説明

熱可塑性樹脂発泡体、およびその製造方法

【課題】強度、柔軟性、クッション性、歪回復性等に優れ、特に樹脂の復元力による気泡構造の収縮が少なく、生産性のよい熱可塑性樹脂発泡体を提供する。また、強度、柔軟性、クッション性、歪回復性等に優れ、特に樹脂の復元力による気泡構造の収縮が少ない熱可塑性樹脂発泡体を生産性よく製造できる熱可塑性樹脂発泡体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の熱可塑性樹脂発泡体は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物から得られることを特徴とする。また、本発明の熱可塑性樹脂発泡体は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、熱架橋剤及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物から得られることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッション性、歪回復性等の点で優れる熱可塑性樹脂発泡体、およびその製造方法に関する。詳細には、例えば電子機器等の内部絶縁体、緩衝材、遮音材、断熱材、食品包装材、衣用材、建材用として極めて有用で、クッション性があり、歪回復性に優れる熱可塑性樹脂発泡体、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば電子機器等の内部絶縁体、緩衝材、遮音材、断熱材、食品包装材、衣用剤、建材用として用いられる発泡体には、部品として組み込まれる場合にそのシール性という観点から、柔らかく、クッション性、および断熱性等に優れているという点が求められている。このような発泡体としては、ポリエチレンおよびポリプロピレン等のポリオレフィン系などに代表される熱可塑性樹脂発泡体がよく知られている。しかしながら、これらの発泡体は、強度が弱く、柔らかさ、クッション性が悪く特に高温時で圧縮保持されたときに歪回復性に劣りシール性が低下するという欠点があった。これを改良する試みとして、ゴム成分などを配合し弾性を付与することによって素材自体を柔らかくすることと合わせて弾性による復元性を持たせ歪回復性を改良することが行われている。しかしながら、通常エラストマー成分を配合すると弾性による復元性は改良されるものの、発泡体を作る工程において、発泡剤による発泡変形した後、樹脂の復元力により気泡構造が収縮し、最終的に得られる発泡体の発泡倍率は低いものとなってしまう。
【0003】
従来の一般的な発泡体を得る方法としては、通常物理的方法によるものと化学的方法によるものとがある。一般的な物理的方法としては、クロロフルオロカーボン類または炭化水素類などの低沸点液体(発泡剤)をポリマーに分散させ、次に加熱し発泡剤を揮発させることにより気泡を形成させるものである。また化学的方法においては、ポリマーベースに添加された化合物(発泡剤)の熱分解により生じたガスによりセルを形成し、発泡体を得るものである。物理的手法による発泡技術は、発泡剤として用いる物質の有害性やオゾン層の破壊など各種の環境への問題が存在する。また化学的手法を用いた場合には、発泡後、発泡体中に残る腐食性ガスや不純物による汚染が問題となり、特に電子部品用途などにおいては、低汚染性への要求が高いため好ましくない。
【0004】
さらに、近年は、セル径が小さく、セル密度の高い発泡体を得る方法として、窒素や二酸化炭素等の気体を高圧にてポリマー中に溶解させた後、圧力を解放し、ポリマーのガラス転移温度や軟化点付近まで加熱することにより気泡を形成させる方法が提案されている。このような窒素や二酸化炭素等の気体を高圧にてポリマー中に溶解させた後、圧力を解放し、場合によってはガラス転移温度まで加熱することにより気泡を成長させる方法は、今までにない微孔質発泡体を得る優れた方法である。この発泡では、熱力学的不安定な状態から核を形成し、核が膨張成長することで気泡が形成され、微孔性発泡体が得られる。さらに、この発泡方法を用いて柔らかい発泡体を作る目的で熱可塑性ポリウレタンなどの熱可塑性エラストマーへ適用しようとする試みが種々提案されている。例えば、この発泡方法により、熱可塑性ポリウレタン樹脂を発泡させ、均一で微細な気泡を有し、変形しにくい発泡体を得る方法が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、この気泡中に残る窒素や二酸化炭素等の気体は、圧力が大気に解放された後、核が膨張成長することで気泡を形成するので、一旦は高い倍率の発泡体が形成されるが、徐々に気泡中に残存する窒素や二酸化炭素等の気体がポリマー壁を透過していき、これにより発泡後ポリマーが収縮し、徐々にセル形状が変形してしまったり、セルが小さくなり、十分な発泡倍率が得られないという問題点があった。
【0006】
これに対し、紫外線硬化樹脂を添加した熱可塑性樹脂組成物を原料とし、発泡後に該紫外線硬化型樹脂を架橋構造により硬化させることが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−168215号公報
【特許文献2】特開2009−13397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般に紫外線硬化樹脂は反応性が高いため、取り扱いにおいて反応の制御が難しいことがある。特に連続的に発泡させるために押し出し機を用いる場合、高いせん断場や高温の雰囲気で処理された条件において、特異的に紫外線硬化型樹脂が硬化反応することがある。さらに、窒素や二酸化炭素のような不活性ガスにより発泡させると、酸素によるラジカル重合反応の阻害要素がなくなるため、熱や機械的なせん断によるラジカルがトラップされないために、反応が促進する場合があった。
【0009】
従って、本発明の目的は、強度、柔軟性、クッション性、歪回復性等に優れ、特に樹脂の復元力による気泡構造の収縮が少なく、生産性のよい熱可塑性樹脂発泡体を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、強度、柔軟性、クッション性、歪回復性等に優れ、特に樹脂の復元力による気泡構造の収縮が少ない熱可塑性樹脂発泡体を生産性よく製造できる熱可塑性樹脂発泡体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、熱可塑性エラストマーおよび活性エネルギー線硬化型化合物を含む熱可塑性樹脂組成物から得られる熱可塑性樹脂発泡体において、原料となる熱可塑性樹脂組成物にラジカルトラップ剤を含有することで熱可塑性樹脂発泡体の製造工程における成形時の加工安定性を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物から得られることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、熱架橋剤及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物から得られることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、前記の熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を形成した後、該発泡構造体に活性エネルギー線を照射することから得られる前記の熱可塑性樹脂発泡体を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に用いられる発泡剤が、二酸化炭素又は窒素である前記の熱可塑性樹脂発泡体を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に用いられる発泡剤が、超臨界状態の流体である前記の熱可塑性樹脂発泡体を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、前記の熱可塑性エラストマーが、反応性官能基を有している前記の熱可塑性樹脂発泡体を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、前記の熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性エラストマー100重量部に対してラジカルトラップ剤を0.05〜10重量部含む前記の熱可塑性樹脂発泡体を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、前記のラジカルトラップ剤が、フェノール系またはアミン系の酸化防止剤または老化防止剤である前記の熱可塑性樹脂発泡体を提供する。
【0020】
さらにまた、本発明は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物を発泡成形することにより発泡構造体を形成した後、該発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成させることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体の製造方法を提供する。
【0021】
さらにまた、本発明は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、熱架橋剤及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物を発泡成形することにより発泡構造体を形成した後、該発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成させ、さらに加熱して、熱架橋剤による架橋構造を形成させることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体の製造方法を提供する。
【0022】
さらに、本発明は、熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に用いられる発泡剤が、二酸化炭素又は窒素である前記の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法を提供する。
【0023】
さらに、本発明は、熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に用いられる発泡剤が、超臨界状態の流体である前記の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法を提供する。
【0024】
さらにまた、本発明は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物及びラジカルトラップ剤を含み、熱可塑性樹脂発泡体の形成に用いることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂発泡体によれば、原料となる熱可塑性樹脂組成物にラジカルトラップ剤を配合しているので、製造工程における成形時の加工安定性が良好であり、強度、柔軟性、クッション性、歪回復性等に優れ、特に樹脂の復元力による気泡構造の収縮が少なく、さらに生産性に優れる。
【0026】
また、本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法によれば、原料となる熱可塑性樹脂組成物にラジカルトラップ剤が配合されているので、製造工程における成形時の加工安定性を改善でき、強度、柔軟性、クッション性、歪回復性等に優れ、特に樹脂の復元力による気泡構造の収縮が少ない熱可塑性樹脂発泡体の生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明において、熱可塑性樹脂発泡体は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物から得られる。つまり、熱可塑性樹脂発泡体は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物を発泡成形することにより得られる。
【0028】
特に、本発明では、強度、柔軟性、クッション性、歪回復性等に優れ、特に樹脂の復元力による気泡構造の収縮が少ない熱可塑性樹脂発泡体を得る点から、熱可塑性樹脂発泡体は、原料となる熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して、さらに活性エネルギー線を照射することから得ることが好ましい。少なくとも活性エネルギー線照射を行い、発泡体中に架橋構造を形成させれば、発泡体の圧縮歪回復性を高めることができるためである。
【0029】
従って、本発明では、熱可塑性樹脂発泡体は、例えば、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を形成した後、該発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成させることから得ることが好ましい。
【0030】
なお、「発泡構造体」とは、本発明の熱可塑性樹脂発泡体が架橋構造を有する熱可塑性樹脂発泡体である場合において、熱可塑性樹脂組成物を発泡成形することにより得られる発泡体であり、且つ架橋構造形成前の発泡体のことを意味する。
【0031】
(熱可塑性樹脂組成物)
本発明において、熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂発泡体の原料となる組成物であり、主成分としての熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物及びラジカルトラップ剤を少なくとも含有する。
【0032】
前記の熱可塑性樹脂組成物としては、具体的には、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物及びラジカルトラップ剤を少なくとも含む組成物、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、熱架橋剤及びラジカルトラップ剤を少なくとも含む組成物などが挙げられる。
【0033】
このような熱可塑性樹脂組成物に主成分として含まれる熱可塑性エラストマー(熱可塑性樹脂)としては、常温でゴム弾性を有するものである限り特に限定されないが、例えばアクリル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。中でも、アクリル系熱可塑性エラストマーやウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましい。なお、熱可塑性樹脂組成物では、熱可塑性エラストマーは、1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0034】
アクリル系熱可塑性エラストマーは、アクリル系モノマーの1種又は2種以上をモノマー成分として用いたアクリル系重合体(単独重合体又は共重合体)であり、ガラス転移温度の低いもの(例えば、ガラス転移温度が0℃以下のもの)が好ましい。
【0035】
アクリル系モノマーとしては、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましい。このようなアクリル酸アルキルエステルとしては、例えばエチルアクリレート(EA)、ブチルアクリレート(BA)、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)、イソオクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、プロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート(IBXA)などが挙げられる。
【0036】
このようなアクリル系モノマー(特に前記アクリル酸アルキルエステル)は、アクリル系熱可塑性エラストマーの主モノマー成分として用いられているので、その割合は、例えば、アクリル系熱可塑性エラストマーを形成する全モノマー成分のうち50重量%以上(好ましくは70重量%以上)であることが重要である。
【0037】
アクリル系熱可塑性エラストマーが共重合体である場合、必要に応じて、前記アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な単量体成分がモノマー成分として用いられていてもよい。なお、本願では、「アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な単量体成分」を「他の単量体成分」と称する場合がある。また、他の単量体成分は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0038】
このような他の単量体成分としては、主成分としての前記アクリル系モノマーと共重合可能な官能基含有モノマーが好ましく用いられる。
【0039】
ここで、官能基含有モノマーとは、熱可塑性エラストマーを形成する単量体成分であり、主の単量体成分と共重合することにより得られる熱可塑性エラストマーにおいて、後述の熱架橋剤中の官能基と反応し得る官能基を提供する単量体である。なお、本願では、「熱可塑性エラストマーが有している官能基であって、後述の熱架橋剤中の官能基と反応し得る官能基」を「反応性官能基」と称する場合がある。
【0040】
つまり、本発明では、発泡体中に熱架橋剤による架橋構造を形成する場合、原料としての熱可塑性樹脂組成物に含ませる熱可塑性エラストマーとしては、反応性官能基を有している熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0041】
アクリル系熱可塑性エラストマーを形成する単量体成分であって、前記アクリル系モノマーと共重合可能な官能基含有モノマーとしては、例えばメタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、イタコン酸(IA)などのカルボキシル基含有モノマー;ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)、ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)などのヒドロキシル基含有モノマー;ジメチルアミノエチルメタクリレート(DM)などのアミノ基含有モノマー;アクリルアマイド(AM)、メチロールアクリルアマイド(N−MAN)などのアミド基含有モノマー;グリシジルメタクリレート(GMA)などのエポキシ基含有モノマー;無水マレイン酸などの酸無水物基含有モノマー;アクリロニトリル(AN)などのシアノ基含有モノマー等が挙げられる。中でも、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)などのカルボキシル基含有モノマー、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)などのヒドロキシル基含有モノマー、及びアクリロニトリル(AN)などのシアノ基含有モノマーが架橋のしやすさから好ましく、特にアクリル酸(AA)、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)、アクリロニトリル(AN)などが好ましい。
【0042】
該官能基含有モノマーの使用量としては、例えば、アクリル系熱可塑性エラストマーを形成する全モノマー成分に対して0.5〜25.0重量%(好ましくは1.0〜20.0重量%)である。25.0重量%を超えると、反応が過剰に起こりすぎゲル化する危険性があり、一方0.5重量%未満では、架橋密度が低すぎて発泡体の特性が悪くなる場合がある。
【0043】
また、アクリル系熱可塑性エラストマーを形成する単量体成分であって、前記官能基含有モノマー以外の他の単量体成分(コモノマー)としては、例えば酢酸ビニル(VAc)、スチレン(St)、メチルメタクリレート(MMA)、メチルアクリレート(MA)、メトキシエチルアクリレート(MEA)などが挙げられる。中でも、メトキシエチルアクリレート(MEA)が耐寒性の点から好ましい。
【0044】
このようなコモノマーの使用量は、例えば、アクリル系熱可塑性エラストマーを形成する全モノマー成分に対して0〜50重量%(好ましくは0〜30重量%)である。50重量%を超えると経日での特性が低下する傾向があり好ましくない。
【0045】
また、熱可塑性樹脂組成物に主成分として含まれる好適な熱可塑性エラストマーとしてのウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、イソシアネート化合物とポリオール化合物とのウレタン化反応により得られる樹脂をいずれも使用することができ、特に制限されない。さらに、反応性官能基を有するウレタン系熱可塑性エラストマーを用いてもよい。
【0046】
イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物が挙げられる。中でも、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが好ましい。なお、イソシアネート化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0047】
ポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ブテンジオール、へキサンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルジオール、ペンタンジオール等の多価アルコールと、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マレイン酸などの脂肪族ジカルボン酸や、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸との縮合反応により得られるポリエステル系ポリオール化合物;ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリへキサメチレンエーテルグリコール等のポリエーテル系ポリオール化合物;ポリカプロラクトングリコール、ポリプロピオラクトングリコール、ポリバレロラクトングリコール等のラクトン系ポリオール化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール等の多価アルコールと、ジエチレンカーボネート、ジプロピレンカーボネート等との脱アルコール反応により得られるポリカーボネート系ポリオール化合物が挙げられる。また、ポリエチレングリコールなどの低分子量ジオールを用いることもできる。中でも、ポリエステル系ポリオール化合物、ポリエーテル系ポリオール化合物などが好ましい。なお、ポリオール化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0048】
また、反応性官能基を有するウレタン系熱可塑性エラストマーは、例えば、重合の際にイソシアネート化合物をポリオール化合物に対して等モル量より過剰に配合することにより、重合体にイソシアネート基を残す方法などを用いることにより得ることができる。
【0049】
本発明において、原料としての熱可塑性樹脂組成物が含有している活性エネルギー線硬化型化合物としては、活性エネルギー線の照射によって硬化する化合物である限り特に制限されないが、紫外線の照射によって硬化する紫外線硬化型化合物が好ましい。なお、活性エネルギー線硬化型化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0050】
活性エネルギー線硬化型化合物(特に紫外線硬化型化合物)としては、不揮発性でかつ重量平均分子量が10000以下の低分子量体である不飽和化合物が好ましい。なお、本願では、「不揮発性でかつ重量平均分子量が10000以下の低分子量体である不飽和化合物」を「重合性不飽和化合物」と称する場合がある。
【0051】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物が活性エネルギー線硬化型化合物を含有していると、熱可塑性樹脂組成物を発泡成形することにより得られる発泡構造体に対して活性エネルギー線を照射することにより、活性エネルギー線硬化型化合物を反応(硬化)させ架橋構造を形成することができる。これにより、熱可塑性樹脂発泡体の形状固定性がさらに向上し、熱可塑性樹脂発泡体における気泡構造の経時的な変形や収縮を防ぐことができる。また、このような架橋構造を有する熱可塑性樹脂発泡体は、圧縮した場合の歪回復性にも優れており、発泡時の高い発泡倍率を維持することができる。さらに、高温下で圧縮した場合の歪回復性にも優れている。
【0052】
前記の重合性不飽和化合物の具体例としては、例えばフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールとのエステル化物、多官能ポリエステルアクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、多官能ウレタンアクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、前記重合性不飽和化合物は、モノマーであってもよいし、オリゴマーであってもよい。なお、本発明にいう「(メタ)アクリル」とは「アクリル及び/又はメタクリル」を意味し、他も同様である。
【0053】
熱可塑性樹脂組成物における活性エネルギー線硬化型化合物の配合量は、発泡構造体に活性エネルギー線を照射することによって架橋構造を形成できる限り特に制限されないが、例えば前記重合性不飽和化合物を活性エネルギー線硬化型化合物として使用する場合、熱可塑性エラストマー100重量部に対して3〜200重量部(好ましくは5〜150重量部)である。活性エネルギー線硬化型化合物の配合量が多すぎると(例えば前記重合性不飽和化合物の配合量が熱可塑性エラストマー100重量部に対して200重量部を超えていると)、熱可塑性樹脂発泡体の硬度が高くなり、クッション性が低下する場合がある。一方、活性エネルギー線硬化型化合物の配合量が少なすぎると(例えば前記重合性不飽和化合物の配合量が熱可塑性エラストマー100重量部に対して3重量部未満であると)、熱可塑性樹脂発泡体において高い発泡倍率を維持することができない場合がある。
【0054】
さらに、本発明では、熱可塑性樹脂発泡体の原料となる熱可塑性樹脂組成物は、ラジカルトラップ剤を含有する。ラジカルトラップ剤とは、ラジカル重合反応を生じさせるフリーラジカルを捕捉できる化合物、又は該化合物を含む混合物のことであり、例えば酸化防止剤、老化防止剤などを用いることができる。なお、ラジカルトラップ剤は、単独で用いてもよいし、併用して用いてもよい。
【0055】
本発明では、ラジカルトラップ剤を用いることで、成形時の加工安定性を向上できる。この理由は、明確ではないが、下記の理由による。熱可塑性樹脂組成物では、成形する条件により、熱可塑性樹脂組成物中の活性エネルギー線硬化型化合物の反応が促進されることがある。これは、機械的あるいは熱的な作用により、熱可塑性エラストマーの分子鎖が切断されると、切断された樹脂のラジカルが活性エネルギー線硬化型化合物の硬化を促進することによると推定されるが、ラジカルトラップ剤を配合することにより、このような分子鎖の切断を抑制できる。
【0056】
特に、熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に用いられる発泡剤として、後述の窒素や二酸化炭素のような不活性ガスを用いる場合には、ラジカル重合反応の阻害要素がなく、ラジカルが失活しにくい。このことからも、ラジカルトラップ剤を用いることが重要である。
【0057】
また、本発明では、ラジカルトラップ剤は、熱可塑性樹脂組成物中でラジカルをトラップすることにより、耐熱安定剤としても作用する。
【0058】
ラジカルトラップ剤として用いられる酸化防止剤や老化防止剤としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0059】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤などのフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤などのアミン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0060】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトール・テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名「Irganox1010」、チバ・ジャパン社製)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名「Irganox1076」、チバ・ジャパン社製)、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール(商品名「Irganox1726」、チバ・ジャパン社製)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名「Irganox245」、チバ・ジャパン社製)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(商品名「TINUVIN770」、チバ・ジャパン社製)、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6テトラメチル−1−ピペリリジンエタノールとの重縮合物(コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6テトラメチルピペリジン重縮合物)(商品名「TINUVIN622」、チバ・ジャパン社製)などが挙げられる。中でも、成型時の加工安定性及び活性エネルギー線照射時の硬化性の点から、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名「Irganox245」、チバ・ジャパン社製)、ペンタエリスリトール・テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名「Irganox1010」、チバ・ジャパン社製)等が好ましい。
【0061】
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、特に制限されないが、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート(メチル)(商品名「TINUVIN765」、チバ・ジャパン社製)、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート(商品名「TINUVIN765」、チバ・ジャパン社製)等が好ましい。
【0062】
老化防止剤としては、例えば、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤などが挙げられる。
【0063】
フェノール系老化防止剤としては、例えば、商品名「スミライザーGM」(住友化学株式会社製)、商品名「スミライザーGS」(住友化学株式会社製)などの市販のものが挙げられる。
【0064】
アミン系老化防止剤としては、例えば、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラック CD」大内新興化学工業株式会社製、商品名「ナウガード445」Crompton Corporation製)、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(商品名「ノクラック DP」、大内新興化学工業株式会社製)、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン(商品名「ノクラック
TD」、大内新興化学工業株式会社製)などが挙げられる。中でも、成型時の加工安定性及び活性エネルギー線照射時の硬化性の点から、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ナウガード445」Crompton Corporation製)等が好ましい。
【0065】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物中のラジカルトラップ剤の含有量は、特に制限されないが、熱可塑性エラストマー100重量部に対して0.05〜10重量部が好ましく、より好適には0.1〜10重量部程度である。0.05重量部未満であると、添加量が少ないために、製造中に発生したラジカルを十分にトラップすることができない場合がある。また、10重量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物から樹脂発泡体を製造する際に発泡不良を生じるといった問題や、添加したラジカルトラップ剤が得られた発泡体の表面にブリードするなどの問題が発生することがある。
【0066】
さらに、本発明では、熱可塑性樹脂組成物には、光重合開始剤が含まれていてもよい。光重合開始剤が含まれていると、活性エネルギー線硬化型化合物を反応させて架橋構造を形成させる場合、架橋構造の形成が容易となる。なお、光重合開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0067】
光重合開始剤としては、特に制限されず、各種のものを使用することができる。例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、アニソールメチルエーテルなどのべンゾインエーテル系光重合開始剤;2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン系光重合開始剤;2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエチル)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オンなどのα−ケトール系光重合開始剤;2−ナフタレンスルホニルクロライドなどの芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤;1−フェニル−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)−オキシムなどの光活性オキシム系光重合開始剤;ベンゾインなどのべンゾイン系光重合開始剤;ベンジルなどのべンジル系光重合開始剤;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3´−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、α −ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのベンゾフェノン系光重合開始剤;ベンジルジメチルケタールなどのケタール系光重合開始剤;チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、ドデシルチオキサントンなどのチオキサントン系光重合開始剤;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル」−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1などのα−アミノケトン系光重合開始剤;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤などが挙げられる。
【0068】
光重合開始剤の使用量としては、特に制限されないが、例えば、熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性エラストマー100重量部に対して0.01〜5重量部(好ましくは0.2〜4重量部)の範囲から選択することができる。
【0069】
さらにまた、本発明では、熱可塑性樹脂組成物には熱架橋剤が含まれていてもよい。熱架橋剤は、熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性エラストマーが反応性官能基を有する場合、この反応性官能基と反応して架橋構造を形成することができる。このような架橋構造の形成は、熱可塑性樹脂発泡体の形状固定性の向上、気泡構造の経時的な変形や収縮の防止、歪回復性の点で有利である。なお、熱架橋剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0070】
このような熱架橋剤としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのポリイソシアネート;へキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、へキサメチレンジアミンカルバメート、N,N´−ジシンナミイデン−1,6−へキサンジアミン、4,4´−メチレンビス(シクロへキシルアミン)カルバメート、4,4´−(2−クロロアニリン)などのポリアミン等が挙げられる。
【0071】
このような熱架橋剤は、適宜調節して使用することができる。熱架橋剤の使用量としては、特に制限されないが、通常、熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性エラストマー100重量部に対して、0.01〜10重量部(好ましくは0.05〜5重量部)程度である。
【0072】
また、熱架橋剤は、反応性官能基を有する熱可塑性エラストマー(熱可塑性樹脂)に配合しても差し支えなく、さらに反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーと、反応性官能基を有しない熱可塑性樹脂と、反応性官能基を有する架橋剤とを同時に使用してもよい。
【0073】
本発明では、熱可塑性樹脂発泡体を形成する熱可塑性樹脂組成物には、さらに、パウダー粒子を含んでいてもよい。パウダー粒子は、発泡成形時の発泡核剤としての機能を発揮することができる。そのため、パウダー粒子を配合することにより、良好な発泡状態の熱可塑性樹脂発泡体を得ることができる。パウダー粒子としては、例えば、パウダー状のタルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マイカ、モンモリナイト等のクレイ、カーボン粒子、グラスファイバー、カーボンチューブなどを用いることができる。なお、パウダー粒子は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
なお、本発明では、パウダー粒子としては、平均粒子径(粒径)が0.1〜20μm程度のパウダー状の粒子を好適に用いることができる。パウダー粒子の平均粒子径が0.1μm未満では核剤として十分機能しない場合があり、粒径が20μmを超えると発泡成形時にガス抜けの原因となる場合があり好ましくない。
【0075】
パウダー粒子の配合量としては、特に制限されないが、例えば、熱可塑性エラストマー100重量部に対して5〜150重量部(好ましくは10〜120重量部)の範囲から適宜選択することができる。パウダー粒子の配合量が熱可塑性エラストマー100重量部に対して5重量部未満であると、均一な発泡体を得ることが困難になり、一方150重量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の粘度が著しく上昇するとともに、発泡成形時にガス抜けが生じてしまい、発泡特性を損なうおそれがある。
【0076】
また、熱可塑性樹脂発泡体は、熱可塑性エラストマーにより構成されているため、燃えやすいという特性(もちろん、欠点でもある)を有している。そのため、特に、熱可塑性樹脂発泡体を、電気・電子機器用途などの難燃性の付与が不可欠な用途では、パウダー粒子として、難燃性を有しているパウダー粒子(例えば、パウダー状の各種の難燃剤など)を配合してもよい。なお、難燃剤は、難燃剤以外のパウダー粒子とともに用いることができる。
【0077】
パウダー状の難燃剤において、難燃剤としては無機難燃剤が好適である。無機難燃剤としでは、例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン系難燃剤などであってもよいが、塩素系難燃剤や臭素系難燃剤は、燃焼時に人体に対して有害で機器類に対して腐食性を有するガス成分を発生し、また、リン系難燃剤やアンチモン系難燃剤は、有害性や爆発性などの問題があるため、ノンハロゲン−ノンアンチモン系無機難燃剤を好適に用いることができる。ノンハロゲン−ノンアンチモン系無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム・酸化ニッケルの水和物、酸化マグネシウム・酸化亜鉛の水和物等の水和金属化合物などが挙げられる。なお、水和金属酸化物は表面処理されていてもよい。また、難燃剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
難燃剤を用いる場合、難燃剤の使用量としては、特に制限されず、例えば、熱可塑性樹脂組成物全量に対して5〜150重量%(好ましくは10〜120重量%)の範囲から適宜選択することができる。難燃剤の使用量が少なすぎると、難燃化効果が小さくなり、逆に多すぎると、高発泡の発泡体を得ることが困難になる。
【0079】
さらに、本発明では、熱可塑性樹脂組成物に、必要に応じて、各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤の種類は特に限定されず、発泡成形に通常使用される各種添加剤を用いることができる。具体的な添加剤として、例えば、気泡核剤、結晶核剤、可塑剤、滑剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、界面活性剤、張力改質剤、収縮防止剤、流動性改質剤、クレイ、加硫剤、表面処理剤、パウダー状以外の各種形態の難燃剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量は、特に制限されず、通常熱可塑性樹脂発泡体の製造に用いられる配合量で使用できる。熱可塑性樹脂発泡体の強度、柔軟性、歪回復性等の所望の良好な特性の発現を阻害しない範囲内で適宜調節して使用すればよい。
【0080】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物は、特に制限されないが、例えば、必要に応じて、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、ラジカルトラップ剤、熱架橋剤、光重合開始剤、パウダー粒子、その他添加剤等を、混合、混錬、溶融混合等することにより得ることができる。
【0081】
(熱可塑性樹脂発泡体の製造方法)
本発明では、熱可塑性樹脂発泡体は、前記の熱可塑性樹脂組成物(例えば、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、及びラジカルトラップ剤を少なくとも含む熱可塑性樹脂組成物、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、熱架橋剤及びラジカルトラップ剤を少なくとも含む熱可塑性樹脂組成物など)から得られる。
【0082】
より好適には、本発明において、熱可塑性樹脂発泡体は、前記の熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を形成した後、該発泡構造体に活性エネルギー線を照射することから得られる。なお、発泡構造体は、熱可塑性樹脂組成物を、発泡剤を含浸させた後減圧する工程を経て発泡成形することにより得ることが好ましい。
【0083】
より詳細には、本発明において、熱可塑性樹脂発泡体は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を形成した後、該発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成させることにより得ることが好ましい。また、熱可塑性樹脂発泡体は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、熱架橋剤及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を形成した後、該発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成させ、さらに加熱して、熱架橋剤による架橋構造を形成させることにより得ることが好ましい。
【0084】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に用いられる発泡剤としては、常温常圧では気体であって、熱可塑性エラストマー(熱可塑性樹脂)に対して不活性で且つ含浸可能なものであれば特に制限されない。なお、本願では、「熱可塑性エラストマーに対して不活性で且つ含浸可能なガス」を、「不活性ガス」と称する場合がある。
【0085】
前記の不活性ガスとしては、例えば、希ガス(例えば、へリウム、アルゴンなど)、二
酸化炭素、窒素、空気等が挙げられる。これらのガスは混合して用いてもよい。これらの
うち、発泡体の素材として用いる熱可塑性エラストマーへの含浸量が多く、含浸速度の速
い点から、二酸化炭素又は窒素を好適に用いることができる。
【0086】
特に、本発明では、熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に用いられる発泡剤として、上記の窒素や二酸化炭素のような不活性ガスを用いる場合には、ラジカルトラップ剤を熱可塑性樹脂組成物に必須の成分として含有させる必要がある。なぜなら、窒素や二酸化炭素のような不活性ガスを用いる場合、当然に酸素によるラジカル重合反応の阻害が生じることはないので、ラジカルが発生しても失活しにくい。そして、この発生したラジカルは、活性エネルギー線硬化型化合物の特異的な硬化反応を引き起こすおそれがあるからである。一般に、活性エネルギー線硬化型化合物は反応性に富んでおり、また、熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に、熱や機械的なせん断によりラジカルが生じることがある。
【0087】
さらに、熱可塑性エラストマーへの含浸速度を速めるという観点から、発泡剤は、高圧のガス(特に高圧の二酸化炭素ガス又は高圧の窒素ガス)であることが好ましく、より好ましくは超臨界状態の流体(特に超臨界状態の二酸化炭素ガス又は超臨界状態の窒素ガス)であることが好ましい。超臨界状態では、熱可塑性エラストマーへのガスの溶解度が増大し、高濃度の混入が可能である。また、含浸後の急激な圧力降下時には、前記のように高濃度で含浸することが可能であるため、気泡核の発生が多くなり、その気泡核が成長してできる気泡の密度が、気孔率が同じであっても大きくなるため、微細な気泡を得ることができる。なお、二酸化炭素の臨界温度は31℃ 、臨界圧力は7.4MPaである。
【0088】
熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を形成する際には、予め熱可塑性樹脂組成物を、例えば、シート状などの適宜な形状に成形して未発泡樹脂成形体(未発泡成形物)とした後、この未発泡樹脂成形体に、発泡剤(特に高圧のガスや超臨界状態の流体)を含浸させ、圧力を解放することにより発泡させるバッチ方式で行ってもよく、熱可塑性樹脂組成物を加圧下、発泡剤(特に高圧のガスや超臨界状態の流体)と共に混錬し、成形すると同時に圧力を解放し、成形と発泡を同時に行う連続方式で行ってもよい。
【0089】
このように、熱可塑性樹脂組成物を成形して未発泡樹脂成形体した後、該未発泡樹脂成形体に発泡剤を含浸させた後、減圧する工程を経て発泡成形することにより発泡構造体を得てもよい。また、溶融した熱可塑性樹脂組成物に発泡剤を加圧状態下で含浸させた後、減圧の際に成形に付すことにより発泡構造体を得てもよい。
【0090】
具体的には、バッチ方式で発泡構造体を製造する際、未発泡樹脂成形体を製造する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂組成物(発泡構造体様組成物)を、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を用いて成形する方法、熱可塑性樹脂組成物をローラ、カム、ニーダ、バンバリ型等の羽根を設けた混錬機を使用して均一に混錬しておき、熱板プレスなどを用いて所定の厚みにプレス成形する方法、射出成形機を用いて成形する方法などが挙げられる。所望の形状や厚さの成形体が得られる適宜な方法により成形すればよい。こうして得られた未発泡樹脂成形体(熱可塑性樹脂組成物による成形体)を耐圧容器(高圧容器)に入れて、発泡剤としてのガス(例えば二酸化炭素や窒素など)を注入(導入)し、高圧下で、未発泡樹脂成形体中にガスを含浸させるガス含浸工程、十分にガスを含浸させた時点で圧力を解放し(通常、大気圧まで)、熱可塑性エラストマー中に気泡核を発生させる減圧工程、場合によっては(必要に応じて)、加熱することによって気泡核を成長させる加熱工程を経て、未発泡樹脂成形体中に気泡を形成させる。なお、加熱工程を設けずに、室温で気泡核を成長させてもよい。このようにして気泡を成長させた後、必要により冷水などにより急激に冷却し、形状を固定化することにより、発泡構造体を得ることができる。なお、未発泡樹脂成形体の形状は特に限定されず、ロール状、シート状、板状等の何れであってもよい。また、発泡剤としてのガスの導入は連続的に行ってもよく不連続的に行ってもよい。さらに、気泡核を成長させる際の加熱の方法としては、ウォーターバス、オイルバス、熱ロール、熱風オーブン、遠赤外線、近赤外線、マイクロ波などの公知乃至慣用の方法を採用できる。また、発泡に供する未発泡樹脂成形体は、押出成形、プレス成形、射出成形以外に、他の成形方法により作製することもできる。
【0091】
一方、連続方式で発泡構造体を製造する場合は、熱可塑性樹脂組成物(発泡構造体用組成物)を、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用して混錬しながら、発泡剤としてのガス(例えば二酸化炭素や窒素など)を注入(導入)し、高圧下で、十分にガスを含浸させる混錬含浸工程、押出機の先端に設けられたダイスなどを通して熱可塑性樹脂組成物を押し出すことにより圧力を解放し(通常、大気圧まで)、成形と発泡を同時に行う成形減圧工程により製造することができる。また、場合によっては(必要に応じて)、加熱することによって気泡を成長させる加熱工程を設けてもよい。このようにして気泡を成長させた後、必要により冷水などにより急激に冷却し、形状を固定化することにより、発泡構造体を得ることができる。なお、上記混錬含浸工程及び成形減圧工程では、押出機のほか、射出成形機などを用いて行うこともできる。また、シート状、角柱状、その他の任意の形状の発泡構造体を得られる方法を適宜選択すればよい。
【0092】
発泡剤(発泡剤としてのガス)の混合量は、特に制限されず、所望の密度や発泡倍率が得られるように、適宜調節して混合される。
【0093】
バッチ方式におけるガス含浸工程や連続方式における混錬含浸工程で、発泡剤を未発泡樹脂成形体や熱可塑性樹脂組成物に含浸させるときの圧力は、発泡剤としてのガスの種類や操作性等を考慮して適宜選択できるが、例えば、発泡剤として二酸化炭素を用いる場合には、6MPa以上(例えば、6〜100MPa程度)、好ましくは8MPa以上(例えば、8〜100MPa程度)とするのがよい。圧力が6MPaより低い場合には、発泡時の気泡成長が著しく、気泡径が大きくなりすぎ、例えば、防塵効果が低下するなどの不都合が生じやすくなり、好ましくない。これは、圧力が低いと二酸化炭素ガスの含浸量が高圧時に比べて相対的に少なく、気泡核形成速度が低下して形成される気泡核数が少なくなるため、1気泡あたりのガス量が逆に増えて気泡径が極端に大きくなるからである。また、6MPaより低い圧力領域では、含浸圧力を少し変化させるだけで気泡径、気泡密度が大きく変わるため、気泡径及び気泡密度の制御が困難になりやすい。
【0094】
また、バッチ方式におけるガス含浸工程や連続方式における混錬含浸工程で、発泡剤を未発泡樹脂成形体や熱可塑性樹脂組成物に含浸させるときの温度は、用いる発泡剤としてのガスや熱可塑性エラストマーの種類等によって異なり、広い範囲で選択できるが、操作性等を考慮した場合、例えば、10〜350℃程度である。例えば、バッチ方式において、シート状の未発泡樹脂成形体に発泡剤としてのガスを含浸させる場合の含浸温度は、10〜200℃(好ましくは40〜200℃)程度である。また、連続方式において、熱可塑性樹脂組成物(熱可塑性樹脂発泡体用組成物)に発泡剤としてのガスを注入し混錬する際の温度は、60〜350℃(好ましくは40〜200℃)程度が一般的である。なお、発泡剤として二酸化炭素を用いる場合には、超臨界状態を保持するため、含浸時の温度(含浸温度)は32℃以上(特に40℃以上)であることが好ましい。
【0095】
さらに、バッチ方式におけるガス含浸工程や連続方式における混錬含浸工程で、発泡剤を未発泡樹脂成形体や熱可塑性樹脂組成物に含浸させるときのガス量は、特に限定されないが、未発泡樹脂成形体全量(100重量%)や熱可塑性樹脂組成物全量(100重量%)に対して、2〜6重量%が好ましい。
【0096】
なお、前記減圧工程において、減圧速度は、特に限定されないが、均一な微細気泡を得るため、好ましくは5〜300MPa/秒程度である。また、前記加熱工程における加熱温度は、例えば、40〜250℃(好ましくは60〜250℃)程度である。
【0097】
また、このような製造方法によれば、高発泡倍率の発泡構造体を製造することができるので、厚い発泡構造体を製造することが出来るという利点を有する。このことは、本発明において、厚い樹脂発泡体を得ようとする場合に有利である。例えば、連続方式で発泡構造体を製造する場合、混錬含浸工程において押出し機内部での圧力を保持するためには、押出し機先端に取り付けるダイスのギャップを出来るだけ狭く(通常0.1〜1.0mm)する必要がある。従って、厚い発泡構造体を得るためには、狭いギャップを通して押出された熱可塑性樹脂発泡体組成物を高い倍率で発泡させなければならないが、従来は、高い発泡倍率が得られないことから、厚みの薄いもの(例えば0.5〜2.0mm程度)に限定されてしまっていた。これに対して、発泡剤としてのガスを用いて製造される前記の製造方法は、最終的な厚みで0.50〜5.00mmの発泡構造体を連続して得ることが可能である。なお、このような厚い発泡構造体を得るためには、発泡構造体の相対密度(発泡後の密度/未発泡状態での密度)が0.02〜0.3(好ましくは0.05〜0.25) であることが望ましい。前記相対密度が0.3を超えると発泡が不十分であり、また0.02未満では強度が著しく低下する場合があり好ましくない。
【0098】
なお、発泡構造体の形状や厚みなどは、特に制限されず、熱可塑性樹脂発泡体の用途に応じて、適宜選択することができる。なお、発泡構造体は、前記の製造方法によって作製された後、架橋構造の形成を目的とする活性エネルギー線の照射や加熱の前に、種々の形状や厚みに加工されてもよい。また、発泡構造体は、後述の樹脂発泡体の密度と同様の密度を有することが好ましい。
【0099】
発泡構造体の厚み、密度、相体密度等は、用いる発泡剤、熱可塑性エラストマー(熱可塑性樹脂)の成分に応じて、例えば、発泡構造体作製時の、ガス含浸工程や混錬含浸工程における温度、圧力、時間などの操作条件、減圧工程や成形減圧工程における減圧速度、温度、圧力などの操作条件、減圧後又は成形減圧後の加熱工程における加熱温度などを適宜選択、設定することにより調整することができる。
【0100】
本発明において、上記のような方法で得られた発泡構造体に対する架橋構造の形成は、該発泡構造体に対する活性エネルギー線照射を少なくとも行うことによりなされる。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂発泡体は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、及びラジカルトラップ剤を少なくとも含む樹脂組成物を発泡成形することにより発泡構造体を得てから、該発泡構造体に活性エネルギー線照射を少なくとも行って、活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成することにより得てもよい。
【0101】
また、発泡構造体に対する架橋構造の形成は、原料となる熱可塑性樹脂組成物に熱架橋剤が含まれている場合、発泡構造体を加熱することでも生じる。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂発泡体は、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、熱架橋剤及びラジカルトラップ剤を少なくとも含む樹脂組成物を発泡成形することにより発泡構造体を得てから、該発泡構造体に活性エネルギー線照射を行って、活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成し、さらに加熱して、熱架橋剤による架橋構造を形成することでも得られる。
【0102】
架橋構造形成の際に用いられる活性エネルギー線としては、例えば、α線、β線、γ線、中性子線、電子線などの電離性放射線や、紫外線などが挙げられ、特に、作業性の点から紫外線、電子線が好適である。また、活性エネルギー線の照射エネルギー、照射時間、照射方法などは、活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成することができる限り特に制限されない。このような活性エネルギー線の照射としては、例えば、発泡構造体がシート状の形状であって、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合、シート状の発泡構造体に対して、一方の面に対する紫外線の照射(照射エネルギー:750mJ/cm2)した後、再び、他方に面に対する紫外線の照射(照射エネルギー:750mJ/cm2)をすることが挙げられる。また、発泡構造体がシート状の形状であって、活性エネルギー線として電子線を用いる場合、シート状の発泡構造体に対して、一方の面から、照射線量:50〜300kGyの電子線を照射することが挙げられる。
【0103】
特に、上記活性エネルギー線としては、より密な活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を得る点からは、電子線が好ましい。
【0104】
また、発泡構造体への架橋構造形成の際に行われる加熱の方法としては、熱架橋剤による架橋構造を形成することができる限り特に制限されないが、例えば、100〜230℃(好ましくは100〜200℃、より好ましくは110〜180℃、さらにより好ましくは120℃〜170℃)の温度雰囲気下で、1分〜10時間(好ましくは10分〜10時間、より好ましくは30分〜8時間、さらにより好ましくは1時間〜5時間)放置することが挙げられる。なお、このような温度雰囲気下は、例えば公知の加熱方法(例えば電熱ヒーターを用いた加熱方法、赤外線等の電磁波を用いた加熱方法、ウォーターバスを用いた加熱方法など)により得ることができる。
【0105】
本発明では、ラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物から熱可塑性樹脂発泡体を得ているので、製造工程の途中で、例えば機械的あるいは熱的な作用等により、ラジカルが発生したとしても、ラジカルトラップ剤がラジカルを捕捉すると推定される。このことは、製造工程における成形時における特異的な活性エネルギー線硬化型化合物の硬化反応の抑制につながると推測される。
【0106】
よって、本発明では、製造工程における成形時の加工安定性が良好であり、強度、柔軟性、クッション性、歪回復性等に優れる熱可塑性樹脂発泡体を生産性よく得ることができる。
【0107】
(熱可塑性樹脂発泡体)
本発明において、熱可塑性樹脂発泡体は、前記の熱可塑性樹脂組成物から、前記の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法により得られる。このような熱可塑性樹脂発泡体は、ラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなるので、製造工程における成形時の加工安定性が良好であり、強度、柔軟性、クッション性、歪回復性等に優れ、生産性もよい。さらに、良好な形状固定性を有し、また経時的に生じる発泡体内の気泡構造の変形や収縮を生じることはない。特に、樹脂の復元力による気泡構造の収縮が少なく、発泡時の高い発泡倍率を維持することができる。さらにまた、高温下で圧縮保持された後の歪回復性も優れている。
【0108】
熱可塑性樹脂発泡体の密度は、特に制限されないが、0.01〜0.8g/cm3が好ましく、より好ましくは0.02〜0.2g/cm3である。密度がこの範囲内にあるとき、熱可塑性樹脂発泡体において、適度な強度と柔軟性が得られ、さらに良好なクッション性、良好な歪回復性を発現しやすい。
【0109】
熱可塑性樹脂発泡体の密度は、40mm×40mmの打抜き刃型にて、熱可塑性樹脂発泡体を打抜き、打ち抜いた試料の寸法を測定する。また、測定端子の直径(φ)20mmである1/100ダイヤルゲージにて厚みを測定する。これらの値から打ち抜いた試料の体積を算出する。次に、打ち抜いた試料の重量を最小目盛り0.01g以上の上皿天秤にて測定する。これらの値より、密度(g/cm3)を算出することができる。
【0110】
熱可塑性樹脂発泡体の厚み、密度、相体密度等は、用いる発泡剤、熱可塑性エラストマー(熱可塑性樹脂)の成分に応じて、例えば、発泡構造体作製時の、ガス含浸工程や混錬含浸工程における温度、圧力、時間などの操作条件、減圧工程や成形減圧工程における減圧速度、温度、圧力などの操作条件、減圧後又は成形減圧後の加熱工程における加熱温度などを適宜選択、設定することにより調整することができる。また、熱可塑性樹脂発泡体中の架橋構造の程度を制御することでも調整することができる。
【0111】
熱可塑性樹脂発泡体の気泡構造としては、独立気泡構造や半連続半独立気泡構造(独立気泡構造と連続気泡構造とが混在している気泡構造であり、その割合は特に制限されない)が好ましく、特に、熱可塑性樹脂発抱体中に独立気泡構造部が80%以上(中でも90%以上)となっている気泡構造が好適である。
【0112】
熱可塑性樹脂発泡体の形状や厚みなどとしては、特に制限されず、用途などに応じて適宜選択することができる。例えば、厚みとしては、0.1〜20mm(好ましくは、0.2〜15mm)程度の範囲から選択することができる。また、形状としては、例えば、シート状、テープ状、フィルム状などである。
【0113】
なお、本発明の熱可塑性樹脂発泡体は歪回復性に優れるが、歪回復率(50%圧縮永久歪)は、以下に説明する方法で求めることができる。熱可塑性樹脂発泡体から試験片をサンプリングして、その厚さを正確に測定する。このときの試験片の厚さをaとする。試験片の厚さの半分の厚さbを有するスペーサーを用いて、試験片を50%の厚さ(厚さb)になるように圧縮し、その状態で、24時間保存する。24時間後、圧縮状態を解放する。解放してから30分後に試験片の厚みを正確に測る。このときの試験片の厚さをcとする。そして、圧縮した距離に対する回復した距離の比率を歪回復率(50%圧縮永久歪)とすることにより求める。
歪回復率(50%圧縮永久歪)[%] =(c−b)/(a−b)×100
なお、該歪回復率を「解放してから30分後の歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)」と称する場合がある。
【0114】
また、上記「解放してから30分後の歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)」に加えて、「解放してから24時間後の歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)」も求めることができる。「解放してから24時間後の歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)」の求め方は、圧縮状態を解放してから24時間後の試験片の厚さを正確に測ること以外は、上記「解放してから30分後の歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)の求め方」と同様である。
【0115】
本発明の熱可塑性樹脂発泡体は、例えば、電子機器等の内部絶縁体、緩衝材、遮音材、断熱材、食品包装材、衣用材、また建材用として、極めて有用である。
【実施例】
【0116】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に
より限定されるものではない。
【0117】
(試験評価1)
ラジカルトラップ剤の効果を確認するために、バッチ式混合装置での硬化性評価試験、及び、連続押出し機による硬化性評価試験を行った。前記の評価試験が良好と評価できる場合、ラジカルトラップ剤が効果を発揮し、成形時の加工安定性が良好と評価できる。一方、前記の評価試験が不良と評価できる場合、ラジカルトラップ剤が効果を発揮できず、成形時の加工安定性が不良と評価できる。
【0118】
[バッチ式混合装置での硬化性評価試験(バッチ評価)]
予め予備混錬して得た熱可塑性樹脂組成物を、ローラ型の羽を設けた混錬機(装置名「ラボプラストミル」、株式会社東洋精機製作所製、混合容量:60ml)に投入し、混錬機に窒素置換用の蓋を設置して10rpmで2分間混合する。その後、回転数(回転速度)を40rpmに変更して、窒素を5L/minにて流通させて(窒素を5L/minで混錬機内に流入させて)、空気を窒素に置換する。窒素を流通させてから8分後、回転数を70rpmに変更し、評価用の樹脂組成物を得る。なお、容器内の酸素ガス濃度は、酸素モニターにて確認でき、窒素を流通させてから5分後には0.2%以下であった。
該評価用の樹脂組成物の外観、トルクの上昇度、及び該評価用の樹脂組成物のゲル分を下記評価基準で評価する。なお、評価用の樹脂組成物のゲル分評価は必要に応じて行い、また、ゲル分の測定は後述の方法により行う。
【0119】
(評価基準)
外観:目視で硬化物がみられない場合を良好とし、目視で硬化物がみられる場合を不良とする。
トルクの上昇度:経時でトルクの上昇がみられない場合には硬化物が生じていないと判断でき、良好とする。一方、経時でトルクの上昇がみられる場合には硬化物が生じていると判断でき、不良とする。
ゲル分:下記測定方法によるゲル分が50重量%以下である場合には、硬化物が生じていないと判断でき、良好とする。一方、下記測定方法によるゲル分が50重量%を超える場合には、硬化物が生じていると判断でき、不良とする。
【0120】
(総合評価)
外観、トルクの上昇度、及び、必要に応じて行われるゲル分について、総合的な判断をすることにより、最終的な評価を行う。
全てが良好である場合、総合評価を良好とする。一方、少なくとも一つが不良である場合、総合評価を不良とする。
【0121】
[連続押出し機による硬化性評価試験(連続機評価)]
予め予備混錬して得た熱可塑性樹脂組成物を、押出し機(装置名「TP型単軸押出機
TP−25」、サーモ・プラスチック株式会社製、スクリュー径:φ20mm、L/D:30、スクリュー:谷径円錐テーパタイプのフルフライトスクリュー)に投入し、回転数50rpm、供給量(押出量)1kg/hrで供給する(押出しを実施する)。なお、二酸化炭素は0.2kg/hrで供給する。また、ダイは設置せず、押出を実施する。
押出物の外観、トルクの上昇度、及び押出物のゲル分を下記の評価基準により評価する。なお、押出物のゲル分の評価は必要に応じて行い、また、ゲル分測定は後述の方法により行う。
【0122】
(評価基準)
外観:目視で硬化物がみられない場合を良好とし、目視で硬化物がみられる場合を不良とする。
トルクの上昇度:経時でトルクの上昇がみられない場合には硬化物が生じていないと判断でき、良好とする。一方、経時でトルクの上昇がみられる場合には硬化物が生じていると判断でき、不良とする。
ゲル分:下記測定方法によるゲル分が50重量%以下である場合には、硬化物が生じていないと判断でき、良好とする。一方、下記測定方法によるゲル分が50重量%を超える場合には、硬化物が生じていると判断でき、不良とする。
【0123】
(総合評価)
外観、トルクの上昇度、及び必要に応じて行われるゲル分について、総合的な判断をすることにより、最終的な評価を行う。
全てを良好と判断できる場合、総合評価を良好とする。一方、少なくとも一つが不良と評価できる場合、総合評価を不良とする。
【0124】
(ゲル分測定)
試料を0.1g(初期重量)採取し、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔質膜で包んでから、その包みを、酢酸エチル50ml中に、1週間、室温で、放置した。放置後、包みを取り出し、130℃で1時間乾燥して、試料を秤量した。その時の試料の重さを、「一週間後の重量」とした。そして、下記式より、ゲル分率を算出した。
ゲル分率(重量%)=(一週間後の重量)/(初期重量)×100
【0125】
(実施例1)
連続評価
アクリル酸ブチル:85重量部、アクリロニトリル:15重量部、アクリル酸:6重量部からなる熱可塑性アクリル系エラストマー:100重量部を、加圧式ニーダ(装置名「TD3−10M」、株式会社トーシン製、混合容量:3L)により80℃の温度で30rpmにて約2分間混錬した後、多官能アクリレート(商品名「アロニックスM8530」、東亞合成株式会社製、ポリエステルアクリレート):100重量部、水酸化マグネシウム(商品名「MGZ−1」、堺化学工業株式会社製):50重量部、及びフェノール系老化防止剤(商品名「スミライザーGM」、住友化学株式会社製):8重量を投入して、さらに、30rpm、80℃で、約30分、混錬して、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0126】
この熱可塑性樹脂組成物を用いて、前記の連続押出し機による硬化性評価試験を行った。押出物の外観は良好であり、また、トルクの上昇度は良好と評価できた。よって、総合評価を良好とした。
【0127】
(実施例2)
連続評価
アクリル酸ブチル:85重量部、アクリロニトリル:15重量部、アクリル酸:6重量部からなる熱可塑性アクリル系エラストマー:100重量部、多官能アクリレート(商品名「アロニックスM8530」、東亞合成株式会社製、ポリエステルアクリレート):100重量部、光重合開始剤としてのビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(商品名「イルガキュア819」、チバ・ジャパン社製):3重量部、架橋剤としてのヘキサメチレンジアミン(商品名「diak No.1」、デュポン株式会社製):1重量部、水酸化マグネシウム(商品名「MGZ−1」、堺化学工業株式会社製):50重量部、及びアミン系老化防止剤(商品名「ナウガード445」、Crompton Corporation製):8重量を、二軸押出し機(装置名「2D30W2」、株式会社東洋精機製作所製、スクリュー径φ:25mm、L/D:30、フルフライトとミキシングを併用)に投入し、処理温度80℃、回転速度200rpmにて混合を実施した。そして、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0128】
この熱可塑性樹脂組成物を用いて、前記の連続押出し機による硬化性評価試験を行った。押出物の外観は良好であり、また、トルクの上昇度は良好と評価できた。よって、総合評価を良好とした。
【0129】
(実施例3)
バッチ評価
アクリル酸ブチル:85重量部、アクリルニトリル:15重量部、アクリル酸:6重量部からなる熱可塑性アクリル系エラストマー:100重量部を、加圧式ニーダ(装置名「TD3−10M」、株式会社トーシン製、混合容量:3L)により80℃の温度で40rpmにて約2分間混錬した後、多官能アクリレート(商品名「アロニックスM8530」、東亞合成株式会社製、ポリエステルアクリレート):100重量部、及び水酸化マグネシウム(商品名「MGZ−1」、堺化学工業株式会社製):50重量部を投入して、さらに、40rpm、80℃で、約20分混錬して予備成形物を得た。
【0130】
ローラ型の羽を設けた混錬機(装置名「ラボプラストミル」、株式会社東洋精機製作所製、混合容量:60ml)に、前記の予備成形物を50g投入し、さらにフェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)(商品名(商品名「Irganox245」、チバ・ジャパン社製)を、前記熱可塑性アクリル系エラストマー100重量部当たり8重量部となる量で添加した。そして、予備成形物にフェノール系老化防止剤が均一に混合されるように、40rpm、80℃で、5分混合して熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0131】
この熱可塑性樹脂組成物を用いて、前記のバッチ式混合装置での硬化性評価試験を行った。評価用の樹脂組成物の外観は良好であり、また、混合開始後、1800秒までトルクの上昇を生じなかったことから、トルクの上昇度は良好と評価できた。よって、総合評価を良好とした。
【0132】
(実施例4)
連続評価
アクリル酸ブチル:85重量部、アクリロニトリル:15重量部、アクリル酸:6重量部からなる熱可塑性アクリル系エラストマー:100重量部、多官能アクリレート(商品名「アロニックスM8530」、東亞合成株式会社製、ポリエステルアクリレート):100重量部、架橋剤(商品名「コロネートHX」、日本ポリウレタン工業株式会社製):4重量部、及びフェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、商品名「Irganox245」、チバ・ジャパン社製):4重量部を、二軸押出し機(装置名「2D30W2」、株式会社東洋精機製作所製、スクリュー径φ:25mm、L/D:30、フルフライトとミキシングを併用)に投入し、処理温度80℃、回転速度200rpmにて混合を実施した。そして、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0133】
この熱可塑性樹脂組成物を用いて、前記の連続押出し機による硬化性評価試験を行った。押出物の外観は良好であり、また、トルクの上昇度は良好と評価できた。よって、総合評価を良好とした。
【0134】
(実施例5)
バッチ評価
実施例3で得た予備成形物:50gを、ローラ型の羽を設けた混錬機(装置名「ラボプラストミル」、株式会社東洋精機製作所製、混合容量:60ml)に投入し、さらにアミン系老化防止剤(商品名「ナウガード445」、Crompton Corporation製)を、前記熱可塑性アクリル系エラストマー100重量部当たり8重量部となる量で添加した。そして、予備成形物にフェノール系老化防止剤が均一に混合されるように、40rpmで80℃、5分混合して、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0135】
この熱可塑性樹脂組成物を用いて、前記のバッチ式混合装置での硬化性評価試験を行った。評価用の樹脂組成物の外観は良好であり、また、混合開始後、1800秒までトルクの上昇を生じなかったことから、トルクの上昇度は良好と評価できた。よって、総合評価を良好とした。
【0136】
(実施例6)
連続評価
アクリル酸ブチル:85重量部、アクリロニトリル:15重量部、アクリル酸:6重量部からなる熱可塑性アクリル系エラストマー:100重量部を、加圧式ニーダ(株式会社トーシン製、混合容量:3L)により80℃の温度で30rpmにて約2分間混錬した後、多官能アクリレート(商品名「アロニックスM8530」、東亞合成株式会社製、ポリエステルアクリレート):100重量部、水酸化マグネシウム(商品名「MGZ−1」、堺化学工業株式会社製):50重量部、及びアミン系老化防止剤(商品名「ナウガード445」、Crompton Corporation製):8重量を投入して、さらに、30rpm、80℃で、約40分混錬して、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0137】
この熱可塑性樹脂組成物を用いて、前記の連続押出し機による硬化性評価試験を行った。押出物の外観は良好であり、また、トルクの上昇度は良好と評価できた。よって、総合評価を良好とした。
【0138】
(実施例7)
バッチ評価
アクリル酸ブチル:85重量部、アクリロニトリル:15重量部、アクリル酸:6重量部からなる熱可塑性アクリル系エラストマー:100重量部、多官能アクリレート(商品名「アロニックスM8530」、東亞合成株式会社製、ポリエステルアクリレート):100重量部、及びフェノール系老化防止剤(商品名「スミライザーGM」、住友化学株式会社製):8重量を、ローラ型の羽を設けた混錬機(装置名「ラボプラストミル」、株式会社東洋精機製作所製、混合容量:60ml)に投入し、40rpm、80℃で、約40分間混錬して、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0139】
この熱可塑性樹脂組成物を用いて、前記のバッチ式混合装置での硬化性評価試験を行った。評価用の樹脂組成物の外観は良好であり、また、混合開始後、1800秒までトルクの上昇を生じなかったことから、トルクの上昇度は良好と評価できた。よって、総合評価を良好とした。
【0140】
(実施例8)
バッチ評価
アクリル酸ブチル:85重量部、アクリロニトリル:15重量部、アクリル酸:6重量部からなる熱可塑性アクリル系エラストマー:100重量部を加圧式ニーダ(株式会社トーシン製、混合容量:3L)により80℃の温度で30rpmにて約4分間混錬した後、多官能アクリレート(商品名「アロニックスM8530」、東亞合成株式会社製、ポリエステルアクリレート):100重量部、水酸化マグネシウム(商品名「MGZ−1」、堺化学工業株式会社製):50重量部、及びアミン系老化防止剤(商品名「ナウガード445」、Crompton Corporation製):8重量を投入して、さらに、30rpm、80℃で、約40分混錬し、混錬物を得た。
次に、上記混錬物、上記混錬物の熱可塑性アクリル系エラストマー:100重量部に対して3重量部の光重合開始剤としてのビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(商品名「イルガキュア819」、チバ・ジャパン社製)、及び、上記混錬物の熱可塑性アクリル系エラストマー:100重量部に対して1重量部の架橋剤としてのヘキサメチレンジアミン(商品名「diak No.1」、デュポン株式会社製)を、ローラ型の羽根を設けた混練機(装置名「ラボプラストミル」、株式会社東洋精機社製、混合容量:60ml)に投入し、40rpmで80℃、5分混合し、光重合開始剤と架橋剤が均一に混合されるようにして、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0141】
この熱可塑性樹脂組成物を用いて、前記のバッチ式混合装置での硬化性評価試験を行った。評価用の樹脂組成物の外観は良好であり、また、混合開始後、1100秒までトルクの上昇を生じなかったことから、トルクの上昇度は良好と評価できた。よって、総合評価を良好とした。
【0142】
(実施例9)
バッチ評価
アクリル酸ブチル:85重量部、アクリロニトリル:15重量部、アクリル酸:6重量部からなる熱可塑性アクリル系エラストマー100重量部、水酸化マグネシウム(神島化学工業社製):50重量部、多官能アクリレート(商品名「MKエステルA−BPE30」、新中村化学工業株式会社製):30重量部、多官能アクリレート(商品名「NKエステルTMPT」、新中村化学工業株式会社製):45重量部、架橋剤としてのヘキサメチレンジアミン(商品名「diak No.1」、デュポン社製):2重量部、架橋助剤(商品名「ノクセラーDT」、大内新興化学工業株式会社):2重量部、アミン系老化防止剤(商品名「スミライザー GM」、住友化学社製):8重量部、着色剤としてのカーボンブラック(商品名「♯35」、旭カーボン株式会社製):10重量部を、10L加圧ニーダ−(装置名「TD10−20MDX」、株式会社トーシン製)を用いて、60℃で約20分混合し、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0143】
この熱可塑性樹脂組成物を用いて、前記のバッチ式混合装置での硬化性評価試験を行った。評価用の樹脂組成物の外観は良好であり、また、混合開始後、1800秒までトルクの上昇を生じなかったことから、トルクの上昇度は良好と評価できた。よって、総合評価を良好とした。
【0144】
(比較例1)
バッチ評価
実施例3にて作製した予備成形物を、前記のバッチ式混合装置での硬化性評価試験を行った。評価用の樹脂組成物では硬化が確認され、外観は不良と評価でき、また、混合開始後、210秒でトルク上昇が最大となり、装置が停止したことから、トルクの上昇度は不良と評価できた。さらに、ゲル分(ゲル分率)を測定したところ、50重量%を超えており、評価用の樹脂組成物のゲル分は不良と評価できた。よって、総合評価を不良とした。
【0145】
(比較例2)
連続評価
アクリル酸ブチル:85重量部、アクリロニトリル:15重量部、アクリル酸:6重量部からなる熱可塑性アクリル系エラストマー:100重量部を、加圧式ニーダ(株式会社トーシン製、混合容量:3L)により80℃の温度で30rpmにて約2分間混錬した後、多官能アクリレート(商品名「アロニックスM8530」、東亞合成株式会社製、ポリエステルアクリレート):100重量部を投入して、さらに、80℃で、約30分、混錬して、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0146】
この熱可塑性樹脂組成物を用いて、前記の連続押出し機による硬化性評価試験を行った。押出物は硬化しており、外観は不良と評価でき、また、二酸化炭素供給後数分で押出し時のトルクが急激に上昇し、装置はトルクオーバーにより停止したことから、トルクの上昇度は不良と評価できた。さらに、ゲル分(ゲル分率)を測定したところ、50重量%を超えており、押出物のゲル分は不良と評価できた。よって、総合評価を不良とした。
【0147】
(試験評価2)
熱可塑性樹脂組成物を用いて発泡体を作製し、密度や歪回復性を測定した。
【0148】
(実施例1)
発泡性評価
前記の実施例1の連続評価で得た熱可塑性樹脂組成物を、単軸押出し機(装置名「TP型単軸押出機 TP−25」、サーモ・プラスチック株式会社製、スクリュー径:φ20mm、L/D:30、スクリュー:谷径円錐テーパタイプのフルフライトスクリュー)に投入し、回転数50rpm、供給量(押出量)1kg/hrで供給した(押出した)。なお、二酸化炭素は0.2kg/hrで供給した。また、ダイとして、ギャップ厚み0.5mmのリングダイを設置した。
押出し機からダイを介して、大気中に押し出すことにより、発泡させ、熱可塑性樹脂発泡体を得た。
【0149】
(実施例2)
発泡性評価
前記の実施例2の連続評価で得た熱可塑性樹脂組成物を、単軸押出し機(装置名「TP型単軸押出機 TP−25」、サーモ・プラスチック株式会社製、スクリュー径:φ20mm、L/D:30、スクリュー:谷径円錐テーパタイプのフルフライトスクリュー)に投入し、回転数50rpm、供給量(押出量)1kg/hrで供給した(押出した)。なお、二酸化炭素は0.2kg/hrで供給した。また、ダイとして、ギャップ厚み0.5mmのリングダイを設置した。
押出し機からダイを介して、大気中に押し出すことにより、発泡させ、発泡構造体を得た。
得られた発泡構造体に、片面ずつ紫外線を照射し(片面当たりの照射エネルギー:750mJ/cm2以上)、架橋構造を形成させ、さらに170℃の雰囲気下で3時間放置することにより加熱処理を行い、架橋構造を形成させて、発泡体(厚さ:2.0mm程度)を得た。
【0150】
(実施例9)
発泡性評価
前記の実施例9のバッチ評価で得た樹脂組成物を、大型単軸押出機(スクリュー フルフライトスクリュー)に投入し、回転数30rpmで、供給した(押出した)。なお、二酸化炭素は樹脂組成物全量(100重量%)に対して3〜4重量%となるように供給した。押出し機からダイ(リングダイ)を介して、大気中に押し出すことにより、発泡させ、発泡構造体を得た。
得られた発泡構造体の片面に、電子線を照射し(照射線量:200kGy)、さらに210℃の雰囲気下で5分間放置することにより加熱処理を行い、架橋構造を形成させて、発泡体(厚さ:5.0mm程度)を得た。
【0151】
上記の実施例1、実施例2及び実施例9の発泡性評価において、注入されている二酸化炭素は、超臨界CO2製造ポンプにて25MPaまで昇圧後に、ガス注入圧力を10MPa程度に減圧したものである。また、注入時の二酸化炭素ガスの温度を25℃に設定し、単軸押出し機のガス注入部での温度を80℃に設定しているので、注入された二酸化炭素はただちに超臨界状態になる。
【0152】
[密度(見掛け密度)の測定方法]
電子比重計(商品名「MD−200S」、アルファーミラージュ社製)を用いて、比重測定を行うことにより密度を求めた。なお、密度の測定は、発泡体製造後室温で24時間保存してから行った。
【0153】
[歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)の測定方法]
発泡体を、1辺の長さが25mmの正方形に切断し、試験片とし、その厚さを正確に測りとった。このときの試験片の厚さをaとした。試験片の厚さの半分の厚さbを有するスペーサーを用いて、試験片を50%の厚さ(厚さb)になるように圧縮し、その状態で、80℃で24時間保存した。24時間後、圧縮状態を維持しつつ常温に戻し、圧縮状態を解放した。解放してから30分後に試験片の厚さを正確に測りとった。このときの試験片の厚さをcとした。圧縮した距離に対する回復した距離の比率を歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)とした。
歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)[%] =(c−b)/(a−b)×100
なお、該歪回復率は、「解放してから30分後の歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)」である。
【0154】
なお、実施例2及び9については、上記圧縮状態を解放してから30分後の試験片の厚さに加えて、圧縮状態を解放してから24時間後の試験片の厚さも正確に測りとった。このときの試験片の厚さをdとした。そして、下記式から解放してから24時間後の場合の歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)も求めた。
歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)[%] =(d−b)/(a−b)×100
なお、該歪回復率は、「解放してから24時間後の歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)」である。
【0155】
【表1】

なお、表1において、「−」は測定を行っていないことを示す。
【0156】
実施例9について、密度は0.084g/cm3であった。また、解放してから30分後の歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)は85%であり、解放してから24時間後の歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)は94%であった。
また、実施例2について、解放してから24時間後の歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)は77%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物から得られることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体。
【請求項2】
熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、熱架橋剤及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物から得られることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体。
【請求項3】
前記の熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を形成した後、該発泡構造体に活性エネルギー線を照射することから得られる請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂発泡体。
【請求項4】
熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に用いられる発泡剤が、二酸化炭素又は窒素である請求項1〜3の何れの項に記載の熱可塑性樹脂発泡体。
【請求項5】
熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に用いられる発泡剤が、超臨界状態の流体である請求項1〜4の何れの項に記載の熱可塑性樹脂発泡体。
【請求項6】
前記の熱可塑性エラストマーが、反応性官能基を有している請求項1〜5の何れかの項に記載の熱可塑性樹脂発泡体。
【請求項7】
前記の熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性エラストマー100重量部に対してラジカルトラップ剤を0.05〜10重量部含む請求項1〜6の何れかの項に記載の熱可塑性樹脂発泡体。
【請求項8】
前記のラジカルトラップ剤が、フェノール系またはアミン系の酸化防止剤または老化防止剤である請求項1〜7の何れかの項に記載の熱可塑性樹脂発泡体。
【請求項9】
熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物を発泡成形することにより発泡構造体を形成した後、該発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成させることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。
【請求項10】
熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物、熱架橋剤及びラジカルトラップ剤を含む熱可塑性樹脂組成物を発泡成形することにより発泡構造体を形成した後、該発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成させ、さらに加熱して、熱架橋剤による架橋構造を形成させることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。
【請求項11】
熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に用いられる発泡剤が、二酸化炭素又は窒素である請求項9又は10記載の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。
【請求項12】
熱可塑性樹脂組成物を発泡成形する際に用いられる発泡剤が、超臨界状態の流体である請求項9〜11の何れかの項に記載の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。
【請求項13】
熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型化合物及びラジカルトラップ剤を含み、熱可塑性樹脂発泡体の形成に用いることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−178989(P2011−178989A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5366(P2011−5366)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】