説明

熱分析装置

【課題】熱流速モードを利用した、より高度な再現性及び精度を有する熱分析装置、特に示差走査熱量計を提供する。
【解決手段】熱分析装置は、試料206を受容するための試料位置201と、基準位置202と、試料位置201及び基準位置202に関連付けられている加熱手段と、時間対温度の名目値の所定の温度プログラムに設定する手段と、試料位置201における試料温度を測定するための第1のセンサーと、更に、前記加熱手段の加熱電力を制御するコントローラーを含んでいて、前記加熱手段203、204の加熱電力が、前記試料の測定温度を前記所定の温度プログラムに実質上、従わせるように制御されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンハンス熱流束モードを利用した熱分析装置、及びそのような装置を操作する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分析装置は、一般に、温度変化にさらされているか、及び/又は温度プログラムにさらされている試料の異なる性質及び特性を測定するために使用される。
【0003】
そのような熱分析装置に関してよく知られている例が、熱量計及び特に示差(differential)走査熱量計(DSC)である。DSCは、温度に対する試料又は試料物質の物理的又は化学的な特性変化を記録するために利用される。例えば、温度変化によって試料に発生する転移、及びその他の影響に伴う発熱事象又は吸熱事象に対する熱流量測定がある。空の基準位置又は適切な基準物質があり得る基準に対する試料内部の変化が測定され得る。DSCの種類に従って、基準物質又は試料物質が測定位置(試料位置又は基準位置)それぞれに直接配置され得るか、又はその後、それが測定位置に配置される適切な「るつぼ」に配置され得る。
【0004】
非常に薄いフィルム、及びマイクログラム又はナノグラム範囲の質量を有する粒子の分析用の、多くの場合シリコン技術に基づく異なるチップタイプ熱量計が開発されている。高速DSCなどこれらのチップタイプ熱量計の異なる用途に関する概要がA.W.van Herwaardenによる「Overview of Calorimeter Chips for Various Applications」,Thermochimica Acta,432(2005),192−201に与えられている。
【0005】
熱分析装置に関する主に2つの制御の原理又はモードがよく知られていて、これらは熱流束及び電力補償である。
【0006】
電力補償は、加熱電力を制御するか、又は試料位置においてしばしば補償加熱器として参照されている追加加熱器を配置し別個に制御することによって、通常、熱分析装置内に実装されている。試料位置、基準位置、及び前記測定位置の1つに配置される任意の物質が、測定位置それぞれに対し、加熱器それぞれによって適用される温度プログラムにさらされる。試料加熱器は単に、基準加熱器によって送信される加熱電力を模倣する。前記補償加熱器は、相転移を介しそれを実行するための、試料を加熱するために必要とされる任意の過剰電力を送信するために使用されると同時に、試料位置と基準位置との間の温度差が実質上、0に留まるように制御される。
【0007】
熱流束原理は、多くの場合、試料位置及び基準位置を含む共通のホルダーを有する熱量計のような熱分析装置に実装される。ホルダーは、共通加熱器に関連付けられていて、その加熱電力は、基準位置の温度によって制御される。加熱器と試料位置と基準位置との間の熱伝導率経路は明確であって、試料及び基準の温度信号から算出される熱流量が、量的に分析され得る。
【0008】
熱流束モードにおいて、基準位置及び試料位置に対する加熱電力は、温度プログラムに従った基準位置における実際の温度によって制御される。残念ながら試料温度は、設定プログラム温度から実質上、迂回し得、試料温度は時間に対して、実質上、非線形であり得るが、特に緩和が比較的ゆっくりしているとき、試料は熱事象を被るか及び/又は緩和している。更に、試料の真の熱流量決定に関して、この決定は一般に、熱特性のいくつかの誤差に対して非常に高精度であるので、これらの特性すべてを高精度に知っている必要がある。これらの欠如が例えば、誤差のある測定結果をもたらし得る。
【0009】
したがって、熱流束原理の前述された欠点を克服した、より高度な再現性及び精度を有する結果を提供する、熱分析装置、特に熱分析熱流束装置を開発することは好都合であり得る。
【0010】
そのような熱分析装置の開発は、標準的熱流束原理の枠組みの中では実現され得ない。用語「標準的」熱流束原理は、既知の原理を参照している。基準位置及び試料位置を例えば、熱流束を用いて熱分析装置内部で制御されている条件下で加熱するときの熱流量に関する基本原理を図1を参照し、一般化された方法で説明する。基準位置及び試料位置は、「測定位置」としても参照されている。
【0011】
図1は、共通加熱器(13)又は(本明細書に示されていない)個別加熱器のどちらか一方に関連付けられている試料位置(1)及び基準位置(2)の略図を示している。試料(6)は試料位置(1)に配置され、基準位置(2)は望ましくは空である。この状況に関して、基準位置と(2)に入出力する熱流量すべては、1つの真の熱流量
【0012】
【数1】

【0013】
として算定される。試料位置(1)への真の熱流量は、
【0014】
【数2】

【0015】
によって表される。基準位置(2)及び試料位置(1)における温度は、T及びTであって、測定位置それぞれにおいて一定であると仮定される。
【0016】
試料位置(1)におけるエネルギー収支は以下要求する。
【0017】
【数3】

【0018】
は試料位置の熱容量、mは試料の質量、及びCは試料(6)、具体的には試料物質の比熱、
【0019】
【数4】

【0020】
は試料(6)内部の熱事象から発する試料(6)に向かう熱流量を示している。同様に、基準位置(2)に関するエネルギー収支は、以下のように表され得る。
【0021】
【数5】

【0022】
ここでCは、基準位置の熱容量である。
【0023】
これらの算定に関して、基準位置(2)は空であって、任意の基準物質に関連付けられていないと仮定する。それでも原則として基準物質又は物質の使用があり得る。
【0024】
方程式(1)及び(2)が、以下に表すように減算され得る。
【0025】
【数6】

【0026】
方程式(3)の左辺は、測定位置(1,2)の間の真の熱流量の不均衡、又は言い換えると、測定位置(1,2)双方の間の差として得られる、入力から出力を差し引いた熱流量を表している。左辺は、周囲の環境に効率よく適用された加熱電力、及び/又は熱抵抗においては測定位置(1,2)の間の差と、場合によっては試料位置と基準位置との間の直接の熱流量と、からの寄与を含む。方程式(3)の右辺は、実質的な示差熱容量、又は2つの空の測定位置(1,2)の間の熱不均衡、試料(6)の熱容量、及び試料(6)内部に生じる任意の熱事象から発する測定位置(1,2)の間の示差熱消費率を表している。
【0027】
方程式(3)は、試料(6)へ向かう真の熱流量に関して解くと、以下を導く。
【0028】
【数7】

【0029】
実際の設定、具体的には、共通加熱器(13)又は測定位置(1,2)に関する個別加熱器の使用、に従うと
【0030】
【数8】

【0031】
及び
【0032】
【数9】

【0033】
は、加熱器(13)と測定位置(1,2)との間、測定位置(1,2)と熱環境との間、及び/又は相互の試料位置(1)と基準位置(2)との間の熱流量からの寄与を含む。通常、これらの項それぞれは、熱抵抗上で差温によって駆動される熱流量として表され得る。関与する熱抵抗及び温度すべてが明確である場合、量的な結果は、方程式(4)の示差熱流量項
【0034】
【数10】

【0035】
に関して、取得され得るが、実際問題として、これらの熱特性における小さな誤差が、真の熱流量信号における大きな相対的誤差をもたらし得る。
【0036】
基準温度Tは、熱分析装置に標準的熱流束原理を実装するとき、所定の温度プログラムに従うように制御される。この温度プログラムは、例えば、時間セグメントから構成され得、それぞれの間、Tは一定の値−等温線−に留まるか又は時間とともに線形に変化する。したがって、その時間導関数
【0037】
【数11】

【0038】
は、少なくとも1つのプログラムセグメント内において時間独立であって、方程式(3)は以下のように書き直され得る。
【0039】
【数12】

【0040】
ここで、
【0041】
【数13】

【0042】
は走査速度を示していて、ΔT=T−Tは測定位置(1,2)の間の差温を示している。
【0043】
非極限条件下において、示差熱容量|C−C|は、試料の熱量m・Cと比較して小さいと仮定され得、方程式(5)の真の熱流量は更に、以下ように減少され得る。
【0044】
【数14】

【0045】
ここでC≒C≡Cである。
【0046】
又は真の熱流量に関して解くと、
【0047】
【数15】

【0048】
実質上、一定の加熱器及び/又は周囲の環境の温度、並びに試料位置(1)及び基準位置(2)を熱的環境それぞれに接続している熱抵抗間の基本的対称性を仮定すると、方程式(7)における真の熱流量の項は、測定位置(1,2)の間の温度差ΔTに比例する項によって占められる。これは、定常状態下において
【0049】
【数16】

【0050】
が実質上、0であるとき、熱事象の更なる発生もせずに、入り口効果の緩和後、ΔTが実質上、一定値に留まることを意味している。
【0051】
ΔTの値は、以下によって近似され得る。
【0052】
【数17】

【0053】
ここでZは、様々な機能の熱抵抗に寄与する試料位置と基準位置との間における有効熱抵抗である。
【0054】
差温ΔTは、試料(6)内部に生じる任意の熱事象の間、変化し、試料温度Tと設定プログラム温度との間に更なる不一致をもたらす。これは更に、試料温度Tの時間依存性に非線形性を誘発する。
【0055】
【数18】

【0056】
熱事象後、
【0057】
【数19】

【0058】
が実質上、0に戻ると、ΔTは、時定数(9)を伴う指数関数的減衰し、その定常状態値(方程式8)に向かう緩和をする。
【0059】
試料(6)内部に発生する熱事象に対する総転移エンタルピーは、以下によって与えられ得る。
【0060】
【数20】

【0061】
積分は、熱事象開始前の時点であるt=tから定常状態が熱事象から緩和後、復旧されるときt=tまで実行される。
【0062】
及びTを、t=t及びt=tにおいて設定されるプログラム温度とする。T<T<Tに関してC(T)が一定である仮定を用いると、方程式(10)の積分が部分評価され得、以下となる。
【0063】
【数21】

【0064】
方程式(11)の第1項は、曲線下の領域、第2項は補間基線下の領域、及び第3項は誤差の項を与える。すべての特性が無限の精度を用いて即座に測定されると仮定した理想的な条件下において、第1項から時間に関する被積分の描画は、誤差の第3項からの寄与を除き遷移の最大点によって中断される水平直線である曲線をもたらす。誤差の第3項が、ΔT≒ΔTの場合、消去される。この条件下において、曲線と補間基線との間の領域として試料の転移エンタルピーが決定され得る。
【0065】
残念なことに実験条件は通常、前述されている理想的状態からかけ離れている。緩和後であっても、完全な実験条件ΔT≠ΔT下においては、誤差項が常に考慮される必要があって、したがって無視され得ない。更に、方程式(11)の真の熱流量の項は、ほとんど等しい大きさの数の減算を含んでいて、クリティカルに精度に依存し、したがってそれによって基本的式及び特性が決定され得る。これらの累積的な不正確性原因の結果として、描画結果は、実証的な手段によってのみ修正され得る基線の変動及び湾曲を示している。
【0066】
標準的熱流量の実験の間、試料温度が、基準温度及びそれに伴うプログラム温度に遅行していて、実際の試料温度と基準温度との間に熱遅延及び時間差が生じ得る。
【0067】
まとめると、標準的熱流動を用いた熱分析装置の実現は、装置が実世界の必然的な制限から悩まされるいくつかの欠点を有する。試料温度Tは、所与のプログラム温度から実質上、迂回し得る。
【0068】
試料温度の時間導関数
【0069】
【数22】

【0070】
は、試料内部の熱事象からの緩和するとき及びその間、実質上、非一定である。熱事象からの緩和は、電力補償を使用する装置と比較するとゆっくりであって、試料の真の熱流量決定は、所定の測定熱特性の不正確性に対し感度が高い。
【0071】
これらの欠点が、例えば、チップタイプ熱量計及びDSCなど小規模な熱分析装置に対してより強まる。
【0072】
更に、熱分析装置は一般に、電力補償モード又は熱流束モードのどちらか一方に対し設計されていて、2つの原理又はモードを支援するための異なる装置が必要である。したがって、電力補償モードとヒート・フィリー(heat filly)モードとを切り換え可能な装置を開発することも好都合であり得る。
【0073】
電力補償に関しては、試料位置及び基準位置が熱的に分離されていることが不可欠である。熱流量測定は、原則として基準位置と試料位置と周囲の環境との間の熱伝導率経路が明確である限り、熱的に分離された測定位置を使用し、実行され得る。
【0074】
熱的に分離されている測定位置を含む熱分析装置を用いた熱流束原理の実現もまた減少した試料サイズを用いると、より強まる欠点のいくつかを産み出す。結局のところ試料位置と基準位置との間に直接の熱流動がないとき、測定位置に出入りする大量に減算された熱流量から熱流量信号が発している。試料が小さければ小さいほど、これら大量の熱流量は、より距離が縮まり、熱流量信号が誤差に対し、ますます高感度になり、及び/又は大量の熱流量の中で不正確になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0075】
【非特許文献1】A. W. van Herwaarden "Overview of Calorimeter Chips for Various Applications", Thermochimica Acta, 432 (2005), 192-201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0076】
本発明の目的は、前述されたような標準的熱流束原理の欠点の影響を解消するか、又は少なくとも低減する、改善された熱流束原理に関する設定開発にある。
【課題を解決するための手段】
【0077】
本目的は、試料を受容するための試料位置、基準位置、試料位置及び基準位置に関連付けられている加熱手段、時間に対して所定の名目値の温度プログラムに設定する手段、試料位置における試料温度を測定するための第1のセンサーと、を含んでいて、更に、前記加熱手段の加熱電力を制御するコントローラーを含む熱分析装置、具体的には示差走査熱量計によって、達成される。前記加熱手段の加熱電力は、前記試料の測定温度を実質上、前記温度プログラムに従わせるように制御される。
【0078】
標準的熱流束装置に関して、むしろ加熱電力は、基準の測定温度又は加熱手段の温度によっても制御されていて、前述された欠点を生じる。温度プログラムを試料位置に提供し、実際の温度又は試料の測定温度を介し加熱電力を制御することは、設定プログラム温度から試料温度の逸脱を実質上、解消する。このエンハンス熱流量のエレメントは、試料の一種のアクティブ制御を表している。本発明による熱流束原理又はモードを既知の熱流量又は「標準的」熱流量からそれを区別するために、「エンハンス」熱流動として参照する。
【0079】
実験の間、基準温度は、状況制御された標準的基準の対称像である試料温度に先行する温度であるが、標準的熱流動と違って設定プログラム温度からの基準温度転換は、劇的な遅延減少をもたらす試料温度と設定プログラム温度との間の関係に影響を及ぼさない。
【0080】
更に、試料温度の直接制御は、事象の中、立ち上がりエッジ勾配を増大させる結果も生じる。標準的熱流束モードにおいて、熱が試料に伝達される速度は、試料位置と基準位置との間の実質的に一定の熱抵抗によって制限され、試料位置と基準位置との間の熱流量に対する固定した制約を置く。エンハンス熱流束モードにおける試料が、試料位置と基準位置との間の熱量における不均衡に関連する、より大きな熱量を有する試料に対して特に好都合であって、コントローラーによってその相転移を介し、アクティブに引き込まれる。
【0081】
熱分析装置は更に、基準位置における基準温度を測定するための第2のセンサーを含む。試料位置と基準位置との間に生じる温度差、すなわち差温が決定され得、測定信号もまた提示し得る。
【0082】
例えば、センサーは、測定位置それぞれにおける温度を決定するための、試料位置に関連付けられている少なくとも1つの熱電対と、基準位置に関連付けられている少なくとも1つの熱電対と、を有するサーモパイル配置を含み得る。試料位置及び基準位置が、個別のサーモパイル処理に関連付けられることもあり得る。それぞれの測定位置における温度が、一般的に知られている別の温度測定装置又はセンサー、例えば、抵抗温度計又は半導体ベースセンサーによっても測定され得る。
【0083】
望ましくは、基準位置は空であるが、例示的な実施形態において、基準位置が適切な基準物質又は材料にも関連付けられ得る。これは、冷却実験のようないくつかの実験的状況に対して好都合である。
【0084】
加熱手段は、試料位置及び基準位置に関連付けられている共通加熱器を含み得るか、又は加熱手段は、個別加熱器−基準位置に関連付けられている基準加熱器及び試料位置に関連付けられている試料加熱器−を含み得る。
【0085】
例示的な実施形態において、測定位置は、試料位置と基準位置との間の熱クロストークが小さいか又は無視さえされ得る方法によって設計され、これは特に、それが単一の熱分析装置において、エンハンス熱流束と電力補償の原理とを結合可能にするため好都合である。
【0086】
望ましくは、加熱器は特に、小規模な試料のサイズ及び量に対する装置として適切な抵抗加熱器である。抵抗加熱器のほかに別の任意の種類の加熱器も使用可能であって、具体的には、そのような熱分析装置、例えば、誘導加熱器又はレーザー加熱器に関しても、使用済か又は既に使用されていることもあり得る。
【0087】
試料位置及び基準位置は、共通ホルダーに配置され得るか、又はそれらが個別又は別個のホルダーに配置され得る。ホルダーは、この文脈において、基板又は構造として理解され、その上にそれぞれの測定位置が配置又は形成される。個別ホルダーを有する熱分析装置は、特に双方の原理が利用され得るような熱流束と電力補償との間を切り換え可能な装置に適している。共通ホルダー又は個別ホルダー上の配置のほかに測定位置が、共通又は個別炉又はセンサーなど同一又は異なる環境にも配置され得る。
【0088】
試料位置及び基準位置が、試料位置と基準位置との間の熱量における不均衡を最小限に保つために、実質上、対称を提示することが更に好都合となる。更に、試料位置及び基準位置の低熱慣性がエンハンス熱流量の実現にとって重要であって、というのは、本システムが実験の時間尺度に関して試料に生じる熱事象の間、加熱電力におけるあり得る大きな変動に対し迅速に反応する必要があり得るからである。
【0089】
例示的な実施形態において、熱分析装置は、等周温条件下で作動される熱流束熱量計である。等周温熱量計において、周囲の温度は一定を留めているが、試料の温度は、周囲の温度と異なり得る。例示的な実施形態において、熱分析装置は、示差走査熱量計、例えば、チップタイプ熱量計として設計される。これらのタイプの装置は、あり得る装置の例に過ぎない。本発明による熱分析装置は、少なくとも試料位置及び基準位置を有する任意のタイプの装置であり得る。標準的熱流動は、例えば、示差走査熱量計(DSC)並びにDSC及び熱重量分析(TGA)とそれと結合した分析装置を用いて実現されていた。これら及び関連装置もエンハンス熱流量を用いて実現され得る。
【0090】
エンハンス熱流束原理は、加熱器から試料位置に配置されている試料へ熱を伝達する際に関与する時定数が試料に生じる熱事象の間、大きな勾配発生を防ぐために十分低いとき、適用され得る。
【0091】
本発明によるエンハンス熱流束モードは、試料温度がプログラム温度に遅行する標準的熱流束モードを上回るいくつかの利点を有する。例えば、標準的熱流束モードは、一次相転移を被る試料物質の加熱走査又は冷却走査に対する相転移最大点の開始遅延をもたらし、更に、試料温度において長期の非線形性期間が発生し得る。本発明によるエンハンス熱流束モードは、双方の影響を解消し、遅延が大幅に低減され得、それは理想的に実質上、0であり得る。その上、標準的熱流束原理に関しては、開始部分の勾配又は最大点の立ち上がりエッジは一般に、加熱率全体によって制限される。エンハンス熱流束原理に関しては、これは事実と異なる。エンハンス熱流束原理はより急なエッジを作り出し、温度最大点に関してより狭い最大点、及びより少ない遅延をもたらす。結局のところ、緩和も更に、エンハンス原理のため、より高速でもあって、間隔の狭い最大点に寄与する。
【0092】
熱分析装置を制御するための本発明による方法は、試料を受容するための試料位置と、基準位置と、試料位置及び基準位置に関連付けられている加熱手段と、時間に対して所定の名目値の温度プログラムに設定する手段と、試料位置における試料温度を測定するための第1のセンサーと、を有していて、前記加熱手段の加熱電力を制御するコントローラーが、試料位置に試料を配置し、加熱手段の2つの加熱電力を制御することによって所定の温度プログラムを試料位置及び基準位置に適用し、時間関数として試料温度を決定するステップと、を含む方法。試料の測定温度が、その後、前記試料の測定温度を前記所定の温度プログラムに実質上、従わせるために前記加熱手段の加熱電力を制御するように、使用され得る。
【0093】
望ましくは、試料の熱量は、基準位置と試料位置との間の熱量における不均衡と比較して常に大きい。
【0094】
加熱手段は、試料位置及び基準位置に関連付けられている共通の加熱器を含み得るか又はそれは、個別の加熱器−基準位置に関連付けられている基準加熱器及び試料位置に関連付けられている試料加熱器−を含み得る。
【0095】
試料への真の熱流量は、試料位置と基準位置との間に生じる差温測定から導き出され得る。有効加熱電力の測定位置間の不均衡及び/又は環境への熱流量も試料への真の熱流量に寄与し得る。
【0096】
試料温度を介するアクティブ制御によって試料温度及びプログラム温度は、実質上、同一であって、熱遅延の主成分は、したがって解消され得る。
【0097】
前に提示された方程式に関して更に、まず一番先にSは、ここで基準温度Tというよりもむしろ試料温度Tの時間導関数を表していて、試料温度Tが時間と共に線形に変化することを意味している。これから、時間及び試料温度軸が完全に比例し、自由に交換され得ることがわかる。
【0098】
更に、熱事象からの緩和に関する時定数はZ・(C+m・C)からZ・Cへ低下し、熱事象後、差基線に戻って、より高速の指数関数的減衰、試料位置の熱量に関し比較的大きな熱量を有する試料に対し、より顕著になる差をもたらす。ここで緩和時間が試料位置の代わりに基準位置によって決定される。これは、試料によって寄与されている更なる慣性がないために、改善されたシステムの応答結果である。
【0099】
エンハンス熱流束原理の更なる利点は、最大点の高さと幅の比率が、2つの別個の機構によって改善されることである。開始時の勾配は、アクティブ試料制御のために増大するが、緩和時間は、支配的時定数が試料位置の時定数よりも望ましくは、空の基準位置の時定数であるため減少する。
【0100】
本発明を後の図面を参照し以下、より詳細に説明する。熱抵抗を記号Zによって表し、電気抵抗Rとの混乱を避ける。図面は、以下を示している。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】熱分析熱流束装置における熱流量の簡略図表示。
【図2】試料位置及び基準位置に対する対称の測定位置及び個別加熱器を実質上、有する熱流束熱分析装置における熱流量の略図。
【図3】標準的熱流動を有するDSC用電子設定。
【図4】エンハンス熱流量を有するDSC用電子設定。
【図5】熱事象中の図3による設定に関する温度−時間の図。
【図6】熱事象中の図4による設定に関する温度−時間の図。
【図7】電力補償、標準的熱流動、及びエンハンス熱流量を用いた差分電力に対するインジウム(5μg,1000K/s)の融点比較計測に関する時間の図。
【発明を実施するための形態】
【0102】
上記詳述されているように、図1は、熱流束熱分析装置における熱流動の略図を示している。基準位置及び試料位置は、「測定位置」としても参照される。
【0103】
図2は、熱分析装置(205)内部の熱流量を図的に示している。熱分析装置(205)は、試料位置(201)、基準位置(202)、試料加熱器(203)、及び基準加熱器(204)を含む。試料位置(201)、基準位置(202)、及び加熱器(203,204)は、本明細書だけに示されている熱分析装置(205)に含まれていて、周囲状況も表す同一の温度Tに留まることを仮定している。熱分析装置(205)は、望ましくは、等周温条件下で作動され、個別の加熱器(203,204)を有する実質上、対称的な測定位置(201,202)を有する。
【0104】
熱流量が図2によってモデル化され得るための装置に関する例は、個別加熱器を有するチップタイプ示差走査熱量計である。
【0105】
様々な熱流量が状況に関する矢印によって示されていて、試料(206)が、試料位置(201)に配置されていて、それぞれの加熱器(203,204)が、所定の共通温度プログラムに従って測定位置(201,202)の双方に加熱電力を提供している。所定の温度プログラムは特に、加熱器(203,204)が抵抗加熱器であるとき、電圧プログラムでもあり得る。
【0106】
加熱器(203,204)は、それぞれの測定位置(201,202)に加熱電力を送信する電気抵抗加熱器として設計され得る。2つの加熱器(203,204)の加熱電力は、加熱器(203,204)が正確な同一電圧プログラムにさらされたときでも、必ずしも等価でなくて、理由は加熱電力が電気加熱抵抗に逆比例し、温度に大きく依存しているからである。測定位置(201,202)の間の温度差は、試料において熱遷移する間、かなりの規模になり得るので、この効果は無視され得ない。
【0107】
試料(206)における熱流量算定に関しては、図2に示されている熱流量すべてが考慮される必要がある。電気抵抗Rとの混乱を避けるために、熱抵抗に記号Zを与える。更に、試料位置(ample)、基準位置(eference position)、加熱器(eater)、及び周囲の環境(nvironment)を表す添字、及びによって用語を特徴付ける。
【0108】
【数23】

【0109】
は、項
【0110】
【数24】

【0111】
の時間導関数を示している。
【0112】
試料位置(201)におけるエネルギー収支は、以下の方程式(1a)に従って、以下要求する。
【0113】
【数25】

【0114】
ここで
【0115】
【数26】

【0116】
【数27】

【0117】
は、試料加熱器(203)によって時間単位に生成される熱であって、試料位置(201)に流れる。
【0118】
【数28】

【0119】
は、基準位置(202)から試料位置(201)への熱流量であって、
【0120】
【数29】

【0121】
は、試料位置(201)から周囲の環境(205)への熱流量である。Cは、試料位置の熱容量、mは質量、Cは試料(206)の比熱、特に試料物質の熱容量を示している。Tは、試料位置(201)における温度であって、試料(206)の温度と等価と仮定される。
【0122】
【数30】

【0123】
は、試料(206)内部の熱事象から発する試料(206)への熱流量である。Tは基準位置(202)における温度、Tは周囲の環境(205)の温度、Uは測定位置(201,202)の加熱器(203,204)に適用される電圧、Rは試料加熱器(203)の電気抵抗を示していて、ZRS及びZSEは測定位置(201,202)の間、試料位置(201)と周囲の環境(205)との間の熱抵抗それぞれを示す。
【0124】
同様に基準位置(202)に関するエネルギー収支は、方程式(2)に従って以下のように表され得る。
【0125】
【数31】

【0126】
ここで
【0127】
【数32】

【0128】
かつ
【0129】
【数33】

【0130】
である。
【0131】
【数34】

【0132】
は基準加熱器(204)によって時間単位に生成される熱であって、
【0133】
【数35】

【0134】
は基準位置(202)から周囲の環境(205)への熱流量である。Cは熱容量、Tは基準位置(202)の温度である。Rは基準加熱器(204)の電気抵抗、ZREは基準位置(202)と周囲の環境(205)との間の熱抵抗を示す。
【0135】
これらの算定に関しては、基準位置(202)が空であって、任意の基準物質に関連付けられていないと仮定されている。それでも原則として基準物質を使用することがあり得る。
【0136】
それは、測定位置(201,202)の間の熱クロストークが最小になったとき、好都合である。これは、図2に関して説明されているように熱的に分離されている測定位置に対し達成され得る。
【0137】
熱クロストークは、それが小さい場合、無視され得る。さもなければ、実際の熱クロストークが考慮されるべきであって、所与の熱分析装置(205)に対し、冷却実行及び加熱実行を比較することによって、実験的に決定され得、実行それぞれは、前記影響に対する異符号を示す。最初、測定位置の間の熱不均衡が、冷却実行及び加熱実行するための空の測定位置を用いて決定され得る。好都合なことに、これらの測定値は、加熱実行と冷却実行の間にどんな大きな非対称も示さず、試料位置と基準位置との間の実際の熱不均衡が無視できる程度に小さいことを意味している。一旦、この量がわかると、既知の熱量及び空の基準位置を用いて試料物質に対し、実験が実行され得る。空の位置双方の実質的な差に対する修正後、測定熱量が決定され得、既知の量と比較され得る。加熱実行と冷却実行との間の測定熱量の任意の差が、熱クロストークに関する指標である。
【0138】
熱クロストークが無視できるという仮定の下で、これらの方程式を以下に代入することによって、前述された方程式(3)〜(11)に近似し、解くことができる。
【0139】
【数36】

【0140】
方程式(8)及び(9)は一次近似として不変であるが、ここでZは、電気項からの寄与を無視した試料位置と基準位置との間の平均の測定位置と周囲の環境との間の熱抵抗を表している。標準的熱流動を使用する実際の設定において、特にチップタイプ熱量計を用いて以下のことが観測される必要があって、試料温度Tと所与又は所定のプログラム温度Tsetとの間の温度差が、空気/窒素及びm・c・S=10−8−10−2K/s下でZ=0.5−1×10K/Wの実数値を使用し、方程式(8)を用いて、例示的に算定され得るように模範的に、容易に数十度に達し得る。
【0141】
更に、数学的操作すべて、特に減算は、精度にクリティカルに依存し、それによって個別の特性が決定され得る。
これは、具体的に熱抵抗Zに対して重要である。熱抵抗Zは、直接に決定され得ないが、装置の較正中に決定される特性から算定される必要がある。特に、等周温条件化の熱量計において、例えば、チップタイプ熱量計においては、試料位置に配置される任意の試料は、周囲の環境に考慮されなければならない試料位置の熱抵抗ZSEに影響を与える。更に、特にもっと程度の進んだシステムは理想的状態からかけ離れていて、ある程度すべてが利用できない仮定及び簡素化のいくつかが標準的熱流動に関する算定に関連し、実行されている。例えば、熱容量Cに関する一定値を含むこれら仮定は、空の測定位置の熱容量及びチップタイプ熱量計の場合は、試料の幾何学的安定性と等価である。実験条件が実質上、理想的な状態と大幅に異なり得るので、結果となる描画は、基線変動及び湾曲を示し、実証的な手段によってのみ修正され得る。
【0142】
チップタイプ熱量計は、熱的に分離されている測定位置を含み得る適切な熱分析装置の例を表している。
【0143】
特に−チップタイプ熱量計のように−微小規模に対し実装されるとき、前述されたような設定は、標準的熱流動の前述の欠点に、より影響されやすい。したがって、本発明によるエンハンス熱流量の実装は、特に好都合である。
【0144】
図3は、標準的熱流束原理を用いて作動されるDSCなどの熱分析装置の電子設定を示している。
【0145】
図3に示されているDSCは、試料位置(301)及び基準位置(302)を含む。試料又は試料物質は試料位置(301)に配置され得、基準物質は基準位置(302)に配置され得る。望ましくは、測定が基準物質を必要とせずに実行される。
【0146】
試料位置(301)は、試料加熱器(303)と熱的に接触している。試料位置(301)における温度は、少なくとも1つの熱電対を有するサーモパイル(307)を含むセンサーによって決定される。同様にして基準位置(302)は、基準加熱器(304)と熱的に接触している。基準位置(302)における温度は、少なくとも1つの熱電対を有するサーモパイル(308)を含むセンサーを用いて測定される。加熱器(303,304)は、望ましくは、同一の温度プログラム又は電圧プログラムによって制御され得る個別の抵抗加熱器として設計される。
【0147】
試料加熱器(303)及び基準加熱器(304)は、コントロール・ループ(309)の一部である所定の温度プログラムに従う加熱電力を測定位置(301,302)に適用する。このコントロール・ループ(309)は、PIDコントローラー(310)を含む。温度設定点Tsetによって示される温度プログラムが、コントロール・ループ(309)に供給される。αsetは、ゼーベック係数αと温度Tsetの積であって、温度を電圧に変換し、与えられたTsetが、サーモパイルの冷却合流点の温度に対し測定される。加熱器(303,304)の加熱電力は、サーモパイル(308)を用いて決定される温度Tによって基準位置(302)において制御される。
【0148】
サーモパイル(307,308)を含むセンサーは、測定回路(311)の一部であって、その出力は2つのサーモパイル(307,308)から導き出される差分サーモパイル信号である。本明細書において、差分サーモパイル信号は直接、測定信号を表している。
【0149】
コントロール・ループ(309)及び測定回路(311)は、メインコントローラー(323)、具体的にDSC制御用のマイクロコントローラーに接続されている。
【0150】
図4は、エンハンス熱流束原理を用いた熱分析装置に関する例としてDSCに対する電子設定を示している。熱分析装置は、試料位置(401)、試料位置(401)に関連付けられている試料加熱器(403)、及び試料位置(401)における温度を測定するための少なくとも1つの熱電対を有する第1のサーモパイル(407)を含む第1の温度センサーも含む。本装置は更に、基準加熱器(404)に関連付けられている基準位置(402)を含んでいて、第2のサーモパイル(408)を含む第2の温度センサーは、基準位置(402)における温度を測定するための少なくとも1つの熱電対を含む。
【0151】
試料加熱器(403)及び基準加熱器(404)は、所定の温度プログラムに従う加熱電力を測定位置(401,402)それぞれに適用する、コントロール・ループ(412)の一部である。このコントロール・ループ(412)は、PIDコントローラー(410)を含む。温度設定点Tsetによって示されているような所定の温度プログラムが、コントロール・ループ(412)に供給される。
【0152】
サーモパイル(407,408)を含むセンサーは、測定回路(411)の一部であって、その出力は2つのサーモパイル(407,408)から導き出される差分サーモパイル信号である。差分サーモパイル信号は、測定信号も表し得る。
【0153】
コントロール・ループ(409)及び測定回路(411)は、メインコントローラー(423)、具体的にはDSCを制御するためのマイクロコントローラーに接続される。
【0154】
ここまでは、エンハンス熱流束原理は、標準的熱流束原理とほとんど同様である。主な差は、加熱器(403,404)の加熱電力が、試料位置(401)の温度Tによって制御されることであって、基準位置(402)における温度Tよりもむしろサーモパイル(407)を用いて決定される。温度プログラムを試料位置(401)に提供する測定は、試料温度Tの所与のプログラム温度Tsetからの逸脱を実質上、解消し、標準的熱流束原理を超えた本質的な利点を提示する。
【0155】
エンハンス熱流束原理は、試料加熱器(403)から試料位置(401)に配置される試料に熱を伝達する際に関与する時定数が、熱事象中、大きな勾配が発生することを防ぎ得るくらい低いとき、例えば、いわゆるチップタイプ熱量計に関する場合にだけ適用されうる。
【0156】
図3及び4に示されている設定の双方が、補償加熱器を測定位置それぞれに加えることと、補償加熱器を測定位置の間に発生する差温によって提供される適切な補償ループに接続すること、によって容易に適用され得る。これらの適用を用いると、結果の装置は、標準モード又は熱流束モードに類似したエンハンス電力補償モードであり得る熱流束モードのうち1つか又は電力補償モードのどちらか一方で、実行可能である。
【0157】
図5及び図6は、線形加熱走査の間の時間tに対する温度Tの理想化されたグラフを示していて、その中で試料が、吸熱一次相転移を完了している。基準温度Tが点線、試料温度Tが直線として表されている。
【0158】
図5は、標準的熱流束原理に関する状況を表示していて、温度プログラムTsetが、基準の測定温度Tに従って適用される。図6は、試料温度Tを介した温度プログラムTsetのアクティブ制御を用いたエンハンス熱流束原理に関する状況を表示している。
【0159】
標準的熱流束モードに関しては、試料温度Tは、走査の始めから終わりまでプログラム温度Tsetに遅行していて、差温信号から導き出される融解最大点の始まりの遅延をもたらしている。この遅延を図5の双方向矢印によって示す。遷移の間も遷移の後も試料温度Tにおいて長期の非線形性期間が生じている。図6から双方の影響は、エンハンス熱流束原理を用いた試料温度グラフ中には存在していないことが明白であって、遅延はかなり減少し、実質上、理想的な0である。更に、標準的熱流束原理に関しては、開始部分の勾配又は最大点の立ち上がりエッジが加熱率全体によって制限されている(図5)。エンハンス熱流束原理に関しては、これは事実と異なる。図6からエンハンス熱流束原理は、より急勾配のエッジを作り出していて、その結果、より狭い最大点、及び最大点の温度より小さい遅延であることが明白である。最終的に緩和もまたエンハンス原理に関して、より高速であって、更に狭い最大点に寄与している。
【0160】
標準的熱流束原理に関して実行される熱流解析は、ここで、エンハンス熱流束原理を記述するために調整できて、それによって、本発明による原理の意味及び利点を示す。
【0161】
方程式(4)から開始すると、試料温度の変化率を定数
【0162】
【数37】

【0163】
として扱い、空の測定位置に対して等価の熱容量だと仮定すると、以下の方程式が得られる。
【0164】
【数38】

【0165】
一見すると、方程式(13)が、標準的熱流束原理に関して対応する方程式(7)と全く同様に見える。しかしながら、有益な効果をもたらす重大な差がいくつか存在する。試料及びプログラム温度は、実質上、同一であって、それによって熱遅延の主成分が解消される。
【0166】
更にまず、Sはここで、基準温度Tというよりもむしろ試料温度Tの時間導関数を表していて、試料温度Tが時間と共に線形に変化することを意味している。ここからは時間及び試料温度軸が完全に比例していて、自由に交換され得る。
【0167】
更に、熱事象からの緩和に関する時定数は、基準物質がない実験に対し、Z・(C+m・c)からZ・Cへ低下し、熱事象後、基線に戻り、比較的大きい熱量を有する試料に対し、より著しい差と、より速くなる指数関数的減衰をもたらす。緩和時間は、試料位置の代わりに基準位置によって、すぐに決定され、試料によって寄与される追加の慣性の欠如によって、改善されたシステム反応をもたらす。望ましくは実験は、基準物質なしで実行される。しかしながら、大きな冷却率と試料の大きな熱質量との組み合わせが、試料位置と基準位置との間の大幅な温度差を誘発し、それによって基準温度がプログラム温度に先行するために、温度範囲が低下し、それを介して冷却制御が可能となる。これらの場合に関しては、基準物質の使用がこの現象を打ち消すことが望まれる。
【0168】
転移エンタルピーは、方程式(13)の積分によって定数Cの仮定の下で算定され得る。
【0169】
【数39】

【0170】
この式は、顕著に小さな誤差項を除くと方程式(11)による標準的熱流束原理に関して算定されたエンタルピーとほとんど同一である。誤差の項は、Cが(C+m・c)よりも小さくなるにつれて、より小さくなり、これは試料の遷移がより狭い温度間隔に渡って完了されるからである。したがって、ΔTの温度依存性は、Δ(ΔT)が平均でより小さくなるように、より小さい範囲に渡って機能する。内在性のほかに試料は基準位置と試料位置との間の不均衡を誘発されるため温度依存性が存在する。
【0171】
より小さい誤差項は別として、tとt、及びTとTが距離を縮める事実は、精度を改善していて、それは、cの変動性の影響を低減し、範囲を制限し、括弧の内側の被積分の項の特性が高精度で知られていることが必要とされる。
【0172】
図7において、標準的な熱流量(722)と電力補償(720)との間の中央右にエンハンス熱流量(721)を置く3つの比較計測が提示されているが、エンハンス熱流量の図は、標準的熱流量(722)よりも電力補償(720)により近い。エンハンス熱流量が、双方の原理からの要素を含んでいて同時に、それらの欠点を実質上、低減するか、及び/又は解消していることが観測され得る。
【0173】
エンハンス熱流量が、相転移を介し試料を引き上げるとき、増大したメインコントロール・ループの役割を果たし、より大きな需要又はその安定性を置く。したがって望ましくは、PIDコントロールのような堅牢な温度制御の使用が要求される。
【0174】
3つの熱量測定法に関する例示的な比較熱量測定は、数パーセントの誤差内の異なる3つの異なる加熱率に関して測定された所与のインジウム試料の融解エンタルピーが使用される方法及び加熱率のどちらに対してもほとんど依存性を示さないこと、を示した。これは、エンハンス熱流束原理を用いた測定が、標準的熱流束及び電力補償を用いた測定値と同程度に熱量測定的に信頼可能なことを確実にしている。
【符号の説明】
【0175】
1 試料位置
2 基準位置
6 試料
13 加熱器
201 試料位置
202 基準位置
203 試料加熱器
204 基準加熱器
205 周囲の環境/熱分析装置
206 試料
301 試料位置
302 基準位置
303 試料加熱器
304 基準加熱器
307 第1のサーモパイル
308 第2のサーモパイル
309 コントロール・ループ
310 PIDコントローラー
311 測定回路
323 メインコントローラー
401 試料位置
402 基準位置
403 試料加熱器
404 基準加熱器
407 第1のサーモパイル
408 第2のサーモパイル
410 PIDコントローラー
411 測定回路
412 コントロール・ループ
423 メインコントローラー
720 電力補償
721 エンハンス熱流量
722 標準的熱流量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分析装置、特に示差走査熱量計であって、
試料(206)を受容するための試料位置(201,401)と、基準位置(202,402)と、前記試料位置(201,401)及び前記基準位置(202,402)に関連付けられている加熱手段と、時間対温度の名目値の所定の温度プログラムを設定する手段と、前記試料位置(201,401)における試料温度(T)を測定するための第1のセンサー(407)と、前記基準位置(202,402)における基準温度(T)を測定するための第2のセンサー(408)と、更に、前記加熱手段の加熱電力を制御するコントローラー(423)を含んでいて、前記加熱手段の加熱電力が、前記試料の測定温度(T)を前記所定の温度プログラムに実質上、従わせるように制御されていることと、前記試料位置(201,401)と前記基準位置(202,402)との間に生じる差温が測定信号を表していることと、を特徴とする熱分析装置。
【請求項2】
センサー(407,408)それぞれが、少なくとも1つの熱電対、抵抗温度センサー又は半導体ベース温度センサーを有する少なくとも1つのサーモパイル配置を含むことを特徴とする請求項1記載の熱分析装置。
【請求項3】
基準物質が、前記基準位置(202,402)に関連付けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の熱分析装置。
【請求項4】
前記加熱手段が、前記試料位置及び前記基準位置に関連付けられている共通の加熱器を含むことを特徴とする請求項1〜3記載のいずれかの熱分析装置。
【請求項5】
前記加熱手段が、前記基準位置(202,402)に関連付けられている基準加熱器(204、404)及び前記試料位置(201,401)に関連付けられている試料加熱器(203,403)を含むことを特徴とする請求項1〜4記載のいずれかの熱分析装置。
【請求項6】
前記試料位置(201,401)及び前記基準位置(202,402)が、共通ホルダー又は個別ホルダーに配置されていることを特徴とする請求項1〜5記載のいずれかの熱分析装置。
【請求項7】
前記試料位置(201,401)及び基準位置(202,402)が、本質上、対称を示していることを特徴とする請求項1〜6記載のいずれかの熱分析装置。
【請求項8】
前記熱分析装置が、等周温条件下で作動される熱流束熱量計であることを特徴とする請求項1〜7記載のいずれかの熱分析装置。
【請求項9】
前記熱分析装置が、チップタイプ示差走査熱量計であることを特徴とする請求項1〜8記載のいずれかの熱分析装置。
【請求項10】
熱分析装置を制御するための方法であって、
前記熱分析装置が、試料(206)を受容するための試料位置(201,401)と、基準位置(202,402)と、前記試料位置(201,401)及び前記基準位置(202,402)に関連付けられている加熱手段と、時間対温度の名目値の所定の温度プログラムを設定する手段と、前記試料位置(201,401)における試料温度を測定するための第1のセンサー(407)と、前記基準位置(202,402)における基準温度(T)を測定するための第2のセンサー(408)と、前記加熱手段の加熱電力を制御するコントローラー(423)と、を含んでいて、前記試料位置(201,401)に試料(206)を配置するステップと、前記加熱手段の加熱電力を制御することによって前記所定の温度プログラムを前記試料位置(201,401)及び前記基準位置(202,402)に適用するステップと、前記試料温度(T)を時間関数として決定するステップと、を含む方法であって、前記加熱手段の加熱電力が、前記試料の測定温度(T)を実質上、前記所定の温度プログラムに従わせるように制御されていることと、前記試料(206)への正味の熱流量が、前記試料位置と前記基準位置との間に生じる差温及び/又は前記試料位置における温度測定(T)から導き出されること、を特徴とする方法。
【請求項11】
前記試料(206)の熱量が、基準位置(202,402)と前記試料位置(201,401)との間の熱量における不均衡と比較して常に大きいことを特徴とする請求項10記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−181408(P2010−181408A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−20885(P2010−20885)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(599082218)メトラー−トレド アクチェンゲゼルシャフト (130)
【住所又は居所原語表記】Im Langacher, 8606 Greifensee, Switzerland
【Fターム(参考)】