説明

熱可塑性エラストマー組成物及びその成型品

【課題】 接着剤を用いずそのまま射出成型などで、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂などの極性樹脂に接着(接合)することができ、ゴム弾性に優れ、柔軟性、ガスバリアー性及び制振性を兼ね備えた熱可塑性エラストマー組成物と成型材料、及びこの軟質材と極性樹脂との積層成型品を提供すること。
【解決手段】 末端にアルケニル基を有するイソブチレン系重合体を、オレフィン系重合体の存在下で、溶融混練中に架橋してなる組成物と、極性官能基を有するオレフィン系樹脂とを含有してなる熱可塑性エラストマー組成物により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂等の極性樹脂に対して、良好に接着(接合)することができる柔軟でガスバリアー性及び制振性の高い熱可塑性エラストマー組成物とその成型材料に関し、更には上記極性樹脂との積層成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性を有する高分子材料としては、天然ゴムまたは合成ゴムなどのゴム類に架橋剤や補強剤などを配合して高温高圧下で架橋したものが汎用されている。しかしながらこの様なゴム類では、高温高圧下で長時間にわたって架橋及び成形を行う工程が必要であり、加工性に劣る。また架橋したゴムは熱可塑性を示さないため、熱可塑性樹脂のようにリサイクル成形が一般的に不可能である。そのため、通常の熱可塑性樹脂と同じように熱プレス成形、射出成形、及び押出し成形などの汎用の溶融成形技術を利用して成型品を簡単に製造することのできる熱可塑性エラストマーが近年種々開発されている。このような熱可塑性エラストマーには、現在、動的架橋型及び非架橋型オレフィン系、ウレタン系、エステル系、アミド系、スチレン系、塩化ビニル系などの種々の形式のポリマーが開発され、市販されている。
【0003】
これらのうちで、耐熱変形性、圧縮永久歪み特性、柔軟性、ガスバリアー性、及び制振性に優れた熱可塑性エラストマーとして、末端にアルケニル基を有したイソブチレン系重合体をポリオレフィン系樹脂中で動的に架橋した組成物が開示されている(特許文献1)。上記組成物はその特性から、自動車内装部品や工具のグリップ部、筆記具のグリップ部、玩具類の表皮部など、ソフトタッチ感が要求される用途や、自動車用ホース材やそのシール部、燃料タンクのシール部、容器や瓶などのキャップなど、シール性が要求される用途、防音カバーや電動工具のグリップ部など、防振性が要求される用途などに適している。また、この様な用途では、硬質の極性樹脂と積層した多層成型品として使用され場合がある。しかし、上記組成物を含めポリオレフィン系の熱可塑性エラストマー組成物は極性基を有さないため、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂のような極性樹脂との相溶性・接着性が不十分であり、この様な極性樹脂との多層成型品を製造する場合は、接着剤を用いて貼り付けるなどの工程が必要とされていた。
【0004】
一方、接着剤を用いず、極性樹脂に対して高い溶融接着性を有する柔軟な熱可塑性エラストマー組成物として、動的架橋型オレフィン系エラストマー組成物に不飽和カルボン酸を添加した組成物(特許文献2)動的架橋型オレフィン系エラストマー組成物とポリウレタンなどの極性セグメントを有したブッロク共重合体を含有する組成物(特許文献3)、官能基を有した熱可塑性樹脂中でゴム成分を動的に架橋させたオレフィン系の熱可塑性エラストマー組成物(特許文献4)が開示されている。これらの組成物は、接着性は良好なものの、ガスバリアー性や制振性に劣るため、シール材、キャップ、ガスケット、自動車関連部材等の用途に対して適応することが困難であった。
【特許文献1】国際公開第03/02654号パンフレット
【特許文献2】特開2006−274119号公報
【特許文献3】特開2006−52277号公報
【特許文献4】特開2000−143896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち、本発明が解決しようとしている課題は、接着剤を用いずそのまま射出成型などで、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂などの極性樹脂に接着(接合)することができ、ゴム弾性に優れ、柔軟性、ガスバリアー性及び制振性を兼ね備えた熱可塑性エラストマー組成物と成型材料、及びこの軟質材と極性樹脂との積層成型品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を積み重ねた結果、末端にアルケニル基を有したイソブチレン系重合体をポリオレフィン系樹脂中で動的に架橋した熱可塑性エラストマー組成物と極性官能基を有するオレフィン系重合体を含有してなる組成物により、前記課題を解決できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は、(A)末端にアルケニル基を有するイソブチレン系重合体100重量部を、(B)オレフィン系重合体10〜100重量部の存在下で、(C)ヒドロシリル基含有化合物により溶融混練中に架橋してなる組成物と、(B)成分とは異なる(D)極性官能基を有するオレフィン系重合体0.1〜50重量部とを含有してなる熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【0008】
好ましい実施態様としては、前記組成物が、さらに(E)軟化剤1〜200重量部を含有してなる熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【0009】
好ましい実施態様としては、前記組成物が、さらに(F)ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリアミド系樹脂から選択される少なくとも一種の極性樹脂0.1〜50重量部を含有してなる熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【0010】
好ましい実施態様としては、前記組成物が、さらに(G)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体1〜100重量部を含有してなる熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【0011】
好ましい実施態様としては、前記の(B)オレフィン系重合体が、ポリエチレン系重合体及びポリプロピレン系重合体から選択される少なくとも一種である熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【0012】
好ましい実施態様としては、前記の(D)成分が、酸無水物基、カルボン酸基、水酸基、シリル基、及びグリシジル基から選択される少なくとも一種の極性官能基を有するオレフィン系重合体である熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【0013】
好ましい実施態様としては、前記の(E)成分の軟化剤が、液状ポリブテン及び液状ポリイソブチレンから選択される少なくとも一種である熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【0014】
好ましい実施態様としては、上記組成物からなるシール材に関する。
【0015】
好ましい実施態様としては、上記組成物からなるガスケット材に関する。
【0016】
好ましい実施態様としては、上記組成物からなるキャップ材に関する。
【0017】
好ましい実施態様としては、上記組成物を含有する層と、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリアミド系樹脂から選択される少なくとも一種の極性樹脂からなる層を積層してなる成型品に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、ガスバリアー性、及び制振性に優れ、更に極性樹脂との接着性に優れることから、自動車内装部品や工具のグリップ部、筆記具のグリップ部、玩具類の表皮部など、ソフトタッチ感が要求される用途や、インクジェットプリンター用インクタンクのシール部、燃料タンクのシール部、自動車や建築物の窓枠のシール部、自動車や建築物のホース・チューブのシール部、携帯電話や携帯型情報機器のシール部、容器や瓶などのキャップ、合成コルクなど、シール性が要求される用途、防音カバーや電動工具のグリップ部など、防振性が要求される用途などにおいて、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂などの極性樹脂との多層構造体(積層体)として好適に使用することができる。更に、このような多層構造体は、二色成形やサンドイッチ成形、共押出、ラミネートなどの、加熱による接着を利用した成形方法によって、接着剤等を用いずに、簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(A)末端にアルケニル基を有するイソブチレン系重合体100重量部を、(B)オレフィン系重合体10〜100重量部の存在下で、(C)ヒドロシリル基含有化合物により溶融混練中に架橋してなる組成物と、(B)成分とは異なる(D)極性官能基を有するオレフィン系重合体0.1〜50重量部とを含有してなる。
【0020】
本発明の(A)成分である、末端にアルケニル基を有するイソブチレン系重合体とは、イソブチレンに由来するユニットが50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上を占める、末端にアルケニル基を有する重合体のことをいう。イソブチレン以外の単量体としては、カチオン重合可能な単量体成分であれば特に限定されないが、芳香族ビニル類、脂肪族オレフィン類、イソプレン、ブタジエン、ジビニルベンゼン等のジエン類、ビニルエーテル類、β−ピネン等の単量体が例示できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
(A)成分の分子量に特に制限はないが、GPC測定による重量平均分子量で5,000から500,000であるのが好ましく、10,000から200,000が特に好ましい。重量平均分子量が5,000未満の場合、機械的な特性等が十分に発現されない傾向があり、また、500,000を超える場合、溶融混練性が低下し、また、架橋時の反応性が低下する傾向がある。
【0022】
本発明の(A)成分中のアルケニル基とは、(C)ヒドロシリル基含有化合物による架橋反応に対して活性のある炭素−炭素二重結合を含む基であれば特に制限されるものではない。具体例としては、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の脂肪族不飽和炭化水素基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の環式不飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0023】
本発明の(A)成分の末端へのアルケニル基の導入方法としては、特開平3−152164号公報や特開平7−304909号公報に開示されているような、水酸基などの官能基を有する重合体に不飽和基を有する化合物を反応させて重合体に不飽和基を導入する方法が挙げられる。またハロゲン原子を有する重合体に不飽和基を導入するためにはアルケニルフェニルエーテルとのフリーデルクラフツ反応を行う方法、ルイス酸存在下アリルトリメチルシラン等との置換反応を行う方法、種々のフェノール類とのフリーデルクラフツ反応を行い水酸基を導入した上でさらに前記のアルケニル基導入反応を行う方法などが挙げられる。この中でもアリルトリメチルシランと塩素の置換反応により末端にアリル基を導入したものが、反応性の点から好ましい。
【0024】
本発明の(A)成分のアルケニル基の量は、必要とする特性によって任意に選ぶことができるが、架橋後の特性の観点から、1分子あたり少なくとも0.2個のアルケニル基を末端に有する重合体であることが好ましく、1分子当たり1.0個以上であることがさらに好ましく、1分子当たり1.5個以上であることが最も好ましい。0.2個未満であると、架橋反応が十分に進行しないおそれがある。
【0025】
本発明の(B)成分であるオレフィン系重合体は、α−オレフィンの単独重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物、またはα−オレフィンと他の不飽和単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体及びこれら重合体のハロゲン化又はスルホン化したもの等を1種又は2種以上組み合わせて使用できる。具体的には、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、塩素化ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、塩素化ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィンの(共)重合体等が例示できる。これらの中でコストと物性バランスの点からポリエチレン、ポリプロピレン、又はこれらの混合物が好ましく使用できる。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどが例示でき、ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンなどが例示できる。これらの中でも、耐熱性の点から、ポリプロピレンが最も好ましい。本発明の(B)成分は、極性官能基を有さないオレフィン系重合体であってもよいし、本発明の目的を損なわない範囲内で、極性官能基を有するオレフィン系重合体を含んでいてもよい。

使用する(B)オレフィン系重合体のメルトフローレート(MFR)としては、特に制限がないものの、成形流動性の点から、0.1〜100(g/10min)であることが好ましく、1〜100(g/10min)であることがより好ましい。
【0026】
本発明において、(B)成分は、(A)成分の架橋反応場として機能するだけでなく、最終的な組成物に、成形流動性、耐熱性、機械強度を付与する働きを有する。(B)成分の添加量は、(A)成分100重量部に対し、10〜100重量部とし、10〜80重量部とするのが好ましい。(B)成分が10重量部より少ないと、十分な成形流動性が得られない傾向があり、100重量部より多くなると、柔軟性が損なわれ、十分なゴム弾性(柔軟性)が発現しない傾向がある。
【0027】
本発明では、(A)成分の架橋剤として、(C)ヒドロシリル基含有化合物を用いる。使用できる(C)ヒドロシリル基含有化合物に特に制限はないが、ヒドロシリル基含有ポリシロキサンが好ましく、各種のものを用いることができる。その中でもヒドロシリル基を2個以上持ち、シロキサンユニットを2個以上500個以下持つ、ヒドロシリル基含有ポリシロキサンが好ましく、ヒドロシリル基を2個以上持ち、シロキサンユニットを10個以上200個以下持つポリシロキサンがさらに好ましく、ヒドロシリル基を3個以上持ち、シロキサンユニットを20個以上100個以下持つポリシロキサンが特に好ましい。ヒドロシリル基が2個より少ないと、架橋によるネットワークの十分な成長が達成されず最適なゴム弾性が得られない傾向があり、シロキサンユニットが500個より多くなると、ポリシロキサンの粘度が高く(A)成分中への分散性が低下し、架橋反応の進行が不十分となる傾向がある。ここで言うポリシロキサンユニットとは以下の一般式(I)、(II)、(III)を指す。
[Si(RO] (I)
[Si(H)(R)O] (II)
[Si(R)(R)O] (III)
ヒドロシリル基含有ポリシロキサンとして、一般式(IV)または(V)で表される鎖状ポリシロキサン;
SiO−[Si(RO]−[Si(H)(R)O]−[Si(R)(R)O]−SiR(IV)
HRSiO−[Si(RO]−[Si(H)(R)O]−[Si(R)(R)O]−SiRH (V)
(式中、RおよびRは炭素数1〜6のアルキル基、または、フェニル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基またはアラルキル基を示す。bは3≦b、a,b,cは3≦a+b+c≦500を満たす整数を表す。)
一般式(VI)で表される環状シロキサン;
【0028】
【化1】

(式中、RおよびRは炭素数1〜6のアルキル基、または、フェニル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基またはアラルキル基を示す。eは3≦e、d,e,fはd+e+f≦500を満たす整数を表す。)等の化合物を用いることができる。
【0029】
(A)成分と(C)ヒドロシリル基含有化合物は任意の割合で混合することができるが、架橋速度の面から、アルケニル基に対するヒドロシリル基の量(ヒドロシリル基/アルケニル基)が、モル比で0.5〜10の範囲にあることが好ましく、さらに、1〜5であることが特に好ましい。モル比が0.5より小さくなると、架橋が不十分となる傾向があり、また、10より大きいと、架橋後も活性なヒドロシリル基が大量に残るので、揮発分が発生しやすい傾向がある。
【0030】
(A)成分と(C)成分との架橋反応は、二成分を混合して加熱することにより進行するが、反応をより迅速に進めるために、ヒドロシリル化触媒を添加することが好ましい。このようなヒドロシリル化触媒としては特に限定されず、例えば、有機過酸化物やアゾ化合物等のラジカル発生剤、および遷移金属触媒が挙げられる。
【0031】
ラジカル発生剤としては特に限定されず、例えば、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)イソプロピルベンゼンのようなジアルキルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、p−クロロベンゾイルペルオキシド、m−クロロベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドのようなジアシルペルオキシド、過安息香酸−t−ブチルのような過酸エステル、過ジ炭酸ジイソプロピル、過ジ炭酸ジ−2−エチルヘキシルのようなペルオキシジカーボネート、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンのようなペルオキシケタール等を挙げることができる。
【0032】
また、遷移金属触媒としても特に限定されず、例えば、白金単体、アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に白金固体を分散させたもの、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との錯体、白金−オレフィン錯体、白金(0)−ジアルケニルテトラメチルジシロキサン錯体が挙げられる。白金化合物以外の触媒の例としては、RhCl(PPh,RhCl,RuCl,IrCl,FeCl,AlCl,PdCl・HO,NiCl,TiCl等が挙げられる。これらの触媒は単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもかまわない。これらのうち、架橋効率の点で、白金ビニルシロキサンが最も好ましい。
【0033】
触媒量としては特に制限はないが、(A)成分のアルケニル基1molに対し、10−1〜10−8molの範囲で用いるのが良く、好ましくは10−3〜10−6molの範囲で用いるのがよい。10−8molより少ないと架橋の進行が不十分となる傾向があり、10−1molより多くなると、発熱が激しく、架橋反応が十分に制御できない傾向がある。
【0034】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の(D)極性官能基を有するオレフィン系重合体は、(B)成分とは異なるものである。本発明において「異なる」とは化学構造が異なることを意味する。具体的には、本発明の(D)成分は「実質的に(B)成分中には存在しない極性官能基を分子中に少なくとも1個の有するオレフィン系重合体」である。本発明の具体的な(D)成分は、具体的に用いた(B)成分種に応じて、種々の極性官能基を有するオレフィン系重合体から適宜選択される。
【0035】
(D)極性官能基を有するオレフィン系重合体中の官能基は、極性を有する官能基であり、例えば、酸無水物基、グリシジル基、アミノ基、水酸基、シリル基、カルボン酸基及びその塩、並びに、カルボン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基である。また、ここでいう重合体とは、共重合体のことも含み、共重合体の共重合様式には特に制限はなく、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体などいずれの共重合体様式であっても良い。
【0036】
(D)極性官能基を有するオレフィン系重合体の例としては、上記官能基を有した以下の重合体類が挙げられる。すなわち、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体などのエチレン・α−オレフィン系共重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、ポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリイソプレン、ブテン−イソプレン共重合体、スチレン−エチレンブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレンプロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)などが例示できる。
【0037】
本発明の(D)成分に用いられる官能基を有するオレフィン系重合体の具体例としては、プロピレン系、エチレン・α−オレフィン系共重合体などのポリオレフィン系重合体に、マレイン酸無水物、琥珀酸無水物、フマル酸無水物などの酸無水物を共重合したもの、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニルなどのカルボン酸及びそのNa、Zn、K、Ca、Mgなどの塩、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、グリシジルメタクリレートなどのカルボン酸エステルが共重合されたオレフィン系重合体、無水マレイン酸、マレイン酸、グリシジルメタクリレート、ビニルシラン等のシリル基含有化合物等を用い、ラジカル開始剤などの存在下で溶融変性したオレフィン系重合体などが挙げられる。
【0038】
より具体的には、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸n−プロピル共重合体、エチレン−アクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸t−ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸n−プロピル共重合体、エチレン−メタクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン−メタクリル酸n−ブチル共重合体、エチレン−メタクリル酸t−ブチル共重合体、エチレン−メタクリル酸イソブチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびそのNa、Zn、K、Ca、Mgなどの金属塩、エチレン−マレイン酸無水物共重合体、エチレン−ブテン−マレイン酸無水物共重合体、エチレン−プロピレン−マレイン酸無水物共重合体、エチレン−ヘキセン−マレイン酸無水物共重合体、エチレン−オクテン−マレイン酸無水物共重合体、プロピレン−マレイン酸無水物共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸メチル−グリシジルメタクリレート共重合体などが挙げられる。
【0039】
これらのカルボン酸、酸無水物、グリシジルメタクリレート含量は1〜20重量%、酢酸ビニル含量は1〜50重量%のものが好ましい。エチレン−無水マレイン酸共重合体においては酸無水物含量が1〜10重量%のものが好ましい。エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレンーアクリル酸共重合体においては酸含量が3〜20重量%のものが好ましい。エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体においてはグリシジルメタクリレート含量が5〜20重量%のものが好ましい。エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体の具体例としてはボンドファースト2C、E(いずれも住友化学工業(株)製、以下同じ)、エチレン−酢酸ビニル−グリシジルメタクリレート共重合体の具体例としてはボンドファースト2B、7B、エチレン−アクリル酸メチル−グリシジルメタクリレート共重合体の具体例としてはボンドファースト7L、7Mをあげることができる。
【0040】
グラフト変性ポリオレフィンとしては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、ポリオレフィン−ビニル系ポリマーのグラフト共重合体、エチレンプロピレンゴムにグリシジルメタクリレートをグラフト共重合させた共重合体、無水マレイン酸変性のSBS、無水マレイン酸変性のSIS、無水マレイン酸変性のSEBS、無水マレイン酸変性のSEPS、無水マレイン酸変性のエチレン−アクリル酸エチル共重合体、ビニルシラン変性のポリプロピレンを挙げることができる。酸変性ポリプロピレンとしては、アドマーQE840(三井化学(株)製)、ユーメックス1001(三洋化成(株)製)、リコセンPPMA1332(クラリアントジャパン(株)製)などが挙げられ、シラン変性ポリプロピレンとしては、リコセンPPSI3262TP(クラリアントジャパン(株)製)などが挙げられる。また、ポリオレフィン−ビニル系ポリマーのグラフト共重合体としては、モディパーA4100(EGMA−g−PS)、A8100(E/EA/MAH−g−PS)、A4200(EGMA−g−PMMA)、A8200(E/EA/MAH−g−PMMA)、A4400(EGMA−g−AS)、A8400(E/EA/MAH−g−AS)(いずれも日本油脂(株)製)などが挙げられる。これらの(D)成分は、1種又は2種以上を組み合わせて使用可能である。
【0041】
これらのうちで(D)成分としては、接着性及び相溶性の観点から、酸無水物基、カルボン酸基、水酸基、シリル基、及びグリシジル基を有するポリプロピレン系重合体及びポリエチレン系重合体が好ましい。
【0042】
(D)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して、0.1〜50重量部であることが好ましく、0.5〜30重量部であることがさらに好ましい。(D)成分が0.1重量部未満であると、極性樹脂との接着性が十分に発現されず、50重量部を超えると組成物中の(A)成分の割合が減少し、ゴム弾性や柔軟性が損なわれるため好ましくない。
【0043】
(D)成分は、(A)成分と(B)成分の溶融混練時に添加してもよいし、あらかじめ(A)成分または(B)成分に添加しておいてもよい。あらかじめ(A)成分または(B)成分に添加しておく方が、相溶性の改良効果が発現しやすく、好ましい。一方、(D)成分に含まれる官能基が、(A)成分の(C)成分による架橋反応を阻害する場合は、(A)成分、(B)成分と(C)成分からなる組成物を製造しておき、後に(D)成分を添加することが好ましい。
【0044】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、柔軟性と成形流動性を付与する目的で、(E)軟化剤も必要に応じて使用される。軟化剤としては、特に限定されないが、通常、室温で液体又は液状の材料が好適に用いられる。このような軟化剤としては鉱物油系、植物油系、合成系等の各種ゴム用又は樹脂用軟化剤が挙げられる。鉱物油系としては、ナフテン系、パラフィン系等のプロセスオイル等が、植物油系としては、ひまし油、綿実油、あまみ油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、木ろう、パインオイル、オリーブ油等が、合成系としては液状ポリブテン、液状ポリイソブチレン、低分子量ポリブタジエン等が例示できる。これらの中でも(A)成分との相溶性の点から、パラフィン系プロセスオイル、液状ポリブテン、液状ポリイソブチレンが好ましく、更にガスバリアー性の点から液状ポリブテン、液状ポリイソブチレンが好ましい。これら軟化剤は所望の硬度および溶融粘度を得るために二種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0045】
(E)成分の添加量は、(A)成分100重量部に対して、1〜200重量部であるのが好ましく、より好ましくは1〜150重量部、さらに好ましくは1〜100重量部である。200重量部を超えると、熱可塑性エラストマー組成物から軟化剤が外部へ移行されやすくなるだけでなく、ガスバリアー性が低下する傾向があり、好ましくない。
【0046】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、極性樹脂との接着性を更に向上させる目的で、(F)成分として、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂(ABS)、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアセタール(POM)系樹脂、ポリスルホン(PSF)系樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)系樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ樹脂、及びフェノール樹脂等の極性樹脂を必要に応じて添加することができる。その中でも、接着力の点で、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリアミド系樹脂から選択される少なくとも一種の極性樹脂が好ましい。
【0047】
ポリウレタン系樹脂としては、公知のものがいずれも使用できるが、溶融混練性の点で、熱可塑性ポリウレタン系樹脂が好ましい。熱可塑性ポリウレタン系樹脂としては、エステル系、エーテル系、カーボネート系等、各種の熱可塑性ウレタン系樹脂が使用される。熱可塑性ポリウレタン系樹脂は、(イ)有機ジイソシアネート、(ロ)鎖伸張剤、(ハ)高分子ポリオールからなる熱可塑性ポリウレタン系樹脂のことである。
【0048】
有機ジイソシアネート(イ)としては、公知のものがいずれも使用できるが、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネートなどの単独あるいはこれらの混合物が使用できる。
【0049】
鎖伸張剤(ロ)としては、分子量が500より小さいジヒドロキシ化合物が使用できるが、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,2’−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールなどの単独あるいは混合物が挙げられる。
【0050】
高分子ポリオール(ハ)としては、平均分子量が500〜4000のジヒドロキシ化合物が使用できるが、例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。ポリエステルジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、或いはその他の低分子ジオール成分の1種叉は2種以上とグルタル酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の低分子ジカルボン酸の1種叉は2種以上との縮合重合物やラクトンの開環重合で得たポリラクトンジオール、例えばポリプロピオラクトンジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール等が挙げられる。ポリエーテルジオールとしては、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、その他の共重合ポリエーテルグリコール等が挙げられる。ポリカーボネートジオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールにラクトンを開環付加重合して得られるジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールと他のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエーテル・エステルジオールとの共縮合物等が挙げられる。
【0051】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)などの公知のものがいずれも使用できるが、入手性の点でポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、及びポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)が好ましい。更に、柔軟性の点で、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)が好ましい。
【0052】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントとして芳香族ポリエステル、ソフトセグメントとしてポリエーテルや脂肪族ポリエステルを用いたブロック共重合体が使用される。中でも好ましいものは、ソフトセグメントとしてポリエーテルを用いたポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体であり、ソフトセグメントの含有量は、ブロック共重合体中の5〜90重量%であることが望ましく、より好ましくは20〜85重量%、さらに好ましくは、50〜80重量%である。ソフトセグメントの含有量が5重量%未満になると、柔軟性が低くなる傾向があり、90重量%を超えると、縮重合による製造が難しくなる傾向がある。
【0053】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、(i)炭素原子数2〜12の脂肪族及び/又は脂環族ジオールと、(ii)芳香族ジカルボン酸またはそのアルキルエステル、及び(iii)数平均分子量が400〜6,000のポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルとを原料とし、エステル化反応又はエステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合させて得ることができる。
【0054】
炭素原子数2〜12の脂肪族及び/又は脂環族ジオールとしては、ポリエステルの原料として通常用いられるものが使用できる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でも1,4−ブタンジオール、エチレングリコールが好ましく、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。これらのジオールは、1種又は2種以上の混合物を使用することができる。
【0055】
芳香族ジカルボン酸としては、ポリエステルの原料として一般的に用いられているものが使用でき、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。これらの中では、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸が好適である。また、これらの芳香族ジカルボン酸は二種以上を併用してもよい。
【0056】
芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルを用いる場合は、上記の芳香族ジカルボン酸のジメチルエステルやジエチルエステル等が用いられる。好ましいものは、ジメチルテレフタレート及び2,6−ジメチルナフタレートである。また、上記の成分以外に3官能のアルコールやトリカルボン酸又はそのエステルを少量共重合させてもよく、更にアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそのジアルキルエステルも共重合成分として使用できる。
【0057】
ポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルとしては、数平均分子量が400〜6,000のものが通常使用されるが、500〜4,000のものが好ましく、特に600〜3,000のものが好適である。数平均分子量が400未満では、共重合体のブロック性が不足する傾向があり、一方、6,000を超えるものは、系内での相分離が起きやすくポリマーの物性が低下する傾向となる。ここで用いられるポリエーテルとしては、分子量が400〜6,000のポリ(アルキレンエーテル)グリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−及び1,3−プロピレンエーテル)グリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンエーテル)グリコールなど)が好適に使用できる。また、脂肪族ポリエステルとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、或いはその他の低分子ジオール成分の1種または2種以上とグルタル酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の低分子ジカルボン酸の1種または2種以上との縮合重合物やラクトンの開環重合で得たポリラクトンジオール、例えばポリプロピオラクトンジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール等が挙げられる。特に好ましいものはポリテトラメチレンエーテルグリコールである。
【0058】
このようなポリエステル系熱可塑性エラストマーの市販品としては、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」、東洋紡績株式会社製「ペルプレン」、三菱化学株式会社製「プリマロイ」等が挙げられる。
【0059】
ポリアミド系樹脂としては、ポリマーの主鎖中にアミド結合を持つものであり、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)などの公知のものがいずれも使用できる。これらのうちで、柔軟性の点で、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)がより好ましい。
【0060】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーとは、ハードセグメントとして、ナイロン6、66、11、12等、ソフトセグメントとして、ポリエーテルまたは脂肪族ポリエステル等からなるブロック共重合体である。
【0061】
中でも好ましいものは、ソフトセグメントとしてポリエーテルを用いたポリアミド−ポリエーテルブロック共重合体であり、ソフトセグメントの含有量は、ブロック共重合体中の5〜90重量%であることが望ましく、より好ましくは20〜85重量%、さらに好ましくは、50〜80重量%である。ソフトセグメントの含有量が5重量%未満になると、柔軟性が低くなる傾向があり、90重量%を超えると、縮重合による製造が難しくなる傾向がある。
【0062】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、(i)炭素原子数2〜12の脂肪族及び/又は脂環族ジアミンと、(ii)ジカルボン酸またはそのアルキルエステル、及び(iii)数平均分子量が400〜6,000のポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルとを原料とし、アミド化反応又はアミド交換反応により得られたオリゴマーを重縮合させて得ることができる。
【0063】
ハードセグメントであるポリアミドは、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、36個の炭素原子を有する二量化脂肪酸あるいはこれを主成分とする重合脂肪酸の混合物等のジカルボン酸と、エチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4−シクロヘキシルジアミン、m−キシリルジアミン等のジアミンとの重縮合物、あるいは、カプロラクタム、ラウリルラクタム等ラクタムの開環重合物、あるいはアミノノナン酸、アミノウンデカン酸等アミノカルボン酸の重縮合物、あるいは上記環状ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合により得られるものなどが挙げられる。
【0064】
またソフトセグメントとなるポリエーテルとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルグリコール、あるいはこれらの共重合体が挙げられる。
【0065】
ソフトセグメントとなる脂肪族ポリエステルとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)−シクロヘキサン等脂肪族又は脂環式ジオールの一種又は二種以上と上記のジカルボン酸とから得られるもの、ポリε−カプロラクトン等ラクトン化合物の重縮合物等を挙げることができ、末端に水酸基又はカルボキシル基を有するものである。
【0066】
このようなポリアミド系熱可塑性エラストマーの市販品としては、アトフィナ・ジャパン株式会社製「ペバックス」、宇部興産株式会社製「PAE」、ダイセル・デグサ株式会社製「ベスタミド」等が挙げられる。
【0067】
これらの(F)成分は、1種又は2種以上を組み合わせて使用可能であり、そのの添加量は、(A)成分100重量部に対して、0.1〜50重量部であるのが好ましく、より好ましくは0.5〜30重量部である。50重量部を超えると、(F)成分が50重量部を超えると組成物中の(A)成分の割合が減少し、ゴム弾性や柔軟性が損なわれるため好ましくない。
【0068】
本発明では、成形流動性やガスバリア性、機械特性などを改良する目的で、必要に応じ、(G)成分として(A)成分との相溶性に優れた、芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体を添加することができる。
【0069】
芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)は、芳香族ビニル系化合物に由来するユニットが60重量%以上、好ましくは80重量%以上から構成される重合体ブロックである。
【0070】
芳香族ビニル系化合物としては、スチレン、o−、m−又はp−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、β−メチル−o−メチルスチレン、β−メチル−m−メチルスチレン、β−メチル−p−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α−メチル−2,6−ジメチルスチレン、α−メチル−2,4−ジメチルスチレン、β−メチル−2,6−ジメチルスチレン、β−メチル−2,4−ジメチルスチレン、o−、m−又はp−クロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、α−クロロ−o−クロロスチレン、α−クロロ−m−クロロスチレン、α−クロロ−p−クロロスチレン、β−クロロ−o−クロロスチレン、β−クロロ−m−クロロスチレン、β−クロロ−p−クロロスチレン、2,4,6−トリクロロスチレン、α−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、α−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、o−、m−又はp−t−ブチルスチレン、o−、m−又はp−メトキシスチレン、o−、m−又はp−クロロメチルスチレン、o−、m−又はp−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの中でも、工業的な入手性やガラス転移温度の点から、スチレン、α−メチルスチレン、および、これらの混合物が好ましい。
【0071】
イソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)は、イソブチレンに由来するユニットが60重量%以上、好ましくは80重量%以上から構成される重合体ブロックである。
【0072】
(a)、(b)いずれの重合体ブロックも、共重合成分として、相互の単量体を使用することができるほか、その他のカチオン重合可能な単量体成分を使用することができる。このような単量体成分としては、脂肪族オレフィン類、ジエン類、ビニルエーテル類、シラン類、ビニルカルバゾール、β−ピネン、アセナフチレン等の単量体が例示できる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0073】
脂肪族オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、オクテン、ノルボルネン等が挙げられる。
【0074】
ジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。
【0075】
ビニルエーテル系単量体としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、(n−、イソ)プロピルビニルエーテル、(n−、sec−、tert−、イソ)ブチルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテル等が挙げられる。
【0076】
シラン化合物としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0077】
本発明の(G)成分は、(a)ブロックと(b)ブロックから構成されている限り、その構造には特に制限はなく、例えば、直鎖状、分岐状、星状等の構造を有するブロック共重合体、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、マルチブロック共重合体等のいずれも選択可能である。好ましい構造としては、物性バランス及び成形加工性の点から、(a)−(b)−(a)で構成されるトリブロック共重合体が挙げられる。これらは所望の物性・成形加工性を得る為に、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0078】
(a)ブロックと(b)ブロックの割合に関しては、特に制限はないが、柔軟性およびゴム弾性の点から、(G)成分における(a)ブロックの含有量が5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがさらに好ましい。
【0079】
また(G)成分の分子量にも特に制限はないが、流動性、成形加工性、ゴム弾性等の面から、GPC測定による重量平均分子量で30,000〜500,000であることが好ましく、50,000〜300,000であることが特に好ましい。重量平均分子量が30,000よりも低い場合には機械的な物性が十分に発現されない傾向があり、一方500,000を超える場合には流動性、加工性が悪化する傾向がある。
【0080】
これらの(G)成分は、流動性・加工性、機械強度、柔軟性を調整する目的で、ブロック体の構造、分子量、(a)及び(b)成分の含有量のいずれかが異なる二種以上を同時に使用することもできる。
【0081】
(G)成分は、(A)成分100重量部に対して1〜100重量部混合するのが好ましく、1〜50重量部混合するのがより好ましい。100重量部を超えると、復元性(圧縮永久歪み)が悪化する傾向がある。
【0082】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、その性能を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマー、未加硫ゴムなどを添加することもできる。
【0083】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、成形流動性を改良する目的で、必要に応じて、石油系炭化水素樹脂を添加することもできる。石油系炭化水素樹脂は、石油系不飽和炭化水素を直接原料とする分子量300〜10000程度の樹脂であり、例えば、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂及びその水素化物、芳香族系石油樹脂及びその水素化物、脂肪族芳香族共重合系石油樹脂及びその水素化物、ジシクロペンタジエン系石油樹脂及びその水素化物、スチレンまたは置換スチレンの低分子量重合体、クマロン・インデン樹脂などがあげられる。これらの中でも、(A)成分との相溶性の観点から、脂環族飽和炭化水素樹脂が好ましい。
【0084】
さらに本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、物性改良あるいは経済上のメリットから充填材を配合することができる。好適な充填材としては、クレー、珪藻土、シリカ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属酸化物、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、各種の金属粉、木片、ガラス粉、セラミックス粉、カーボンブラック、粒状ないし粉末ポリマー等の粒状ないし粉末状固体充填材、その他の各種の天然又は人工の短繊維、長繊維等が例示できる。また中空フィラー、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーン等の無機中空フィラー、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体からなる有機中空フィラーを配合することにより、軽量化を図ることができる。更に軽量化、衝撃吸収性等の各種物性の改善のために、各種発泡剤を混入させることも可能であり、また、混合時等に機械的に気体を混ぜ込むことも可能である。
【0085】
充填材の配合量は、(A)成分100重量部に対して1〜200重量部とするのが好ましく、1〜150重量部とするのがより好ましく、1〜100重量部とするのが更に好ましい。200重量部を超えると、得られる組成物の柔軟性が損なわれる傾向があり、好ましくない。
【0086】
さらに本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、成形加工性を付与する目的で滑剤を添加することができる。滑剤としては、脂肪酸アミド系滑剤、脂肪酸金属塩系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、脂肪酸系滑剤、脂肪族アルコール系滑剤、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル、パラフィン系滑剤などが好ましく用いられ、これらの中から2種以上を選択して用いてもよい。
【0087】
脂肪酸アミド系滑剤としては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。
【0088】
脂肪酸金属塩系滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウムなどが挙げられる。
【0089】
脂肪酸エステル系滑剤としては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、特殊牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリン酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、牛脂硬化油、ヒマシ硬化油などが挙げられる。
【0090】
脂肪酸系滑剤としては、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。
【0091】
脂肪族アルコールとしては、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコールなどが挙げられる。
【0092】
脂肪酸と多価アルコールの部分エステルとしては、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド、オレイン系モノグリセライドなどが挙げられる。
【0093】
パラフィン系滑剤としては、パラフィンワックス、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどが挙げられる。
【0094】
この他、モンタン酸およびその誘導体である、モンタン酸エステル、モンタン酸金属塩、モンタン酸部分ケン化エステルなどや、シリコーンオイルなども用いられる。
【0095】
これらは、単独で用いても、複数を併用してもよい。これらの中でも、成形加工性の改良効果と分散性の点から、脂肪酸アミドが好ましく、中でもエルカ酸アミドが最も好ましい。また、シリコーンオイルを併用することで、さらに成形加工性を改良することもできる。
【0096】
滑剤の添加量は、(A)成分100重量部に対して0.1〜20重量部であるのが好ましく、より好ましくは0.1〜10重量部であり、さらに好ましくは0.5〜10重量部である。20重量部を超えると十分に混合されず、滑剤がブリードアウトする傾向があり、さらに、得られる組成物の極性樹脂への接着性が低下する傾向もあり、好ましくない。
【0097】
また本発明の熱可塑性エラストマー用組成物には、必要に応じて、酸化防止剤および紫外線吸収剤を混合することができ、混合量は、(A)成分100重量部に対して0.01〜10重量部とするのが好ましく、0.01〜5重量部とするのがより好ましい。さらに他の添加剤として難燃剤、抗菌剤、光安定剤、着色剤、流動性改良剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤等を添加することができ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0098】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得るには、(A)成分を(B)成分の存在下で溶融混練中に、(C)成分を添加して動的に架橋する方法が用いられる。溶融混練の温度は、100〜240℃が好ましい。100℃よりも低い温度では、(B)成分の溶融が不十分となり、混練が不均一となる傾向がある。240℃よりも高い温度では、(A)成分の熱分解が起こる傾向がある。この動的架橋の工程においては、(A)成分と(B)成分が必須であるが、適宜、(D)成分、(E)成分、(F)成分、(G)成分などの他の成分を添加してから架橋を行っても良い。ただし、(D)成分、(F)成分の中には架橋反応を阻害するものもあるため、(D)成分、(F)成分は架橋後に添加する方が好ましい。また、架橋触媒を(E)成分に混合してから添加すると、均一に拡散混合し、架橋反応の均一性が向上する傾向があることから、このような方法が好ましく用いられる。(E)成分は、(A)成分および(B)成分の混合を促進し、架橋反応の均一な進行を促すため、配合量の全量または一部を架橋前に添加しておくことが好ましい。溶融混練するための方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適用することができる。例えば、(A)成分および(B)成分、さらに、所定の物性を得るために配合される他の成分を、加熱混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサー等を用いて溶融混練することで製造することができる。また、その添加の順序としては、(B)成分が溶融した後に(A)成分を添加し、さらに必要であれば他の成分を追加し、均一に混合した後、架橋剤および架橋触媒を添加し、架橋反応を進行させる方法が好ましい。また、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含む組成物をペレット化しておき、このペレットと(D)成分、(E)成分、(F)成分、(G)成分などとの溶融混合は、加熱混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサー等を用いて行うことができる。
【0099】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、ガスバリアー性、及び制振性に優れることから、自動車内装部品や工具のグリップ部、筆記具のグリップ部、玩具類の表皮部など、ソフトタッチ感が要求される用途や、インクジェットプリンター用ホース及びそのシール材、インクタンクのシール材、燃料タンクのシール材、自動車や建築物の窓枠のシール材・ガスケット材、自動車・機械設備や建築物に使用されるガスケット、ホース・チューブ及びそれらのシール材、携帯電話や携帯型情報機器のシール材、容器や瓶などのキャップ材、合成コルクなど、シール性が要求される用途、防音カバー、音・振動に対する遮蔽板や電動工具のグリップ部など、防振性が要求される用途など好適に使用できる。
【0100】
更に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂などの極性樹脂との接着性が良好であるため、極性樹脂からなる層との多層構造体(積層体)として好適に使用することができる。
【0101】
上記極性樹脂としては、例えば、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアリレート系樹脂などが挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて使用可能である。これらのうちで、本発明の熱可塑性エラストマー組成物との接着性の点で、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリエステル系樹脂が好ましい。更に、極性樹脂からなる層には、上記極性樹脂以外に必要に応じて、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマー、未加硫ゴム、可塑剤、充填材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、抗菌剤、光安定剤、着色剤、流動性改良剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤等を添加することができる。
【0102】
更に、このような多層構造体(積層体)を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、共押出成型法、Tダイラミネート成型法、ブロー成型法、インサート射出成型法、二色射出成型法、コアバック成型法、サンドイッチ射出成型法、ガスインジェクション成型法、インジェクションプレス成型法、カレンダー成型法、パウダースラッシュ成型法、及び加熱プレス成型法などの各種成型法を採用することができる。これら成型法のうちで、共押出成型法、インサート射出成型法、二色射出成型法が好ましい。
【0103】
このように製造された本発明の積層体の具体的な例としては、基材がABS樹脂からなる工具のグリップに本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなるグリップが加熱接着(融着)されたもの、基材がABS樹脂であり表皮が本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる自動車内装部材、有機ガラスと呼ばれるアクリル系樹脂やポリカーボネート系樹脂からなる板の周縁部に本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなるガスケットが加熱接着(融着)されたもの、ポリアミド系樹脂からなる自動車用部材(筐体)に本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなるシール材やガスケットが加熱接着(融着)されたもの、ポリアミド系樹脂からなる工業用ホースに本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなるガスケットが加熱接着(融着)されたもの、ポリ塩化ビル系樹脂の窓枠に本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなるガスケットが加熱接着(融着)されたもの、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂からなら飲料ボトル用キャップに本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなるシール材(パッキン)が加熱接着(融着)されたもの、ポリカーボネート系やポリエステル系樹脂からなる試験管に本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなるキャップが加熱接着(融着)されたものなどが挙げられる。
【実施例】
【0104】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【0105】
本実施例に示す熱可塑性エラストマー組成物の物性は以下に示す方法で測定した。
【0106】
(硬度)
JIS K 6352に準拠し、試験片はプレスシートを用いた。
【0107】
(圧縮永久歪)
JIS K−6262に準拠し、試験片は12.0mm厚さプレスシートを使用した。100℃×22時間、25%変形の条件にて測定した。
【0108】
(接着強度)
予め金型内に極性樹脂(ポリアミド)の成形体をセットした後、射出成形機にて多層成形体を作成した。この成型体から、
JIS Z 0237を参考に、テストサンプル(基材:25mm、接着面:25mm×40mm)を切り出し、オートグラフ(株式会社島津製作所)を使用して接着強度を測定した。テストスピードは、200mm/min、剥離面(角度)は、180゜の条件で測定した。
【0109】
(ガスバリアー性)
JIS K−7126に準拠し、酸素の透過係数を測定した。試験片としては0.5mm厚のプレスシートを用い、差圧法(A法)を用いた。
【0110】
(分子量)
Waters社製GPCシステム(カラム:昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)、移動相:クロロホルム)を使用し、数平均分子量はポリスチレン換算したものを用いた。

下記の原料を使用して、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。
(A)成分:末端にアルケニル基を有するイソブチレン系重合体
APIB:下記製造例1で製造したもの
(B)成分:オレフィン系重合体
PP:ポリプロピレン(ランダムタイプ)/三井化学株式会社製三井ポリプロJ215W(MFR:9g/10min)
(C)成分:ヒドロシリル基含有化合物(架橋剤)
H−OIL:ヒドロシリル基含有ポリシロキサン/下記の化学式で表されるポリシロキサン
(CHSiO−[Si(H)(CH)O]48−Si(CH
〔架橋触媒として、下記Pt触媒を使用した。
【0111】
Pt触媒:0価白金の1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジアルケニルジシロキサン錯体、3重量%キシレン溶液〕
(D)成分:極性官能基を有するオレフィン系重合体
fPP−1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂/三井化学株式会社製(商品名アドマーQE840、MFR:9.2g/10min)
fPP−2:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂/東洋化成工業株式会社製(商品名トーヨータックPMA−H、MFR:800g/10min)
fPP−3:無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレン樹脂/クラリアントジャパン株式会社製(商品名リコセンPPMA6252、溶融粘度:100mPa・s)
fPE−1:エチレン−グリシジルメタクリレートの共重合体/住友化学株式会社製(商品名ボンドファーフトE 、GMAの割合12質量%、エポキシ基の割合3.6質量%に相当)
(E)成分:軟化剤
PB:液状ポリイソブチレン/出光興産株式会社製出光ポリブテン100R
(F)成分:極性樹脂
TPU:熱可塑性ポリウレタン/エステルタイプ、ディックバイエルポリマー社製(商品名パンデックス T−1375)、硬度75(JIS A)
PA:ポリアミド(ナイロン6)/東レ株式会社製(商品名アミランCM1021)
TPEE:ポリエステル系熱可塑性エラストマー/東レ・デュポン株式会社製(商品名ハイトレル3046)
(G)成分:イソブチレン系ブロック共重合体
下記製造例2で製造したもの

下記の原料を使用して、接着強度測定用の基材となる成型体を製造した。
【0112】
ポリアミド(ナイロン6):東レ株式会社製(商品名アミランCM1021)

(製造例1)末端にアルケニル基を有するイソブチレン系共重合体(APIB)
2Lセパラブルフラスコに三方コック、および熱電対、攪拌シールをつけ、窒素置換を行った。窒素置換後、三方コックを用いて窒素をフローした。これにシリンジを用いてトルエン785ml、エチルシクロヘキサン265mlを加え、−70℃程度まで冷却した。冷却後、イソブチレンモノマー277ml(2933mmol)を加えた。再度−70℃程度まで冷却後、p−ジクミルクロライド0.85g(3.7mmol)およびピコリン0.68g(7.4mmol)をトルエン10mlに溶解して加えた。反応系の内温が−74℃となり安定した時点で四塩化チタン19.3ml(175.6mmol)を加え重合を開始した。重合反応が終了した時点(90分)で、75%−アリルトリメチルシラン/トルエン溶液1.68g(11.0mmol)を添加し、さらに2時間反応させた。その後、50℃程度に加熱した純水で失活し、さらに有機層を純水(70℃〜80℃)で3回洗浄し、有機溶剤を減圧下80℃にて除去しAPIBを得た。GPC測定により得られた重量平均分子量は50000、H−NMRにより求めた含有アリル基量は2.0個/molであった。
【0113】
(製造例2)イソブチレン系ブロック共重合体、スチレン含量30%のトリブロック構造(SIBS)
500mLのセパラブルフラスコの重合容器内を窒素置換した後、注射器を用いて、n−ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)97.6mL及び塩化ブチル(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)140.5mLを加え、重合容器を−70℃のドライアイス/メタノールバス中につけて冷却した後、イソブチレンモノマー47.7mL(505.3mmol)が入っている三方コック付耐圧ガラス製液化採取管にテフロン(登録商標)製の送液チューブを接続し、重合容器内にイソブチレンモノマーを窒素圧により送液した。p−ジクミルクロライド0.097g(0.42mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド0.073g(0.84mmol)を加えた。次にさらに四塩化チタン1.66mL(15.12mmol)を加えて重合を開始した。重合開始から75分撹拌を行った後、重合溶液からサンプリング用として重合溶液約1mLを抜き取った。続いて、スチレンモノマー13.71g(131.67mmol)を重合容器内に添加した。該混合溶液を添加してから75分後に、大量の水に加えて反応を終了させた。
【0114】
反応溶液を2回水洗し、溶媒を蒸発させ、得られた重合体を60℃で24時間真空乾燥することにより目的のブロック共重合体を得た。得られたイソブチレン系ブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、重量平均分子量は135000であり、H−NMRにより求めたポリスチレンの含有量は30重量%であった。
【0115】
(製造例3)(A)成分、(B)成分、(C)成分、および(E)成分からなる動的架橋組成物〔(B)成分がPPで、(A)/(B)/(E)=100/11/40重量部の例(以下TPVと略す)〕
製造例1で得られたAPIB〔(A)成分〕を26.3g、PP〔(B)成分〕を2.9g計量し、170℃に設定したラボプラストミル((株)東洋精機製作所)を用いて2分間溶融混練し、これにポリブテン100R〔(E)成分〕を10.5g追加して、さらに2分間混練した。次いでヒドロシリル基含有化合物であるH−オイル〔(C)成分〕を0.32g〔(A)成分中のアルケニル基に対する(C)成分中のヒドロシリル基の量(ヒドロシリル基/アルケニル基)は4当量〕添加し、1分間混練した後、Pt触媒を14.8μl添加して、架橋が進行してトルクの値が最高値を示すまでさらに溶融混練した。トルクの値が最高値を示してから3分間混練後、動的架橋組成物を取り出した。
【0116】
(実施例1〜6、比較例1及び2)
製造例3で製造した動的架橋組成物を用い、各成分の最終的な組成が表1のようになるように配合し、180〜240℃に設定したラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いて、10分間溶融混練した。仕込み重量は合計で45gとなるように調整した。得られた混練物を180〜240℃で5分間プレス成形し、硬度、圧縮永久歪を評価した。評価結果を表1に示す。
【0117】
ただし、比較例2の組成物から得られたシートは、PA成分が溶融分散しておらず、プレスシートには部分的にPAの凝集体が形成されていた。そのため、比較例2に対する各評価は実施できなかった。
【0118】
また、実施例1及び6の組成物のガスバリアー性を測定した。酸素透過係数は、それぞれ、5×10−16mol・m/m・sec・Pa、9×10−16mol・m/m・sec・Paであり、良好なガスバリアー性を示した。
【0119】
一方、射出成形機(成形温度:200〜240℃)にて多層成形体を得るため、予め金型内(金型温度:40〜50℃)にポリアミドの成形体(厚み:3mm)をセットした後、各実施例及び比較例の組成物との多層成形体(厚み:4mm)を作成した。評価結果を表1に示す。ただし、比較例1の組成物との多層成型体は、金型から離けいする時点で、基材(ポリアミド)と組成物層との界面で剥離した。すなわち、比較例1の組成物は、ポリアミドとの接着強度が極度に小さいことを意味している。一方、実施例の組成物を用いた場合は、金型からの離けい時に剥がれず、それぞれ多層成型体が得られ、接着強度を評価した。評価結果を表1に示す。
【0120】
【表1】

表1からわかるように、(D)成分を含まず極性成分を有さない比較例1は容易に極性樹脂基材と剥離したが、各実施例の組成物は高い接着強度を有していた。また比較例1に極性樹脂であるポリアミド樹脂を添加した比較例2は、ポリアミド樹脂が相溶しなかったのに対し、比較例3〜5の組成物では極性樹脂が均一に分散し、接着強度が高いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)末端にアルケニル基を有するイソブチレン系重合体100重量部を、(B)オレフィン系重合体10〜100重量部の存在下で、(C)ヒドロシリル基含有化合物により溶融混練中に架橋してなる組成物と、(B)成分とは異なる(D)極性官能基を有するオレフィン系重合体0.1〜50重量部とを含有してなる熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物に、さらに(E)軟化剤1〜200重量部を含有してなる熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物に、さらに(F)ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリアミド系樹脂から選択される少なくとも一種の極性樹脂0.1〜50重量部を含有してなる熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の組成物に、さらに(G)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体1〜100重量部を含有してなる熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
(B)オレフィン系重合体が、ポリエチレン系重合体及びポリプロピレン系重合体から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
(D)成分が、酸無水物基、カルボン酸基、水酸基、シリル基、及びグリシジル基から選択される少なくとも一種の極性官能基を有するオレフィン系重合体であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
(E)成分の軟化剤が、液状ポリブテン及び液状ポリイソブチレンから選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の組成物からなるシール材。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の組成物からなるガスケット材。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかに記載の組成物からなるキャップ材。
【請求項11】
請求項1から7のいずれかに記載の組成物を含有する層と、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリアミド系樹脂から選択される少なくとも一種の極性樹脂からなる層を積層してなる成型品。

【公開番号】特開2009−7446(P2009−7446A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169009(P2007−169009)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】