説明

熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた導光材料

【課題】 導光材料として用いられる樹脂として、上記の従来技術の有する欠点、具体的には、硬くなくかつ脆さもなく、引裂き強さにも優れ、また、紫外線や熱により黄色に着色(黄変)することによる意匠性の悪化といった、これら一連の欠点を解決する導光材料を提供することを目的とする。
【解決手段】 熱可塑性ポリウレタンエラストマーを得るためのイソシアネートとして脂肪族系イソシアネートまたは脂環族系イソシアネートを選択して用い、かつ、粉末状の有機物あるいは無機物からなる成分として、有機物はアクリル、ポリスチレンあるいはこれらの混合物あるいは共重合体、無機物としては炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、タルク、あるいはこれらの混合物を含有することにより、解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性と良好な成型加工性を有した導光材料に関する。詳細には、脂肪族系イソシアネートまたは脂環族系イソシアネートを使用した熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた、意匠性および光透過性に優れた導光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
導光材料としては、主に、透明性に優れたアクリル樹脂が使用される。しかし、アクリル樹脂は硬く、かつ、脆いといった欠点を有している。
【0003】
このような欠点を解決するため、柔軟性を有する導光材料として、シリコーンゴムが使用される。しかし、シリコーンゴムは引裂き強さが弱く、また、熱硬化性であるため成型サイクルが長いといった欠点を有している。
【0004】
これら一連の欠点を解決するため、導光材料として、ジフェニルメタンジイソシアネートを用いた熱可塑性ポリウレタンエラストマー(以下、必要に応じて「TPU」と略記。)が使用されることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族系イソシアネートを用いた従来の熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、紫外線や熱により黄色に着色(黄変)し、意匠性が悪化するといった欠点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−506849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、導光材料として用いられる樹脂として、上記の従来技術の有する欠点、即ち、アクリル樹脂は硬く、かつ、脆いといった欠点、シリコーンゴムは引裂き強さが弱く、また、熱硬化性であるため成型サイクルが長いといった欠点、従来の熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、紫外線や熱により黄色に着色(いわゆる「黄変」)し、意匠性が悪化するといった欠点を課題としてなされたものであり、これら一連の欠点を解決する導光材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを得るためのイソシアネートとして脂肪族系イソシアネートまたは脂環族系イソシアネートを選択して用い、かつ、粉末状の有機物あるいは無機物からなる成分として、有機物はアクリル、ポリスチレンあるいはこれらの混合物あるいは共重合体、無機物としては炭酸カルシウムやタルクあるいはその混合物を含有することで、無黄変かつ必要な光透過性および光拡散性を有する導光材料を得ることが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、次のとおりである。高分子ポリオール(A)、鎖延長剤(B)、脂肪族系イソシアネートまたは脂環族系イソシアネート(C)からなる熱可塑性ポリウレタンエラストマーに、粉末状アクリル樹脂、粉末状ポリスチレン樹脂、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、及びタルクから選択される1種以上の粉末材料(D)を添加して得られることを特徴とする、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた導光材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以下の一連の効果を奏する。
1. 導光材料を熱可塑性ポリウレタンエラストマーで構成することで,ゴム弾性を有することにより屈曲,凹凸面への密着を容易に行うことが出来る。
2. また,熱可塑性ポリウレタンエラストマーで構成することで,柔軟性を有しながら機械特性に優れる。
3. また,熱可塑性ポリウレタンエラストマーの原料に脂肪族イソシアネートあるいは脂環族イソシアネートを使用することで,無黄変であり意匠性に優れる。
4. また,熱可塑性ポリウレタンエラストマーを使用することから成型加工性に優れ,射出成型や押出し加工によりブロック形状あるいはシートやフィルム形状への成型が容易に行うことが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0011】
<高分子ポリオール(A)>
高分子ポリオール(A)としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリヘキサメチレングリコールなどのポリエーテルポリオール類、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペートなどのポリエステルポリオール類、ポリε−カプロラクトン、ポリδ−バレロラクトンなどのポリラクトン類、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートポリオール類など公知のものが全て使用できる。なお、本発明にかかる高分子ポリオール(A)の数平均分子量は特に限定されないが、500〜5000であることが好ましく、1000〜3000であることがより好ましい。
【0012】
<鎖延長剤(B)>
鎖延長剤(B)としては、炭素数2〜10のジオールが好ましく、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−HD、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ノルマルプロピル−1,3−プロパンジオール、2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2−ノルマルブチル−1,3−プロパンジオール、2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、2−ターシャリーブチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ノルマルプロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ノルマルブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−3−エチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−3−エチル−1,4−ブタンジオール、2,3−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0013】
また、本発明にかかる鎖延長剤(B)に用いることができる前記炭素数2〜10のジオール以外の鎖延長剤としては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、エチレントリアミン等の(数平均)分子量500未満の低分子ポリアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノプロパノールアミン等の(数平均)分子量500未満の低分子アミノアルコールが挙げられる。
【0014】
<脂肪族系イソシアネートまたは脂環族系イソシアネート(C)>
脂肪族系イソシアネートまたは脂環族系イソシアネート(C)としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、等の脂肪族もしくは脂環族のジイソシアネートが挙げられる。これらのジイソシアネートは、単独で用いても、また2種以上を混合して用いてもよい。また、例えば、これら一連のイソシアネートを用いたウレタン変性体、アロファネート変性体、ウレトジオン変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体、ウレトンイミン変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体等の変性ポリイソシアネートも好適に用いることができる。
なお、これらのうち、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(いわゆる、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート)は、以下の実施例に記載のとおり、成型性の面で、本発明において所望される導光材料として適さない性能を示すため、本発明においては用いないことが好ましい。
【0015】
<粉末状アクリル樹脂、粉末状ポリスチレン樹脂、炭酸カルシウム、及びタルクから選択される1種以上の粉末材料(D)>
粉末材料(D)としては、有機物はアクリル、ポリスチレンあるいはこれらの混合物あるいは共重合体(具体的には、ポリメタクリル酸エステル、メタクリル酸アルキルとスチレンの共重合体、架橋ポリスチレン)等を用いることができる。また、無機物としては、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、タルク、あるいはそれらの混合物等を用いることができる。
【0016】
<任意成分>
本発明においては、必要に応じて、従来公知の他の物質、例えば触媒、製泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐熱性向上剤、消泡剤、レベリング剤、着色剤、無機及び有機充填剤(前記の粉末状アクリル樹脂、粉末状ポリスチレン樹脂、炭酸カルシウム、及びタルクから選択される1種以上の粉末材料(D)を除く)、滑剤、帯電防止剤、補強材を更に含有していてもよい。
【実施例】
【0017】
本発明について、実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。実施例および比較例において、「部」は全て「質量部」を意味し、「%」は全て「質量%」を意味する。
【0018】
表1(実施例1〜19)並びに表2(比較例1〜11)に示すベース樹脂並びに粉末材料(=フィラー)を用いて、各々の導光材料を得た。これらについて、以下の項目について、評価を行った。
なお、表1並びに表2における「濃度(wt%)」は、各々、ベース樹脂に対する添加量を表している。
<導光性能評価>
装置:HAZE METER NDH2000(日本電色工業(株)製)、
全光線透過率が高い値であり、かつ、ヘイズも高い値であることが、導光材料として好評価である(目安:80以上)。
<成型性評価>
HDI系TPU、MDI系TPU、水添MDI系TPU、並びにPMMAをベースとした樹脂については、以下の成型機を用いた射出成型を基に評価を行った。
東洋機械金属社製射出成型機(型番:PLASTAR TM−130G2)、
120mm×120mm×2mmシート2枚取り金型使用。
なお、表1並びに表2に記載のTPU並びにPMMAの概要は、以下のとおり。
・HDI系TPU;
イソシアネート(C)成分としてヘキサメチレンジイソシアネートを用いたTPU。
・MDI系TPU;
イソシアネート成分としてジフェニルメタンジイソシアネートを用いたTPU。
・水添MDI系TPU;
イソシアネート成分として4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いたTPU。
・PMMA;
アクリル樹脂を用いた熱可塑性樹脂。
また、シリコーンゴムをベースとした樹脂については、注型成型を基に評価を行った。
・シリコーンゴム;
2液硬化型シリコーンゴム。2液を攪拌混合。金型に注ぎ込み脱法しながら100℃で加熱硬化(2〜3時間)させた。
<引裂き強さ>
JISK 7311「ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの試験方法」準拠。
<意匠性>
黄変の有無について評価を行った。MDI系TPUは紫外線や熱により黄変する。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
表1並びに表2に記載のフィラーの詳細については、表3に記載のとおり。
【0022】
【表3】

【0023】
<参考>
HDI系TPUとMDI系TPUの各々について、紫外線蛍光ランプ(JISK 7350−3、ISO4892−3準拠)による評価を行った。
QUVウェザリングテスターを使用。
光源; UV−Bランプ(照度0.59W/m at 313nm)
条件; サイクル: 70℃×8時間+50℃×4時間(結露)
QUVによるdYI(イエローインデックス)推移を表4に記載する。
【0024】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ポリオール(A)、鎖延長剤(B)、脂肪族系イソシアネートまたは脂環族系イソシアネート(C)からなる熱可塑性ポリウレタンエラストマーに、粉末状アクリル樹脂、粉末状ポリスチレン樹脂、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、及びタルクから選択される1種以上の粉末材料(D)を添加して得られることを特徴とする、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた導光材料。


【公開番号】特開2011−137062(P2011−137062A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296779(P2009−296779)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】