説明

熱可塑性エラストマーおよび熱可塑性エラストマー組成物

【課題】優れたリサイクル性を保持し、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れる熱可塑性エラストマーおよびそれを含有する熱可塑性エラストマー組成物の提供。
【解決手段】環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと、水酸基を2個以上有するポリアミン化合物との反応により得られる熱可塑性エラストマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマーおよび熱可塑性エラストマー組成物に関し、詳しくは、温度変化により架橋形成および架橋解離を繰り返し再現しうる特性(以下、単に「リサイクル性」という場合がある。)を有する熱可塑性エラストマーおよびそれを含有する熱可塑性エラストマー組成物に関する。特に、優れたリサイクル性を保持し、圧縮永久歪にも優れる熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護や省資源等の立場から、使用済み材料の再利用が望まれている。架橋ゴム(加硫ゴム)は、高分子物質と架橋剤(加硫剤)とが共有結合した安定な三次元網目構造を有し、非常に高い強度を示すが、強い共有結合による架橋のため再成形が難しい。一方、熱可塑性エラストマーは、物理的架橋を利用するものであり、予備成形等を含む煩雑な加硫・成形工程を必要とせずに、加熱溶融により容易に成形加工することができる。
このような熱可塑性エラストマーの典型例としては、樹脂成分とゴム成分とを含み、常温では微結晶の樹脂成分が三次元網目構造の架橋点の役割を果たすハードセグメントとなり、ゴム成分(ソフトセグメント)の塑性変形を阻止し、昇温により樹脂成分の軟化または融解により塑性変形する熱可塑性エラストマーが知られている。しかし、このような熱可塑性エラストマーでは、樹脂成分を含んでいるためゴム弾性が低下しやすい。そのため、樹脂成分を含まずに熱可塑性が付与できる材料が求められている。
【0003】
かかる課題に対し、本発明者は先に、カルボニル含有基と複素環アミン含有基とを側鎖に有するエラストマー性ポリマーからなる水素結合性の熱可塑性エラストマーが、水素結合を利用して温度変化により架橋形成と架橋解離とを繰り返すことができること見出し、側鎖に、(i) カルボニル含有基と、(ii)複素環アミン含有基とを有するエラストマー性ポリマーからなる水素結合性の熱可塑性エラストマーを提案し、該熱可塑性エラストマーの製造方法として、環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと、複素環アミン含有化合物とを、該複素環アミン含有化合物が環状酸無水物基と化学的結合しうる温度下に反応させて、熱可塑性エラストマーを得る熱可塑性エラストマーの製造方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような特性を有する熱可塑性エラストマーは、その産業上の利用価値、および環境保護上の価値は高く、更に高い引張強度が得られるとともに、架橋形成および架橋解離を繰り返しても物性変化のない、リサイクル性に優れた材料として期待されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載する熱可塑性エラストマーは、充填剤等を配合しても組成物としての機械的強度、特に所定時間圧縮した後に開放した際の圧縮永久歪が十分ではない場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−169527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、優れたリサイクル性を保持し、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れる熱可塑性エラストマーおよびそれを含有する熱可塑性エラストマー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の反応により得られる熱可塑性エラストマーが、リサイクル性を良好に保持し、機械的強度、特に引張強度等の物性にも優れることを見出し、本発明を達成するに至った。すなわち、本発明は、下記(i)〜(xi)に記載の熱可塑性エラストマーおよび熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【0009】
(i)環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと、水酸基を2個以上有するポリアミン化合物との反応により得られる熱可塑性エラストマー。
【0010】
(ii)上記ポリアミン化合物が、分岐炭素および/または分岐窒素を有する上記(i)に記載の熱可塑性エラストマー。
【0011】
(iii)上記ポリアミン化合物が、第3級アミノ基(下記式で表される基)を有する上記(ii)に記載の熱可塑性エラストマー。
【0012】
【化1】

【0013】
(iv)上記ポリアミン化合物が、ポリアルキレンイミンとアルキレンオキシドとの反応物である上記(i)〜(iii)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
【0014】
(v)上記ポリアルキレンイミンが、ポリエチレンイミンである上記(iv)に記載の熱可塑性エラストマー。
【0015】
(vi)上記アルキレンオキシドが、エチレンオキシドである上記(iv)または(v)に記載の熱可塑性エラストマー。
【0016】
(vii)上記ポリアミン化合物の水酸基、第1級アミノ基および第2級アミノ基の合計官能基数と上記エラストマー性ポリマーの環状酸無水物基との当量比(水酸基、第1級アミノ基および第2級アミノ基の合計官能基数/環状酸無水物基)が、0.5〜2.9である上記(i)〜(vi)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
【0017】
(viii)下記式(1)で表される構造を有する上記(i)〜(vii)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
【0018】
【化2】

【0019】
(ix)α位またはβ位で主鎖に結合する下記式(2)で表される構造を有する上記(viii)に記載の熱可塑性エラストマー。
【0020】
【化3】

【0021】
(x)上記(i)〜(ix)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーを含有する熱可塑性エラストマー組成物。
【0022】
(xi)更に、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する上記(x)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の効果】
【0023】
以下に説明するように、本発明によれば、優れたリサイクル性を保持し、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れる熱可塑性エラストマーを提供することができるため有用である。
また、この熱可塑性エラストマーを含有する熱可塑性エラストマー組成物も同様の効果を奏し、その価値も極めて高いため非常に有用である。
更に、これらの熱可塑性エラストマーおよび熱可塑性エラストマー組成物は、シート成型性および押出し成型性に優れ、臭気も低減できるため非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の第1の態様に係る熱可塑性エラストマー(以下、単に「本発明の熱可塑性エラストマー」という場合がある。)は、環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと、水酸基を2個以上有するポリアミン化合物との反応により得られる熱可塑性エラストマーである。
【0025】
本発明の熱可塑性エラストマーが、優れたリサイクル性を保持し、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れる理由は、詳細には明らかではないが、発明者は、以下のように考えている。
すなわち、熱可塑性エラストマーが、その構造中に、環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと水酸基を2個以上有するポリアミン化合物との反応により形成される、水素結合性の架橋部位(具体的には、当該反応により生起する水酸基)および共有結合による架橋部分(具体的には、当該反応により生起するエステル結合)を有しているため、これらの部位や部分が、架橋点として作用することができるためと考えられる。
【0026】
また、本発明の熱可塑性エラストマーが、シート成型性および押出し成型性に優れ、臭気が低減できる理由も、詳細には明らかではないが、発明者は、以下のように考えている。
すなわち、環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと、水酸基を有さないアミン化合物、特に、第1級アミノ基(−NH2)および/または第2級アミノ基(−NH−)を2個以上有するポリアミン化合物とを反応させた場合には、シート成型性および押出し成型性に劣ることがあり、臭気も強くなることがある。これは、このようなアミノ基と環状酸無水物基との反応により生起する架橋(アミド結合)が水素結合性も有するため非常に強く、かつ、可逆的な解離性は乏しく、また、アミノ基自体が非常に酸化されやすいことが原因であると考えられる。
これに対し、本発明の熱可塑性エラストマーは、水酸基を有するポリアミン化合物を用いることにより、水酸基と環状酸無水物基との反応により水素結合性を有しない架橋(エステル結合)が生起し、また、エステル結合は可逆的な解離性が高く、更に、水酸基自体の酸化も殆ど進行しないため、シート成型性および押出し成型性に優れ、臭気が低減できると考えられる。
【0027】
次に、本発明の熱可塑性エラストマーの生成に用いられる環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーおよびポリアミン化合物について詳述する。
【0028】
<環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマー>
上記環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーとは、主鎖を形成する原子に環状酸無水物基が化学的に安定な結合(共有結合)をしているエラストマー性ポリマーのことをいい、以下に示すエラストマー性ポリマーと環状酸無水物基を導入しうる化合物とを反応させることにより得られるものである。
【0029】
(エラストマー性ポリマー)
上記エラストマー性ポリマーは、一般的に公知の天然高分子または合成高分子であって、そのガラス転移点が室温(25℃)以下のポリマー、すなわちエラストマーであれば特に限定されない。
このようなエラストマー性ポリマーとしては、具体的には、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などのジエン系ゴムおよびこれらの水素添加物;エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−アクリルゴム(AEM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンゴム、ポリプロピレンゴムなどのオレフィン系ゴム;エピクロロヒドリンゴム;多硫化ゴム;シリコーンゴム;ウレタンゴム;等が挙げられる。
【0030】
また、上記エラストマー性ポリマーは、樹脂成分を含むエラストマー性ポリマーであってもよく、その具体例としては、水添されていてもよいポリスチレン系エラストマー性ポリマー(例えば、SBS、SIS、SEBS等)、ポリオレフィン系エラストマー性ポリマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー性ポリマー、ポリウレタン系エラストマー性ポリマー、ポリエステル系エラストマー性ポリマー、ポリアミド系エラストマー性ポリマー等が挙げられる。
【0031】
更に、上記エラストマー性ポリマーは、液状または固体状であってもよく、その分子量は特に限定されず、本発明の熱可塑性エラストマーおよび本発明の第2の態様に係る熱可塑性エラストマー組成物(以下、単に「本発明の組成物」という。)が用いられる用途、ならびにこれらに要求される物性等に応じて適宜選択することができる。
本発明の熱可塑性エラストマーおよび本発明の組成物(以下、単に「本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)」という場合がある。)を加熱(脱架橋)した時の流動性を重視する場合は、上記エラストマー性ポリマーは液状であることが好ましく、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムでは、重量平均分子量が1,000〜100,000であることが好ましく、1,000〜50,000程度であることが特に好ましい。
一方、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)の強度を重視する場合は、上記エラストマー性ポリマーは固体状であることが好ましく、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムでは、重量平均分子量が100,000以上であることが好ましく、500,000〜1,500,000程度であることが特に好ましい。
本発明において、重量平均分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(Gel permeation chromatography(GPC))により測定した重量平均分子量(ポリスチレン換算)である。測定にはテトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いるのが好ましい。
【0032】
本発明においては、上記エラストマー性ポリマーを2種以上混合して用いることができる。この場合の各エラストマー性ポリマー同士の混合比は、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)が用いられる用途、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)に要求される物性等に応じて任意の比率とすることができる。
また、上記エラストマー性ポリマーのガラス転移点は、上述したように25℃以下であることが好ましく、該エラストマー性ポリマーが2以上のガラス転移点を有する場合または2種以上の該エラストマー性ポリマーを混合して用いる場合は、ガラス転移点の少なくとも1つは25℃以下であることが好ましい。上記エラストマー性ポリマーのガラス転移点がこの範囲であれば、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)からなる成形物が室温でゴム状弾性を示すため好ましい。
本発明において、ガラス転移点は、示差走査熱量測定(DSC−Differential Scanning Calorimetry)により測定したガラス転移点である。昇温速度は10℃/minにするのが好ましい。
【0033】
このようなエラストマー性ポリマーは、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)などのジエン系ゴム;エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−アクリルゴム(AEM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)などのオレフィン系ゴム;であることが、ガラス転移点が25℃以下であり、得られる本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)からなる成形物が室温でゴム状弾性を示すため好ましい。また、オレフィン系ゴムを用いると得られる本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)が架橋した時の引張強度が向上し、二重結合が存在しないため組成物の劣化が抑制される。
【0034】
本発明においては、上記スチレン−ブタジエンゴム(SBR)の結合スチレン量、水添エラストマー性ポリマー等の水添率等は、特に限定されず、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)が用いられる用途、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)に要求される物性等に応じて任意の比率に調整することができる。
また、上記エラストマー性ポリマーの主鎖として、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−アクリルゴム(AEM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)を用いる場合、そのエチレン含有量は、好ましくは10〜90モル%であり、より好ましくは40〜90モル%である。エチレン含有量がこの範囲であれば、熱可塑性エラストマー(組成物)としたときの圧縮永久歪、機械的強度、特に引張強度に優れるため好ましい。
【0035】
(環状酸無水物基を導入しうる化合物)
環状酸無水物基を導入しうる化合物としては、具体的には、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等の環状酸無水物が挙げられる。
【0036】
環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーは、通常行われる方法、例えば、上記エラストマー性ポリマーに、通常行われる条件、例えば、加熱下での撹拌等により環状酸無水物をグラフト重合させる方法で製造してもよく、また市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えば、LIR−403(クラレ社製)、LIR−410A(クラレ社試作品)などの無水マレイン酸変性イソプレンゴム;LIR−410(クラレ社製)などの変性イソプレンゴム;クライナック110、221、231(ポリサー社製)などのカルボキシ変性ニトリルゴム;日石ポリブテン(新日本石油社製)などの無水マレイン酸変性ポリブテン;ニュクレル(三井デュポンポリケミカル社製)などのエチレンメタクリル酸コポリマー;ユカロン(三菱化学社製)などのエチレンメタクリル酸共重合体;タフマーM(MA8510(三井化学社製))、TX−1215(三井化学社製)などの無水マレイン酸変性エチレン−プロピレンゴム;タフマーM(MH7020(三井化学社製))などの無水マレイン酸変性エチレン−ブテンゴム;アドテックスシリーズ(無水マレイン酸変性EVA、無水マレイン酸変性EMA(日本ポリオレフィン社製))、HPRシリーズ(無水マレイン酸変性EEA、無水マレイン酸変性EVA(三井・デュポンポリケミカル社製))、デュミランシリーズ(無水マレイン酸変性EVOH(武田薬品工業社製))、ボンダイン(無水マレイン酸変性EEA(アトフィナ社製))、タフテック(無水マレイン酸変性SEBS、M1943(旭化成社製))、クレイトン(無水マレイン酸変性SEBS、FG1901X(クレイトンポリマー社製))、タフプレン(無水マレイン酸変性SBS、912(旭化成社製))、セプトン(無水マレイン酸変性SEPS(クラレ社製))、レクスパール(無水マレイン酸変性EEA、ET−182G、224M、234M(日本ポリオレフィン社製))、アウローレン(無水マレイン酸変性EEA、200S、250S(日本製紙ケミカル社製))などの無水マレイン酸変性ポリエチレン;アドマー(QB550、LF128(三井化学社製))などの無水マレイン酸変性ポリプロピレン;ボンドファストシリーズ(住友化学社製)などのエチレン・グリシジルメタアクリレート・酢酸ビニル共重合体、エチレン・グリシジルメタアクリレート・アクリル酸メチル共重合体;等が挙げられる。
【0037】
<ポリアミン化合物>
上記ポリアミン化合物は、水酸基を2個以上有し、かつ、第1級アミノ基、第2級アミノ基および第3級アミノ基からなる群から選択される基を少なくとも2個以上有する化合物であれば特に限定されない。
【0038】
本発明においては、上記ポリアミン化合物は、分岐炭素および/または分岐窒素を有しているのが好ましく、第3級アミノ基を有しているのがより好ましい。分岐炭素および/または分岐窒素を有していると、上述した環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーとの反応により得られる熱可塑性エラストマーの水素結合性の架橋部位が増加し、分子間で三次元的架橋するため、機械的強度、特に圧縮永久歪がより良好となる。
ここで、分岐炭素とは、ポリアミン化合物の主鎖骨格が分岐している起点となる炭素原子のことをいい、分岐窒素とは、ポリアミン化合物の主鎖骨格が分岐している起点となる窒素原子のことをいう。また、第3級アミノ基とは、いずれの結合手にも水素原子が結合していない窒素原子からなる基のことをいう。
【0039】
また、本発明においては、上記ポリアミン化合物は、更に、第1級アミノ基および/または第2級アミノ基を有しているのが好ましい。
第1級アミノ基を有していると、エステル結合とともに、一部アミド結合による共有結合による架橋部分が形成されるため、機械的強度、特に圧縮永久歪がより向上する。また、第2級アミノ基を有していると、カルボン酸等と水素結合を形成することができ、機械的強度がより向上する。
ここで、第1級アミノ基とは、いわゆるアミノ基(−NH2)のことをいい、第2級アミノ基とは、イミノ基(−NH−)のことをいう。
【0040】
このようなポリアミン化合物としては、具体的には、例えば、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンなどのポリアルキレンイミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノドデカン、ジエチレントリアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン;ジアミノシクロヘキサン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタンなどの脂環族アミン;ジアミノトルエン、ジアミノキシレン、テトラメチルキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ポリアミン;等と、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシド;等との反応物が挙げられる。
また、下記式で表されるトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートをポリアミン化合物として用いてもよい。
【0041】
【化4】

【0042】
このようなポリアミン化合物のうち、ポリアルキレンイミンとアルキレンオキシドとの反応物であるのが、第1級アミノ基、第2級アミノ基および第3級アミノ基をそれぞれ複数有する理由から好ましい。また、機械的強度、特に圧縮永久歪がより向上する理由から、ポリエチレンイミンとエチレンオキシドとの反応物であるのがより好ましい。
【0043】
ここで、ポリエチレンイミンとは、第1級アミノ基、第2級アミノ基および第3級アミノ基を1:2:1程度の割合で有し、重量平均分子量が300〜100000程度のアミン化合物をいう。具体的には、例えば、以下に示す一般式で表す化合物である。
【0044】
【化5】

【0045】
式中、x、yおよびzは、それぞれ独立に1〜3000の整数を表し、Rは、水素原子または窒素原子を含む炭化水素基を表す。ここで、Rをこのように定義したのは、Rが、更に、式中のx個有する繰返し単位、y個有する繰返し単位、z個有する繰返し単位を有することを表すためである。また、複数のRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。なお、x個有する繰返し単位と、y個有する繰返し単位と、z個有する繰返し単位との配列は特に限定されず、例えば、ランダム、ブロック、ランダムとブロックとの混合による配列が挙げられる。
【0046】
上記ポリエチレンイミンとして、市販品を用いてもよい。具体的には、例えば、エポミン(登録商標。以下同じ。)SP−018(重量平均分子量1800、日本触媒社製)、エポミンSP−200(重量平均分子量10000、日本触媒社製)等を用いることができる。
【0047】
本発明においては、上記ポリアミン化合物は、分子量が500〜1500程度の場合、水酸基価が750以下であり、全アミン価が400以上であるのが好ましく、水酸基価が600以下であり、全アミン価が600以上であるのがより好ましく、水酸基価が500以下であり、全アミン価が800以上であるのが更に好ましい。
水酸基価および全アミン価がこの範囲であると、本発明の熱可塑性エラストマーの機械的強度、特に圧縮永久歪がより向上する。
【0048】
本発明の熱可塑性エラストマーは、上述した環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと、上述したポリアミン化合物との反応により得られる熱可塑性エラストマーである。
この反応は、上述した環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと、上述したポリアミン化合物とを混合し、該エラストマー性ポリマーの環状酸無水物基と該ポリアミン化合物の水酸基とが化学結合しうる温度(例えば、80〜200℃)で環状酸無水物基を開環させる反応である。
なお、この反応においては、上述したポリアミン化合物が第1級アミノ基を有する場合は、水酸基とともに、第1級アミノ基とエラストマー性ポリマーの環状酸無水物基とが反応していてもよい。
【0049】
また、上記反応においては、上述したポリアミン化合物の水酸基、第1級アミノ基および第2級アミノ基の合計官能基数と、上述したエラストマー性ポリマーの環状酸無水物基との当量比(水酸基、第1級アミノ基および第2級アミノ基の合計官能基数/環状酸無水物基)が、0.5〜2.9となるのが好ましく、1.0〜2.5となるのがより好ましく、1.8〜2.3となるのが更に好ましい。
ここで、「水酸基、第1級アミノ基および第2級アミノ基の合計官能基数」とは、第1級アミノ基および第2級アミノ基を有していない場合は水酸基のみの基数をいい、第1級アミノ基を有していない場合は水酸基および第2級アミノ基の合計基数をいい、第2級アミノ基を有していない場合は水酸基および第1級アミノ基の合計基数をいう。
【0050】
本発明においては、上述した環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーおよび上述したポリアミン化合物だけでなく、更にポリオール化合物を反応させてもよい。上述した環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーおよびポリアミン化合物のみならず、ポリオール化合物を反応させることにより、得られる熱可塑性エラストマーの機械的強度(特に、破断伸び)がより良好となる。
次に、好適な熱可塑性エラストマーの生成に用いられるポリオール化合物について詳述する。
【0051】
<ポリオール化合物>
上記ポリオール化合物は、水酸基を2個以上有する化合物であれば、その分子量および骨格などは特に限定されず、例えば、以下に示すポリエーテルポリオール(ポリアルキレングリコール縮合物)、ポリエステルポリオール、アルキレンオキサイド共重合ポリオール、エポキシ樹脂変性ポリオール、その他のポリオール、およびこれらの混合ポリオール等が挙げられる。
【0052】
ポリエーテルポリオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,2,5−ヘキサントリオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、4,4′−ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4′−ジヒドロキシフェニルメタン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールから選ばれる少なくとも1種に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイドなどから選ばれる少なくとも1種を付加させて得られるポリオール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等);ポリオキシテトラメチレンオキサイド;ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)、ポリエチレングリコールグリセリルエーテル、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール・ビスフェノールAエーテル;イソシアヌル酸とエチレンオキサイドとの反応物(例えば、上記式で表したトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等)、イソシアヌル酸とプロピレンオキサイドとの反応物;等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0053】
ポリエステルポリオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパンその他の低分子ポリオールの1種または2種以上と、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸その他の低分子カルボン酸やオリゴマー酸の1種または2種以上との縮合重合体;プロピオンラクトン、バレロラクトンなどの開環重合体;等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0054】
アルキレンオキサイド共重合ポリオールとしては、具体的には、例えば、テトラヒドロフランとプロピレンオキサイドとの共重合体(THF−PO共重合体)、テトラヒドロフランとエチレンオキサイドとの共重合体(THF−EO共重合体)等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0055】
エポキシ樹脂変性ポリオールとしては、具体的には、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂変性エチレングリコール等が挙げられる。
【0056】
その他のポリオールとしては、具体的には、例えば、ポリマーポリオール、ポリカーボネートポリオール;ポリブタジエンポリオール;水素添加されたポリブタジエンポリオール;アクリルポリオール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどの低分子ポリオール;ポリエチレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリプロピレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N−ビス(2−メチル−2−ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリエチレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリプロピレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N−ビス(2−メチル−2−ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリエチレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)、ポリプロピレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N−ビス(2−メチル−2−ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)などのポリアルキレングリコールアルキルアミン;脂肪酸ジエタノールアミド;等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0057】
これらのうち、ポリエーテルポリオールであるのが、圧縮永久歪がより良好となるため好ましく、中でも、ポリエチレングリコールグリセリルエーテルであるのがより好ましい。
【0058】
本発明においては、ポリエーテルポリオールとして、市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えば、下記構造式で表されるポリエチレングリコールグリセリルエーテル(ユニオックスG−450、日本油脂社製)等を用いることができる。
【0059】
【化6】

【0060】
本発明の熱可塑性エラストマーは、下記式(1)で表される構造を有するのが好ましい。
【0061】
【化7】

【0062】
上記式(1)で表される構造は、上述した環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと上述したポリアミン化合物との反応により環状酸無水物基が開裂して生ずるものである。
そのため、上記式(1)で表される構造は、α位またはβ位で主鎖に結合する下記式(2)で表される構造として有するのが好ましい。
【0063】
【化8】

【0064】
また、本発明の熱可塑性エラストマーは、上述したポリアミン化合物が有する水酸基の個数に応じて、例えば、下記式(3)〜(5)で表される構造を有するのが好ましい。
【0065】
【化9】

【0066】
式中、Dは、上述したポリアミン化合物のヒドロキシエチル基を除いた残基である。
【0067】
更に、本発明の熱可塑性エラストマーは、上記式(3)〜(5)で表される構造を、それぞれ、α位またはβ位で主鎖に結合する下記式(6)〜(8)で表される構造として有するのがより好ましい。
【0068】
【化10】

【0069】
式中、Dは、上記式(3)〜(5)と同様、上述したポリアミン化合物のヒドロキシエチル基を除いた残基である。
【0070】
上記式(6)〜(8)で表される構造としては、具体的には、下記式(9)〜(11)で表される構造が好適に例示される。
【0071】
【化11】

【0072】
一方、本発明の熱可塑性エラストマーは、上述したポリアミン化合物が第1級アミノ基および/または第2級アミノ基を有する場合、上記式(1)で表される構造とともに、下記式(12)で表される構造を有していてもよい。
【0073】
【化12】

【0074】
式中、R1は、水素原子またはO、NおよびSからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基である。
【0075】
ここで、式中、R1の「O、NおよびSからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基」とは、上述した環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと上述したポリアミン化合物との反応の際に生じるR1が水素原子であるイミノ基が、他のエラストマー性ポリマーの環状酸無水物基と反応した場合の当該他のエラストマー性ポリマーを置換基に含ませる意味である。
【0076】
上記式(12)で表される構造は、上述した環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと上述したポリアミン化合物との反応により環状酸無水物基が開裂して生ずるものである。
そのため、上記式(12)で表される構造は、α位またはβ位で主鎖に結合する下記式(13)で表される構造として有するのが好ましい。
【0077】
【化13】

【0078】
式中、R1は、水素原子またはO、NおよびSからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基である。
ここで、式中、置換基R1は上記式(12)の置換基R1と基本的に同様である。
【0079】
また、本発明の熱可塑性エラストマーは、上述したポリアミン化合物が第1級アミノ基および/または第2級アミノ基を有する場合、これらのアミノ基の数に応じて、例えば、下記式(14)〜(16)で表される構造を有するのが好ましい。
【0080】
【化14】

【0081】
式中、R1は、水素原子またはO、NおよびSからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基であり、Eは、上述したポリアミン化合物の第1級アミノ基および第2級アミノ基を除いた残基である。
ここで、置換基R1は上記式(12)の置換基R1と基本的に同様である。
【0082】
更に、本発明の熱可塑性エラストマーは、上記式(14)〜(16)で表される構造を、それぞれ、α位またはβ位で主鎖に結合する下記式(17)〜(19)で表される構造として有するのがより好ましい。
【0083】
【化15】

【0084】
式中、R1は、水素原子またはO、NおよびSからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基であり、Eは、上述したポリアミン化合物の第1級アミノ基および第2級アミノ基を除いた残基である。
ここで、置換基R1は上記式(12)の置換基R1と基本的に同様である。
【0085】
ここで、上記式(17)〜(19)中、置換基R1が水素原子である場合は、上記式(17)〜(19)で表される構造は、脱水してイミド化した下記式(17′)〜(19′)で表される構造であってもよい。
【0086】
【化16】

【0087】
上記式(17)〜(19)で表される構造としては、具体的には、下記式(20)〜(22)で表される構造が好適に例示される。これらの構造は、脱水してイミド化した下記式(20′)〜(22′)で表される構造であってもよい。
【0088】
【化17】

【0089】
【化18】

【0090】
一方、本発明の熱可塑性エラストマーは、上述したポリオール化合物も反応させて得た場合、上記式(1)で表される構造とは別に、更に、下記式(23)で表される構造を有していてもよい。
【0091】
【化19】

【0092】
上記式(23)で表される構造は、上述した環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと、上述したポリアミン化合物およびポリエーテルポリオールとの反応において、環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーとポリエーテルポリオールとが反応することで環状酸無水物基が開裂して生ずるものである。
そのため、上記式(23)で表される構造は、α位またはβ位で主鎖に結合する下記式(24)で表される構造として有するのが好ましい。
【0093】
【化20】

【0094】
また、本発明の熱可塑性エラストマーは、上述したポリオール化合物も反応させて得た場合、上記式(3)〜(5)で表される構造とは別に、例えば、下記式(25)〜(27)で表される構造を有するのが好ましい。
【0095】
【化21】

【0096】
式中、Gは、酸素原子、イオウ原子または窒素原子を含んでいてもよく、分岐していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。
【0097】
ここで、置換基Gとしては、具体的には、例えば、メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,5−ペンチレン基、1,6−ヘキシレン基、1,7−ヘプチレン基、1,8−オクチレン基、1,9−ノニレン基、1,10−デシレン基、1,11−ウンデシレン基、1,12−ドデシレン基などのアルキレン基;N,N−ジエチルドデシルアミン−2,2′−ジイル、N,N−ジプロピルドデシルアミン−2,2′−ジイル、N,N−ジエチルオクチルアミン−2,2′−ジイル、N,N−ジプロピルオクチルアミン−2,2′−ジイル、N,N−ジエチルステアリルアミン−2,2′−ジイル、N,N−ジプロピルステアリルアミン−2,2′−ジイル、;ビニレン基;1,4−シクロへキシレン基等の2価の脂環式炭化水素基;1,4−フェニレン基、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,3−フェニレンビス(メチレン)基などの2価の芳香族炭化水素基;プロパン−1,2,3−トリイル、ブタン−1,3,4−トリイル、トリメチルアミン−1,1′,1′′−トリイル、トリエチルアミン−2,2′,2′′−トリイル等の3価の炭化水素基;下記式(28)および(29)で表される4価の炭化水素基;およびこれらを組み合わせて形成される置換基;等が挙げられる。
中でも、分岐炭素を含有しているのが好ましく、第3級炭化水素基(≡CH)を含有しているのがより好ましい。
【0098】
【化22】

【0099】
更に、本発明の熱可塑性エラストマーは、上記式(25)〜(27)で表される構造を、それぞれ、α位またはβ位で主鎖に結合する下記式(30)〜(32)で表される構造として有するのがより好ましい。
【0100】
【化23】

【0101】
式中、Gは、酸素原子、イオウ原子または窒素原子を含んでいてもよく、分岐していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。
ここで、置換基Gは上記式(25)〜(27)の置換基Gと基本的に同様である。
【0102】
上記式(30)〜(32)のいずれかで表される構造としては、具体的には、下記式(33)および(34)で表される構造が好適に例示される。
【0103】
【化24】

(式中、l、mおよびnは、それぞれ独立に1以上の整数を表す。)
【0104】
本発明の熱可塑性エラストマーは、そのガラス転移点が25℃以下であるのが好ましく、該熱可塑性エラストマーが2以上のガラス転移点を有する場合または2種以上の熱可塑性エラストマーを併用する場合はガラス転移点の少なくとも1つは25℃以下であるのが好ましい。ガラス転移点が25℃以下であれば、成形物が室温でゴム状弾性を示す。
【0105】
次に、本発明の熱可塑性エラストマーを含有する本発明の組成物について説明する。
本発明の組成物は、本発明の第1の態様に係る熱可塑性エラストマーを1種以上含有する。2種以上含有する場合の混合比は、組成物が用いられる用途、組成物に要求される物性等に応じて、任意の比率とすることができる。
【0106】
本発明の組成物は、本発明の熱可塑性エラストマー以外に、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有していることが好ましい。
スチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香族ビニル化合物および共役ジエンからブロック共重合体として得られる公知のスチレン系熱可塑性エラストマーである。
【0107】
本発明においては、上記スチレン系熱可塑性エラストマーは、圧縮永久歪をより良好にする観点から、末端に架橋点に相当する芳香族ビニルによるブロック重合部を有し、重量平均分子量が10万以上のものであるのが好ましい。
上記芳香族ビニル化合物としては、具体的には、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン等が挙げられ、これらを1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
また、上記共役ジエンとしては、具体的には、例えば、ブタジエン、イソプレンおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0108】
このようなスチレン系熱可塑性エラストマーを含有することにより、得られる本発明の組成物は、圧縮永久歪が良好なものとなる。これは、スチレン系熱可塑性エラストマーが非相溶であり、流動性が低く、独立した相を形成し、また、スチレン系熱可塑性エラストマーはオイルとの親和性が高いため、スチレン系熱可塑性エラストマーがオイルを吸った状態で、本発明の熱可塑性エラストマーの架橋構造中に取り込まれることになるためであると考えられる。
【0109】
本発明においては、上記スチレン系熱可塑性エラストマーの製造方法は特に限定されないが、例えば、上記芳香族ビニル化合物を重合させて得られる重合体(ブロック(A))と、上記共役ジエンを重合させて得られる重合体(ブロック(B))との共重合(ブロック共重合)により得る方法が好適に例示される。
ここで、上記ブロック(A)の数平均分子量は、3000〜50000の範囲であるのが好ましい。分子量がこの範囲であると、得られるスチレン系熱可塑性エラストマーの機械的強度が良好となり、該スチレン系熱可塑性エラストマーを用いた本発明の組成物を得る際の圧縮永久歪が良好となる。
また、上記ブロック(B)の数平均分子量は、10000〜200000の範囲であるのが好ましい。分子量がこの範囲であると、得られるスチレン系熱可塑性エラストマーを用いた本発明の組成物を得る際の混合溶融時の粘度が良好となり、得られる本発明の組成物の混合溶融時の粘度が良好となる。
更に、ブロック共重合体として得られるスチレン系熱可塑性エラストマーは、1個以上のブロック(A)と1個以上のブロック(B)を有するものであり、そのブロック形態は、A−(B−A)nまたは(A−B)mで示すことができる。このうち、A−B−Aの形態であるのが流動性や機械的物性が良好になる理由から好ましく、A−BとA−B−Aとを併用する形態であってもよい。
【0110】
また、本発明においては、上記スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン含有率が10〜60質量%であるのが好ましく、30〜50質量%であるのがより好ましい。スチレン含有率がこの範囲であると、本発明の組成物を得る際の混合溶融時の粘度が良好となり、得られる本発明の組成物の機械的強度および耐圧縮永久歪がより向上する。
【0111】
このようなスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、例えば、スチレン−イソプレンブロック共重合体水添物(SEPS:スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体)、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(以下、「SEEPS」という。)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(以下、「SEBS」という。)等が挙げられる。
本発明においては、このようなスチレン系熱可塑性エラストマーとして、セプトン2006(SEPS、クラレ社製)、セプトン4055(SEEPS、クラレ社製)、セプトン4077(SEEPS、クラレ社製)等の市販品を用いることができる。
【0112】
本発明の組成物においては、上記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、1〜500質量部であるのが好ましく、30〜200質量部であるのがより好ましく、50〜150質量部であるのが更に好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量がこの範囲であると、得られる本発明の組成物の機械的強度および圧縮永久歪がより良好となる。
【0113】
本発明の組成物は、補強剤としてカーボンブラックおよび/またはシリカを含有していることが好ましい。
カーボンブラックの種類は、用途に応じて適宜選択される。一般に、カーボンブラックは粒子径に基づいて、ハードカーボンとソフトカーボンとに分類される。ソフトカーボンはゴムに対する補強性が低く、ハードカーボンはゴムに対する補強性が強い。本発明では、特に、補強性の強いハードカーボンを用いることが好ましい。
カーボンブラックの含有量(カーボンブラック単独で用いる場合)は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であり、1〜100質量部であることが好ましく、1〜80質量部であることがより好ましい。
【0114】
シリカは、特に限定されず、具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、けいそう土等が挙げられ、その含有量(シリカ単独で用いる場合)は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であり、1〜100質量部であることが好ましく、1〜80質量部であることがより好ましい。これらのうち、沈降シリカが好ましい。
補強剤としてシリカを用いる場合には、シランカップリング剤を併用できる。シランカップリング剤としては、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(Si69)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(Si75)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、後述するアミノシラン化合物も用いることができる。
【0115】
カーボンブラックおよびシリカを併用する場合の含有量(カーボンブラックおよびシリカの合計量)は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であり、1〜100質量部であることが好ましく、1〜80質量部であることがより好ましい。
【0116】
本発明の組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、本発明の熱可塑性エラストマー以外のポリマー、カーボンブラックおよびシリカ以外の補強剤(充填剤)、アミノ基を導入してなる充填剤(以下、単に「アミノ基導入充填剤」という。)、該アミノ基導入充填剤以外のアミノ基含有化合物、金属元素を含む化合物(以下、単に「金属塩」という。)、無水マレイン酸変性ポリマー、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、防錆剤、接着付与剤、帯電防止剤、フィラーなどの各種添加剤等を含有することができる。
【0117】
上記添加剤等は、一般に用いられるものを使用することができ、以下に具体的に、その一部を例示するが、これら例示したものに限られない。
本発明の熱可塑性エラストマー以外のポリマーとしては、上記した理由と同様にガラス転移温度が25℃以下のポリマーが好ましい。具体的には、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−アクリルゴム(AEM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)等が挙げられ、特にIIR、EPM、EBMの不飽和結合を有さないポリマーまたは不飽和結合の少ないポリマー(例えば、EPDM)が好ましい。また、水素結合可能な部位を有するポリマーも好ましく、例えば、ポリエステル、ポリラクトン、ポリアミド等が挙げられる。更に、ポリオレフィン系軟質樹脂、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテンまたはエチレン−ブテン共重合体などの熱可塑性ポリマーも挙げられる。
また、本発明の組成物において、本発明の熱可塑性エラストマー以外のポリマーは、1種または2種以上を含有させてもよく、該ポリマーの含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であることが好ましく、1〜100質量部であることがより好ましい。
【0118】
カーボンブラックおよびシリカ以外の補強剤としては、具体的には、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー等が挙げられる。これらの補強剤の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であることが好ましく、1〜100質量部であることがより好ましい。
【0119】
上記アミノ基導入充填剤の基体となる充填剤(以下、単に「基体となる充填剤」という場合がある。)としては、例えば、上記架橋ゴムに所望により添加することができるとして例示した充填剤が挙げられ、アミノ基の導入のしやすさ、導入割合(導入率)の調整等が容易である観点から、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウムであることが好ましく、シリカであることがより好ましい。
【0120】
上記基体となる充填剤に導入されるアミノ基(以下、単に「アミノ基」という場合がある。)は、特に限定されず、その具体例としては、脂肪族アミノ基、芳香族アミノ基、複素環を構成するアミノ基、これらアミノ基の複数の混合アミノ基等が挙げられる。
ここで、本発明において、脂肪族アミン化合物に有するアミノ基を脂肪族アミノ基、芳香族アミン化合物に有する芳香族基に結合したアミノ基を芳香族アミノ基、複素環アミン化合物に有するアミノ基を複素環アミノ基という。
これらのうち、本発明の熱可塑性エラストマーとの相互作用を適度に形成し、該熱可塑性エラストマー中に効果的に分散可能であるという観点から、複素環アミノ基、複素環アミノ基を含む混合アミノ基または脂肪族アミノ基であることが好ましく、複素環アミノ基または脂肪族アミノ基であることが好ましい。
【0121】
上記アミノ基の級数は、特に限定されず、1級(−NH2)、2級(イミノ基、>NH)、3級(>N−)または4級(>N+<)のいずれであってもよい。
上記アミノ基が1級であると、本発明の熱可塑性エラストマーとの相互作用が強くなる傾向があり、組成物を調製する際の条件等によってはゲル化する場合がある。一方、上記アミノ基が3級であると、本発明の熱可塑性エラストマーとの相互作用が弱くなる傾向があり、組成物としたときの圧縮永久歪等の改善効果が小さい場合がある。
このような観点から、上記アミノ基の級数は、1級または2級であることが好ましく、2級であることがより好ましい。
【0122】
すなわち、上記アミノ基としては、複素環アミノ基、複素環アミノ基を含む混合アミノ基または1級もしくは2級の脂肪族アミノ基であることが好ましく、複素環アミノ基または1級もしくは2級の脂肪族アミノ基であることが特に好ましい。
【0123】
上記アミノ基は、上記基体となる充填剤の表面に少なくとも1つ有すればよいが、組成物としたときの圧縮永久歪等の改善効果に優れる観点から、複数有することが好ましい。
【0124】
上記アミノ基を複数有する場合は、複数のアミノ基のうち少なくとも1つは複素環アミノ基であることが好ましく、更に1級または2級のアミノ基(脂肪族アミノ基、芳香族アミノ基、複素環アミノ基)を有することがより好ましい。
また、上記アミノ基は、組成物に要求される物性に応じてアミノ基の種類および級数を任意に調整できる。
【0125】
上記アミノ基導入充填剤は、上記基体となる充填剤に、上記アミノ基を導入して得られる。
上記アミノ基を導入する方法は、特に限定されず、その具体例としては、一般的に各種充填剤、補強剤等に用いられる表面処理法(例えば、表面改質法、表面被覆法等)が挙げられる。好ましい方法としては、上記基体となる充填剤と反応可能な官能基およびアミノ基を有する化合物を該充填剤に反応させる方法(表面改質法)、アミノ基を有するポリマーで上記基体となる充填剤の表面をコーティングする方法(表面被覆法)、または、充填剤の合成過程においてアミノ基を有する化合物等を反応させる方法等が挙げられる。
【0126】
上記アミノ基導入充填剤は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の混合比は、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の比率とすることができる。
上記アミノ基導入充填剤の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることが特に好ましい。
【0127】
上記アミノ基導入充填剤以外のアミノ基含有化合物について説明する。
上記アミノ基含有化合物中のアミノ基は、上記アミノ基導入充填剤において説明したものと基本的に同様であり、また、該アミノ基の含有数は1個以上であれば特に限定されず、2個以上であることが本発明の熱可塑性エラストマーと2以上の架橋結合を形成することができ、物性の改善効果に優れるため好ましい。
【0128】
上記アミノ基含有化合物中のアミノ基の級数は特に制限されず、上記アミノ基導入充填剤におけるアミノ基と同様、1級(−NH2)、2級(イミノ基、>NH)、3級(>N−)または4級(>N+<)のいずれであってもよく、本発明の組成物に要求されるリサイクル性、圧縮永久歪、硬度および機械的強度、特に引張強度等の物性に応じて任意に選択できる。2級アミノ基を選択すると機械的強度に優れる傾向があり、3級アミノ基を選択するとリサイクル性に優れる傾向がある。特に、2級アミノ基を2つ有すると、得られる本発明の組成物のリサイクル性、圧縮永久歪および機械的強度に優れ、かつこれらの物性のバランスにも優れるため好ましい。
また、上記アミノ基含有化合物が、2個以上のアミノ基を含有する場合においては、該アミノ基含有化合物中における1級アミノ基数が2個以下となるようにすることが好ましく、1個以下とすることがより好ましい。1級アミノ基を3個以上有すると、該アミノ基および本発明の熱可塑性エラストマー中の官能基(特に、カルボニル含有基であるカルボキシ基)によって形成される(架橋)結合が強固になり、優れたリサイクル性を損なう場合がある。
【0129】
つまり、本発明の熱可塑性エラストマー中の官能基と上記アミノ基含有化合物中のアミノ基との結合力等を勘案してアミノ基の級数、数およびアミノ基含有化合物の構造を適宜調整、選択することができる。
【0130】
このようなアミノ基含有化合物としては、具体的には、N,N′−ジメチルエチレンジアミン、N,N′−ジエチルエチレンジアミン、N,N′−ジイソプロピルエチレンジアミン、N,N′−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N′−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、N,N′−ジイソプロピル−1,3−プロパンジアミン、N,N′−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N′−ジエチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N′,N′′−トリメチルビス(ヘキサメチレン)トリアミンなどの2級の脂肪族ジアミン;テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミンなどの3級の脂肪族ジアミン;アミノトリアゾール、アミノピリジンなどの芳香族1級アミンと複素環状アミンとを含むポリアミン;ドデシルアミンなどの直鎖アルキルモノアミン;ジピリジルなどの3級複素環状ジアミン;等が、圧縮永久歪、機械的強度、特に引張強度等の改善効果が高い理由から好適に例示される。
これらのうち、2級の脂肪族ジアミン、芳香族1級アミンと複素環状アミンを含むポリアミンまたは3級複素環状ジアミンがより好ましい。
【0131】
これらの例示以外にも、上記アミノ基含有化合物としては、アミノ基を有する高分子化合物を用いることができる。
【0132】
アミノ基を有する高分子化合物は、特に限定されず、その具体例としては、ポリアミド、ポリウレタン、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアミノスチレン、アミノ基含有ポリシロキサン等のポリマー、または、各種ポリマーをアミノ基を持つ化合物で変性したポリマー等が挙げられる。
これらのポリマーの平均分子量、分子量分布、粘度等の物性は、特に限定されず、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の物性とすることができる。
【0133】
また、アミノ基を有する高分子化合物は、アミノ基を有する縮合性または重合性の化合物(モノマー)を重合(重付加、重縮合)させたポリマーであることが好ましく、加水分解性置換基とアミノ基とを有するシリル化合物の単独縮合体または該シリル化合物とアミノ基を有さないシリル化合物との共縮合体であるアミノ基を有するポリシロキサンであることが、入手が容易で製造しやすく、分子量の調整、アミノ基の導入率の調整等が容易であるためより好ましい。
【0134】
加水分解性置換基とアミノ基とを有するシリル化合物は、特に限定されず、例えば、アミノシラン化合物が挙げられ、具体的には、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、4−アミノ−3,3−ジメチルブチルトリメトキシシラン(以上、日本ユニカー社製)などの脂肪族1級アミノ基を有するアミノシラン化合物;N,N−ビス[(3−トリメトキシシリル)プロピル]アミン、N,N−ビス[(3−トリエトキシシリル)プロピル]アミン、N,N−ビス[(3−トリプロポキシシリル)プロピル]アミン(以上、日本ユニカー社製)、3−(n−ブチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(Dynasilane1189(デグサヒュルス社製))、N−エチル−アミノイソブチルトリメトキシシラン(Silquest A−Link 15 silane、OSiスペシャリティーズ社製)などの脂肪族2級アミノ基を有するアミノシラン化合物;N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製)などの脂肪族1級および2級アミノ基を有するアミノシラン化合物;N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(日本ユニカー社製)などの芳香族2級アミノ基を有するアミノシラン化合物;イミダゾールトリメトキシシラン(ジャパンエナジー社製)、アミノトリアゾールとエポキシシラン化合物またはイソシアネートシラン化合物等とを触媒の存在下または非存在下、室温以上の温度で反応させて得られるトリアゾールシランなどの複素環アミノ基を有するアミノシラン化合物;等が挙げられる。
これらのうち、圧縮永久歪等の物性の改善効果が高い観点から、上記した、脂肪族1級アミノ基を有するアミノシラン化合物、脂肪族2級アミノ基を有するアミノシラン化合物および脂肪族1級および2級アミノ基を有するアミノシラン化合物のアミノアルキルシラン化合物であることが好ましい。
【0135】
アミノ基を有さないシリル化合物は、加水分解性置換基とアミノ基とを有するシリル化合物と異なる化合物であってアミノ基を含まない化合物であれば、特に限定されず、その具体例としては、アルコキシシラン化合物、ハロゲン化シラン化合物等が挙げられる。これらのうち、入手が容易で取り扱いやすく、得られる共縮合体の物性に優れる観点から、アルコキシシラン化合物が好ましい。
アルコキシシラン化合物としては、具体的には、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
ハロゲン化シラン化合物としては、具体的には、例えば、テトラクロロシラン、ビニルトリフルオロシラン等が挙げられる。
これらのうち、安価で取扱い等が安全である観点から、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランが好ましい。
【0136】
加水分解性置換基とアミノ基とを有するシリル化合物およびアミノ基を有さないシリル化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0137】
このようなアミノ基を有する高分子化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の混合比は、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の比率とすることができる。
【0138】
また、アミノ基を有する高分子化合物の含有量は、上記アミノ基含有化合物と同様、本発明の熱可塑性エラストマーの側鎖に対する該化合物中の窒素原子数(当量)で規定することもできるが、該高分子化合物の構造、分子量等により該熱可塑性エラストマーとの相互作用を有効に形成できないアミノ基が存在する場合がある。
そのため、アミノ基を有する高分子化合物の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、1〜200質量部であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることが特に好ましい。
【0139】
上記金属塩は、金属元素を少なくとも1つ含む化合物であれば特に限定されず、Li、Na、K、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、GaおよびAlからなる群から選択される1種以上の金属元素を含む化合物であることが好ましい。
上記金属塩としては、具体的には、例えば、これらの1種以上の金属元素を含むギ酸塩、酢酸塩、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、(メタ)アクリル酸塩等の不飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、塩化物、酸化物、水酸化物、ジケトンとの錯体等が挙げられる。
ここで、「ジケトンとの錯体」とは、例えば、1,3−ジケトン(例えば、アセチルアセトン)等が金属原子に配位した錯体をいう。
【0140】
これらのうち、得られる本発明の組成物の圧縮永久歪がより改善される観点から、金属元素としてはTi、Al、Znが好ましく、金属塩としてはこれらの酢酸塩、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、酸化物、水酸化物、ジケトンとの錯体が好ましく、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、ジケトンとの錯体が特に好ましい。
【0141】
上記金属塩は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の混合比は、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の比率とすることができる。
【0142】
上記金属塩の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマーに含有するカルボニル基に対して、0.05〜3.0当量であることが好ましく、0.1〜2.0当量であることがより好ましく、0.2〜1.0当量であることが特に好ましい。上記金属塩の含有量がこの範囲であれば、得られる本発明の組成物の圧縮永久歪、硬度および機械的強度、特に引張強度等の物性が改善されるため好ましい。
【0143】
また、上記金属塩は、その金属のとりうるすべての水酸化物、金属アルコキシド、または、カルボン酸塩等を用いることができる。例えば、水酸化物を例にとると、金属が鉄の場合は、Fe(OH)2、Fe(OH)3をそれぞれ単独で用いても、混合して用いてもよい。
更に、上記金属塩は、上述したように、Li、Na、K、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、GaおよびAlからなる群から選択される1種以上の金属元素を含む化合物であることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲でこれら以外の金属元素を含有してもよい。これら以外の金属元素の含有率は、特に限定されないが、例えば、上記金属塩中の全金属元素に対して、1〜50モル%であることが好ましい。
【0144】
上記無水マレイン酸変性ポリマーは、上記エラストマー性ポリマーを無水マレイン酸で変性して得られるポリマーのことであり、該無水マレイン酸変性ポリマーの側鎖は、無水マレイン酸残基および含窒素複素環以外の官能基を有していてもよいが、無水マレイン酸残基のみを有していることが好ましい。
【0145】
上記無水マレイン酸残基は、上記エラストマー性ポリマーの側鎖または末端に導入(変性)され、該エラストマー性ポリマーの主鎖に導入されることはない。また、上記無水マレイン酸残基は、環状酸無水物基であり、環状酸無水物基(部分)が開環することもない。
したがって、上記無水マレイン酸変性熱可塑性ポリマーとしては、例えば、下記式(35)のように、無水マレイン酸のエチレン性不飽和結合部分がエラストマー性ポリマーと反応して得られる、側鎖に環状酸無水物基を有し含窒素複素環を有しない熱可塑性のエラストマーが挙げられ、その具体例としては、上記した環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーで例示したものが挙げられる。
【0146】
【化25】

(式中、Qはエチレン残基またはプロピレン残基であり、p、qおよびrはそれぞれ独立に0.1〜99の数を表す。)
【0147】
無水マレイン酸変性量は、優れたリサイクル性を損なわず、圧縮永久歪を改善できる観点から、上記エラストマー性ポリマーの主鎖部分100モル%に対して、好ましくは0.1〜50モル%であり、より好ましくは0.3〜30モル%であり、特に好ましくは0.5〜10モル%である。
【0148】
上記無水マレイン酸変性ポリマーは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の混合比は、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の比率とすることができる。
【0149】
上記無水マレイン酸変性ポリマーの含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、1〜100質量部であることが好ましく、5〜50質量部であることがより好ましい。上記無水マレイン酸変性ポリマーの含有量がこの範囲であれば、得られる本発明の組成物の加工性および機械的強度が改善されるため好ましい。
なお、本発明の熱可塑性エラストマーの製造時において、未反応物として環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーが残存する場合は、残存するカルボニル含有基変性エラストマーを除去せずに、そのまま本発明の組成物に含有させることもできる。
【0150】
老化防止剤としては、具体的には、例えば、ヒンダードフェノール系、脂肪族および芳香族のヒンダードアミン系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
顔料としては、具体的には、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等の有機顔料等が挙げられる。
【0151】
可塑剤としては、具体的には、例えば、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバチン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クエン酸等の誘導体;ポリエステル、ポリエーテル、エポキシ系;等が挙げられる。
揺変性付与剤としては、具体的には、例えば、ベントナイト、無水ケイ酸、ケイ酸誘導体、尿素誘導体等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系等が挙げられる。
難燃剤としては、具体的には、例えば、TCP等のリン系、塩素化パラフィン、パークロルペンタシクロデカン等のハロゲン系、酸化アンチモン等のアンチモン系、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0152】
溶剤としては、具体的には、例えば、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素系;テトラクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素系;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系;酢酸エチルなどのエステル系;等が挙げられる。
界面活性剤(レベリング剤)としては、具体的には、例えば、ポリブチルアクリレート、ポリジメチルシロキサン、変性シリコーン化合物、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
脱水剤としては、具体的には、例えば、ビニルシラン等が挙げられる。
【0153】
防錆剤としては、具体的には、例えば、ジンクホスフェート、タンニン酸誘導体、リン酸エステル、塩基性スルホン酸塩、各種防錆顔料等が挙げられる。
接着付与剤としては、具体的には、例えば、公知のシランカップリング剤、アルコキシシリル基を有するシラン化合物、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等が挙げられる。より具体的には、トリメトキシビニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
帯電防止剤としては、一般的に、第4級アンモニウム塩、あるいはポリグリコールやエチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。
【0154】
可塑剤の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、1〜30質量部であることがより好ましい。その他の添加剤の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、1〜5質量部であることがより好ましい。
【0155】
本発明の熱可塑性エラストマーは自己架橋できるものもあるが、本発明の目的を損わない範囲で加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤等を併用することもできる。
加硫剤としては、イオウ系、有機過酸化物系、金属酸化物系、フェノール樹脂、キノンジオキシム等の加硫剤が挙げられる。
イオウ系加硫剤としては、具体的には、例えば、粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等が挙げられる。
有機過酸化物系の加硫剤としては、具体的には、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が挙げられる。
その他として、酸化マグネシウム、リサージ(酸化鉛)、p−キノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、ポリ−p−ジニトロソベンゼン、メチレンジアニリン等が挙げられる。
【0156】
加硫助剤としては、具体的には、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アミン類;アセチル酸、プロピオン酸、ブタン酸、ステアリン酸、アクリル酸、マレイン酸などの脂肪酸;アセチル酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、ブタン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、マレイン酸亜鉛などの脂肪酸亜鉛;等が挙げられる。
加硫促進剤としては、具体的には、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)等のチウラム系;ヘキサメチレンテトラミンなどのアルデヒド・アンモニア系;ジフェニルグアニジン等のグアニジン系;2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)などのチアゾール系;N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系;等が挙げられる。更にアルキルフェノール樹脂やそのハロゲン化物等を用いることもできる。
加硫遅延剤としては、具体的には、例えば、無水フタル酸、安息香酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸などの有機酸;N−ニトロソージフェニルアミン、N−ニトロソーフェニル−β−ナフチルアミン、N−ニトロソ−トリメチル−ジヒドロキノリンの重合体などのニトロソ化合物;トリクロルメラニンなどのハロゲン化物;2−メルカプトベンツイミダゾール;N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド(サントガードPVI);等が挙げられる。
これら加硫剤等の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。
【0157】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、本発明の熱可塑性エラストマーと、必要に応じて含有してもよい各種添加剤等とを、ロール、ニーダー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、単軸押出し機、二軸押出し機、万能攪拌機等により混合すればよい。
【0158】
本発明の組成物を(加硫剤により)永久架橋させる場合の硬化条件は、配合する各種成分等に応じて適宜選択することができ、特に制限されない。例えば、130〜200℃の温度で、5〜60分で硬化させる硬化条件が好ましい。
【0159】
本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)は、約80〜200℃に加熱することにより三次元の架橋結合(架橋構造)が解離して軟化し、流動性が付与される。分子間または分子内で形成されている側鎖同士の相互作用が弱まるためであると考えられる。
軟化し、流動性が付与された本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)を約80℃以下に放置にすると、解離した三次元の架橋結合(架橋構造)が再び結合して硬化する。この繰り返しにより、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)はリサイクル性が発現する。
【0160】
本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)は、例えば、ゴム弾性を活用して種々のゴム用途に使用することができる。またホットメルト接着剤として、またはこれに含ませる添加剤として使用すると、耐熱性およびリサイクル性を向上させることができるので好ましい。本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)は、自動車周り、ホース、ベルト、シート、防振ゴム、ローラー、ライニング、ゴム引布、シール材、手袋、防舷材、医療用ゴム(シリンジガスケット、チューブ、カテーテル)、ガスケット(家電用、建築用)、アスファルト改質剤、ホットメルト接着剤、ブーツ類、グリップ類、玩具、靴、サンダル、キーパッド、ギア、ペットボトルキャプライナー等の用途に好適に用いられる。
【0161】
上記自動車周りとしては、具体的には、例えば、タイヤのトレッド、カーカス、サイドウォール、インナーライナー、アンダートレッド、ベルト部などのタイヤ各部;外装のラジエータグリル、サイドモール、ガーニッシュ(ピラー、リア、カウルトップ)、エアロパーツ(エアダム、スポイラー)、ホイールカバー、ウェザーストリップ、カウベルトグリル、エアアウトレット・ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、換気口部品、防触対策部品(オーバーフェンダー、サイドシールパネル、モール(ウインドー、フード、ドアベルト))、マーク類;ドア、ライト、ワイパーのウェザーストリップ、グラスラン、グラスランチャンネルなどの内装窓枠用部品;エアダクトホース、ラジエターホース、ブレーキホース;クランクシャフトシール、バルブステムシール、ヘッドカバーガスケット、A/Tオイルクーラーホース、ミッションオイルシール、P/Sホース、P/Sオイルシールなどの潤滑油系部品;燃料ホース、エミッションコントロールホース、インレットフィラーホース、ダイヤフラム類などの燃料系部品;エンジンマウント、インタンクポンプマウントなどの防振用部品;CVJブーツ、ラック&ピニオンブーツ等のブーツ類;A/Cホース、A/Cシール等のエアコンデショニング用部品;タイミングベルト、補機用ベルトなどのベルト部品;ウィンドシールドシーラー、ビニルプラスチゾルシーラー、嫌気性シーラー、ボディシーラー、スポットウェルドシーラーなどのシーラー類;等が挙げられる。
【0162】
またゴムの改質剤として、例えば、流れ防止剤として、室温でコールドフローを起こす樹脂あるいはゴムに含ませると、押出し時の流れやコールドフローを防止することができる。
【0163】
本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)は、従来の熱可塑性エラストマーに比して、同等程度のリサイクル性を保持しつつ、また機械的強度に優れるため、上記で例示した用途の中でも、リサイクル性と機械的強度が特に要求される用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0164】
次に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜10、比較例1〜3)
まず、180℃に設定したニーダーに、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(TX−1215、三井化学社製)100g(無水マレイン酸骨格10.2mmol)、ポリオレフィン系軟質樹脂(M142E、出光興産社製)100g、パラフィンオイル(PW−90、出光興産社製)、および、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(セプトン4077、スチレン含有率30質量%、クラレ社製)50gに対し、
4H−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(ATA、日本カーバイト社製)、ポリエチレンイミン(エポミンSP−200、重量平均分子量10000、日本触媒社製)、以下に示す方法により合成したポリアミン化合物1、2もしくは3、または、ポリアミン化合物であるトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(タナック、日産化学社製)を、下記表1に示すグラム数(かっこ内は環状酸無水物基に対する、水酸基、第1級アミノ基および第2級アミノ基の合計官能基数)で加え、30〜35分間で加熱撹拌することで熱可塑性エラストマーを含有する熱可塑性エラストマー組成物を調製した。
【0165】
(ポリアミン化合物1)
ポリエチレンイミン(エポミンSP−006、重量平均分子量600、日本触媒社製)の第1級アミノ基および第2級アミノ基の4割をエチレンオキシドで封鎖(ブロック)して得られたもの(水酸基価:420、全アミン価:911、第3級アミン価:749、分子量:825)を用いた。
【0166】
(ポリアミン化合物2)
ポリエチレンイミン(エポミンSP−006、重量平均分子量600、日本触媒社製)の第1級アミノ基および第2級アミノ基の7割をエチレンオキシドで封鎖(ブロック)して得られたもの(水酸基価:510、全アミン価:719、第3級アミン価:537、分子量:915)を用いた。
【0167】
(ポリアミン化合物3)
ポリエチレンイミン(エポミンSP−006、重量平均分子量600、日本触媒社製)の第1級アミノ基および第2級アミノ基の全てをエチレンオキシドで封鎖(ブロック)して得られたもの(水酸基価:712、全アミン価:519、第3級アミン価:376、分子量:995)を用いた。
【0168】
得られた各熱可塑性エラストマー組成物について、後述する方法により引張特性および圧縮永久歪を測定してリサイクル性を評価し、後述する方法によりシート成型性、押出し成型性および臭気についても評価した。これらの結果を下記表1に示す。
【0169】
<引張特性>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を180℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
このシートから3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251に準拠して行い、破断強度(TB)[MPa]、および、破断伸び(EB)[%]を室温にて測定した。
【0170】
<圧縮永久歪み(C−Set)>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を180℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
作製したシートを7枚重ね合わせて200℃で20分間熱プレスし、円筒状のサンプル(直径29×厚さ12.5mm)を作製した。
この円筒状サンプルを、専用治具で25%圧縮し、70℃で22時間放置した後の圧縮永久歪みをJIS K6262に準じて測定した。
また、比較例1の圧縮永久歪を100%とした指数表示も算出した。
【0171】
<リサイクル性>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を200℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。このシートを細かく切断して再度プレス成形し、継ぎ目のない一体化したシートが作製できる回数で評価した。
10回以上作製できたものをリサイクル性に優れるものとして「○」と評価し、10回未満しか作製できないものをリサイクル性に劣るものとして「×」と評価した。
【0172】
<シート成型性>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を180℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
作製したシート表面を目視により観察した結果、シート表面が平滑であるものをシート成型性に優れるものとして「○」と評価し、シート表面にしわが入るものを成型性に劣るものとして「△」と評価した。
【0173】
<押出し成型性>
押出し成型性は、得られた各熱可塑性エラストマー組成物について、230℃でのキャピラリー粘度をJIS K7199:1999に準じて測定した際にキャピラリー試験機から押出されたストランドの表面肌を目視により観察して行った。
ストランドの表面肌を目視により観察した結果、表面肌がスムーズな表面状態であるものを押出し成型性に優れるものとして「○」と評価し、表面肌が粉状になってしまうものを押出し成型性に劣るものとして「×」と評価した。
【0174】
<臭気>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を180℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
作製したシートの臭気を、ポリアミン化合物としてポリエチレンイミンを用いた比較例3と比較して殆ど感じられないものを「弱」と評価した。
【0175】
【表1】

【0176】
【表2】

【0177】
上記表1に示す結果から、実施例1〜10で調製した熱可塑性エラストマー組成物は、リサイクル性を良好に保持し、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れることが分かった。また、水酸基を有しないポリアミン化合物で反応させて得られた比較例3で調製した熱可塑性エラストマー組成物に比べて、シート成型性および押出し成型性にも優れ、臭気も低減できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーと、水酸基を2個以上有するポリアミン化合物との反応により得られる熱可塑性エラストマー。
【請求項2】
前記ポリアミン化合物が、分岐炭素および/または分岐窒素を有する請求項1に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項3】
前記ポリアミン化合物が、第3級アミノ基を有する請求項2に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項4】
前記ポリアミン化合物が、ポリアルキレンイミンとアルキレンオキシドとの反応物である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項5】
前記ポリアルキレンイミンが、ポリエチレンイミンである請求項4に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項6】
前記アルキレンオキシドが、エチレンオキシドである請求項4または5に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項7】
前記ポリアミン化合物の水酸基、第1級アミノ基および第2級アミノ基の合計官能基数と前記エラストマー性ポリマーの環状酸無水物基との当量比(水酸基、第1級アミノ基および第2級アミノ基の合計官能基数/環状酸無水物基)が、0.5〜2.9である請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項8】
下記式(1)で表される構造を有する請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
【化1】

【請求項9】
α位またはβ位で主鎖に結合する下記式(2)で表される構造を有する請求項8に記載の熱可塑性エラストマー。
【化2】

【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーを含有する熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項11】
更に、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する請求項10に記載の熱可塑性エラストマー組成物。

【公開番号】特開2008−260887(P2008−260887A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106111(P2007−106111)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】