説明

熱可塑性樹脂積層体及びその成形方法

【課題】表面に化粧層を設けた熱可塑性樹脂積層体について、それを、接着剤を用いなくとも充分な融着強度を有するものとする。
【解決手段】上記熱可塑性樹脂積層体を、少なくとも一部が不飽和カルボン酸で変性された酸変性熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物A(例えば少なくとも一部が無水マレイン酸変性ポリプロピレンである熱可塑性樹脂組成物A)に対し、充填材を含む熱可塑性樹脂組成物Bが積層されてなるものとする。熱可塑性樹脂組成物Bの充填材含有量は5体積%以上70体積%未満であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂積層体及びその成形方法に関し、さらに詳しくは、接着剤を用いなくとも充分な融着強度を有する、表面に化粧層を設けた熱可塑性樹脂積層体及びその工業的な成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数種類の熱可塑性樹脂を積層し、表層に意匠性を持たせた成形体が知られている。このような成形体において、表層と芯層とで異なる熱可組成樹脂を含む材を使用する場合、二層の接着方法が問題となる。また、コストや強度の観点から充填材を多く含んだ熱可塑性樹脂組成物を使用する場合においても、層間における熱可塑性樹脂同士の接触面積が小さいため、融着強度が小さいといった問題がある。
【0003】
そこで、ABSやPP樹脂の芯層に対し、ホットメルト接着材を介してフッ素系樹脂等の表層を積層した化粧板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このものは、接着剤の塗布等の、接着剤による接着処理工程が必要となり、作業性や経済上の問題がある。特に、製造が押出成形法による場合においては、金型が煩雑になったり、接着剤用の押出機を別途必要としたりするために、クリアーすべき課題が大きい。
【0004】
【特許文献1】特開2006−192620
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情の下、表面に化粧層を設けた熱可塑性樹脂積層体について、それを、接着剤を用いなくとも充分な融着強度を有するものとすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂積層体を、特定の酸変性熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に対し、充填材を含む熱可塑性樹脂組成物が積層されてなるものとすることにより、上記課題が達成されることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、少なくとも一部が不飽和カルボン酸で変性された酸変性熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物Aに対し、充填材を含む熱可塑性樹脂組成物Bが積層されてなる熱可塑性樹脂積層体が提供される。
【0008】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、熱可塑性樹脂組成物Bの充填材含有量が5体積%以上70体積%未満であることを特徴とする熱可塑性樹脂積層体が提供される。
【0009】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または2の発明において、熱可塑性樹脂組成物Bに対して熱可組成樹脂組成物Aは少なくとも一部に異なる熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする熱可組成樹脂積層体が提供される。
【0010】
また、本発明の第4の発明によれば、第1または2の発明において、熱可塑性樹脂組成物Aに対して熱可組成樹脂組成物Bは少なくとも一部に異なる熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする熱可組成樹脂積層体が提供される。
【0011】
また、本発明の第5の発明によれば、第1ないし4のいずれかの発明において、熱可塑性樹脂組成物Aが充填材を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂積層体が提供される。
【0012】
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、熱可塑性樹脂組成物Aの充填材含有量が50〜70体積%であることを特徴とする熱可塑性樹脂積層体が提供される。
【0013】
また、本発明の第7の発明によれば、第5または6の発明において、熱可塑性樹脂組成物Aが含む充填材と熱可塑性樹脂組成物Bが含む充填材の少なくとも一部が異なることを特徴とする熱可塑性樹脂積層体が提供される。
【0014】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、熱可塑性樹脂組成物Bが含む充填材の少なくとも一部が木粉であることを特徴とする熱可塑性樹脂積層体が提供される。
【0015】
また、本発明の第9の発明によれば、第5〜8のいずれかの発明において、熱可塑性樹脂組成物Aが含む充填材の少なくとも一部が無機材であることを特徴とする熱可塑性樹脂積層体が提供される。
【0016】
また、本発明の第10の発明によれば、第9の発明において、無機材がフライアッシュであることを特徴とする熱可塑性樹脂積層体が提供される。
【0017】
また、本発明の第11の発明によれば、第1〜10のいずれかの発明において、熱可塑性樹脂組成物Aが容器包装リサイクル材からなる熱可組成樹脂を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂積層体が提供される。
【0018】
また、本発明の第12の発明によれば、第1〜11のいずれかの発明において、熱可塑性樹脂組成物Aの少なくとも一部が無水マレイン酸変性ポリプロピレンであることを特徴とする熱可塑性樹脂積層体が提供される。
【0019】
また、本発明の第13の発明によれば、熱可塑性樹脂組成物Aと熱可塑性樹脂組成物Bを異なる押出機内で溶融した後に、溶融状態で金型における同一出口を通過させて積層することを特徴とする第1〜12のいずれかの発明の熱可塑性樹脂積層体の成形方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂積層体によれば、表面に化粧層を設けた熱可塑性樹脂積層体について、それを、接着剤を用いなくとも充分な融着強度を有するものとしうるという顕著な効果が奏される。
また、本発明の成形方法によれば、接着剤を用いなくとも充分な融着強度を有する、表面に化粧層を設けた熱可塑性樹脂積層体を生産性よく製造しうるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の熱可塑性樹脂積層体について、その構成や、その成形方法等について詳細に説明する。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂積層体は、熱可塑性樹脂組成物Aに対し熱可塑性樹脂組成物Bが積層されてなるものである。
熱可塑性樹脂組成物Aは、酸変性熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物であって、酸変性熱可塑性樹脂は熱可塑性樹脂の少なくとも一部が不飽和カルボン酸で変性されたものである。
熱可塑性樹脂組成物Bは、充填材を必須とするものである。
【0023】
熱可塑性樹脂組成物Aにおける熱可塑性樹脂については特に限定されないが、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどが用いられる。
また、熱可塑性樹脂組成物Aは容器包装リサイクル材からなる熱可組成樹脂を含むのが好ましい。
熱可塑性樹脂の変性に用いられる不飽和カルボン酸についても特に限定されないが、好ましくはメタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸などが用いられ、特に、熱可塑性樹脂組成物を、その少なくとも一部が無水マレイン酸変性ポリプロピレンであるものとするのが好ましい。
【0024】
熱可組成樹脂組成物Aは、充填材を含んでいてもよく、充填材は特に限定されないが、好ましくは少なくとも一部が無機材、例えばタルク、マイカ、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、ガラス等、中でもフライアッシュであるのが好ましい。
フライアッシュは火力発電所から得られる石炭灰の一種であり、再利用の社会的意義が大きく、また、シリカの他に、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化鉄などの金属酸化物を含んでおり、不飽和カルボン酸によって樹脂との親和性を上げることで熱可塑性樹脂組成物A自体の強度が担保されやすい。
熱可塑性樹脂組成物Aにおける充填材含有量は、50体積%以上、中でも50〜70体積%であるのが好ましい。
【0025】
熱可塑性樹脂組成物Bに必須の充填材については特に限定されず、例えば木粉、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、ガラス、シリカ、植物片などが挙げられるが、中でも充填材の少なくとも一部が木粉であるのが好ましい。
熱可塑性樹脂組成物Bにおいては、充填材含有量が5体積%以上70体積%未満、中でも10〜30体積%であるのが好ましい。充填材含有量が5体積%未満では、充分な融着強度が得られず、70体積%以上であれば熱可塑性樹脂組成物B自体の強度が充分に得られない恐れがある。
【0026】
熱可塑性樹脂組成物Aを芯層、熱可塑性組成物Bを表層とした場合においては、熱可塑性樹脂組成物Aに無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含み、熱可塑性組成物Bに木粉を含んだものを用いることが好ましい。このものによれば、化粧材として表層を木調とすることができ、融着強度に優れた積層体を得ることができる。
【0027】
熱可組成樹脂組成物Aは熱可塑性樹脂組成物Bに対して少なくとも一部に異なる熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
【0028】
熱可組成樹脂組成物Bは熱可塑性樹脂組成物Aに対して少なくとも一部に異なる熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂積層体は、熱可塑性樹脂組成物Aにおける酸変性熱可塑性樹脂の不飽和カルボン酸部位が熱可塑性樹脂組成物Bに含まれる充填材と密着するため、熱可塑性樹脂組成物AとBの両者に異なる熱可塑性樹脂を含んでいる場合においても充分な融着強度を担保することができる。例えば、容器包装リサイクル材からなる熱可塑性樹脂は再利用の社会的意義が大きいが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の異なる熱可塑性樹脂を含有し、また、様々な顔料を含有しているために容器包装リサイクル材から作られたペレットは黒色を呈しやすい。そこで、容器包装リサイクル材からなる熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物は芯層に用い、表層に化粧材を配設するのが好ましい。
【0030】
熱可塑性樹脂組成物Aが充填材を含む場合、熱可塑性樹脂組成物Aと熱可塑性組成物Bとの界面において、熱可塑性樹脂同士の接触面積が減少するために充分な融着強度を得ることがさらに困難になるが、本発明によって熱可塑性樹脂組成物Aにおいて充分な材料強度を持たせることができると共に、熱可塑性樹脂組成物Bとの融着強度が担保される。熱可塑性樹脂組成物Aに含まれる不飽和カルボン酸の量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂組成物Aの含む充填材と樹脂との界面以外の部分にもカルボキシル基が分散されている必要がある。さらには、熱可塑性樹脂組成物Aと熱可塑性樹脂組成物Bの界面に極性基が分散されていることが好ましい。そのために、充填材を含有した熱可塑性樹脂組成物Aは引張強度や曲げ強度、シャルピー衝撃値などの強度指標のいずれかが極大となるように酸変性されていることが好ましい。
【0031】
熱可塑性樹脂組成物Bに含まれる充填材の少なくとも一部は、熱可塑性樹脂組成物Bにおける熱可塑性樹脂とは異なる熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物Aに含まれる充填材と、異なっていてもよい。
本発明によれば、熱可塑性樹脂組成物A、熱可塑性樹脂組成物Bに異なる充填材が含まれていても充分な融着強度を担保することが可能である。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂積層体は、熱可塑性樹脂組成物Aと熱可塑性樹脂組成物Bを異なる押出機内で溶融した後に、溶融状態で金型における同一出口を通過させて積層することによって成形される。
【0033】
このように同一金型内で異なる熱可塑性樹脂組成物を積層して押出す共押出においては、それぞれの熱可塑性樹脂組成物を融着する圧力や時間が限られており、融着強度を上げにくいといった課題があり、特に成形速度を上げることについての課題が大きいが、本発明の成形方法によれば、共押出においても充分な融着強度を担保することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの例によって何ら限定されるものではない。
【0035】
1. 熱可塑性樹脂組成物ペレットの作成
二軸異方向押出機を用いて表1に示す熱可塑性樹脂組成物A、Bのペレットを作成した。
フライアッシュとしてはJISII種のフライアッシュを用いた。
木粉としては100メッシュに調製されたものを用いた。
タルクについては平均粒径が40μmのものを用いた。
不飽和カルボン酸で変性された酸変性熱可塑性樹脂としては酸変性度を9とした無水マレイン酸変性ポリプロピレンを用いた。
容器包装リサイクル材としては市中から回収された容器包装リサイクル材をあらかじめペレタイズした後に用いた。
【0036】
2.共押出
熱可塑性樹脂組成物Aをφ90mmの二軸異方向押出機を用いて混練し、熱可塑性樹脂組成物Bをφ32mmの単軸押出機を用いて混練し、同一金型内で積層させて押し出した。
【0037】
3.融着強度の評価
共押出によって得られた成形品から幅15mmの短冊状サンプルを切り出し、熱可塑性樹脂組成物Aと熱可塑性樹脂組成物Bの界面の一部を物理的に剥離させ、90°ピール試験によって融着強度を測定した。
【0038】
表2に融着強度の測定結果を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表2より、不飽和カルボン酸で変性された酸変性熱可塑性樹脂を含まない比較例1や熱可塑性樹脂組成物Bに充填材を含まない比較例2に対し、実施例では最大点応力が大幅に向上することが分かる。また、熱可塑性樹脂組成物Aと熱可塑性樹脂組成物Bに異なる熱可塑性樹脂を用いた実施例6についても融着強度が比較例に対して向上している。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂積層体は、各種の建材等に用いることができ、特に表面を木調とした木材代替材料として利用され、接着剤を用いなくとも充分な融着強度を有するものとすることができ、産業上大いに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が不飽和カルボン酸で変性された酸変性熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物Aに対し、充填材を含む熱可塑性樹脂組成物Bが積層されてなる熱可塑性樹脂積層体。
【請求項2】
熱可塑性樹脂組成物Bの充填材含有量が5体積%以上70体積%未満であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項3】
熱可塑性樹脂組成物Bに対して熱可組成樹脂組成物Aは少なくとも一部に異なる熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱可組成樹脂積層体。
【請求項4】
熱可塑性樹脂組成物Aに対して熱可組成樹脂組成物Bは少なくとも一部に異なる熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱可組成樹脂積層体。
【請求項5】
熱可塑性樹脂組成物Aが充填材を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項6】
熱可塑性樹脂組成物Aの充填材含有量が50〜70体積%であることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項7】
熱可塑性樹脂組成物Aが含む充填材と熱可塑性樹脂組成物Bが含む充填材の少なくとも一部が異なることを特徴とする請求項5または6に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項8】
熱可塑性樹脂組成物Bが含む充填材の少なくとも一部が木粉であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項9】
熱可塑性樹脂組成物Aが含む充填材の少なくとも一部が無機材であることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項10】
無機材がフライアッシュであることを特徴とする請求項9に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項11】
熱可塑性樹脂組成物Aが容器包装リサイクル材からなる熱可組成樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項12】
熱可塑性樹脂組成物Aの少なくとも一部が無水マレイン酸変性ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項13】
熱可塑性樹脂組成物Aと熱可塑性樹脂組成物Bを異なる押出機内で溶融した後に、溶融状態で金型における同一出口を通過させて積層することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体の成形方法。

【公開番号】特開2010−105171(P2010−105171A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276304(P2008−276304)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】