説明

熱可塑性樹脂成形体

【課題】肌触りの良い熱可塑性樹脂成形体の提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、セルロース繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、表面粗さ(Ra)が0.8μm以上である、熱可塑性樹脂成形体において、セルロース繊維が、αセルロースを80質量%以上含有し、平均繊維径が、100μm以下であり、成形体表面の50cm2当たり、最大径又は最大長さが、1mm以上の未解繊又は解繊されたセルロース繊維の塊の数が10個以下である成形体で、成形体の肌触りがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌触りの良い熱可塑性樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体の機械的強度を高めるため、ガラス繊維等の無機繊維を配合したものが汎用されている(特許文献1〜4)。しかし、無機繊維が配合された樹脂成形体は、焼却時に無機繊維に由来する残渣が発生して、この残渣を埋め立て処理等する必要があるため、無機繊維を使用しない樹脂成形体が求められている。
【0003】
特許文献5には、樹脂と木粉を混合して木粉含有コンパウンドを製造する方法が記載されている。
【特許文献1】特開平7−80834号公報
【特許文献2】特開平8−207068号公報
【特許文献3】特開2003−245967号公報
【特許文献4】特公平3−52342号公報
【特許文献5】特開2003−103516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献5に記載の方法により得られた木粉含有コンパウンドからなる成形体は、焼却時に燃焼残渣を生じない点で優れているが、成形体は重く、機械的強度も充分ではなく、肌触りも良くない。
【0005】
本発明は、特に肌触りが良い熱可塑性樹脂成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、課題の解決手段として、熱可塑性樹脂とセルロース繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、表面粗さ(Ra)が0.8μm以上である、熱可塑性樹脂成形体を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、木肌にも似た好ましいすべり感のある肌触り性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造原料となる樹脂組成物は、熱可塑性樹脂とセルロース繊維、及び必要に応じて他の添加剤を含有するものである。
【0009】
熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂(好ましくはポリプロピレン)、スチレン系樹脂(ホモポリマー、AS樹脂、HIPS等)、ゴム含有スチレン系樹脂(ABS樹脂、AES樹脂、ABSM樹脂、AAS樹脂等)、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、非結晶(透明)ナイロン(メタ)アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、生分解性樹脂(PBS系、PBSA系、PCL系、PLA系、セルロースアセテート系)等を挙げることができ、これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。また、これらの重合体を主体とする共重合体若しくは混合物、これらにゴム又はゴム状樹脂等のエラストマーを配合した熱可塑性樹脂、及びこれらの樹脂を10質量%以上含有するポリマーアロイ等も挙げることができる。
【0010】
セルロース繊維は、αセルロースの含有率が80質量%以上のものが好ましく、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上のものである。
【0011】
平均繊維径は、好ましくは0.1〜1000μm、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは10〜50μm、特に好ましくは20〜30μmである。
【0012】
平均繊維長さは、好ましくは0.01〜100mm、より好ましくは0.01〜50mm、更に好ましくは0.1〜10mm、特に好ましくは0.1〜5mmである。
【0013】
セルロース繊維の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1〜500質量部、好ましくは3〜300質量部、より好ましくは5〜200質量部、更に好ましくは10〜150質量部である。
【0014】
樹脂組成物には、必要に応じて、カーボンブラック、無機顔料、有機顔料、染料、助色剤、分散剤、安定剤、可塑剤、改質剤、紫外線吸収剤又は光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、結晶促進剤、結晶核剤、及び耐衝撃性改良用のエラストマー等を配合することができる。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、好ましい肌触り感を付与するため、表面粗さ(JIS B0601−1994)(算術平均粗さ;Ra)が0.8μm以上であり、好ましくは0.8〜20μm、より好ましくは1.0〜10μmである。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、好ましい肌触り感を付与するため、表面粗さ(JIS B0601−1994)(算術平均粗さ;Ra)以外にも、JIS B0601−1994にて規定されている最大高さ(Ry)、算術平均傾斜(Δa)、二乗平均傾斜(Δq)、ピークカウントを所定範囲に設定することができる。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、熱可塑性樹脂成形体表面の50cm当たり、最大径又は最大長さが1mm以上の未解繊又は解繊されたセルロース繊維の塊の数が10個以下であることが好ましく、より好ましくは5個以下である。最大径とは、球の場合には直径を意味し、楕円の場合には長径を意味し、不定形の場合には最大長さを意味する。
【0018】
このようにセルロース繊維の塊の数が10個以下であることにより、成形体の外観が美しくなるだけでなく、表面が過度にざらつくことがなく、好ましい肌触り感を付与できる。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、非発泡構造でもよいし、発泡構造でもよいが、嵩密度が0.4〜1.5g/cmであることが好ましく、0.5〜1.4g/cmであることがより好ましく、0.6〜1.3g/cmであることがより好ましい。嵩密度を前記範囲にすることで、軽量化することができるため、人が触れる物や部分の構成材料として適用することが容易になり、好ましい肌触り感を付与できる。
【0020】
また本発明の熱可塑性樹脂成形体は、用途によって重厚感を付与することが好ましい場合には、圧縮成形することで、嵩密度を1.5g/cmよりも大きくすることができる。この場合にも肌触り感は損なわれない。
【0021】
次に、本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法を説明する。熱可塑性樹脂とセルロース繊維を混合する際、セルロース繊維を解繊し、熱可塑性樹脂に分散させる。このような解繊を用いた方法の具体例としては、下記の方法1と方法2を挙げることができる。
【0022】
(方法1)
熱可塑性樹脂及びセルロース繊維(例えば、パルプシート又はその切断物)を上記比率範囲で使用し(望ましくは予め予備混合する)、これらをヘンシェルミキサー(例えば、三井鉱山社製、ヒーター付き)に投入し、攪拌しながら加温する。このときの条件は次のとおりである。
【0023】
混合槽容量20Lのミキサー内に、熱可塑性樹脂及びセルロース繊維の合計1000〜3000gを投入し、使用した樹脂の溶融温度近傍にて、周速10〜50m/secで、10〜30分間混練する。
【0024】
(方法2)
A)成分の熱可塑性樹脂、(B)成分のセルロース繊維、を予備混合したもの50kgを、2軸高混練型押出機〔例えば、シーティーイー社製,HTM65,スクリュー径65mm、ホットカット(水中)カット付き〕に投入し、使用した樹脂の溶融温度近傍にて、スクリュー回転数200〜800r/mで溶融混練する。
【0025】
続いて、方法1と方法2等により溶融混練した樹脂組成物を所望形状に成形する。なお、熱可塑性樹脂成形体を発泡構造のものにする場合には、予め樹脂組成物に公知の発泡剤を混合しておき、成形時に発泡処理をする。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、上記方法1及び方法2を適用することで、樹脂中にセルロース繊維が均一に分散された成形体が得られるため、熱可塑性樹脂とセルロース繊維の量を所定範囲で調整することにより、所定の表面粗(Ra)さを有する熱可塑性樹脂成形体を得ることができる。
【0027】
また本発明の熱可塑性樹脂成形体は、射出成形法を適用して製造する場合には、内表面を所定粗さにした金型を用いることにより、得られた熱可塑性樹脂成形体の表面粗さ(Ra)が所定範囲になるようにすることができる。
【0028】
また本発明の熱可塑性樹脂成形体は、成形後、公知の表面荒らし処理、例えば、サンドペーパー、サンドブラスト等の処理をすることで、得られた熱可塑性樹脂成形体の表面粗さ(Ra)が所定範囲になるようにすることができる。
【0029】
本発明の製造方法では、上記したようにセルロース繊維を解繊した上で、熱可塑性樹脂に分散させているため、最終的に得られた成形体中において、セルロース繊維がほぼ均一に分散されている。このため、非発泡構造であっても、実質的に発泡構造と類似の構造(成形体中に微少な間隙が存在している構造)にすることができる。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、肌触りが良好であるため、人が触れるような用途に適しており、建築材料、内装材料、自動車の内装材料、日用雑貨等に使用することができ、具体的には、手摺り、ドアノブ、テーブルや机の天板、コースター、カップの受け皿、床材、壁材等に適している。
【実施例】
【0031】
実施例1〜3、比較例2
表1に示す各成分からなる樹脂組成物を用い、押出機により、成形体を製造した。セルロース繊維は、上記した方法1により解繊して、熱可塑性樹脂と混合した。押出機は40mm単軸押出機、ダイスは200×10mmのシートダイを用いた。押出条件は下記のとおりである。
【0032】
実施例4〜6、比較例1、3〜4
表1に示す各成分からなる樹脂組成物を用い、射出成形により、50mm×90mm×2mmtのカラープレート成形体を製造した。シリンダー温度210℃、金型温度50℃
実施例4〜5と比較例3は、カラープレート表面をシボ加工したグレインCの砂シボプレートであり、実施例6と比較例4は、カラープレート表面が鏡面である鏡面プレートである。実施例6については、成形したカラープレートをサンド処理した。
【0033】
(押出条件)
C1:200℃
C2:210℃
C3:220℃
C4:230℃
AD:230℃
ダイス:230℃
サイジング温度:175〜190℃
スクリュー回転数:80rpm
引き取り速度:0.15〜0.30m/min
(表1の成分)
PMB60A:ポリプロピレン,サンアロマー社製
PMB70A:ポリプロピレン,サンアロマー社製
溶解パルプ:日本製紙社製,溶解パルプNDP−T,平均繊維径約30μm,平均繊維長さ約2mm,αセルロース含有量90%
ユーメックス1010:酸変性ポリプロピレン,三洋化成工業社製
(試験方法)
(1)表面粗さ(算術平均粗さ;Ra):JIS B0601−1994
(2)肌触り性
30〜40歳代の男性5名、女性5名の計10名のパネルが、縦200mm、横400mm、厚み10mmの成形体及び縦50、横90、厚み2mmの成形体を手で触ったときの感触を官能評価した。評価は、比較例1の組成物から得られた成形体を基準として、感触の良かったものを良好とし、同じか悪かったものを不良とした。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例1〜6の成形体は、比較例1の成形体(平滑なプラスチックの感触)に比べると、10名のパネル全員が、木肌に近似した、適度なざらつき感のある好ましい感触であったと評価した。なお、実施例1〜6は、成形体表面の50cm当たり、最大径又は最大長さが1mm以上の未解繊又は解繊されたのセルロース繊維の塊の数は2個以下であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂とセルロース繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、表面粗さ(Ra)が0.8μm以上である、熱可塑性樹脂成形体。
【請求項2】
前記セルロース繊維がαセルロースを80質量%以上含有するものである、請求項1記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項3】
前記セルロース繊維の平均繊維径が100μm以下である請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項4】
前記成形体表面の50cm当たり、最大径又は最大長さが1mm以上の未解繊又は解繊されたセルロース繊維の塊の数が10個以下である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項5】
嵩密度が0.4〜1.5g/cmである請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項6】
発泡構造である請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体。



【公開番号】特開2007−84698(P2007−84698A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275523(P2005−275523)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】