説明

熱可塑性エラストマーの製造方法

【課題】例えばホットメルト粘着剤等に利用可能な熱可塑性エラストマーの効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】スチレンオリゴマー、天然ゴム及び連鎖移動剤の各原料を、予め行った予備実験で決定される前記各原料の種類及び含有割合、並びに混合温度及び混合時間で混合し、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を1×10Pa〜1×10Paの範囲内にすることを特徴とする熱可塑性エラストマーの製造方法によって、上記課題を解決する。混合した後に架橋剤を添加してさらに混合し貯蔵弾性率G’を上記範囲内にしてもよいし、混合するのみで貯蔵弾性率G’を上記範囲内にしてもよい。得られた熱可塑性エラストマーは、ホットメルト粘着剤として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽くて、優れた断熱特性を有する発泡スチロール(発泡ポリスチレン)は、安価且つ大量に生産できることから、非常に便利な高分子材料として様々な分野で使用されている。また、使用後の発泡スチロールに対しては、その再利用技術が研究されている。例えば、使用後の発泡スチロールを熱分解して燃料油とする油化還元技術が研究され、得られた燃料油の再利用が一部で実施されている。
【0003】
また、特許文献1では、低い温度で発泡スチロールを減容油化する技術が提案されている。この減容油化技術は、廃棄物として自然界に放出される使用済み発泡スチロールと2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンとを200℃以下の低温下で接触させることにより、スチレンオリゴマーに減容油化する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−55467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スチレン系ブロック共重合体であるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体は、ホットメルト粘着剤に広く利用され、世界的に需要が高まり、価格が上昇している。こうした状況に鑑み、本発明者は、発泡スチロールの再利用技術を研究している過程で、特許文献1の減容油化技術で得られたスチレンオリゴマーを利用して、安価で効率的に製造できるホットメルト粘着剤の製造を試みた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、例えばホットメルト粘着剤等に利用可能な熱可塑性エラストマーの効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る熱可塑性エラストマーの製造方法は、スチレンオリゴマー、天然ゴム及び連鎖移動剤の各原料を、予め行った予備実験で決定される前記各原料の種類及び含有割合、並びに混合温度及び混合時間で混合し、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を1×10Pa〜1×10Paの範囲内にすることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、イソプレンユニットを構造単位とする数平均分子量が約十数万程度の天然ゴム及び数平均分子量が約数千〜数万程度のスチレンオリゴマーを、連鎖移動剤の存在下で、予め行った予備実験で決定される各原料の種類及び含有割合、並びに混合温度及び混合時間で混合し、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を上記範囲内になるように調整して熱可塑性エラストマーを得ることができるので、熱可塑性エラストマーを簡単な方法で効率的に製造できる。製造される熱可塑性エラストマーは、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲内であるので、広い用途に利用可能であり、特にホットメルト粘着剤の用途に利用できる熱可塑性エラストマーを簡単な工程で効率的に製造できる。
【0009】
本発明に係る熱可塑性エラストマーの製造方法において、前記混合の後、架橋剤を添加してさらに混合し前記特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を前記範囲内にする。
【0010】
この発明によれば、予め行った予備実験で決定される条件下で混合した後に架橋剤を添加してさらに混合するので、予備実験で決定される条件下で混合して得られた混合物を架橋して凝集性を高めることができる。その結果、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を確実に上記範囲内にすることができる。その結果、広い用途に利用可能であり、特にホットメルト粘着剤の用途に利用できる熱可塑性エラストマーを簡単な工程で効率的に製造できる。
【0011】
本発明に係る熱可塑性エラストマーの製造方法において、前記混合のみで前記特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を前記範囲内にする。
【0012】
この発明によれば、架橋剤を添加せずに予備実験で決定される条件下で混合するのみで、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を上記範囲内にすることができる。その結果、広い用途に利用可能であり、特にホットメルト粘着剤の用途に利用できる熱可塑性エラストマーを簡単な工程で効率的に製造できる。
【0013】
本発明に係る熱可塑性エラストマーの製造方法において、前記スチレンオリゴマーが、スチレンモノマーを重合して得たスチレンオリゴマー、又は、スチレンポリマーを低分子量化して得たスチレンオリゴマーであることが好ましい。
【0014】
この発明によれば、例えばスチレンモノマーから新たに合成したスチレンオリゴマーや、使用済みの発泡スチロール、ポリスチレンフィルム又はポリスチレンボード等の廃棄材を低分子量化したスチレンオリゴマー等を広く原材料として使用できる。
【0015】
本発明に係る熱可塑性エラストマーの製造方法において、前記連鎖移動剤が、炭化水素系連鎖移動剤、ハロゲン系連鎖移動剤及びチオール系連鎖移動剤から選ばれるいずれか1種又は2種以上であることが好ましい。
【0016】
この発明によれば、各種の連鎖移動剤を用いることができ、特に炭化水素のみからなる炭化水素系連鎖移動剤はスチレンオリゴマー及び天然ゴムとの相溶性が良好であるので好ましく用いられる。
【0017】
上記課題を解決するための本発明に係るホットメルト粘着剤用熱可塑性エラストマーは、上記本発明に係る熱可塑性エラストマーの製造方法により得られる熱可塑性エラストマーであって、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲内である。
【0018】
この発明によれば、製造された熱可塑性エラストマーはホットメルト粘着剤用として利用できる貯蔵弾性率G’を有するので、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体系のホットメルト粘着剤の代替となる安価なホットメルト粘着剤用材料として好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る熱可塑性エラストマーの製造方法によれば、広い用途に利用可能であり、特にホットメルト粘着剤の用途に利用できる熱可塑性エラストマーを簡単な工程で効率的に製造できる。さらに、製造される熱可塑性エラストマーは特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲内であるので、広い用途に利用可能であり、特にホットメルト粘着剤の用途に利用できる熱可塑性エラストマーを安価に提供できる。
【0020】
本発明に係る熱可塑性エラストマーによれば、ホットメルト粘着剤用として利用できる貯蔵弾性率G’を有するので、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体系のホットメルト粘着剤の代替となる安価なホットメルト粘着剤用材料として好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】無水マレイン酸の添加量を変化させて調製した熱可塑性エラストマーの貯蔵弾性率G’の結果である。
【図2】50℃でホットプレスした後の熱可塑性エラストマーの形態を示す写真である。(A)は無水マレイン酸を2g添加した場合であり、(B)は無水マレイン酸を3g添加した場合である。
【図3】無水マレイン酸を添加して得た熱可塑性エラストマーの貯蔵弾性率G’の結果である。
【図4】二無水ピロメリット酸を添加して得た熱可塑性エラストマーの貯蔵弾性率G’の結果である。
【図5】二無水ピロメリット酸を添加して得た熱可塑性エラストマーの赤外線吸収スペクトルである。
【図6】二無水ピロメリット酸を添加して得た熱可塑性エラストマーの貯蔵弾性率G’の結果である。
【図7】連鎖移動剤としての2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加量を変化させて調製した熱可塑性エラストマーの貯蔵弾性率G’の結果である。
【図8】実験例6で得られた熱可塑性エラストマーから調製した粘着剤から溶剤を除去した固形分の貯蔵弾性率G’の結果である。
【図9】回転刃を有するミルに用いることができる回転刃の形状の一例を示す概念図である。
【図10】回転刃を有するミルの加熱混練部を構成する反応容器及び回転刃の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る熱可塑性エラストマーの製造方法について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実験例に限定されるものではない。
【0023】
本発明に係る熱可塑性エラストマーの製造方法は、スチレンオリゴマー、天然ゴム及び連鎖移動剤の各原料を、予め行った予備実験で決定される各原料の種類及び含有割合、並びに混合温度及び混合時間で混合し、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を1×10Pa〜1×10Paの範囲内にすることを特徴とする。スチレンオリゴマーと天然ゴムとを連鎖移動剤の存在下で混合すると、スチレンオリゴマーと天然ゴムとをアロイ化したポリマーアロイを生成する。「ポリマーアロイ」とは、ミクロに見て複数のポリマーを物理的又は化学的に混合して得られる高分子のことである。生成されるポリマーアロイは、ミクロに見てスチレンオリゴマーと天然ゴムとが均一に混ざり合っている。スチレンオリゴマーと天然ゴムとをアロイ化することで、スチレンオリゴマーと天然ゴムの両方の特性を持つ熱可塑性エラストマーを得ることができる。
【0024】
「貯蔵弾性率G’」は、ポリマーアロイの硬さ(弾性)を示すパラメータであって、その値を特定の温度範囲の全域で1×10Pa〜1×10Paの範囲内にすることで、その温度範囲内で凝集破壊が生じ難く且つ粘着力が強く、粘着剤として好ましく使用できる熱可塑性エラストマーにすることができる。「特定の温度範囲の全域での」とは、例えば、特定の温度範囲が0℃〜50℃である場合に、その範囲内のどの温度でも貯蔵弾性率G’が前記範囲内であることを意味している。
【0025】
「予備実験で決定される」各原料の種類等とは、連鎖移動剤の存在下で、スチレンオリゴマーと天然ゴムとが均一に混ざり合ったポリマーアロイを得ることができる各原料の種類等のことをいう。均一に混ざり合っているか否かの判断は、目視でスチレンや天然ゴムの未反応の粒子が存在しないことを確認して行う。
【0026】
一方、得られるポリマーアロイの貯蔵弾性率G’は、予備実験の条件(原料の種類や含有量、混合温度や混合時間)によって異なる。そのため、予備実験で決定される条件下で混合して得られたポリマーアロイの特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’が、1×10Pa〜1×10Paの範囲内よりも低い場合は、架橋剤を添加して凝集性を高めることで、貯蔵弾性率G’がその範囲内になるように調整して、粘着剤として使用できる熱可塑性エラストマーを得る。反対に、予備実験で決定される条件下で混合して得られたポリマーアロイの特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’が上記した所望の範囲内にある場合は、架橋剤を添加しなくても、粘着剤として使用できる熱可塑性エラストマーを得ることができる。
【0027】
したがって、本発明に係る熱可塑性エラストマーの製造方法は、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を上記した範囲にする方法によって、2通りに分けることができる。製造方法1は、予備実験で決定される条件下で混合した後、架橋剤を添加しさらに混合して貯蔵弾性率G’を調整することで、所望の貯蔵弾性率G’になる熱可塑性エラストマーを得る。製造方法2は、予備実験で決定される条件下で混合するのみで所望の貯蔵弾性率G’になる熱可塑性エラストマーを得る。
【0028】
<製造方法1>
本発明者の事前検討によれば、スチレンオリゴマーと天然ゴムと連鎖移動剤とを加熱混練して得られる熱可塑性エラストマーは、常温(25℃)での貯蔵弾性率G’が低かった。そのため、粘着付与剤を添加し粘着剤とした場合にも、0℃〜50℃の使用温度範囲内での使用を想定した場合、凝集力の指標となる貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paを下回ってしまい、被着体から剥離する際に凝集破壊が起こってしまうという問題点があった。この原因は、おそらく、加熱混練の際に天然ゴムの熱分解が過剰に進行して、天然ゴムの分子量が3万〜5万程度にまで低下するためであると考えられた。そこで、本発明者は、加熱混練した後に架橋剤を添加することで、凝集性を高め、硬度を高めて特定の温度範囲(例えば、0℃〜50℃)の全域での貯蔵弾性率G’を1×10Pa〜1×10Paの範囲内にすることができることを見出した。
【0029】
(スチレンオリゴマー)
スチレンオリゴマーは、熱可塑性エラストマーの調製原料の一つであり、数平均分子量が約数千(例えば4千〜6千程度)〜数万(例えば2万〜4万程度)のオリゴマーである。このスチレンオリゴマーの入手手段は特に限定されない。例えば、スチレンオリゴマーは、スチレンモノマーを重合して得たものであってもよいし、スチレンポリマーを低分子量化して得たものであってもよい。
【0030】
スチレンモノマーを重合してスチレンオリゴマーを得る場合は、スチレンモノマーを原料として用い、ラジカル開始剤(例えば過酸化ベンゾイル等)及び連鎖移動剤(例えばハロゲン系連鎖移動剤)の存在下で行うラジカル重合によってスチレンオリゴマーを得ることができる。
【0031】
スチレンポリマーを低分子量化してスチレンオリゴマーを得る場合は、発泡スチロール、ポリスチレンフィルム又はポリスチレンボード等のスチレンポリマーを原料として用い、連鎖移動剤の存在下で行う低分子量化反応によってスチレンオリゴマーを得ることができる。発泡スチロールは、数平均分子量が10万前後の発泡スチロールであり、梱包廃材として廃棄されるものを再利用できる。後述の実験例では、数平均分子量が約91000で、分散度が1.55で、3cm角の立方体の発泡スチロールを用いているが、これに限定されない。発泡スチロールや得られるスチレンオリゴマーの数平均分子量が低い場合(例えば、8300程度)、得られる熱可塑性エラストマーは高温(例えば、90℃)での流動性が高まる傾向がある。また、ポリスチレンフィルムやポリスチレンボードも、各種製品廃材として廃棄されるものを再利用できる。なお、後述するα−メチルスチレンや2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンは、発泡スチロール等の溶剤として作用し、嵩張る発泡スチロール等を溶解して減容化させることができるので便利である。
【0032】
低分子量化反応は、スチレンポリマーと連鎖移動剤とを混練りして行う。低分子量化の反応温度は、例えば200℃前後(150℃〜300℃程度)の温度で行うことが好ましい。温度が150℃未満では、低分子量化の鈍化が起こることがあり、温度が300℃を超えると、低分子量化が過度に進行することがある。
【0033】
低分子量化反応で用いる連鎖移動剤としては、炭化水素系連鎖移動剤、ハロゲン系連鎖移動剤及びチオール系連鎖移動剤から選ばれるいずれか1種又は2種以上を用いることができる。好ましい連鎖移動剤としては、スチレンポリマーとの相溶性の観点から炭化水素系連鎖移動剤であり、具体的には、α−メチルスチレンや、そのα−メチルスチレンのダイマーである2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等を挙げることができる。
【0034】
以下、スチレンポリマーを低分子量化してスチレンオリゴマーを得る方法を説明する。この方法は、連鎖移動剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを用いた付加開裂型の連鎖移動反応である。先ず、式1に示すように、スチレンポリマーを熱分解してポリスチリルラジカルを生成させる。
【0035】
【化1】

【0036】
次に、式2に示すように、熱分解によって生成したポリスチリルラジカルが2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンに付加してより安定な第3級ラジカル化合物を生成させる。
【0037】
【化2】

【0038】
次に、式3に示すように、ラジカル化合物を開裂させてα−メチルスチリルラジカル(クミルラジカルともいう。)を生成させる。
【0039】
【化3】

【0040】
次に、式4に示すように、生成したα−メチルスチリルラジカルと式1で生成したポリスチリルラジカルとを再結合させて、スチレンオリゴマーを生成させる。
【0041】
【化4】

【0042】
こうした付加開裂型の連鎖移動反応により、スチレンポリマーをスチレンオリゴマーに低分子量化することができる。
【0043】
後述する連鎖移動剤の存在下で天然ゴムと混練りするスチレン材料は、上記のようにスチレンオリゴマーであることが好ましいが、発泡スチロール、ポリスチレンフィルム又はポリスチレンボード等のスチレンポリマーであってもよい。天然ゴムと混練りする材料がスチレンポリマーである場合、そのスチレンポリマーは、連鎖移動剤の存在によって、上記した式1〜式4に示すように、付加開裂型連鎖移動反応を行い、低分子量化してスチレンオリゴマーとなる。なお、連鎖移動剤としてのα−メチルスチレンや2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンは、ポリスチレンの溶剤としても作用するので、例えば嵩張る発泡スチロールを溶解して減容化させることができて便利である。
【0044】
(天然ゴム)
天然ゴムは、熱可塑性エラストマーの調製原料の他の一つであり、イソプレンを構造単位とし、数平均分子量が十数万〜百万の重合体である。通常の天然ゴムはシス−ポリイソプレンを主成分としている。なお、後述の実験例では、数平均分子量が約180000で、分散度が2.54で、ガラス転移温度が−70℃の茶褐色の天然ゴムを用いているが、これに限定されない。
【0045】
スチレンオリゴマーと天然ゴムとの配合比は、最終的に得られる特性(貯蔵弾性率G’)によって任意であるが、通常、[(スチレンオリゴマー)÷(天然ゴム)](質量比。以下、「スチレンオリゴマー/天然ゴム」で表す。)が、0.25〜2の範囲内である。より好ましくは、スチレンオリゴマー/天然ゴム(質量比)が0.5〜1である。その質量比が0.25未満の場合は、例えば0℃〜50℃での貯蔵弾性率G’が低下する傾向になる。その質量比が2を超えると、両成分同士の不均一化を招くことがある。
【0046】
(連鎖移動剤)
連鎖移動剤は、スチレンオリゴマー及び天然ゴムを混練りして、スチレンオリゴマーと天然ゴムを構成するイソプレンユニットとを化学的に結合させるための添加剤である。連鎖移動剤は、スチレンオリゴマー及び天然ゴムの両方に相溶性があることが望ましく、相溶性のある連鎖移動剤を用いることにより、スチレンオリゴマーと天然ゴムとの相分離等を防ぐことができる。
【0047】
連鎖移動剤としては、炭化水素系連鎖移動剤、ハロゲン系連鎖移動剤及びチオール系連鎖移動剤から選ばれるいずれか1種又は2種以上を用いることが好ましい。特に炭化水素系連鎖移動剤は炭化水素成分で構成されているので、同じく炭化水素成分で構成されているスチレンオリゴマー及び天然ゴムとの相溶性が良好であるので好ましい。炭化水素系連鎖移動剤の中でも、α−メチルスチレンや、そのα−メチルスチレンのダイマーである2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等を好ましく挙げることができる。
【0048】
連鎖移動剤の配合量は、スチレンオリゴマーと天然ゴムの合計量100質量部に対して0.5質量部以上25質量部以下の範囲であることが好ましい。この範囲の連鎖移動剤を配合することにより、効率的にスチリル基導入天然ゴムを生成させることができる。一方、連鎖移動剤がスチレンオリゴマーと天然ゴムの合計量100質量部に対して0.5質量部未満である場合、及び25質量部を超える場合、スチリル基導入天然ゴムの収率が低くなり、成分の不均一化を引き起こすことがある。
【0049】
天然ゴムを熱分解することで生成するイソプレン由来のラジカルは、連鎖移動剤(例えばα−メチルスチレンや2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン)に付加してより安定な第3級ラジカル化合物を生成させる。下記の式5〜式7は、連鎖移動剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを用いた場合の例である。式5に示すように、天然ゴム由来のイソプレンラジカルが2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンと反応してポリマーラジカルを生成する。生成したポリマーラジカルから、α−メチルスチレン(スチリル基ともいう。)が付加したスチリル基導入天然ゴムとα−メチルスチリルラジカルとを生成する。
【0050】
【化5】

【0051】
式6に示すように、α−メチルスチリルラジカルは天然ゴムを構成するイソプレンユニットから水素原子を引き抜いて、天然ゴムのイソプレン由来のラジカルと2−フェニルプロパンとを生成する。式7に示すように、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンはイソプレンラジカルと反応してポリマーラジカルを生成する。生成したポリマーラジカルから、α−メチルスチレン(スチリル基)が付加したスチリル基導入天然ゴムとα−メチルスチリルラジカルとを生成する。
【0052】
【化6】

【0053】
(混合方法)
混合方法は、スチレンオリゴマー、天然ゴム及び連鎖移動剤を均一に混ぜ合わせることができる方法を用いることができる。製造方法1では、混合して得られるポリマーアロイをその後架橋剤で架橋して貯蔵弾性率G’を向上させるので、天然ゴムの熱分解が進行してしまうような熱効率の悪い混合方法であってもよい。そのような混合方法は、例えば、攪拌羽根を1つ又は2つ以上有する攪拌装置等を用いる方法を挙げることができる。そのような攪拌装置としては、例えば、フラスコに、冷却管、撹拌羽根及び熱電対を取り付けた加熱攪拌装置等を挙げることができる。
【0054】
攪拌羽根の形状は、半月型、半円型又は角度付きファンタービン型等を挙げることができる。攪拌羽根の回転速度は、10回転/分〜100回転/分である。また、攪拌羽根の大きさ(長手方向の長さ)は、反応容器の内径に対して、50%以上の割合であれば、各原料を均一になるように効率的に混合することができる。例えば、攪拌羽根の大きさは、長手方向の長さが反応容器の内径に対して95%の割合であれば、原料等をより均一に混合することができる。なお、後述する実施例では、直径7.8cm(反応容器の内径に対する割合95%)の半円型の金属製攪拌羽根を用いた。
【0055】
混合温度は、150℃以上300℃以下の温度範囲内である。混合温度が150℃未満では、スチレンオリゴマーと天然ゴムとの不均一化が起こることがあり、その温度が300℃を超えると、過度に熱分解が進行することがある。混合時間は任意であるが、攪拌羽根を有する攪拌装置で混合する場合は、通常、2時間〜4時間程度である。なお、混合時には、酸化防止剤や粘着付与剤等の添加物を1種又は2種以上を混ぜてもよい。また、上記した攪拌装置等に、スチレンオリゴマー、天然ゴム及び連鎖移動剤を投入するタイミングは、これらを予め準備しておき、すべて同時に投入してもよいし、スチレンオリゴマーを調製した攪拌装置に、細かく刻んだ天然ゴムと連鎖移動剤とを投入してもよい。
【0056】
(架橋剤)
製造方法1では、混合した後に架橋剤を添加してさらに混合し、貯蔵弾性率G’を調整する。添加は、混合後の攪拌装置等に架橋剤を適量投入して行ってもよいし、混合して得られたポリマーアロイを適量採取し、そのポリマーアロイと適量の架橋剤とを別の攪拌装置等に投入して行ってもよい。架橋剤を添加した後の混合は、予備実験の条件下で行う混合と同様の方法で行うことができる。
【0057】
架橋剤は、ポリマーアロイに添加し、そのポリマーアロイを架橋させて貯蔵弾性率G’を上げるように作用する。そのような架橋剤としては、酸無水物を挙げることができる。酸無水物は、ポリマーアロイを架橋する作用を有するものであれば特に限定されないが、無水マレイン酸、二無水ピロメリット酸、4,4’−オキシフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が好ましく用いられる。中でも、無水マレイン酸と二無水ピロメリット酸は、構造骨格の安定性の点で好ましい。
【0058】
酸無水物として無水マレイン酸を用いた場合、熱可塑性エラストマー100質量部に対する無水マレイン酸の混合量は0.2質量部以上50質量部以下であることが好ましい。その混合量が0.2質量部未満では、貯蔵弾性率G’の改善が不十分となることがある。一方、その混合量が50質量部を超えると、過剰な架橋反応により高温での貯蔵弾性率G’の低下が鈍化することがある。なお、熱可塑性エラストマー100質量部に対する無水マレイン酸の混合量は10質量部〜20質量部であることがより好ましい。
【0059】
酸無水物として二無水ピロメリット酸を用いた場合、熱可塑性エラストマー100質量部に対する二無水ピロメリット酸の混合量は0.2質量部以上30質量部以下であることが好ましい。その混合量が0.2質量部未満では、貯蔵弾性率G’の改善が不十分となることがある。一方、その混合量が30質量部を超えると、過剰な架橋反応により高温での貯蔵弾性率G’の低下が鈍化することがある。なお、熱可塑性エラストマー100質量部に対する二無水ピロメリット酸の混合量は5質量部〜20質量部であることがより好ましい。なお、酸無水物として二無水ピロメリット酸を用いた場合、混練終了後も後反応が長期にわたり進行するので、保存安定性が悪い傾向にある。
【0060】
(酸無水物による架橋反応)
酸無水物の存在下でポリマーアロイを架橋させる方法を説明する。ポリマーアロイと混合した酸無水物は、式8に示すように、ポリマーアロイを構成する式5で得られたスチリル基導入天然ゴムと式7で得られたスチリル基導入天然ゴムとを架橋する。
【0061】
【化7】

【0062】
また、ポリマーアロイと混合した酸無水物は、式9〜式14に示すように、天然ゴムのイソプレン由来のラジカルと反応して連鎖的にグラフト化し、ラジカル的又はイオン的に架橋反応を引き起こす。このように架橋されたポリマーアロイは、分子間力が強まり貯蔵弾性率G’が向上するので、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’が理想的な範囲内になる熱可塑性エラストマーになる。酸無水物等の架橋剤によるポリマーアロイの架橋は、例えば、テトラヒドロフランに対するゲル化物の質量から求めたゲル化率が3%程度になるまで行われれば、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を理想的な範囲内にすることができる。ゲル化率は、テトラヒドロフランにポリマーアロイを溶解し、[不溶物の質量]/[ポリマーアロイの質量]×100(%)から求めることができる。また、熱可塑性エラストマーの構造は、赤外線吸収スペクトル等の手段によって測定できる。
【0063】
【化8】

【0064】
【化9】

【0065】
【化10】

【0066】
(熱可塑性エラストマー)
得られた熱可塑性エラストマーは、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲内になる。このような貯蔵弾性率G’を有する熱可塑性エラストマーは、その温度範囲内で凝集破壊が生じ難く且つ粘着力が強く、粘着剤として好ましく使用できる。貯蔵弾性率G’が1×10Pa未満であると、所定の温度範囲内で粘着剤として利用した場合、剥離時の凝集破壊が起こりやすくなる。一方、貯蔵弾性率G’が1×10Paを超えると、所定の温度範囲内で粘着剤として利用した場合、密着性が低下し、粘着力が弱くなる。
【0067】
熱可塑性エラストマーをホットメルト粘着剤として用いる場合は、溶融塗工できるように、高温で流動性を有することが好ましい。したがって、ホットメルト粘着剤として用いる熱可塑性エラストマーの貯蔵弾性率G’は、使用が想定される温度範囲内(例えば、0℃〜50℃)では1×10Pa〜1×10Paの範囲内になり、かつ塗工温度(例えば、90℃)ではその範囲よりも低いことが好ましい。
【0068】
こうした貯蔵弾性率G’は、動的粘弾性測定によって得ることができる。動的粘弾性測定は、試料に正弦波状の周期荷重を与えてその応力をトランデューサで検出するという原理に基づくものである。貯蔵弾性率G’は、例えば、このような原理に基づく動的粘弾性測定装置を用いて、ねじれモード、昇温速度5℃/分の条件下で、−60℃〜150℃の温度範囲でスキャンして測定することができる。得られる熱可塑性エラストマーは、こうして測定された貯蔵弾性率G’が、特定の温度範囲(例えば、0℃〜50℃)の全域で1×10Pa〜1×10Paの範囲内になる。
【0069】
製造方法1では、スチレンオリゴマーと天然ゴムとの配合比及び架橋剤(酸無水物)の添加量の一方又は両方を調整することで、貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲内になる温度範囲が、−40℃〜10℃の低温域、0℃〜50℃の常温域又は30℃〜80℃の高温域のいずれかになる熱可塑性エラストマーを得る。
【0070】
低い貯蔵弾性率G’を高めて1×10Pa〜1×10Paの範囲内に調製するには、スチレンオリゴマーの混合量を多くしたり、天然ゴムの混合量を少なくしたり、酸無水物の配合量を多くしたりして、熱可塑性エラストマーを硬くする方向に移行させればよい。逆に、高い貯蔵弾性率G’を下げて1×10Pa〜1×10Paの範囲内に調製するには、スチレンオリゴマーの混合量を少なくしたり、天然ゴムの混合量を多くしたり、酸無水物の配合量を少なくしたりして、熱可塑性エラストマーを軟らかくする方向に移行させればよい。
【0071】
1×10Pa〜1×10Paの範囲の貯蔵弾性率G’を常温域から低温域に移行させるには、スチレンオリゴマーの混合量を少なくしたり、天然ゴムの混合量を多くしたり、酸無水物の配合量を少なくしたりして、熱可塑性エラストマーを軟らかくする方向に移行させればよい。一方、1×10Pa〜1×10Paの範囲の貯蔵弾性率G’を常温域から高温域に移行させるには、スチレンオリゴマーの混合量を多くしたり、天然ゴムの混合量を少なくしたり、酸無水物の配合量を多くしたりして、熱可塑性エラストマーを硬くする方向に移行させればよい。
【0072】
0℃〜50℃の常温域で1×10Pa〜1×10Paの貯蔵弾性率G’を持つ熱可塑性エラストマーは、例えば150℃前後に加熱して流動化させた後にホットメルト粘着剤として被着体に塗り、その後に0℃〜50℃の範囲に冷やすことにより硬化し、被着体を接着させるように用いる。この熱可塑性エラストマーは、日常生活環境等の常温環境でのホットメルト粘着剤として用いることができる。
【0073】
−40℃〜10℃の低温域で1×10Pa〜1×10Paの貯蔵弾性率G’を持つ熱可塑性エラストマーは、例えば100℃前後に加熱して流動化させた後にホットメルト粘着剤として被着体に塗り、その後に−40℃〜10℃の範囲に冷やすことにより硬化し、被着体を接着させるように用いる。この熱可塑性エラストマーは、例えば水産物の冷凍庫内等の低温環境でのホットメルト粘着剤として用いることができる。
【0074】
30℃〜80℃の高温域で1×10Pa〜1×10Paの貯蔵弾性率G’を持つ熱可塑性エラストマーは、例えば180℃前後に加熱して流動化させた後にホットメルト粘着剤として被着体に塗り、その後に30℃〜80℃の範囲に冷やすことにより硬化し、被着体を接着させるように用いる。この熱可塑性エラストマーは、例えば発熱部周辺等の高温環境でのホットメルト粘着剤として用いることができる。
【0075】
<製造方法2>
製造方法2は、スチレンオリゴマーと天然ゴムと連鎖移動剤とを予備実験の条件下で混合するのみで(架橋剤を添加せずに)、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を1×10Pa〜1×10Paの範囲内にして、そのような貯蔵弾性率G’を有する熱可塑性エラストマーを得る。
【0076】
本発明者は、スチレンオリゴマーと天然ゴムと連鎖移動剤とを、回転刃を有するミルを用いて混合すると、混合のみで(すなわち、架橋剤を添加しなくても)、常温(0℃〜50℃)での貯蔵弾性率G’を1×10Pa〜1×10Paの範囲内にすることができることを突き止めた。このメカニズムは、おそらく、回転刃を有するミル等でより細かく粉砕しながら混合することで、熱効率が高まり、より短い混合時間で均一なポリマーアロイを調製することができるので、天然ゴムの熱分解が抑制されるためであると考えられる。
【0077】
スチレンオリゴマーの入手方法、天然ゴムの種類、連鎖移動剤の種類及び連鎖移動剤の配合量は、上記した製造方法1と同様であるので、ここでは記載を省略する。なお、連鎖移動剤として、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを用いると、スチレンオリゴマー及び天然ゴム同士の相溶性を向上させるので、得られる熱可塑性エラストマーは、高温(例えば、90℃)での貯蔵弾性率G’の低下が顕著に見られるようになる。
【0078】
スチレンオリゴマーと天然ゴムとの配合比は、最終的に得られる特性(貯蔵弾性率G’)によって任意であるが、通常、[(スチレンオリゴマー)÷(天然ゴム)](質量比。以下、「スチレンオリゴマー/天然ゴム」で表す。)が、0.20〜2の範囲内である。好ましくは、スチレンオリゴマー/天然ゴム(質量比)が0.25〜1である。特に、回転刃を有するミル等の熱効率が高い方法で混合する場合、スチレンオリゴマー/天然ゴム(質量比)が、0.20〜0.5程度(例えば、0.25、0.43等)であっても、ポリマーアロイの特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を理想的な範囲に調整でき、所望の熱可塑性エラストマーを得ることができる。その質量比が2を超えると、両成分同士の不均一化を招くことがある。
【0079】
なお、後述する混合方法がラボプラストミルを用いる方法である場合、天然ゴムの熱分解がより抑えられるため、スチレンオリゴマー及び天然ゴムの溶融粘度の差が大きくなり、スチレンオリゴマーの成分比を高めることが困難になる。例えば、数平均分子量8300程度のスチレンオリゴマーから熱可塑性エラストマーを調製しようとすると、スチレンオリゴマー/天然ゴム(質量比)=3/7(0.43)の比率で混合状態が不均一な部分が見られるようになる。そのため、ラボプラストミルで混合する場合、スチレンオリゴマーの成分比を高めるためには、スチレンオリゴマーの数平均分子量を高く保つ等、スチレンオリゴマー及び天然ゴムの溶融粘度の差が生じないように調整することが好ましい。
【0080】
(混合方法)
混合方法は、天然ゴムの熱分解の進行を防ぐことができるように、熱効率がよい方法を用いる。そのような方法としては、例えば、回転刃を1つ又は2つ以上有するミルを用いる方法を挙げることができる。回転刃を有するミルとしては、プラストミル又はラボプラストミル、バンバリーミキサー等を挙げることができる。回転刃の回転速度は、10回転/分〜100回転/分である。
【0081】
回転刃の形状は、図9に示す形状を挙げることができる。図9(a)はイリプス型ブレードであり、図9(b)はアルテミット型ブレードであり、図9(c)はローラー型ブレードであり、図9(d)はねじれ型ブレードである。図9(a)のイリプス型と(b)のアルテミット型のブレードは、2枚以上の刃がそれぞれ異方向に回転して隣り合う刃がかみ合うように回転するので、スチレンオリゴマーと天然ゴムと連鎖移動剤とがより細かく粉砕される。その結果、より熱効率が高まり、天然ゴムの熱分解を抑制することができる。
【0082】
図9(c)のローラーブレード型と(d)のねじれ型のブレードは、反応容器の深さ方向に刃先を有しているので、刃の長さが反応容器の深さとほぼ同じ長さのものを用いることで、スチレンオリゴマーと天然ゴムと連鎖移動剤とを、反応容器内の深さ方向の全体にわたって効率的に混合することができる。その結果、より熱効率が高まり、天然ゴムの熱分解を抑制することができる。
【0083】
回転刃の大きさは、その回転刃の形状がイリプス型又はアルテミット型のブレードである場合は、長手方向の長さL1〜L3が反応容器の内径に対して、50%以上100%未満の割合であれば、原料等を粉砕しながら均一に混合することができる。また、回転刃の形状がローラーブレード型又はねじれ型のブレードである場合は、回転刃の幅L4及びL6が反応容器の内径に対して50%以上90%以下の割合であって、回転刃の長さL5及びL7が反応容器の深さに対して80%以上100%以下の割合であれば、原料等を粉砕しながらより均一に混合することができる。
【0084】
例えば、後述する実験例6では、図10に示す加熱混練部1を有するラボプラストミル用いている。この加熱混練部を構成する回転刃2は、図9(c)に示すローラーブレード型の回転刃であって、幅L4が30mmであり、長さL5が47mmである。この加熱混練部を構成する反応容器3は、開口部が直径約39.5mmの円型である容器が2つ連なった形状をしており、深さはそれぞれ約47mmである。2つの容器が接する部分は開放されており全体として1つの容器を構成している。このような回転刃を有するミルであれば、原料等を粉砕しながらより均一に混合することができる。
【0085】
混合温度は、150℃以上200℃未満の温度範囲内である。混合温度が150℃未満では、スチレンオリゴマーと天然ゴムとの不均一化が起こることがあり、その温度が200℃を超えると天然ゴムの熱分解が進行することがある。混合時間は、任意であるが、通常は50分程度である。上記した熱効率が高い方法(例えば、回転刃を有するミル等を用いる方法)で混合することで、製造方法1よりも低温かつ短時間で均一なポリマーアロイを調製することができる。その結果、天然ゴムの熱分解が進行するのを防ぐことができ、混合後に架橋剤を添加しなくても、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を理想的な範囲内にすることができる。
【0086】
上記したミル等に、スチレンオリゴマー、天然ゴム及び連鎖移動剤を投入するタイミングは、予め天然ゴムを上記したミル等で粉砕して素練りし、そこへスチレンオリゴマーと連鎖移動剤とを数回に分けて投入することが好ましい。天然ゴムを素練りした状態でスチレンオリゴマーと連鎖移動剤とを数回に分けて投入することで、スチレンオリゴマー、天然ゴム及び連鎖移動剤をより効率的に均一に混ぜ合わせることができる。
【0087】
なお、混合時には、酸化防止剤や粘着付与剤等の添加物を1種又は2種以上を混ぜてもよい。また、製造方法1と同様に、混合した後にさらに酸無水物等の架橋剤を添加してもよい。酸無水物を添加することで、貯蔵弾性率G’をさらに向上させることができる。但し、上記した混合方法がプラストミルを用いる方法である場合に、酸無水物として無水マレイン酸を使用すると、使用が想定される温度範囲内(例えば、0℃〜50℃)での貯蔵弾性率G’が向上するものの、高温(例えば、90℃)での流動性が低く、スチレンオリゴマー及び天然ゴム同士の相溶性も低下する傾向がある。
【0088】
(熱可塑性エラストマー)
製造方法2で得られる熱可塑性エラストマーは、製造方法1で得られるものと同様に、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲内になる。この熱可塑性エラストマーは、製造方法1で得られるものと同様に、所定の温度範囲内で凝集破壊が生じ難く且つ粘着力が強く、粘着剤として好ましく使用できる。貯蔵弾性率G’の測定方法は、製造方法1と同じであるので、ここでは記載を省略する。
【0089】
製造方法2では、スチレンオリゴマーと天然ゴムとの配合比を調整することで、貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲内になる温度範囲が、−40℃〜10℃の低温域、0℃〜50℃の常温域又は30℃〜80℃の高温域のいずれかになる熱可塑性エラストマーを得る。
【0090】
低い貯蔵弾性率G’を高めて1×10Pa〜1×10Paの範囲内に調整するには、スチレンオリゴマーの混合量を多くしたり、天然ゴムの混合量を少なくしたり、さらに架橋剤を添加したりして、熱可塑性エラストマーを硬くする方向に移行させればよい。逆に、高い貯蔵弾性率G’を下げて1×10Pa〜1×10Paの範囲内に調整するには、スチレンオリゴマーの混合量を少なくしたり、天然ゴムの混合量を多くしたりして、熱可塑性エラストマーを軟らかくする方向に移行させればよい。
【0091】
1×10Pa〜1×10Paの範囲の貯蔵弾性率G’を常温域から低温域に移行させるには、スチレンオリゴマーの混合量を少なくしたり、天然ゴムの混合量を多くしたりして、熱可塑性エラストマーを軟らかくする方向に移行させればよい。一方、1×10Pa〜1×10Paの範囲の貯蔵弾性率G’を常温域から高温域に移行させるには、スチレンオリゴマーの混合量を多くしたり、天然ゴムの混合量を少なくしたりして、熱可塑性エラストマーを硬くする方向に移行させればよい。
【0092】
得られた熱可塑性エラストマーを被着体に接着させて粘着剤を調製する方法及びその用途は、製造方法1で得られる熱可塑性エラストマーから粘着剤を調製する方法及びその用途と同様であるので、ここでは記載を省略する。
【0093】
以上、本発明に係る熱可塑性エラストマーの製造方法によれば、イソプレンユニットを構造単位とする数平均分子量が約十数万程度の天然ゴムと、数平均分子量が約数千〜数万程度のスチレンオリゴマーとを、連鎖移動剤の存在下で混合し、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を1×10Pa〜1×10Paの範囲内にして、そのような貯蔵弾性率G’になる熱可塑性エラストマーを得るので、広い用途に利用可能であり、特にホットメルト粘着剤の用途に利用できる熱可塑性エラストマーを簡単な工程で効率的に製造できる。
【0094】
製造された熱可塑性エラストマーは、特定の温度範囲(低温域、常温域、高温域)の全域での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲内であるので、広い用途に利用可能であり、特にホットメルト粘着剤の用途に利用できる熱可塑性エラストマーを安価に提供できる。この熱可塑性エラストマーは、スチレン成分を含むので、100℃程度で軟化して流動化し、粘着剤として塗布等することができる。その後に冷えることにより、硬化して粘着剤として利用できる。特に、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体系のホットメルト粘着剤の代替となる安価なホットメルト粘着剤用材料として好ましく用いることができる。なお、ホットメルト粘着剤とは、ベースポリマーとして熱可塑性エラストマーを利用した無溶媒で塗工可能な粘着剤をいう。
【実施例】
【0095】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0096】
<製造方法1>
スチレンオリゴマーと天然ゴムとを連鎖移動剤の存在下で混合した後、架橋剤として酸無水物を添加して熱可塑性エラストマーを得た。得られた熱可塑性エラストマーの貯蔵弾性率G’、テトラヒドロフランに対する不溶物の質量から求めたゲル化率、及びホットプレスによる圧延加工性について測定し、評価した。
【0097】
[調製方法]
(調製例1:スチレンオリゴマーの調製)
発泡倍率50倍の発泡スチロールの3cm角を150℃で加熱し、1cm角のスチレンポリマー(数平均分子量91000)に減容化した。そのスチレンポリマー10gを、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.28g、ステンレスボール(直径5mm、300個)とともに、容量500mLの3つ口円筒型セパラブルフラスコに投入した。そのフラスコに、冷却管、金属撹拌羽根(半月型一枚、直径7.8cm、反応容器に対する大きさの割合95%)、熱電対をそれぞれ取り付け、窒素雰囲気下、200℃、金属撹拌羽根の回転速度15回転/分の条件で、6時間加熱混練を行い、数平均分子量10000以下のスチレンオリゴマーを調製した。
【0098】
(調製例2:ポリマーアロイの調製)
上記のフラスコ内からステンレスボールを取り除き、5mm角に刻んだ天然ゴム(数平均分子量182000)20g、連鎖移動剤としての2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.28gをフラスコ内に追加し、窒素雰囲気下、200℃、金属撹拌羽根の回転速度15回転/分の条件で、1時間加熱しながら混合し、ポリマーアロイを得た。
【0099】
(調製例3:熱可塑性エラストマーの調製)
得られたポリマーアロイから20gを採取し、そこに酸無水物としての無水マレイン酸2g又は二無水ピロメリット酸1gを追加し、窒素雰囲気下、140℃、金属撹拌羽根の回転速度50回転/分の条件で、0.5時間〜2.5時間加熱混練した。
【0100】
(調製例4:粘着剤の調製)
酸無水物を添加した後の熱可塑性エラストマー10gを採取し、粘着付与剤5g(商品名:Quintone A100、日本ゼオン株式会社製)を添加し、140℃、0.5時間加熱しながら混練して粘着剤を調製した。
【0101】
[実験例1]
まず、天然ゴムのみを原料とした熱可塑性エラストマー1で実験を行った。天然ゴム20gと無水マレイン酸0g〜3gとを、窒素雰囲気下、200℃、金属撹拌羽根の回転速度15回転/分の条件で、1時間加熱混練を行って熱可塑性エラストマー1を得た。得られた熱可塑性エラストマー1の貯蔵弾性率G’は、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、型番:ARES−RDA)を用いて、ねじれモード、昇温速度5℃/分の条件下で、−60℃〜130℃の温度範囲で測定した。
【0102】
図1は、無水マレイン酸の添加量を変化させて調製した熱可塑性エラストマー1の貯蔵弾性率G’の結果である。図1中の符号Aは無水マレイン酸の添加量が3gの場合であり、符号Bは無水マレイン酸の添加量が2gの場合であり、符号Cは無水マレイン酸の添加量が1gの場合であり、符号Dは無水マレイン酸の添加量が0gの場合である。また、符号Eは加熱混練しない天然ゴム原料(未処理天然ゴム)の貯蔵弾性率G’の結果である。また、図1中の符号Zは、0℃〜50℃の範囲での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲を示すゾーンである。
【0103】
図1の結果からわかるように、無水マレイン酸の添加量を増すにしたがって、熱可塑性エラストマー1の0℃〜50℃の範囲での貯蔵弾性率G’が上昇し、流動性を抑えることができ、理想ゾーン(符号Z)に近づくことがわかった。
【0104】
次に、ゲル化率とホットプレスによる圧延加工性を測定した。ゲル化率は、テトラヒドロフランで熱可塑性エラストマー1を溶解し、[不溶物の質量]/[熱可塑性エラストマー1の質量]×100(%)から求めた。ホットプレスによる圧延加工性は、温度調整可能なプレス機(株式会社井元製作所製、型番:加熱プレス1815)を用い、プレスヘッドを所定の温度にした後、熱可塑性エラストマー1を荷重4000kg(4ton)〜5000kg(5ton)で押圧し、その加工性を評価した。
【0105】
天然ゴム20gと無水マレイン酸2gとを混練りした熱可塑性エラストマー1は、ゲル化率が2%と低く、また、図2(A)に示すように50℃での圧延加工性も良好であった。一方、天然ゴム20gと無水マレイン酸3gとを混練りした熱可塑性エラストマー1は、貯蔵弾性率G’は理想ゾーンZに近づく(図1参照)が、ゲル化率が42%と高くなりすぎ、また、図2(B)に示すように50℃での圧延加工性は良くなかった。このことから、無水マレイン酸の添加量が多くなると、圧延加工性が低下してホットメルト粘着剤への応用が難しくなることがわかった。
【0106】
[実験例2]
次に、スチレンオリゴマーと天然ゴムと(質量比1:2、[スチレンオリゴマー/天然ゴム]=0.5)を原料とした熱可塑性エラストマー2で実験を行った。上記調製例1〜3のように、天然ゴムとスチレンオリゴマーとを連鎖移動剤の存在下で混合して調製したポリマーアロイ20gに、酸無水物としての無水マレイン酸2gを添加し、窒素雰囲気下、200℃、金属撹拌羽根の回転速度15回転/分の条件で、1時間加熱混練を行って熱可塑性エラストマー2を得た。得られた熱可塑性エラストマー2の貯蔵弾性率G’、ゲル化率、圧延加工性の測定は、実験例1と同様に行った。なお、実験例1,2では、無水マレイン酸の架橋反応には無水環が関与していると考えられる。
【0107】
図3は、ポリマーアロイ20gに無水マレイン酸2gを添加して得た熱可塑性エラストマー2の貯蔵弾性率G’の結果である。図3中の符号Aは無水マレイン酸の添加量が0gの場合であり、符号Bは無水マレイン酸の添加量が2gの場合であり、符号Cは無水マレイン酸は添加せず、粘着付与剤(商品名:Quintone A100、日本ゼオン株式会社製)を5g添加した場合である。図3中の符号Zは、0℃〜50℃の範囲での貯蔵弾性率G’を示すゾーンである。
【0108】
図3の結果からわかるように、無水マレイン酸2gを添加して得た熱可塑性エラストマー2は、0℃〜50℃での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲内のものとなり、粘着力が強化され、凝集破壊が起き難いものとなった。また、ゲル化率も2.5%と低く抑えられており、高温(例えば120℃)で流動性があり、ホットメルト粘着剤としての応用が期待できる。一方、粘着付与剤を添加して得た熱可塑性エラストマー2は、貯蔵弾性率G’が低下した。
【0109】
[実験例3]
次に、スチレンオリゴマーと天然ゴムと(質量比1:2、[スチレンオリゴマー/天然ゴム]=0.5)を原料としてポリマーアロイを調製し、さらに酸無水物として、分子内に無水環を2個有する二無水ピロメリット酸を添加して得た熱可塑性エラストマー3で実験を行った。得られた熱可塑性エラストマー3の貯蔵弾性率G’の測定は、実験例1と同様に行った。
【0110】
図4は、ポリマーアロイ20gに二無水ピロメリット酸1gを添加して調製した熱可塑性エラストマー3の貯蔵弾性率G’の結果である。図4中、符号Aは二無水ピロメリット酸の添加量が1gの場合であり、符号Bは二無水ピロメリット酸の添加量が0gの場合である。
【0111】
図4の結果からわかるように、二無水ピロメリット酸1gを添加して得た熱可塑性エラストマー3は、0℃〜50℃での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲内のものとなり、十分な架橋効果が見られ、粘着力が強化され、凝集破壊が起き難いものとなった。二無水ピロメリット酸は、反応点となる無水環を分子内に2個有するので、無水マレイン酸よりも反応性がよいと考えられる。
【0112】
[実験例4]
次に、発泡スチロールと天然ゴムとを質量比1:1([スチレンオリゴマー/天然ゴム]=1.0)としてポリマーアロイを調製し、次いで酸無水物としての二無水ピロメリット酸を添加して熱可塑性エラストマー4を調製した。上記調製例1〜3において、発泡スチロールを10gとし、熱可塑性エラストマーを10gとしてスチレンオリゴマーと天然ゴムとを質量比1:1とした他は、調製例1〜3と同様にして、熱可塑性エラストマー4を調製した。得られた熱可塑性エラストマー4の貯蔵弾性率G’の測定は、実験例1と同様に行った。
【0113】
図5は、二無水ピロメリット酸を添加して調製した熱可塑性エラストマー4の赤外線吸収スペクトルである。得られた赤外線吸収スペクトルには、エステル由来のC=Oの伸縮振動の吸収(1716cm-1)、C−Oの逆対称伸縮振動の吸収(1304cm-1)、及び、C−Oの対称伸縮振動の吸収(1271cm-1)が確認できた。このことから、熱可塑性エラストマー4の調製では、二無水ピロメリット酸の無水環構造の開環を伴う架橋反応が進行することが分かった。
【0114】
図6は、二無水ピロメリット酸を添加して調製した熱可塑性エラストマー4の貯蔵弾性率G’の結果である。図6中の符号Aは二無水ピロメリット酸を1g添加した場合であり、符号Bは二無水ピロメリット酸を2g添加した場合であり、符号Cは架橋前の熱可塑性エラストマーの場合である。二無水ピロメリット酸を1g添加した場合も2g添加した場合のいずれも、調製された熱可塑性エラストマー4は、0℃〜50℃での貯蔵弾性率G’が大幅に向上し、十分な架橋効果が見られ、凝集破壊が起き難いものとなった。
【0115】
[実験例5]
次に、スチレンオリゴマーをスチレンモノマーから合成する例について説明する。50mLナスフラスコに、スチレンモノマー10g、アゾビスイソブチロニトリル0.1g、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.28gを投入し、マグネチックスタラーで撹拌しながらオイルバスで110℃、3時間加熱した。得られた粘性体をトルエンに溶解し、約5倍容の冷メタノールに投入した。析出したスチレンオリゴマーを冷メタノールで洗浄し、乾燥させて、数平均分子量約14200のスチレンオリゴマーを合成した。
【0116】
得られたスチレンオリゴマー6g、天然ゴム6g、及び2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.28gを、三口セパラブルフラスコに投入し、窒素雰囲気下、200℃、撹拌速度100回転/分(マグネチックスタラー)の条件で、スチレンオリゴマーと天然ゴムが均一に混ざるまで3時間加熱しながら混合し、ポリマーアロイを調製した。なお、この場合のスチレンオリゴマー及び天然ゴムの質量比[スチレンオリゴマー/天然ゴム]は、1.0であった。
【0117】
調製したポリマーアロイを、撹拌を止めずに140℃まで温度を下げ、二無水ピロメリット酸を1.2g添加して、撹拌速度50回転/分で3時間加熱混練を行って、熱可塑性エラストマー5を調製した。
【0118】
装置の上部に付着した熱可塑性エラストマー5は弾力があったが、下部に付着した熱可塑性エラストマー5は弾力のない固形物であった。その固形物は、スチレンオリゴマーの分子量が高く、天然ゴムと十分にアロイ化しないときに見られるものと同じものであった。このことから、スチレンモノマーから低分子量のスチレンオリゴマーを合成し、それを用いてポリマーアロイの調製を行えば、発泡スチロール等のスチレンポリマーから調製した場合と同様にして熱可塑性エラストマー5を得ることができる。
【0119】
以上の実験例1〜5で検討したように、スチレンオリゴマーと天然ゴムを原料として連鎖移動剤の存在下でポリマーアロイを調製し、そのポリマーアロイに酸無水物を添加して熱可塑性エラストマーを調製すれば、貯蔵弾性率G’が改善され、ホットメルト粘着剤として広く利用されているスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と同様の粘着特性を引き出すことができる。得られた熱可塑性エラストマーは、ホットメルト粘着剤に適用できる。また、スチレンオリゴマーを、発泡スチロール等の廃材を低分子量化して得れば、再資源化及び製品の低コスト化に大いに期待することができる。
【0120】
<製造方法2>
スチレンオリゴマーと天然ゴムとを連鎖移動剤の存在下で混合するだけで、熱可塑性エラストマーを得た。
(調製例5:スチレンオリゴマーの調製)
金属撹拌羽根の回転速度を100回転/分にし、加熱混練時間を2時間にした以外は、調製例1と同様にして、数平均分子量8300のスチレンオリゴマーを調製した。
【0121】
[調整方法]
(調製例6:熱可塑性エラストマーの調製)
3cm程度の小片に刻んだ天然ゴム(数平均分子量495000)60gをローラー型のブレード(回転刃)を有するラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製、Cモデル)に投入し、空気雰囲気下、180℃、ブレードの回転速度20回転/分〜30回転/分の条件で10分間素練りした。その後、上記で得られたスチレンオリゴマー15g及び2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン3.0mLを、3〜5分間隔で5回に分けて投入し、天然ゴムの素練り開始から50分間経過するまで、ブレードの回転速度20〜30回転/分の条件で混合して熱可塑性エラストマーを調製した。なお、用いたスチレンオリゴマーと天然ゴムとの質量比は、2:8([スチレンオリゴマー/天然ゴム]=0.25)であった。また、図10に示すように、用いたラボプラストミルの加熱混練部1に設けられている反応容器3は、開口部が円型の容器が2つ連なった構造(長手方向の幅79mm)をしており、全体の容量が90mLで、深さが47mmであった。回転刃2は、図9(c)に示すローラーブレード型で、長さL5が47mm、幅L4が30mmであった。
【0122】
(調製例7:粘着剤の調製)
調製した熱可塑性エラストマー3gと粘着付与剤(商品名:YSポリスター T100、ヤスハラケミカル株式会社製)3gとを、トルエン14gに溶解することで固形分30質量%の粘着剤を調製した。
【0123】
[実験例6]
上記の調製例6にしたがい、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加量を変化させて熱可塑性エラストマー6を調製した。得られた熱可塑性エラストマーの貯蔵弾性率G’を、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、型番:ARES−RDA)を用いて、実験例1と同じ測定条件で測定した。結果を図7に示した。図7中の符号Aは2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加量が7.5mLの場合であり、符号Bは2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加量が3mLの場合であり、符号Cは2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加量が0mLの場合である。また、図7中の符号Zは、0℃〜60℃の範囲での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲を示すゾーンである。
【0124】
図7からわかるように、熱可塑性エラストマー6の貯蔵弾性率G’は、無架橋で(すなわち、架橋剤を添加しなくても)、0℃〜60℃で理想ゾーン(符号Z)の範囲内になることがわかった。また、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加量が増すにしたがって、熱可塑性エラストマー6の90℃以下の範囲での貯蔵弾性率G’が上昇し、90℃を超える温度範囲では貯蔵弾性率G’が下降した。このことから、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加により、常温(0℃〜50℃)では強い弾性力を持ち、高温(90℃を超える温度範囲)では流動性を示す熱可塑性エラストマー6が調製できることがわかった。この熱可塑性エラストマー6はホットメルト粘着剤としての応用が期待できる。
【0125】
[実験例7]
実験例6で得られた熱可塑性エラストマー6から、上記の調製例7にしたがい、粘着剤を調製した。この粘着剤から溶剤を除去した固形分の貯蔵弾性率G’を、実験例6と同様の方法で測定した。結果を図8に示した。図8中の符号Aは2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加量が7.5mLの場合であり、符号Bは2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加量が3mLの場合であり、符号Cは2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加量が0mLの場合である。また、図8中の符号Zは、0℃〜60℃の範囲での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲を示すゾーンである。
【0126】
図8からわかるように、熱可塑性エラストマー6から調製した粘着剤の貯蔵弾性率G’は、30℃前後で理想ゾーン(符号Z)を下回ることがわかった。このことから、粘着付与剤を添加することで、貯蔵弾性率G’が低下するものの、0℃〜30℃の範囲では貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲であり、その温度範囲では凝集破壊が生じ難く且つ粘着力が強い粘着剤であることがわかった。
【0127】
また、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを添加した熱可塑性エラストマー6から調製した粘着剤(符号A及びB)は、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを添加しない熱可塑性エラストマー6から調製した粘着剤(符号C)よりも、温度に対する貯蔵弾性率G’の低下が大きくなる流動点を示す温度が低い(例えば、図8中、符号Aでは124℃であるのに対して、符号Cでは132℃である)ことがわかった。
【0128】
[実験例8]
次に、調製例7で得られた粘着剤から、以下のようにして粘着テープを作成した。粘着テープは、バッチ式塗工機(株式会社井元製作所製、型番:70F0-B)及びベーカー式アプリケーター(株式会社井元製作所製)を用いて、粘着剤のトルエン溶液を膜厚125μmでポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:40μm)へ塗工し、トルエンを完全に蒸発させることで粘着層の厚さが20μm又は30μmになる粘着テープ(粘着テープとしての厚さ:60μm又は70μm)を作成した。この粘着テープの粘着特性を評価した。粘着特性の評価は、ボールタック、保持力及び180°剥離強度を測定することで行った。ボールタックは、JIS Z 0237にしたがい、23℃、相対湿度50%の条件下、ボールタックテスター(株式会社上島製作所製、型番:VR−5710)で測定した。保持力は、JIS Z 0237にしたがい、23℃、相対湿度50%の条件下で測定した。180°剥離強度は、JIS Z 0237にしたがい、23℃、相対湿度50%の条件下で、万能試験機(島津製作所株式会社製、型番:AGH−S)で測定した。
【0129】
表1は、実験例8で得られた粘着テープの粘着特性と市販のスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から調製した粘着テープの粘着特性との測定結果である。表1中の「MSD添加量」は、連鎖移動剤である2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加量(mL)を示しており、SISは市販のスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(JSR株式会社製、商品名:SIS5505)を示している。
【0130】
【表1】

【0131】
表1の結果から分かるように、実験例8で得られた粘着テープは、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から調製した粘着テープと比べると、180°剥離強度が高く、保持力が低く、ボールタックは同程度であることがわかった。なお、実験例8で得られた粘着テープの保持力は2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの添加量が多いと低下することがわかった。
【0132】
以上の実験例6〜8で検討したように、回転刃を有するミル等で混合することで、酸無水物を添加しなくても、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲になる熱可塑性エラストマーを得ることができる。この熱可塑性エラストマーは、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体系のホットメルト粘着剤の代替となる安価なホットメルト粘着剤として用いることができる。この熱可塑性エラストマーから調製した粘着剤は、所定の温度範囲で凝集破壊が生じ難く且つ粘着力が強い。
【符号の説明】
【0133】
1 加熱混練部
2 回転刃
3 反応容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンオリゴマー、天然ゴム及び連鎖移動剤の各原料を、予め行った予備実験で決定される前記各原料の種類及び含有割合、並びに混合温度及び混合時間で混合し、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を1×10Pa〜1×10Paの範囲内にすることを特徴とする熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項2】
前記混合の後、架橋剤を添加してさらに混合し前記特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を前記範囲内にする、請求項1に記載の熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項3】
前記混合のみで前記特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’を前記範囲内にする、請求項1に記載の熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項4】
前記スチレンオリゴマーが、スチレンモノマーを重合して得たスチレンオリゴマー、又は、スチレンポリマーを低分子量化して得たスチレンオリゴマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項5】
前記連鎖移動剤が、炭化水素系連鎖移動剤、ハロゲン系連鎖移動剤及びチオール系連鎖移動剤から選ばれるいずれか1種又は2種以上の連鎖移動剤である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマーの製造方法により得られる熱可塑性エラストマーであって、特定の温度範囲の全域での貯蔵弾性率G’が1×10Pa〜1×10Paの範囲内であることを特徴とするホットメルト粘着剤用熱可塑性エラストマー。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−229415(P2012−229415A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91018(P2012−91018)
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物1 ・刊行物名 :第21回廃棄物資源循環学会研究発表会論文集 ・巻号頁等 : 251頁及び252頁 ・発行年月日: 2010年 (平成22年) 11月1日 ・発行者名 :一般社団法人廃棄物資源循環学会会長 酒井伸一 ・公開者名: 白井 貴士、刈込 道徳、木村 隆夫、太田 篤、荒井 一禎 ・タイトル: 「発泡ポリスチレン廃材を利用した天然ゴム系ホットメルト粘着剤の調製と評価」
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【出願人】(393021875)リンレイテープ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】