酸(表1, No.1)もしくはジメチルアミン水溶液(表1, No.2)を滴下し、ガラス容器中で、70℃、攪拌速度400rpmにて24時間反応を行った。最後にメタノール及び水で遠心洗浄し、減圧乾燥することでサンプルを得た。
【0041】
それぞれのゾルゲル反応開始系において、得られた分散液の色調を目視で確認した(図4)。塩酸を開始剤としたとき分散液は白濁していたのに対して、アルカリ系開始剤であるジメチルアミン水溶液を用いた場合、分散液は透明であった。この結果から、塩酸を用いた場合にPS粒子表面により多くのアルミニウム化合物が析出していることが推定される。そこで、両系でPS粒子表面に析出したアルミニウム化合物量を測定するために、TGA (Thermal Gravimetric Analysis, 熱重量)分析を行った。図5に示されるように、塩酸を使用する酸性条件でシェル形成反応を行った場合のほうがPS粒子表面に付着したアルミニウム化合物量が多いことが確認された。
【0042】
そこで、塩酸を用いて得られた粒子表面がアルミニウム化合物で均一に被覆されているかを確認するために、シェル層形成前後でのSEM(走査型電子顕微鏡)による形態観察を行った(図6)。PS粒子表面に凹凸が確認されたのに対して、シェル形成後(アルミニウム化合物析出後)では粒子表面が平滑に変化していることが認められるまた、その粒径はアルミニウム析出後に大きくなっていることが明確である。以上の結果から、アルミニウム化合物はPS粒子全面に均一に析出し、良好なシェル層を形成していることがわかった。
【0043】
1.2. 塩酸濃度及び水分量の検討
ゾル−ゲル法で得られる無機化合物は、触媒量および水分量により析出速度および形態が大きく変化する可能性がある。そこでシェル層を形成するアルミニウム化合物量が最大となる触媒量および水分量を算出し、本系における最適条件の設定を試みた。
【0044】
触媒量最適化のため、濃度0.5〜5mol/Lに変量した塩酸水溶液を同一量添加した際のシェル構成アルミニウム化合物重量をTGAにて測定した。なお、PSシード粒子の合成条件およびAliPO濃度は上記1及び表1に記載するのと同一の条件を用いた。結果を図7に示す。図7に示されるように、塩酸濃度 1 mol/L以上で、アルミニウム化合物の析出重量は一定となった。この結果から、開始剤として使用する塩酸濃度は1 mol/Lとした。
【0045】
次に、水分量の最適化を図るために 1 mol/L塩酸水溶液添加量を変量し、アルミニウム化合物の析出量が最大となる水分量を算出した。得られた結果を図8に示す。なお、図8中のX軸数値は塩酸/AliPOモル比で表現している。この結果、塩酸/AliPOモル比 72のとき、すなわち 1 mol/L塩酸水溶液を1.0g添加時にアルミニウム化合物析出量が最大となることが分かった。
【0046】
2. イオン液体と非イオン有機溶媒の比較
本実験では、ゾル-ゲル法によるアルミニウム化合物の析出反応に用いる溶媒としてイオン液体([Bmim][BF4])または非イオン有機溶媒(2-プロパノール)を用い、形成されるアルミニウム化合物の結晶性を比較した。
【0047】
イオン液体([Bmim][BF4])を使用した実験は、上記1及び表1のNo.1と同じ条件でコア粒子の形成反応と、無機化合物の析出反応を[Bmim][BF4]中で行った。得られた粒子の表面のX線回折分析を行った。
【0048】
非イオン有機溶媒(2-プロパノール)を使用した実験は、イオン液体([Bmim][BF4])の代わりに2-プロパノールを用いた点を除いて、イオン液体を使用した実験と同様の方法で行った。得られた粒子の表面のX線回折分析を行った。
【0049】
得られたX線回折(XRD)プロファイルを図9に示す。図9に示すとおりイオン液体を用いた系では非常に鋭いピークが現れたのに対して、一般的なゾルゲル法で溶媒として使われるプロパノールを用いた系ではブロードなピークしか現れなかった。この結果から、イオン液体を用いることで結晶性の高いアルミニウム化合物が得られることが明らかとなった。XRDプロファイルに基づき、析出した無機化合物を同定したころ、AlF3・H2Oに帰属された。すなわち、本方法により、ポリスチレン粒子が結晶性のアルミニウムフッ化物により被覆されたコア/シェル構造の粒子が得られた。
【0050】
3. 熱伝導度の測定
上記2で得られた、イオン液体または有機溶媒中でシェル形成された2種類のコア/シェル粒子を加熱成形し、熱伝導度を測定した。成形は、40MPaの加圧下、150℃、10分間の条件にて実施して、1 cm 四方の樹脂板サンプルを得た。サンプル両面にカーボンスプレーを塗布して黒化処理を施した後、レーザフラッシュ法にて熱拡散率を測定した。サンプル密度はアルキメデス法により、比熱はDSC法によりそれぞれ算出した。こうして測定された熱拡散率α (m2・s-1)、密度ρ (kg・m-3)、比熱Cp (J・kg-1・K-1)から熱伝導率λ(W・m-1・K-1)を次式:
λ = αρCp
から算出した。
【0051】
比較対象として、PS粒子とアルミナ粉体とを混合し、同様の方法で圧縮して樹脂板としたサンプル(アルミナフィラーを配合した絶縁部材の例)についても熱伝導度測定を行った。
【0052】
各サンプル中のポリスチレン(PS)とアルミニウム化合物との組成比はTGAにより算出した。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示すように、コア/シェル粒子の圧縮成形体は、同等の組成比の粉体混合物の成形体と比較して熱伝導度が向上する傾向が認められた。イオン液体中でシェル形成されたコア/シェル粒子の圧縮成形体の断面の透過型電子顕微鏡像を図10に示す。黒色で示されるアルミニウム化合物のシェルが相互に連繋して熱伝導路を形成していると考えられる。
【0055】
4. コア粒子への極性基の導入
コア粒子表面に、より均一なシェル層を析出させることを目的として、コア粒子を形成する高分子化合物に極性基を導入した。極性基の導入は以下の手順で行った。極性基を有するモノマーとして、-OH基を有するメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)、-NH2基を有するメタクリル酸2-ジメチルアミノエチル(DM)、または-COOH基を有するアクリル酸(AA)を用い、スチレンと分散共重合させて、三種類の共重合体:ポリ(スチレン-HEMA)共重合体(P(S-HEMA))、ポリ(スチレン-DM) 共重合体(P(S-DM))、ポリ(スチレン-AA) 共重合体(P(S-AA))のコア粒子を得た。スチレンと各官能性モノマーとの共重合時のモル比を96:4とした。スチレンを単独で使用した上記1及び表1のNo.1と同様の条件で、コア形成反応(重合反応)を行った(ただし、モノマーを変更した点、イオン液体([Bmim][BF4])中にてガラス容器を用いて70℃、24時間重合を行った点、および、重合開始剤としてAIBNを使用した点は異なる)。シェル形成反応は上記1及び表1のNo.1と同様の条件で行った。
【0056】
FT-IRにてアルミニウム化合物が複合化されていることを確認し、アルミニウム化合物の量をTGAにて測定したところ、重量比にしてそれぞれ P(S-HEMA):アルミニウム化合物が82:18、P(S-DM):アルミニウム化合物が88:12、P(S-AA):アルミニウム化合物が76:24であった。コア粒子としてポリスチレン(PS)粒子を使用して同一組成でシェル被覆した場合、PS:アルミニウム化合物が96:4であったことから、極性基を有するコア粒子を用いることでシェルを形成するアルミニウム化合物量が増加することが明らかとなった。
【0057】
PS粒子をコアとするコア/シェル粒子と、P(S-HEMA)粒子をコアとするコア/シェル粒子の形態を観察し、比較した(図11)。PS粒子をコアとするコア/シェル粒子と比較して、P(S-HEMA)粒子をコアとするコア/シェル粒子は粒子径が均一であるうえ、粒子径がより大きいことがわかる。
【0058】
すなわち、コア粒子に極性基を付与することによりシェル層が、比較的厚く均一に形成されることがわかる。
【0059】
5. 極性基が導入されたコア/シェル粒子の成形
極性基を有するモノマーとして、アクリル酸 n-ブチル (nBA) および/またはアクリル酸 (AA) を用いた。nBAのガラス転移温度(Tg)は-54℃であることから、nBAを構成単位に含む高分子化合物をコアとするコア/シェル粒子は、圧縮成形を行わなくとも、熱処理により変形して複合膜を形成すると考えられる。
【0060】
表3に従い、nBAの単独重合体(PnBA)、スチレンとnBAとの共重合体(P(S-nBA))、スチレンとnBAとAAとの共重合体(P(S-nBA-AA))のコア粒子をイオン液体[Bmim作成し、引き続きアルミニウム化合物のシェル層を形成した。コア粒子形成反応も、シェル層形成反応も、それぞれ70℃、24時間、攪拌速度400rpmの条件で行った。
【0061】
得られた三種類のコア/シェル粒子を、圧縮することなくキャスティング法により複合膜に形成した。キャスティング条件は、70℃、24時間の熱処理とした。
【0062】
【表3】

【0063】
図12には、P(S-nBA-AA)のシード粒子にアルミニウム化合物のシェルを被覆した表3, No.3のコア/シェル粒子を用いてキャスティング法で作製された複合膜の断面TEM像を示す。図12から、キャスティング法で作製された複合膜では、個々の粒子を被覆していたシェル層が繋がって連続体を構成していることが確認された。
【0064】
次に、得られた複合膜の熱伝導度を測定した。測定方法は上記3において説明したのと同様である。高分子/アルミニウム化合物の組成比は、図13に示すTGAプロファイルに基づき算出した。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
P(S-nBA)/アルミニウム化合物の複合膜の熱伝導度は0.771 W・m-1・K-1という高い値であった。この値は同一組成比のPS-アルミナフィラー混合系で得られた値である 0.151 W・m-1・K-1(表2参照)の約5倍である。このことから、本発明のコア/シェル粒子を形成することにより熱伝導度が顕著に向上することが明らかとなった。
【0067】
なお、P(S-nBA-AA)/アルミニウム化合物の複合膜の熱伝導度は0.369 W・m-1・K-1であり、P(S-nBA)/アルミニウム化合物の複合膜の半分程度であった。しかし、組成比を比較すると、アルミニウム化合物の含有量が後者では前者の半分程度であったことから、両者とも熱伝導度の改善効果としては同等であると推定される。
【符号の説明】
【0068】
1・・・熱伝導性かつ絶縁性の無機化合物のシェル
2・・・コア粒子
3・・・コア/シェル粒子
4・・・熱伝導性絶縁樹脂成形体
5・・・熱伝導路
6・・・無機フィラー
7・・・高分子化合物の相
8・・・従来の熱伝導性絶縁樹脂成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物を含むコア粒子と、該コア粒子を被覆する、熱伝導性かつ絶縁性の無機化合物を含むシェルとを備える、コア/シェル粒子。
【請求項2】
前記高分子化合物が極性官能基を有する高分子化合物である、請求項1のコア/シェル粒子。
【請求項3】
前記無機化合物がアルミニウムの酸化物、アルミニウムのフッ化物、またはシリカである、請求項1または2のコア/シェル粒子。
【請求項4】
前記無機化合物が2〜30重量%含まれる、請求項1〜3のいずれかのコア/シェル粒子。
【請求項5】
溶媒中に前記コア粒子が分散した分散液を準備する分散液準備工程と、
該分散液中に、前記無機化合物の前駆体、および該前駆体から前記無機化合物を生成する反応の反応開始剤を添加する添加工程と、
前記コア粒子の表面に前記無機化合物を含むシェルを形成させるシェル形成工程と
を含む方法により製造される、請求項1〜4のいずれかのコア/シェル粒子。
【請求項6】
前記無機化合物の前駆体がケイ素または金属のアルコキシドである、請求項5のコア/シェル粒子。
【請求項7】
前記分散液の溶媒がイオン液体である、請求項5または6のコア/シェル粒子。
【請求項8】
前記分散液準備工程が、前記溶媒中にモノマーおよび重合反応開始剤を添加し、重合反応を進行させ、高分子化合物を含むコア粒子を生成する工程である、請求項5〜7のいずれかのコア/シェル粒子。
【請求項9】
前記モノマーが、スチレンと、スチレンと共重合可能な、極性官能基を有するモノマーとの混合物である、請求項8のコア/シェル粒子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかのコア/シェル粒子の集合体を加圧および/または加熱して成形される、熱伝導性絶縁樹脂成形体。
【請求項11】
高分子化合物を含むコア粒子と、該コア粒子を被覆する、熱伝導性かつ絶縁性の無機化合物を含むシェルとを備える、コア/シェル粒子の製造方法であって、
溶媒中に前記コア粒子が分散した分散液を準備する分散液準備工程と、
該分散液中に、前記無機化合物の前駆体、および該前駆体から前記無機化合物を生成する反応の反応開始剤を添加する添加工程と、
前記コア粒子の表面に前記無機化合物を含むシェルを形成させるシェル形成工程と
を含む方法。
【請求項12】
前記無機化合物の前駆体がケイ素または金属のアルコキシドである、請求項11の方法。
【請求項13】
前記分散液の溶媒がイオン液体である、請求項11または12の方法。
【請求項14】
前記分散液準備工程が、前記溶媒中にモノマーおよび重合反応開始剤を添加し、重合反応を進行させ、高分子化合物を含むコア粒子を生成する工程である、請求項11〜13のいずれかの方法。
【請求項15】
前記モノマーが、スチレンと、スチレンと共重合可能な、極性官能基を有するモノマーとの混合物である、請求項14の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−189600(P2010−189600A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37820(P2009−37820)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】