説明

熱可塑性ポリマー組成物

【課題】従来の熱可塑性ポリマー組成物は、耐候性が十分ではないことがあった。
【解決手段】アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体と式(1)


(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜9のアルキル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
で表される化合物とn−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートと4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)とを含有する熱可塑性ポリマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体と式(1)

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜9のアルキル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
で表される化合物とを含む熱可塑性ポリマー組成物(ただし、n−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートも4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)も含まない。)が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−78430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる熱可塑性ポリマー組成物は、該組成物から成形体を得たとき、当該成形体の耐候性が十分ではないことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、以下の[1]〜[3]記載の発明に至った。
[1] アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体と式(1)

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜9のアルキル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
で表される化合物とn−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートと4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)とを含有する熱可塑性ポリマー組成物。
[2] さらに、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートを含有する[1]記載の熱可塑性ポリマー組成物。
[3] 式(1)で表される化合物が、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレートである[1]又は[2]記載の熱可塑性ポリマー組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の安定剤組成物を含む熱可塑性ポリマー組成物は、該組成物から成形体を得たとき、当該成形体の耐候性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において「耐候性に優れる」とは、例えば、キセノン光照射による色相の低下が抑制されることが挙げられる。
【0008】
本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体と前記式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と記すことがある)とn−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートと4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)とを含有する。
【0009】
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(以下、ABS樹脂と記すことがある)は、市販のものを用いてもよいし、任意の公知の方法(例えば、特許文献1(特開平5−78430号公報))により製造して用いてもよい。
【0010】
化合物(1)において、式中のRは、水素原子又はメチル基を表す。Rは炭素数1〜9のアルキル基であり、なかでも炭素数4〜8のアルキル基が好ましく、4級炭素でベンゼン環に結合するアルキル基、例えばt−ブチル基、t−アミル基又はt−オクチル基がより好ましい。また、Rは炭素数1〜9のアルキル基であり、なかでも炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、t−ブチル基又はt−アミル基がより好ましい。Rは、水素原子又はメチル基を表し、水素原子が好ましい。
【0011】
化合物(1)の具体例としては、例えば、2,4−ジ−t−ブチル−6−[1−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニル アクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニル アクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシ−ベンジル)フェニル メタクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−[1−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニル メタクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニル メタクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル メタクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−エチルフェニル メタクリレート、2−t−アミル−6−(3−t−アミル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル メタクリレート、2−t−アミル−6−(3−t−アミル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレート等を挙げることができる。2,4―ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニル アクリレート又は2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレートが好ましい。
2,4―ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニル アクリレートは、スミライザーGS(F)(登録商標、住友化学製)として市販され、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレートは、スミライザーGM(登録商標、住友化学製)として市販されている。
【0012】
n−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートは、イルガノックス1076(登録商標、BASF社製)として市販されている。
【0013】
4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)は、スミライザーBBM−S(登録商標、住友化学製)として市販されている。
【0014】
本発明の熱可塑性ポリマー組成物における化合物(1)の含有量は、ABS樹脂100重量部に対して、0.02〜2重量部の範囲であることが好ましく、0.05〜0.3重量部の範囲がより好ましい。n−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートの含有量は、ABS樹脂100重量部に対して、0.01〜1重量部の範囲であることが好ましく、0.05〜0.3重量部の範囲がより好ましい。4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)の含有量は、ABS樹脂100重量部に対して、0.01〜1重量部の範囲であることが好ましく、0.05〜0.3重量部の範囲がより好ましい。
【0015】
本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、さらにトリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートを含有していることが好ましい。トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートは、イルガノックス3114(登録商標、BASF社製)として市販されており、その含有量は、ABS樹脂100重量部に対して、0.005〜0.5重量部の範囲であることがより好ましく、0.01〜0.3重量部の範囲がさらに好ましい。
【0016】
本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の添加剤が添加されていてもよい。
【0017】
その他の添加剤としては、例えば、化合物(1)、n−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート以外の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、金属不活性化剤、造核剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、充填剤、顔料、無機充填剤などが挙げられる。かかるその他の添加剤の具体例としては、特許文献1(特開平5−78430号公報)記載の「その他の添加剤」の具体例と同一のものが挙げられる。
【0018】
ABS樹脂と化合物(1)とn−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートと4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)との混合方法は特に限定されない。例えば、それら各成分と必要に応じてトリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートやその他の添加剤とを順次または一括して混合してもよいし、化合物(1)とn−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートと4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)と、必要に応じてトリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートやその他の添加剤とを混合して安定剤組成物を得、該安定剤組成物とABS樹脂とを混合してもよい。また、化合物(1)、n−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート及び4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)からなる群から選ばれる1以上の化合物の存在下で、これを含むABS樹脂を製造し、必要に応じて、該ABS樹脂に、化合物(1)、n−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート及び/又はその他の添加剤を混合してもよい。
【0019】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。部及び%は、特に説明がない限り、重量基準を意味する。
【0020】
製造例1(安定剤組成物の製造)
化合物(1)として、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレート(スミライザーGM、登録商標、住友化学製)0.2部、n−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(イルガノックス1076、登録商標、BASF社製)0.1部、及び、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(スミライザーBBM−S、登録商標、住友化学製)0.1部を混合して安定剤組成物を製造した。
【0021】
製造例2(安定剤組成物の製造)
実施例1において、さらにトリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(イルガノックス3114、登録商標、BASF社製)0.05部を混合して安定剤組成物を製造した。
【0022】
実施例1(熱可塑性ポリマー組成物の製造)
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(日本エイアンドエル社製)100部と製造例1で得られた安定剤組成物0.4部とをドライブレンドした後、30mm径の単軸押出し機(田辺プラスチック社製、VS30−28型押し出し機)を用いて240℃、スクリュー回転数50rpmで混練し、熱可塑性ポリマー組成物のペレットを得た。このペレットを180℃でプレスし、ABSシート(40×60×1mm)を得た。
【0023】
実施例2(熱可塑性ポリマー組成物の製造)
実施例1において、製造例1で得られた安定剤組成物に替えて製造例2で得られた安定剤組成物0.45部を用いる以外は、実施例1と同様にしてABSシートを得た。
【0024】
比較例1
実施例1において、製造例1で得た安定剤組成物に替えて化合物(1−1)0.2重量部を用いる以外は、実施例1と同様にしてABSシートを得た。
【0025】
試験例1(促進耐候性の評価)
実施例1、2及び比較例1でそれぞれ得たABSシートについて、ATLAS社製キセノンウエザオメーター(Ci35A型)を使用して促進耐候性を評価した。該評価は、ABSシートを85℃で10時間キセノン光を照射し、照射後のシートのイエローネスインデックス(YI)を測定することにより実施した。結果を表1に示す。YIが小さいほど耐候性に優れることを意味する。
【0026】
【表1】

【0027】
試験例2(臭気試験)
内容積100mlの容器3つに、実施例1、2及び比較例1でそれぞれ得たABSシートを1枚入れ、蓋をして、エアーオーブン中50℃で1時間保管した。その後、室温で1時間放置した後、官能検査を行った。臭気は下記の基準で判断した。
1:ほとんどにおいがしなかった。
2:わずかににおいがした。
3:強いにおいがした。
上記官能検査を試験者5人がそれぞれ実施し、その平均値を結果とした。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、該組成物から成形体を得たとき、当該成形体の耐候性に優れる。また、本発明の熱可塑性ポリマーは、比較的臭気が少ない点でも好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体と式(1)

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜9のアルキル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
で表される化合物とn−オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートと4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)とを含有する熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項2】
さらに、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートを含有する請求項1記載の熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項3】
式(1)で表される化合物が、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレートである請求項1又は2記載の熱可塑性ポリマー組成物。

【公開番号】特開2012−153817(P2012−153817A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14817(P2011−14817)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】