説明

熱可塑性樹脂組成物および成形品

【課題】剛性および制振性に優れ、かつ成形加工性が良好な熱可塑性樹脂組成物、およびこれを用いた成形品の提供。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と、少なくともイソプレンおよび/またはイソブチレンを含むモノマー成分を重合して得られる熱可塑性樹脂(b)と、板状のケイ酸塩鉱物(c)と、繊維状の有機系充填材(d)とを含有し、前記板状のケイ酸塩鉱物(c)と繊維状の有機系充填材(d)の含有量の合計が、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)の含有量の合計100質量部に対して10〜450質量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、剛性、機械特性、耐衝撃性、寸法安定性などに優れた樹脂であり、電気・電子部品、機構部品、自動車部品、OA機器部品等の分野に幅広く使用されている。また、剛性の向上を目的として、ポリカーボネート樹脂にはガラス繊維などの無機充填材が混合される場合が多い。
これらの分野、特に機構部品の分野は高性能化や小型化の傾向にあるため、ポリカーボネート樹脂には成形加工性はもちろんのこと、剛性や寸法安定性のさらなる向上が求められている。
【0003】
そこで、剛性や寸法安定性を強化したポリカーボネート樹脂が多数報告されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、線膨張係数が小さく寸法安定性に優れたポリカーボネート樹脂として、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂からなる組成物に、強化繊維を配合した熱可塑性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
近年、上述した各分野においては、部品そのものとしてだけではなく、部品が組み合わさった状態(成形品)での耐久性や、衝撃を吸収して振動を抑制する性能(制振性)の向上、部品駆動時の騒音の低減などが求められている。すなわち、部分間での相互作用を加味しての耐久性(耐衝撃性や寸法安定性など)および制振性が要求されるということであり、ポリカーボネート樹脂には、本来有する耐衝撃性や寸法安定性の向上に加えて、優れた制振性を有することが求められる。
制振性を付与したポリカーボネート樹脂としては、ポリカーボネート樹脂に、振動吸収性を有する変性水添ブロック共重合体を混合した樹脂混合物と、ガラス繊維とを含有する制振性ポリカーボネート樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−146219号公報
【特許文献2】特開2008−202012号公報
【特許文献3】特開平7−188542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂の成形加工性を改善することを主目的としてスチレン系樹脂を用いており、成形加工性には優れるものの、制振性に関する記述はない。
特許文献3に記載の制振性ポリカーボネート樹脂組成物の場合、剛性を維持するためには振動吸収性を有する変性水添ブロック共重合体の添加量に限界があり、十分な制振性が得られにくかった。従って、剛性と制振性を両立することが困難であった。また、充填材であるガラス繊維によって、制振性が低下することがあった。
このように、剛性と制振性を両立したポリカーボネート樹脂を得ることは必ずしも容易ではなく、機構部品等の分野での成形品に対する、衝撃の吸収や衝突音(騒音)の抑制といった要求を十分に満たすことは困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、剛性および制振性に優れ、かつ成形加工性が良好な熱可塑性樹脂組成物、およびこれを用いた成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と、少なくともイソプレンおよび/またはイソブチレンを含むモノマー成分を重合して得られる熱可塑性樹脂(b)と、板状のケイ酸塩鉱物(c)と、繊維状の有機系充填材(d)とを含有し、前記板状のケイ酸塩鉱物(c)と繊維状の有機系充填材(d)の含有量の合計が、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)の含有量の合計100質量部に対して10〜450質量部であることを特徴とする。
また、前記熱可塑性樹脂(b)が、芳香族ビニル骨格を有することが好ましい。
さらに、前記芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)の質量比が、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)/熱可塑性樹脂(b)=80/20〜97/3であることが好ましい。
【0009】
また、前記板状のケイ酸塩鉱物(c)と繊維状の有機系充填材(d)の質量比が、板状のケイ酸塩鉱物(c)/繊維状の有機系充填材(d)=20/80〜70/30であることが好ましい。
さらに、前記板状のケイ酸塩鉱物(c)の平均粒子径が10〜100μmであることが好ましい。
また、前記繊維状の有機系充填材(d)の平均繊維長が1〜10mmであることが好ましい。
【0010】
また、本発明の成形品は、前記熱可塑性樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、剛性および制振性に優れ、かつ成形加工性が良好な熱可塑性樹脂組成物、およびこれを用いた成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)(以下、「(a)成分」という。)と、熱可塑性樹脂(b)(以下、「(b)成分」という。)と、板状のケイ酸塩鉱物(c)(以下、「(c)成分」という。)と、繊維状の有機系充填材(d)(以下、「(d)成分」という。)とを含有する。
【0013】
(a)成分は、芳香族ポリカーボネート樹脂である。
(a)成分としては特に限定されず、公知の芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることができる。具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物と、ホスゲンまたは炭酸ジエステルとの反応物が挙げられる。
反応には、界面重合法、エステル交換法などの公知の方法を用いればよい。反応に使用される触媒としては限定されないが、通常、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を用いる。これら触媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えばビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどが挙げられる。これら芳香族ジヒドロキシ化合物は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートなどが挙げられる。これら炭酸ジエステルは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
また、分岐化剤を反応系中に添加すれば、該分岐化剤が芳香族ジヒドロキシ化合物の一部となり、分岐を有する芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる。
分岐化剤としては、例えばフロログルシン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物が好適である。
分岐化剤の添加量は、芳香族ポリカーボネート樹脂の構造に応じて適宜決定されるが、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物100質量部に対して1〜10質量部である。
【0017】
(a)成分としては市販のものを用いてもよく、例えば三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製の「ユーピロンH−3000R」、「ユーピロンH−4000」、「ユーピロンS−2000」、「ユーピロンE−2000」等が挙げられる。
【0018】
(a)成分の含有量は、熱可塑性樹脂組成物100質量%中、14〜90質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましい。
ところで、熱可塑性樹脂組成物は、樹脂成分である(a)成分が海相、(b)成分が島相を形成する海島構造となる。(a)成分の含有量が14質量%以上であれば、(a)成分が主要な樹脂成分となり、熱可塑性樹脂組成物中で(a)成分が十分な連続構造(海相)を形成することが可能となる。その結果、安定した海島構造を形成でき、剛性と成形加工性が向上する。一方、(a)成分の含有量が90質量%以下であれば、(a)成分骨格内に(b)成分によって適度な振動吸収性を発現しうる不連続構造が形成された三次元的な連続構造を形成でき、振動吸収性が向上する。
【0019】
(b)成分は、少なくともイソプレンおよび/またはイソブチレンを含むモノマー成分を重合して得られる熱可塑性樹脂である。
(b)成分は、(a)成分に振動吸収性を付与すると共に、後述する(c)成分や(d)成分との親和性を高める成分である。従って、熱可塑性樹脂組成物が(b)成分を含有することで、優れた剛性と制振性を兼ね備えることができる。
【0020】
前記モノマー成分には、イソプレンおよび/またはイソブチレンと共重合可能なその他の単量体が含まれていてもよい。
その他の単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン単量体などが挙げられる。これらの中でも芳香族ビニル単量体が好ましい。
モノマー成分中に芳香族ビニル単量体が含まれていれば、芳香族ビニル骨格を有する熱可塑性樹脂が得られる。熱可塑性樹脂が芳香族ビニル骨格を有すると、(a)成分に含まれる芳香環と、(b)成分に含まれる芳香環との間に、π−πスタッキングによる相互作用が発生する。従って、(a)成分との相溶性が高まり、得られる熱可塑性樹脂組成物の制振性がより向上する。さらに、熱可塑性樹脂組成物の曲げ弾性率を向上できるので、剛性を良好に維持できる。
【0021】
芳香族ビニル単量体の含有量は、モノマー成分100質量%中、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。芳香族ビニル単量体の含有量が50質量%以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の制振性が向上しやすくなる。芳香族ビニル単量体の含有量の下限値については特に制限されないが、10質量%以上が好ましい。
【0022】
(b)成分としては、例えばイソプレン単独重合体(イソプレンゴム)、イソプレン−イソブチレン共重合体(ブチルゴム)、イソプレンおよび/またはイソブチレンをモノマーの一つに含むランダム共重合体、イソプレンおよび/またはイソブチレンをポリマー分子中のブロックの一つとして含むブロック共重合体(A−B型、A−B−C型、A−B−A型など)、イソプレンおよび/またはイソブチレンを水素添加して得られる水添共重合体などが挙げられる。
これらの中でもブロック共重合体が好ましい。上述したように、芳香族ビニル骨格を有する熱可塑性樹脂は(a)成分との相溶性により優れることから、芳香族ビニルブロックと、イソプレンブロックおよび/またはイソブチレンブロックとを含むブロック共重合体が特に好ましい。
【0023】
また、(b)成分としては市販のものを用いてもよく、例えば株式会社クラレ製の「HYBRAR 5127」、「HYBRAR 5125」、「HYBRAR 7125」、「HYBRAR 7311」;日本ブチル株式会社製の「BUTYL 065」、「BUTYL 268」、「BUTYL 365」等が挙げられる。
【0024】
(b)成分は、(a)成分との質量比が(a)成分/(b)成分=80/20〜97/3となるように配合するのが好ましく、より好ましくは85/15〜95/5である。(a)成分と(b)成分の質量比が上記範囲内であれば、剛性と制振性のバランスにより優れた熱可塑性樹脂組成物が得られやすくなる。なお、(b)成分の配合比が上記範囲の下限値を下回ると制振性が低下する傾向にあり、(b)成分の配合比が上記範囲の上限値を上回ると剛性(特に曲げ特性)が低下する傾向にある。
【0025】
(c)成分は、板状のケイ酸塩鉱物である。
(c)成分は無機系充填材の役割を果たし、熱可塑性樹脂組成物の剛性(特に、曲げ特性や破壊特性)を高めることができる。また、ケイ酸塩鉱物が板状であるため、熱可塑性樹脂組成物の制振性を損なうことなく、剛性を高めることが可能となる。
なお、本発明において「板状」とは、最長径と、最長径を有する面に対して垂直方向の厚さとのアスペクト比(最長径/厚さ)が3以上のものを示す。
【0026】
(c)成分は、平均粒子径が10〜100μmであることが好ましく、より好ましくは20〜80μmである。平均粒子径が上記範囲内であれば、剛性と制振性のバランスにより優れた熱可塑性樹脂組成物が得られやすくなる。特に、平均粒子径が10μm以上であれば、上述した海島構造における海相を形成する(a)成分中に、衝撃吸収部位となりうる不連続構造が形成された三次元的な連続構造を形成しやすくなるため、制振性に優れるようになる。一方、平均粒子径が100μm以下であれば、樹脂成分(特に(a)成分)との親和性に優れるため、前記三次元的な連続構造が維持されやすくなり、破壊歪みが生じにくくなる。
ここで、「平均粒子径」とは、任意に選択した500個以上のケイ酸塩鉱物について、電子顕微鏡を用いて測定した最長径の平均値のことである。
【0027】
(c)成分としては、例えばマイカ、タルク、セリサイトなどが挙げられる。
また、(c)成分としては市販のものを用いてもよく、例えば株式会社山口雲母工業所製の「A−41」、「SJ−005」、「B−82」;岩瀬コスファ株式会社製の「ソフトセリサイトT−6」等が挙げられる。
【0028】
(d)成分は、繊維状の有機系充填材である。
(d)成分は熱可塑性樹脂組成物の制振性を高めることができる。また、有機系充填材が繊維状であるため、熱可塑性樹脂組成物の剛性を損なうことなく、制振性を高めることが可能となる。
【0029】
(d)成分は、平均繊維長が1〜10mmであることが好ましく、より好ましくは2〜5mmである。平均繊維長が上記範囲内であれば、熱可塑性樹脂組成物中における分散性が良好になると共に、曲げ特性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られやすくなる。特に、平均繊維長が1mm以上であれば、曲げ特性に優れるようになる。一方、平均繊維長が10mm以下であれば、(d)成分の分散性が良好となり、成形加工性に特に優れるようになる。
(d)成分の平均繊維長は、任意に選択した500個以上の有機系充填材について、顕微鏡観察画像に対して画像処理ソフトを用いて測定した繊維長の平均値のことである。
【0030】
(d)成分としては、例えばアラミド繊維、セルロース、ケナフ、単糖類、でんぷんなどの多糖類、木粉、おから、モミ殻、フスマ、フェノール繊維、ポリエステル繊維、その他植物繊維や動物繊維(羊毛、絹など)、合成繊維(例えばナイロン系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、フッ素樹脂系繊維など)、再生繊維(レーヨン繊維など)、半合成繊維(セルロースアセテートなどのセルロースエステル繊維)等が挙げられる。これら繊維状の有機系充填材は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
また、(d)成分としては市販のものを用いてもよく、例えば東レ・デュポン株式会社製の「Kevlar カットファイバー」等が挙げられる。
【0032】
(c)成分および(d)成分は、これらの含有量の合計が、(a)成分と(b)成分の含有量の合計100質量部に対して10〜450質量部であり、好ましくは20〜300質量部である。(c)成分と(d)成分の含有量の合計が10質量部以上であれば、充填材の効果が十分に得られるので、得られる熱可塑性樹脂組成物の剛性(特に曲げ特性)と制振性が向上する。一方、(c)成分と(d)成分の含有量の合計が450質量部以下であれば、上述した海島構造における海相を形成する(a)成分の連続性が保たれ、海島構造が安定して維持される。その結果、熱可塑性樹脂組成物の機械特性が向上し、成形加工性が良好となる。
【0033】
また、(c)成分および(d)成分は、これらの質量比が(c)成分/(d)成分=20/80〜70/30であることが好ましく、より好ましくは35/65〜60/40である。(c)成分と(d)成分の質量比が上記範囲内であれば、剛性と制振性のバランスにより優れた熱可塑性樹脂組成物が得られやすくなる。なお、(c)成分の配合比が上記範囲の下限値を下回ると曲げ特性が低下する傾向にあり、(c)成分の配合比が上記範囲の上限値を上回ると制振性が低下する傾向にある。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、(b)成分以外の他の熱可塑性樹脂や、添加剤を含んでいてもよい。
他の熱可塑性樹脂としては、例えばスチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等の芳香族系樹脂、6,6ナイロン、6ナイロン等のポリアミド系樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、(EVA)等のポリマーや、エラストマー、ゴムなどが挙げられる。
【0035】
具体的には、ポリスチレン、ゴム強化ポリスチレン(ハイインパクトポリスチレン)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)等のスチレン・メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、ゴム強化MS樹脂、無水マレイン酸・スチレン共重合体、無水マレイン酸・アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・α−メチルスチレン共重合体、メタクリロニトリル・スチレン共重合体、メタクリル酸メチル・アクリロニトリル・スチレン共重合体、ポリプロピレン(PP)等のホモポリマー、およびブテン、ヘキセン、オクテン等とのブロック、ランダム共重合体、ポリメチルペンテン、ポリブテン−1、プロピレン・ブテン−1共重合体、エチレン・メタクリル酸およびそのエステル共重合体、エチレン・アクリル酸およびそのエステル共重合体、エチレン・プロピレン共重合体(EPR)、ポリメタクリレート(PMMA)、メタクリル酸メチル・メタクリル酸共重合体、スチレン系、オレフィン系熱可塑性エラストマー、およびゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ポリイソブチレン、アクリルゴム、ネオプレンゴム、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等を挙げることができる。これら他の熱可塑性樹脂は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
添加剤としては、例えば相容化剤、熱安定剤、酸化防止剤、γ線安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、ステアリン酸、シリコーンオイル等の離型剤、ポリエチレンワックス等の滑剤、着色剤、顔料、(c)成分および(d)成分以外の充填材(アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ウォラストナイト、クレー、カーボン、ポリテトラフルオロエチレン粒子、ポリイミド粒子)、発泡剤(有機系、無機系)、難燃剤(水和金属化合物、赤燐、ポリりん酸アンモニウム、アンチモン、シリコーン)などが挙げられる。
【0037】
また、酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−tert−p−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル、トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン等のフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。これらの中でもフェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤が特に好ましい。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述した(a)〜(d)成分、および必要に応じて他の熱可塑性樹脂や添加剤を同時または任意の順に加えて、溶融混練することにより製造できる。溶融混練の方法としては特に制限されず、例えば単軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーまたは各種のニーダー等、通常公知の装置を使用することができる。また、スクリューの長さ(L)と直径(D)の比(L/D)が適度な値の二軸押出機や、加圧ニーダー等を用いれば、熱可塑性樹脂組成物を連続して製造できる。
【0039】
上述したように、(b)成分は(a)成分に振動吸収性を付与すると共に、充填材である(c)成分および(d)成分との親和性を高める成分である。また、(c)成分は(a)成分に剛性を付与し、(d)成分は(a)成分に制振性を付与する成分である。
従って、本発明によれば、(b)成分を用い、かつ(c)成分と(d)成分の含有量の合計を規定することで、剛性および制振性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、樹脂成分((a)成分および(b)成分)と、充填材成分((c)成分および(d)成分)との親和性に優れるため、成形加工性が良好である。
【0040】
[成形品]
本発明の成形品は、上述した熱可塑性樹脂組成物を成形してなる。
熱可塑性樹脂組成物の成形方法は特に制限されず、一般的な押出成形機、射出成形機、ブロー成形機、カレンダー成形機などを用いて任意の形状に成形することができる。
本発明の成形品としては、例えばクリップ、キャップ、バネ、ギア、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受けおよびガイド等の機構部品、ビデオムービー、デジタルビデオカメラ、カメラおよびデジタルカメラ等のカメラ・ビデオ機器用部品など、OA機器分野、電気・電子機器分野、精密機器分野等の工業用途、さらには自動車分野や医療機器分野などに好適であるが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0041】
本発明の成形品は、剛性および制振性に優れた熱可塑性樹脂組成物を成形してなるので、駆動時の衝撃を吸収して振動を抑制でき、衝突音などの騒音を低減できる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例で用いた原料、および評価方法は以下の通りである。
【0043】
[原料]
<(a)成分>
・a−1:芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、「ユーピロンH−3000R」、比重=1.20、MFR=30g/10分(300℃、1.2kg荷重)、曲げ弾性率=2300MPa)。
【0044】
<(b)成分>
・b−1:熱可塑性樹脂(株式会社クラレ製、「HYBRAR 5127」、比重=0.94、スチレン含有量20質量%)。
・b−2:熱可塑性樹脂(日本ブチル株式会社製、「BUTYL 065」、比重=0.92、ムーニー粘度ML(1+8)125℃=32)。
【0045】
<(c)成分>
・c−1:板状ケイ酸塩化合物(株式会社山口雲母工業所製、「A−41」、平均粒子径=47μm、アスペクト比=80)。
・c−2:板状ケイ酸塩化合物(株式会社山口雲母工業所製、「SJ−005」、平均粒子径=5μm、アスペクト比=90)。
・c−3:板状ケイ酸塩化合物(株式会社山口雲母工業所製、「B−82」、平均粒子径=180μm、アスペクト比=90)。
【0046】
<(d)成分>
・d−1:アラミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、「Kevlar3mmカットファイバー」、平均繊維長=3mm)。
・d−2:アラミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、「Kevlar0.5mmカットファイバー」、平均繊維長=0.5mm)。
・d−3:アラミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、「Kevlar1mmカットファイバー」、平均繊維長=1mm)。
・d−4:アラミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、「Kevlar10mmカットファイバー」、平均繊維長=10mm)。
・d−5:アラミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、「Kevlar12mmカットファイバー」、平均繊維長=12mm)。
【0047】
[評価]
<評価用試験片の作製>
熱可塑性樹脂組成物を以下に示す成形条件に従い射出成形し、評価用試験片を作製した。
成形温度:280℃、
金型温度:30℃、
射出速度:55mm/秒、
射出圧力:1400kg/cm
保持圧力:400kg/cm
射出時間:5秒、
冷却時間:20秒。
【0048】
<剛性の評価>
先の成形条件に従い、短冊状の評価用試験片(大きさ:80mm×10mm×4mm)を作製した。
得られた評価用試験片を用い、JIS K 7171に準拠して、曲げ弾性率および破壊歪みを測定した。
【0049】
<制振性の評価>
先の成形条件に従い、シート状の評価用試験片(厚さ:2mm)を作製した。
得られた評価用試験片に100Hzの周波数によって引張の変位を与え、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、「Q800」)を用いて貯蔵弾性率と損失弾性率を測定し、その比を算出した。
なお、貯蔵弾性率と損失弾性率の比の値(損失正接(tanδ))が大きいほど、振動吸収性が大きく、制振性に優れることを示す。
【0050】
<成形加工性の評価>
先の成形条件に従い、型締力80tの射出成形機を用いて短冊状の評価用試験片(大きさ:80mm×10mm×4mm)を作製した。
得られた評価用試験片の外観を目視にて観察し、以下に示す評価基準により評価した。
○:フローマークおよびヒケが発生していない。
△:上記の設定圧力ではフローマークおよびヒケが発生したが、射出圧力および保持圧力の設定値を上げると改善できる。
×:射出圧力および保持圧力の設定値を上げてもフローマークおよびヒケが発生した。
【0051】
[実施例1]
スクリュー径20mmのスクリューを備えた二軸混練機に、表1に示す配合組成に従って各成分を投入し、温度260℃、回転数60rpmの条件で溶融混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を製造した。なお、表中の配合量の単位は質量部である。
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて評価用試験片を作製し、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2〜16、比較例1〜4]
各成分の配合組成を表1〜3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、各評価を行った。結果を表1〜3に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
表1、2から明らかなように、各実施例で得られた熱可塑性樹脂組成物は、剛性および制振性に優れ、かつ成形加工性が良好であった。特に、実施例1〜3、8、9、14、15で得られた熱可塑性樹脂組成物は良好な特性を示した。
なお、実施例4の場合は、(b)成分として芳香族ビニル骨格を有さない熱可塑性樹脂組成物を用いたので、実施例1に比べると曲げ弾性率および破壊歪みが若干低下した。
実施例5の場合は、質量比が(a)成分/(b)成分=99/1となるように(a)成分と(b)成分を配合したので、実施例1に比べると制振性に若干劣っていた。
実施例6の場合、質量比が(a)成分/(b)成分=75/25となるように(a)成分と(b)成分を配合したので、実施例1に比べると曲げ弾性率が若干低下した。
実施例7の場合、質量比が(c)成分/(d)成分=5/35(=12.5/87.5)となるように(c)成分と(d)成分を配合したので、実施例1に比べると曲げ弾性率が若干低下した。
実施例10の場合、質量比が(c)成分/(d)成分=30/10(=75/25)となるように(c)成分と(d)成分を配合したので、実施例1に比べると制振性に若干劣っていた。
実施例11の場合、平均粒子径が5μmの板状ケイ酸塩化合物を用いたので、実施例1に比べると制振性に若干劣っていた。
実施例12の場合、平均粒子径が180μmの板状ケイ酸塩化合物を用いたので、実施例1に比べると破壊歪みが若干低下した。
実施例13の場合、平均繊維長が0.5mmのアラミド繊維を用いたので、実施例1に比べると曲げ弾性率が若干低下した。
実施例16の場合、平均繊維長が12mmのアラミド繊維を用いたので、実施例1に比べると成形加工性に若干劣っていた。
以上より、本発明によれば、剛性および制振性に優れ、かつ成形加工性が良好な熱可塑性樹脂組成物、および成形品が得られる。
【0057】
一方、表3から明らかなように、各比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物は、剛性、制振性、および成形加工性の全てを満足することができなかった。
特に、比較例1の場合は、(c)成分と(d)成分の含有量の合計が、(a)成分と(b)成分の含有量の合計100質量部に対して5質量部となるように、(c)成分と(d)成分を配合したので、曲げ弾性率が著しく低下すると共に、制振性に劣っていた。
比較例2の場合、(c)成分と(d)成分の含有量の合計が、(a)成分と(b)成分の含有量の合計100質量部に対して480質量部となるように、(c)成分と(d)成分を配合したので、破壊歪みが著しく低下すると共に、成形加工性に劣っていた。
比較例3の場合、(d)成分を配合しなかったので、制振性に劣っていた。
比較例4の場合、(c)成分を配合しなかったので、曲げ弾性率および破壊歪みが著しく低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と、少なくともイソプレンおよび/またはイソブチレンを含むモノマー成分を重合して得られる熱可塑性樹脂(b)と、板状のケイ酸塩鉱物(c)と、繊維状の有機系充填材(d)とを含有し、
前記板状のケイ酸塩鉱物(c)と繊維状の有機系充填材(d)の含有量の合計が、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)の含有量の合計100質量部に対して10〜450質量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(b)が、芳香族ビニル骨格を有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)の質量比が、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)/熱可塑性樹脂(b)=80/20〜97/3であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記板状のケイ酸塩鉱物(c)と繊維状の有機系充填材(d)の質量比が、板状のケイ酸塩鉱物(c)/繊維状の有機系充填材(d)=20/80〜70/30であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記板状のケイ酸塩鉱物(c)の平均粒子径が10〜100μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記繊維状の有機系充填材(d)の平均繊維長が1〜10mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2011−105801(P2011−105801A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259750(P2009−259750)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】