熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、および光アクチュエータ材料
【課題】光照射による良好な可逆性を持ち、異性化反応速度が速く、しかも吸収波長の変化も大きな、新規なアゾベンゼン系化合物、もしくその(共)重合体、またはスピロピラン化合物を用いた熱可塑性樹脂組成物、およびこれを用いた光形態変化速度の速い光アクチュエータ材料を提供すること。
【解決手段】(a)ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくその(共)重合体、またはスピロピラン化合物0.1〜50重量%、および(b)熱可塑性樹脂50〜99.9重量%(ただし、(a)+(b)=100重量%)を主成分とする熱可塑性樹脂組成物。
【解決手段】(a)ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくその(共)重合体、またはスピロピラン化合物0.1〜50重量%、および(b)熱可塑性樹脂50〜99.9重量%(ただし、(a)+(b)=100重量%)を主成分とする熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアゾベンゼン系化合物を用いた熱可塑性樹脂組成物に関するものである。詳細には、ある種の波長を持った光照射に伴い可逆的な構造的変化が生じる、いわゆる、ホトクロミック特性を持つアゾベンゼン系化合物を用いた熱可塑性樹脂組成物、およびそれを利用した光アクチュエータ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のホトクロミック材料には、スピロベンゾピラン系化合物、フルギド系化合物、アゾベンゼンなどがあった。しかし、スピロピラン系化合物は光異性化反応において可逆反応を繰り返すことにより、劣化が急激に起こるものであった。また、フルギド系化合物は、可逆反応の安定性があまり良くないことも知られている。さらに、アゾベンゼンのみでは良好な可逆性を持たないことも知られている。
また、ホトクロミック材料は、当該波長の光照射を行うことによって組成物全体の機械的性質を変化させてアクチュエータ機能を発現させることができる。従来の光アクチュエータ材料には、上記ホトクロミック材料の中でもとりわけアゾベンゼン系化合物が用いられてきた。しかし、従来の光アクチュエータ材料は、そのホトクロミック材料の光異性化に伴う材料全体の形態変化速度が非常に遅いという問題点があった。
【0003】
非特許文献1[C. D. Eisenbach, Polymer, 21, 1175-1179 (1980).]は、光によるアゾベンゼン基含有ポリマーの可逆的収縮−延伸制御技術を開示している。アゾベンゼン含有ジメタクリルアミドを用いて合成し延伸された材料は、その材料中のアゾベンゼン架橋部のUV光照射に伴う材料の収縮と可視光照射に伴う回復を発現した。しかし、その収縮−回復速度は分単位という遅い反応である。非特許文献2[H.Finkelmann and E. Nishikawa, Phys. Rev. Lett., 87, 015501-1〜4 (2001).]は、アゾベンゼン含有モノドメインネマチック液晶エラストマーを用いて、アゾベンゼンのトランス−シス光異性化に伴う光相転移現象を利用しUV光の照射による収縮と照射停止による回復技術を開示している。しかし、その収縮−回復速度は分単位という遅い反応である。非特許文献3[J. Cviklinski et al., Eur. Phys. J. E, 9, 427-434 (2002).]は、光によるアゾベンゼン含有ネマチック液晶の可逆的応力制御技術についてUV光照射による応力増大と光遮断による応力減少技術を開示している。しかし、その応力増大−緩和速度は分もしくは時間単位という非常に遅い反応である。非特許文献4[H. S. Blair et al., Polymer, 21, 1195-1198 (1980).]は、主鎖中にアゾベンゼン基を有するポリマーの光照射による還元粘度の低下と引張り応力の増大、光照射の停止による応力緩和の技術を開示している。しかし、その応力増大−緩和速度は約100秒程度の遅い反応である。非特許文献5[Y. Yu et al., Nature, 425, 145 (2003).]は、光によるアゾベンゼン基含有アクリレートポリマーの方位選択的屈曲技術について開示しており、UV光照射による収縮を利用した屈曲と可視光照射による回復が85℃という加熱条件下で約10秒で起こることを述べている。これらの先行技術は、いずれもUV光照射によるアゾベンゼン基の光異性化を利用した収縮あるいは応力増大機能の発現を主要因としており、かつ、数分から時間単位という遅い反応速度で実施している。
【非特許文献1】C.D.Eisenbach,Polymer,21,1175-1179(1980)
【非特許文献2】H.Finkelmann and E. Nishikawa, Phys. Rev. Lett., 87, 015501-1〜4 (2001)
【非特許文献3】J. Cviklinski et al., Eur. Phys. J. E, 9, 427-434 (2002)
【非特許文献4】H. S. Blair et al., Polymer, 21, 1195-1198 (1980)
【非特許文献5】Y. Yu et al., Nature, 425, 145 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光照射による良好な可逆性を持ち、異性化反応速度が速く、しかも吸収波長の変化も大きな、新規なアゾベンゼン系化合物を用いた熱可塑性樹脂組成物、およびこれを用いた光形態変化速度の速い光アクチュエータ材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(a)ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物(以下「アゾベンゼン系化合物」ともいう)、またはその(共)重合体(以下「アゾベンゼン基含有ポリマー」ともいう)、あるいはスピロピラン化合物0.1〜50重量%、および(b)熱可塑性樹脂50〜99.9重量%(ただし、(a)+(b)=100重量%)を主成分とする熱可塑性樹脂組成物に関する。
ここで、上記ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物としては、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0006】
【化1】
【0007】
(一般式(I)中、R1,R2は同一または異なり、水素原子、またはエステル結合とビニルエーテル基、およびこれらを結合するアルキレン結合もしくはオキシアルキレン結合を有するビニルエーテル基含有炭化水素基であり、このうち少なくとも1つは、該ビニルエーテル基含有炭化水素基である。)
上記ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物の具体例は、下記一般式(I)−1〜(I)−4の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0008】
【化2】
【0009】
次に、本発明は、上記ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、またはビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物を溶媒中もしくは無溶媒中で、付加重合、もしくは他の共重合可能なモノマーと共重合することによって得られ、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜10,000,000であるビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物の(共)重合体、あるいはスピロピラン化合物と、熱可塑性樹脂とを混合することを特徴とする上記熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
また、本発明は、(b)熱可塑性樹脂中で、ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物または該化合物と他の共重合可能なモノマーとを(共)重合することを特徴とする上記熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
次に、本発明は、上記熱可塑性樹脂組成物からなる光アクチュエータ材料に関する。
上記光アクチュエータ材料は、延伸されたものでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に用いられるビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物やスピロピラン化合物は、ホトクロミック特性を有し、良好な可逆性、耐久性を持ち、異性化反応速度が速く、吸収波長の変化も大きく光記憶材料として有効であるという効果を有する。また、上記ビニルエーテル基含有アゾベンゼン化合物は、ポリマー化により、光照射に対応してポリマー全体の機械的性質とそれに伴う外部形態を速やかにかつ可逆的に変化させることができるという効果がある。すなわち、従来技術とは異なり、本発明のビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、該ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物の(共)重合体、スピロピラン化合物、およびこれを主成分とする熱可塑性樹脂組成物は、光異性化に必要なUV光および可視光のいずれの照射下で、応力減少とそれに伴う延伸挙動という新たな機械的性質を発現する。この原因はいまだ明らかではないが、例えば上記アゾベンゼン系化合物の場合、アゾベンゼン基のトランス体の凝集−シス体の解凝集機能と、光照射下での反応平衡による凝集抑制機能によって達成されたものと考えられる。また、スピロピラン化合物によれば、アゾベンゼン系化合物およびこれをポリマー化したアゾベンゼン系化合物の(共)重合体に限らないホトクロミック材料全般に関して、マトリックスポリマーとのブレンド物に、弾性変形内の歪を引き起こす応力負荷の下、光照射することによる光アクチュエータの光変形挙動の制御方法が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
アゾベンゼン系化合物
本発明に用いられるアゾベンゼン系化合物は、上記一般式(I)で表され、R1,R2の少なくとも1つは、エステル結合とビニルエーテル基、およびこれらを結合するアルキレン結合もしくはオキシアルキレン結合を有する。
本発明のアゾベンゼン系化合物の具体例としては、上記一般式(I)−2〜(I)−(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0012】
これらの本発明のアゾベンゼン系化合物の製造方法は、例えば、上記一般式(I)−1で表されるアゾベンゼン系化合物を例にとると、次のような反応により合成することができる。
【0013】
【化3】
【0014】
すなわち、出発物質としてアゾベンゼンカルボニルクロライドとテトラメチレングリコールモノビニルエーテルとを用い、触媒に4-(ジメチルアミノ)ピリジン、塩化水素捕捉剤としてトリエチルアミンを用い、反応溶媒として無水テトラヒドロフランを用いて、0℃に冷却したテトラメチレングリコールモノビニルエーテル、触媒および塩化水素捕捉剤の無水テトラヒドロフラン溶液中に、アゾベンゼンカルボニルクロライドを滴下し、生成した塩酸塩を濾取して、濾液を濃縮した後、得られたオレンジ色の固体をシリカゲルカラムを用いて、酢酸エチル:ヘキサン(容量比)=1:4を展開溶媒として精製、さらに濃縮して一般式(I)-1で表される本発明のアゾベンゼン系化合物を合成することができる。
【0015】
このようにして得られる本発明のアゾベンゼン系化合物の構造は、赤外線吸収スペクトルによって、3,120〜3,050cm−1の芳香環上の水素のCH伸縮振動吸収、2,960〜2,850cm−1のアルキル基の水素のCH伸縮振動吸収、1,720〜1,710cm−1のエステルカルボニル基のC=O伸縮振動吸収、1,500〜1,490cm−1のアゾ基のN=N伸縮振動吸収などにより確認でき、また、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により、7.5〜8.3ppmの芳香環上のプロトンに基づくピーク、4.0〜4.3ppmのビニルエーテル基の中のメチレン基のプロトン(=CH2)に基づくピーク、6.48ppmのビニルエーテル基の中のメチン基のプロトン(=CH−)に基づくピーク、4.4〜4.6ppmのエステル基に隣接したメチレン基のプロトン(C(=O)O-CH2-)に基づくピークから、その構造を確認することができる。さらに、これらの元素組成比は元素分析により、また、分子量は高分解能質量分析(HRMS)により知ることができる。
【0016】
本発明に用いられるアゾベンゼン系化合物は、トランス構造が優勢である該化合物に、ある特定波長の光hν1を照射することにより、異性体であるシス構造が優勢な化合物に変化する。また、シス構造が優勢である上記化合物に、別の特定波長hν2を照射すると、元のトランス構造が優勢な化合物にもどる。この間、この両構造間には、分子量変化はなく、構造変化が生じ吸収波長が変化する。これらの化合物は、構造的に安定であり、ホトクロミック材料として用いることができる。
【0017】
ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物の(共)重合体(アゾベンゼン基含有ポリマー)
次に、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーは、上記一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物を溶媒中もしくは無溶媒中で、付加重合、もしくは他の共重合可能なモノマーと共重合することによって得られ、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜10,000,000の(共)重合体である。
【0018】
例えば、上記一般式(I)−1〜(I)−4で表されるアゾベンゼン系化合物の重合体は、下記一般式(II)−1〜(II)−4で表すことができる。
【0019】
【化4】
【0020】
ここで、上記の他の共重合可能なモノマーとしては、カチオン共重合およびラジカル共重合可能なビニル基およびヘテロ環を分子内に少なくとも一つ有する重合性単量体であれば特に限定されない。好ましい共重合可能なモノマーを例示すれば、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、スチレン、4−メトキシスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン類、ビニルピロリドンなどの含窒素モノマー類、およびテトラヒドロフラン、エポキシ化合物などのカチオン開環重合性モノマー類などである。
上記他の共重合可能なモノマーの配合量は、アゾベンゼン系化合物および他の共重合可能なモノマー中に、99重量%以下、好ましくは50重量%以下である。99重量%を超えると、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマー中のアゾベンゼン基の凝集機能が抑制されるため好ましくない。
【0021】
本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの具体例は、上記一般式(II)−1〜(II)−4で表される重合体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。例えば、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーとしては、上記一般式(I)−1〜(I)−4で挙げられるアゾベンゼン系化合物の2種以上を共重合した共重合体であってもよい。
【0022】
ここで、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーは、本発明のアゾベンゼン系化合物(および共重合可能な他のビニルモノマー)を、以下のようにして付加重合することによって得られる。ここで、好適に用いられる付加重合方法は、カチオン付加重合(以下、単にカチオン重合と記す)とラジカル付加重合(以下、単にラジカル重合と記す)であり、特にカチオン重合が高分子量体を得ることができる点で好適に用いられる。
すなわち、好適に用いられる製造方法を例示すれば、モノマーとして上記一般式(I)−1で示したアゾベンゼン系化合物、溶媒としてジクロロメタン、カチオン重合触媒として三フッ化ホウ素エーテル錯体を用いて、これらの均一混合物を、例えば−45℃で60分間攪拌することによって重合はほぼ完結する。重合終了後、カチオン重合触媒を失活させるためにピリジンを添加した後、沈殿溶剤としてのジエチルエーテル中に反応液を注いでポリマーを沈殿析出させる。
【0023】
このようにして得られる本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーのポリスチレン換算の重量平均分子量は、1,000〜10,000,000、好ましくは5,000〜1,000,000である。1,000未満では、これらのポリマーを主成分とする本発明の熱可塑性脂組成物からのブルーミングやブリーディングなどの不具合が生じやすい。一方、10,000,000を超えると、溶媒への溶解性や熱可塑性樹脂との相溶性が低下する。
本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの重量平均分子量は、本発明のアゾベンゼン系化合物および共重合可能な他のモノマー混合物中の多官能性単量体、例えば上記一般式(I)−3および(I)-4の混合組成比、重合時間、重合温度、重合触媒量、モノマー/溶媒混合比などにより調整することができる。
【0024】
本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーのもう一つの好適に用いられる製造方法は、熱可塑性樹脂中で、本発明のビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物を付加重合、または共重合可能な他のビニルモノマーと共重合する方法である。
すなわち、好適に用いられる製造方法を例示すれば、モノマーとして上記一般式(I)−2と(I)−4で示したアゾベンゼン系化合物の50:50重量比の混合物、溶媒としてジクロロメタン、熱可塑性樹脂としてポリカーボネート、およびカチオン重合触媒としてジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート/アゾビスイソブチロニトリル混合系を用いて、これらを均一混合液とした後、ジクロロメタンを減圧下に除去し、アゾベンゼン系化合物含有熱可塑性樹脂組成物フィルムを作成し、これを130℃で2時間加熱することによって重合を行い、相互進入高分子網目(IPN)型の本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーを製造する。
このようにして得られる本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーは、熱可塑性樹脂中でIPN型のネットワーク構造を形成しており、本発明の熱可塑性樹脂組成物からのブルーミングやブリーディングなどの不具合は生じない。また、このようにして得られる本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーは、不溶性であるため、その分子量は無限大であり測定不可能である。
【0025】
なお、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、通常、−30〜100℃、好ましくは−20〜50℃である。
このガラス転移温度は、エステル結合とビニルエーテル基を結合するアルキレン結合もしくはオキシアルキレン結合の構造および共重合組成により調整することができる。
【0026】
このようにして得られる本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの構造は、赤外線吸収スペクトルによって、3,060cm−1付近の芳香環上の水素のCH伸縮振動吸収、2,900cm−1付近のアルキル基の水素のCH伸縮振動吸収、1,720〜1,700cm−1のエステルカルボニル基のC=O伸縮振動吸収、1,500〜1,490cm−1のアゾ基のN=N伸縮振動吸収などにより確認でき、また、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により、7.5〜8.3ppmの芳香環状のプロトンに基づくピーク、4.2〜4.3ppmのエステル基に隣接したメチレン基のプロトン(C(=O)O-CH2-)に基づくピーク、3.4〜3.5ppmのエーテル酸素に隣接したメチレンおよびメチン基のプロトン(-O-CH2-、-O-CH<)に基づくピークから、その構造を確認することができる。これらの元素の組成比は、元素分析により知ることができる。また、このようにして得られる本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの分子量は、サイズ排除クロマトグラフ(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって確認することができる。
【0027】
本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの成形体は、透明性に優れ、光異性化性を有する。本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーを、フィルムに成形し、例えば紫外線を照射すると、構造がトランス体優勢からシス体優勢へと変化し、吸収波長が変化する。また、可視光線を照射すると、トランス体優勢に戻り、吸収波長は元に戻る。
また、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの成形体は、例えば紫外線を照射する間、構造がトランス体からシス体へと変化する構造異性化反応が起こり、非照射下で安定なトランス体の凝集構造、いわゆる擬似架橋点が開裂し、成型体の機械的性質としての弾性率が変化する。一方、可視光線を照射する間も、シス体からトランス体へとその相対量が変化する構造異性化平衡反応によって、系内のトランス体同士による凝集構造形成が乱され、紫外線照射中と同様に成型体の機械的性質としての弾性率が変化する。
【0028】
スピロピラン化合物
一方、スピロピラン化合物としては、スピロ[ビシクロ[3,3,1]ノナン-9,2’-(2H)ベンゾ[h]クロメン]、1’,3’,3’,−トリメチルスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、1’,3’,3’,−トリメチルスピロ−8−ニトロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、1’,3’,3’−トリメチル−6−ヒドロキシスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、1’,3’,3’−トリメチルスピロ−8−メトキシ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、5’−クロル−1’,3’,3’−トリメチル−6−ニトロスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、6,8−ジブロモ−1’,3’,3’−トリメチルスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、8−エトキシ−1’,3’,3’4’,7’−ペンタメチルスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、5’−クロル−1’,3’,3’−トリメチルスピロ−6,8−ジニトロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、3,3,1−ジフェニル−3H−ナフト−(2,1−13)ピラン、1,3,3,−トリフェニルスピロ〔インドリン−2,3’−(3H)−ナフト(2,1−b)ピラン〕、1−(2,3,4,5,6−ペンタメチルベンジル)−3,3−ジメチルスピロ〔インドリン−2,3’−(3H)−ナフト(2,1−b)ピラン〕、1−(2−メトキシ−5−ニトロベンジル)−3,3−ジメチルスピロ〔インドリン−2,3’−ナフト(2,1−b)ピラン〕、1−(2−ニトロベンジル)−3,3−ジメチルスピロ〔インドリン−2,3’−ナフト(2,1−b)ピラン〕、1−(2−ナフチルメチル)−3,3−ジメチルスピロ〔インドリン−2,3’−ナフト(2,1−b)ピラン〕、1,3,3−トリメチル−6’−ニトロ−スピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−[2H]−インドール]などが挙げられる。
上記のように、光のスイッチon-offによるフィルムの可逆的延伸−回復挙動は、アゾベンゼン基を有する本発明の上記アゾベンゼン系化合物の(共)重合体のみならず、低分子のアゾベンゼン化合物によっても生じるが、さらにこの可逆的延伸−回復挙動がアゾベンゼン基に限らず、光によって異性化しうるホトクロミック材料全般によって起こりうることが、本発明のスピロピラン化合物によって確認することができる。
【0029】
熱可塑性樹脂組成物
本発明のビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくアゾベンゼン基含有ポリマー、またはスピロピラン化合物は、高分子マトリックスである熱可塑性樹脂にブレンドすることにより、光照射前後で異なる非線形光学特性を示し、経時安定性が優れた組成物が得られる。
【0030】
本発明の組成物に用いられる熱可塑性樹脂については特に制限はなく、例えばポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、環状オレフィン系重合体、およびジエチレングリコールジメタクリレートやジビニルベンゼンなどの配合により緩やかな架橋構造を導入した任意の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0031】
上記の樹脂の中でも、環状オレフィン系重合体が好ましく、具体例としては、下記一般式(1)〜(7)で表される繰り返し単位から選ばれた少なくとも1種の繰り返し単位を含み、ポリスチレン換算数平均分子量が10,000〜300,000の重合体を挙げることができる。
【0032】
【化5】
【0033】
[式(1)中、A1〜A4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示し、mは0または1である。]
【0034】
【化6】
【0035】
[式(2)中、A1〜A4、およびmは式(1)と同じ]
【0036】
【化7】
【0037】
[式(3)中、B1〜B4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基、加水分解性のシリル基、または−(CH2)kXで表される極性基を示し、B1〜 B4の少なくとも1つは加水分解性のシリル基、または−(CH2)kXで表される極性基から選ばれた置換基である。ここで、Xは−C(O)OR21または−OC(O)R22であり、R21,R22は水素、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基であり、kは0〜3の整数である。また、B1〜B4は、B1とB3またはB2とB4から形成される炭化水素環、もしくはイミド、カルボン酸無水物などの複素環構造あるいはB1とB2またはB3とB4から形成されるアルキリデニル、イミド、カルボン酸無水物であってもよい。pは0〜2の整数を示す。]
【0038】
【化8】
【0039】
[式(4)中、R1〜R14はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0040】
【化9】
【0041】
[式(5)中、R1〜R12はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0042】
【化10】
【0043】
[式(6)中、R1〜R16はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0044】
【化11】
【0045】
[式(7)中、R1〜R20はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における(a)ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくはアゾベンゼン基含有ポリマー、またはスピロピラン化合物の配合量は、組成物全重量に基づき0.1〜50重量%、好ましくは1.0〜30重量%である。
本発明の(a)成分の割合が0.1重量%未満では、非線形光学特性や光照射による機械的性質の変化が小さく、不十分であるし、一方、50重量%を超えると、ホトクロミック材料であるアゾベンゼン系化合物の(共)重合体が凝集して結晶化し、非線形光学特性や成型体の基本的な機械的強度を減衰させるおそれがあり、また加工性が低下する。
【0047】
ホトクロミック材料である本発明のビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくはアゾベンゼン基含有ポリマー、またはスピロピラン化合物を熱可塑性樹脂マトリックス中に分散させる方法については特に制限はなく、種々の方法を用いることができる。例えば、適当な溶媒中にビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくその(共)重合体(アゾベンゼン基含有ポリマー)、またはスピロピラン化合物と熱可塑性樹脂とを溶解させて溶液を調製するか、あるいは熱可塑性樹脂を溶媒により膨潤あるいは熱により溶融し、これにビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくはアゾベンゼン基含有ポリマー、またはスピロピラン化合物を添加したのち、コーティングやキャスティングなどの方法により、所望の非線形光学材料(ホトクロミック材料)を製造することができる。また、溶媒中、あるいは無溶媒中で、熱可塑性樹脂の存在下に、本発明のアゾベンゼン系化合物を付加重合もしくは共重合することが好ましい。このようにして得られる組成物は、アゾベンゼン系化合物を高濃度で導入可能であり、さらに相互進入高分子網目(IPN)型の熱可塑性組成物であるため、該(共)重合体のマトリックス樹脂中への均一分散性と透明性が高い。とりわけ、多官能のアゾベンゼン系化合物や共重合可能なモノマーの存在下に共重合を行った場合、マトリックス樹脂中に均一分散したネットワーク型の(共)重合体が形成され、高い透明性に加えて、ブルーミングやブリーディングが起こらず、機械的性質に優れた組成物が得られるため、本発明において好ましい態様となる。
【0048】
このようにして得られる本発明の非線形光学材料(ホトクロミック材料)は、光照射により、可逆的に光吸収変化を示すとともに、非線形光学的および機械的特性が変化する。マスクを用いるか、レーザーの変調と走査を使って材料を部分的に照射することにより、部分的に非線形光学的および機械的特性が異なる状態にすることができる。一般に光反応は高速に起こるため、高強度のレーザーを用いれば、非線形光学および機械的特性の制御を、さらに短時間のうちに行うことが可能である。
【0049】
また、本発明の非線形光学材料(ホトクロミック材料)においては、非線形光学特性に係るホトクロミック化合物(アゾベンゼン系化合物)、もしくはその(共)重合体、またはスピロピラン化合物を高濃度で含有することもできるため、非線形光学的および機械的特性の変化が大きく、しかも熱可塑性樹脂が含まれているため、成型体の機械的特性も高く、その制御も容易である。
【0050】
さらに、本発明の非線形光学材料(ホトクロミック材料)は、材料中のアゾベンゼン基を配向させることによって、その非線形光学的および光機械的特性を変化させることができる。例えば、熱可塑性樹脂とのブレンド、あるいは熱可塑性樹脂中で本発明のビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物を(共)重合する際に、ラビング処理した配向表面上で行うことによってアゾベンゼン基を基盤の配向表面に対応した配向性を賦与することが可能である。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム、繊維などの成型体を延伸することによっても組成物中のアゾベンゼン基を延伸方向に対応して配向性を賦与することが可能である。このような配向したアゾベンゼン基は、非線形光学的および光機械的特性を配向方向に対応して変化させる。したがって、このような配向処理によって、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、異方性非線形光学材料としての態様も可能である。
【0051】
本発明の非線形光学材料である組成物は、熱可塑性樹脂マトリックス中にホトクロミック化合物である本発明のアゾベンゼン系化合物、もしくはその(共)重合体、またはスピロピラン化合物を低〜高濃度で含有させたものであって、高速で非線形光学的および機械的特性を光によって制御することが可能であるうえ、経時安定性に優れており、例えば光波長変換素子、光シャッター、高速光スイッチング素子、光理論ゲート素子、空間情報素子、光アクチュエータなどの素材として好適である。
特に、本発明の熱可塑性樹脂組成物をキャスト法などによりフィルム化し、さらに、該熱可塑性樹脂組成物の融点以下の温度、好ましくは融点〜ガラス転移温度以下で、1.5〜20倍、好ましくは2〜10倍に延伸した延伸フィルムは、延伸方向に逆に収縮−回復挙動が生起する。この原因は、非晶相に濃縮されたアゾベンゼン基のトランス−シス相互変換サイクル運動が、非晶相の弾性率低下と擬似架橋ゴムに近いエントロピー弾性効果を発現し、延伸方向に対して収縮、そして垂直方向に膨張を発現するものと考えられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例中における融点、分子量は、下記のようにして測定した。
融点
セイコーインスツルメント社製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6000-DSC6200 を用いて測定した。キャリアーガスとして窒素ガスを20ml/分で流し、サンプルをアルミパン中に入れて、昇温速度10℃/分で行った。
分子量
分子量は、東ソー株式会社製 HLC-8220 ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)システムを用いて測定した。カラムとしてTSKgel Super HM-H リニアータイプ(直線性範囲:103-8×106、排除限界分子量:4×108)、カラム温度は40℃、検知器として示差屈折系(RI)とUV検知器(波長、254nm)、溶離液としてクロロホルムを用いて0.6 ml/分の流速で行った。分子量は、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線を基にポリスチレン換算分子量として求めた。
【0053】
合成例1(アゾベンゼン系化合物(1)−1の合成)
テトラメチレングリコールモノビニルエーテル 0.59g(5.1mmol)を無水テトラヒドロフラン(THF)50mlに溶解した溶液に、トリエチルアミン 1.03g(10.2mmol)と触媒として4-(ジメチルアミノ)ピリジン 0.05g(0.4mmol)を加え、次にアゾベンゼンカルボニルクロライド 1.00g(4.1mmol)を0℃で1時間かけて滴下した。続いて、室温で24時間撹拌した後、生成した塩酸塩を濾取し、濾液を濃縮した。得られたオレンジ色の固体はシリカゲルカラムを用いて、酢酸エチル:ヘキサン(容量比)=1:4を展開溶媒として精製した。主成分を分取し、減圧下に溶媒を除去してオレンジ色の固体生成物を収率80%で得た。この固体生成物は、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メタノールに容易に溶解した。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1H
NMR、高分解能質量分析計(HRMS)およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られた化合物の構造式は下記のとおりで、分析結果は以下のとおりである。
【0054】
【化12】
【0055】
融点(Tm):60℃;1HNMR(CDCl3):d(ppm)1.8-2.0(4H,-CH2CH2-),3.77(2H,-CH2-O-C=C),4.01,4.20(2H,CH2=),4.40(2H,-CH2-OC(=O)-),6.49(1H,-O-CH=),7.51-7.58(3H,芳香環上のアゾ基に対してパラおよびメタ位の水素),7.94-7.97(4H,芳香環上のアゾ基に対してオルト位の水素),8.18-8.21(2H,芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,060と3,050(nCH,芳香環),2,956と2,874(nCH,CH2),1,720(nc=o,カルボキシル基),1,615(nc=c,-O-CH=CH2),1,601(nc=c,芳香環),1497(nN=N,アゾ基),1,279(nC-O,逆対称 CO-O),1,210と1,196(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,121-1,080(nC-O-C,対称 C-O-C=C),777および697(dCH, 芳香環);HRMS:(m/Z)324.1447.
【0056】
本固体生成物をテトラヒドロフランに溶解し、その溶液にUV光(365nm)および可視光(450nm)を照射したときのUV/可視スペクトルを図1(a)〜(b)に示す。UV光の照射によって、トランス体アゾベンゼンの吸収ピーク(326nm)が減少し、シス体アゾベンゼンの吸収ピーク(457nm)が増大していることと、可視光の照射によって、逆の現象が起こっていることが明確に確認された。すなわち、化合物(I)−1は、ホトクロミック特性を有していることが明らかである。
【0057】
合成例2(アゾベンゼン系化合物(I)-2の合成)
ジエチレングリコールモノビニルエーテル 0.68g(5.1mmol)を無水テトラヒドロフラン(THF)50mlに溶解した溶液に、トリエチルアミン 1.03g(10.2mmol)と触媒として4-(ジメチルアミノ)ピリジン 0.05g(0.4mmol)を加え、次にアゾベンゼンカルボニルクロライド 1.00g(4.1mmol)を0℃で1時間かけて滴下した。続いて、室温で24時間撹拌した後、生成した塩酸塩を濾取し、濾液を濃縮した。得られたオレンジ色の固体はシリカゲルカラムを用いて、酢酸エチル:ヘキサン(容量比)=2:3を展開溶媒として精製した。主成分を分取し、減圧下に溶媒を除去してオレンジ色の固体生成物を収率75%で得た。この固体生成物は、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メタノール、ヘキサンに容易に溶解した。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1HNMR、高分解能質量分析計(HRMS)およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られた化合物の構造式は下記のとおりで、分析結果は以下のとおりである。
【0058】
【化13】
【0059】
融点:40°C;1HNMR(CDCl3):d(ppm)3.79-3.83(2H,-O-CH2-CH2-O-CH=),3.87-3.91 (4H,-CH2-O-C=C,-O-CH2-CH2-O(C=O)),4.01-4.04(1H,d-d,CHH=),4.18-4.23(1H,CHH=),4.53(2H,-CH2-OC(=O)-),6.47-6.54(1H,-O-CH=),7.50-7.57(3H,芳香環上のアゾ基に対してパラおよびメタ位の水素),7.93-7.97(4H,芳香環上のアゾ基に対してオルト位の水素),8.19-8.24(2H,芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,060と3,050(nCH, 芳香環),2,960と2,870(nCH, CH2),1,717(nc=o,カルボキシル基),1,624(nc=c,-O-CH=CH2),1,603(nc=c,芳香環),1,497(nN=N,アゾ基),1,280(nC-O,逆対称 CO-O),1,209(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,129と1,116(nC-O-C,CH2-O-CH2),1,096-1,085(nC-O-C,対称 C-O-C=C),778および696(dCH,芳香環);HRMS:(m/Z)340.1410
【0060】
合成例3(アゾベンゼン系化合物(I)-3の合成)
テトラメチレングリコールモノビニルエーテル 0.94g(8.1mmol)をTHF 50mlに溶解した溶液に、トリエチルアミン 1.64g(16mmol)と触媒として4-(ジメチルアミノ)ピリジン 0.04g(0.32mmol)を加え、次にアゾベンゼン-4,4’-ジカルボニルジクロライド 1.00g(3.2mmol)を0℃で1時間かけて滴下した。続いて、室温で24時間撹拌した後、生成した塩酸塩を濾取し、濾液を濃縮した。得られたオレンジ色の固体はシリカゲルカラムを用いて、酢酸エチル:ヘキサン(容量比)=2:3を展開溶媒として精製した。主成分を分取し、減圧下に溶媒を除去してオレンジ色の固体生成物を収率70%で得た。この固体生成物は、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メタノールに容易に溶解した。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1H NMR、高分解能質量分析計(HRMS)およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られた化合物の構造式は下記のとおりで、分析結果は以下のとおりである。
【0061】
【化14】
【0062】
融点:110℃;1HNMR(CDCl3)d(ppm)1.81-1.99(8H,-CH2CH2-),3.78(4H,-CH2-O-C=C), 4.00-4.03(2H,CHH=),4.17-4.23(2H,d-d,CHH=),4.41(4H,-CH2-OC(=O)-),6.46-6.53(2H,-O-CH=),7.98-8.01(4H,芳香環上のアゾ基に対してオルト位の水素),8.19-8.23(4H,芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,100(nCH,芳香環),2,956と2,873(nCH,CH2),1,712(nc=o,カルボキシル基),1,615(nc=c,-O-CH=CH2),1,601(nc=c,芳香環),1,494(nN=N,アゾ基),1,279 (nC-O,逆対称 CO-O),1,197(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,121(nC-O-C,対称 C-O-C=C),780および699(dCH,芳香環);HRMS:(m/Z)466.2111
【0063】
合成例4(アゾベンゼン系化合物(I)-4の合成
ジエチレングリコールモノビニルエーテル 1.06g(8.1mmol)をTHF 50mlに溶解した溶液に、トリエチルアミン 1.64g(16mmol)と触媒として4-(ジメチルアミノ)ピリジン 0.04g(0.32mmol)を加え、次にアゾベンゼン-4,4’-ジカルボニルジクロライド 1.00g(3.2mmol)を0℃で1時間かけて滴下した。続いて、室温で24時間撹拌した後、生成した塩酸塩を濾取し、濾液を濃縮した。得られたオレンジ色の固体はシリカゲルカラムを用いて、酢酸エチル:ヘキサン(容量比)=1:4を展開溶媒として精製した。主成分を分取し、減圧下に溶媒を除去してオレンジ色の固体生成物を収率76%で得た。この固体生成物は、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メタノールに容易に溶解した。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1HNMR、高分解能質量分析計(HRMS)およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られた化合物の構造式は下記のとおりで、分析結果は以下のとおりである。
【0064】
【化15】
【0065】
融点:70°C;1HNMR(CDCl3):d(ppm)3.79-3.83(4H,-O-CH2-CH2-O-CH=),3.87-3.91(8H, -CH2-O-C=C,-O-CH2-CH2-O(C=O)),4.01-4.04(2H,CHH=),4.18-4.23(2H,CHH=),4.54(4H,-CH2-OC(=O)-),6.47-6.54(2H,-O-CH=),7.94-8.01(4H,芳香環上のアゾ基に対してオルト位の水素),8.22-8.25(4H,芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,112(nCH,芳香環),2,960と2,853(nCH,CH2),1,719(nc=o,カルボキシル基),1,616(nc=c,-O-CH=CH2),1,601(nc=c,芳香環),1,497(nN=N,アゾ基),1,269(nC-O,逆対称 CO-O),1,209(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,139と1,127(nC-O-C,CH2-O-CH2),1,106と1,089(nC-O-C,対称 C-O-C=C),778および696(dCH,芳香環);HRMS:(m/Z)498.2024.
【0066】
合成例5〜6(アゾベンゼン基含有ポリマー:(II)-1の合成)
ブチルゴム製セプタムを付けたフラスコ中に、アゾベンゼン系化合物(I)-1を1gと乾燥ジクロロメタンを10ml取り溶解させた。これに、カチオン重合触媒として三フッ化ホウ素エーテル錯体の所定量をシリンジを用いてセプタムを通して添加し、-45℃でカチオン重合を行った。60分間撹拌後、2mlの冷ピリジンを加えて反応を停止させ、100mlの冷ジエチルエーテル中に注いだ。沈殿したポリマーを濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した後、真空下で一晩乾燥した。生成物は赤色固体として得られた。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1HNMR、およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られたポリマーの構造式は下記のとおりで、分析結果は以下のとおりである。
【0067】
【化16】
【0068】
Tg:16°C;1HNMR(CDCl3):d(ppm)1.6-1.9(6H,>CH-CH2-,-CH2-CH2-),3.46(3H,-CH2-O-CH<),4.28(2H,-CH2-OC(=O)-),7.39(3H,末端フェニル基上のアゾ基に対してパラおよびメタ位の水素),7.77(4H,芳香環上のN=N基に対してオルト位の水素),8.01(2H,芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,063(nCH,芳香環),2,944と2,869(nCH,CH2),1,717(nc=o,カルボキシル基),1,603(nc=c,芳香環),1,497(nN=N,アゾ基),1,273(nC-O,逆対称 CO-O),1,219(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,109と1,095(nC-O-C,対称C-O-C=C),777および697(dCH,芳香環).
【0069】
【表1】
【0070】
実施例1〜5(アゾベンゼン基含有ポリマー:(II)-1とポリカーボネートブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
合成例5および6で合成したポリマー:(II)-1とポリカーボネート(サイエンティフィックポリマープロダクツ社製、Mw 60,000; Tg 146℃)とを表2に示した重量比で混合し、この混合物をジクロロメタンに溶解して1wt%溶液を調製した。この溶液をフラットシャーレに移し、室温常圧下で1日、さらに室温真空下で1日乾燥させてキャストフィルムを作成した。
得られたブレンドフィルムは、2.5cm×0.3cmの短冊状に切り出し、熱的性質測定用および光変形試験用サンプルとした。熱的性質は、セイコーインスツルメント社製の示差走査熱量計DSC-6200を用いて、窒素ガス気流(20mL/分)下に昇温速度 10°C/分で測定した。光変形試験は、セイコーインスツルメント社製の熱機械分析装置TMA/SS6100を用いて、一定荷重(5mN)下20℃で行った。光照射は、MORITEX Corporation社製 MUV-202U 照射装置に、熱遮断フィルター(80%透過光領域 300〜800nm)とUV光フィルター(シグマ光機製UTVAF-50S-33U、最高透過率波長330nm)を使用した。フィルム面での光照射強度は、インターナショナルライト(International light. Inc)社製 Model IL1400Aを用いて測定した。光変形度(ε(%))は、非照射時のサンプル長(チャック間長)L0に対する光照射時の変形量△Lの百分率で表したものである(図3)。
得られた測定結果は、表2に併記した。実施例3と5から、光変形度がUV照射強度によって変化することが明らかである。
【0071】
【表2】
【0072】
実施例3の光変形試験は、UV光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内に元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図4)。
【0073】
実施例6〜10(ポリカーボネートに混合されたアゾベンゼン系化合物のin situ重合による相互侵入高分子網目(IPN)フィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
1)開始剤含有アゾベンゼン系化合物混合物(AM)の調製
25mlのフラスコ中に、(I)-2 0.3g、(I)-4 0.3g、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロフォスフェート(diphenyliodonium hexafluorophosphate)23mg、および AIBN 10mgを取り、これに5mlのジクロロメタンを添加して室温で溶解し均一溶液とした。次に、溶媒を除去するため、エバポレーターを用い、続いて真空下に24時間保持して乾燥し、均一な開始剤含有アゾベンゼン系化合物混合物(AM)を調製した。
2)in situ重合によるIPNフィルムの作成
フラスコ中に表3に示した重量組成比のPCとAMを取り、ジクロロメタンを加えて溶解し1wt%の溶液とした。この溶液をフラットシャーレ中に移し、溶媒を室温常圧で1日、室温真空下で1日かけて気化除去した。その後、130℃で2時間加熱して硬化させ、相互侵入高分子網目(IPN)フィルムを作成した。
3)光照射下での形態変化
得られたIPNフィルムは、実施例1〜5と同様の方法で、熱的性質および光変形試験を行った。得られた結果は、表3に併記した。実施例8と10から、光変形度がUV照射強度によって変化することが明らかである。
【0074】
【表3】
【0075】
実施例8の光変形試験は、UV光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内に元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図5)。
【0076】
実施例11(環状オレフィン系重合体:ARTONに混合されたアゾベンゼン系化合物のin situ重合によるIPNフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
1)in situ重合によるIPNフィルムの作成
フラスコ中にJSR株式会社製、環状オレフィン系重合体:ARTON(Tg 168℃)と実施例6〜10で使用した開始剤含有アゾベンゼン系化合物混合物(AM)とを重量組成比70:30で取り、ジクロロメタンを加えて溶解し1wt%の溶液とした。この溶液をフラットシャーレ中に移し、溶媒を室温常圧で1日、室温真空下で1日かけて気化除去した。その後、130℃で2時間加熱して硬化させ、IPNフィルムを作成した。
2)光照射下での形態変化
得られたIPNフィルムは、実施例1〜5と同様の方法で、熱的性質および光変形試験を行った。得られた結果は、表4に示した。
【0077】
【表4】
【0078】
実施例11の光変形試験は、UV光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内に元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図6)。
【0079】
比較例1(ポリカーボネートフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
樹脂組成物としてポリカーボネートのみを用いた以外は実施例1と同様の方法でポリカーボネートフィルムを作成し、その光変形試験をUV光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、このポリカーボネートフィルムは明確な光変形を起こさないことが確認された(図7)。
【0080】
比較例2(環状オレフィン系重合体:ARTONフィルムの作成と光照射下での形態変化)
樹脂組成物として、環状オレフィン系重合体:ARTONのみを用いた以外はm実施例11と同様の方法でARTONフィルムを作成し、その光変形試験をUV光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、このARTONフィルムは明確な光変形を起こさないことが確認された(図8)。
【0081】
実施例12(アゾベンゼン基含有ポリマーとポリカーボネートIPNフィルムの可視光照射による光変形)
実施例9で作成したアゾベンゼン含有ポリマーとポリカーボネートIPNフィルムに、UV光照射の代わりに可視光照射(フィルター:シグマ光機製SCF-50S-44Y、最高透過率波長440nm)を行った以外は、実施例1〜5と同様の方法で、熱的性質および光変形試験を行った。得られた結果は表5に併記した。この結果から、本フィルムが可視光照射下でも光変形が起こることが明らかである。
【0082】
【表5】
【0083】
光変形試験は、可視光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、可視光照射時に1秒以内で延伸がおこり、可視光照射を停止すると同様に1秒以内に元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図9)。
【0084】
実施例13(アゾベンゼン基含有ポリマーとポリカーボネートIPNフィルムのUV光照射強度変化による光変形制御)
実施例9で作成したアゾベンゼン基含有ポリマーとポリカーボネートIPNフィルムに、UV光の照射強度を変化させて行った以外は、実施例1〜5と同様の方法で、光変形試験を行った。得られた結果は図10に示した。図10aは、UV光のon-offを繰り返しながら照射強度を変化させたときの光変形度を測定した結果であり、再現性も確認している。図10bは、図10aの結果を、光照射強度と光変形度の関係にプロットしなおしたものである。これらの結果から、本フィルムは、その光変形度をUV光の照射強度によって制御できることが明らかである。
【0085】
実施例14〜15、比較例3(UV光および可視光照射/非照射下での弾性率の変化)
実施例9で作成したIPNフィルムは、2.5cm×0.3cmの短冊状に切り出し、光変形試験用サンプルとした。光変形試験は、実施例1〜5、12と同様の装置を用いて、20℃下、一定延伸速度(100mm/min)で延伸しながら、UV光および可視光の照射/非照射試験を行った。得られた応力−ひずみ曲線を図11に示した。応力−ひずみ曲線の傾きから、それぞれの引張り弾性率を求め、表6に示した。表6の結果から、本フィルムの引張り弾性率が、UV光および可視光のいずれの照射によっても低下することが確認された。
【0086】
【表6】
【0087】
実施例16、比較例4(UV光照射/非照射下での弾性率の変化)
実施例9で作成したIPNフィルムは、2.5cm×0.3cmの短冊状に切り出し、光変形試験用サンプルとした。光変形試験は、実施例1〜5と同様の装置を用いて、20℃下、一定延伸速度(100mm/min)で延伸しながら、UV光の照射/非照射繰り返し試験を行った。得られた応力−ひずみ曲線を図12に示した。UV光の照射/非照射に伴い、明確な応力−ひずみ曲線の変化が観察された。応力−ひずみ曲線のUV光照射時と非照射時の傾きから、それぞれの引張り弾性率を求め、表7に示した。また、比較例4として、ポリカーボネート単独フィルム(PC)に関しても、同様のUV光の照射/非照射繰り返し試験を行った。しかし、PCフィルムの場合、UV光の照射/非照射繰り返し試験に伴う応力−ひずみ曲線の変化は一切観察されなかった(図12に併記)。その曲線の傾きから引張り弾性率を求め、表7に併記した。これらの結果から、本発明のフィルムの引張り弾性率が、UV光の照射によってその弾性率を繰り返し可逆的に変化させうることが確認された。
【0088】
【表7】
【0089】
実施例17(アゾベンゼン基含有ポリマーの合成)
ブチルゴム製セプタムを付けたフラスコ中に、アゾベンゼン系化合物(I)-1 0.25g(0.77mmol)、n-ブチルビニルエーテル 0.077g(0.77mmol)、および乾燥ジクロロメタンを5ml取り溶解させた。これに、カチオン重合触媒として三フッ化ホウ素エーテル錯体の0.01ml(0.084mmol)をシリンジを用いてセプタムを通して添加し、-45℃でカチオン重合を行った。60分間撹拌後、1mlの冷ピリジンを加えて反応を停止させ、50mlの冷メタノール中に注いだ。沈殿したポリマーを濾別し、メタノールで洗浄した後、真空下で一晩乾燥した。生成物は赤色固体として収率60%で得られた。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1HNMR、およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られたポリマーの構造式は下記のとおりで、その分析結果は以下のとおりである。
【0090】
【化17】
【0091】
Tg;-2°C;1HNMR(CDCl3):d(ppm)0.88(-CH3),1.2-2.0(-CH2CH2-,>CH-CH2-),3.3-3.7(-CH2-O-CH<),4.32(-CH2-OC(=O)-),7.47(末端フェニル基上のアゾ基に対してパラおよびメタ位の水素),7.87(芳香環上のN=N基に対してオルト位の水素),8.12(芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,062(nCH,芳香環),2,955と2,869(nCH,-CH2,-CH3),1,719(nc=o,カルボキシル基),1,604(nc=c,芳香環),1,497(nN=N,アゾ基),1,272(nC-O,逆対称 CO-O),1,219(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,109(nC-O-C,対称 C-O-C=C),777および697(dCH,芳香環).
また、生成物の分子量は、クロロホルムを展開溶剤としてサイズ排除クロマトグラフを用いて測定し、ポリスチレン換算分子量として求めた。その結果、数平均分子量22,500、重量平均分子量49,500であった。
上記で得られた 共重合体をジクロロメタンに溶解し、その溶液にUV光(365nm)の照射によって、トランス体アゾベンゼンの吸収ピーク(326nm)が減少し、シス体アゾベンゼンの吸収ピーク(457nm)が増大していることが明確に確認された。
【0092】
実施例18(一軸配向表面上でポリカーボネートに混合されたアゾベンゼン系化合物のin situ重合による一軸配向型相互侵入高分子網目(IPN)フィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
1)一軸配向型IPNフィルムの作成
フラスコ中にポリカーボネート(PC;サイエンティフィックポリマープロダクツ社製、Mw60,000;Tg146℃)と実施例6〜10使用した開始剤含有アゾベンゼン系化合物混合物(AM)とを重量組成比70:30で取り、ジクロロメタンを加えて溶解し1wt%の溶液とした。この溶液をラビング処理によって一軸配向表面を有するガラス基盤上のポリイミドフィルム上に流し、溶媒を室温常圧で1日、室温真空下で1日かけて気化除去した。その後、130℃で2時間加熱して硬化させ、一軸配向型IPNフィルムを作成した。
2)一軸配向型IPNフィルムの機械的性質
得られた一軸配向型IPNフィルムの機械的特性は、セイコーインスツルメント社製の熱機械分析装置TMA/SS6100を用いて、一定荷重(5mN)下、20℃で測定した。その結果を表8に示す。表8の結果から、配向方向に対して平行な方向の弾性率は高く、垂直な方向の弾性率は低いことが認められた。
3)光照射下での形態変化
得られた一軸配向型IPNフィルムは、実施例1〜5と同様の方法で、50mW/cm2のUV光強度下で、光変形試験を行った。得られた結果は、表8に併記した。表8の結果から、配向方向に対して平行な方向の光変形度は小さく、垂直な方向の光変形度は大きいことが認められた。
【0093】
【表8】
【0094】
実施例19(一軸配向表面上でポリマー:(II)-1とポリカーボネートブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
1)一軸配向型ブレンドフィルムの作成
合成例6で合成したポリマー:(II)-1とポリカーボネート(PC;サイエンティフィックポリマープロダクツ社製、Mw60,000;Tg146℃)とを表9に示した重量比で混合し、この混合物をジクロロメタンに溶解して1wt%溶液を調製した。この溶液をラビング処理によって一軸配向表面を有するガラス基盤上のポリイミドフィルム上に流し、室温常圧下で1日、さらに室温真空下で1日乾燥させて一軸配向型ブレンドフィルムを作成した。
2)一軸配向型ブレンドフィルムの機械的性質
得られた一軸配向型ブレンドフィルムの機械的特性は、実施例18と同様の方法で測定した。その結果を表9に示す。表9の結果から、配向方向に対して平行な方向の弾性率は高く、垂直な方向の弾性率は低いことが認められた。
3)光照射下での形態変化
得られた一軸配向型ブレンドフィルムは、実施例18と同様の方法で光変形試験を行った。得られた結果は、表9に併記した。表9の結果から、配向方向に対して平行な方向の光変形度は小さく、垂直な方向の光変形度は大きいことが認められた。
【0095】
【表9】
【0096】
実施例20(アゾベンゼンとポリカーボネートブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
1)キャストフィルムの作成
合成例1で得られたアゾベンセンとポリカーボネート(サイエンティフィックポリマープロダクツ社製、Mw 60,000;Tg146℃)とを5:95重量比で混合し、この混合物をジクロロメタンに溶解して1重量%溶液を調製した。この溶液をフラットシャーレに移し、室温常圧下で1日、さらに室温真空下で1日乾燥させてキャストフィルムを作成した。
2)光照射下での形態変化
得られたキャストフィルムは、UV光フィルターとしてエドムント社製の43103-F(365nm)、UV光照射強度25mW/cm2、一定荷重として10mNを負荷した以外は実施例1〜5と同様の方法で光変形試験を行い、UV光照射と非照射を30秒おきに6回繰り返した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内にほぼ元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図13)。
以上のことから、光のスイッチon-offによるフィルムの可逆的延伸−回復挙動が、アゾベンゼン基を有するポリマーのみならず、低分子のアゾベンゼン化合物によっても生じることが確認された。この原因は、可逆的延伸−回復挙動が主に、光照射中のアゾベンゼンのトランス−シス相互変換サイクル運動に伴うマトリックスの弾性率低下によるものであることを意味していると考えられる。
【0097】
実施例21(スピロピランとポリカーボネートブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
アゾベンゼンの代わりにスピロ[ビシクロ[3,3,1]ノナン-9,2’-(2H)ベンゾ[h]クロメン]を用いた以外は、実施例20と同様にして、ポリカーボネートとのキャストフィルムを作成し、UV光照射下での形態変化を測定した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内にほぼ元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図14)。
本実施例より、可逆的延伸−回復挙動がアゾベンゼン系化合物に限らず、光によって異性化しうるホトクロミック材料全般によって起こりうることが確認された。
【0098】
実施例22(アゾベンゼン基含有ポリマー:(II)-1とポリカプロラクトンブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
ポリカーボネートの代わりにポリカプロラクトン(サイエンティフィックポリマープロダクツ社製、Mw 120,000)を用いた以外は、実施例1〜5と同様にして、ポリカプロラクトンとのキャストフィルム(厚さ18μm)を作成した。さらに、実施例20と同様にして、UV光照射下での形態変化を測定した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内にほぼ元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図15)。
【0099】
実施例23(アゾベンゼン基含有ポリマー:(II)-1とポリカプロラクトンの延伸ブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
実施例22で作成したアゾベンゼン基含有ポリマー:(II)-1とポリカプロラクトンブレンドフィルムを室温で500%まで冷延伸を行い、一軸配向性フィルムを作成した。このフィルムは、延伸方向とそれに垂直な方向にそれぞれ2.5cm×0.3cmの短冊状に切り出し、光変形試験用サンプルとした。光変形試験は、実施例20と同様にして行い、UV光照射下での形態変化を測定した。その結果、延伸方向に長く切り出したサンプルは、光照射時に1秒以内で収縮がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内にほぼ元の長さに回復し、良好な光変形の可逆性が確認された(図16)。一方、延伸方向に対して垂直な方向に切り出したサンプルは、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内にほぼ元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図17)。
本実施例から、ブレンドフィルムを延伸して測定した場合、延伸方向に逆に収縮−回復挙動が確認された。この原因は、非晶相に濃縮されたアゾベンゼン基のトランス−シス相互変換サイクル運動が、非晶相の弾性率低下と擬似架橋ゴムに近いエントロピー弾性効果を発現し、延伸方向に対して収縮、そして垂直方向に膨張を発現したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に用いられるホトクロミック特性を持つアゾベンゼン系化合物およびスピロピラン化合物は、良好な可逆性、耐久性を持ち、異性化反応速度が速く、吸収波長の変化も大きく光記憶材料として有効であるという効果を有する。また、ポリマー化などにより、光照射に対応してポリマー全体の機械的性質とそれに伴う外部形態を速やかにかつ可逆的に変化させることができるという効果がある。
かくて、本発明の組成物は、熱可塑性樹脂マトリックス中にホトクロミック化合物であるアゾベンゼン基含有ポリビニルエーテルまたはスピロピラン化合物を低〜高濃度で含有させたものである。
従って、これらの本発明のホトクロミック材料(ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、アゾベンゼン基含有ポリマーまたはスピロンピラン化合物を熱可塑性樹脂マトリックス中に含有させた組成物)は、高速で非線形光学的および機械的特性を光によって制御することが可能であるうえ、経時安定性に優れており、例えば光波長変換素子、光シャッター、高速光スイッチング素子、光理論ゲート素子、空間情報素子、光アクチュエータなどの素材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】合成例1で得られたアゾベンゼン系化合物(I)−1のUV−可視スペクトル図で、(a)はUV照射によるトランス→シス異性化、(b)は可視光照射によるシス→トランス異性化を示す。
【図2】合成例5で得られたアゾベンゼン基含有ポリマー(II)−1のUV−可視スペクトル図で、UV照射によるトランス→シス異性化を示す。
【図3】光変形度の測定方法を示す概念図である。
【図4】実施例3のブレンドフィルムの繰り返しUV照射による光変形の可逆性を示す図である。
【図5】実施例8のIPNフィルムの繰り返しUV照射による光変形の可逆性を示す図である。
【図6】実施例11のIPNフィルムの繰り返しUV照射による光変形の可逆性を示す図である。
【図7】比較例1のポリカーボネートフィルムの繰り返しUV照射による光変形特性を示す図である。
【図8】比較例2の環状オレフィン系重合体フィルムの繰り返しUV照射による光変形特性を示す図である。
【図9】実施例12のIPNフィルムの繰り返し可視光照射による光変形の可逆性を示す図である。
【図10】実施例13のIPNフィルムの光照射強度変化に伴う光変形度の変化を示す図で、(a)はUV光のオン‐オフを繰り返しながら照射強度を変化させたときの光変形度を測定した結果を示し、(b)は(a)の結果を光照射強度と光変形度の関係にプロットした図である。
【図11】実施例9のIPNフィルムのUV光および可視光照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図12】実施例9のIPNフィルムのUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図13】実施例20のキャストフィルムのUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図14】実施例21のキャストフィルムのUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図15】実施例22のキャストフィルムのUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図16】実施例23の一軸配向性フィルム(延伸方向に切り出したフィルム)のUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図17】実施例23の一軸配向性フィルム(延伸方向に対し垂直に切り出したフィルム)のUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアゾベンゼン系化合物を用いた熱可塑性樹脂組成物に関するものである。詳細には、ある種の波長を持った光照射に伴い可逆的な構造的変化が生じる、いわゆる、ホトクロミック特性を持つアゾベンゼン系化合物を用いた熱可塑性樹脂組成物、およびそれを利用した光アクチュエータ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のホトクロミック材料には、スピロベンゾピラン系化合物、フルギド系化合物、アゾベンゼンなどがあった。しかし、スピロピラン系化合物は光異性化反応において可逆反応を繰り返すことにより、劣化が急激に起こるものであった。また、フルギド系化合物は、可逆反応の安定性があまり良くないことも知られている。さらに、アゾベンゼンのみでは良好な可逆性を持たないことも知られている。
また、ホトクロミック材料は、当該波長の光照射を行うことによって組成物全体の機械的性質を変化させてアクチュエータ機能を発現させることができる。従来の光アクチュエータ材料には、上記ホトクロミック材料の中でもとりわけアゾベンゼン系化合物が用いられてきた。しかし、従来の光アクチュエータ材料は、そのホトクロミック材料の光異性化に伴う材料全体の形態変化速度が非常に遅いという問題点があった。
【0003】
非特許文献1[C. D. Eisenbach, Polymer, 21, 1175-1179 (1980).]は、光によるアゾベンゼン基含有ポリマーの可逆的収縮−延伸制御技術を開示している。アゾベンゼン含有ジメタクリルアミドを用いて合成し延伸された材料は、その材料中のアゾベンゼン架橋部のUV光照射に伴う材料の収縮と可視光照射に伴う回復を発現した。しかし、その収縮−回復速度は分単位という遅い反応である。非特許文献2[H.Finkelmann and E. Nishikawa, Phys. Rev. Lett., 87, 015501-1〜4 (2001).]は、アゾベンゼン含有モノドメインネマチック液晶エラストマーを用いて、アゾベンゼンのトランス−シス光異性化に伴う光相転移現象を利用しUV光の照射による収縮と照射停止による回復技術を開示している。しかし、その収縮−回復速度は分単位という遅い反応である。非特許文献3[J. Cviklinski et al., Eur. Phys. J. E, 9, 427-434 (2002).]は、光によるアゾベンゼン含有ネマチック液晶の可逆的応力制御技術についてUV光照射による応力増大と光遮断による応力減少技術を開示している。しかし、その応力増大−緩和速度は分もしくは時間単位という非常に遅い反応である。非特許文献4[H. S. Blair et al., Polymer, 21, 1195-1198 (1980).]は、主鎖中にアゾベンゼン基を有するポリマーの光照射による還元粘度の低下と引張り応力の増大、光照射の停止による応力緩和の技術を開示している。しかし、その応力増大−緩和速度は約100秒程度の遅い反応である。非特許文献5[Y. Yu et al., Nature, 425, 145 (2003).]は、光によるアゾベンゼン基含有アクリレートポリマーの方位選択的屈曲技術について開示しており、UV光照射による収縮を利用した屈曲と可視光照射による回復が85℃という加熱条件下で約10秒で起こることを述べている。これらの先行技術は、いずれもUV光照射によるアゾベンゼン基の光異性化を利用した収縮あるいは応力増大機能の発現を主要因としており、かつ、数分から時間単位という遅い反応速度で実施している。
【非特許文献1】C.D.Eisenbach,Polymer,21,1175-1179(1980)
【非特許文献2】H.Finkelmann and E. Nishikawa, Phys. Rev. Lett., 87, 015501-1〜4 (2001)
【非特許文献3】J. Cviklinski et al., Eur. Phys. J. E, 9, 427-434 (2002)
【非特許文献4】H. S. Blair et al., Polymer, 21, 1195-1198 (1980)
【非特許文献5】Y. Yu et al., Nature, 425, 145 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光照射による良好な可逆性を持ち、異性化反応速度が速く、しかも吸収波長の変化も大きな、新規なアゾベンゼン系化合物を用いた熱可塑性樹脂組成物、およびこれを用いた光形態変化速度の速い光アクチュエータ材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(a)ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物(以下「アゾベンゼン系化合物」ともいう)、またはその(共)重合体(以下「アゾベンゼン基含有ポリマー」ともいう)、あるいはスピロピラン化合物0.1〜50重量%、および(b)熱可塑性樹脂50〜99.9重量%(ただし、(a)+(b)=100重量%)を主成分とする熱可塑性樹脂組成物に関する。
ここで、上記ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物としては、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0006】
【化1】
【0007】
(一般式(I)中、R1,R2は同一または異なり、水素原子、またはエステル結合とビニルエーテル基、およびこれらを結合するアルキレン結合もしくはオキシアルキレン結合を有するビニルエーテル基含有炭化水素基であり、このうち少なくとも1つは、該ビニルエーテル基含有炭化水素基である。)
上記ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物の具体例は、下記一般式(I)−1〜(I)−4の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0008】
【化2】
【0009】
次に、本発明は、上記ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、またはビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物を溶媒中もしくは無溶媒中で、付加重合、もしくは他の共重合可能なモノマーと共重合することによって得られ、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜10,000,000であるビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物の(共)重合体、あるいはスピロピラン化合物と、熱可塑性樹脂とを混合することを特徴とする上記熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
また、本発明は、(b)熱可塑性樹脂中で、ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物または該化合物と他の共重合可能なモノマーとを(共)重合することを特徴とする上記熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
次に、本発明は、上記熱可塑性樹脂組成物からなる光アクチュエータ材料に関する。
上記光アクチュエータ材料は、延伸されたものでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に用いられるビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物やスピロピラン化合物は、ホトクロミック特性を有し、良好な可逆性、耐久性を持ち、異性化反応速度が速く、吸収波長の変化も大きく光記憶材料として有効であるという効果を有する。また、上記ビニルエーテル基含有アゾベンゼン化合物は、ポリマー化により、光照射に対応してポリマー全体の機械的性質とそれに伴う外部形態を速やかにかつ可逆的に変化させることができるという効果がある。すなわち、従来技術とは異なり、本発明のビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、該ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物の(共)重合体、スピロピラン化合物、およびこれを主成分とする熱可塑性樹脂組成物は、光異性化に必要なUV光および可視光のいずれの照射下で、応力減少とそれに伴う延伸挙動という新たな機械的性質を発現する。この原因はいまだ明らかではないが、例えば上記アゾベンゼン系化合物の場合、アゾベンゼン基のトランス体の凝集−シス体の解凝集機能と、光照射下での反応平衡による凝集抑制機能によって達成されたものと考えられる。また、スピロピラン化合物によれば、アゾベンゼン系化合物およびこれをポリマー化したアゾベンゼン系化合物の(共)重合体に限らないホトクロミック材料全般に関して、マトリックスポリマーとのブレンド物に、弾性変形内の歪を引き起こす応力負荷の下、光照射することによる光アクチュエータの光変形挙動の制御方法が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
アゾベンゼン系化合物
本発明に用いられるアゾベンゼン系化合物は、上記一般式(I)で表され、R1,R2の少なくとも1つは、エステル結合とビニルエーテル基、およびこれらを結合するアルキレン結合もしくはオキシアルキレン結合を有する。
本発明のアゾベンゼン系化合物の具体例としては、上記一般式(I)−2〜(I)−(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0012】
これらの本発明のアゾベンゼン系化合物の製造方法は、例えば、上記一般式(I)−1で表されるアゾベンゼン系化合物を例にとると、次のような反応により合成することができる。
【0013】
【化3】
【0014】
すなわち、出発物質としてアゾベンゼンカルボニルクロライドとテトラメチレングリコールモノビニルエーテルとを用い、触媒に4-(ジメチルアミノ)ピリジン、塩化水素捕捉剤としてトリエチルアミンを用い、反応溶媒として無水テトラヒドロフランを用いて、0℃に冷却したテトラメチレングリコールモノビニルエーテル、触媒および塩化水素捕捉剤の無水テトラヒドロフラン溶液中に、アゾベンゼンカルボニルクロライドを滴下し、生成した塩酸塩を濾取して、濾液を濃縮した後、得られたオレンジ色の固体をシリカゲルカラムを用いて、酢酸エチル:ヘキサン(容量比)=1:4を展開溶媒として精製、さらに濃縮して一般式(I)-1で表される本発明のアゾベンゼン系化合物を合成することができる。
【0015】
このようにして得られる本発明のアゾベンゼン系化合物の構造は、赤外線吸収スペクトルによって、3,120〜3,050cm−1の芳香環上の水素のCH伸縮振動吸収、2,960〜2,850cm−1のアルキル基の水素のCH伸縮振動吸収、1,720〜1,710cm−1のエステルカルボニル基のC=O伸縮振動吸収、1,500〜1,490cm−1のアゾ基のN=N伸縮振動吸収などにより確認でき、また、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により、7.5〜8.3ppmの芳香環上のプロトンに基づくピーク、4.0〜4.3ppmのビニルエーテル基の中のメチレン基のプロトン(=CH2)に基づくピーク、6.48ppmのビニルエーテル基の中のメチン基のプロトン(=CH−)に基づくピーク、4.4〜4.6ppmのエステル基に隣接したメチレン基のプロトン(C(=O)O-CH2-)に基づくピークから、その構造を確認することができる。さらに、これらの元素組成比は元素分析により、また、分子量は高分解能質量分析(HRMS)により知ることができる。
【0016】
本発明に用いられるアゾベンゼン系化合物は、トランス構造が優勢である該化合物に、ある特定波長の光hν1を照射することにより、異性体であるシス構造が優勢な化合物に変化する。また、シス構造が優勢である上記化合物に、別の特定波長hν2を照射すると、元のトランス構造が優勢な化合物にもどる。この間、この両構造間には、分子量変化はなく、構造変化が生じ吸収波長が変化する。これらの化合物は、構造的に安定であり、ホトクロミック材料として用いることができる。
【0017】
ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物の(共)重合体(アゾベンゼン基含有ポリマー)
次に、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーは、上記一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物を溶媒中もしくは無溶媒中で、付加重合、もしくは他の共重合可能なモノマーと共重合することによって得られ、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜10,000,000の(共)重合体である。
【0018】
例えば、上記一般式(I)−1〜(I)−4で表されるアゾベンゼン系化合物の重合体は、下記一般式(II)−1〜(II)−4で表すことができる。
【0019】
【化4】
【0020】
ここで、上記の他の共重合可能なモノマーとしては、カチオン共重合およびラジカル共重合可能なビニル基およびヘテロ環を分子内に少なくとも一つ有する重合性単量体であれば特に限定されない。好ましい共重合可能なモノマーを例示すれば、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、スチレン、4−メトキシスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン類、ビニルピロリドンなどの含窒素モノマー類、およびテトラヒドロフラン、エポキシ化合物などのカチオン開環重合性モノマー類などである。
上記他の共重合可能なモノマーの配合量は、アゾベンゼン系化合物および他の共重合可能なモノマー中に、99重量%以下、好ましくは50重量%以下である。99重量%を超えると、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマー中のアゾベンゼン基の凝集機能が抑制されるため好ましくない。
【0021】
本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの具体例は、上記一般式(II)−1〜(II)−4で表される重合体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。例えば、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーとしては、上記一般式(I)−1〜(I)−4で挙げられるアゾベンゼン系化合物の2種以上を共重合した共重合体であってもよい。
【0022】
ここで、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーは、本発明のアゾベンゼン系化合物(および共重合可能な他のビニルモノマー)を、以下のようにして付加重合することによって得られる。ここで、好適に用いられる付加重合方法は、カチオン付加重合(以下、単にカチオン重合と記す)とラジカル付加重合(以下、単にラジカル重合と記す)であり、特にカチオン重合が高分子量体を得ることができる点で好適に用いられる。
すなわち、好適に用いられる製造方法を例示すれば、モノマーとして上記一般式(I)−1で示したアゾベンゼン系化合物、溶媒としてジクロロメタン、カチオン重合触媒として三フッ化ホウ素エーテル錯体を用いて、これらの均一混合物を、例えば−45℃で60分間攪拌することによって重合はほぼ完結する。重合終了後、カチオン重合触媒を失活させるためにピリジンを添加した後、沈殿溶剤としてのジエチルエーテル中に反応液を注いでポリマーを沈殿析出させる。
【0023】
このようにして得られる本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーのポリスチレン換算の重量平均分子量は、1,000〜10,000,000、好ましくは5,000〜1,000,000である。1,000未満では、これらのポリマーを主成分とする本発明の熱可塑性脂組成物からのブルーミングやブリーディングなどの不具合が生じやすい。一方、10,000,000を超えると、溶媒への溶解性や熱可塑性樹脂との相溶性が低下する。
本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの重量平均分子量は、本発明のアゾベンゼン系化合物および共重合可能な他のモノマー混合物中の多官能性単量体、例えば上記一般式(I)−3および(I)-4の混合組成比、重合時間、重合温度、重合触媒量、モノマー/溶媒混合比などにより調整することができる。
【0024】
本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーのもう一つの好適に用いられる製造方法は、熱可塑性樹脂中で、本発明のビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物を付加重合、または共重合可能な他のビニルモノマーと共重合する方法である。
すなわち、好適に用いられる製造方法を例示すれば、モノマーとして上記一般式(I)−2と(I)−4で示したアゾベンゼン系化合物の50:50重量比の混合物、溶媒としてジクロロメタン、熱可塑性樹脂としてポリカーボネート、およびカチオン重合触媒としてジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート/アゾビスイソブチロニトリル混合系を用いて、これらを均一混合液とした後、ジクロロメタンを減圧下に除去し、アゾベンゼン系化合物含有熱可塑性樹脂組成物フィルムを作成し、これを130℃で2時間加熱することによって重合を行い、相互進入高分子網目(IPN)型の本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーを製造する。
このようにして得られる本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーは、熱可塑性樹脂中でIPN型のネットワーク構造を形成しており、本発明の熱可塑性樹脂組成物からのブルーミングやブリーディングなどの不具合は生じない。また、このようにして得られる本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーは、不溶性であるため、その分子量は無限大であり測定不可能である。
【0025】
なお、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、通常、−30〜100℃、好ましくは−20〜50℃である。
このガラス転移温度は、エステル結合とビニルエーテル基を結合するアルキレン結合もしくはオキシアルキレン結合の構造および共重合組成により調整することができる。
【0026】
このようにして得られる本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの構造は、赤外線吸収スペクトルによって、3,060cm−1付近の芳香環上の水素のCH伸縮振動吸収、2,900cm−1付近のアルキル基の水素のCH伸縮振動吸収、1,720〜1,700cm−1のエステルカルボニル基のC=O伸縮振動吸収、1,500〜1,490cm−1のアゾ基のN=N伸縮振動吸収などにより確認でき、また、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により、7.5〜8.3ppmの芳香環状のプロトンに基づくピーク、4.2〜4.3ppmのエステル基に隣接したメチレン基のプロトン(C(=O)O-CH2-)に基づくピーク、3.4〜3.5ppmのエーテル酸素に隣接したメチレンおよびメチン基のプロトン(-O-CH2-、-O-CH<)に基づくピークから、その構造を確認することができる。これらの元素の組成比は、元素分析により知ることができる。また、このようにして得られる本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの分子量は、サイズ排除クロマトグラフ(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって確認することができる。
【0027】
本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの成形体は、透明性に優れ、光異性化性を有する。本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーを、フィルムに成形し、例えば紫外線を照射すると、構造がトランス体優勢からシス体優勢へと変化し、吸収波長が変化する。また、可視光線を照射すると、トランス体優勢に戻り、吸収波長は元に戻る。
また、本発明のアゾベンゼン基含有ポリマーの成形体は、例えば紫外線を照射する間、構造がトランス体からシス体へと変化する構造異性化反応が起こり、非照射下で安定なトランス体の凝集構造、いわゆる擬似架橋点が開裂し、成型体の機械的性質としての弾性率が変化する。一方、可視光線を照射する間も、シス体からトランス体へとその相対量が変化する構造異性化平衡反応によって、系内のトランス体同士による凝集構造形成が乱され、紫外線照射中と同様に成型体の機械的性質としての弾性率が変化する。
【0028】
スピロピラン化合物
一方、スピロピラン化合物としては、スピロ[ビシクロ[3,3,1]ノナン-9,2’-(2H)ベンゾ[h]クロメン]、1’,3’,3’,−トリメチルスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、1’,3’,3’,−トリメチルスピロ−8−ニトロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、1’,3’,3’−トリメチル−6−ヒドロキシスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、1’,3’,3’−トリメチルスピロ−8−メトキシ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、5’−クロル−1’,3’,3’−トリメチル−6−ニトロスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、6,8−ジブロモ−1’,3’,3’−トリメチルスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、8−エトキシ−1’,3’,3’4’,7’−ペンタメチルスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、5’−クロル−1’,3’,3’−トリメチルスピロ−6,8−ジニトロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−インドリン)、3,3,1−ジフェニル−3H−ナフト−(2,1−13)ピラン、1,3,3,−トリフェニルスピロ〔インドリン−2,3’−(3H)−ナフト(2,1−b)ピラン〕、1−(2,3,4,5,6−ペンタメチルベンジル)−3,3−ジメチルスピロ〔インドリン−2,3’−(3H)−ナフト(2,1−b)ピラン〕、1−(2−メトキシ−5−ニトロベンジル)−3,3−ジメチルスピロ〔インドリン−2,3’−ナフト(2,1−b)ピラン〕、1−(2−ニトロベンジル)−3,3−ジメチルスピロ〔インドリン−2,3’−ナフト(2,1−b)ピラン〕、1−(2−ナフチルメチル)−3,3−ジメチルスピロ〔インドリン−2,3’−ナフト(2,1−b)ピラン〕、1,3,3−トリメチル−6’−ニトロ−スピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−[2H]−インドール]などが挙げられる。
上記のように、光のスイッチon-offによるフィルムの可逆的延伸−回復挙動は、アゾベンゼン基を有する本発明の上記アゾベンゼン系化合物の(共)重合体のみならず、低分子のアゾベンゼン化合物によっても生じるが、さらにこの可逆的延伸−回復挙動がアゾベンゼン基に限らず、光によって異性化しうるホトクロミック材料全般によって起こりうることが、本発明のスピロピラン化合物によって確認することができる。
【0029】
熱可塑性樹脂組成物
本発明のビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくアゾベンゼン基含有ポリマー、またはスピロピラン化合物は、高分子マトリックスである熱可塑性樹脂にブレンドすることにより、光照射前後で異なる非線形光学特性を示し、経時安定性が優れた組成物が得られる。
【0030】
本発明の組成物に用いられる熱可塑性樹脂については特に制限はなく、例えばポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、環状オレフィン系重合体、およびジエチレングリコールジメタクリレートやジビニルベンゼンなどの配合により緩やかな架橋構造を導入した任意の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0031】
上記の樹脂の中でも、環状オレフィン系重合体が好ましく、具体例としては、下記一般式(1)〜(7)で表される繰り返し単位から選ばれた少なくとも1種の繰り返し単位を含み、ポリスチレン換算数平均分子量が10,000〜300,000の重合体を挙げることができる。
【0032】
【化5】
【0033】
[式(1)中、A1〜A4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示し、mは0または1である。]
【0034】
【化6】
【0035】
[式(2)中、A1〜A4、およびmは式(1)と同じ]
【0036】
【化7】
【0037】
[式(3)中、B1〜B4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基、加水分解性のシリル基、または−(CH2)kXで表される極性基を示し、B1〜 B4の少なくとも1つは加水分解性のシリル基、または−(CH2)kXで表される極性基から選ばれた置換基である。ここで、Xは−C(O)OR21または−OC(O)R22であり、R21,R22は水素、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基であり、kは0〜3の整数である。また、B1〜B4は、B1とB3またはB2とB4から形成される炭化水素環、もしくはイミド、カルボン酸無水物などの複素環構造あるいはB1とB2またはB3とB4から形成されるアルキリデニル、イミド、カルボン酸無水物であってもよい。pは0〜2の整数を示す。]
【0038】
【化8】
【0039】
[式(4)中、R1〜R14はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0040】
【化9】
【0041】
[式(5)中、R1〜R12はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0042】
【化10】
【0043】
[式(6)中、R1〜R16はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0044】
【化11】
【0045】
[式(7)中、R1〜R20はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における(a)ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくはアゾベンゼン基含有ポリマー、またはスピロピラン化合物の配合量は、組成物全重量に基づき0.1〜50重量%、好ましくは1.0〜30重量%である。
本発明の(a)成分の割合が0.1重量%未満では、非線形光学特性や光照射による機械的性質の変化が小さく、不十分であるし、一方、50重量%を超えると、ホトクロミック材料であるアゾベンゼン系化合物の(共)重合体が凝集して結晶化し、非線形光学特性や成型体の基本的な機械的強度を減衰させるおそれがあり、また加工性が低下する。
【0047】
ホトクロミック材料である本発明のビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくはアゾベンゼン基含有ポリマー、またはスピロピラン化合物を熱可塑性樹脂マトリックス中に分散させる方法については特に制限はなく、種々の方法を用いることができる。例えば、適当な溶媒中にビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくその(共)重合体(アゾベンゼン基含有ポリマー)、またはスピロピラン化合物と熱可塑性樹脂とを溶解させて溶液を調製するか、あるいは熱可塑性樹脂を溶媒により膨潤あるいは熱により溶融し、これにビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、もしくはアゾベンゼン基含有ポリマー、またはスピロピラン化合物を添加したのち、コーティングやキャスティングなどの方法により、所望の非線形光学材料(ホトクロミック材料)を製造することができる。また、溶媒中、あるいは無溶媒中で、熱可塑性樹脂の存在下に、本発明のアゾベンゼン系化合物を付加重合もしくは共重合することが好ましい。このようにして得られる組成物は、アゾベンゼン系化合物を高濃度で導入可能であり、さらに相互進入高分子網目(IPN)型の熱可塑性組成物であるため、該(共)重合体のマトリックス樹脂中への均一分散性と透明性が高い。とりわけ、多官能のアゾベンゼン系化合物や共重合可能なモノマーの存在下に共重合を行った場合、マトリックス樹脂中に均一分散したネットワーク型の(共)重合体が形成され、高い透明性に加えて、ブルーミングやブリーディングが起こらず、機械的性質に優れた組成物が得られるため、本発明において好ましい態様となる。
【0048】
このようにして得られる本発明の非線形光学材料(ホトクロミック材料)は、光照射により、可逆的に光吸収変化を示すとともに、非線形光学的および機械的特性が変化する。マスクを用いるか、レーザーの変調と走査を使って材料を部分的に照射することにより、部分的に非線形光学的および機械的特性が異なる状態にすることができる。一般に光反応は高速に起こるため、高強度のレーザーを用いれば、非線形光学および機械的特性の制御を、さらに短時間のうちに行うことが可能である。
【0049】
また、本発明の非線形光学材料(ホトクロミック材料)においては、非線形光学特性に係るホトクロミック化合物(アゾベンゼン系化合物)、もしくはその(共)重合体、またはスピロピラン化合物を高濃度で含有することもできるため、非線形光学的および機械的特性の変化が大きく、しかも熱可塑性樹脂が含まれているため、成型体の機械的特性も高く、その制御も容易である。
【0050】
さらに、本発明の非線形光学材料(ホトクロミック材料)は、材料中のアゾベンゼン基を配向させることによって、その非線形光学的および光機械的特性を変化させることができる。例えば、熱可塑性樹脂とのブレンド、あるいは熱可塑性樹脂中で本発明のビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物を(共)重合する際に、ラビング処理した配向表面上で行うことによってアゾベンゼン基を基盤の配向表面に対応した配向性を賦与することが可能である。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム、繊維などの成型体を延伸することによっても組成物中のアゾベンゼン基を延伸方向に対応して配向性を賦与することが可能である。このような配向したアゾベンゼン基は、非線形光学的および光機械的特性を配向方向に対応して変化させる。したがって、このような配向処理によって、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、異方性非線形光学材料としての態様も可能である。
【0051】
本発明の非線形光学材料である組成物は、熱可塑性樹脂マトリックス中にホトクロミック化合物である本発明のアゾベンゼン系化合物、もしくはその(共)重合体、またはスピロピラン化合物を低〜高濃度で含有させたものであって、高速で非線形光学的および機械的特性を光によって制御することが可能であるうえ、経時安定性に優れており、例えば光波長変換素子、光シャッター、高速光スイッチング素子、光理論ゲート素子、空間情報素子、光アクチュエータなどの素材として好適である。
特に、本発明の熱可塑性樹脂組成物をキャスト法などによりフィルム化し、さらに、該熱可塑性樹脂組成物の融点以下の温度、好ましくは融点〜ガラス転移温度以下で、1.5〜20倍、好ましくは2〜10倍に延伸した延伸フィルムは、延伸方向に逆に収縮−回復挙動が生起する。この原因は、非晶相に濃縮されたアゾベンゼン基のトランス−シス相互変換サイクル運動が、非晶相の弾性率低下と擬似架橋ゴムに近いエントロピー弾性効果を発現し、延伸方向に対して収縮、そして垂直方向に膨張を発現するものと考えられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例中における融点、分子量は、下記のようにして測定した。
融点
セイコーインスツルメント社製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6000-DSC6200 を用いて測定した。キャリアーガスとして窒素ガスを20ml/分で流し、サンプルをアルミパン中に入れて、昇温速度10℃/分で行った。
分子量
分子量は、東ソー株式会社製 HLC-8220 ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)システムを用いて測定した。カラムとしてTSKgel Super HM-H リニアータイプ(直線性範囲:103-8×106、排除限界分子量:4×108)、カラム温度は40℃、検知器として示差屈折系(RI)とUV検知器(波長、254nm)、溶離液としてクロロホルムを用いて0.6 ml/分の流速で行った。分子量は、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線を基にポリスチレン換算分子量として求めた。
【0053】
合成例1(アゾベンゼン系化合物(1)−1の合成)
テトラメチレングリコールモノビニルエーテル 0.59g(5.1mmol)を無水テトラヒドロフラン(THF)50mlに溶解した溶液に、トリエチルアミン 1.03g(10.2mmol)と触媒として4-(ジメチルアミノ)ピリジン 0.05g(0.4mmol)を加え、次にアゾベンゼンカルボニルクロライド 1.00g(4.1mmol)を0℃で1時間かけて滴下した。続いて、室温で24時間撹拌した後、生成した塩酸塩を濾取し、濾液を濃縮した。得られたオレンジ色の固体はシリカゲルカラムを用いて、酢酸エチル:ヘキサン(容量比)=1:4を展開溶媒として精製した。主成分を分取し、減圧下に溶媒を除去してオレンジ色の固体生成物を収率80%で得た。この固体生成物は、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メタノールに容易に溶解した。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1H
NMR、高分解能質量分析計(HRMS)およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られた化合物の構造式は下記のとおりで、分析結果は以下のとおりである。
【0054】
【化12】
【0055】
融点(Tm):60℃;1HNMR(CDCl3):d(ppm)1.8-2.0(4H,-CH2CH2-),3.77(2H,-CH2-O-C=C),4.01,4.20(2H,CH2=),4.40(2H,-CH2-OC(=O)-),6.49(1H,-O-CH=),7.51-7.58(3H,芳香環上のアゾ基に対してパラおよびメタ位の水素),7.94-7.97(4H,芳香環上のアゾ基に対してオルト位の水素),8.18-8.21(2H,芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,060と3,050(nCH,芳香環),2,956と2,874(nCH,CH2),1,720(nc=o,カルボキシル基),1,615(nc=c,-O-CH=CH2),1,601(nc=c,芳香環),1497(nN=N,アゾ基),1,279(nC-O,逆対称 CO-O),1,210と1,196(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,121-1,080(nC-O-C,対称 C-O-C=C),777および697(dCH, 芳香環);HRMS:(m/Z)324.1447.
【0056】
本固体生成物をテトラヒドロフランに溶解し、その溶液にUV光(365nm)および可視光(450nm)を照射したときのUV/可視スペクトルを図1(a)〜(b)に示す。UV光の照射によって、トランス体アゾベンゼンの吸収ピーク(326nm)が減少し、シス体アゾベンゼンの吸収ピーク(457nm)が増大していることと、可視光の照射によって、逆の現象が起こっていることが明確に確認された。すなわち、化合物(I)−1は、ホトクロミック特性を有していることが明らかである。
【0057】
合成例2(アゾベンゼン系化合物(I)-2の合成)
ジエチレングリコールモノビニルエーテル 0.68g(5.1mmol)を無水テトラヒドロフラン(THF)50mlに溶解した溶液に、トリエチルアミン 1.03g(10.2mmol)と触媒として4-(ジメチルアミノ)ピリジン 0.05g(0.4mmol)を加え、次にアゾベンゼンカルボニルクロライド 1.00g(4.1mmol)を0℃で1時間かけて滴下した。続いて、室温で24時間撹拌した後、生成した塩酸塩を濾取し、濾液を濃縮した。得られたオレンジ色の固体はシリカゲルカラムを用いて、酢酸エチル:ヘキサン(容量比)=2:3を展開溶媒として精製した。主成分を分取し、減圧下に溶媒を除去してオレンジ色の固体生成物を収率75%で得た。この固体生成物は、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メタノール、ヘキサンに容易に溶解した。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1HNMR、高分解能質量分析計(HRMS)およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られた化合物の構造式は下記のとおりで、分析結果は以下のとおりである。
【0058】
【化13】
【0059】
融点:40°C;1HNMR(CDCl3):d(ppm)3.79-3.83(2H,-O-CH2-CH2-O-CH=),3.87-3.91 (4H,-CH2-O-C=C,-O-CH2-CH2-O(C=O)),4.01-4.04(1H,d-d,CHH=),4.18-4.23(1H,CHH=),4.53(2H,-CH2-OC(=O)-),6.47-6.54(1H,-O-CH=),7.50-7.57(3H,芳香環上のアゾ基に対してパラおよびメタ位の水素),7.93-7.97(4H,芳香環上のアゾ基に対してオルト位の水素),8.19-8.24(2H,芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,060と3,050(nCH, 芳香環),2,960と2,870(nCH, CH2),1,717(nc=o,カルボキシル基),1,624(nc=c,-O-CH=CH2),1,603(nc=c,芳香環),1,497(nN=N,アゾ基),1,280(nC-O,逆対称 CO-O),1,209(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,129と1,116(nC-O-C,CH2-O-CH2),1,096-1,085(nC-O-C,対称 C-O-C=C),778および696(dCH,芳香環);HRMS:(m/Z)340.1410
【0060】
合成例3(アゾベンゼン系化合物(I)-3の合成)
テトラメチレングリコールモノビニルエーテル 0.94g(8.1mmol)をTHF 50mlに溶解した溶液に、トリエチルアミン 1.64g(16mmol)と触媒として4-(ジメチルアミノ)ピリジン 0.04g(0.32mmol)を加え、次にアゾベンゼン-4,4’-ジカルボニルジクロライド 1.00g(3.2mmol)を0℃で1時間かけて滴下した。続いて、室温で24時間撹拌した後、生成した塩酸塩を濾取し、濾液を濃縮した。得られたオレンジ色の固体はシリカゲルカラムを用いて、酢酸エチル:ヘキサン(容量比)=2:3を展開溶媒として精製した。主成分を分取し、減圧下に溶媒を除去してオレンジ色の固体生成物を収率70%で得た。この固体生成物は、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メタノールに容易に溶解した。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1H NMR、高分解能質量分析計(HRMS)およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られた化合物の構造式は下記のとおりで、分析結果は以下のとおりである。
【0061】
【化14】
【0062】
融点:110℃;1HNMR(CDCl3)d(ppm)1.81-1.99(8H,-CH2CH2-),3.78(4H,-CH2-O-C=C), 4.00-4.03(2H,CHH=),4.17-4.23(2H,d-d,CHH=),4.41(4H,-CH2-OC(=O)-),6.46-6.53(2H,-O-CH=),7.98-8.01(4H,芳香環上のアゾ基に対してオルト位の水素),8.19-8.23(4H,芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,100(nCH,芳香環),2,956と2,873(nCH,CH2),1,712(nc=o,カルボキシル基),1,615(nc=c,-O-CH=CH2),1,601(nc=c,芳香環),1,494(nN=N,アゾ基),1,279 (nC-O,逆対称 CO-O),1,197(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,121(nC-O-C,対称 C-O-C=C),780および699(dCH,芳香環);HRMS:(m/Z)466.2111
【0063】
合成例4(アゾベンゼン系化合物(I)-4の合成
ジエチレングリコールモノビニルエーテル 1.06g(8.1mmol)をTHF 50mlに溶解した溶液に、トリエチルアミン 1.64g(16mmol)と触媒として4-(ジメチルアミノ)ピリジン 0.04g(0.32mmol)を加え、次にアゾベンゼン-4,4’-ジカルボニルジクロライド 1.00g(3.2mmol)を0℃で1時間かけて滴下した。続いて、室温で24時間撹拌した後、生成した塩酸塩を濾取し、濾液を濃縮した。得られたオレンジ色の固体はシリカゲルカラムを用いて、酢酸エチル:ヘキサン(容量比)=1:4を展開溶媒として精製した。主成分を分取し、減圧下に溶媒を除去してオレンジ色の固体生成物を収率76%で得た。この固体生成物は、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メタノールに容易に溶解した。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1HNMR、高分解能質量分析計(HRMS)およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られた化合物の構造式は下記のとおりで、分析結果は以下のとおりである。
【0064】
【化15】
【0065】
融点:70°C;1HNMR(CDCl3):d(ppm)3.79-3.83(4H,-O-CH2-CH2-O-CH=),3.87-3.91(8H, -CH2-O-C=C,-O-CH2-CH2-O(C=O)),4.01-4.04(2H,CHH=),4.18-4.23(2H,CHH=),4.54(4H,-CH2-OC(=O)-),6.47-6.54(2H,-O-CH=),7.94-8.01(4H,芳香環上のアゾ基に対してオルト位の水素),8.22-8.25(4H,芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,112(nCH,芳香環),2,960と2,853(nCH,CH2),1,719(nc=o,カルボキシル基),1,616(nc=c,-O-CH=CH2),1,601(nc=c,芳香環),1,497(nN=N,アゾ基),1,269(nC-O,逆対称 CO-O),1,209(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,139と1,127(nC-O-C,CH2-O-CH2),1,106と1,089(nC-O-C,対称 C-O-C=C),778および696(dCH,芳香環);HRMS:(m/Z)498.2024.
【0066】
合成例5〜6(アゾベンゼン基含有ポリマー:(II)-1の合成)
ブチルゴム製セプタムを付けたフラスコ中に、アゾベンゼン系化合物(I)-1を1gと乾燥ジクロロメタンを10ml取り溶解させた。これに、カチオン重合触媒として三フッ化ホウ素エーテル錯体の所定量をシリンジを用いてセプタムを通して添加し、-45℃でカチオン重合を行った。60分間撹拌後、2mlの冷ピリジンを加えて反応を停止させ、100mlの冷ジエチルエーテル中に注いだ。沈殿したポリマーを濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した後、真空下で一晩乾燥した。生成物は赤色固体として得られた。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1HNMR、およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られたポリマーの構造式は下記のとおりで、分析結果は以下のとおりである。
【0067】
【化16】
【0068】
Tg:16°C;1HNMR(CDCl3):d(ppm)1.6-1.9(6H,>CH-CH2-,-CH2-CH2-),3.46(3H,-CH2-O-CH<),4.28(2H,-CH2-OC(=O)-),7.39(3H,末端フェニル基上のアゾ基に対してパラおよびメタ位の水素),7.77(4H,芳香環上のN=N基に対してオルト位の水素),8.01(2H,芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,063(nCH,芳香環),2,944と2,869(nCH,CH2),1,717(nc=o,カルボキシル基),1,603(nc=c,芳香環),1,497(nN=N,アゾ基),1,273(nC-O,逆対称 CO-O),1,219(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,109と1,095(nC-O-C,対称C-O-C=C),777および697(dCH,芳香環).
【0069】
【表1】
【0070】
実施例1〜5(アゾベンゼン基含有ポリマー:(II)-1とポリカーボネートブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
合成例5および6で合成したポリマー:(II)-1とポリカーボネート(サイエンティフィックポリマープロダクツ社製、Mw 60,000; Tg 146℃)とを表2に示した重量比で混合し、この混合物をジクロロメタンに溶解して1wt%溶液を調製した。この溶液をフラットシャーレに移し、室温常圧下で1日、さらに室温真空下で1日乾燥させてキャストフィルムを作成した。
得られたブレンドフィルムは、2.5cm×0.3cmの短冊状に切り出し、熱的性質測定用および光変形試験用サンプルとした。熱的性質は、セイコーインスツルメント社製の示差走査熱量計DSC-6200を用いて、窒素ガス気流(20mL/分)下に昇温速度 10°C/分で測定した。光変形試験は、セイコーインスツルメント社製の熱機械分析装置TMA/SS6100を用いて、一定荷重(5mN)下20℃で行った。光照射は、MORITEX Corporation社製 MUV-202U 照射装置に、熱遮断フィルター(80%透過光領域 300〜800nm)とUV光フィルター(シグマ光機製UTVAF-50S-33U、最高透過率波長330nm)を使用した。フィルム面での光照射強度は、インターナショナルライト(International light. Inc)社製 Model IL1400Aを用いて測定した。光変形度(ε(%))は、非照射時のサンプル長(チャック間長)L0に対する光照射時の変形量△Lの百分率で表したものである(図3)。
得られた測定結果は、表2に併記した。実施例3と5から、光変形度がUV照射強度によって変化することが明らかである。
【0071】
【表2】
【0072】
実施例3の光変形試験は、UV光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内に元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図4)。
【0073】
実施例6〜10(ポリカーボネートに混合されたアゾベンゼン系化合物のin situ重合による相互侵入高分子網目(IPN)フィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
1)開始剤含有アゾベンゼン系化合物混合物(AM)の調製
25mlのフラスコ中に、(I)-2 0.3g、(I)-4 0.3g、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロフォスフェート(diphenyliodonium hexafluorophosphate)23mg、および AIBN 10mgを取り、これに5mlのジクロロメタンを添加して室温で溶解し均一溶液とした。次に、溶媒を除去するため、エバポレーターを用い、続いて真空下に24時間保持して乾燥し、均一な開始剤含有アゾベンゼン系化合物混合物(AM)を調製した。
2)in situ重合によるIPNフィルムの作成
フラスコ中に表3に示した重量組成比のPCとAMを取り、ジクロロメタンを加えて溶解し1wt%の溶液とした。この溶液をフラットシャーレ中に移し、溶媒を室温常圧で1日、室温真空下で1日かけて気化除去した。その後、130℃で2時間加熱して硬化させ、相互侵入高分子網目(IPN)フィルムを作成した。
3)光照射下での形態変化
得られたIPNフィルムは、実施例1〜5と同様の方法で、熱的性質および光変形試験を行った。得られた結果は、表3に併記した。実施例8と10から、光変形度がUV照射強度によって変化することが明らかである。
【0074】
【表3】
【0075】
実施例8の光変形試験は、UV光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内に元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図5)。
【0076】
実施例11(環状オレフィン系重合体:ARTONに混合されたアゾベンゼン系化合物のin situ重合によるIPNフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
1)in situ重合によるIPNフィルムの作成
フラスコ中にJSR株式会社製、環状オレフィン系重合体:ARTON(Tg 168℃)と実施例6〜10で使用した開始剤含有アゾベンゼン系化合物混合物(AM)とを重量組成比70:30で取り、ジクロロメタンを加えて溶解し1wt%の溶液とした。この溶液をフラットシャーレ中に移し、溶媒を室温常圧で1日、室温真空下で1日かけて気化除去した。その後、130℃で2時間加熱して硬化させ、IPNフィルムを作成した。
2)光照射下での形態変化
得られたIPNフィルムは、実施例1〜5と同様の方法で、熱的性質および光変形試験を行った。得られた結果は、表4に示した。
【0077】
【表4】
【0078】
実施例11の光変形試験は、UV光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内に元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図6)。
【0079】
比較例1(ポリカーボネートフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
樹脂組成物としてポリカーボネートのみを用いた以外は実施例1と同様の方法でポリカーボネートフィルムを作成し、その光変形試験をUV光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、このポリカーボネートフィルムは明確な光変形を起こさないことが確認された(図7)。
【0080】
比較例2(環状オレフィン系重合体:ARTONフィルムの作成と光照射下での形態変化)
樹脂組成物として、環状オレフィン系重合体:ARTONのみを用いた以外はm実施例11と同様の方法でARTONフィルムを作成し、その光変形試験をUV光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、このARTONフィルムは明確な光変形を起こさないことが確認された(図8)。
【0081】
実施例12(アゾベンゼン基含有ポリマーとポリカーボネートIPNフィルムの可視光照射による光変形)
実施例9で作成したアゾベンゼン含有ポリマーとポリカーボネートIPNフィルムに、UV光照射の代わりに可視光照射(フィルター:シグマ光機製SCF-50S-44Y、最高透過率波長440nm)を行った以外は、実施例1〜5と同様の方法で、熱的性質および光変形試験を行った。得られた結果は表5に併記した。この結果から、本フィルムが可視光照射下でも光変形が起こることが明らかである。
【0082】
【表5】
【0083】
光変形試験は、可視光照射と非照射を1分おきに5回繰り返した。その結果、可視光照射時に1秒以内で延伸がおこり、可視光照射を停止すると同様に1秒以内に元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図9)。
【0084】
実施例13(アゾベンゼン基含有ポリマーとポリカーボネートIPNフィルムのUV光照射強度変化による光変形制御)
実施例9で作成したアゾベンゼン基含有ポリマーとポリカーボネートIPNフィルムに、UV光の照射強度を変化させて行った以外は、実施例1〜5と同様の方法で、光変形試験を行った。得られた結果は図10に示した。図10aは、UV光のon-offを繰り返しながら照射強度を変化させたときの光変形度を測定した結果であり、再現性も確認している。図10bは、図10aの結果を、光照射強度と光変形度の関係にプロットしなおしたものである。これらの結果から、本フィルムは、その光変形度をUV光の照射強度によって制御できることが明らかである。
【0085】
実施例14〜15、比較例3(UV光および可視光照射/非照射下での弾性率の変化)
実施例9で作成したIPNフィルムは、2.5cm×0.3cmの短冊状に切り出し、光変形試験用サンプルとした。光変形試験は、実施例1〜5、12と同様の装置を用いて、20℃下、一定延伸速度(100mm/min)で延伸しながら、UV光および可視光の照射/非照射試験を行った。得られた応力−ひずみ曲線を図11に示した。応力−ひずみ曲線の傾きから、それぞれの引張り弾性率を求め、表6に示した。表6の結果から、本フィルムの引張り弾性率が、UV光および可視光のいずれの照射によっても低下することが確認された。
【0086】
【表6】
【0087】
実施例16、比較例4(UV光照射/非照射下での弾性率の変化)
実施例9で作成したIPNフィルムは、2.5cm×0.3cmの短冊状に切り出し、光変形試験用サンプルとした。光変形試験は、実施例1〜5と同様の装置を用いて、20℃下、一定延伸速度(100mm/min)で延伸しながら、UV光の照射/非照射繰り返し試験を行った。得られた応力−ひずみ曲線を図12に示した。UV光の照射/非照射に伴い、明確な応力−ひずみ曲線の変化が観察された。応力−ひずみ曲線のUV光照射時と非照射時の傾きから、それぞれの引張り弾性率を求め、表7に示した。また、比較例4として、ポリカーボネート単独フィルム(PC)に関しても、同様のUV光の照射/非照射繰り返し試験を行った。しかし、PCフィルムの場合、UV光の照射/非照射繰り返し試験に伴う応力−ひずみ曲線の変化は一切観察されなかった(図12に併記)。その曲線の傾きから引張り弾性率を求め、表7に併記した。これらの結果から、本発明のフィルムの引張り弾性率が、UV光の照射によってその弾性率を繰り返し可逆的に変化させうることが確認された。
【0088】
【表7】
【0089】
実施例17(アゾベンゼン基含有ポリマーの合成)
ブチルゴム製セプタムを付けたフラスコ中に、アゾベンゼン系化合物(I)-1 0.25g(0.77mmol)、n-ブチルビニルエーテル 0.077g(0.77mmol)、および乾燥ジクロロメタンを5ml取り溶解させた。これに、カチオン重合触媒として三フッ化ホウ素エーテル錯体の0.01ml(0.084mmol)をシリンジを用いてセプタムを通して添加し、-45℃でカチオン重合を行った。60分間撹拌後、1mlの冷ピリジンを加えて反応を停止させ、50mlの冷メタノール中に注いだ。沈殿したポリマーを濾別し、メタノールで洗浄した後、真空下で一晩乾燥した。生成物は赤色固体として収率60%で得られた。この生成物の確認は、示差走査熱量計(DSC)、FT-IR、1HNMR、およびUV-可視分光光度計を用いて行った。得られたポリマーの構造式は下記のとおりで、その分析結果は以下のとおりである。
【0090】
【化17】
【0091】
Tg;-2°C;1HNMR(CDCl3):d(ppm)0.88(-CH3),1.2-2.0(-CH2CH2-,>CH-CH2-),3.3-3.7(-CH2-O-CH<),4.32(-CH2-OC(=O)-),7.47(末端フェニル基上のアゾ基に対してパラおよびメタ位の水素),7.87(芳香環上のN=N基に対してオルト位の水素),8.12(芳香環上のエステル基に対してオルト位の水素);FT-IR(KBr):(cm-1)3,062(nCH,芳香環),2,955と2,869(nCH,-CH2,-CH3),1,719(nc=o,カルボキシル基),1,604(nc=c,芳香環),1,497(nN=N,アゾ基),1,272(nC-O,逆対称 CO-O),1,219(nC-O-C,逆対称 C-O-C=C),1,109(nC-O-C,対称 C-O-C=C),777および697(dCH,芳香環).
また、生成物の分子量は、クロロホルムを展開溶剤としてサイズ排除クロマトグラフを用いて測定し、ポリスチレン換算分子量として求めた。その結果、数平均分子量22,500、重量平均分子量49,500であった。
上記で得られた 共重合体をジクロロメタンに溶解し、その溶液にUV光(365nm)の照射によって、トランス体アゾベンゼンの吸収ピーク(326nm)が減少し、シス体アゾベンゼンの吸収ピーク(457nm)が増大していることが明確に確認された。
【0092】
実施例18(一軸配向表面上でポリカーボネートに混合されたアゾベンゼン系化合物のin situ重合による一軸配向型相互侵入高分子網目(IPN)フィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
1)一軸配向型IPNフィルムの作成
フラスコ中にポリカーボネート(PC;サイエンティフィックポリマープロダクツ社製、Mw60,000;Tg146℃)と実施例6〜10使用した開始剤含有アゾベンゼン系化合物混合物(AM)とを重量組成比70:30で取り、ジクロロメタンを加えて溶解し1wt%の溶液とした。この溶液をラビング処理によって一軸配向表面を有するガラス基盤上のポリイミドフィルム上に流し、溶媒を室温常圧で1日、室温真空下で1日かけて気化除去した。その後、130℃で2時間加熱して硬化させ、一軸配向型IPNフィルムを作成した。
2)一軸配向型IPNフィルムの機械的性質
得られた一軸配向型IPNフィルムの機械的特性は、セイコーインスツルメント社製の熱機械分析装置TMA/SS6100を用いて、一定荷重(5mN)下、20℃で測定した。その結果を表8に示す。表8の結果から、配向方向に対して平行な方向の弾性率は高く、垂直な方向の弾性率は低いことが認められた。
3)光照射下での形態変化
得られた一軸配向型IPNフィルムは、実施例1〜5と同様の方法で、50mW/cm2のUV光強度下で、光変形試験を行った。得られた結果は、表8に併記した。表8の結果から、配向方向に対して平行な方向の光変形度は小さく、垂直な方向の光変形度は大きいことが認められた。
【0093】
【表8】
【0094】
実施例19(一軸配向表面上でポリマー:(II)-1とポリカーボネートブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
1)一軸配向型ブレンドフィルムの作成
合成例6で合成したポリマー:(II)-1とポリカーボネート(PC;サイエンティフィックポリマープロダクツ社製、Mw60,000;Tg146℃)とを表9に示した重量比で混合し、この混合物をジクロロメタンに溶解して1wt%溶液を調製した。この溶液をラビング処理によって一軸配向表面を有するガラス基盤上のポリイミドフィルム上に流し、室温常圧下で1日、さらに室温真空下で1日乾燥させて一軸配向型ブレンドフィルムを作成した。
2)一軸配向型ブレンドフィルムの機械的性質
得られた一軸配向型ブレンドフィルムの機械的特性は、実施例18と同様の方法で測定した。その結果を表9に示す。表9の結果から、配向方向に対して平行な方向の弾性率は高く、垂直な方向の弾性率は低いことが認められた。
3)光照射下での形態変化
得られた一軸配向型ブレンドフィルムは、実施例18と同様の方法で光変形試験を行った。得られた結果は、表9に併記した。表9の結果から、配向方向に対して平行な方向の光変形度は小さく、垂直な方向の光変形度は大きいことが認められた。
【0095】
【表9】
【0096】
実施例20(アゾベンゼンとポリカーボネートブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
1)キャストフィルムの作成
合成例1で得られたアゾベンセンとポリカーボネート(サイエンティフィックポリマープロダクツ社製、Mw 60,000;Tg146℃)とを5:95重量比で混合し、この混合物をジクロロメタンに溶解して1重量%溶液を調製した。この溶液をフラットシャーレに移し、室温常圧下で1日、さらに室温真空下で1日乾燥させてキャストフィルムを作成した。
2)光照射下での形態変化
得られたキャストフィルムは、UV光フィルターとしてエドムント社製の43103-F(365nm)、UV光照射強度25mW/cm2、一定荷重として10mNを負荷した以外は実施例1〜5と同様の方法で光変形試験を行い、UV光照射と非照射を30秒おきに6回繰り返した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内にほぼ元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図13)。
以上のことから、光のスイッチon-offによるフィルムの可逆的延伸−回復挙動が、アゾベンゼン基を有するポリマーのみならず、低分子のアゾベンゼン化合物によっても生じることが確認された。この原因は、可逆的延伸−回復挙動が主に、光照射中のアゾベンゼンのトランス−シス相互変換サイクル運動に伴うマトリックスの弾性率低下によるものであることを意味していると考えられる。
【0097】
実施例21(スピロピランとポリカーボネートブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
アゾベンゼンの代わりにスピロ[ビシクロ[3,3,1]ノナン-9,2’-(2H)ベンゾ[h]クロメン]を用いた以外は、実施例20と同様にして、ポリカーボネートとのキャストフィルムを作成し、UV光照射下での形態変化を測定した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内にほぼ元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図14)。
本実施例より、可逆的延伸−回復挙動がアゾベンゼン系化合物に限らず、光によって異性化しうるホトクロミック材料全般によって起こりうることが確認された。
【0098】
実施例22(アゾベンゼン基含有ポリマー:(II)-1とポリカプロラクトンブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
ポリカーボネートの代わりにポリカプロラクトン(サイエンティフィックポリマープロダクツ社製、Mw 120,000)を用いた以外は、実施例1〜5と同様にして、ポリカプロラクトンとのキャストフィルム(厚さ18μm)を作成した。さらに、実施例20と同様にして、UV光照射下での形態変化を測定した。その結果、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内にほぼ元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図15)。
【0099】
実施例23(アゾベンゼン基含有ポリマー:(II)-1とポリカプロラクトンの延伸ブレンドフィルムの作成とUV光照射下での形態変化)
実施例22で作成したアゾベンゼン基含有ポリマー:(II)-1とポリカプロラクトンブレンドフィルムを室温で500%まで冷延伸を行い、一軸配向性フィルムを作成した。このフィルムは、延伸方向とそれに垂直な方向にそれぞれ2.5cm×0.3cmの短冊状に切り出し、光変形試験用サンプルとした。光変形試験は、実施例20と同様にして行い、UV光照射下での形態変化を測定した。その結果、延伸方向に長く切り出したサンプルは、光照射時に1秒以内で収縮がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内にほぼ元の長さに回復し、良好な光変形の可逆性が確認された(図16)。一方、延伸方向に対して垂直な方向に切り出したサンプルは、UV光照射時に1秒以内で延伸がおこり、UV光照射を停止すると同様に1秒以内にほぼ元の長さに収縮し、良好な光変形の可逆性が確認された(図17)。
本実施例から、ブレンドフィルムを延伸して測定した場合、延伸方向に逆に収縮−回復挙動が確認された。この原因は、非晶相に濃縮されたアゾベンゼン基のトランス−シス相互変換サイクル運動が、非晶相の弾性率低下と擬似架橋ゴムに近いエントロピー弾性効果を発現し、延伸方向に対して収縮、そして垂直方向に膨張を発現したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に用いられるホトクロミック特性を持つアゾベンゼン系化合物およびスピロピラン化合物は、良好な可逆性、耐久性を持ち、異性化反応速度が速く、吸収波長の変化も大きく光記憶材料として有効であるという効果を有する。また、ポリマー化などにより、光照射に対応してポリマー全体の機械的性質とそれに伴う外部形態を速やかにかつ可逆的に変化させることができるという効果がある。
かくて、本発明の組成物は、熱可塑性樹脂マトリックス中にホトクロミック化合物であるアゾベンゼン基含有ポリビニルエーテルまたはスピロピラン化合物を低〜高濃度で含有させたものである。
従って、これらの本発明のホトクロミック材料(ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、アゾベンゼン基含有ポリマーまたはスピロンピラン化合物を熱可塑性樹脂マトリックス中に含有させた組成物)は、高速で非線形光学的および機械的特性を光によって制御することが可能であるうえ、経時安定性に優れており、例えば光波長変換素子、光シャッター、高速光スイッチング素子、光理論ゲート素子、空間情報素子、光アクチュエータなどの素材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】合成例1で得られたアゾベンゼン系化合物(I)−1のUV−可視スペクトル図で、(a)はUV照射によるトランス→シス異性化、(b)は可視光照射によるシス→トランス異性化を示す。
【図2】合成例5で得られたアゾベンゼン基含有ポリマー(II)−1のUV−可視スペクトル図で、UV照射によるトランス→シス異性化を示す。
【図3】光変形度の測定方法を示す概念図である。
【図4】実施例3のブレンドフィルムの繰り返しUV照射による光変形の可逆性を示す図である。
【図5】実施例8のIPNフィルムの繰り返しUV照射による光変形の可逆性を示す図である。
【図6】実施例11のIPNフィルムの繰り返しUV照射による光変形の可逆性を示す図である。
【図7】比較例1のポリカーボネートフィルムの繰り返しUV照射による光変形特性を示す図である。
【図8】比較例2の環状オレフィン系重合体フィルムの繰り返しUV照射による光変形特性を示す図である。
【図9】実施例12のIPNフィルムの繰り返し可視光照射による光変形の可逆性を示す図である。
【図10】実施例13のIPNフィルムの光照射強度変化に伴う光変形度の変化を示す図で、(a)はUV光のオン‐オフを繰り返しながら照射強度を変化させたときの光変形度を測定した結果を示し、(b)は(a)の結果を光照射強度と光変形度の関係にプロットした図である。
【図11】実施例9のIPNフィルムのUV光および可視光照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図12】実施例9のIPNフィルムのUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図13】実施例20のキャストフィルムのUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図14】実施例21のキャストフィルムのUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図15】実施例22のキャストフィルムのUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図16】実施例23の一軸配向性フィルム(延伸方向に切り出したフィルム)のUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【図17】実施例23の一軸配向性フィルム(延伸方向に対し垂直に切り出したフィルム)のUV照射/非照射下での応力−ひずみ曲線である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、またはその(共)重合体、あるいはスピロピラン化合物0.1〜50重量%、および(b)熱可塑性樹脂50〜99.9重量%(ただし、(a)+(b)=100重量%)を主成分とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物が下記一般式(I)で表される請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
(一般式(I)中、R1,R2は同一または異なり、水素原子、またはエステル結合とビニルエーテル基、およびこれらを結合するアルキレン結合もしくはオキシアルキレン結合を有するビニルエーテル基含有炭化水素基であり、このうち少なくとも1つは、該ビニルエーテル基含有炭化水素基である。)
【請求項3】
ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物が下記一般式(I)−1〜(I)−4の群から選ばれた少なくとも1種である請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化2】
【請求項4】
ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、またはビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物を溶媒中もしくは無溶媒中で、付加重合、もしくは他の共重合可能なモノマーと共重合することによって得られ、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜10,000,000であるビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物の(共)重合体、あるいはスピロピラン化合物と、熱可塑性樹脂とを混合することを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
(b)熱可塑性樹脂中で、ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物または該化合物と他の共重合可能なモノマーとを(共)重合することを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる光アクチュエータ材料。
【請求項7】
延伸されてなる請求項6記載の光アクチュエータ材料。
【請求項1】
(a)ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、またはその(共)重合体、あるいはスピロピラン化合物0.1〜50重量%、および(b)熱可塑性樹脂50〜99.9重量%(ただし、(a)+(b)=100重量%)を主成分とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物が下記一般式(I)で表される請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
(一般式(I)中、R1,R2は同一または異なり、水素原子、またはエステル結合とビニルエーテル基、およびこれらを結合するアルキレン結合もしくはオキシアルキレン結合を有するビニルエーテル基含有炭化水素基であり、このうち少なくとも1つは、該ビニルエーテル基含有炭化水素基である。)
【請求項3】
ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物が下記一般式(I)−1〜(I)−4の群から選ばれた少なくとも1種である請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化2】
【請求項4】
ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物、またはビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物を溶媒中もしくは無溶媒中で、付加重合、もしくは他の共重合可能なモノマーと共重合することによって得られ、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜10,000,000であるビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物の(共)重合体、あるいはスピロピラン化合物と、熱可塑性樹脂とを混合することを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
(b)熱可塑性樹脂中で、ビニルエーテル基含有アゾベンゼン系化合物または該化合物と他の共重合可能なモノマーとを(共)重合することを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる光アクチュエータ材料。
【請求項7】
延伸されてなる請求項6記載の光アクチュエータ材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−282990(P2006−282990A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312105(P2005−312105)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】
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