説明

熱可塑性樹脂組成物及び樹脂成形品

【課題】 意匠性や耐傷付き性、耐衝撃性に優れるだけでなく、さらには亀裂発生エネルギーが高く面衝撃の強度に優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供すること。
【解決手段】 アクリル系樹脂(A)20〜80重量部、ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びそれらと共重合可能な他の単量体をグラフト重合することで得られた、グラフト共重合体(B)15〜50重量部、共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)を含む共重合体(C)5〜65重量部(共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)は各共重合体100重量部中にシアン化ビニル系単量体20〜28重量部及びそれらと共重合可能な他の単量体72〜80重量部を共重合することで得られ、共重合体(C−1)と共重合体(C−2)のシアン化ビニル系単量体の含有量の差が3重量部以上である。)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐傷付き性や発色性、耐衝撃性だけでなく、亀裂発生エネルギーが高く、面衝撃に対する強度が優れていることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、及びその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スチレン系樹脂は、良好な成形加工性と機械的特性バランスを有し、電気絶縁性に優れていることから、電気・電子機器分野、OA機器分野など、広範な分野で用いられている。しかしながら、製品化の際、樹脂を成形して得られた成形品を、例えば組み立てラインまで輸送する際、細かな擦過傷を防止する目的で柔らかい不織布等で一つずつ梱包する場合があり、多大な手間とコストが必要であった。
【0003】
また、樹脂製品に様々な意匠を付与したり、使用時の製品の傷付きを防止する目的で、製品に全塗装、あるいは部分塗装を施す場合がある。しかしながら、塗装処理は塗装不良による生産の歩留まり低下を生じやすいという問題点がある。また近年のVOC排出抑制の流れから、できるだけ塗装処理を施すことなく、鮮やかな色、あるいは深みのある色に着色したり、金属調やパール調の外観を持たせる等、意匠性を付与しやすく、且つ傷の付きにくい樹脂が望まれていた。
【0004】
一方、スチレン系樹脂は、スチレンとアクリロニトリル、メチルメタクリレートなどの単量体を共重合することで、メチルメタクリレート系樹脂との優れた相容性が得られることから、様々な目的でこれらのアロイが提案されている。例えば、特定のスチレン系樹脂と特定のアクリル系樹脂を用いることで、意匠性や耐衝撃性を維持しながら耐傷付き性を向上させる方法が挙げられている(特許文献1及び2)。しかしながら、特許文献1及び2には面衝撃性については何ら言及されておらず、かつ面衝撃性が劣ると最終製品にクラックが生じやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−179730号公報
【0006】
【特許文献2】特開2008−291158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐傷付き性や発色性、耐衝撃性に優れるだけでなく、さらには亀裂発生エネルギーが高く面衝撃に対する強度が優れた熱可塑性樹脂組成物及びその樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、アクリル系樹脂、特定の単量体がグラフトしているグラフト共重合体、及びシアン化ビニル単量体を特定量含み、かつシアン化ビニル単量体の含有量が異なる2種類の共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を用いることによって、課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、アクリル系樹脂(A)20〜80重量部、ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びそれらと共重合可能な他の単量体をグラフト重合することで得られた、グラフト共重合体(B)15〜50重量部、共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)を含む共重合体(C)5〜65重量部(共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)は各共重合体100重量部中にシアン化ビニル系単量体20〜28重量部及びそれらと共重合可能な他の単量体72〜80重量部を共重合することで得られ、共重合体(C−1)と共重合体(C−2)のシアン化ビニル系単量体の含有量の差が3重量部以上である。)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物((A)、(B)、(C)の合計は100重量部である。)、及び当該熱可塑性樹脂組成物を成形することで得られた樹脂成形品に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、耐傷付き性や発色性、耐衝撃性に優れるだけでなく、さらには亀裂発生エネルギーが高く面衝撃に対する強度が優れた熱可塑性樹脂組成物及びその樹脂成形品を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系樹脂(A)20〜80重量部、ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びそれらと共重合可能な他の単量体をグラフト重合することで得られた、グラフト共重合体(B)15〜50重量部、共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)を含む共重合体(C)5〜65重量部(共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)は各共重合体100重量部中にシアン化ビニル系単量体20〜28重量部及びそれらと共重合可能な他の単量体72〜80重量部を共重合することで得られ、共重合体(C−1)と共重合体(C−2)のシアン化ビニル系単量体の含有量の差が3重量部以上である。)を含むことを特徴とする((A)、(B)、(C)の合計は100重量部である。)。
【0012】
本発明に使用されるアクリル系樹脂(A)としては、例えば(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種類以上の(メタ)アクリル酸エステルからなる共重合体などが挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどが挙げられる。アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルなどが挙げられる。アクリル系樹脂(A)としてメタクリル酸エステルとアクリル酸エステルとの共重合体を用いる場合、該共重合体におけるメタクリル酸エステル単位は、アクリル系樹脂(A)100重量部中に50〜99重量部含まれていることが好ましく、アクリル酸エステル単位は、1〜50重量部含まれていることが好ましい。
【0013】
本発明に使用されるアクリル系樹脂(A)は熱可塑性樹脂組成物100重量部中に20〜80重量部含まれていることが必要であるが、好ましくは25〜70重量部である。20重量部よりも少ないと耐傷付き性と発色性が低下し、80重量部よりも多いと耐衝撃性が低下する。
【0014】
本発明に使用されるグラフト共重合体(B)に用いられるゴム状重合体としては、特に制限はないが、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロックコポリマー、スチレン−(エチレン−ブタジエン)−スチレン(SEBS)ブロックコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルアクリレート−ブタジエン等のジエン系ゴム、アクリル酸ブチルゴム、ブタジエン−アクリル酸ブチルゴム、アクリル酸2−エチルヘキシル−アクリル酸ブチルゴム、メタクリル酸2−エチルヘキシル−アクリル酸ブチルゴム、アクリル酸ステアリル−アクリル酸ブチルゴム、ポリオルガノシロキサン−アクリル酸ブチル複合ゴム等のアクリル系ゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム等のポリオレフィン系ゴム重合体、ポリオルガノシロキサン系ゴム等のシリコン系ゴム重合体が挙げられ、これらは、1種または2種以上用いることができる。特に、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリル酸ブチルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴムが好ましい。
【0015】
グラフト共重合体(B)で用いられるゴム状重合体の含有量は耐衝撃性と発色性のバランスから、グラフト共重合体(B)100重量部に対して30〜85重量部である事が好ましく、40〜75重量部である事がより好ましい。
【0016】
グラフト共重合体(B)で用いられるゴム状重合体の重量平均粒子径は、耐衝撃性、流動性、および発色性のバランスから、好ましくは0.05〜2.0μm、より好ましくは0.1〜1.0μmである。
【0017】
グラフト共重合体(B)に用いられる(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸ジブロモフェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸モノクロルフェニル、(メタ)アクリル酸ジクロルフェニル、(メタ)アクリル酸トリクロルフェニル等を例示でき、1種又はそれ以上用いることができる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体として、特にメタクリル酸メチルが好ましい。
【0018】
グラフト共重合体(B)のグラフト重合の際に用いられる(メタ)アクリル酸エステル系単量体の含有量は耐傷付き性、耐衝撃性及び発色性の観点から、グラフト共重合体(B)100重量部に対して13〜68重量部であることが好ましく、20〜50重量部であることがより好ましい。
【0019】
また、グラフト共重合体(B)のグラフト重合の際に用いられる(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、マレイミド系単量体等が挙げられる。共重合可能な他の単量体は、耐傷付き性および発色性の観点から、芳香族ビニル系単量体又は、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を用いることが好ましく、グラフト共重合体(B)100重量部に対して芳香族ビニル系単量体2〜30重量部、シアン化ビニル系単量体0〜40重量部であることが好ましく、芳香族ビニル系単量体5〜25重量部、シアン化ビニル系単量体0〜20重量部であることがより好ましい。
【0020】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン及びジメチルスチレン等を例示でき、1種又はそれ以上用いることができる。芳香族ビニル系単量体として、特にスチレンが好ましい。
【0021】
シアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等を例示でき、1種又はそれ以上用いることができる。シアン化ビニル系単量体として、特にアクリロニトリルが好ましい。
マレイミド系単量体としてはN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等を例示できる。マレイミド系単量体として、N−フェニルマレイミドが好ましい。
【0022】
グラフト共重合体(B)の重合方法については特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合またはこれらの組み合わせにより製造することができる。
【0023】
本発明に使用されるグラフト共重合体(B)は熱可塑性樹脂組成物100重量部中に15〜50重量部含まれていることが必要であるが、20〜45重量部含まれていることが好ましい。15重量部よりも少ないと耐衝撃性が低下し、50重量部よりも多いと耐傷付き性が低下する。
【0024】
本発明に使用される共重合体(C)は共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)を含む。また、共重合体(C)は熱可塑性樹脂組成物100重量部中に5〜65重量部含まれていることが必要であるが、好ましくは10〜45重量部である。5重量部よりも少ないと耐衝撃性が低下し、65重量部よりも多いと耐傷付き性が低下する。共重合体(C)に対する共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)の使用割合は特に制限は無いが、十分な面衝撃性を得るためには共重合体(C)100重量部中に、共重合体(C−1)が20〜80重量部、共重合体(C−2)が20〜80重量部含まれていることが好ましい。
【0025】
共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)はシアン化ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体を共重合することで得られるが、共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)はそれぞれ、各100重量部に対してシアン化ビニル系単量体が20〜28重量部含まれていることが必要である。さらには、共重合体(C−1)と共重合体(C−2)のシアン化ビニル系単量体の含有量の差が3重量部以上でなければならない。3重量部未満の場合は面衝撃性に劣る。
【0026】
本発明に使用される共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)に用いられるシアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等を例示でき、1種又はそれ以上用いることができる。シアン化ビニル系単量体として、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0027】
共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)に用いられるシアン化ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体としては芳香族ビニル系単量体、マレイミド系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体などが挙げられるが、これらはグラフト共重合体(B)で用いられる例として述べられている各単量体と同様のものを用いることができる。
【0028】
共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)の重合方法については特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合またはこれらの組み合わせにより製造することができる。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて各種添加剤、例えば公知の酸化防止剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、難燃剤、艶消し剤及び充填剤等を適宜添加することができる。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は単独で使用できるが、必要に応じて他の熱可塑性樹脂と混合して使用することもできる。このような他の熱可塑性樹脂として、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ゴム強化ポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン・プロピレン−スチレン樹脂(AES樹脂)及びメタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン樹脂(MBS樹脂)等を例示できる。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、共重合体(C)、必要に応じて各種添加剤及びその他の熱可塑性樹脂の成分を混合することで得ることができる。混合するために、例えば、押出し機、ロール、バンバリーミキサー及びニーダー等の公知の混練装置を用いることができる。
【0032】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、公知の成形方法、例えば押出成型、射出成形、ブロー成形及びプレス成形等により成形することができ、本発明の成形品を得ることが出来る。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す部及び%は重量に基づくものである。
【0034】
アクリル系樹脂(A)
アクリル系樹脂として、スミペックスLG2(住友化学株式会社製)を用いた。試験法JIS K7210、温度230℃、荷重37.3Nにおける流動性が15g/10分であった。
【0035】
グラフト共重合体(B−1)の製造
窒素置換した反応器にスチレン−ブタジエンゴムラテックス(スチレン5重量%、重量平均粒子径0.25μm)50部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1部、硫酸第1鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を入れ、60℃に加熱後、スチレン15部、メタクリル酸メチル35部及びキュメンハイドロパーオキサイド0.2部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、塩析・脱水・乾燥後、グラフト共重合体(B−1)を得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率及びアセトン可溶成分の固有粘度はそれぞれ50%及び0.50dl/gであった。
【0036】
グラフト共重合体(B−2)の製造
窒素置換した反応器にスチレン−ブタジエンゴムラテックス(スチレン5重量%、重量平均粒子径0.25μm)50部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1部、硫酸第1鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を入れ、60℃に加熱後、スチレン35部、アクリロニトリル15部及びキュメンハイドロパーオキサイド0.2部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、塩析・脱水・乾燥後、グラフト共重合体(B−1)を得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率及びアセトン可溶成分の固有粘度はそれぞれ50%及び0.53dl/gであった。
【0037】
共重合体(C−a)の製造
公知の塊状重合法に基づき、アクリロニトリル18重量部及びスチレン82重量部を共重合することで共重合体(C−a)を得た。
【0038】
共重合体(C−b)〜(C−f)の製造
アクリロニトリルとスチレンの使用量を表1に示す割合で共重合した以外は共重合体(C−a)と同様の方法で重合を行い、共重合体(C−b)〜(C−f)を得た。
【0039】
表1及び表2に示す成分を、表1及び表2に示す割合で混合後、Sumiplast Black HB(住友化学株式会社製着色剤)を1.0重量部混合し、ベント付50mm単軸押出機(オーエヌ機械製)を用い、シリンダー温度210℃で溶融混練して着色ペレットを得た。
【0040】
耐傷付き性の評価
往復磨耗試験機(新東科学株式会社製、製品名 トライボギア TYPE:30S)を用い、先端部が直径27mmの圧子にかなきん3号(JIS L 0803準拠)の綿布をセットし、500g一定荷重下で、成形品表面を20往復(速度600mm/分)摩擦した。試験後、目視にて成形品の表面の傷を確認し、下記の判定により耐傷付き性の評価を行った。
傷が全く見られない:◎
傷がほとんど見られない:○
傷がかすかに見られる:△
傷が明確に見られる:×
これらの評価結果を表1及び表2に示す。
【0041】
得られた着色ペレットよりISO試験方法294に準拠して試験片を作製し、耐衝撃性を測定した。
耐衝撃性の評価
ISO 179に準拠し、4mm厚みで、ノッチ付きのシャルピー衝撃値を測定した。
測定結果を表1及び表2に示す。
【0042】
発色性の評価
得られた着色ペレットより、射出成形機(日本製鋼所製 J−150EP シリンダー温度:200℃ 金型温度:80℃)にて成形品(150mm×90mm×2mm)を成形した。
発色性:JIS-Z8729に準拠した色相測定により成形品の明度(L*)を測定し発色性の尺度とした。(成形品の明度(L*)が小さい方が成形品の漆黒性が優れているため、結果として同一着色剤を同量添加した際の発色性に優れる)
分光光度計:(株)村上色彩研究所社製 CMS−35SP
【0043】
面衝撃性の評価
発色性の評価と同様の方法で作成した成形品(150mm×90mm×2mm)を使用し、面衝撃試験を実施した。試験は落錘形グラフィックインパクトテスタ(株式会社東洋精機製作所製)を用い、測定温度は23℃で実施した。測定器具として先端が半球状で直径12.7mm(1/2インチ)の落錘を使用し、80mmの円形の台座に試験片を固定し、落下高さ100cmから荷重7.5Kgの落錘を自由落下させ、亀裂発生エネルギーを測定した。亀裂発生エネルギーが大きい方が面衝撃性に優れる。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表1に示すように、実施例1〜3は本発明に関わる熱可塑性樹脂組成物の例であり、耐傷付き性、耐衝撃性、発色性、さらには面衝撃性に優れていた。
【0047】
表2に示すように、グラフト共重合体(B)に(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いていない比較例1は、耐傷付き性と発色性に劣った。シアン化ビニル系単量体の含有量の差が3重量部未満であった共重合体(C)を用いた比較例2や共重合体(C)を単独で用いた比較例5及び比較例8は、面衝撃性に劣った。アクリル系樹脂の使用量が本特許請求の範囲外であった比較例3及び比較例4は、耐傷付き性や耐衝撃性などの物性のいずれかが劣る結果となった。共重合体(C)において、シアン化ビニル単量体の使用量が本特許請求の範囲外である共重合体を用いた比較例6及び比較例7は面衝撃性に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂組成物および該樹脂組成物を用いた樹脂成形品は、耐傷付き性や耐衝撃性、発色性、さらには面衝撃性に優れるという特性を活かして電気・電子機器分野、OA機器分野など、広範な分野で利用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂(A)20〜80重量部、ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びそれらと共重合可能な他の単量体をグラフト重合することで得られた、グラフト共重合体(B)15〜50重量部、共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)を含む共重合体(C)5〜65重量部(共重合体(C−1)及び共重合体(C−2)は各共重合体100重量部中にシアン化ビニル系単量体20〜28重量部及びそれらと共重合可能な他の単量体72〜80重量部を共重合することで得られ、共重合体(C−1)と共重合体(C−2)のシアン化ビニル系単量体の含有量の差が3重量部以上である。)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物((A)、(B)、(C)の合計は100重量部である。)。
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする樹脂成形品

【公開番号】特開2012−46649(P2012−46649A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190553(P2010−190553)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】