説明

熱分解ヒーターのコイルおよびクラッキング方法

炭化水素供給原料を、より軽い炭化水素に熱分解するシステムで使用されるコイルの通路の少なくとも一部に、フィラー材料をランダム充填する。ランダム充填により、熱伝達が増大し、コイル内部のコークス蓄積速度が減少し、全体的なシステム効率が改善される。充填体材料は、化学分解速度を増大させる適切な触媒を含むか、またはそれにより処理されてよく、したがって、システム効率をさらに改善する。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔開示の背景〕
開示する実施形態は、概して熱分解コイルに関し、さらに詳細には、充填体(packing)、および熱分解コイルの熱伝達を改善する方法に関する。
【0002】
フィン付き放射管を熱分解ヒーターに使用して、混合、気体攪乱(gas turbulation)、および表面積の増大を促進し、それにより、熱伝達を改善することが知られている。フィン付きの管は、米国特許第6,419,885号に開示されている。フィン付きの管における充填体材料には言及されていない。
【0003】
高温金属合金、モノリシックのセラミック、金属マトリックス複合材、またはセラミックマトリックス複合材から管のフィンを作製することが、米国特許第5,655,599から知られている。米国特許第5,413,813号、5,208,069号、および5,616,754号は、コークス堆積の削減を助けるための、熱分解コイル上のセラミックコーティングを開示している。さらに、米国特許第6,923,900号は、炭素含有量の高いさまざまな合金組成のフィン付きの管、およびそれらの管を製造する方法を開示している。アルミニウム溶融システムで使用されるセラミック管が、米国特許第4,432,791号に記載されている。放射加熱技術は、米国特許第3,167,066号に記載されている。
【0004】
熱分解クラッキングプロセスにおいて熱伝達が改善される、加熱コイルおよび加熱方法を提供することが有用であろう。
【0005】
〔開示の概要〕
熱分解加熱システム用コイルは、供給原料をそのコイルに導入する入口、オレフィン生成物をコイルから出す出口、および、入口と出口との間の、概ね円筒形の少なくとも1つの通路を有する。少なくとも1つの通路の少なくとも一部には、熱伝導性フィラー材料がランダム充填されている。
【0006】
概ね円筒形の少なくとも1つの通路が入口と出口との間に位置付けられた熱分解システムのコイルにおいて熱伝達を増大させる方法は、少なくとも1つの通路の少なくとも一部に熱伝導性フィラー材料をランダム充填することを含む。
【0007】
それぞれが入口、出口、および少なくとも1つの通路を備えた概ね円筒形の少なくとも1つのコイルを備える封入炉(enclosed furnace)を有するシステムにおいて、炭化水素供給原料をオレフィンに熱分解する方法は、少なくとも1つのコイル通路の少なくとも一部に熱伝導性フィラー材料をランダム充填することと、炭化水素原料をコイルの入口に導入することと、炭化水素供給原料をオレフィンに分解するのに十分な温度までコイルを加熱することと、コイル出口でオレフィンを収集することと、を含む。
【0008】
〔詳細な説明〕
1つまたは複数の通路にランダム充填体が含まれる、熱分解ヒーター用の加熱コイルが提供される。充填体を組み込むことにより、加熱コイルは深刻さがより高くても動作でき、かつ/または、同様の非充填コイルよりも運転時間を長くすることができる。
【0009】
本明細書で使用される用語「ランダム充填体(random packing)」は、ランダムに配列された加熱コイル用のフィラー材料を指す。用語「空隙容量」は、ランダム充填体が充填されていない、コイル内の容量であり、すなわち、非充填コイルにおいて、「空隙容量」は、コイルの全容量である。本明細書で使用される用語「セラミック」は、非金属の耐熱材料を指す。本明細書で使用される用語「オレフィン」は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む炭化水素を指す。用語「熱分解」および「クラッキング」は、本明細書では同義的に使用されており、有機化合物をより単純な化合物へ化学的に分解することを指す。用語「コークス」は、熱分解プロセス中に加熱コイルの壁上に通常残り、しばしば蓄積する、固体炭素副生成物であり、用語「コークス」は、固体炭素残余副生成物を生成するプロセスも指すことができる。用語「炭素除去(decoking)」は、コークスの蓄積を除去するため熱分解ヒーターを停止させることを指す。用語「炭化水素供給原料」は、場合により炭化水素の混合物を含有する、概して未加工の炭化水素材料を指し、これは、熱分解システム内に供給され、オレフィンなど、より軽い炭化水素へと加工される。用語「選択度(selectivity)」は、概して、所望の生成物の生産速度を指し、さらに詳細には、「選択度」は、転換される原料の単位モル当たりに生成される所望の生成物のモル数として計算される。用語「圧力低下」は、概して、2つの点の間の圧力差を指し、さらに詳細には、熱分解において、「圧力低下」は、コイルの入口と出口との間の圧力差である。
【0010】
概して、熱分解(クラッキング)は、化学的プロセスであり、これによって、供給原料中の、より複雑な炭化水素が、エチレンおよびプロピレンを含むがこれらに限定されない、しばしば不飽和の、より単純な炭化水素(オレフィン)へと、熱で分解される。炭化水素供給原料を熱分解する一般的な方法は、リアクトルコイル(reactor coil)を炉で加熱することによるものである。入口および出口を備えた概ね円筒形の少なくとも1つのコイルが内部に位置付けられる、熱分解炉が存在する。コイルは概して3つのセクション:すなわち、供給原料を予熱する対流セクション;予熱した供給原料を分解する放射セクション;および、放射セクションからの高温の廃物を冷却する急冷セクション、を特徴とする。コイルは、1つ、2つ、または複数の通路を有してよい。蒸気クラッキングとして知られる方法では、炭化水素供給原料が蒸気で希釈され、炉内のコイルを通して供給される。混合物は、炉によって放射セクション内部で所定温度まで加熱され、コイル出口で迅速に急冷され、さらなる分解を防ぐ。
【0011】
炭化水素供給原料がオレフィン生成物へと分解されると、炭素副生成物(コークス)の固形堆積物が、コイルの内側にゆっくりと堆積する。さらに、オレフィンが生成されると、気体のモル数が純増加する。コークスの蓄積と、モル増加とが組み合わせられると、コイル内部の圧力が著しく上昇する。圧力増加により、オレフィンの選択度および産出量(output)が減少する。これは、「選択度損失(selectivity loss)」として知られている。
【0012】
したがって、所定の時間に、または所定レベルのコークスがコイル内に存在したときに、リアクトルは、停止されて、コイルを炭素除去しなければならない。炭素除去では、一般的に、炭化水素混合物供給原料の代わりに、空気と蒸気との混合物をコイルに通すことが必要である。空気−蒸気混合物は、固体炭素と反応して、コイルから放出される一酸化炭素および/または二酸化炭素ガスを形成する。以下で詳細に論じるように、1つまたは複数のコイルに、ある材料をランダム充填することにより、熱伝達係数が改善されるだけでなく、コークス堆積速度が減少し、したがって、炭素除去のため停止する前の運転時間を長くすることができる。これにより、熱分解システムの全体的な効率が改善される。
【0013】
熱分解中、コークス前駆体は、コイルの溶銑壁(hot metal walls)の内表面に拡散する。前駆体は、脱水素を受けてコークスを形成する。よって、コークス生成は、拡散および反応の2段階プロセスである。コークス堆積速度を制御するのがどちらの段階であるかにかかわらず、関係は非線形であるが、金属壁温度はコークス堆積速度に直接比例することが、広く受け入れられている。
【0014】
以下の実施例で説明するように、本明細書で開示する方法でコイルにランダム充填することで、コイル内部の熱伝達係数が実質的に増大する。充填層(packed beds)の熱伝達係数は、主に充填層内部で混合が促進されるため、非充填層に比較して増加することが当技術分野で理解されている。熱分解コイルの場合、このような熱伝達係数の増加により、コイル内の温度がさらに急速に上昇し、壁の最高温度が減少する。温度がさらに急速に上昇することで、クラッキング速度が促進され、したがって、オレフィン生産速度が増大する。さらに、充填体材料は、化学分解速度をさらに増大させるのに適した、いくらかの量の触媒であるか、または触媒を含有することができる。同時に、壁の最高温度の減少により、コークス化速度が減少し、ゆえに、より長い運転時間が可能となる。
【0015】
図面を参照し、まず図1を参照すると、2通路熱分解ヒーターコイル(two-pass pyrolysis heater coil)が図示され、これは、概して10と指定されている。コイルは、入口12と、熱クラッキングゾーン14と、U字型カーブ16と、第2の通路18と、を含む。クラック生成物は、出口20を通じて除去される。
【0016】
図1の実施形態では、ランダム充填体22が、第2の通路18に配されている。好ましくは、ランダム充填体は、(以下で詳細に説明する)コークス化を減少させるために非金属材料を含む。適切な充填体材料の非限定的な例には、セラミックおよびシリカが含まれる。セラミックは、その熱伝導率が高いため、いっそう好ましい。適切なセラミックの非限定的な例には、炭化ケイ素、ヘキサアロイ(hexalloy)などが含まれる。以下で論じるように、ランダム充填体材料は、事実上あらゆる形状の、複数の個々の断片または粒子を含むことができる。ランダム充填層の粒子は概して、気体混合物が通過する際にコイル内部を転移または移動しないことが理解される。これは、気体混合物または液体が微小固体粒子と混ざって流体のように作用する、流動層(fluidized bed)とは異なる。
【0017】
図2は、環状部分32、入口34、および出口36を備えた、1通路熱分解加熱コイル30を示す。ここで、ランダム充填体38は環状部分32に配される。
【0018】
図3は、入口52および出口54を備えた、2通路熱分解加熱コイル50を示す。第1の通路56は、ランダム充填材料58を収容する環状部分を含む。第2の通路の環状部分60は、追加のランダム充填材料62を収容する。第1の通路56および第2の通路60内部に充填された材料58および62は、同じ材料でも異なる材料でもよい。この実施形態では、第1の通路は、図1のコイルの第1の通路より大きな直径を有する。充填コイルの通路の直径を増大させると、充填体の存在により、圧力低下の実質的な増加が妨げられる。より高い圧力低下レベルではオレフィン生産速度が減少するので、これは好ましい。概して、充填および非充填の第1の通路の各空隙容量は同様である。
【0019】
ランダムフィラー材料は、本明細書に開示する利益を達成するために熱分解コイルの通路全体の中に充填される必要がないことを明らかにすべきである。例えば、図4は、入口72および出口74を備えた2通路熱分解コイル70を描いている。この実施形態では、フィラー材料76は、第2の通路80の軸方向部分78内部にランダム充填される。熱分解コイルの通路の一部を充填する概念は、第2の通路、または単一の通路のみを充填することに限定されない。
【0020】
図5は、2つの異なる材料104および106がランダム充填された環状部分を第2の通路102が有する、2通路熱分解加熱コイル100を示す。つまり、本開示は充填体材料の相対量または種類を限定していないことが明らかである。
【0021】
熱分解コイル内部で熱伝達を増大させる、したがって、オレフィン生産効率を改善する、一般的慣例は、コイル直径を減少させることである。しかしながら、コイル直径を減少させることは、圧力低下を増大させるという矛盾する影響ももたらし、ゆえに、熱伝達の改善というプラスの影響を減少させるかまたは無効にする。図3の実施形態に関して先に論じたように、大きな直径のコイルをランダム充填することにより、圧力低下を著しく増大させることなく、熱伝達係数を増大させることができる。
【0022】
図6Aは、当技術分野で既知の標準的な熱分解コイル120を描いている。注目すべきなのは、この特定のコイルが、大きい直径の各出口通路124に通じる、比較的小さい直径を有する概ね平行な4つの入口通路122を特徴とすることである。このような、小さい直径の入口通路122は、このようなシステムにおける効率的なクラッキングのため十分な熱伝達を達成するのに必要である。
【0023】
少なくとも1つの通路(この場合、入口通路および出口通路双方;充填体は不図示)をランダム充填することにより、実質的に大きい直径を有するコイル通路において、著しい熱伝達の改善が達成され得る。図6Bは、各出口通路134のための単一の入口通路132を特徴とする、別の熱分解コイル130を描いている。大きい直径の、充填された単一の入口通路(図6B)は、充填された出口通路と関連して、圧力低下を増大させずに、小さい直径の非充填通路(図6A)と比べて、(改善されていない場合に)同様の熱伝達を達成することができる。したがって、図6Bのコイルの効率と、恐らくは運転時間と、は、図6Aのコイルよりも改善される。
【0024】
全体として見て、熱分解コイルの少なくとも1つの通路をランダム充填することにより、コークス生産速度がおおよそ20〜100%減少し得る。同様に、充填コイルにおける運転時間は、同様の空隙容量を有する非充填コイルと比べて、おおよそ20〜100%だけ長くなり得る。
【0025】
全実施形態において、第1および第2のランダム充填材料は、サイズ、形状および組成が同じであっても異なっていてもよい。同様に、2つより多い通路を有するコイルを特徴とする、さらなる実施形態も存在する。これらの実施形態では、ランダム充填体は、わずか1つの通路、または全ての通路に位置付けられてよい。さらに、充填体材料は、球形、円筒形、輪、鞍(saddles)、三葉(trilobes)、四葉(quadrilobes)などを含むがこれらに限定されない、事実上あらゆる形状を有することができる。
【0026】
ランダム充填体を熱分解コイル通路に位置付けることにより達成される、前述した熱伝達係数の増大は、等式1を使用することによって見ることができ:
l/h=l/h+d/8k [等式1]
式中、hは、一次元モデルの熱伝達係数であり、
は、二次元モデルの熱伝達係数であり、
は、管直径であり、
は、充填体材料の熱伝導率である。
【0027】
等式1は、二次元モデルから一次元モデルの同等の熱伝達係数を予想するために、Froment, G.F.およびK.B. Bischoffの「Chemical Reactor Analysis & Design」(J. Wiley、ニューヨーク、1979年)において導き出された。等式1は、充填体材料の熱伝導率(k)と熱伝達係数(h)との間の直接相関、すなわち、全体的な熱伝達係数は熱伝導率と共に増大すること、を示す。
【0028】
いくつかの金属および非金属の熱伝導率値を表1に示す。
【表1】

【0029】
表に示すように、金属は、非金属より優れた熱伝導率を有する。しかしながら、金属は、操作中にコイル内側のコークス堆積を著しく増大させ、頻繁に運転を停止させることが必要となる。このため、炭化ケイ素が、1つの好適な充填体材料であることが示されている。これは、比較的高い熱伝導率を有する非金属である。したがって、炭化ケイ素をコイルに充填することは、熱伝達係数の顕著な改善を示すと共に、コークス堆積を最小限に抑える。
【0030】
当技術分野では、操作条件から運転時間を計算するいくつかのモデルが開発されている。全てのモデルにおいて、運転時間は、運転開始および運転終了時における金属温度に依存している。論じてきたように、金属壁の最高温度が増大すると、運転時間は減少する。
【0031】
充填体材料の幾何学的外形を最適化することで、さらに長い運転時間を達成することができ、よって、全体的なオレフィン産出量が改善される。単位時間当たりの高いオレフィン産出量も実現され得る。さらに、充填体材料は、しばしば適切な触媒で処理される。これらの条件下で、熱および触媒クラッキングの両方によりオレフィンが生成され、したがって、全体的なクラッキング効率がさらに改善される。つまり、熱分解コイルのランダム充填は、システムの効率を実質的に増大させることができる。
【0032】
以下の実施例は、本発明の特定の特徴を説明するために含まれるが、限定的であることを意図するものではない。
【0033】
比較例1
コンピューター処理シミュレーションを、ランダム充填体材料なしで、Lummus SRT VI2通路コイルを用いて行った。この実施例は、この分野で使用される典型的な運転条件をシミュレートするものである。熱伝達係数は、第1の通路で60.6BTU/h・ft、第2の通路で56.4BTU/h・ftであることが分かった。表2は、コイルパラメーターと、得られた動作結果と、をまとめたものである。
【表2】

【0034】
実施例1
この実施例では、第2の通路にランダム充填体材料を入れて、Lummus SRT VI2通路コイルを用いて、コンピューター処理シミュレーションを行った。充填体材料は、炭化ケイ素などの充填体材料の典型的な特性を示すように設定された。非充填の第1の通路の熱伝達係数は、63.4BTU/h・ftであることが分かった。充填された第2の通路の熱伝達係数は、131.1BTU/h・ftであることが分かった。表3は、コイルパラメーターと、得られた動作結果とをまとめたものである。
【表3】

【0035】
実施例2
この実施例では、ランダム充填体材料を双方の通路に有するLummus SRT VI2通路コイルを用いて、コンピューター処理シミュレーションを行った。この実施例の充填体材料特性は、比較例1と同じであった。双方の通路が充填されると、コイル直径が増大して、実質的な圧力低下によるオレフィン収量の減少を防ぐ。しかしながら、コイル直径の増大により、同じ容積の原料を処理するために必要なコイルが著しく少なくなる。双方の通路を充填することにより、単一の通路を充填するよりも、コイル内部の表面積が大きくなる。ここで、熱伝達係数は、第1の通路で117.1BTU/h・ft、第2の通路で131.8BTU/h・ftであることが分かった。表4は、コイルパラメーターと、得られた動作結果と、をまとめたものである。
【表4】

【0036】
比較試験1と実施例1との比較により分かるように、外部熱伝達面積が小さくなっても、出口管を充填することで、金属壁の最高温度が3.5%だけ減少している。このことは、非充填の第2の通路に対する、充填された第2の通路における熱伝達係数の2倍超の増加によってさらに示される。金属壁の最高温度のこのような減少により、コークス生産および堆積の速度が減少し、炭素除去のために停止する前の運転を長くすることができる。さらに、より低い壁の最高温度により、より低い融点の合金から作られたコイルを使用することができるようになる。
【0037】
同じく、実施例2と比較例1および実施例1との比較は、充填された第1の通路における熱伝達係数の顕著な増大を示している。同様に、双方の通路が充填されたコイル(実施例2)における金属壁の最高温度は、非充填コイル(比較例1)のものより18.5%低く、1つの通路が充填されたコイル(実施例1)のものより15.6%低い。コークス堆積速度は、金属壁の最高温度と共に増大するので、実施例1および2のようにランダム充填体を使用した場合には、より長い運転時間が予測され得る。
【0038】
前述の表で例示したように、出口温度は、非充填コイルに対して、充填された第2の通路を使用した場合に3.6%だけ減少する。双方の通路が充填されたコイルは、非充填コイルと比べて4.5%の出口温度減少をもたらし、第2の通路のみに充填体を有する2通路コイルと比べて0.9%の出口温度減少をもたらす。
【0039】
実施例1および2と比較例1との比較により示されるように、ランダム充填体の使用により、非充填コイルと比べて、充填された各通路における熱伝達効率がほぼ2倍になる。
【0040】
充填コイルを設計する際、通路直径は、充填体容量を補うために、同量の原料を処理するのに使用される従来の非充填コイルの通路直径より大きくてよい。各コイルの空隙容量は、内圧が確実に相対的に等しいままになるように、相対的に同様でなければならない。直径が大きい充填コイルは、等しい空隙容量の非充填コイルに対する操作中に、同様の圧力低下を示し、それにより、低い部分圧力を保つ。低い部分圧力の制御は、熱分解プロセスにおける高い選択度に資する。
【0041】
前記に開示したさまざまな特徴および機能ならびに他の特徴および機能、またはそれらの代替案が、望ましくは組み合わせられて、多くの他の異なるシステムまたはアプリケーションとされてよいことが、理解されるであろう。現在予見できないかまたは予想できない、それらのさまざまな代替案、改変、バリエーション、または改善が、当業者によって今後作られてもよく、それらもまた、請求項により含まれることが意図される。
【0042】
〔実施の態様〕
(1) 熱分解加熱システム用のコイルにおいて、
供給原料が前記コイルに導入される入口、およびオレフィン生成物が前記コイルから出る出口と、
前記入口と出口との間の、概ね円筒形の少なくとも1つの通路であって、少なくとも1つの通路の少なくとも一部に、熱伝導性フィラー材料がランダム充填されている、通路と、
を含む、コイル。
(2) 実施態様1に記載のコイルにおいて、
前記熱伝導性フィラー材料は、セラミックである、コイル。
(3) 実施態様2に記載のコイルにおいて、
前記熱伝導性フィラー材料は、ヘキサアロイである、コイル。
(4) 実施態様2に記載のコイルにおいて、
前記熱伝導性フィラー材料は、炭化ケイ素である、コイル。
(5) 実施態様1に記載のコイルにおいて、
概ねU字型のセグメントにより接続された2つの通路、
を含む、コイル。
【0043】
(6) 実施態様5に記載のコイルにおいて、
前記コイルの前記通路双方には、熱伝導性フィラー材料がランダム充填されている、コイル。
(7) 実施態様5に記載のコイルにおいて、
前記コイルの前記通路のうち一方には、熱伝導性フィラー材料がランダム充填されている、コイル。
(8) 実施態様5に記載のコイルにおいて、
各コイル通路は、軸方向長さを有し、熱伝導性フィラー材料は、前記コイルの1つの通路の前記軸方向長さの一部分にランダム充填される、コイル。
(9) 実施態様1に記載のコイルにおいて、
前記熱伝導性フィラー材料は、2種類以上の材料を含む、コイル。
(10) 概ね円筒形の少なくとも1つの通路が入口と出口との間に位置付けられた熱分解システムのコイルにおける熱伝達を増大させる方法において、
少なくとも1つの通路の少なくとも一部に熱伝導性フィラー材料をランダム充填すること、
を含む、方法。
【0044】
(11) 実施態様10に記載の方法において、
前記熱伝導性フィラー材料は、セラミックである、方法。
(12) 実施態様10に記載の方法において、
熱分解プロセス中の、充填された前記コイル内部におけるコークス蓄積速度が、充填されたフィラー材料なしで同様の空隙容量を有するコイルと比べて減少する、方法。
(13) 実施態様10に記載の方法において、
炭素除去のための停止前に、ランダム充填体、および少なくとも1つの充填通路を備える前記コイルと同様の空隙容量のないシステムより長い時間にわたり、少なくとも1つの充填コイル通路を備える前記熱分解システムを運転すること、
をさらに含む、方法。
(14) 実施態様10に記載の方法において、
前記コイルの壁の最高温度が、ランダム充填体および同様の空隙容量のないシステムに比べて、約2%〜約15%だけ、または約12%〜約30%だけ、減少する、方法。
(15) 概ね円筒形の少なくとも1つのコイルを備える封入炉を有するシステムにおいて炭化水素供給原料を熱分解してオレフィンにする方法であって、各コイルは、入口、出口および少なくとも1つの通路を備える、方法において、
少なくとも1つのコイル通路の少なくとも一部に熱伝導性フィラー材料をランダム充填することと、
前記炭化水素供給原料を前記コイルの前記入口に導入することと、
前記炭化水素供給原料がオレフィンに分解するのに十分な温度まで、前記コイルを加熱することと、
前記オレフィンを前記コイル出口で収集することと、
を含む、方法。
【0045】
(16) 実施態様15に記載の炭化水素供給原料を熱分解する方法において、
前記炭化水素供給原料を蒸気で希釈すること、
をさらに含む、方法。
(17) 実施態様15に記載の炭化水素供給原料を熱分解する方法において、
ランダム充填された前記熱伝導性フィラー材料は、化学分解速度を増大させる触媒である、方法。
(18) 実施態様15に記載の炭化水素供給原料を熱分解する方法において、
ランダム充填された前記熱伝導性フィラー材料は、化学分解速度を増大させる触媒で処理される、方法。
(19) 実施態様15に記載の炭化水素供給原料を熱分解する方法において、
少なくとも1つの通路の少なくとも一部にランダム充填体を備える前記システムを、ランダム充填体および同様の空隙容量のないシステムに比べて長い時間にわたり運転すること、
をさらに含む、方法。
(20) 実施態様15に記載の炭化水素供給原料を熱分解する方法において、
出口の温度は、ランダム充填体および同様の空隙容量のないシステムに比べて、約2%〜約10%または約0.5%〜約5%だけ減少する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】第2の通路内にランダム充填体が配されている2通路コイルを示す。
【図2】ランダム充填体を備える単一通路コイルを示す。
【図3】双方の通路にランダム充填体が配されている2通路コイルを示す。
【図4】第2の通路が部分的に充填された2通路コイルを示す。
【図5】第2の通路が2つの異なる材料でランダム充填された2通路コイルを示す。
【図6A】当技術分野で知られる各出口通路に4つの個別の入口通路を備えた、非充填2通路コイルを示す。
【図6B】各出口通路に1つの入口通路を備える、充填された2通路コイルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解加熱システム用のコイルにおいて、
供給原料が前記コイルに導入される入口、およびオレフィン生成物が前記コイルから出る出口と、
前記入口と出口との間の、概ね円筒形の少なくとも1つの通路であって、少なくとも1つの通路の少なくとも一部に、熱伝導性フィラー材料がランダム充填されている、通路と、
を含む、コイル。
【請求項2】
請求項1に記載のコイルにおいて、
前記熱伝導性フィラー材料は、セラミックである、コイル。
【請求項3】
請求項2に記載のコイルにおいて、
前記熱伝導性フィラー材料は、ヘキサアロイである、コイル。
【請求項4】
請求項2に記載のコイルにおいて、
前記熱伝導性フィラー材料は、炭化ケイ素である、コイル。
【請求項5】
請求項1に記載のコイルにおいて、
概ねU字型のセグメントにより接続された2つの通路、
を含む、コイル。
【請求項6】
請求項5に記載のコイルにおいて、
前記コイルの前記通路双方には、熱伝導性フィラー材料がランダム充填されている、コイル。
【請求項7】
請求項5に記載のコイルにおいて、
前記コイルの前記通路のうち一方には、熱伝導性フィラー材料がランダム充填されている、コイル。
【請求項8】
請求項5に記載のコイルにおいて、
各コイル通路は、軸方向長さを有し、熱伝導性フィラー材料は、前記コイルの1つの通路の前記軸方向長さの一部分にランダム充填される、コイル。
【請求項9】
請求項1に記載のコイルにおいて、
前記熱伝導性フィラー材料は、2種類以上の材料を含む、コイル。
【請求項10】
概ね円筒形の少なくとも1つの通路が入口と出口との間に位置付けられた熱分解システムのコイルにおける熱伝達を増大させる方法において、
少なくとも1つの通路の少なくとも一部に熱伝導性フィラー材料をランダム充填すること、
を含む、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、
前記熱伝導性フィラー材料は、セラミックである、方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法において、
熱分解プロセス中の、充填された前記コイル内部におけるコークス蓄積速度が、充填されたフィラー材料なしで同様の空隙容量を有するコイルと比べて減少する、方法。
【請求項13】
請求項10に記載の方法において、
炭素除去のための停止前に、ランダム充填体、および少なくとも1つの充填通路を備える前記コイルと同様の空隙容量のないシステムより長い時間にわたり、少なくとも1つの充填コイル通路を備える前記熱分解システムを運転すること、
をさらに含む、方法。
【請求項14】
請求項10に記載の方法において、
前記コイルの壁の最高温度が、ランダム充填体および同様の空隙容量のないシステムに比べて、約2%〜約15%だけ、または約12%〜約30%だけ、減少する、方法。
【請求項15】
概ね円筒形の少なくとも1つのコイルを備える封入炉を有するシステムにおいて炭化水素供給原料を熱分解してオレフィンにする方法であって、各コイルは、入口、出口および少なくとも1つの通路を備える、方法において、
少なくとも1つのコイル通路の少なくとも一部に熱伝導性フィラー材料をランダム充填することと、
前記炭化水素供給原料を前記コイルの前記入口に導入することと、
前記炭化水素供給原料がオレフィンに分解するのに十分な温度まで、前記コイルを加熱することと、
前記オレフィンを前記コイル出口で収集することと、
を含む、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の炭化水素供給原料を熱分解する方法において、
前記炭化水素供給原料を蒸気で希釈すること、
をさらに含む、方法。
【請求項17】
請求項15に記載の炭化水素供給原料を熱分解する方法において、
ランダム充填された前記熱伝導性フィラー材料は、化学分解速度を増大させる触媒である、方法。
【請求項18】
請求項15に記載の炭化水素供給原料を熱分解する方法において、
ランダム充填された前記熱伝導性フィラー材料は、化学分解速度を増大させる触媒で処理される、方法。
【請求項19】
請求項15に記載の炭化水素供給原料を熱分解する方法において、
少なくとも1つの通路の少なくとも一部にランダム充填体を備える前記システムを、ランダム充填体および同様の空隙容量のないシステムに比べて長い時間にわたり運転すること、
をさらに含む、方法。
【請求項20】
請求項15に記載の炭化水素供給原料を熱分解する方法において、
出口の温度は、ランダム充填体および同様の空隙容量のないシステムに比べて、約2%〜約10%または約0.5%〜約5%だけ減少する、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate


【公表番号】特表2012−510558(P2012−510558A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539567(P2011−539567)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/064902
【国際公開番号】WO2010/065302
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(509317874)ラムス テクノロジー インコーポレイテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】LUMMUS TECHNOLOGY INC.
【住所又は居所原語表記】1515 Broad Street,Bloomfield,NJ 07003−3096(US).
【Fターム(参考)】