説明

熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートとその製造方法

【課題】 通液性を有し、均一な連続気泡構造、つまり均一な気泡、気孔を有し、シート形態に捻れのない熱可塑性樹脂連続発泡シートを得ることを課題とする
【解決手段】 気泡の長径が1μm以上1000μm以下、短径が1μm以上1000μm以下であり、かつ気泡の長径が気泡の短径より大きく、気孔の長径が1μm以上1000μm以下であり気泡の長径より小さく、気孔の短径が1μm以上1000μm以下であり気泡の短径より小さく、かつ、連続気泡率が95%以上100%以下、密度が0.1g/cm3以上0.5g/cm3以下である熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートに関する。さらに詳しくは、均一な組成物からなる均一な連続気泡構造を有し、フィルター材、吸着材、細胞分離、培養基材などに用いうる熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート、特に通液性を有する熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続気泡発泡構造体は、殆ど熱硬化性ポリウレタンから製造されており、素材としての多様性に限界があった。熱可塑性樹脂による連続気泡を形成した樹脂発泡体もしくは樹脂多孔質体は、製造法が十分に開発されていないため、連続気泡率の非常に高い熱可塑性発泡体はあまりなく、熱可塑性樹脂連続気泡体としては下記のものが知られている。
【0003】
特許文献1、2には樹脂と溶剤や塩を均一に溶解混合させた後、冷却もしくは反応により系を相分離させ、その状態で必要に応じ急冷し、溶剤や塩を抽出して多孔質体を得る、いわゆる相分離法で得られる多孔質体が記載されている。相分離法によって得られる多孔質体は、発泡体の気泡径に相当する樹脂骨格部分が数μm程度以下の均一微細で非常に連続気泡率が高いものが得られる。しかし骨格を形成する樹脂部分は溶液中から相分離後析出させ形成する際の温度制御により相分離形態が変化しやすく、溶剤を使用、抽出する点で操作が煩雑であり、また、得られる多孔質体は脆いなどの問題があった。
【0004】
特許文献3〜5には押出発泡を基本とした一部または全部連続気泡構造に関する記載がある。この連続気泡構造を得るには、連続気泡化させようとする主たる熱可塑性樹脂に対して異なる種類の樹脂を混合したり、架橋剤を混合したり、独立気泡を得るような発泡温度よりも高温で押出発泡するような方法によるものであり、混合物の分散状態の制御や架橋の制御が難しいことや、高温押出では発泡体の外観が悪くなる問題がある。また、このようにして得られた連続気泡体は、連続気泡としての性質を出すために連続気泡体の一部分を切削したり、針で穴を開けたり、気泡膜を圧縮破壊する等の物理的な手法をとることで吸水性を付与などしている。また、特許文献3〜5には気体の圧力差に基づく原理を用いたピクノメーターで測定した連続気泡率や気泡径に関する記載はあるものの、セルの通液性の有無や気孔径に関しては殆ど記載がない。通気性を有している連続気泡押出発泡体であっても実際には通液路となるべき流路が連続気泡押出発泡体の内部で断絶しているため、通気性があっても通液性を付与することが難しい。
【0005】
特許文献6には、通気性があっても流路がない例として、真空断熱材用の微細連続気泡発泡体が記載されている。具体的には、真空断熱材用の気泡径が1〜100μm、連続気泡率が90〜100%で密度が20〜100kg/m3(0.02〜0.1g/cm3)の発泡体が開示されている。この微細連続気泡発泡体は気泡径が100μmより大きいと実用上の真空度では断熱性能が発揮されず、密度が100kg/m3より大きいと固体の熱伝導率が大きくなり断熱性能が発揮されない。また、開示内容によれば、微細連続気泡発泡体は材料強度を保つため気泡壁が存在し、走査型電子顕微鏡でも確認が困難なマイクロクラックにより連通化しており、通気性はあったとしても通液性は殆どないものと推定される。
【0006】
以上のように、熱可塑性樹脂連続気泡体を得るために種々の方法が検討されてきたが、従来の技術では、気泡径、気泡形状、及び発泡体密度にはそれぞれその製法からくる制限があり、大きな気孔が存在し通液性があるものは得られていなかった。特に通液性を有し、連続気泡構造が均一で、シート形態の均一性に優れた熱可塑性樹脂連続発泡シートを得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−17904号公報
【特許文献2】特公平4−50339号公報
【特許文献3】特開2001−213988号公報
【特許文献4】特表2006−528724号公報
【特許文献5】特開平3−21645号公報
【特許文献6】特開平8−311230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、通液性を有し、均一な連続気泡構造、つまり均一な気泡、気孔を有し、シート形態に捻れのない熱可塑性樹脂連続発泡シートを得ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の問題に対して、本発明者らが鋭意検討した結果、通水性を有し、均一な連続気泡構造を有する熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の構成よりなる。
〔1〕 気泡の長径が1μm以上1000μm以下、短径が1μm以上1000μm以下であり、かつ気泡の長径が気泡の短径より大きく、気孔の長径が1μm以上1000μm以下であり気泡の長径より小さく、気孔の短径が1μm以上1000μm以下であり気泡の短径より小さく、かつ、連続気泡率が95%以上100%以下、密度が0.1g/cm3以上0.5g/cm3以下である熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート。
〔2〕 気泡の長径が5μm以上500μm以下、短径が5μm以上500μm以下であり、気孔の長径が5μm以上500μm以下、短径が5μm以上500μm以下である〔1〕記載の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート。
〔3〕 気泡を構成する気泡壁の存在確率が80%未満であることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート。
〔4〕 通液性を有する〔1〕〜〔3〕何れかに記載の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート。
〔5〕 熱可塑性樹脂発泡シートの外周を固定して、加熱収縮温度以上の温度で熱可塑性樹脂発泡シートを加熱することを特徴とする〔1〕〜〔4〕何れかに記載の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートは、実用的な通液性を有し、均一な連続気泡構造を有している。その為、nmサイズの物質を透過、μmサイズ以上の物質を分離するフィルター材、吸着材、細胞分離、培養基材などに好適に使用することが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートの切断面を走査型電子顕微鏡により撮影した画像の一例である。白い部分が気泡壁であり、黒い部分が気孔である。
【図2】本発明における通液性を調べるための系の一例の側面図である。
【図3】本発明における通液性を調べるための系の一例の試験片の上面図である。
【図4】本発明の実施例に係る熱可塑性樹脂発泡シートを200℃で加熱したときの加熱収縮図である。
【図5】熱可塑性樹脂発泡シートの外周を固定せずに、加熱収縮温度以上の温度で加熱したシートの切断面を走査型電子顕微鏡により撮影した画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートに使用する熱可塑性樹脂とは、一般公知のポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリエーテルスルフォン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂等の非晶性熱可塑性樹脂や、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂等の結晶性熱可塑性樹脂が、使用できる。好ましくは、室温での変形防止の観点から熱可塑性樹脂のガラス転移点が室温以上であるものが好ましい。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートの連続気泡率は95%以上100%以下である。連続気泡率が95%より低い場合、発泡シートの一部分に通液性を阻害する独立気泡部分が形成され、通液性が発現しない。連続気泡率は、ピクノメーターを使用して熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートの真体積Vx(cm3)を求め、測定試料の外寸から見かけの体積Va(cm3)を求め、式(1)により求めた。ここで、Wは測定試料の重量(g)、ρは基材樹脂の密度(g/cm3)である。
連続気泡率(%)=(Va−Vx)/(Va−W/ρ)×100 (1)
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂連続気泡シートは、均一な連続気泡構造を有している傾向がある。均一な連続気泡構造の一例を図1に示している。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートを構成する気泡は、長径が1μm以上1000μm以下、短径が1μm以上1000μm以下、好ましくは長径が5μm以上500μm以下、短径が5μm以上500μm以下である。ここで気泡の長径は短径よりも大きい。ここで、気泡の短径とは、熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートの厚み方向と押出方向と垂直な方向(幅方向)で構成される面に切断した際の切断面(切断面Aとする)において、厚み方向の気泡径の最大値の平均値をいい、気泡の長径とは、幅方向の気泡径の最大値の平均値である。具体的には切断面Aの拡大画像(気泡が30個以上観察される倍率で観測したもの)から気泡を少なくとも30個選定し、それぞれの気泡について短径と長径を計測し、それぞれについて平均値を算出する。
【0017】
気泡の長径が1000μmよりも大きい場合は、たとえ気孔が形成されたとしても、単位体積当たりの気泡数が減少するためフィルターとして使用する場合に効率が悪くなる。気泡の短径が1μmより小さい場合は、たとえ気孔が形成されていたとしても非常に小さな気泡であり、平易に通液性を得ることが困難で、送液系に高圧のポンプを使用する必要や、流量が非常に少なくなる。気泡の長径が500μm以下で短径が5μm以上の場合は細胞分離や培養担体などに好適に使用できる。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートを構成する気泡中の気孔は長径が1μm以上1000μm以下、好ましくは5μm以上500μ以下であり、短径が1μm以上1000μm以下、好ましくは5μm以上500μ以下である。気孔の長径は気泡の長径より小さく、気孔の短径は気泡の短径より小さい。ここで、気孔とは、気泡間の気泡壁に開いている穴をいう。気孔の長径、短径に関しても気泡の長径、短径と同様に、熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートの厚み方向の径が短径、厚みに垂直な方向の径が長径である。
【0019】
気孔の短径が1μmより小さい場合は、平易に通液性を得ることが困難で、送液系に高圧のポンプを使用する必要や、流量が非常に少なくなる。気孔の長径が500μmより小さく短径が5μm以上の場合は細胞分離や培養担体などに好適に使用できる点で好ましい。気孔の長径、短径の測定は、前記切断面Aの拡大画像(気泡が30個以上観察される倍率で観測したもの)から気泡の大きさを測定するために計測した30個の気泡において、気泡の気泡壁に孔が開いているものを気孔と見なし、切断面Aに存在する気孔について短径と長径を計測し、それぞれについて平均を算出する。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートの密度は0.1g/cm3以上0.5g/cm3以下である。密度が0.1g/cm3より小さい場合、連続気泡発泡シートの密度に部分的なムラが生じやすくなり、均一な連続気泡構造とは言い難いものとなる。密度が0.5g/cm3より大きい場合、強度的には優れるものの殆どの部分が樹脂となるため連続気泡率が低下し、通液できなくなる。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートは通液性を有していることが好ましい。「通液性を有する」とは、本発明において具体的には、長さ20mm、幅10mm、厚みは任意の直方体状の連続気泡発泡シートの厚み方向と幅方向から構成される一つの断面に対し送液装置を用いて、5ml/分の条件で純水を送液した場合に、もう一方の断面から液体の排出が目視で確認できることを示す。図2に通液を調査するための系を具体的に示した。通液調査用の試験片作製は以下のように行う。長さ30mm、幅10mmの直方体状に連続気泡発泡シートを切り出し、直径が11mmの円柱状の型枠に入れたあと硬化性のシーリング剤(セメダイン株式会社製シリコーンシーラントCセメダイン8060)を型枠と発泡シートの間に隙間なく注入する。硬化後型枠から円柱状のシーリング剤に包埋されたものを取出、両端部を5mmずつ切り落として発泡シートの断面を露出させた円柱状のものを試験片とする。断面は図3のようになる。これを適切な器具を用いて水を満たしたインデフレーター(株式会社カネカ製カネカインフレーションデバイス)に接合し、片方の端部から送液を実施し、別方の端部から水が排出されるかどうかを確認する。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートは、連続気泡を構成する気泡壁の存在確率が80%未満であることが好ましい。気泡壁の存在確率が80%以上の場合、通液性が悪くなる場合がある。気泡の気泡壁存在率は、具体的には以下のような測定方法により求めることが出来る。まず、走査型電子顕微鏡観察により得られた、熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートの前記切断面Aの拡大画像(気泡が30個以上観察される倍率で観測したもの)から気孔の有無及び形状が十分に観察しうる気泡を少なくとも20個以上選定する。つぎに画像解析装置を使用して、選定した気泡の各々の断面積を求め(断面を構成する樹脂部分は除外)、その総和(この値をAとする)を求める。さらに気孔を有する気泡については気孔部分の面積(画面上で、気孔部分を断面に垂直に投影した時の面積)を、同様にして画像解析装置により求めた後、その総和(この値をBとする)を求める。ここでは気泡壁存在率とは{1−(B/A)}×100で得られる値(%)を採用する。ここで気泡壁存在率が80%未満のものでは、明確に気泡が連通しているものと考えられる。従来、連続気泡構造を有する発泡体で気孔が明瞭に観察されたもの例としては、先に述べた特許文献3のようなものがあるが、そのセル構造(気泡、気孔)は不均一である。さらに本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートは、密度が0.1g/cm2以上0.5g/cm2以下である為、80%未満の気泡壁を有する構造であっても、樹脂膜部分が厚く、そのため脆くなく、ハンドリングが容易である傾向がある。これは、従来のポリウレタン系発泡体や、前述の相分離法にて形成した多孔質体には特徴的構造であるが熱可塑性樹脂発泡体には困難であった特徴であり、本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートは、気孔が均一に形成され、通液が可能でハンドリングも容易な、気泡が細長い線状の支柱で構成されたような構造を得る傾向がある。
【0023】
熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートを、これまで素材や形状(粒子やキャピラリー状、モノリス状)的に限界のあったカラム様に使用することで、通液性に優れた構造で、熱可塑性樹脂の分子構造や表面特性に由来する吸着能などを有するカラムが得られると考えられる。
【0024】
本発明においては、熱可塑性樹脂発泡シートの外周を固定して、加熱収縮温度以上の温度で加熱することで、均一な平板状の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートを得ることができる。
【0025】
通常、熱可塑性樹脂発泡シート中の気泡は、気泡核を基点に熱可塑性樹脂が発泡剤のガス膨張により部分延伸され、歪みを与えられる傾向がある。したがって、熱可塑性樹脂発泡シートを任意のサイズに切り出し、熱可塑性樹脂の軟化温度以上の任意の温度に加熱すると、元のサイズよりも収縮する性質を有する。
【0026】
熱可塑性樹脂発泡シートの製造方法に関しては、加熱プレス機や加熱ロールを使用して熱可塑性樹脂シートを作製したあとに、耐圧オートクレーブ等で発泡剤を含浸させた後、圧力を開放したり加熱するなどして発泡シートを得るバッチ発泡法や、押出機内で溶融した樹脂に高圧の発泡剤を圧入して、ダイス出口で樹脂粘度を高めになるように冷却するなど調節して発泡させる押出発泡法等があるが、発泡セル、シート全体の均一な形状が得られるのであれば特に限定はない。通常は発泡セルやシートの全体的な均一性が高い点から押出発泡シートが好ましい。なお、熱可塑性樹脂発泡シートは、独立気泡でも一部分が連続気泡でも良い。
【0027】
熱可塑性樹脂発泡シートの密度は、目的とする熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートの密度よりも小さいことが好ましい。熱可塑性樹脂発泡シートを固定し、熱収縮させることで、熱可塑性連続気泡発泡シートの気泡壁を破壊して気泡壁中に気孔を形成する場合、破壊された気泡壁部分の樹脂は気泡の梁部分に吸収され変形する傾向がある。
【0028】
熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートを得るための、熱可塑性樹脂発泡シートの外周を固定する方法としては、任意のサイズの熱可塑性樹脂発泡シートを矩形や円形の固定治具を使用して固定することが好ましい。固定する強度は、発泡シートが加熱により収縮しようとするときに固定治具から外れず、収縮力に抗することが出来る強度であればよい。
【0029】
加熱収縮温度とは、熱可塑性樹脂発泡シートを任意のサイズに切り出した物を、熱可塑性樹脂任意の温度に加熱した時に、元のサイズよりも収縮する温度である。
【0030】
連続気泡率が95%以上100%以下の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートを得るためには、例えば以下のようにして作製することができる。加熱収縮温度以上の所定の温度で加熱する場合、当該温度にて外周を固定せずに熱可塑性樹脂発泡シート加熱時間と収縮率の関係を調査し、収縮率が最大となる領域から接線と収縮の変位が最も大きい領域からの接線の交点を見出す。当該温度で、この交点の時間以上で加熱することにより、連続気泡率が95%以上100%以下の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートを得ることが出来る傾向がある。従って、交点の時間以上の時間で熱可塑性樹脂発泡シートの外周を固定して当該温度で加熱することで、本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートを得ることが出来る。図4に、加熱温度200℃の場合の加熱時間と収縮率の関係と、交点の見出し方の例を示した。
【実施例】
【0031】
次に本発明の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート、およびその製造方法を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。
【0032】
以下に示す実施例、比較例の発泡シート密度、連続気泡率、通液性、気泡径、気孔径、気泡壁存在率、加熱収縮率に関しては下記の方法にしたがって調査した。
【0033】
1)発泡シート密度(g/cm3
発泡シート密度は、次の式に基づいて求めた。
発泡シート密度(g/cm3)=発泡シート重量(g)/発泡シート体積(cm3
なお、発泡シート体積は発泡シートを10cm×10cmの正方形状に切り出し、厚みを計測して求めた。
【0034】
2)連続気泡率(%)
連続気泡率は、次のようにして求めた。ピクノメーターを使用して発泡体の真体積Vx(cm3)を求め、測定試料の外寸から見かけの体積Va(cm3)を求め、式(1)により求めた。ここで真体積Vxは、測定試料の樹脂体積と独立気泡部分の体積の和であり、Wは測定試料の重量(g)、ρは基材樹脂の密度(g/cm3)である。
連続気泡率(%)=(Va−Vx)/(Va−W/ρ)×100 (1)
【0035】
3)通液性
熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートより長さ30mm、幅10mmの直方体状のサンプルを切り出し、直径が11mmの円柱状の型枠に入れたあと硬化性のシーリング剤(セメダイン株式会社製シリコーンシーラントCセメダイン8060)を型枠と発泡シートの間に隙間なく注入し、硬化後型枠から円柱状のシーリング剤に包埋されたものを取出、両端部を5mmずつ切り落として発泡シートの断面を露出させた円柱状のものを試験片とする。この試験片を適切な器具を用いて水を満たしたインデフレーター(株式会社カネカ製カネカインフレーションデバイス)に接合し、片方の端部から送液を実施し、別方の端部から水が排出されるかどうかを確認する。図2に示す通液システムにより、通水試験を実施した。
通液性がある:○
通液性がない:×
【0036】
4)気泡の長径と短径
気泡径は、発泡シートの厚み方向と押出方向と垂直な方向(幅方向)で構成される面に切断した際の切断面を走査型電子顕微鏡により撮影した画像(気泡が30個以上観察される倍率で観測したもの)より、切断面直近の気泡を構成する気泡で形状が不明確でない物を30個選択できる任意の長方形の領域アを選択し(領域アの境界部分の気泡は除く)、シートの厚み方向の気泡径の最大値を短径、厚み方向に垂直な方向の気泡径の最大値を長径とし、それぞれの平均を求めた。
また、気泡の長径と短径について以下のように判断した。
長径>短径:○
長径≦短径:×
【0037】
5)気孔の長径と短径
上記領域アで計測した30個の気泡において、気泡の気泡壁に孔が開いているものを気孔と見なし領域アに存在する全ての気孔について、シートの厚み方向の気孔径の最大値を短径、厚み方向に垂直方向の気孔径の最大値を長径とし、それぞれの平均を求めた。
【0038】
6)気泡壁存在率
上記領域アについて画像解析装置を使用して、選定した気泡の各々の断面積を求め(断面を構成する樹脂部分は除外)、その総和(この値をAとする)を求める。さらに気孔を有する気泡については気孔部分の面積(画面上で、気孔部分を断面に垂直に投影した時の面積)を、同様にして画像解析装置等により求めた後、その総和(この値をBとする)を求める。これらから、{1−(B/A)}×100で得られる値(%)を気泡壁存在確率とした。
【0039】
7)加熱収縮率
発泡シートを20×20(cm2)の正方形状に切り出し、4辺の中心から対辺に向かって十字線を引いた後、雰囲気温度を所定の温度としたオーブン中で固定せずに経時的に加熱し、収縮させた。加熱後の十字線の寸法の平均をMcmとしたときに、加熱収縮率を以下のように表すこととした。収縮が観察される場合、この温度は加熱収縮温度以上であるといえる。
加熱収縮率(%)=100−(100M/20)
【0040】
(実施例1)
ポリスチレン樹脂(PSジャパン製G0002)100重量部に対し、増核剤としてタルク(松村産業製ハイフィラー#11)を0.5重量部添加してブレンドした後、タンデム押出機に投入、一段目押出機にて溶融・混練した後、発泡剤としてイソブタン85%、ノルマルブタン15%の混合ガスを圧入し、二段目押出機にて冷却、150℃に温調したサーキュラーダイスから円筒状に押し出し、熱可塑性樹脂発泡シート(目付250g/m2、厚み2.0mm(0.125g/cm3)、巾1040mmを得た。
【0041】
次にこの熱可塑性樹脂発泡シートより20×20(cm2)の正方形状のサンプルを切り出し、200℃のオーブン中での加熱収縮率の時間変化を調査、グラフ化し、収縮率が最大となる領域から接線を引き、接点を見出した。実施例1の熱可塑性樹脂発泡シートにおいて熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート体を得るには、200℃の加熱温度であれば、26秒以上加熱するとよい。
【0042】
次にこの熱可塑性樹脂発泡シートより20×20(cm2)の正方形状のサンプルを切り出し、4辺を外寸20×20(cm2)、内寸19×19(cm2)の熱可塑性樹脂発泡シートを固定枠で固定し、熱可塑性樹脂発泡シートの上下面から挟み込み周囲を万力で固定した。この固定した熱可塑性樹脂発泡シートを200℃のオーブン中で、30秒加熱した後、オーブンから取出し常温で冷却した。
【0043】
得られた発泡シートの密度(g/cm3)、連続気泡率(%)、通液性、気泡の長径と短径、気孔の長径と短径、気泡壁存在率(%)を表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
(実施例2)
熱可塑性樹脂発泡シートより20×20(cm2)の正方形状のサンプルを切り出し、150℃のオーブン中での加熱収縮率の時間変化を調査、グラフ化し、収縮率が最大となる領域から接線を引き、接点を見出した。実施例2の熱可塑性樹脂発泡シートにおいて熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート体を得るには、150℃の加熱温度であれば70秒以上加熱するとよい。
【0046】
次にこの熱可塑性樹脂発泡シートより20×20(cm2)の正方形状のサンプルを切り出し、4辺を外寸20×20(cm2)、内寸19×19(cm2)の熱可塑性樹脂発泡シートを固定枠で固定し、熱可塑性樹脂発泡シートの上下面から挟み込み周囲を万力で固定した。この枠固定した熱可塑性樹脂発泡シートを150℃のオーブン中で、180秒加熱した後、オーブンから取出し常温で冷却した。得られた発泡シートの密度(g/cm3)、連続気泡率(%)、通液性、気泡の長径と短径、気孔の長径と短径、気泡壁存在率を表1に示した。
【0047】
(比較例1)
熱可塑性樹脂発泡シート固定枠で発泡シートを固定しなかった以外は実施例1と同様の方法で加熱し、発泡体を得た。得られた発泡体は捻れてデコボコした塊状であり、シート形状ではなかった。気泡の形態は図5に示すような不均一な構造であった。
【0048】
(比較例2)
熱可塑性樹脂発泡シート固定枠で発泡シートを固定しなかった以外は実施例2と同様の方法で加熱し、発泡体を得た。得られた発泡体は捻れてデコボコした塊状であり、シート形状ではなかった。気泡の形態は不均一な構造で、比較例1の構造と類似していた。
【0049】
(比較例3)
サーキュラーダイスの温度を165℃とした以外は、実施例1と同様の方法で発泡シートを得た。得られた発泡シートの連続気泡率は55%であったが、任意断面で気孔は観察されず通水性はなかった。
【符号の説明】
【0050】
1 発泡シート
2 シーラント
3 接続部
4 水
5 パッキン
6 シリンダーピストン
7 ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡の長径が1μm以上1000μm以下、短径が1μm以上1000μm以下であり、かつ気泡の長径が気泡の短径より大きく、気孔の長径が1μm以上1000μm以下であり気泡の長径より小さく、気孔の短径が1μm以上1000μm以下であり気泡の短径より小さく、かつ、連続気泡率が95%以上100%以下、密度が0.1g/cm3以上0.5g/cm3以下である熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート。
【請求項2】
気泡の長径が5μm以上500μm以下、短径が5μm以上500μm以下であり、気孔の長径が5μm以上500μm以下、短径が5μm以上500μm以下である、請求項1記載の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート。
【請求項3】
気泡を構成する気泡壁の存在確率が80%未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート。
【請求項4】
通液性を有する請求項1〜3何れか一項に記載の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シート。
【請求項5】
熱可塑性樹脂発泡シートの外周を固定して、加熱収縮温度以上の温度で熱可塑性樹脂発泡シートを加熱することを特徴とする請求項1〜4何れか一項に記載の熱可塑性樹脂連続気泡発泡シートの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−275507(P2010−275507A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132231(P2009−132231)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】