説明

熱分析試験用の温度制御装置

本発明は,ハウジングと,少なくとも1個の加熱素子と,ハウジング内に配置され,かつ,ガス供給源に接続可能とした少なくとも1個の保護シースとを備える熱分析試験用の温度制御装置に関するものである。本発明において,加熱素子は,少なくとも一部が保護シース内に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱分析試験用の温度制御装置に関し,特に,ハウジングと,少なくとも1個の加熱素子と,ハウジング内に配置され,かつ,ガス供給源に接続可能とした少なくとも1個の保護シースとを備える温度制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような形式の温度制御装置は従来既知であり,例えば熱分析装置において使用されるものである。熱分析装置には,例えば動的な示差熱量計,熱天秤又は同時熱分析装置がある。この種の熱分析装置は材料特性の分析,特にポリマー及び医薬原料の熱分析や繊維材料の熱分析等に使用される。この種の分析装置においては,分析すべき試料が温度制御装置内で加熱又は冷却される。材料に関する基本的な測定項目には,例えば膨張挙動,重量変動,相転移温度又はエンタルピー変化が含まれている。現在,上述した形式の熱分析装置においては温度制御装置として管状炉が使用されており,その管状炉は加熱素子として抵抗ヒータを有している。この場合に加熱素子は,保護シース又は保護管の外部に配置されている。従来既知の管状炉は,分析すべき試料又は試料の周囲の空気を迅速加熱する必要のある分析試験において,一定の限界を呈する。即ち,従来既知の管状炉では,その熱質量に起因して数百K/分に達する昇温速度を実現することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って,本発明の課題は,冒頭に述べた形式の温度制御装置を改良し,熱損失を回避しつつ迅速な昇温を可能とすると共に,温度制御装置内に均一な温度場を発生可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題を解決するため,本発明によれば,冒頭に述べたタイプの温度制御装置において,加熱素子の少なくとも一部を保護シース内に配置することを特徴とする。
【0005】
本発明は,従来技術とは異なり,加熱素子を保護シース又は保護管内に配置し,これにより分析すべき試料又は保護シース内の空気をより迅速に加熱するものである。好適には,加熱素子を保護シース内で,分析すべき試料又はセンサの直接近傍に配置する。本発明に係る温度制御装置によれば,1250℃までの温度を極めて迅速に測定できるだけでなく,1000K/分以上もの極めて高い昇温速度を実現することが可能である。
【0006】
更に,本発明に係る温度制御装置においては,既存の試料キャリア及びセンサを使用することが可能であり,特別に設計された試料キャリア又はセンサは不要である。
【0007】
本発明の好適な実施形態において,保護シースはセラミック製又はガラス製の保護管で構成する。
【0008】
これに関連する本発明の更なる好適な実施形態において,ハウジングに対向する側の保護管の外面には,反射性を有する金属コーティングを施しておく。反射性を有する金属コーティングにより熱放射が多重反射されることにより,加熱素子内の温度場が均一化され,分析すべき試料を均一に加熱することが可能となる。更に,コーティングにより,ハウジングに向けての外部での熱放射損失が最小化され,従ってハウジング又は炉殻の過熱も低減される。これにより,加熱素子による熱出力の大部分を,ガラス製又はセラミック製の保護管内に,従って分析すべき試料領域に残留させることができる。
【0009】
本発明において,加熱素子は,少なくとも一部を金属製又はセラミック製とする。金属製又はセラミック製の加熱素子は,低い熱容量と高い耐熱衝撃性を示す。従って,金属製又はセラミック製の加熱素子によれば,高温加熱工程及び冷却工程を短い間隔で交互に実施することが可能である。その際,例えば材料の内部応力により加熱素子の機能が損なわれ,又は加熱素子が損傷するとことはない。
【0010】
温度制御装置から使用者を保護し,かつ反射性を有する金属コーティングを保護するため,本発明の一実施形態においては保護管を空冷可能とし,空冷に際して空気を保護管に連続供給する構成とする。これにより,保護管及びハウジングの相対的な低温化が達成され,ひいては使用者がハウジングで火傷を被るリスクが大幅に低減されるものである。
【0011】
本発明によれば,温度制御装置により,0K/分〜1000K/分以上の昇温速度が実現可能である。
【0012】
本発明の一実施形態によれば,温度制御装置に接続されている分析装置に向けての熱放射を回避するため,温度制御装置は,保護シース内に少なくとも一部分的に配置されている放射防護シールドを備える。好適には,放射防護シールドは,保護シース内で加熱素子よりも下側の領域に配置する。
【0013】
本発明によれば,温度制御装置内に分析すべき試料材料を配置するため,温度制御装置は,少なくとも一部が保護シース内に配置された少なくとも1個の試料キャリアを備える。好適には,試料キャリアを保護シース内において適切に配置することにより,分析すべき試料材料が加熱素子により包囲され,これにより試料材料が均一に加熱され,又は均一な温度場に包囲される構成とする。更に,加熱素子を試料キャリアの周囲に直接に配置することにより,試料についての各種試験に対応する1250℃までの温度が極めて迅速に実現される。
【0014】
本発明の好適な実施形態によれば,温度制御装置は,少なくとも一部が保護シース内に配置された少なくとも1個のセンサを備えることができる。保護シース内に本発明に係る加熱素子の配置することにより,センサが加熱素子により直接に包囲され,これにより温度制御装置内のセンサ領域及び試料キャリア領域における均一な加熱を実現することができる。
【0015】
更に,本発明は,上述した構成の温度制御装置を組み込んだ分析装置を提供するものである。
【0016】
本発明の好適な実施形態において,温度制御装置が分析装置に着脱又は交換可能に取り付けられている。即ち,温度制御装置は,分析装置用の独立したユニットとして構成され,従って異なる分析装置に組み込むことも可能である。
【0017】
本発明の好適な実施形態において,分析装置は真空気密性を有し,従って試料が真空状態で試験可能とされている。
【0018】
本発明によれば,分析装置は,特に,ガス分析装置,熱天秤又は熱分析装置として構成することができる。
【0019】
以下,本発明を添付図面に基づいて例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る温度制御装置を示す断面図である。
【図2】本発明に係る温度制御装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は,本発明に係る温度制御装置を断面図で示している。この温度制御装置は,全体が参照数字10で表わされている。
【0022】
温度制御装置10はハウジング12を備え,このハウジング12内に保護シース14が配置されている。保護シース14内には,金属製又はセラミック製の管状加熱素子16が配置されている。加熱素子16は,多数の発熱体ユニットで構成することもできる。加熱素子16は,保護シース又は保護管14内の管状部18よりも上側の所定位置に配置するものである。加熱素子16の所定位置を適切に選択することにより,温度制御装置10の分析装置(図示せず)の取り付け状態において,試料の載置された試料キャリア(図示せず)又はセンサ(図2参照)が加熱素子16により直接に包囲され,1000K/分以上もの極めて高い昇温速度で均一に加熱可能とする。
【0023】
図1に示すように,温度制御装置10の管状部18は下方に開放されている。従って,温度制御装置10の熱分析装置(図示せず)への取り付け状態で,試料キャリア又はセンサ(図2参照)を管状部18を通して保護管14内の加熱素子16の中央部まで導入することが可能である。
【0024】
管状部18には,温度制御装置10を分析装置に接続するための接続管20が接続されている。即ち,接続管20には,ガス供給源又は圧力供給源が接続可能とされ,これにより保護管14内に所定の雰囲気又は真空状態を生成するものである。試料試験のために特定のガスを使用する場合,試験後にガスは,温度制御装置10のハウジング12における上側領域に配置されたガス排出弁22を通して排出可能とされている。
【0025】
これに関連して,図1から明らかなように,保護管14は,加熱素子16よりも上側の領域において円錐状に形成され,従ってその直径が縮小している。即ち,保護管14は,加熱素子16よりも上側の領域において,大幅に縮小した直径を有する縮径部14aに移行する。保護管14は,その縮径部分14aをもって,ハウジングの上壁24で管状部26に接続され,その管状部26にはガス排出弁22が介装されている。ガス排出弁22は,管状部26だけでなく金属シート部材28にも固定され,これにより高い作動信頼性を達成し,確実なガス排出及びガス排出弁20の遮断が行える構成とされている。
【0026】
保護管14は,その縮径部14aに対向する端部14bにおいて,円板状の壁部分30で支持されている。壁部分30には空間32が隣接して広がり,この空間32は保護管14に連通するものである。保護管14には,空間32を通して所定のガスを供給し,又は圧力を作用させることができる。
【0027】
ハウジング12に対向する側の保護管14の外面には,反射性を有するコーティング(図示せず)が施され,このコーティングは,ハウジング12に向けての熱放射を低減し,従って保護管14内,特に加熱素子16領域において均一な温度場を発生させるものである。更に,保護管14に施されたコーティングにより,ハウジング12の過熱が回避され,従って上述したように保護管14内において温度場の均一性が向上するだけでなく,使用者がハウジング12で火傷を被るリスクが低減される。
【0028】
図1において,温度制御装置10における種々の周辺要素は参照数字36で表わされている。周辺要素は,温度制御装置及び分析装置を互いに結合する取り付け部と,温度制御装置及び分析装置を互いに電気的に接続する電気接続部と,保護管14を冷却するための冷却装置とを含むものである。
【0029】
図2は,図1に係る温度制御装置10を,管状部18又は保護管14に導入された試料キャリア38と共に示す斜視図である。
【0030】
図2から明らかなように,試料キャリア38のキャリア部分40に載置された試料は,試料キャリア38により加熱素子16の中央部にセットされる。これにより,加熱素子16がキャリア部分40を包囲し,従って試料を極めて高い昇温速度で均一に加熱するものである。
【0031】
分析すべき試料に応じて,キャリア部分40には異なる構成の試料キャリア又はセンサを装着することも可能である。
【0032】
試料キャリア38を放射防護シールド42と共に温度制御装置10の管状部18内に導入することにより,温度制御装置10の下方に配置された分析装置(図示せず)に向けての熱放射を回避し,保護管14内に可能な限り均一な温度場を発生させることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分析試験用の温度制御装置(10)であって,
・ハウジング(12)と,
・少なくとも1個の加熱素子(16)と,
・前記ハウジング(12)内に配置され,かつガス供給源に接続可能とした少なくとも1個の保護シース(14)と,
を備える温度制御装置において,前記加熱素子(16)は,少なくとも一部が前記保護シース(14)内に配置されていることを特徴とする温度制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の温度制御装置(10)であって,前記保護シース(14)が,セラミック製又はガラス製の保護管であることを特徴とする温度制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の温度制御装置(10)であって,前記ハウジング(12)に対向する側の前記保護管(14)の外面(30)に,反射性を有する金属コーティングが施されていることを特徴とする温度制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の温度制御装置(10)であって,前記加熱素子(16)は,少なくとも一部が金属製又はセラミック製であることを特徴とする温度制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の温度制御装置(10)であって,前記保護管(14)が空冷可能とされ,空冷に際して前記保護管(14)に空気を連続供給可能であることを特徴とする温度制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の温度制御装置(10)であって,該温度制御装置(10)が,0K/分〜1000K/分以上の昇温速度を有することを特徴とする温度制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の温度制御装置(10)であって,該温度制御装置(10)は,少なくとも一部が前記保護シース内に配置された少なくとも1個の放射防護シールドを備えることを特徴とする温度制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の温度制御装置(10)であって,該温度制御装置(10)は,少なくとも一部が前記保護シース内に配置された少なくとも1個の試料キャリアを備えることを特徴とする温度制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の温度制御装置(10)であって,該温度制御装置(10)は,少なくとも一部が前記保護シース内に配置された少なくとも1個のセンサを備えることを特徴とする温度制御装置。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載の温度制御装置(10)を備える分析装置。
【請求項11】
請求項10に記載の分析装置であって,前記温度制御装置(10)が前記分析装置に着脱又は交換可能に取り付けられていることを特徴とする分析装置。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の分析装置であって,該分析装置が真空気密性を有することを特徴とする分析装置。
【請求項13】
請求項10又は11に記載の分析装置であって,該分析装置がガス分析用であることを特徴とする分析装置。
【請求項14】
請求項10又は11に記載の分析装置であって,該分析装置が熱天秤又は熱分析装置として構成されていることを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−519888(P2013−519888A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553178(P2012−553178)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際出願番号】PCT/DE2011/000132
【国際公開番号】WO2011/100952
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(301077552)ネッチュ ゲレーテバウ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】