説明

熱可塑性樹脂の簡易溶融粘度測定方法

【課題】特定の装置を必要とせずに、少量の熱可塑性樹脂から溶融粘度を簡易的に精度よく測定する方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を溶融し、所定条件下で荷重を負荷して得られる圧展物の大きさを、熱可塑性樹脂の溶融粘度の指標とする簡易溶融粘度測定方法。溶融粘度がメルトマスフローレイト(MFR)であり、熱可塑性樹脂のMFRと圧展物の大きさの相関を予め求め、該相関をもとに、測定目的箇所の熱可塑性樹脂で測定した圧展物の大きさをあてはめることで、測定目的箇所のMFRを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少量の試料でも測定可能な簡易溶融粘度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は軽量で加工性に優れることから、広汎な分野で使用されている。また、加工精度の高まりにつれ成形品は小さく精密になっている。そのため、使用する熱可塑性樹脂の品質のばらつきが製品の品質に大きな影響を与えることから、強度、融点、その他多くの項目について材料樹脂の品質に関する規格が定められており、これらの項目の中に、MFRがある。一方、MFRは樹脂の分子量と相関があるため、実際に使用された製品の劣化状態を判断する指標とされることも多い。
MFRを測定する標準的手法としてはJIS K 7210やISO 1133などがあるが、この方法では特定の装置が必要となるとともに試料3〜8gを必要とする。そのため、製品ごとのばらつきが心配される小さな成形品であっても、幾つかの成形品を集める必要がある。また、部分的に劣化が懸念される製品であっても、劣化を判別しようとしている目的の部分以外に劣化していない箇所を含んだ試料で測定する必要がある。
【0003】
このような状況から、小さな成形品個々や、成形品の特定部分のみで、できるだけ少量でMFRを測定出来る方法が望まれているが、従来、このような方法は何ら提案されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、少量の熱可塑性樹脂から簡易的に溶融粘度を測定する方法を提供することであり、更に具体的には、少量の試料からMFRの値を、精度よく測定する手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の間題に関して鋭意検討した緒果、熱可塑性樹脂を所定条件で溶融したときの特性とMFRの関係を予め関係式として求めておき、この溶融時の特性を測る事で、得られる値を関係式に入れMFRを求めることが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明の第1は、熱可塑性樹脂を溶融し、所定条件下で荷重を負荷して得られる圧展物の大きさを、熱可塑性樹脂の溶融粘度の指標とする簡易溶融粘度測定方法である。
【0007】
本発明の第2は、溶融粘度がMFRであり、熱可塑性樹脂のMFRと圧展物の大きさの相関を予め求め、該相関をもとに、測定目的箇所の熱可塑性樹脂で測定した圧展物の大きさをあてはめることで、測定目的箇所のMFRを求めることを特徴とする、上記記載の簡易溶融粘度測定方法である。
【0008】
本発明の第3は、所定条件が、所定量の熱可塑性樹脂を所定温度においてガラス板間に挟んだ状態で所定加重を所定時間かけることであり、得られる圧展物の大きさが、ガラス板間に圧展された熱可塑性樹脂の面積であることを特徴とする、上記記載の簡易溶融粘度測定方法である。
【0009】
本発明の第4は、所定量の熱可塑性樹脂が予め円形に腑形され、圧展された熱可塑性樹脂の面積が直径で代用されることを特徴とする、上記記載の簡易溶融粘度測定方法である。
【0010】
本発明の第5は、所定量の熱可塑性樹脂が50mg以下であり、圧展物の大きさが測定可能な量以上であることを特徴とする、上記記載の簡易溶融粘度測定方法である。
【0011】
本発明の第6は、熱可塑性樹脂がポリアセタール樹脂である、上記記載の簡易溶融粘度測定方法である。
【0012】
本発明の第7は、上記記載の測定方法により得られる熱可塑性樹脂の溶融粘度を、熱可塑性樹脂成形品の品質管理に用いることを特徴とする、品質管理方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱可塑性樹脂のMFRの値を高価な装置を用いることなく、汎用の理化学装置を用い、少量の試料で精度よく測定することが可能となり、それを利用して熱可塑性樹脂成形品のMFR変化まで管理することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
予め溶融粘度を測定してある熱可塑性樹脂を溶融し、所定条件下で荷重を負荷して得られる圧展物の大きさを測定することで、溶融粘度と圧展物の大きさとの相関を予め求めておく。そして、溶融粘度を求めたい試料で所定条件での圧展物の大きさを測定し、この相関にあてはめることで、溶融粘度を得ることが出来る。
【0015】
例えば、熱可塑性樹脂を溶融し、所定条件下で荷重を負荷して得られる圧展物の大きさとMFRの関係を予め関係式として求めておくことにより、この圧展物の大きさから、MFRを求めることが出来る。すなわち、所定条件で求めた圧展物の大きさの値を関係式に入れ粘度を求める。
【0016】
まず、予め測定しようとする樹脂において、MFRと圧展物の大きさの相関を求める。
【0017】
MFRを測定した異なる試料を幾つか用意し、所定量測り取る。このとき、測り取る量は加熱温調装置のホットプレート大きさに応じて、均一に広がった形で圧展物が得られるように決める。また、試料は圧展物が均一に広がりやすいように、円形で同じ厚みになるよう予備腑形しておくことが望ましい。圧展する際には、平板に試料を挟む形で均一に荷重をかけることで、均一に広がる圧展物がえられる。その際、平板としてガラス板を用いることが、圧展物の大きさを観察しやすいので便利である。所定の荷重をかける方法として、分銅を用いることが簡便である。また、所定の温度にコントロールされたホットプレートに、ガラス板を2枚重ねて載せ、分銅をさらに載せて所定温度に予熱しておく。
以上の準備が整った上で、試料を一枚のガラス板中央に置き、その上にもう一枚のガラス板を載せ挟み込む、この状態で試料を所定温度に加熱後、その重ねたガラス板上に同温度に予熱してある荷重用分銅を載せ一定時間負荷を加えたのち、室温までサンプルを冷却する。得られる圧展物の面積は、予め円形に腑形してある試料においては、円形の圧展物が得られることから、直径から簡易に算出出来る。
【0018】
こうして得られるMFRの異なる試料の圧展物の面積から、この面積とMFR値の相関を求める。
【0019】
MFRを測定しようとする試料において、同じ操作により圧展物の面積を測定すれば、予め求めてある相関に得られた面積をあてはめることで、MFRを求めることができる。
【0020】
本発明に係る熱可塑性樹脂としては、特に制限は無く、単独であっても均一に混じり合う混合物であっても構わない。例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリアセタール(ポリオキシメチレン)、ポリアミド、ポリカーボネートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ABSなどを挙げることが出来る。
【0021】
また、熱可塑性樹脂には、少量の充填材や、安定性を改善するための添加剤などを含むものであっても構わない。
【0022】
本発明で使用される加熱温調装置としては、1℃以内の温度コントロール精度があればよく、融点測定器を利用することが簡便である。ガラス板を使用することが便利であるが、ガラス板はどのようなものでも良く、スライドガラスやカバーガラスが入手しやすく便利である。
【実施例】
【0023】
実施例1
従来のMFR測定法(JIS K 7210)により測定されたポリオキシメチレン(以下POM)を用いて測定を行った。
【0024】
まず初めに、POMのMFR値が2.4のPOMペレット20mgを精密天秤で測り取り、5φ×2mmのアルミパンに入れ、190℃ホットプレート上で溶融し、形をタブレット状に速やかに整えた。
【0025】
次に、190℃にコントロールしたホットプレート上に50gの加重用分銅、約25mm角のガラス板(スライドガラスを切ったもの)を2枚重ねて載せ、190℃に保つ。恒温状態になったらタブレット状にしたものをガラス板の中央に挟み5分間樹脂を加熱溶解した。次にそのガラス板の上に190℃の恒温になっている加重用分銅を30秒間載せ、その後速やかに加重を取り除き室温の鉄板上に載せ室温まで放冷する。
【0026】
以上の操作から得られた円形フィルムの直径を、ノギスを用いて2方向以上の直径を測定し、その平均直径を用いてフィルム面積53mmを得た。
【0027】
更に、MFRが異なるものを同様に測定し、表1の値を得た。この結果を元に、面積とMFR値の関係式を求めy=1.7224ln(x)- 6.4549を得た。
【0028】
【表1】

【0029】
次に、MFR未知のサンプルについて、前記測定した同操作により測定し得られた面積を式に代入しMFRを求めた。また、JIS K 7210法により測定しその値について検証し、表2に示すように、測定結果がほぼ一致することを確認した。
【0030】
【表2】

【0031】
実施例2
ポリブチレンテレフタレート(以下PBT)においても、実施例1と同様に関係式が得られることを確認した。
【0032】
即ち、簡易MFRを245℃で実施例1と同様に測定したところ、表3の結果が得られ、図2に示す関係が成立した。
【0033】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】表1のMFR測定値と溶融粘度の簡易測定値の関係をグラフに表したものである。
【図2】表3のMFR測定値と溶融粘度の簡易測定値の関係をグラフに表したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を溶融し、所定条件下で荷重を負荷して得られる圧展物の大きさを、熱可塑性樹脂の溶融粘度の指標とする簡易溶融粘度測定方法。
【請求項2】
溶融粘度がメルトマスフローレイト(以下、MFR)であり、熱可塑性樹脂のMFRと圧展物の大きさの相関を予め求め、該相関をもとに、測定目的箇所の熱可塑性樹脂で測定した圧展物の大きさをあてはめることで、測定目的箇所のMFRを求めることを特徴とする、請求項1記載の簡易溶融粘度測定方法。
【請求項3】
所定条件が、所定量の熱可塑性樹脂を所定温度においてガラス板間に挟んだ状態で所定加重を所定時間かけることであり、得られる圧展物の大きさが、ガラス板間に圧展された熱可塑性樹脂の面積であることを特徴とする、請求項2に記載の簡易溶融粘度測定方法。
【請求項4】
所定量の熱可塑性樹脂が予め円形に腑形され、圧展された熱可塑性樹脂の面積が直径で代用されることを特徴とする、請求項3記載の簡易溶融粘度測定方法。
【請求項5】
所定量の熱可塑性樹脂が50mg以下であり、圧展物の大きさが測定可能な量以上であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項記載の簡易溶融粘度測定方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂がポリアセタール樹脂である、請求項1〜5の何れか1項記載の簡易溶融粘度測定方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項記載の測定方法により得られる熱可塑性樹脂の溶融粘度を、熱可塑性樹脂成形品の品質管理に用いることを特徴とする、品質管理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−128032(P2009−128032A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300292(P2007−300292)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)