説明

熱可塑性樹脂シートの製造方法

【課題】熱可塑性樹脂シートの製造方法に関して、局部的な厚みむらを防ぐことができ、厚み均一性に優れたシートを得ることをせんとするものである。
【解決手段】溶融状態の熱可塑性樹脂シートを口金からシート状に回転冷却ロール上に吐出し、ワイヤー状の放電電極により電荷を印加して、吐出されたシートを回転冷却ロールに接着せしめる熱可塑性樹脂シートの製造方法において該ワイヤーの表面粗さRaが 250nm以下、十点平均粗さRzが1200nm以下であるワイヤーを用いることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂シートの製造方法に関し、さらに詳しくは局部的な厚みむら低減に優れた熱可塑性樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂シートの製造方法において、その多くは口金から吐出した溶融樹脂シートをドラム等の回転冷却ロールに接地し急冷させシート状に成型するのが一般的であるが、厚み均一性等の品位向上、また製膜速度アップによる生産性向上のためには樹脂シートを回転冷却ロール上に密着させる必要がある。該シートと回転冷却ロールとの密着性を高める方法として口金と回転冷却ロール間にワイヤー状の電極を設けて高電圧をかけて口金から出てくるシート状物に静電気を印加して、該シートを回転冷却ロール表面に密着させながら急冷する方法が有効であることが知られている。(特許文献1参照)
しかし、溶融時の比抵抗が高い樹脂を使用する場合は、密着性が悪くなるため品位、生産性が悪化する傾向にある。そのため樹脂中に無機金属化合物等を含有し比抵抗を低くしたり(特許文献2参照)、ワイヤー径とワイヤー張力を規定して厚みむらを改善する製造方法が知られている。(特許文献3参照)
【特許文献1】特公昭37−6142号公報
【特許文献2】特公昭53−40231号公報
【特許文献3】特開平9−201869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらの製造方法は回転冷却ロールに密着する樹脂シート全幅の厚みむらは改善できるものの局部的な厚みむらの改善は困難である。特に静電気印加時に使用するワイヤーは破断張力の高いタングステン等を用いられることが知られているが(特許文献3参照)、これら金属ワイヤーはその製造工程から表面上に微細な凹凸や「クラック」が生じており、これらが使用時にワイヤー表面に「ささくれ」状の突起物を形成することがある。該突起物を形成した状態で樹脂シートに静電気を印加した場合、局部的に樹脂シートへの印加が強まり局部的な厚みむらを形成してしまう問題が生じる。
【0004】
そこで本発明は、このような局部的な厚みむらを改善しさらに厚みの均一性に優れた熱可塑性樹脂シートを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、溶融状態の熱可塑性樹脂シートを口金からシート状に回転冷却ロール上に吐出し、ワイヤー状の放電電極により電荷を印加して、吐出されたシートを回転冷却ロールに接着せしめる熱可塑性樹脂シートの製造方法において該ワイヤーの表面粗さRaが250nm以下、十点平均粗さRzが1200nm以下である熱可塑性樹脂シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、熱可塑性樹脂シートを製造する際に局部的な厚みむらを防ぐことができ、厚み均一性に優れたシートを得ることができる。さらに局部的な厚みむらを防ぐことで歩留まりを低減でき生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明にかかる熱可塑性樹脂としては一般にフィルムに成形可能なすべての樹脂を包含する。これらの樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート等に代表されるポリエステルや、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどを用いることができる。なお、上記熱可塑性樹脂は単一のものでもよいし、共重合であってもよいし、また他の成分、添加剤や滑剤、着色剤等を混合したものであってもよい。
【0008】
また、口金から押し出される溶融樹脂シートは前記熱可塑性樹脂が単層であっても、多層に積層されたものであってもよい。
【0009】
このような熱可塑性樹脂が溶融状態で口金からシート状に押し出され、静電印加キャスト法にて回転冷却ロール上に密着され、冷却、固化されて樹脂シートに成形される。この静電印加キャスト法は例えば図1に示すように、口金1から吐出された溶融状態の熱可塑性樹脂シート2は回転冷却ロール3上に吐出され、回転冷却ロール3の表面に密着されて回転冷却ロール3上で冷却、固化され未延伸シート4に成形される。回転冷却ロール3上に吐出する際、熱可塑性樹脂シート2にワイヤー電極5から静電気が印加されそれにより回転冷却ロール3上への密着性が向上される。
【0010】
この静電印加キャスト方法において、本発明者らは鋭意検討した結果、電極に使用しているワイヤーの表面粗さRaを250nm以下、十点平均粗さRzを1200nm以下にすることで局部的な厚みむらを改善し、さらに厚みの均一性に優れた熱可塑性樹脂シートを得られることを見いだした。具体的にはワイヤーの表面粗さRaを250nm以下、十点平均粗さRzを1200nm以下にすることで、製造工程使用時にワイヤー表面に発生する「ささくれ」状の突起物を防止して局部的な厚みむらを防ぐことができる。好ましくはRaを200nm以下、Rzを1100nm以下である。
【0011】
表面粗さRaを250nmより大きいか、十点平均粗さRzを1200nm未満にした場合は製造工程使用時にワイヤー表面に「ささくれ」状の突起物を形成することがあり好ましくない。
【0012】
本発明に使用されるワイヤーはワイヤー表面上の微細な凹凸や「クラック」を減らし、表面を平滑化する観点からワイヤー表面を化学研磨で処理を施している事が好ましく、中でも電解研磨処理を施す事がより好ましく、さらには表面を機械研磨処理にて大きな凹凸を無くした後に電解研磨処理を施す事がさらに好ましい。表面処理をバフ研磨等の機械研磨のみで施した場合、表面上の微細な凹凸や「クラック」を軽減できるものの、残存してしまい「ささくれ」状の突起物を形成してしまう。
【0013】
また、ワイヤーの化学研磨による減量は10%以上が好ましく、より好ましくは13%以上である。10%未満では表面上の微細な凹凸や「クラック」を軽減できるものの、残存してしまい「ささくれ」状の突起物を形成してしまう。
【0014】
本発明に使用されるワイヤーは上記目的を達成するために表面に金属メッキを施す事は電荷を印加する性能を阻害しない範囲であれば問題なく、むしろ表面を平滑化するという観点から好ましい。
【0015】
本発明に使用されるワイヤーはその使用方法から金属等の導電性のあるものが適しており、タングステン、ステンレス、真鍮、「インコネル」、「モネル」、レニウム等が挙げられ、特に限定されるものではないが破断張力の高いタングステンが好ましい。
【0016】
本発明において溶融状態の熱可塑性樹脂シートを口金からシート状に回転冷却ロール上に吐出し、ワイヤー状の放電電極により電荷を印加して、吐出されたシートを回転冷却ロールに接着せしめる静電印加装置の構造や静電印加条件に対する限定はなく、任意に設定すればよい。一般的に放電電極に使用するワイヤーは長時間使用すると電極への異物付着やシートより析出するオリゴマ等の付着の影響により電荷を印加する性能が低下するため、これらの影響を低減するために該ワイヤーをシート幅方向に移行する装置を備える事が好ましい。
【0017】
また、回転冷却ロールで成型した熱可塑性樹脂シートはそのまま製品としてもよく、また所定の倍率で一軸延伸あるいは二軸延伸したものを製品としても構わない。
【0018】
以下に、本発明で使用される評価方法、評価基準について説明する。
【0019】
<評価方法、評価基準>
(1)表面粗さRa値、十点平均粗さRz値
原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)を用いて測定した。セイコーインスツルメント社製の卓上小型プローブ顕微鏡(Nanopics 1000)を用い、ダンピングモードでワイヤーの表面を40μm角で原子間力顕微鏡計測走査を行い、得られる表面のプロファイル曲線よりJIS B0601 Raに相当する算術平均粗さよりRa値を、JIS B0601 Rzに相当する十点平均面粗さ、すなわち、粗さ曲面から基準面積分だけ抜き取った部分の平均面を基準面として、最高から5番目までの山の標高の平均値と最深から5番目までの谷底の深さの平均値との距離からRzを求めた。測定方向はワイヤー断面方向とし、測定本数は512本とした。単位はnmで表示した。なお、Ra値、Rz値ともに3点の平均値とした。
【0020】
(2)処理減量
研磨処理前後の500m長のワイヤー重量を測定しその減量を比率にて表した。
【0021】
(3)局部的な厚みむら
製膜工程においてインラインの厚さ計にて製品全幅の厚みむらを連続的に測定し、静電印加装置のワイヤーを0.5m/hrsの速度で移行させて100m使用したとき、「(1mm以上15mm以下)×横延伸倍率の幅」、「製膜厚み×0.125μ以上の偏差」を有する局部的な厚みむらの発生回数を以下の判定に分類し、○以上を合格とした。
【0022】
◎:発生回数0回
○:発生回数1〜25回
×:発生回数25回以上。
【0023】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(以下PET)のペレットを180℃、真空中下で4時間乾燥後、押出機に供給して280℃で溶融し、フィルターを通過させた後Tダイにてシート状に吐出させ表面温度20℃の回転冷却ロールに静電印加法にて下記ワイヤー及び条件で密着させた。
【0024】
1.ワイヤー
(1)材質:タングステン
(2)線径:φ0.15mm
(3)研磨方式:電解研磨
(4)処理減量:15%
(5)表面粗さ:Ra:136nm、十点平均粗さRz:876nm。
【0025】
2.静電印加条件
(1)印加電圧:9kV
その後該未延伸シートを加熱したロールを用いて縦方向に120℃で2.1倍、次いで115℃で2.3倍に延伸した後、横方向に115℃で4.3倍に延伸し、さらに225℃で熱固定し、その際幅方向に5%弛緩して、厚み6μの二軸延伸フィルムを得た。その際横方向延伸後の工程においてインラインにて全幅の厚みむらを測定して局部的な厚みむらの発生状況を確認した。その結果局部的な厚みむらの発生状況は◎であった。
【0026】
実施例2
ワイヤーの表面粗さRa:85nm、十点平均粗さRz:654nm、処理減量を25%とした以外は実施例1と同様に行った。この時の局部的な厚みむらの発生状況は◎であった。
【0027】
実施例3
ワイヤーの材質をステンレスとし、ワイヤーの表面粗さRa:228nm、十点平均粗さRz:983nm、表面処理を機械研磨とし、処理減量を13%とした以外は実施例1と同様に行った。この時の局部的な厚みむらの発生状況は○であった。
【0028】
実施例4
ワイヤーの表面粗さRa:203nm、十点平均粗さRz:1094nm、処理減量を8%とした以外は実施例1と同様に行った。この時の局部的な厚みむらの発生状況は○であった。
【0029】
比較例1
ワイヤーの材質をステンレスとし、ワイヤーの表面粗さRa:324nm、十点平均粗さRz:1762nm、表面処理を機械研磨とし、処理減量を5%とした以外は実施例1と同様に行った。この時の局部的な厚みむらの発生状況は×であった。
【0030】
比較例2
ワイヤーの表面粗さRa:450nm、十点平均粗さRz:2638nmで未研磨のワイヤーを使用した以外は実施例1と同様に行った。この時の局部的な厚みむらの発生状況は×であった。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は熱可塑性樹脂シートの製造方法に関し、さらに詳しくは熱可塑性樹脂シートを製造する際に局部的な厚みむらを防ぐことができ、厚み均一性に優れたシートを得ることができる。さらに局部的な厚みむらを防ぐことで歩留まりを低減でき生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施態様に係る熱可塑性樹脂シートの製造装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0034】
1 口金
2 熱可塑性樹脂シート
3 回転冷却ロール
4 未延伸シート
5 ワイヤー電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の熱可塑性樹脂シートを口金からシート状に回転冷却ロール上に吐出し、ワイヤー状の放電電極により電荷を印加して、吐出されたシートを回転冷却ロールに接着せしめる熱可塑性樹脂シートの製造方法において該ワイヤーの表面粗さRaが 250nm以下、十点平均粗さRzが1200nm以下である熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記ワイヤー表面が化学研磨処理を施されてなる請求項1記載の熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記ワイヤーの化学研磨処理による減量が10%以上であることを特徴とする請求項2記載の熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記ワイヤーの材質がタングステンである請求項3記載の熱可塑性樹脂シートの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−110548(P2008−110548A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295392(P2006−295392)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】