説明

熱処理油組成物

【課題】金属材料の焼入れ等の熱処理時において高い冷却性能を発揮できる熱処理油組成物を提供すること。
【解決手段】熱処理油組成物は、40℃における動粘度が4mm/s以上、20mm/s以下の基油に、アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミドを配合してなることを特徴とする。この熱処理油組成物を用いて金属材料の焼入れを行うと、極めて高い冷却性能を発揮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の焼入れなどに使用される熱処理油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
焼入れなど熱処理加工は、通常熱処理液を用いて金属材料に所望の硬さを付与するために行われる。したがって、熱処理液は、金属材料の硬さを高め得る優れた冷却性能を有することが必要である。
冷却能力に非常に優れた液体は水であるが、水系の熱処理液では、冷却性能が高過ぎて金属材料に焼割れを生ずる危険性があり、焼入れ歪みも大きい。それゆえ、金属材料の焼入れに関しては、油系の熱処理液、すなわち熱処理油が汎用的に使用されている。
熱処理油は、低い油温で使用するコールド油、高い油温で使用できるホット油に区分され、コールド油はJIS K2242の1種、ホット油は2種に相当する。ホット油は一般に100℃の動粘度がおよそ10〜30mm/sであり、コールド油はおよそ6mm/s以下のものである。
コールド油のほうがホット油よりも冷却性能が高いが、さらに冷却性能が求められる場合は、水系の熱処理液を用いるしかなく、その場合前記したような問題がある。さらに、熱処理を行う材料面においても、合金元素の添加量が少ない安価な材料は、焼入れ性が悪く、従来のコールド油でも十分な硬さが得られないという問題がある。
そこで、冷却性能の向上を目的として各種の熱処理油が提案されている。例えば、40℃粘度が40mm/s以上である蒸気膜破断剤を配合してなる減圧焼入れ用焼入れ油が提案されている(特許文献1参照)。また、基油に金属系清浄分散剤と炭素数6〜30の脂肪族カルボン酸を配合してなる熱処理油組成物も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2005/087955号公報
【特許文献2】特開2009−29950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の熱処理油によっても、冷却性能は未だ十分ではない。
そこで、本発明の目的は、金属材料の焼入れ等の熱処理時において高い冷却性能を発揮できる熱処理油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような熱処理油組成物を提供するものである。
〔1〕40℃における動粘度が4mm/s以上、20mm/s以下の基油に(A)アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミドを配合してなることを特徴とする熱処理油組成物。
〔2〕上述の〔1〕に記載の熱処理油組成物において、前記(A)成分が(A−1)アルケニル若しくはアルキルコハク酸モノイミドおよび(A−2)アルケニル若しくはアルキルコハク酸ビスイミドの少なくともいずれかであることを特徴とする熱処理油組成物。
〔3〕上述の〔1〕または〔2〕に記載の熱処理油組成物において、前記(A−1)成分が下記式(1)で示され、前記(A−2)成分が下記式(2)で示されることを特徴とする熱処理油組成物。
【0006】
【化1】


(上記式(1)および式(2)において、R、RおよびRは、アルケニル基若しくはアルキル基である。R、RおよびRは、アルキレン基であり、RおよびRは同一でも異なっていてもよい。mは1〜10の整数を示し、nは0または1〜10の整数を示す。)
【0007】
〔4〕上述の〔1〕から〔3〕までのいずれか1つに記載の熱処理油組成物において、前記(A)成分がホウ素化物であることを特徴とする熱処理油組成物。
〔5〕上述の〔1〕から〔4〕までのいずれか1つに記載の熱処理油組成物において、さらに(B)ホスホン酸を配合してなることを特徴とする熱処理油組成物。
〔6〕上述の〔1〕から〔5〕までのいずれか1つに記載の熱処理油組成物において、前記(A)成分の配合量が組成物全量基準で0.5質量%以上、15質量%以下であることを特徴とする熱処理油組成物。
〔7〕上述の〔1〕から〔6〕までのいずれか1つに記載の熱処理油組成物において、前記(B)成分の配合量が組成物全量基準で0.1質量%以上、1質量%以下であることを特徴とする熱処理油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱処理油組成物は、金属材料の焼入れ等の熱処理時において非常に高い冷却性能を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の熱処理油組成物は、40℃における動粘度が4mm/s以上、20mm/s以下の基油に、(A)アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミドを配合してなることを特徴とする。
本発明で用いられる基油としては、特に制限されず各種の鉱油あるいは合成油を用いることができる。鉱油としては、例えばパラフィン基系鉱油、中間基系鉱油、ナフテン基系鉱油などが挙げられる。また、合成油としては、例えばα−オレフィンオリゴマー(炭素数6〜16のα−オレフィンをオリゴマー化したもの、およびそれを水素添加したもの)、炭素数2〜16のオレフィンの(共)重合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリフェニル系炭化水素、各種エステル類、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール誘導体などを用いることができる。
【0010】
上述の基油としては、40℃における動粘度が4mm/s以上、20mm/s以下であることが必要である。基油の動粘度が4mm/sより低いと、引火点が低くなるとともに、油煙が激しくなり熱処理油として使用することが困難になるおそれがある。一方、基油の動粘度が20mm/sを超えると、冷却性能が低下する。それ故、好ましい動粘度の範囲は、7mm/s以上、11mm/s以下である。
【0011】
また基油の硫黄分は300質量ppm以下であることが好ましく、200質量ppmであることがより好ましく、-100質量ppm以下であることがさらに好ましい。基油の硫黄分が300質量ppmを超えると、熱処理油組成物として用いたときに、スラッジが発生しやすい。
なお、鉱油の場合は、硫黄分が300質量ppm以下のいわゆる高精製度鉱油が好適に使用できる。このような高精製度鉱油は、原油から得られる重質留分に溶剤精製、水素化精製あるいは水素化分解を施して得られる。
【0012】
上述の基油は、引火点が150℃以上であることが好ましく、170℃以上がより好ましい。150℃以上であると、引火の危険性が低く、同時に熱処理加工時における油煙の発生を抑制することもできる。
さらに基油の粘度指数は85以上であることが好ましく、95以上がより好ましい。また、芳香族分(%CA)が10以下であることが好ましく、7以下がより好ましく、さらには3以下、特に1以下のものが好ましい。粘度指数が85以上であり、芳香族分(%CA)が10以下であると、熱処理油組成物の酸化安定性が良好となる。
上述の鉱油および合成油は、1種のみを単独で用いることもできるが、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0013】
本発明における(A)成分は、熱処理油組成物として使用されることにより、金属材料(被加工物)の冷却性能を格段に向上させる役割を果たす。
このような(A)成分としては、例えば、(A−1)アルケニル若しくはアルキルコハク酸モノイミドや、(A−2)アルケニル若しくはアルキルコハク酸ビスイミドなどが挙げられる。(A−1)成分としては、例えば下記式(1)で示されるものが挙げられ、(A−2)成分としては、例えば下記式(2)で示されるものが挙げられる。
【0014】
【化2】

【0015】
上記式(1)および式(2)において、R、RおよびRは、アルケニル基若しくはアルキル基であり、質量平均分子量は、それぞれ、好ましくは500〜3,000、より好ましくは1,000〜3,000である。
上記したR、RおよびRの質量平均分子量が500未満であると、基油への溶解性が低下するおそれがある。一方、質量平均分子量が3,000を超えると、熱処理油組成物としての冷却安定性が低下するおそれがある。RおよびRは同一でも異なっていてもよい。
、RおよびRは、好ましくは炭素数2〜5のアルキレン基であり、RおよびRは同一でも異なっていてもよい。mは1〜10の整数を示し、nは0または1〜10の整数を示す。ここで、mは、好ましくは2〜5、より好ましくは3〜4である。mが2以上であると、冷却性能が良好であり、mが5以下であると、基油に対する溶解性が良好となる。
上記式(2)において、nは好ましくは1〜4であり、より好ましくは2〜3である。モノイミドと異なり、nが1以上であれば冷却性能が良好であり、nが4以下であると、基油に対する溶解性が良好となる。
また、(A)成分における窒素含有量は、0.1〜10質量%が好ましい。
【0016】
アルケニル基としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン−プロピレン共重合構造を挙げることができ、アルキル基としてはこれらを水添したものが挙げられる。好適なアルケニル基としては、ポリブテニル基またはポリイソブテニル基が挙げられる。ポリブテニル基は、1−ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものとして好適に得られる。また、好適なアルキル基の代表例としては、ポリブテニル基またはポリイソブテニル基を水添したものが挙げられる。
【0017】
上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミドは、通常、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物、またはそれを水添して得られるアルキルコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることによって製造することができる。
また、上記したコハク酸モノイミドおよびコハク酸ビスイミドは、アルケニルコハク酸無水物若しくはアルキルコハク酸無水物とポリアミンとの反応比率を変えることによって製造することができる。
上記したポリオレフィンを形成するオレフィン単量体としては、炭素数2〜8のα−オレフィンの1種または2種以上を混合して用いることができるが、イソブテンとブテン−1の混合物を好適に用いることができる。
一方、ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン等の単一ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、およびペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミンを挙げることができる。
【0018】
また、上記した(A)成分はホウ素化物として用いると、熱処理油組成物の冷却性能をさらに高めることができる。
このようなホウ素化物は、常法により製造したものを使用することができる。例えば、上記のポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させてアルケニルコハク酸無水物とした後、更に上記のポリアミンと酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ素酸のアンモニウム塩等のホウ素化合物を反応させて得られる中間体と反応させてイミド化させることによって得られる。(A)成分におけるホウ素含有量は、0.1〜10質量%が好ましい。
【0019】
上述した(A)成分の配合量は、組成物全量基準で0.5質量%以上、15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上、12質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以上、10質量%以下である。(A)成分の配合量が0.5質量%未満であると、冷却性能を十分に発揮できないおそれがある。一方、(A)成分の配合量が15質量%を超えても冷却性能の向上にはさほど寄与せず、むしろ粘度上昇により、冷却性能が低下してしまうおそれがある。
【0020】
本発明の熱処理油組成物は、基本的には基油に上述した(A)成分を配合することによって調製されるが、本発明の熱処理油組成物には、さらに(B)成分としてホスホン酸を配合することが好ましい。ホスホン酸を配合することにより、熱処理油組成物の冷却性能をさらに高めることができる。
ホスホン酸としては、無機ホスホン酸(HPHO)でもよく有機ホスホン酸(R−P(=O)(OH)でもよい。有機ホスホン酸の場合、Rはヒドロカルビル基であり、好ましくはアルキル基若しくはアルケニル基である。ヒドロカルビル基としての炭素数は好ましくは1〜24である。
なお、無機ホスホン酸は、溶液中においては亜リン酸(P(OH))との互変異性を示し、平衡混合物となっている。その平衡の中ではホスホン酸が優位に存在することが知られている。また、無機ホスホン酸は、亜リン酸として市販されることも多い。
【0021】
上述した(B)成分の配合量は、組成物全量基準で0.1質量%以上、1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上、0.8質量%以下である。(B)成分の配合量が0.1質量%未満であると、冷却性能の向上効果を十分に発揮できないおそれがある。一方、(B)成分の配合量が1質量%を超えても冷却性能の向上にはさほど寄与せず、むしろ基油への溶解性が不十分となってしまうおそれがある。
【0022】
本発明の熱処理油組成物には、必要に応じて、熱処理油に汎用される添加剤、例えば蒸気膜破断剤、酸化防止剤、および清浄分散剤などを配合してもよい。
蒸気膜破断剤を配合することにより、蒸気膜段階が短く、かつ沸騰段階の冷却性能の増加が抑制されることから、冷却むらによる焼入れ歪を低減することができる。また、沸騰段階の温度範囲が広く、処理物の硬さを確保することができる。このような蒸気膜破断剤としては、高分子化合物が用いられ、例えば、エチレン-プロピレン共重合体などのエチレン-α-オレフィン共重合体(α-オレフィンの炭素数は3〜20)、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセンなど炭素数5〜20のα-オレフィンの重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレンなど炭素数3または4のオレフィン重合体、などの各種ポリオレフィン類およびそれらポリオレフィン類の水素添加物、ポリメタクリレート、ポリメタアクリレート、ポリスチレン、石油樹脂などの高分子化合物、並びにアスファルトなどを挙げることができる。これらの中でも、特に、冷却性能の観点からは、アスファルトが好ましい。また、光輝性の向上も期待する場合はエチレン-プロピレン共重合体などのエチレン-α-オレフィン共重合体(オレフィンコポリマー)、ポリブテン、ポリイソブチレンなどが好ましく用いられる。これら蒸気膜破断剤の数平均分子量は、800〜100,000であることが好ましい。またその配合量は、熱処理油組成物全量基準で、0.5〜10質量%の範囲が好ましい。この含有量が0.5質量%以上であると、蒸気膜破断剤の効果が発揮されるが、10質量%を超えると、熱処理油組成物の粘度が高くなりすぎ、熱処理効果が低下しやすくなる。
【0023】
酸化防止剤としては、従来公知のフェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤を用いることができる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール;2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチルフェノール;2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール;2,6−ジ−tert−アミル−4−メチルフェノール;n−オクタデシル3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネートなどの単環フェノール類、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などの多環フェノール類などが挙げられる。
【0024】
アミン系酸化防止剤としては、例えばジフェニルアミン系のもの、具体的にはジフェニルアミンやモノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミン;4,4’−ジブチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミン;テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン:テトラノニルジフェニルアミンなどの炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミンなど、及びナフチルアミン系のもの、具体的にはα−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン、さらにはブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどの炭素数3〜20のアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどが挙げられる。これらの中で、ナフチルアミン系よりジフェニルアミン系の方が、効果の点から好ましく、特に炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン、とりわけ4,4’−ジ(C3〜C20アルキル)ジフェニルアミンが好適である。
本発明においては、酸化防止剤として、前記フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤の中から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。また、その配合量は、酸化防止効果および経済性のバランスなどの面から、組成物全量基準で、0.01〜5質量%程度である。
【0025】
清浄分散剤としては、無灰系分散剤や金属系清浄剤を用いることができる。ここで、無灰系分散剤としては、例えばアルケニルコハク酸イミド類、ホウ素含有アルケニルコハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類などが挙げられ、金属系清浄剤としては、例えば中性金属スルホネート、中性金属フェネート、中性金属サリチレート、中性金属ホスホネート、塩基性スルホネート、塩基性フェネート、塩基性サリチレート、過塩基性スルホネート、過塩基性サリチレート、過塩基性ホスホネートなどが挙げられる。
これらの清浄分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記した清浄分散剤は、熱処理油組成物を繰り返して使用した際に生じるスラッジの分散効果を有するが、金属系清浄剤は、さらに劣化酸の中和剤としての作用も有している。また、清浄分散剤の配合量は、効果および経済性のバランスなどの面から、組成物全量基準で、0.01〜5質量%程度である。
【0026】
本発明の熱処理油組成物は、金属材料の熱処理において、優れた冷却性能を発揮できるので、例えば炭素鋼、ニッケル−マンガン鋼、クロム−モリブデン鋼、マンガン鋼などの各種合金鋼に焼入れを行う際の熱処理油として好適に用いることができる。
また、本発明の組成物を用いて、鋼材等の金属材料を焼入れ処理するには、熱処理油である組成物の温度を、通常の焼入れ処理の温度(60〜150℃程度)に設定してもよいし、170〜250℃の高温に設定してもよい。
【実施例】
【0027】
次に実施例、比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。具体的には、以下の方法で熱処理油組成物の冷却性能を評価した。
【0028】
〔実施例1〜12、比較例1〜12〕
(1)試料油の調製
以下に示す基油と添加剤を所定量配合して熱処理油組成物を調製し、試料油とした。配合組成を表1〜4に示す。
【0029】
(1.1)基油(水素化精製パラフィン系鉱油)
基油1:40℃粘度 9.8mm/s(本発明の基油)
基油2:40℃粘度 20.4mm/s
基油3:40℃粘度 31.2mm/s
基油4:40℃粘度 75.2mm/s
基油5:40℃粘度 90.0mm/s
基油6:40℃粘度 455.0mm/s
【0030】
(1.2)添加剤
(1.2.1)A成分
エンジン油の清浄分散剤として市販されているものを用いた。
A−1;ポリブテニルコハク酸イミド(ポリブテニル基の質量平均分子量:950、モノタイプ、窒素含有量2質量%)
A−2;ポリブテニルコハク酸イミドのホウ素化物(A−1のホウ素化物、ホウ素含有量2質量%)
A−3;アルキルコハク酸イミド(A−1の水素化物)
【0031】
(1.2.2)B成分(ホスホン酸)
試薬として市販されている亜リン酸を用いた。ただし、亜リン酸は、鉱油には溶けにくいので、A成分と同時に鉱油に添加して撹拌しながら100℃以上で30分間加熱して調製した。
【0032】
(1.2.3)冷却性向上剤
従来より知られている冷却性向上剤として、カプリル酸、ラウリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、およびリノール酸を用いた。
【0033】
(1.2.4)蒸気膜破断剤
アスファルト、ポリブテンおよびオレフィンコポリマーを用いた。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
(2)評価方法
以下に示す方法で、上記各試料油について冷却性能を評価した。結果を、表1〜4に示す。なお、参考例として、市販の熱処理油(コールド油)についての評価結果を表1に併せて示す。
【0039】
(2.1)冷却性能
JIS K2242に規定される冷却性能試験に準拠して、810℃に加熱した規定の銀試片を試料油に投入し、銀試片の冷却曲線を測定した。この冷却曲線に基づいて、800℃から300℃まで冷却されるのに要する冷却時間(300℃秒数)、および800℃から200℃まで冷却されるのに要する冷却時間(200℃秒数)を求め、冷却性能として評価した。この秒数が小さい程冷却性能が高いことを示す。
(2.2)特性秒数
上記(2.1)のJIS K2242で測定した冷却曲線における特性温度(蒸気膜段階が終了する温度)に到達するまでの時間(秒数)を測定した。
【0040】
〔評価結果〕
冷却性能が高いことで知られる市販コールド油の結果を表1に参考例として示したが、300℃秒数が5秒、200℃秒数が14秒である。
これに対して表1、2の結果より、所定の基油にポリブテニルコハク酸イミドやアルキルコハク酸イミドを配合してなる本発明の熱処理油組成物(実施例1〜12)は、水を含まない油タイプでありながら、300℃秒数を4.1秒以下、200℃秒数を12秒以下と非常に短くできることがわかる。さらに、ホスホン酸を配合した実施例6,7では、300℃秒数が3.3〜3.5秒、200℃秒数が5.8〜8.5秒と極めて優れた冷却性能を示す。
一方、比較例1〜12では、基油に、従来知られた冷却性向上剤や蒸気膜破断剤を配合してなる試料油であるが、冷却性能が本発明の熱処理油組成物より劣っていることがわかる。
以上の結果より、大きな部品や焼入れ性の悪い材料(合金元素が少なく安価な材料)であっても、本発明の熱処理油組成物を用いて焼き入れを行うことで、高い硬度を得ることができることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃における動粘度が4mm/s以上、20mm/s以下の基油に、
(A)アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミドを配合してなることを特徴とする熱処理油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱処理油組成物において、
前記(A)成分が(A−1)アルケニル若しくはアルキルコハク酸モノイミドおよび(A−2)アルケニル若しくはアルキルコハク酸ビスイミドの少なくともいずれかである
ことを特徴とする熱処理油組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱処理油組成物において、
前記(A−1)成分が下記式(1)で示され、前記(A−2)成分が下記式(2)で示されることを特徴とする熱処理油組成物。
【化1】


(上記式(1)および式(2)において、R、RおよびRは、アルケニル基若しくはアルキル基である。R、RおよびRは、アルキレン基であり、RおよびRは同一でも異なっていてもよい。mは1〜10の整数を示し、nは0または1〜10の整数を示す。)
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の熱処理油組成物において、
前記(A)成分がホウ素化物である
ことを特徴とする熱処理油組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の熱処理油組成物において、
さらに(B)ホスホン酸を配合してなる
ことを特徴とする熱処理油組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の熱処理油組成物において、
前記(A)成分の配合量が組成物全量基準で0.5質量%以上、15質量%以下である
ことを特徴とする熱処理油組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の熱処理油組成物において、
前記(B)成分の配合量が組成物全量基準で0.1質量%以上、1質量%以下である
ことを特徴とする熱処理油組成物。


【公開番号】特開2010−229479(P2010−229479A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77750(P2009−77750)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】