説明

熱可塑性エラストマー組成物の製造方法

【課題】柔軟性に富み、−60℃から30℃において優れた制振性を発現し、耐油性・成形加工性に優れた熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)ビニル芳香族化合物から主として作られる少なくとも2つの重合体ブロックAと、共役ジエン化合物から主として作られる少なくとも1つの重合体ブロックBとからなるブロック共重合体、及び/又は、これを水素添加して得られるブロック共重合体 100重量部、(b)パラフィン系プロセスオイルおよびナフテン系プロセスオイルから選択されるゴム用軟化剤15〜300重量部、(c)パーオキサイド架橋型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴム 0〜130重量部、(d)パーオキサイド分解型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴム 0〜130重量部、(e)100〜200℃の温度で膨張する熱膨張性マイクロカプセル 0.1〜15重量部、(f)ビニル芳香族系樹脂 0〜130重量部、(g)水添石油樹脂 0〜100重量部、および(h)無機充填剤 0〜100重量部を含み、成分(b)以外の軟化剤を含まず、かつ硫黄を含まない熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、成分(a)〜(h)を150〜250℃で溶融混練して成分(e)を膨張させることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性に富み、−60℃から30℃において優れた制振性を発現し、耐油性・成形加工性に優れた熱可塑性エラストマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム的な材料であって、加硫工程を必要とせず、熱可塑性樹脂と同様な成形加工性を有する熱可塑性エラストマーが、自動車部品、家電部品、電線被覆、履物、雑貨などの分野で注目されている。このような熱可塑性エラストマーとしては、例えばポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリスチレン系、ポリ塩化ビニル系などの種々の形式のポリマーが挙げられる。
【0003】
なかでも、スチレン・ブタジエン−ブロックポリマー(SBS)やスチレン・イソプレンブロックポリマー(SIS)、SIS誘導体などのポリスチレン系熱可塑性エラストマーおよびこれらの水素添加物は、柔軟性に富み、常温で良好なゴム弾性を有し、かつ、これらより得られる熱可塑性エラストマー組成物は加工性に優れており、加硫ゴムの代替品として広く使用されている。
【0004】
しかし、SIS誘導体などは室温付近で優れた制振性を発現するものの、ゴム弾性や耐油性に劣るため、自動車用途や建材用途など耐熱性・耐油性を必要とする分野では、使用が限定される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、柔軟性に富み、−60℃から30℃において優れた制振性を発現し、耐油性・成形加工性に優れた熱可塑性エラストマー組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、検討を進めた結果、スチレン・共役ジエン系のブロック共重合体および/または水素添加誘導体に、非芳香族系ゴム用軟化剤と共に、熱膨張性マイクロカプセルを少量添加して特定温度で溶融混練すると、柔軟性に富み、耐油性・成形加工性、特に−60℃から80℃において優れた制振性を発現する熱可塑性エラストマー組成物が得られることを見出した。さらには、スチレン・共役ジエン系のブロック共重合体および/または水素添加誘導体を含む組成物の一部分として、パーオキサイド架橋型オレフィン樹脂およびその共重合体ゴムを架橋させたものを添加すると、前記効果はさらに著しい。
【0007】
すなわち、本発明は、
(a)ビニル芳香族化合物から主として作られる少なくとも2つの重合体ブロックAと、共役ジエン化合物から主として作られる少なくとも1つの重合体ブロックBとからなるブロック共重合体、及び/又は、これを水素添加して得られるブロック共重合体 100重量部、
(b)パラフィン系プロセスオイルおよびナフテン系プロセスオイルから選択されるゴム用軟化剤 15〜300重量部、
(c)パーオキサイド架橋型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴム 0〜130重量部、
(d)パーオキサイド分解型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴム 0〜130重量部、
(e)100〜200℃の温度で膨張する熱膨張性マイクロカプセル 0.1〜15重量部、
(f)ビニル芳香族系樹脂 0〜130重量部、
(g)水添石油樹脂 0〜100重量部、および
(h)無機充填剤 0〜100重量部
を含み、成分(b)以外の軟化剤を含まず、かつ硫黄を含まない熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、成分(a)〜(h)を150〜250℃で溶融混練して成分(e)を膨張させることを特徴とする製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の組成物における各成分について説明する。
【0009】
成分(a):必須成分
ブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物から主として作られる(以下では、ビニル芳香族化合物を主体とするということがある)少なくとも2つの重合体ブロックAと、共役ジエン化合物から主として作られる(以下では、共役ジエン化合物を主体とするということがある)少なくとも1つの重合体ブロックBとからなるブロック共重合体あるいはこれを水素添加して得られるものであり、例えば、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−Aなどの構造を有するビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体あるいは、これを水素添加して得られるものである。このブロク共重合体は全体として、ビニル芳香族化合物を5〜60重量%、好ましくは20〜50重量%含む。ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAは、50重量%以上、好ましくは70重量%以上のビニル芳香族化合物、及び任意的成分たとえば共役ジエン化合物から作られたホモ重合体又は共重合体ブロックである。共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、50重量%以上、好ましくは70重量%以上の共役ジエン化合物、および任意的成分たとえばビニル芳香族化合物から作られたホモ重合体又は共重合体ブロックである。また、これらのビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAまたは、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBにおいて、分子鎖中の共役ジエン化合物またはビニル芳香族化合物由来の単位の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加または減少するもの)、一部ブロック状またはこれらの任意の組合せでなっていてもよい。ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックA又は共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBがそれぞれ2個以上ある場合には、各重合体ブロックはそれぞれが同一構造であっても異なる構造であってもよい。
【0010】
ブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α‐メチルスチレン、ビニルトルエン、p‐第3ブチルスチレンなどのうちから1種または2種以上を選択でき、中でもスチレンが好ましい。また共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1・3−ペンタジエン、2・3−ジメチル−1・3−ブタジエンなどのうちから1種または2種以上が選ばれ、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。
【0011】
共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBにおいて、そのミクロ構造を任意に選ぶことができ、例えばポリブタジエンブロックにおいては、1・2−ミクロ構造が20〜50重量%、好ましくは25〜45%である。ポリイソプレンブロックにおいてはイソプレンの70〜100重量%が1,4‐ミクロ構造を有し、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0012】
成分(a)ブロック共重合体は、
(a−1)ビニル芳香族化合物から主として作られる少なくとも2つの重合体ブロックAと、共役ジエン化合物から主として作られる少なくとも1つの重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体であって、重合体ブロックBがポリイソプレンブロックを含み、イソプレンの70〜100重量%が1,4‐ミクロ構造を有し、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されているところの水添ブロック共重合体65〜5重量部、および
(a−2)ビニル芳香族化合物から主として作られる少なくとも2つの重合体ブロックAと、共役ジエン化合物から主として作られる少なくとも1つの重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体であって、
重合体ブロックBがポリイソプレンブロックを含み、イソプレンは、その20〜80重量%が1,4‐ミクロ構造、およびその80〜20重量%が3,4‐ミクロ構造を有するところのブロック共重合体、または該ブロック共重合体のイソプレンに由来する脂肪族二重結合の少なくとも80%が水素添加されているところの水添ブロック共重合体 35〜95重量部
から成るものが好ましい。
【0013】
上記(a−1)は、例えばクラレ社からセプトン4077の商品名で市販されている。また(a−2)も、例えばクラレ社から、ハイブラーVS、ハイブラーHVSとして市販されている。
【0014】
ブロック共重合体の数平均分子量は、好ましくは5,000〜1,000,000、より好ましくは、10,000〜500,000、さらに好ましくは100,000〜300,000の範囲であり、分子量分布は10以下である。
【0015】
ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組合せのいずれであってもよい。
【0016】
これらのブロック共重合体の製造方法としては数多くの方法が提案されているが、代表的な方法としては、例えば特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒またはチーグラー型触媒を用い、不活性媒体中でブロック重合させて得ることができる。水素添加する方法も公知の方法がいずれも使用できる。
【0017】
成分(b):必須成分
非芳香族系ゴム用軟化剤とは、非芳香族系の鉱物油または液状もしくは低分子量の合成軟化剤である。一般にゴム用として用いられる鉱物油軟化剤は、芳香族環、ナフテン環およびパラフィン鎖の三者の組み合わさった混合物であって、パラフィン鎖炭素数が全炭素数の50%以上を以上を占めるものをパラフィン系、ナフテン環炭素数が30〜40%のものはナフテン系、芳香族炭素数が30%以上のものは芳香族系と呼ばれて区別されている。
【0018】
本発明の成分(b)として用いられる鉱物油系ゴム用軟化剤は上記区分でパラフィン系およびナフテン系のものであり、芳香族系の軟化剤は、成分(a)との分散性の点で好ましくない。特に、本発明の成分(b)としては、パラフィン系のものが好ましく、更にパラフィン系の中でも芳香族環成分の少ないものが特に適している。
【0019】
これらの非芳香族系ゴム用軟化剤の性状は、37.8℃における動的粘度が20〜500cst、流動点が−10〜−15℃、引火点(COC)が170〜300℃を示すのが好ましい。
【0020】
成分(b)の配合量は、成分(a)100重量部に対して、15重量部以上、好ましくは30重量部以上で、かつ300重量部以下、好ましくは150重量部以下である。300重量部を超える配合は、軟化剤のブリードアウトを生じやすく、最終製品に粘着性を与えるおそれがあり、機械的性質も低下せしめる。また、15重量部未満の配合は、成形性が困難となり、得られる組成物の柔軟性が失われることになる。
【0021】
成分(c):任意成分
本発明におけるパーオキサイド架橋型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴムとしては、パーオキサイドの存在下で加熱処理することによって主として架橋反応を起こし、その流動性が低下するものを用いる。オレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(低圧法ポリエチレン)、低密度ポリエチレン(高圧法ポリエチレン)、線状低密度ポリエチレン(エチレンと少量の好ましくは1〜10モル%のブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1などのα−オレフィンとのコポリマー)などのポリエチレン、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−アクリル酸エステルコポリマーなどが挙げられ、この中から選ばれた1種または2種以上が好ましく用いられる。特に好ましいのは密度0.90g/cm3 以下のメタロセン触媒(シングルサイト触媒)を用いて製造されたエチレン・オクテン・コポリマーである。これらは、一般に温度190℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.1〜5.0g/10分さらに好ましくは0.3〜1.0g/10分のものが好ましい。
【0022】
成分(c)を使用する場合には、成分(a)100重量部に対して130重量部以下、好ましくは80重量部以下の量で使用する。成分(c)の配合量が130重量部を超えると、得られるエラストマー組成物の耐熱性が失われ、成形性も悪化する。使用する場合の下限値は特に限定されないが、通常3重量部以上、好ましくは10重量部以上である。好ましい配合量は0〜80重量部である。
【0023】
成分(d):任意成分
パーオキサイド分解型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴムの配合は、得られる組成物のゴム分散を良好にし、成形品の外観を良好にする効果を有する。
【0024】
パーオキサイド分解型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴムは、パーオキサイドの存在下に加熱処理することによって熱分解して分子量を減じ、樹脂の溶融時の流動性が増大する、オレフィン系の重合体または共重合体である。例えば、アイソタクッチックポリプロピレン、あるいはプロピレンと他のα−オレフィン、例えばエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどとの共重合体を挙げることができる。
【0025】
用いられるパーオキサイド分解型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴムのホモ部分のDSC測定(示差走査熱量測定)による結晶化度は、Tmが150℃〜167℃、△Hmが25mJ/mg〜83mJ/mgの範囲のものが好ましい。結晶化度はDSC測定のTm、△Hmから推定することができる。上記範囲外では、得られるエラストマー組成物の、100℃以上のゴム弾性が改良されない。
【0026】
用いられるパーオキサイド分解型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴムのMFR(JIS−K−7210、190℃、2.16kg荷重)は好ましくは、動的架橋時に添加する場合は、通常0.1〜50g/10分、好ましくは0.5〜20g/10分の範囲のものである。動的架橋終了後に添加する場合は、通常0.1〜200g/10分、好ましくは0.5〜60g/10分の範囲のものである。
【0027】
動的架橋時に添加する場合、MFRが0.1g/10分未満では、得られるエラストマーの成形性が低下する傾向があり、50g/10分より上では、得られるエラストマー組成物のゴム弾性が悪化する傾向がある。
【0028】
動的架橋終了後に添加する場合、MFRが0.1g/10分未満では、得られるエラストマーの成形性が低下し、200g/10分より上では、得られるエラストマー組成物のゴム弾性が悪化する。
【0029】
成分(d)を使用する場合には、成分(a)100重量部に対して130重量部以下、好ましくは80重量部以下の量で使用する。成分(d)の配合量が130重量部を超えると、得られるエラストマー組成物の硬度が高くなりすぎて柔軟性が失われ、ゴム的感触の製品が得られない。また、使用する場合の下限値は特に限定されないが、通常3重量部以上、好ましくは10重量部以上である。好ましい配合量は0〜80重量部である。
【0030】
成分(e):必須成分
100〜200℃の温度で熱膨張する熱膨張性マイクロカプセルは、本発明の効果を発揮するための特徴となる成分である。ここで、100〜200℃の温度で膨張する熱膨張性マイクロカプセルとしては、平均粒径1〜50μmが必要であり、1μmより小さいとゴム中への分散が不十分となり、50μmより上では本発明の組成物から得られる成形品の強度が大きく低下する。また、膨張倍率は10〜100倍が好ましく、10倍未満であると十分な発泡倍率が得られず、100倍を超えると均一微細なセルが得られ難くなる。このような熱膨張性マイクロカプセルとしては塩化ビニリデン・アクリロニトリルコポリマーを外殻とし、イソブタンを内包したエクスパンセルが、エクスパンセル社から市販されている。
【0031】
成分(e)の配合量は、成分(a)100重量部に対して、0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上、かつ15重量部以下、好ましくは10重量部以下である。さらに、好ましくは1〜6重量部の範囲で選択される。成分(e)が0.1重量部未満では十分な効果が発現せず、15重量部を超えて配合すると本発明の組成物から得られる成形品のゴム弾性が悪化し、機械物性が低下する。また、膨張温度が100℃以下では、ゴム弾性が悪化し、200℃を超えるものでは生産性が悪くなり、成形品の外観も悪化する。
【0032】
成分(f):任意成分
ビニル芳香族系樹脂としては、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン)、スチレン−α−メチルスチレン共重合体、スチレン−パラメチルスチレン共重合体、スチレン−アクリル酸ゴム−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体などが挙げられ、これらのうちから1種類又は2種類以上を選択できる。ゴム変性ポリスチレンのゴム成分は2〜15%含有するものである。中でもポリスチレンが好ましい。また、メルトフローレートが、0.5〜60g/10分(200℃、荷重5.0kgで測定)のものが好ましい。さらに、重量平均分子量10〜10のものが好ましい。
【0033】
成分(f)を使用する場合には、成分(a)100重量部に対して130重量部以下、好ましくは80重量部以下の量で使用する。130重量部を超えると、得られるエラストマー組成物の硬度が高くなりすぎて柔軟性が失われ、ゴム的感触の製品が得られない。また、使用する場合の下限値は特に限定されないが、通常3重量部以上である。好ましい配合量は0〜80重量部である。
【0034】
成分(g):任意成分
必要に応じて水添石油樹脂を配合することができる。水添石油樹脂を配合すると、柔軟性とベトツキ性のバランスが良く、柔軟性があるもののベトツキがないという効果が生じる。本発明に用いる水添石油樹脂としては、水素化石油樹脂、例えば水素化脂肪族系石油樹脂、水素化芳香族系石油樹脂、水素化共重合系石油樹脂及び水素化脂環族系石油樹脂、及び水素化テルペン系樹脂が挙げられる。
上記水素化石油樹脂は、慣用の方法で製造される石油樹脂を慣用の方法によって水素化することにより得られる。
【0035】
前記石油樹脂とは、石油精製工業、石油化学工業の各種工程で得られる樹脂状物、又は、それらの工程、特にはナフサの分解工程にて得られる不飽和炭化水素を原料として共重合して得られる樹脂のことを指し称する。例えば、C5 留分を主原料とする脂肪族系石油樹脂、C9 留分を主原料とする芳香族系石油樹脂、それらの共重合系石油樹脂、水素化脂環族系石油樹脂であり、その中でもシクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族系化合物とを共重合して、水素添加脂環族系石油樹脂であり、その中でも、シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族系化合物とを共重合して、水素添加したものが好ましい。
【0036】
成分(g)を使用する場合には、成分(a)100重量部に対して100重量部以下、好ましくは80重量部以下の量で使用する。100重量部を超えると、成形品の表面性が悪くなる。また、使用する場合の下限値は特に限定されないが、通常1重量部以上である。好ましい配合量は0〜80重量部である。
【0037】
成分(h):任意成分
必要に応じて、無機充填剤を配合することができる。無機充填剤は成形品の圧縮永久歪みなど一部の物性を改良する効果のほかに、増量による経済上の利点を有する。用いられる無機充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、水酸化マグネシウム、マイカ、クレー、硫酸バリウム、天然けい酸、合成けい酸(ホワイトカーボン)、酸化チタン、カーボンブラックなどがある。これらのうち、炭酸カルシウム、タルクは特に好ましいものである。
【0038】
成分(h)を使用する場合には、成分(a)100重量部に対して、100重量部以下、好ましくは60重量部以下の量で使用する。100重量部を超えると、得られるエラストマー組成物の機械的強度の低下が著しく、かつ、硬度が高くなって柔軟性が失われ、ゴム的な感触の製品が得られなくなる。また、使用する場合の下限値は特に限定されないが、通常5重量部以上である。好ましい配合量は0〜50重量部である。
【0039】
上記した成分の他に配合することが可能な成分として、流動性をコントロールする目的で、スチレン系樹脂組成物が挙げられる。
【0040】
なお、本発明の組成物は上記の成分のほかに用途に応じて、各種のブロッキング防止剤、シール性改良剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、結晶核剤、着色剤等を含有することも可能である。
【0041】
上記した組成物は、各成分を一括して150〜250℃の温度、好ましくは180〜240℃の温度で溶融混練することによって製造することができる。上記温度で溶融混練することにより、成分(e)が膨張された組成物が得られる。慣用の溶融混練の手法および装置(1軸または2軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、各種ニーダー等)がいずれも使用できる。特に、L/Dが47以上の二軸押出機やバンバリーミキサーを使用する場合、すべての工程を連続的に行なうことができる利点がある。
【0042】
また、組成物が成分(d)を含む場合、例えば成分(a)100重量部に対して3〜130重量部、特には10〜130重量部の量で含む場合には、基本的に2工程からなる次に示す製造方法が好ましく使用される。
【0043】
すなわち、成分(a)および成分(b)の全量、成分(d)の少なくとも一部、および成分(e)の全量、ならびに、成分(c)があれば該成分(c)の全量を有機パーオキサイドの存在下に150〜250℃の温度で溶融混練して架橋せしめるとともに成分(e)を膨張させ(第1工程)、次いでこの架橋物および成分(d)の残部を配合して150〜250℃の温度で溶融混練する(第2工程)。成分(f)〜(h)は第1工程または第2工程のいずれかの段階で、任意の時点で配合することができる。
【0044】
まず、第1工程においては、上記の特定成分を有機パーオキサイドの存在下に溶融混練する。成分(d)は、少なくとも10重量部を第1工程において使用するのが好ましい。任意成分(c)、(f)〜(h)を使用する場合には、ここで全量を一括して溶融混練するのが好ましい。溶融混練は、150〜250℃、好ましくは180〜240℃の温度で行う。装置は、上記した溶融混練装置をいずれも使用できる。
【0045】
有機パーオキサイドとしては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパ−オキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4、4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイドなどを挙げることができ、これらを単独で、または2種以上を組合せて使用する。これらのうちでは、臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3が最も好ましい。
【0046】
前記有機パーオキサイドによる架橋処理に際し、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレートのような多官能性メタクリレートモノマー、ビニルブチラートまたはビニルステアレートのような多官能性ビニルモノマーを、架橋助剤として配合することができる。このような化合物により、均一かつ効率的な架橋反応が期待できる。
【0047】
特に、本発明においては、トリエチレングリコールジメタクリレートを用いると、取扱いやすく、また成分(c)パーオキサイド架橋型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴムを使用する場合に成分(c)への相溶性が良好であり、かつパーオキサイド可溶化作用を有し、パーオキサイドの分散助剤として働くため、熱処理による架橋効果が均一かつ効果的で、硬さとゴム弾性のバランスのとれた動的架橋熱可塑性エラストマーが得られる等の理由から、最も好ましい。
【0048】
また、第1工程においては、場合により抗酸化剤を配合することができる。ここで用いられる抗酸化剤としては、2,6−ジ−tert−p−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル、トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタンなどのフェノール系抗酸化剤、ホスファイト系抗酸化剤、チオエーテル系抗酸化剤などが挙げられる。中でも、フェノール系抗酸化剤とホスファイト系抗酸化剤が好ましい。
【0049】
パーオキサイド、架橋助剤、または抗酸化剤は例えば、成分(a)100重量部に対して、次のような量で使用される。パーオキサイド0.1〜1.5重量部、好ましくは0.1〜1.0重量部;架橋助剤0.1〜3.5重量部、好ましくは0.1〜2.5重量部;抗酸化剤3重量部以下、好ましくは1重量部以下。しかし、実際には成分(a)〜(h)の配合割合、特に得られる動的架橋熱可塑性エラストマーの品質に影響する架橋度を考慮して決定される。
【0050】
次に、第2工程の反応は、上記した第1工程で得られた架橋物および成分(d)の残部を配合して溶融混練する。溶融混練は、150〜250℃、好ましくは180〜240℃の温度で行う。装置は、上記した溶融混練装置をいずれも使用できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
実施例、比較例において用いた評価方法は次の方法によった。
1)硬さ
JIS K 7215に準拠し、試験片は6.3mm厚プレスシートを用いた。15秒後の硬さを測定した。
2)引張強さ
JIS K 6301に準拠し、試験片は1mm厚プレスシートを、ダンベルで3号型に打抜いて使用した。引張速度が500mm/分とした。
3)引張伸び
JIS K 6301に準拠し、試験片は1mm厚プレスシートを、ダンベルで3号型に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
4)100%モジュラス
JIS K 6301に準拠し、試験片は1mm厚プレスシートを、ダンベルで3号型に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
5)圧縮永久歪み
JIS K 6262に準拠し、試験片は6.3mm厚プレスシートを使用した。100℃×22時間、25%変形の条件にて測定した。
6)成形性
型締め圧120トンの射出成形機で、12.5×13.5×1mmのシートを下記の条件で成形した。
【0053】
成形温度 220℃
金型温度 40℃
射出速度 55mm/秒
射出圧力 1400kg/cm2
保圧圧力 400kg/cm2
射出時間 6秒
冷却時間 45秒
デラミネーション、変形及び著しく外観を悪化させるようなフローマークの有無により評価した。
7)ブリードアウト性
上記成形品を100℃×22時間の環境下で、50%圧縮させた後、低分子量物のブリードやブルームが見られず、手で触れてもベトツキがない場合、ブリードアウト性良好であるとした。
8)制振性(tan δの測定)
試験片(寸法:10mm×3mm×50mm、測定部分の長さ:20mm):
加圧温度200℃、予熱時間3分間、加圧時間2分間および加圧圧力50kg/cm2 の条件にてプレス成形した。
上記試験片を、以下の測定装置のチャックに装着して、以下の測定条件にてtan δを測定した:
測定装置:セイコーインスツルメンツ株式会社製、DMS110ベンディングモジュール、
測定条件:−60〜100℃、曲げ(矩形断面)モード、周波数10Hz。
9)反発弾性:BS903に準拠し、試験片は4mm厚プレスシートを使用した。
【0054】
各成分としては、次の物質を使用した。
成分(a):
(a−1)クラレ株式会社製 セプトン 4077
スチレン含有量:30重量%、イソプレン含有量:70重量%
数平均分子量:260,000、重量平均分子量:320,000
分子量分布:1.23、水素添加率:90%以上、
(a−2)クラレ株式会社製 ハイブラーVS−1
スチレン含有量: 20重量%、イソプレン含有量: 70重量%
水素添加率:0%、
成分(b):出光興産社製 ダイアナプロセスオイルPW−90、種類:パラフィン系オイル、
成分(c):パーオキサイド架橋型オレフィン系樹脂、住友化学社製、Bond Fast BF-E 、種類:エポキシ含有エチレンコポリマー、MFR:3g/10分(190℃、2.16kg荷重)、
成分(d):パーオキサイド分解型オレフィン系樹脂、三井石油化学社製、PP CJ700、種類:ポリプロピレンホモポリマー、結晶化度:Tm 166℃、△Hm 82mJ/mg、MFR:2.5g/10分(190℃、2.16kg荷重)、
成分(e):エクスパンセル社製 エクスパンセル 092DU120、
成分(f):ポリスチレンホモポリマー、電気化学工業製 GP−1、MFR:6.4g/10分(200℃、5kg荷重)、
成分(g):出光石油化学製 P−140、種類:水添石油樹脂 C5−芳香族系共重合水素添加樹脂、
成分(h):三共精粉社製 RS400、種類:炭酸カルシウム
パーオキサイド:化薬アクゾ社製 カヤヘキサAD、
架橋助剤:新中村化学社製 NKエステル3G、種類:トリエチレングリコールジメタクリレート
【0055】
実施例1〜34および比較例1〜10
実施例1〜8および13〜31および34、ならびに比較例1〜3および5〜9は、各成分を一括で溶融混練した。溶融混練条件は、次の通りであった:2軸押出機(L/D=62.5)を使用し、混練温度180〜240℃およびスクリュー回転数350rpm。
【0056】
実施例9〜12、32および33ならびに比較例4および10は、組成物を2段階で製造した。まず、成分(d)の10重量部およびその他の成分の全量を溶融混練し(第1工程)、次いで、押出機の途中から成分(d)の残部を加えて溶融混練した(第2工程)。各工程の溶融混練条件は、上記の一括溶融混練と同じであった。
【0057】
得られた樹脂組成物について、上記した試験を行い、その結果を表1〜表6に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性に富み、−60℃から30℃において優れた制振性を発現し、耐油性・成形加工性に優れている。よって、特に自動車用途や建材用途など耐熱性・耐油性を必要とする分野において、非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ビニル芳香族化合物から主として作られる少なくとも2つの重合体ブロックAと、共役ジエン化合物から主として作られる少なくとも1つの重合体ブロックBとからなるブロック共重合体、及び/又は、これを水素添加して得られるブロック共重合体 100重量部、
(b)パラフィン系プロセスオイルおよびナフテン系プロセスオイルから選択されるゴム用軟化剤 15〜300重量部、
(c)パーオキサイド架橋型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴム 0〜130重量部、
(d)パーオキサイド分解型オレフィン系樹脂および/またはそれを含む共重合体ゴム 0〜130重量部、
(e)100〜200℃の温度で膨張する熱膨張性マイクロカプセル 0.1〜15重量部、
(f)ビニル芳香族系樹脂 0〜130重量部、
(g)水添石油樹脂 0〜100重量部、および
(h)無機充填剤 0〜100重量部
を含み、成分(b)以外の軟化剤を含まず、かつ硫黄を含まない熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、成分(a)〜(h)を150〜250℃で溶融混練して成分(e)を膨張させることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
上記溶融混練を有機パーオキサイドの存在下で行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
架橋助剤をさらに存在させて溶融混練を行う、請求項2記載の方法。

【公開番号】特開2008−150629(P2008−150629A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70991(P2008−70991)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【分割の表示】特願平10−44612の分割
【原出願日】平成10年2月10日(1998.2.10)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】