説明

熱可塑性樹脂組成物及び樹脂成形品

【課題】 本発明の目的は、耐衝撃性や流動性さらには発色性などの物性バランスを維持しつつ、耐傷付き性に優れている熱可塑性樹脂組成物およびその樹脂成形品を提供することである。
【解決手段】 アクリル系樹脂(A)20〜80重量部、ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体をグラフト重合することで得られたグラフト共重合体(B)15〜50重量部、シアン化ビニル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体を共重合することで得られた共重合体(C)5〜65重量部を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物((A)、(B)、(C)の合計は100重量部である。)であり、かつ、グラフト共重合体(B)を構成するゴム状重合体の重量平均粒子径が0.15〜0.4μm、グラフト重合体層の平均厚さが4〜12nmであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐衝撃性や流動性さらには発色性などの物性バランスを維持しつつ、耐傷付き性や光沢が優れている熱可塑性樹脂組成物およびその樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スチレン系樹脂は、良好な成形加工性と機械的特性バランスを有し、電気絶縁性に優れていることから、電気・電子機器分野、OA機器分野など、広範な分野で用いられている。しかしながら、製品化の際、樹脂を成形して得られた成形品を、例えば組み立てラインまで輸送する際、細かな擦過傷を防止する目的で柔らかい不織布等で一つずつ梱包する場合があり、多大な手間とコストが必要であった。
【0003】
また、樹脂製品に様々な意匠を付与したり、使用時の製品の傷付きを防止する目的で、製品に全塗装、あるいは部分塗装を施す場合がある。しかしながら、塗装処理は塗装不良による生産の歩留まり低下を生じやすいという問題点がある。また近年のVOC排出抑制の流れから、できるだけ塗装処理を施すことなく、鮮やかな色、あるいは深みのある色に着色したり、金属調やパール調の外観を持たせる等、意匠性を付与しやすく、且つ傷の付きにくい樹脂が望まれていた。
【0004】
一方、スチレン系樹脂は、スチレンとアクリロニトリル、メチルメタクリレートなどの単量体を共重合することで、メチルメタクリレート系樹脂との優れた相容性が得られることから、様々な目的でこれらのアロイが提案されている。例えば、特定のスチレン系樹脂と特定のアクリル系樹脂を用いることで、意匠性や耐衝撃性を維持しながら耐傷付き性を向上させる方法が挙げられている(特許文献1及び2)。しかしながら、特許文献1及び2は耐傷付き性、耐衝撃強度、成形性のバランスが十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−179730号公報
【0006】
【特許文献2】特開2008−291158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐衝撃性や流動性、さらには発色性などの物性バランスを維持しつつ、耐傷付き性や光沢が優れている熱可塑性樹脂組成物およびその樹脂成形品に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、アクリル系樹脂、特定範囲の粒子径をもつゴム状重合体に(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む単量体をグラフト重合し、かつグラフト厚みを特定の範囲に制御したグラフト共重合体、及び芳香族ビニル系単量体を含む単量体を重合した共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系樹脂(A)20〜80重量部、ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体をグラフト重合することで得られたグラフト共重合体(B)15〜50重量部、芳香族ビニル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体を共重合することで得られた共重合体(C)5〜65重量部を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物((A)、(B)、(C)の合計は100重量部である。)であり、かつ、グラフト共重合体(B)を構成するゴム状重合体の重量平均粒子径が0.15〜0.4μmであり、ゴム状重合体粒子の表面にグラフトしている(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体を含む、グラフト重合体層の平均厚さが4〜12nmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、耐衝撃性や流動性、さらには発色性などの物性バランスを維持しつつ、耐傷付き性や光沢が優れている熱可塑性樹脂組成物およびその樹脂成形品を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系樹脂(A)20〜80重量部、ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体をグラフト重合することで得られたグラフト共重合体(B)15〜50重量部、芳香族ビニル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体を共重合することで得られた共重合体(C)5〜65重量部を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物((A)、(B)、(C)の合計は100重量部である。)であり、かつ、グラフト共重合体(B)を構成するゴム状重合体の重量平均粒子径が0.15〜0.4μmであり、ゴム状重合体粒子の表面にグラフトしている(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体を含む、グラフト重合体層の平均厚さが4〜12nmであることを特徴とする。
【0012】
本発明に使用されるアクリル系樹脂(A)としては、例えば(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種類以上の(メタ)アクリル酸エステルからなる共重合体などが挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどが挙げられる。アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルなどが挙げられる。アクリル系樹脂(A)としてメタクリル酸エステルとアクリル酸エステルとの共重合体を用いる場合、該共重合体におけるメタクリル酸エステル単位は、アクリル系樹脂(A)100重量部中に50〜99重量部含まれていることが好ましく、アクリル酸エステル単位は、1〜50重量部含まれていることが好ましい。
【0013】
本発明に使用されるアクリル系樹脂(A)は、熱可塑性樹脂組成物100重量部中に20〜80重量部含まれていることが必要であるが、好ましくは25〜70重量部である。20重量部よりも少ないと耐傷付き性と光沢が低下し、80重量部よりも多いと耐衝撃性が低下する。
【0014】
本発明に使用されるグラフト共重合体(B)に用いられるゴム状重合体としては、特に制限はないが、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロックコポリマー、スチレン−(エチレン−ブタジエン)−スチレン(SEBS)ブロックコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルアクリレート−ブタジエン等のジエン系ゴム、アクリル酸ブチルゴム、ブタジエン−アクリル酸ブチルゴム、アクリル酸2−エチルヘキシル−アクリル酸ブチルゴム、メタクリル酸2−エチルヘキシル−アクリル酸ブチルゴム、アクリル酸ステアリル−アクリル酸ブチルゴム、ポリオルガノシロキサン−アクリル酸ブチル複合ゴム等のアクリル系ゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム等のポリオレフィン系ゴム重合体、ポリオルガノシロキサン系ゴム等のシリコン系ゴム重合体が挙げられ、これらは、1種または2種以上用いることができる。特に、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリル酸ブチルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴムが好ましい。
【0015】
グラフト共重合体(B)で用いられるゴム状重合体の含有量は耐衝撃性、流動性および発色性などの物性バランスの観点から、グラフト共重合体(B)に用いられる成分の合計100重量部に対して30〜85重量部であることが好ましく、40〜75重量部であることがより好ましい。
【0016】
グラフト共重合体(B)で用いられるゴム状重合体の重量平均粒子径は、耐衝撃性、流動性および発色性などの物性バランスの観点、およびグラフト層の厚みを規定の範囲に制御する必要があるため、0.15〜0.4μmである必要がある。
【0017】
グラフト共重合体(B)に用いられる(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸ジブロモフェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸モノクロルフェニル、(メタ)アクリル酸ジクロルフェニル、(メタ)アクリル酸トリクロルフェニル等を例示でき、1種又はそれ以上用いることができる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体として、特にメタクリル酸メチルが好ましい。
【0018】
グラフト共重合体(B)のグラフト重合の際に用いられる、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の含有量は耐傷付き性および発色性の観点から、グラフト共重合体(B)に用いられる成分の合計100重量部に対して13〜68重量部であることが好ましく、20〜50重量部であることがより好ましい。
【0019】
グラフト共重合体(B)のグラフト重合の際に用いられる(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、マレイミド系単量体等が挙げられる。共重合可能な他の単量体は、耐傷付き性および発色性の観点から、芳香族ビニル系単量体又は、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を用いることが好ましく、グラフト共重合体(B)に用いられる成分の合計100重量部に対して芳香族ビニル系単量体2〜30重量部、シアン化ビニル系単量体0〜40重量部であることが好ましく、芳香族ビニル系単量体5〜25重量部、シアン化ビニル系単量体0〜20重量部であることがより好ましい。
【0020】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン及びジメチルスチレン等を例示でき、1種又はそれ以上用いることができる。芳香族ビニル系単量体として、特にスチレンが好ましい。
【0021】
シアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等を例示でき、1種又はそれ以上用いることができる。シアン化ビニル系単量体として、特にアクリロニトリルが好ましい。
マレイミド系単量体としてはN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等を例示できる。マレイミド系単量体として、N−フェニルマレイミドが好ましい。
【0022】
グラフト共重合体(B)の重合方法については特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合またはこれらの組み合わせにより製造することができる。また、本発明における上記単量体成分の添加方法については特に制限するものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法の何れでも採用することができる。さらに、乳化重合にて使用される乳化剤は、公知の乳化剤、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム等のアニオン系乳化剤やポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のノニオン系乳化剤を使用することができる。また該乳化重合においては公知の重合開始剤として、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。また、上記の過酸化物と還元剤の組み合わせであるレドックス系開始剤として使用することができる。還元剤としては、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコース、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、L−アスコルビン酸、D−アスコルビン酸等を使用することができる。さらに必要に応じて重合連鎖移動剤、例えばt−ドデシルメルカプタン等を使用することができる。前記乳化剤、開始剤、還元剤、連鎖移動剤などの使用量は公知の範囲である。
【0023】
グラフト共重合体(B)を構成するゴム状重合体粒子の表面にグラフトしている(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体を含むグラフト重合体層の平均厚さは4〜12nmであることが必要である。4nmよりも厚さが薄いと耐傷付き性と光沢および耐衝撃性が劣り、12nmよりも厚さが厚いと流動性が劣る。
【0024】
グラフト重合体層の厚みは、グラフト共重合体(B)で用いられるゴム状重合体の重量平均粒子径を所定の範囲に制御し、グラフト共重合体(B)に用いられるゴム状重合体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、およびそれらと共重合可能な他の単量体の使用量を調整したり、乳化剤、開始剤、還元剤、連鎖移動剤などの使用量を調整することで制御することが出来る。
【0025】
本発明に使用されるグラフト共重合体(B)は、熱可塑性樹脂組成物100重量部中に15〜50重量部含まれていることが必要であるが、好ましくは20〜45重量部である。15重量部よりも少ないと耐衝撃性が低下し、50重量部よりも多いと流動性、光沢および耐傷付き性が低下する。
【0026】
本発明に使用される共重合体(C)は芳香族ビニル系単量体及びそれらと共重合可能な他の単量体を共重合することで得られる。共重合体(C)に用いられる芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体としてはシアン化ビニル系単量体、マレイミド系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体などが挙げられるが、芳香族ビニル系単量体を含めこれら単量体はグラフト共重合体(B)で用いられる例として述べられている各単量体と同様のものを用いることができる。
【0027】
本発明に使用される共重合体(C)は、耐衝撃性、流動性および発色性などの物性バランスと耐傷付き性の観点から、芳香族ビニル系単量体10〜50重量部、(メタ)アクリル酸エステル系単量体50〜80重量部、これらと共重合可能な他の単量体0〜40重量部を共重合することで得られる共重合体(共重合体(C)に用いられる単量体の合計は100重量部である。)、もしくは、芳香族ビニル系単量体40〜95重量部、シアン化ビニル系単量体5〜60重量部、これらと共重合可能な他の単量体0〜55重量部を共重合することで得られる共重合体(共重合体(C)に用いられる単量体の合計は100重量部である。)であることが好ましい。
【0028】
本発明に使用される共重合体(C)は、熱可塑性樹脂組成物100重量中に5〜65重量部含まれていることが必要である。5重量部よりも少ないと耐衝撃性が低下し、65重量部よりも多いと耐傷付き性が低下する。好ましくは10〜45重量部である。
【0029】
共重合体(C)の重合方法については特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合またはこれらの組み合わせにより製造することができる。
【0030】
本発明に関する熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて各種添加剤、例えば公知の酸化防止剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、難燃剤、艶消し剤及び充填剤等を適宜添加することができる。
【0031】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は単独で使用できるが、必要に応じて他の熱可塑性樹脂と混合して使用することもできる。このような他の熱可塑性樹脂として、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂等を例示できる。
【0032】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、共重合体(C)、必要に応じて各種添加剤などの成分を混合することで得ることができる。混合するために、例えば、押出し機、ロール、バンバリーミキサー及びニーダー等の公知の混練装置を用いることができる。
【0033】
さらに、本発明における熱可塑性樹脂組成物は、公知の成形方法、例えば押出成型、射出成形、ブロー成形及びプレス成形等により成形することができ、本発明の樹脂成形品を得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す部および%は重量に基づくものである。
また、実施例の記述に先立ち、本特許で規定したグラフト重合体層の平均厚さの測定方法(エポキシ樹脂への包理法)を記述する。
【0035】
グラフト重合体層の平均厚さの測定法
グラフト共重合体(B)をアセトンに溶かし、その溶解液を遠心分離処理する。上澄み液を除去し、沈殿したゲル分を再度アセトン中に分散させ、市販のエポキシ系接着剤(ここでは、セメダイン株式会社の商品、ハイスーパー30を使用)の主剤にこの分散液を数滴加えてよく混合した後、真空乾燥でアセトンを除去する。その後、硬化剤を加え加熱処理する事で、ゲル分がよく分散した試験片が得られる。
【0036】
上記の方法で作成した試験片を、四酸化オスミウム(OsO)で染色した後、クライオミクロトームを用いて−60℃で低温切削し超薄切片を切り出す。さらに、得られた超薄切片を四酸化ルテニウム(RuO)で再染色し、透過型電子顕微鏡で観察及び写真撮影した。四酸化オスミウムでは、エポキシ樹脂部分が染色され、さらに、四酸化ルテニウムでゴム部分とグラフト重合体層が染め分けられるため、ゴム粒子表面でリング状の形態を持つグラフト重合体層の観察が可能となる。
【0037】
グラフト重合体層の厚み計測は、画像解析装置(旭化成 IP−1000PC)を用いて以下の手順で行った。
個々のゴム粒子について、表面のグラフト重合体層を含む面積の計測からその円相当径(半径)を求め、さらに表面のグラフト重合体層を除くゴム部分についても同様に円相当径(半径)を求めた。両者の差がグラフト重合体層の厚みを示すこととなる。本発明でいうグラフト重合体層の平均厚みはゴム粒子15個以上について測定した平均値である。
【0038】
アクリル系樹脂(A)
アクリル系樹脂(A−1):スミペックスLG(住友化学株式会社製)
試験法JIS K7210、温度230℃、荷重37.3Nにおける流動性が10g/10分であった。
アクリル系樹脂(A−2):スミペックスLG2(住友化学株式会社製)
試験法JIS K7210、温度230℃、荷重37.3Nにおける流動性が15g/10分であった。
アクリル系樹脂(A−3):スミペックスLG21(住友化学株式会社製)
試験法JIS K7210、温度230℃、荷重37.3Nにおける流動性が21g/10分であった。
【0039】
グラフト共重合体(B−1)の製造
グラフト重合体(B−1):窒素置換した反応器にスチレン−ブタジエンゴムラテックス(スチレン5重量%、重量平均粒子径0.20μm)70部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.05部、硫酸第1鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.15部を入れ、60℃に加熱後、スチレン9部、メタクリル酸メチル21部およびキュメンハイドロパーオキサイド0.15部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、塩析・脱水・乾燥後、グラフト共重合体(B−1)を得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率およびアセトン可溶成分の固有粘度はそれぞれ40%および0.20dl/gであった。
また、グラフト重合体層の平均厚さは8.0nmであった。
【0040】
グラフト共重合体(B−2)の製造
グラフト重合体(B−2):窒素置換した反応器にスチレン−ブタジエンゴムラテックス(スチレン5重量%、重量平均粒子径0.20μm)50部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1部、硫酸第1鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を入れ、60℃に加熱後、スチレン15部、メタクリル酸メチル35部およびキュメンハイドロパーオキサイド0.2部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、塩析・脱水・乾燥後、グラフト共重合体(B−2)を得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率およびアセトン可溶成分の固有粘度はそれぞれ62%および0.23dl/gであった。
また、グラフト重合体層の平均厚さは11.4nmであった。
グラフト共重合体(B−3)の製造
グラフト重合体(B−3):窒素置換した反応器にスチレン−ブタジエンゴムラテックス(スチレン5重量%、重量平均粒子径0.15μm)70部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.05部、硫酸第1鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.15部を入れ、60℃に加熱後、スチレン9部、メタクリル酸メチル21部およびキュメンハイドロパーオキサイド0.2部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、塩析・脱水・乾燥後、グラフト共重合体(B−3)を得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率およびアセトン可溶成分の固有粘度はそれぞれ40%および0.17dl/gであった。
また、グラフト重合体層の平均厚さは4.8nmであった。
【0041】
グラフト共重合体(B−4)の製造
グラフト重合体(B−4):窒素置換した反応器にスチレン−ブタジエンゴムラテックス(スチレン5重量%、重量平均粒子径0.10μm)70部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.05部、硫酸第1鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.15部を入れ、60℃に加熱後、スチレン9部、メタクリル酸メチル21部、t−ドデシルメルカプタン0.2部およびキュメンハイドロパーオキサイド0.15部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、塩析・脱水・乾燥後、グラフト共重合体(B−4)を得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率およびアセトン可溶成分の固有粘度はそれぞれ30%および0.12dl/gであった。
また、グラフト重合体層の平均厚さは3.0nmであった。
【0042】
グラフト共重合体(B−5)の製造
グラフト重合体(B−5):窒素置換した反応器にスチレン−ブタジエンゴムラテックス(スチレン5重量%、重量平均粒子径0.20μm)45部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1部、硫酸第1鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を入れ、60℃に加熱後、スチレン17部、メタクリル酸メチル38部およびキュメンハイドロパーオキサイド0.20部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、塩析・脱水・乾燥後、グラフト共重合体(B−5)を得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率およびアセトン可溶成分の固有粘度はそれぞれ80%および0.30dl/gであった。
また、グラフト重合体層の平均厚さは15.2nmであった。
【0043】
グラフト共重合体(B−6)の製造
グラフト重合体(B−6:窒素置換した反応器にスチレン−ブタジエンゴムラテックス(スチレン5重量%、重量平均粒子径0.20μm)70部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.05部、硫酸第1鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.15部を入れ、60℃に加熱後、アクリロニトリル9部、スチレン21部およびキュメンハイドロパーオキサイド0.15部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、塩析・脱水・乾燥後、グラフト共重合体(B−1)を得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率およびアセトン可溶成分の固有粘度はそれぞれ40%および0.26dl/gであった。
また、グラフト重合体層の平均厚さは8.5nmであった。
【0044】
共重合体(C)の製造
共重合体(C−1):公知の塊状重合法により、スチレン75重量部、アクリロニトリル25重量部からなる共重合体(C−1)を得た。
共重合体(C−2):公知の塊状重合法により、スチレン25重量部、メタクリル酸メチル75重量部からなる共重合体(C−2)を得た。
【0045】
表1及び表2に示す組成割合のアクリル系樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、および共重合体(C)に対して、Sumiplast Black HB(住友化学株式会社製)を1.0部混合した。ベント付50mm単軸押出機(オーエヌ機械製)を用い、シリンダー温度210℃にて溶融混合しペレット化し、以下の評価に供した。
【0046】
得られた着色ペレットより、射出成形機(日本製鋼所製 J−150EP シリンダー温度:220℃ 金型温度:70℃)にて成形品(150mm×120mm×3mm)を成形した。
発色性;JIS−Z8729に準拠した色相測定により成形品の明度(L*)を測定し発色性の尺度とした。(成形品の明度(L*)が小さい方が成形品の漆黒性が優れているため、結果として同一着色剤を同量添加した際の発色性に優れる)
分光光度計:(株)村上色彩研究所社製 CMS−35SP
測定結果を表1及び表2に示す。
【0047】
耐傷付き性
往復磨耗試験機(新東科学株式会社製、製品名 トライボギア TYPE:30S)を用い、先端部が直径27mmの圧子にかなきん3号の綿布をセットし、500g一定荷重下で、成形品表面を20往復(600mm/分)摩擦した。
試験後、目視にて成形品の表面の傷を確認し、下記の判定により耐傷付き性の評価を行った。
傷が全く見られない:◎
傷がほとんど見られない:○
傷がかすかに見られる:△
傷が明確に見られる:×
これらの評価結果を表1および表2に示す。
【0048】
鏡面光沢度(60°);ISO 2813に準拠して光沢を測定した。単位;%
これらの測定結果を表1及び表2に示す。
【0049】
得られた着色ペレットよりISO試験方法294に準拠して試験片を作製し、耐衝撃性を測定した。
耐衝撃性:ISO179に準拠し、4mm厚みで、ノッチ付きシャルピー衝撃値を測定した。単位:kJ/m
流動性:ISO1133に準拠して220℃、10kg荷重の条件でメルトボリュームフローレイトを測定した。単位;cm/10分
これらの測定結果を表1および表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1に示すように、実施例1〜11は本発明に関わる熱可塑性樹脂組成物の例であり、耐衝撃性、流動性、発色性などの物性バランスおよび耐傷付き性、光沢などの意匠性外観に優れていた。
【0053】
表2に示すように、グラフト重合体層の厚みの薄い(B−4)を用いた比較例1は耐傷付き性、耐衝撃性および光沢が劣った。また、グラフト重合体層の厚みが大きい(B−5)を用いた比較例2と7は流動性と耐衝撃性に劣った。グラフト共重合体(B)に(メタ)アクリル酸エステル系単量体を用いていない(B−6)を用いた比較例3は耐衝撃性と流動性のバランスは良いが耐傷付き性と発色性が劣った。アクリル系樹脂(A)の使用量が少ない比較例4は発色性と耐傷付き性に劣り、使用量が多い比較例5は耐衝撃性に劣った。グラフト共重合体(B)の使用量が多い比較例6は耐傷付き性、流動性、光沢が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐傷付き性、耐衝撃性、流動性、発色性、光沢のバランスに優れており、電気・電子分野、OA機器分野など、広範な分野で利用することができる。特に優れた物性バランスと耐傷付き性、良好な外観が必要な用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂(A)20〜80重量部、ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体をグラフト重合することで得られたグラフト共重合体(B)15〜50重量部、芳香族ビニル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体を共重合することで得られた共重合体(C)5〜65重量部を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物((A)、(B)、(C)の合計は100重量部である。)であり、かつ、グラフト共重合体(B)を構成するゴム状重合体の重量平均粒子径が0.15〜0.4μmであり、ゴム状重合体粒子の表面にグラフトしている(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびそれらと共重合可能な他の単量体からなるグラフト重合体層の平均厚さが4〜12nmであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
グラフト共重合体(B)がゴム状重合体30〜85重量部の存在下に芳香族ビニル系単量体2〜30重量部、(メタ)アクリル酸エステル系単量体13〜68重量部、シアン化ビニル系単量体0〜40重量部をグラフト重合することで得られるグラフト共重合体(グラフト共重合体(B)に用いられる成分の合計は100重量部である。)であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする樹脂成形品。

【公開番号】特開2012−46648(P2012−46648A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190552(P2010−190552)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】