説明

熱処理装置と熱処理方法

【課題】Au等極細線1の装置への組み入れ段階において極細線の破断を防止できる極細線の熱処理装置と熱処理方法を提供する。
【解決手段】極細線を巻き出す巻き出しスプール6と、巻き出された極細線の張力を測定して張力を一定に制御する張力検出部10と、極細線を熱処理する熱処理炉11と、熱処理された極細線を巻き取る巻き取りスプール15とを備える熱処理装置において、巻き出しスプールにおける円筒状胴部の端部側および巻き取りスプールにおける円筒状胴部の端部側に帯状溝部5、14が円周方向に亘って設けられ、極細線の先端に連結されかつ極細線より直径が大きい細線2の全てと極細線との連結部3が巻き出しスプールの帯状溝部5に巻回され、巻き出しスプールから巻き出された細線の全てと極細線との連結部が巻き取りスプールの帯状溝部14に巻回されるようになっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICの電気的接続に用いられるAu線等の極細線を熱処理する熱処理装置と熱処理方法に係り、特に、巻き出しスプールから巻き出される極細線の先端を熱処理装置の張力検出部や熱処理炉等に組み入れるセット段階において、作業者の組み入れ動作による極細線への機械的負荷や、熱処理炉内の過熱による極細線の軟化等に起因して極細線が破断される弊害を解消した熱処理装置と熱処理方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ICの電気的接続に用いられるAu線等の極細線を製造する場合、通常、直径数ミリの太線をダイスに通すことにより徐々に細線加工を行うが、その際に生ずる歪等の機械的欠陥を回復させるため、加工された極細線に対し特許文献1に記載されているような熱処理が施されている。
【0003】
ところで、この種の熱処理に用いられる従来の熱処理装置として、例えば、図4に示すような装置が知られている。すなわち、この熱処理装置は、図4に示すように円筒状胴部(以下の巻き出し部4を構成する)に巻回された極細線1を巻き出す巻き出しスプール6と、巻き出しスプール6を回転駆動する巻き出しモーター7と、巻き出しスプール6の巻き出し部4から巻き出された極細線1が架け回されるプーリー8と、一端側がプーリー8に接続されかつ他端側が張力検出部10に接続されたアーム9と、接続されたアーム9の角度から極細線1の張力を検出する上記張力検出部10と、この張力検出部10の下流側に配置されかつ搬入される極細線1を熱処理する熱処理炉11と、熱処理炉11内に極細線1を搬入させる搬送ベルト12と、上記熱処理炉11の下流側に配置され熱処理された極細線1を円筒状胴部(以下の巻き取り部13を構成する)に巻き取る巻き取りスプール15と、巻き取りスプール15を一定の回転速度で回転駆動する巻き取りモーター16と、上記巻き取りスプール15をその回転軸方向へ往復移動させて円筒状胴部における極細線1の巻き取り位置を規制し所定の巻き取り部13に巻き取らせるための位置決め機構(テーブル)17を備えており、かつ、上記張力検出部10で測定された極細線1の測定信号(すなわち張力信号)を巻出しモーター7にフィードバックして極細線1の張力が一定となるように巻き出しモーター7の回転速度を制御(この制御により極細線1の断線が回避される)するように構成されている。
【0004】
そして、図4に示された従来の熱処理装置を用いて極細線1の熱処理を行なうには、円筒状胴部(巻き出し部4)に極細線1が巻回された巻き出しスプール6を巻き出しモーター7の取り付け部に取り付け、かつ、巻き出しスプール6から巻き出される極細線1の先端側を上記張力検出部10のプーリー8に架け回すと共に、極細線1の先端側を上記搬送ベルト12に取り付けて熱処理炉11内に極細線1を搬入させ、更に、熱処理炉11から搬出される極細線1の先端側を巻き取りスプール15の円筒状胴部(巻き取り部13)に固定して装置への組み入れ(セット)を終えた後、巻き出しモーター7、張力検出部10、巻き取りモーター16、位置決め機構(テーブル)17等を駆動させ、熱処理炉11にて熱処理された極細線1を上記巻き取りスプール15の所定の巻き取り部13に巻き取らせて行なっている。
【0005】
ところで、熱処理を施す従来の極細線1はその直径が20μm以上であったため、極細線1の組み入れ(すなわちセット)時において、作業者の組み入れ動作(操作)により極細線1に負荷がかかっても極細線1が断線されることは殆ど起こらなかった。
【0006】
しかし、近年、ICの低コスト化等の要求に伴って、適用される極細線1も更なる細線化が要求されるようになり、極細線1の直径が10〜15μmと細くなってきている。
【0007】
このため、熱処理装置へ極細線1を組み入れる(すなわちセットする)際、極細線1を熱処理炉内に一定時間以上滞留させてしまうと、極細線1が過熱されて軟化し、僅かな張力の変動で極細線1が断線してしまう問題が存在した。
【0008】
更に、熱処理装置へ極細線1を組み入れる(セットする)際、極細線を引き出すときの作業者の動作(挙動)が、装置に設けられた上記張力検出部10の慣性力に影響を与え、その力でプーリー8に架け回された極細線1が断線してしまうことがあり、極細線1の組み入れ作業に大きな支障を生じさせる問題が存在した。
【0009】
尚、このような問題を回避するため、上記張力検出部10の構成部品を軽量化してその慣性力を弱め、あるいは、アーム9の張力を弱める等の対策が施されているが、どの対策も根本的な解決には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−125452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、巻き出しスプールから巻き出される極細線の先端を熱処理装置の張力検出部や熱処理炉等に組み入れるセット段階において、作業者の組み入れ動作による極細線への機械的負荷や、熱処理炉内の過熱による極細線の軟化等に起因して極細線が破断される弊害を解消した熱処理装置と熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、請求項1に係る発明は、
円筒状胴部に巻回された極細線を巻き出す巻き出しスプールと、巻き出しスプールを回転駆動する巻き出しモーターと、巻き出しスプールから巻き出された極細線の張力を測定しその測定信号を上記巻出しモーターにフィードバックして極細線の張力が一定となるように巻き出しモーターの回転速度を制御する張力検出部と、張力検出部の下流側に配置され搬送される極細線を熱処理する熱処理炉と、熱処理炉の下流側に配置され熱処理された極細線を円筒状胴部に巻き取る巻き取りスプールと、巻き取りスプールを一定の回転速度で回転駆動する巻き取りモーターと、上記巻き取りスプールを回転軸方向へ往復移動させて円筒状胴部における極細線の巻き取り位置を制御する位置決め機構を備える熱処理装置において、
上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側に、帯状溝部が円周方向に亘って設けられており、かつ、上記巻き出しスプールの円筒状胴部に巻回された極細線の先端に極細線より直径が大きい細線が連結されると共に、上記細線の全てと極細線との連結部が巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻回されるようになっていることを特徴とし、
請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る熱処理装置において、
上記巻き出しスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側に、帯状溝部が円周方向に亘って設けられていることを特徴とし、
また、請求項3に係る発明は、
請求項2に記載の発明に係る熱処理装置において、
上記巻き出しスプールにおける円筒状胴部の両端部側、および、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の両端部側に、帯状溝部が円周方向に亘ってそれぞれ設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
次に、請求項4に係る発明は、
円筒状胴部に巻回された極細線を巻き出す巻き出しスプールと、巻き出しスプールを回転駆動する巻き出しモーターと、巻き出しスプールから巻き出された極細線の張力を測定しその測定信号を上記巻出しモーターにフィードバックして極細線の張力が一定となるように巻き出しモーターの回転速度を制御する張力検出部と、張力検出部の下流側に配置され搬送される極細線を熱処理する熱処理炉と、熱処理炉の下流側に配置され熱処理された極細線を円筒状胴部に巻き取る巻き取りスプールと、巻き取りスプールを一定の回転速度で回転駆動する巻き取りモーターと、上記巻き取りスプールを回転軸方向へ往復移動させて円筒状胴部における極細線の巻き取り位置を制御する位置決め機構を備え、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側に、帯状溝部が円周方向に亘って設けられている熱処理装置を用いて極細線の熱処理を行なう方法において、
上記極細線が円筒状胴部に巻回された巻き出しスプールを、上記巻き出しモーターの取り付け部に取り付ける取り付け工程と、
上記巻き出しスプールの円筒状胴部に巻回された極細線の先端に、極細線より直径が大きい細線を連結する連結工程と、
極細線の先端に連結された細線の先端を上記張力検出部と熱処理炉を通過させた後、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に細線の先端を固定する固定工程と、
上記細線の全てと極細線との連結部を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻き取らせた後、上記位置決め機構を作動させて熱処理された極細線を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の所定位置に巻き取る巻き取り工程、
を具備することを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
円筒状胴部に巻回された極細線を巻き出す巻き出しスプールと、巻き出しスプールを回転駆動する巻き出しモーターと、巻き出しスプールから巻き出された極細線の張力を測定しその測定信号を上記巻出しモーターにフィードバックして極細線の張力が一定となるように巻き出しモーターの回転速度を制御する張力検出部と、張力検出部の下流側に配置され搬送される極細線を熱処理する熱処理炉と、熱処理炉の下流側に配置され熱処理された極細線を円筒状胴部に巻き取る巻き取りスプールと、巻き取りスプールを一定の回転速度で回転駆動する巻き取りモーターと、上記巻き取りスプールを回転軸方向へ往復移動させて円筒状胴部における極細線の巻き取り位置を制御する位置決め機構を備え、上記巻き出しスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側、および、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側に、帯状溝部が円周方向に亘ってそれぞれ設けられている熱処理装置を用いて極細線の熱処理を行なう方法において、
上記巻き出しスプールの円筒状胴部に巻回された極細線の先端に、極細線より直径が大きい細線を連結する連結工程と、
上記細線の全てと極細線との連結部を巻き出しスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻回する巻回工程と、
細線の全てと極細線との連結部が円筒状胴部の帯状溝部に巻回された巻き出しスプールを、上記巻き出しモーターの取り付け部に取り付ける取り付け工程と、
上記巻き出しスプールの帯状溝部から細線を巻き出すと共に、細線の先端を上記張力検出部と熱処理炉を通過させた後、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に細線の先端を固定する固定工程と、
上記細線の全てと極細線との連結部を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻き取らせた後、上記位置決め機構を作動させて熱処理された極細線を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の所定位置に巻き取る巻き取り工程、
を具備することを特徴とし、
また、請求項6に係る発明は、
請求項5に記載の発明に係る熱処理方法において、
上記巻き出しスプールにおける円筒状胴部の両端部側、および、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の両端部側に、帯状溝部が円周方向に亘ってそれぞれ設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る熱処理装置と請求項4に係る熱処理方法は、巻き取りスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側に、帯状溝部が円周方向に亘って設けられており、かつ、上記巻き出しスプールの円筒状胴部に巻回された極細線の先端に極細線より直径が大きい細線が連結されると共に、上記細線の全てと極細線との連結部が巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻回されるようになっていることを特徴としている。
【0015】
そして、上記熱処理装置と熱処理方法によれば、巻き出しスプールの円筒状胴部に巻回された極細線の先端に極細線より直径が大きい細線が連結されており、巻き出しスプールから巻き出される極細線を装置に組み入れるセット段階においては、極細線に連結された細線の先端側を上記張力検出部や熱処理炉に通過させてセット作業が行なえるため、作業者の動作に起因して細線に負荷がかかるような場合でも細線が破断されることはなく、かつ、細線が熱処理炉内に一定時間以上滞留するような場合でも過熱により細線が破断されるようなことがない。
【0016】
更に、極細線に連結された細線の先端側を上記張力検出部や熱処理炉に通過させてセット作業を行い、上記細線の全てと極細線との連結部を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻き取らせた後、上記位置決め機構を作動させて熱処理された極細線を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の所定位置に巻き取っていることから、熱処理された極細線の巻き取り位置と、上記帯状溝部における細線の全てと極細線との連結部の巻き取り位置とが区画されて互いに重複していないため、細線と極細線との連結部が熱処理された極細線に接触して極細線を破断させてしまうこともない。
【0017】
また、請求項2に係る熱処理装置と請求項5に係る熱処理方法は、巻き出しスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側、および、巻き取りスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側に、帯状溝部が円周方向に亘ってそれぞれ設けられており、上記極細線の先端に連結されかつ極細線より直径が大きい細線の全てと極細線との連結部が上記巻き出しスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻回されると共に、巻き出しスプールから巻き出された細線の全てと極細線との連結部が上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻回されるようになっていることを特徴としている。
【0018】
そして、上記熱処理装置と熱処理方法によれば、極細線の先端に連結されかつ極細線より直径が大きい細線の全てと極細線との連結部が巻き出しスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻回されており、巻き出しスプールから巻き出される極細線を装置に組み入れるセット段階においては、極細線に連結された細線の先端側を上記張力検出部や熱処理炉に通過させてセット作業が行なえるため、作業者の動作に起因して細線に負荷がかかるような場合でも細線が破断されることはなく、かつ、細線が熱処理炉内に一定時間以上滞留するような場合でも過熱により細線が破断されるようなことがない。
【0019】
更に、極細線に連結された細線の先端側を上記張力検出部や熱処理炉に通過させてセット作業を行い、上記細線の全てと極細線との連結部を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻き取らせた後、上記位置決め機構を作動させて熱処理された極細線を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の所定位置に巻き取っていることから、熱処理された極細線の巻き取り位置と、上記帯状溝部における細線の全てと極細線との連結部の巻き取り位置とが区画されて互いに重複していないため、細線と極細線との連結部が熱処理された極細線に接触して極細線を破断させてしまうこともない。
【0020】
従って、本発明に係る熱処理装置と熱処理方法によれば、極細線を熱処理する際に発生し易い断線を確実に防止できるため、製品の収率、作業性の向上を図ることが可能となる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る熱処理装置と熱処理方法の概略構成を示す斜視図であり、装置にセットし運転を開始した後、極細線と細線との連結部が現れた状態を示す。
【図2】帯状溝部が設けられた本発明に係る巻き出しスプールの概略斜視図。
【図3】図3(A)は本発明に係る極細線と細線との連結部が熱処理炉(電気炉)に搬入される直前の説明図、図3(B)は本発明に係る極細線と細線との連結部が熱処理炉(電気炉)から搬出される直後の説明図。
【図4】従来例に係る熱処理装置と熱処理方法の概略構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0023】
まず、本実施の形態に係る熱処理装置は、図1に示すように円筒状胴部に巻回された極細線1を巻き出す巻き出しスプール6と、巻き出しスプール6を回転駆動する巻き出しモーター7と、巻き出しスプール6から巻き出された極細線1の張力を測定しその測定信号(張力信号)を上記巻出しモーター7にフィードバックして極細線1の張力が一定となるように巻き出しモーター7の回転速度を制御する張力検出部10と、張力検出部10の下流側に配置され搬送される極細線1を熱処理する熱処理炉(電気炉)11と、熱処理炉(電気炉)11の下流側に配置され熱処理された極細線1を円筒状胴部に巻き取る巻き取りスプール15と、巻き取りスプール15を一定の回転速度で回転駆動する巻き取りモーター16と、上記巻き取りスプール15を回転軸方向へ往復移動(すなわちトラバース)させて円筒状胴部における極細線1の巻き取り位置を規制(すなわち整列巻きをするための規制)する位置決め機構(テーブル)17を備え、巻き出しスプール6における円筒状胴部の両端部側に帯状溝部(細線巻き出し部)5が円周方向に亘って設けられ、また、巻き取りスプール15における円筒状胴部の両端部側に帯状溝部(細線巻き取り部)14が円周方向に亘って設けられており、上記極細線1の先端に連結されかつ極細線1より直径が大きい細線2の全てと極細線1との連結部3が上記巻き出しスプール6における円筒状胴部の一方の帯状溝部(細線巻き出し部)5に巻回されると共に、巻き出しスプール6から巻き出された細線2の全てと極細線1との連結部3が上記巻き取りスプール15における円筒状胴部の一方の帯状溝部(細線巻き取り部)14に巻回されるようになっていることを特徴とするものである。
【0024】
ここで、図1に示した熱処理装置においては、巻き出しスプール6における円筒状胴部の両端部側に帯状溝部(細線巻き出し部)5が円周方向に亘って設けられ(図2参照)、また、上記巻き取りスプール15における円筒状胴部の両端部側にも帯状溝部(細線巻き取り部)14が円周方向に亘って設けられている。従って、巻き出しスプール6と巻き取りスプール15の各円筒状胴部に上記細線2および極細線1との連結部3を巻回させる領域が2箇所存在するため、巻き出しスプール6と巻き取りスプール15の各円筒状胴部における一方の端部側にのみ帯状溝部が設けられている構造のスプールと比較し、上記細線2と連結部3を収容させるための自由度が倍であることからその作業性に優れている。尚、円筒状胴部の端部側に設けられる上記帯状溝部に関しては、熱処理された極細線1を巻き取る際の断線を回避する観点から、上記巻き取りスプール15においては必須の構成となるが、巻き出しスプール6においては必ずしも設ける必要はない。
【0025】
また、図1に示した熱処理装置においては、図4に示した従来の装置と同様、巻き出しスプール6の帯状溝部(細線巻き出し部)5から巻き出された細線2を架け回すプーリー8と、一端側がプーリー8に接続され他端側が張力検出部10に接続されたアーム9を具備し、アーム9の角度から張力検出部10により細線2の張力を検出する構造になっているが、他の構造により細線2の張力を検出する方法を採ってもよい。また、図4に示した従来の装置と同様、上記熱処理炉(電気炉)11には搬送ベルト12が付設され、細線2の先端を搬送ベルト12に把持させて熱処理炉(電気炉)11内に搬入させる構造になっているが、搬送ベルト12を用いない他の構造を採用しても当然のことながらよい。
【0026】
次に、本実施の形態に係る熱処理方法は、図1に示すように円筒状胴部に巻回された極細線1を巻き出す巻き出しスプール6と、巻き出しスプール6を回転駆動する巻き出しモーター7と、巻き出しスプール6から巻き出された極細線1の張力を測定しその測定信号を上記巻出しモーター7にフィードバックして極細線1の張力が一定となるように巻き出しモーター7の回転速度を制御する張力検出部10と、張力検出部10の下流側に配置され搬送される極細線1を熱処理する熱処理炉(電気炉)11と、熱処理炉(電気炉)11の下流側に配置され熱処理された極細線1を円筒状胴部に巻き取る巻き取りスプール15と、巻き取りスプール15を一定の回転速度で回転駆動する巻き取りモーター16と、上記巻き取りスプール15を回転軸方向へ往復移動(すなわちトラバース)させて円筒状胴部における極細線1の巻き取り位置を規制(すなわち整列巻きをするための規制)する位置決め機構(テーブル)17を備え、上記巻き出しスプール6における円筒状胴部の少なくとも一方の端部側(図2では両端側の2箇所)に帯状溝部(細線巻き出し部)5が円周方向に亘って設けられ、また、巻き取りスプール15における円筒状胴部の少なくとも一方の端部側(図1では両端側の2箇所)に帯状溝部(細線巻き取り部)14が円周方向に亘って設けられている熱処理装置を用いて極細線の熱処理を行なう方法であって、
上記巻き出しスプール6の円筒状胴部に巻回された極細線1の先端に、極細線1より直径が大きい細線2を連結する連結工程と、上記細線2の全てと極細線1との連結部3を巻き出しスプール6における円筒状胴部の帯状溝部(細線巻き出し部)5に巻回する巻回工程と、細線2の全てと極細線1との連結部3が円筒状胴部の帯状溝部(細線巻き出し部)5に巻回された巻き出しスプール6を、上記巻き出しモーター7の軸に設けられた図示外のスプールホルダ(取り付け部)に取り付ける取り付け工程と、上記巻き出しスプール6の帯状溝部(細線巻き出し部)5から細線の先端を摘んで巻き出すと共に、細線2の先端を上記張力検出部10と熱処理炉(電気炉)11を通過させた後、上記巻き取りスプール15における円筒状胴部の帯状溝部(細線巻き取り部)14に細線2の先端を固定する固定工程と、上記細線2の全てと極細線1との連結部3を巻き取りスプール15における円筒状胴部の帯状溝部(細線巻き取り部)14に巻き取らせた後、上記位置決め機構(テーブル)17を作動させて熱処理された極細線1を巻き取りスプール15における円筒状胴部の所定位置に巻き取る巻き取り工程、を具備することを特徴とするものである。
【0027】
ここで、本発明の極細線1としては、従来のものと較べ直径が10〜15μmと細いため装置セット時において破断され易いものを対象としており、また、上記極細線1の先端側に連結させる本発明の細線2としては、その直径が20μm以上を有し装置セット時において破断され難い従来の極細線を対象としている。
【0028】
そして、本実施の形態に係る熱処理装置と熱処理方法によれば、上記極細線1の先端に連結されかつ極細線1より直径が大きい細線2の全てと極細線1との連結部3が巻き出しスプール6における円筒状胴部の帯状溝部(細線巻き出し部)5に巻回されており、巻き出しスプール6から巻き出される極細線1を装置に組み入れるセット段階においては、極細線1に連結された細線2の先端側を上記張力検出部10や熱処理炉(電気炉)11に通過させてセット作業が行なえるため、作業者の動作に起因して細線2に負荷がかかるような場合でも細線2が破断されることはなく、かつ、細線2が熱処理炉(電気炉)11内に一定時間以上滞留するような場合でも過熱により細線2が破断されるようなことがない。
【0029】
更に、極細線1に連結された細線2の先端側を上記張力検出部10や熱処理炉(電気炉)11に通過させてセット作業を行い、上記細線2の全てと極細線1との連結部3を巻き取りスプール15における円筒状胴部の帯状溝部(細線巻き取り部)14に巻き取らせた後、上記位置決め機構(テーブル)17を作動させて熱処理された極細線1を巻き取りスプール15における円筒状胴部の所定位置(巻き取り部13)に巻き取っていることから、熱処理された極細線1の巻き取り位置と、上記帯状溝部(細線巻き取り部)14における細線2の全てと極細線1との連結部3の巻き取り位置とが区画されて互いに重複していないため、細線2と極細線1との連結部3が熱処理された極細線1に接触して極細線1を破断させてしまうこともない。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0031】
本実施例に係る熱処理装置は、図1に示すように円筒状胴部に巻回された極細線1を巻き出す巻き出しスプール6と、巻き出しスプール6を回転駆動する巻き出しモーター7と、巻き出しスプール6の巻き出し部4から巻き出された極細線1が架け回されるプーリー8と、一端側がプーリー8に接続されかつ他端側が張力検出部10に接続されたアーム9と、接続されたアーム9の角度から極細線1の張力を検出する上記張力検出部10と、張力検出部10の下流側に配置されかつ搬入される極細線1を熱処理する熱処理炉(電気炉)11と、熱処理炉(電気炉)11内に極細線1を搬入させる搬送ベルト12と、上記熱処理炉(電気炉)11の下流側に配置され熱処理された極細線1を円筒状胴部に巻き取る巻き取りスプール15と、巻き取りスプール15を一定の回転速度で回転駆動する巻き取りモーター16と、上記巻き取りスプール15をその回転軸方向へ往復移動(すなわちトラバース)させて円筒状胴部における極細線1の巻き取り位置を規制し所定の巻き取り部13に巻き取らせる(すなわち整列巻きさせる)ための位置決め機構(テーブル)17を備えており、かつ、上記張力検出部10で測定された極細線1の測定信号(すなわち張力信号)を巻出しモーター7にフィードバックして極細線1の張力が一定となるように巻き出しモーター7の回転速度を制御するように構成されている。
【0032】
また、上記巻き出しスプール6における円筒状胴部の両端部側に帯状溝部(細線巻き出し部)5が円周方向に亘って設けられ、また、巻き取りスプール15における円筒状胴部の両端部側に帯状溝部(細線巻き取り部)14が円周方向に亘って設けられており、極細線1の先端に連結されかつ極細線1より直径が大きい細線2の全てと極細線1との連結部3が上記巻き出しスプール6における円筒状胴部の一方の帯状溝部(細線巻き出し部)5に巻回されると共に、巻き出しスプール6から巻き出された細線2の全てと極細線1との連結部3が上記巻き取りスプール15における円筒状胴部の一方の帯状溝部(細線巻き取り部)14に巻回されるようになっている。
【0033】
そして、図1に示された熱処理装置を用いて極細線1の熱処理を行なうには、まず、巻き出しスプール6における上記帯状溝部(細線巻き出し部)5を除いた領域の円筒状胴部に予め巻回させておいた極細線1の先端に、極細線1より直径が大きくかつ所定の長さを有する細線2の一端側を結んで連結部3とした後、上記細線2の全てと極細線1との連結部3を巻き出しスプール6における円筒状胴部の一方の帯状溝部(細線巻き出し部)5に巻回する(巻き取る)。
【0034】
次に、上記細線2の全てと極細線1との連結部3が円筒状胴部における一方の帯状溝部(細線巻き出し部)5に巻回された巻き出しスプール6を、上記巻き出しモーター7の軸に設けられた図示外のスプールホルダ(取り付け部)に取り付けると共に、上記巻き出しスプール6の帯状溝部(細線巻き出し部)5から細線2の先端側(極細線1に結び付けられた細線2の他端側)を摘んで巻き出した後、細線2の先端を張力検出部10のプーリー8に架け回し、かつ、細線2の先端側を搬送ベルト12の把持部(図示せず)に取り付けて熱処理炉(電気炉)11内に細線2を搬入させ、更に、熱処理炉(電気炉)11から搬出される細線2の先端側を上記巻き取りスプール15における円筒状胴部の一方の帯状溝部(細線巻き取り部)14に固定する。
【0035】
尚、装置への組み入れ(セット)段階において、極細線1に連結された細線2の先端を上記張力検出部10のプーリー8や熱処理炉(電気炉)11に通過させてセット作業が行なえるため、作業者のセット動作に起因して細線2に負荷がかかるような場合でも細線2が破断されることはなく、かつ、細線2が熱処理炉(電気炉)11内に一定時間以上滞留するような場合でも過熱により細線2が軟化して破断されるようなことがない。
【0036】
次に、本熱処理装置への組み入れ(セット)が完了した後、熱処理装置の操作を開始する。そして、巻き取りモーター16が回転して上記巻き取りスプール15を一定量回転させると、細線2の全てと極細線1との連結部3が巻き取りスプール15の帯状溝部(細線巻き取り部)14に巻き取られ、このタイミングを巻き取りモーター16の回転数で検出すると、上記位置決め機構(テーブル)17が作動して巻き取りスプール15をその回転軸方向へ往復移動(すなわちトラバース)させ、巻き取りスプール15における所定の巻き取り部13に熱処理された極細線1が巻き取られる(すなわち整列巻きされる)。
【0037】
そして、熱処理された極細線1が巻き取りスプール15の巻き取り部13に巻き取られる上記整列巻きの処理過程において、極細線1に張力が作用し、熱処理炉(電気炉)11内を極細線1が通過するが、操作開始後、巻き出しスプール6は既に一定の速度で回転しているため張力の変動による破断力はなく、また、操作開始後の自動運転中であることから、熱処理炉(電気炉)11内での極細線1の滞留も短時間であるため極細線1の断線も起こらない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る熱処理装置と熱処理方法によれば、極細線を熱処理する際に発生し易い極細線の断線が防止されるため、細線加工を施した極細線の機械的欠陥を回復させるための熱処理に適用できる産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0039】
1 極細線
2 細線
3 連結部
4 巻き出し部(極細線巻き出し部)
5 帯状溝部(細線巻き出し部)
6 巻き出しスプール
7 巻き出しモーター
8 プーリー
9 アーム
10 張力検出部
11 熱処理炉(電気炉)
12 搬送ベルト
13 巻き取り部(極細線巻き取り部)
14 帯状溝部(細線巻き取り部)
15 巻き取りスプール
16 巻き取りモーター
17 位置決め機構(テーブル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状胴部に巻回された極細線を巻き出す巻き出しスプールと、巻き出しスプールを回転駆動する巻き出しモーターと、巻き出しスプールから巻き出された極細線の張力を測定しその測定信号を上記巻出しモーターにフィードバックして極細線の張力が一定となるように巻き出しモーターの回転速度を制御する張力検出部と、張力検出部の下流側に配置され搬送される極細線を熱処理する熱処理炉と、熱処理炉の下流側に配置され熱処理された極細線を円筒状胴部に巻き取る巻き取りスプールと、巻き取りスプールを一定の回転速度で回転駆動する巻き取りモーターと、上記巻き取りスプールを回転軸方向へ往復移動させて円筒状胴部における極細線の巻き取り位置を制御する位置決め機構を備える熱処理装置において、
上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側に、帯状溝部が円周方向に亘って設けられており、かつ、上記巻き出しスプールの円筒状胴部に巻回された極細線の先端に極細線より直径が大きい細線が連結されると共に、上記細線の全てと極細線との連結部が巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻回されるようになっていることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
上記巻き出しスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側に、帯状溝部が円周方向に亘って設けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
上記巻き出しスプールにおける円筒状胴部の両端部側、および、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の両端部側に、帯状溝部が円周方向に亘ってそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項2に記載の熱処理装置。
【請求項4】
円筒状胴部に巻回された極細線を巻き出す巻き出しスプールと、巻き出しスプールを回転駆動する巻き出しモーターと、巻き出しスプールから巻き出された極細線の張力を測定しその測定信号を上記巻出しモーターにフィードバックして極細線の張力が一定となるように巻き出しモーターの回転速度を制御する張力検出部と、張力検出部の下流側に配置され搬送される極細線を熱処理する熱処理炉と、熱処理炉の下流側に配置され熱処理された極細線を円筒状胴部に巻き取る巻き取りスプールと、巻き取りスプールを一定の回転速度で回転駆動する巻き取りモーターと、上記巻き取りスプールを回転軸方向へ往復移動させて円筒状胴部における極細線の巻き取り位置を制御する位置決め機構を備え、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側に、帯状溝部が円周方向に亘って設けられている熱処理装置を用いて極細線の熱処理を行なう方法において、
上記極細線が円筒状胴部に巻回された巻き出しスプールを、上記巻き出しモーターの取り付け部に取り付ける取り付け工程と、
上記巻き出しスプールの円筒状胴部に巻回された極細線の先端に、極細線より直径が大きい細線を連結する連結工程と、
極細線の先端に連結された細線の先端を上記張力検出部と熱処理炉を通過させた後、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に細線の先端を固定する固定工程と、
上記細線の全てと極細線との連結部を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻き取らせた後、上記位置決め機構を作動させて熱処理された極細線を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の所定位置に巻き取る巻き取り工程、
を具備することを特徴とする極細線の熱処理方法。
【請求項5】
円筒状胴部に巻回された極細線を巻き出す巻き出しスプールと、巻き出しスプールを回転駆動する巻き出しモーターと、巻き出しスプールから巻き出された極細線の張力を測定しその測定信号を上記巻出しモーターにフィードバックして極細線の張力が一定となるように巻き出しモーターの回転速度を制御する張力検出部と、張力検出部の下流側に配置され搬送される極細線を熱処理する熱処理炉と、熱処理炉の下流側に配置され熱処理された極細線を円筒状胴部に巻き取る巻き取りスプールと、巻き取りスプールを一定の回転速度で回転駆動する巻き取りモーターと、上記巻き取りスプールを回転軸方向へ往復移動させて円筒状胴部における極細線の巻き取り位置を制御する位置決め機構を備え、上記巻き出しスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側、および、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の少なくとも一方の端部側に、帯状溝部が円周方向に亘ってそれぞれ設けられている熱処理装置を用いて極細線の熱処理を行なう方法において、
上記巻き出しスプールの円筒状胴部に巻回された極細線の先端に、極細線より直径が大きい細線を連結する連結工程と、
上記細線の全てと極細線との連結部を巻き出しスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻回する巻回工程と、
細線の全てと極細線との連結部が円筒状胴部の帯状溝部に巻回された巻き出しスプールを、上記巻き出しモーターの取り付け部に取り付ける取り付け工程と、
上記巻き出しスプールの帯状溝部から細線を巻き出すと共に、細線の先端を上記張力検出部と熱処理炉を通過させた後、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に細線の先端を固定する固定工程と、
上記細線の全てと極細線との連結部を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の帯状溝部に巻き取らせた後、上記位置決め機構を作動させて熱処理された極細線を巻き取りスプールにおける円筒状胴部の所定位置に巻き取る巻き取り工程、
を具備することを特徴とする極細線の熱処理方法。
【請求項6】
上記巻き出しスプールにおける円筒状胴部の両端部側、および、上記巻き取りスプールにおける円筒状胴部の両端部側に、帯状溝部が円周方向に亘ってそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項5に記載の極細線の熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−241275(P2012−241275A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115730(P2011−115730)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】