説明

熱可塑性ポリエステル樹脂中空成形容器及びその製造法

【課題】紫外線遮断性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂中空成形容器及びその製造法を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部当り、ナフタレンジカルボン酸、そのエステル、またはそのイミドの少なくとも一種を、0.001重量部以上、10重量部以下添加した樹脂組成物からなることを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂中空成形容器。及び、前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形してプリフオームとなした後、該プリフオームを吹込成形することを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂中空成形容器の製造法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂中空成形容器及びその製造法に関する。更に詳しくは、紫外線遮断性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂中空成形容器及びその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリエチレンテレフタレートで代表される熱可塑性ポリエステル樹脂は、優れた機械的性質および化学的特性のため、広く繊維、フイルム等に使用されてきたが、近年その優れた透明性、気体遮断性、安全衛生性等から、炭酸飲料、果汁飲料、液体調味料、食用油、酒やワイン用の容器としての好適性が注目を浴びている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらのポリエステル樹脂容器は、300nm程度までの短波長側の紫外線遮断性には優れているが、それ以上の長波長側の紫外線、可視光線等は、ほとんど透過させてしまう。このようなポリエステル樹脂容器に、例えば、食用油や、みりん、ドレツシング等の液体調味料を充填し、数ケ月の保存期間を経た場合、それぞれの充填食品により、また、保存条件によって、特殊性があるが、徐々に内容物の劣化、例えば、色、味、香りに微妙な変化を起こすことが多い。該内容物の劣化は、酸素、熱、光とりわけ紫外線、微生物等の外因によって起こるが、ポリエステル樹脂容器の場合、酸素遮断性に比較的優れているので、紫外線遮断性を更に改善できれば、長期保存下でも内容物の劣化を大幅に防止することが可能となる。
【0004】現在当該業界ではその目的のために一般的には紫外線吸収剤等が添加使用されている。しかしながらこれらの紫外線吸収剤は、一般に高価であり、しかも、その付与工程が煩雑で、かつ、これらの化合物は、一般に昇華性が大きく、また、熱安定性に劣るものも多いため、その付与工程や成形加工時にしばしば問題の生じることがある。また食品容器に使用した場合には、添加した紫外線吸収剤が内容物へ移行するおそれもあり、必ずしも好ましくはない。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる目的に合致したポリエステル樹脂容器について鋭意検討した結果、現在当該業界で一般的に使用されている紫外線吸収剤を添加しなくても優れた紫外線遮断効果を示すポリエステル樹脂容器を見出し、本発明に到達した。即ち、本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部当り、下記化学構造式
【0006】
【化3】


【0007】(式中、R1 、R2 は同一でも異なっていてもよく、水素原子または置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基もしくはアルキルアラルキル基を示す。)及び、下記化学構造式
【0008】
【化4】


【0009】(式中、XはNR3 であり、R3 はカルボキシル基またはヒドロキシル基で置換されたアルキル基もしくはアリール基を示す。また、−C(=O)−X−C(=O)−のイミド基は、ナフタレン環の1,2位、1,8位、2,3位のいずれかで環を形成する。)で示されるナフタレンジカルボン酸及びその誘導体の少なくとも一種を、0.001重量部以上、10重量部以下添加した樹脂組成物からなることを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂中空成形容器であり、又、前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形してプリフオームとなした後、該プリフオームを吹込成形することを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂中空成形容器の製造法である。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明においては、原料としてナフタレンジカルボン酸、そのエステル、またはイミドを使用する。ナフタレンジカルボン酸及びそのエステルとしては、下記化学構造式
【0011】
【化5】


【0012】(式中、R1 、R2 は同一でも異なっていてもよく、水素原子または置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基もしくはアルキルアラルキル基を示す。)で示される例えば2,6−、2,7−、2,3−、1,8−、1,7−、1,6−、1,5−、1,4−、1,3−、1,2−ナフタレンジカルボン酸等の構造異性体が挙げられ、ナフタレンジカルボン酸エステルの好ましい例としては、メチル、エチル、プロピル及びブチルエステルが挙げられる。また、イミド化合物としては、下記化学構造式
【0013】
【化6】


【0014】(式中、XはNR3 であり、R3 はカルボキシル基またはヒドロキシル基で置換されたアルキル基もしくはアリール基を示す。また、−C(=O)−X−C(=O)−のイミド基は、ナフタレン環の1,2位、1,8位、2,3位のいずれかで環を形成する。)で示されるナフタレンジカルボン酸のイミドであれば使用可能であり、具体的には、1,8−ナフタレンジカルボン酸−N−(α−カルボキシメチル)イミド、同様の−(β−カルボキシエチル)イミド、−(o−(m−またはp−)カルボキシフエニル)イミド、−(α−ヒドロキシメチル)イミド等が挙げられる。これらのナフタレンジカルボン酸のイミドは、例えば、ナフタレンジカルボン酸又はその誘導体と、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、ε−アミノカプロン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類、エタノールアミン等のアミノアルコール類、o−、m−またはp−アミノ安息香酸等の芳香族アミノカルボン酸類との反応で製造することができる。
【0015】かかるナフタレンジカルボン酸、そのエステル、またはイミドの添加量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部あたり、0.001重量部以上で、10重量部以下、好ましくは5重量部以下、更に好ましくは2重量部以下である。添加量が0.001重量部より少ないときは充分な紫外線遮断効果が得られず、また10重量部より多く添加するとホモポリエステル樹脂本来の特性を失ってしまうために好ましくない。
【0016】またこれらのナフタレンジカルボン酸骨格を持つ化合物は、ポリエステル樹脂製造時のいかなる段階で添加してもよく、また成形加工前のいかなる段階で添加したものでも同様に紫外線遮断効果を発現する。即ち、ポリエステル樹脂の成形が終了するまでの任意の段階、例えば重縮合反応開始前、重縮合反応中、重縮合反応終了後、粉粒状態、成形段階等において添加すればよい。
【0017】本発明における熱可塑性ポリエステル樹脂とは、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフエニルエーテルジカルボン酸、ジフエニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びそのエステル形成体、ヘキサヒドロテレフタル酸等の上記芳香族ジカルボン酸の核水添化合物である脂環族ジカルボン酸及びそのエステル形成体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成体、フマール酸、4−カルボキシ桂皮酸等の不飽和ジカルボン酸及びそのエステル形成体のうちの1種以上のジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主体としたグリコールから得られるポリエステル樹脂であり、特にポリエチレンテレフタレートを主たる対象とするが、これらのポリエステル樹脂は第3成分として、20モル%以下の上記ジカルボン酸類を含有しても良い。また、このポリエステル樹脂は、グリコール成分として、エチレングリコール以外にジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、2,2−ビス−(4’−β−ヒドロキシエトキシフエニル)プロパン、ビス−(4’−β−ヒドロキシエトキシフエニル)スルホン等のビスフエノール誘導体、更には、一般式−〔−(−CH2 −)n−O−〕m −(式中nは、1≦n≦6の整数、mは、m≧4の整数)で示されるポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を全グリコール成分の20モル%以下共重合したものであってもよく、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸成分を共重合せしめたポリエステル樹脂であってもよい。またポリエステル樹脂が実質的に線状を維持する限り、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリツト酸、トリメシン酸、ピロメリツト酸等の3官能以上の多官能化合物や、o−ベンゾイル安息香酸等の単官能化合物を共重合させてもよい。また、上述のポリエステル樹脂の他、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエステルエラストマー、ポリカーボネート等の他の熱可塑性樹脂をブレンドしたものであってもよい。
【0018】本発明で用いられるポリエステル樹脂は極限粘度が0.5以上のものが好ましく、更に好ましくは0.6以上のものが使用される。ポリエステル樹脂の粘度は、中空成形容器を製造するにおいて、特に成形法との関係で重要である。特に押出吹込成形により実質的に無配向の中空成形容器を得る場合は、ドローダウン防止のため、中空成形容器の容量に依存するが、溶融ポリエステル樹脂の流動性をある水準以上に保持する必要があり、一般には0.7以上、好ましくは0.8以上の極限粘度を有するポリエステル樹脂が使用される。また延伸中空成形では、押出吹込成形法の場合に比べて比較的低粘度のポリマーも使用することが可能であり、一般には極限粘度が0.5以上、好ましくは0.6以上のものが使用されるが、成形品の要求物性次第では、更に高粘度のポリエステル樹脂も使用される。
【0019】また、本発明では、ポリエステル樹脂組成物に従来から公知の添加剤、例えば、安定剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、及び染顔料等の着色剤をポリエステル樹脂製造時のいずれかの段階で添加してもよく、成形加工前にいわゆるマスターバツチ処方で添加してもよい。
【0020】本発明で好ましい染顔料としては、酸化チタン、カーボンブラツク、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、群青、コバルトブルー、チタンイエロー、赤色酸化鉄、焼アンバー、黄色酸化鉄、及び多環系を中心とした耐熱性油溶性染料、具体的には、ペリノン系、キノフタロン系、アンスラピリドン系、アンスラキノン系等の骨格を有する油溶性染料等が挙げられるが、ポリエステル樹脂の官能基と反応してポリエステル鎖に結合する構造をもつたものが特に好ましい。さらに、染顔料は、ポリエステル樹脂との相溶性がよく、ポリエステル樹脂の製造及び加工温度においても十分な耐熱安定性並びに色調安定性を示すことが必要であり、特に、ポリエステル樹脂容器を食品等の包装容器として使用する場合には、安全衛生上何ら問題のないものを選択して添加する。
【0021】本発明では、ポリエステル樹脂組成物は、そのままで成形してもよく、また必要に応じては、更に、高真空下または不活性気体流通下で固相重合を行い、高重合度化、低アルデヒド化、低オリゴマー化して成形するか、キシレンやクロロホルムによる溶剤抽出等の後処理を加えてから使用してもよい。
【0022】また、所定濃度の数倍〜100倍、実用的には50倍程度までの高濃度の所望色に着色した、いわゆるマスターバッチとなしてから、これを無着色ないしは他の色調に着色したポリエステル樹脂で希釈したりまた新たに他の色調を発現させたりして、最終的に所望の色調を得てから成形加工に供することもできる。
【0023】本発明では、ポリエステル樹脂組成物は、溶融、吹込成形して容器とされるが、その際には、ポリエステル樹脂成形において一般的に使用される吹込成形法の全てが適用可能である。具体的には、例えば中空成形容器を得るには、通常の押出吹込法、射出吹込法、予備成形体(プリフオーム)を成形し再加熱後に二軸延伸するコールドパリソン法等の吹込成形法が適用されるが、これらの成形法によって得た中空成形容器は、紫外線遮断性、気体遮断性、強じん性及び耐薬品性に優れるとともに、高級観のあるガラス様の透明性を有するため、しょうゆ、ソース、みりん、ドレツシング等の調味料、食用油、炭酸飲料、果汁飲料、酒、ワイン等の食品用容器及び化粧品、薬品等の容器として特に適している。
【0024】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「重量部」を意味するものとし、本実施例で使用した種々の測定法を以下にまとめて示す。
・極限粘度フエノール−テトラクロロエタン(50/50重量比)中、30℃、1.0g/dlの濃度で測定した。
・紫外線透過率日立スペクトルフオトメーター340型を用い、常法により測定した。
・アセトアルデヒド量160℃で2時間水抽出後、高感度ガスクロマトグラフで定量した。
・不活性気体流量単位時間(hr)当り及び単位樹脂重量(kg)当りの流通した気体量を1気圧、25℃に換算した体積量(リットル)で示した。
【0025】実施例1ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート20,000部に、二酸化ゲルマニウム2部、正リン酸2部、及び2,6−ナフタレンジカルボン酸100部を加え、260℃から徐々に昇温するとともに重合槽内は、常圧より漸次減圧し、280℃、1torr下、全重合時間2.5時間で極限粘度0.60の透明ポリエステル樹脂を得た。このポリエステル樹脂のチツプを、ソリツドエアー(商標名、米国Bepex社製)攪拌結晶化機中レジン温度150℃で結晶化させた後、静置式固相重合塔に移し、30 l/kg・hrの窒素気体流通下、レジン温度210℃で10時間固相重合した。該固相重合処理品の極限粘度は0.76で、チツプ材質中に3.0ppmのアセトアルデヒドを含有した。このポリエステル樹脂から、シリンダー各部およびノズル275℃、スクリユー回転数100rpm、射出時間10秒、金型冷却水温10に設定した東芝(株)製射出成形機IS−60Bでプリフオームを成形した。このプリフオームを予熱炉90℃、ブロー圧力20kg/cm2 、成形サイクル10秒に設定したコーポプラスト(株)製BMB−3型機で吹込成形し、内容積1リットルの瓶を得た。この瓶胴体の350μ肉厚部の360nmにおける光線透過率は、0.1%であった。
【0026】実施例22,6−ナフタレンジカルボン酸の代りに、2,3−ナフタレンジカルボン酸−N−(α−カルボキシメチル)イミド60部を添加したこと以外は、実施例1と同様に重合を行い、極限粘度0.67の透明ポリエステル樹脂を得た。このポリエステル樹脂のチツプを実施例1と同様に固相重合処理及び瓶の成形を行い、内容積1リットルの瓶を得た。この瓶胴体の350μ肉厚部の370nmにおける光線透過率は1.7%であった。
【0027】実施例3銅フタロシアニン1.4部、キノフタロン系反応性染料(三菱化成工業(株)製)2部を加えたこと以外は、実施例1と同様に重合を行い、極限粘度0.60の緑色に着色した透明ポリエステル樹脂を得た。このポリエステル樹脂のチツプを実施例1と同様に固相重合処理及び瓶の成形を行い、内容積1リットルの瓶を得た。この瓶胴体の350μ肉厚部の360nmにおける光線透過率は0.1%であった。
【0028】比較例1ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート20,000部に、二酸化ゲルマニウム2部及び正リン酸2部のみを添加して、実施例1と同様の条件で重合を行い極限粘度0.68のポリエステル樹脂を得た。このポリエステル樹脂のチツプを実施例1と同様に固相重合処理及び瓶の成形を行い、内容積1リットルの瓶を得た。この瓶胴体の350μ肉厚部の光線透過率は、360nmで65.5%、370nmで67%であった。
【0029】
【発明の効果】本発明によれば、紫外線吸収剤を添加しなくとも、優れた長波長側の紫外線遮断性を有する熱可塑性ポリエステル樹脂中空成形容器を容易に提供することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部当り、下記化学構造式
【化1】


(式中、R1 、R2 は同一でも異なっていてもよく、水素原子または置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基もしくはアルキルアラルキル基を示す。)及び、下記化学構造式
【化2】


(式中、XはNR3 であり、R3 はカルボキシル基またはヒドロキシル基で置換されたアルキル基もしくはアリール基を示す。また、−C(=O)−X−C(=O)−のイミド基は、ナフタレン環の1,2位、1,8位、2,3位のいずれかで環を形成する。)で示されるナフタレンジカルボン酸及びその誘導体の少なくとも一種を、0.001重量部以上、10重量部以下添加した樹脂組成物からなることを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂中空成形容器。
【請求項2】 請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形してプリフオームとなした後、該プリフオームを吹込成形することを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂中空成形容器の製造法。

【公開番号】特開平10−53696
【公開日】平成10年(1998)2月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−100337
【出願日】平成9年(1997)4月17日
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)