説明

熱変色性組成物および熱変色性マイクロカプセル

【課題】発色濃度経時安定性に優れ、かつ可逆的に変色可能な、熱変色性組成物を提供する。
【解決手段】電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、および減感剤を含む熱変色性組成物において、電子受容性化合物として、2つの芳香環を有する、特定の一般式で示され、かつ融点が150℃以下である化合物を1種または複数種使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆性を有する熱変色性組成物および当該熱変色性組成物を内包した熱変色性マイクロカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、および減感剤を含む熱変色性組成物は、既に提案され、また、実用に供せられている。最近では、さらに高品質の熱変色性組成物を得るために、いずれか1または複数の成分を特定の化合物とすることが、提案されている。例えば、特許文献1(特開平6−88070号公報)においては、発色濃度、地発色および変色色差の点で優れている熱変色性組成物として、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、および特定の一般式で表されるカルバゾール誘導体から選ばれる少なくとも1種の減感剤を含有する熱変色性組成物が提案されている。特許文献2(特開2000−297277号公報)においては、諸堅牢度、特に耐水性が向上され、発色時の色濃度が高く、かつ毒性の低い可逆感温変色性組成物として、ロイコ色素、および特定の一般式で示される顕色性物質から成る組成物が提案されている。
【0003】
特許文献3(特開2001−294783号公報)においては、変色感度を損なうことなく、しかも永続的な可逆熱変色性を示すと共に、効率的な紫外線硬化性を有する可逆熱変色性紫外線硬化型インキとして、可逆熱変色性組成物、および特定の一般式で示される耐光性付与剤を内包したマイクロカプセル顔料を紫外線吸収剤および光重合開始剤を含有する光重合性組成物中に分散してなるインキが提案されている。特許文献4(特開2001−31884号公報)には、耐熱性に富む可逆熱変色性顔料として、電子供与性呈色性有機化合物、特定の一般式で示され、分子量250以上のビスフェノール化合物である電子受容性化合物、および変色温度調節剤を含む顔料が提案されている。特許文献5(特開2003−119309号公報)においては、特許文献4に記載の顔料を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、ポリオレフィン系樹脂と、発泡剤とから成る可逆熱変色性発泡体が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−88070号公報
【特許文献2】特開2000−297277号公報
【特許文献3】特開2001−294783号公報
【特許文献4】特開2001−31884号公報
【特許文献5】特開2003−119309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱変色性組成物は、所定の温度を境に発色/消色する性質を有するだけでなく、発色した後に時間が経っても、その濃度(発色濃度)が変化しにくい性質、即ち、発色濃度経時安定性を有することが、場合により、求められる。例えば、熱変色性組成物を発色させた状態を、長時間保持する用途(例えば、コップおよびマグカップ等の食器類の装飾)において、熱変色性組成物の発色濃度経時安定性が低いと、所定の柄および文字等が見えにくくなる等、見た目が変化して好ましくない。したがって、前記用途において使用する熱変色性組成物には、高い発色濃度経時安定性が要求される。
【0006】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、発色濃度経時安定性に優れた、熱変色性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、および減感剤を含み、電子受容性化合物として、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで示され、かつ融点が150℃以下である化合物を1種または複数種含む、熱変色性組成物を提供する。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
(一般式(1)〜(3)において、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、シクロへキシル基であり、X、YおよびZはそれぞれ独立して、ハロゲン、OH基、アルコキシ基、アルコキシアリル基、アリル基、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、またはシクロへキシル基であり、Cは、置換基を有してもよい炭素数5〜8のシクロアルカンまたは置換基を有してもよいフルオレン環である。)
【0012】
本発明の熱変色性組成物は、電子受容性化合物、すなわち、顕色剤として、特定の化学式で示され、かつ融点が150℃以下である化合物(以下、便宜的に「低融点顕色剤」と呼ぶ)を使用することを特徴とする。低融点顕色剤を使用することにより、発色性および消色性に優れ、かつ発色濃度経時安定性に優れた、可逆性の熱変色性組成物を得ることができる。
【0013】
本発明はまた、上記熱変色性組成物が、顕色剤として、上記一般式(1)〜(3)のいずれかで示され、かつ融点が150℃よりも高い化合物(以下、便宜的に「高融点顕色剤」と呼ぶ)をさらに含む、熱変色性組成物を提供する。高融点顕色剤は、1種または複数種含まれてよい。
【0014】
本発明の熱変色性組成物は、低融点顕色剤が含まれる限りにおいて、高融点顕色剤が含まれている場合でも、優れた発色濃度経時安定性を示す。高融点顕色剤を使用することによって、それが有する特性(例えば、高発色性または高消色性)を利用するとともに、低融点顕色剤により、発色濃度経時安定性を向上させることができる。
【0015】
本発明はまた、上記本発明の熱変色性組成物がマイクロカプセルに内包された、熱変色性マイクロカプセルを提供する。マイクロカプセルに熱変色性組成物が内包されると、周囲に存在する物質による影響を受けにくくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱変色性組成物は、上記特定の一般式で示され、かつ融点が150℃以下である化合物を顕色剤として使用することにより、優れた発色濃度経時安定性を発揮する。よって、本発明の熱変色性組成物は、発色させた状態を長時間維持する用途に適しており、例えば、繊維製品、インキ、塗料、陶器、ガラス製品、プラスチック成形体、包装材料、記録材料、および印刷物に、可逆的な熱変色性を付与するための着色剤として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の熱変色性組成物(以下、単に「組成物」と呼ぶことがある)は、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物および減感剤を含み、電子受容性化合物として、特定の一般式で示され、かつ150℃以下の融点を有する化合物を少なくとも一種含む。以下に、本発明の熱変色性組成物を構成する成分について説明する。
【0018】
[電子供与性呈色性有機化合物]
電子供与性呈色性有機化合物は、発色剤とも呼ばれ、電子受容性化合物と反応して呈色する。電子供与性呈色性有機化合物として、公知の化合物を、任意に使用してよい。具体的には、フルオラン類、フルオレン類、ジフェニルメタンフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、インドリルフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、ピリジン系化合物、キナゾリン系化合物、ビスキナゾリン系化合物、エチレノフタリド系化合物、およびエチレノアザフタリド系化合物が、電子供与性呈色性有機化合物として挙げられる。電子供与性呈色性有機化合物は、2種以上混合して使用してよい。
【0019】
電子供与性呈色性有機化合物は、好ましくは、
2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、
3,6−ビス(ジフェニルアミノ)フルオラン
【0020】
電子供与性呈色性有機化合物の含有率は、組成物全部の重量を基準としたときに、0.1重量%〜50重量%であることが好ましく、0.8重量%〜15重量%であることがより好ましい。電子供与性呈色性有機化合物の含有率が小さい場合には、発色濃度が低くなることがあり、含有率が大きい場合には、地発色(消色状態での発色濃度)が大きくなることがある。
【0021】
[電子受容性化合物]
電子受容性化合物は、顕色剤とも呼ばれ、電子供与性呈色性有機化合物と反応して呈色する化合物であり、具体的には、活性プロトンを有する化合物、偽酸性化合物、または電子空孔を有する化合物である。さらに、本発明においては、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで示され、かつ融点が150℃以下である化合物(低融点顕色剤)を、電子受容性化合物として使用する。
【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
一般式(1)〜(3)において、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、シクロへキシル基であり、X、YおよびZはそれぞれ独立して、ハロゲン、OH基、アルコキシ基、アルコキシアリル基、アリル基、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、またはシクロへキシル基であり、Cは、置換基を有してもよい炭素数5〜8のシクロアルカンまたは置換基を有してもよいフルオレン環である。
【0026】
一般式(2)において、Cを含む弧は、2つの芳香族環に結合している炭素原子が、シクロアルカンを構成する炭素原子であることを意味する。したがって、一般式(2)において、Cが炭素数6のシクロアルカン(即ち、シクロヘキサン)である場合、一般式(2)は下記式のように表される。
【0027】
【化7】

【0028】
より具体的には、p−クミルフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、4−ヒドロキシ−4’−イソプロポキシジフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−4’−メトキシジフェニルスルホン、2,2’−ジアリル−4,4’ジヒドロキシジフェニルスルホンおよび1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンが、電子受容性化合物として好ましく使用される。特に、2,2’−ジアリル−4,4’ジヒドロキシジフェニルスルホンおよび4−ヒドロキシ−4’−イソプロポキシジフェニルスルホンは、耐熱性に優れており、例えば、熱可塑性樹脂へ練り込んで使用するのに適している。
【0029】
低融点顕色剤を電子受容性化合物として使用すると、発色濃度経時安定性に優れた組成物を得ることが可能となる。その理由は定かではないが、融点の低い顕色剤は、電子供与性呈色性有機化合物との結晶分離を起こしにくいためであると考えられる。
【0030】
上記特定の3つの一般式のいずれかで示され、かつ融点が150℃以下である化合物は1種類または複数種を混合して使用してよい。複数種の化合物を混合することにより、各化合物の特性を利用して、より良好な特性を有する熱変色性組成物を得ることができる。
【0031】
あるいは、前記特定の一般式および前記特定の融点を有する化合物を少なくとも1種類使用する限りにおいて、上記特定の3つの一般式のいずれかで示され、かつ融点が150℃を超える化合物(高融点顕色剤)を、電子受容性化合物として使用してよい。高融点化合物は、一般に、耐熱性に優れている。したがって、低融点化合物と高融点化合物とを組み合わせて使用することにより、発色濃度経時安定性に優れ、かつ耐熱性に優れた組成物を得ることができる。
【0032】
高融点化合物として、具体的には、4−ヒドロキシ−4’−プロポキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−イソブチルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4−ヒドロキシ−4’−アリルオキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、およびビスクレゾールフルオレンが好ましく用いられる。特に、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビスクレゾールフルオレン、4−ヒドロキシ−4’−アリルオキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンおよび4−ヒドロキシ−4’−プロポキシジフェニルスルホンは、耐熱性に優れており、例えば、熱可塑性樹脂へ練り込んで使用するのに適している。
【0033】
電子受容性化合物の含有率は、組成物全部の重量を基準としたときに、0.05重量%〜98重量%であることが好ましく、0.5重量%〜77重量%であることがより好ましい。電子受容性化合物の含有率が小さい場合には、発色濃度が低くなることがあり、含有率が大きい場合には、地発色が大きくなることがある。また、電子受容性化合物は、電子供与性呈色性有機化合物1重量部に対して、0.1〜100重量部の量で含まれることが好ましく、0.5〜20重量部の量で含まれることがより好ましい。
【0034】
低融点顕色剤および高融点顕色剤の両方を含む場合には、両者は、重量比で、1:99〜99:1(低融点顕色剤:高融点顕色剤)となるように混合されることが好ましく、10:90〜90:10となるように混合されることがより好ましい。低融点顕色剤の割合が大きすぎると、高融点顕色剤による耐熱性を得られないことがあり、低融点顕色剤の割合が小さすぎると、良好な発色濃度経時安定性を得られないことがある。
【0035】
[減感剤]
減感剤は、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を溶解させることができ、その凝固または融解特性によって、呈色反応を制御することができる化合物である。本発明においては、例えば、汎用されている減感剤を選択することによって、−10℃〜60℃で変色するようにできる。具体的には、難揮発性疎水性有機媒体(または溶剤もしくは溶媒)が、減感剤として使用される。
【0036】
より具体的には、減感剤として、炭素数10以上の脂肪族1価アルコール、炭素数10以上の脂肪酸、炭素数6以上の脂肪酸モノアミド、および総炭素数13以上のエステル化合物を挙げることができる
【0037】
また、汎用減感剤として使用されている、脂肪族、芳香族および脂環式の1塩基酸と、脂肪族、芳香族および脂環式のいずれかの1価アルコールとの任意の組合せから構成される、総炭素数13以上のエステル化合物であって、下記の形態のものを、本発明において使用することができる。
・汎用減感剤の酸が多塩基酸であるもの。
・汎用減感剤のアルコールが多価アルコールであるもの。
・汎用減感剤の酸が多塩基酸で、アルコールが多価アルコールであるもの。
【0038】
あるいはまた、汎用減感剤である、総炭素数10以上の脂肪族ケトン化合物、および総炭素数10以上の脂肪族エーテル化合物を、本発明において、使用することができる。
【0039】
さらにより具体的には、減感剤として、ラウリン酸メチル、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸アミド、パルミチン酸メチル、ミリスチン酸アミド、ステアリン酸メチル、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸メチル、およびベヘニン酸アミドを挙げることができる。
【0040】
減感剤の含有率は、組成物全部の重量を基準としたときに、1重量%〜99重量%であることが好ましく、19重量%〜99重量%であることがより好ましい。電子供与性呈色性有機化合物の含有率が小さい場合には、地発色が大きくなることがあり、含有率が大きい場合には、発色濃度が低くなることがある。また、減感剤は、電子供与性呈色性有機化合物1重量部に対して、1〜500重量部の量で含まれることが好ましく、5〜100重量部の量で含まれることがより好ましい。
【0041】
本発明の熱変色性組成物は、通常の熱変色性組成物に含まれる、その他の成分を含んでよい。以下、その他の成分について説明する。
【0042】
[紫外線吸収剤]
本発明の組成物は、紫外線吸収剤を含んでよい。紫外線吸収剤は、太陽光に含まれる紫外線を選択的に吸収するものである。紫外線は、発色剤を、光反応により劣化させる。紫外線吸収剤はこれを防止するために用いられる。
【0043】
紫外線吸収剤は、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系、サリチル酸系、シュウ酸アニリド系、マロン酸エステル系、安息香酸系、ケイ皮酸系、およびジベンゾイルメタン系に大別される。より具体的には、ベンゾトリアゾール系のTinuvin326、トリアジン系のTinuvin40(いずれも、チバスペシャルティケミカルズ製)、ベンゾフェノン系のサイアソーブUV531(サイテックインダストリーズ製)を使用することができる。
【0044】
紫外線吸収剤の含有率は、組成物全部の重量を基準としたときに、96重量%までであることが好ましく、61重量%までであることがより好ましい。紫外線吸収剤の含有率が大きい場合には、発色濃度が低くなる、変色がシャープでなくなる、および/または変色温度ヒステリシスが大きくなることがある。また、紫外線吸収剤は、電子供与性呈色性有機化合物1重量部に対して、50重量部までの量で含まれることが好ましく、10重量部までの量で含まれることがより好ましい。
【0045】
[紫外線散乱剤]
本発明の組成物は、紫外線散乱剤を含んでよい。紫外線散乱剤は、太陽光に含まれる紫外線を物理的に反射又は散乱させる。その結果、紫外線の発色剤への作用が防止される。紫外線散乱剤は、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、α−酸化鉄、および酸化セリウム等の金属酸化物微粒子である。
【0046】
[光安定剤]
本発明の組成物は、光安定剤を含んでよい。光安定剤は、紫外線によって発生するラジカルと発色剤とが反応して、発色剤が劣化することを防止する。具体的には、ヒンダードフェノールまたはヒンダードアミンを、光安定剤として使用してよい。
【0047】
[その他]
上記に示した成分以外の成分として、酸化防止剤(フェノール系、リン系、および硫黄系等)、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、非熱変色性染料、および非熱変色性顔料のいずれか一または複数の成分を含んでよい。
【0048】
次に、本発明の熱変色性組成物の製造方法を説明する。本発明の組成物は、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物および減感剤、ならびに必要に応じて他の成分を、加熱溶解して製造することができる。その際の温度は、全成分のうち最も融点の高い成分が溶解するように選択され、一般には、120℃〜180℃の範囲内にある。
【0049】
あるいは、本発明の熱変色性組成物は、マイクロカプセルに内包させてよい。マイクロカプセル化により、熱変色性組成物をそのまま、例えば、インキまたはプラスチック成形体において使用する場合に生じる問題、即ち、1)変色の際に、固体−液体の状態変化を繰り返すため、成分のマイグレーションが起こりやすく、可逆的な変色性が持続する寿命が短くなる、2)特にインキの場合、ビヒクル成分(樹脂、溶剤等)が変色性に影響を及ぼしやすく、悪影響を及ぼすことがある、という問題が、回避または軽減される。マイクロカプセル化により、使用する際に周りの雰囲気との接触が遮断されることになるので、周辺に存在する物質による影響を防止できるからである。
【0050】
熱変色性組成物のマイクロカプセル化は次の手順に従って実施できる。まず、溶解助剤を必要に応じて用いて、カプセル壁原料と熱変色性組成物を、減感剤に均一に溶解させる。溶解助剤は、熱変色性組成物とカプセル壁原料を均一に溶解させることができ、熱変色性能を阻害しないこと、または後工程で取り除けることを要する。具体的には、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、芳香族系溶剤、含窒素系溶剤、シリコン系溶剤、および含ハロゲン系溶剤を、溶解助剤として使用できる。より具体的には、酢酸エチル、アセトン、およびメチルエチルケトンが、好ましく用いられる。
【0051】
カプセル壁原料は、樹脂主剤および架橋剤を含む。樹脂主剤は、カプセル内包物を分散相とするO/Wエマルションの界面で架橋剤と反応し、カプセル壁を形成する化合物である。架橋剤は、カプセル内包物を分散相とするO/Wエマルションの界面で樹脂主剤と反応し、カプセル壁を形成する化合物である。
【0052】
樹脂主剤および架橋剤の組み合わせの例は、次のとおりである。
【0053】
【表1】

【0054】
次に、30〜60℃に加温した乳化剤水溶液中に、中せん断撹拌しながら、カプセル壁原料と熱変色性組成物とを含む溶液を添加する。添加後、高せん断撹拌を行い、平均粒径数μmのO/Wエマルションを得る。乳化剤は、カプセル内包物を分散相とするO/Wエマルションの界面に吸着して、系を安定化させる両親媒性物質である。乳化剤は、具体的には、天然水溶性高分子、合成水溶性高分子、低分子界面活性剤、および無機微粒子である。樹脂主剤および架橋剤の組み合わせに応じた、乳化剤は次のとおりである。
【0055】
【表2】

【0056】
乳化剤水溶液は、乳化剤を0.1〜15重量%含む水溶液であることが好ましく、乳化剤を0.5〜8重量%含む水溶液であることがより好ましい。乳化剤の濃度が高すぎると、発泡することがあり、低すぎると、粒径が大きくなる、または乳化できなくなることがある。
【0057】
高せん断撹拌後、低せん断撹拌に切り換え、架橋剤水溶液を徐々に滴下する。滴下後、60-90℃で3-12時間反応を行った後、室温まで冷却する。それにより、マイクロカプセルが分散したスラリーを得ることができる。
【0058】
マイクロカプセル化において使用する、上記原料および添加剤の好ましい使用量(括弧内はより好ましい使用量)は次のとおりである。
熱変色性組成物:5〜50重量部(10〜40重量部)
溶解助剤:0〜100重量部(0〜40重量部)
乳化剤水溶液:100重量部
樹脂主剤:1〜50重量部(2〜10重量部)
架橋剤:0.5〜25重量部(1〜5重量部)
【0059】
熱変色性組成物の量が多すぎると、乳化できないことがあり、少なすぎると、生産性が悪くなることがある。溶解助剤の量が多すぎると、生産性が悪くなることがあり、少なすぎると、発色濃度が低くなることがある。樹脂主剤の量が多すぎても、または少なすぎても、反応が不十分となり、カプセルの強度および耐熱性が低下することがある。同様に、架橋剤の量が多すぎても、または少なすぎても、反応が不十分となり、カプセルの強度および耐熱性が低下することがある。
【0060】
本発明の熱変色性組成物は、ポリエチレンおよびポリプロピレン等のプラスチック成形体、印刷インキ、インキ、塗料、包装材料、繊維、記録材料等に、可逆的な熱変色性を付与するために用いることができる。あるいは、本発明の熱変色性組成物は、筆記具および描画材(例えばクレヨン)の着色剤として用いてよい。その場合、それらで筆記または描画された線図および塗りつぶしを、熱変色性とすることができる。
【0061】
本発明の熱変色性組成物は、マイクロカプセルに内包された形態で提供されてよい。マイクロカプセル化された場合も、上記の物品に熱変色性を付与することができる。特に、マイクロカプセル化された熱変色性組成物は、水性エマルジョンインキ、溶剤揮発性乾燥型インキ、二液硬化型エポキシ樹脂インキ、捺染糊および紫外線硬化型インキに熱変色性を付与するのに好ましく用いられる。
【実施例】
【0062】
(実施例1〜26、比較例1〜20)
表3〜6に示す、電子供与性呈色性有機化合物(発色剤)、電子受容性化合物(顕色剤)および減感剤を使用して、熱変色性組成物を調製した。具体的には、これらの3つの成分を、120〜180℃の範囲内にある温度で加熱溶解した。
【0063】
(測定用サンプルの作製)
70-100℃に加熱した熱変色性組成物を、No.5Cろ紙上に、0.05g滴下し、70℃10分加熱して含浸させたものを測定用サンプルとした。ただし、融点が100℃以上である電子受容性化合物を使用した熱変色性組成物の測定用サンプルは、含浸条件を100℃10分とした。
【0064】
得られた測定用サンプルの初期の発色状態および地発色状態、ならびに保存後の発色状態(発色濃度)を、コニカミノルタ(旧ミノルタ)株式会社製の色彩色差計CR−300を用いて、白板校正板との色差を求めることにより評価した。色差は、下記の式で表わされる。式中、Lは明度指数、aおよびbはクロマティクネス指数を示す。詳細は、同装置の取扱説明書(特に第77頁)に記載されている。ΔEが大きいほど、発色濃度または地発色濃度が高いといえる。
【0065】
【数1】

【0066】
発色状態におけるΔEの測定は−5℃のクーラーボックス内で行い、地発色(消色)状態におけるΔEの測定は100℃のホットプレート上で行った。保存後の発色状態は、32℃で4日間保存してから、ΔEを測定して評価した。保存前後のΔEから、発色濃度の変化率を下式に従って算出した。
【0067】
【数2】

【0068】
さらに、変化率の値(絶対値)から、発色濃度の経時安定性を、次の基準に従って、評価した。
良好(○):|変化率|≦10
悪い(×):|変化率|>10
【0069】
各実施例および各比較例の変色組成物で作製した測定用サンプルの評価結果を表3〜表6に示す。各実施例および各比較例において、電子受容性化合物の融点は、SIIナノテクノロジー製TG/DTA6220を用いて測定した。測定は、N2流量200ml/分、昇温速度10℃/分にて行い、DTA曲線に現れた融解開始温度を融点とした。
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
(実施例27〜34、比較例21〜24)
実施例1〜26、および比較例1〜20で調製した熱変色性組成物から選択した組成物を内包物とする、マイクロカプセルを作製した。マイクロカプセルの作製に使用した材料およびその量は次のとおりである。
【0075】
【表7】

【0076】
これらの材料を用いて、溶解助剤に、熱変色性組成物と樹脂主剤とを均一に溶解させ、それから、この溶液を、60℃に加温した乳化剤水溶液中に、中せん断撹拌しながら添加した。次に、高せん断撹拌して、平均粒径数μmのO/Wエマルションを得た。その後、低せん断撹拌を行って、架橋剤水溶液を徐々に滴下した。滴下後、60℃で1時間、90℃で1時間反応させ、室温まで冷却して、マイクロカプセルが分散したスラリーを得た。
【0077】
測定用のサンプルを、室温まで冷却したマイクロカプセル化熱変色性組成物を、No.1ろ紙にドクターブレード(200μm)で塗布し、室温で2時間乾燥して作製した。このサンプルを使用して、発色状態および地発色(消色)状態におけるΔEの測定、保存後の発色状態におけるΔEの測定を行った。これらの測定は、実施例1〜26に関連して説明した方法で行った。表8に、各実施例および各比較例の初期発色および地発色、保存後の発色濃度の変化率および発色濃度経時安定性を示す。
【0078】
【表8】

【0079】
全ての実施例および比較例は、変色温度約30℃を境にそれよりも低い温度で黒色に発色し、高い温度で無色となる変化を繰り返すことが出来る、可逆熱変色性組成物である。融点≦150℃の電子受容性化合物を用いた実施例1〜4は、保存後の変化率の絶対値がいずれも10以下であり、優れた発色濃度経時安定性を示した。融点>150℃の電子受容性化合物のみを用いた比較例1〜6は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10を超えており、時間が経つにつれて、発色濃度が大きく変化し、安定性が低かった。
【0080】
実施例1〜4の熱変色性組成物に、減感剤としてステアリン酸アミドを加えた実施例5〜8は、保存後の変化率の絶対値がいずれも10以下であり、優れた発色濃度経時安定性を示した。比較例1〜6の熱変色性組成物に、減感剤としてステアリン酸アミドを加えた比較例7〜12は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10を超えており、時間が経つにつれて、発色濃度が大きく変化し、安定性が低かった。
【0081】
融点≦150℃の電子受容性化合物を2種類併用した、または融点≦150℃の電子受容性化合物と融点>150℃の電子受容性化合物を組み合わせた実施例9〜15は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10以下であり、優れた発色濃度経時安定性を示した。融点>150℃の電子受容性化合物を2種類併用した比較例13〜17は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10を超えており、時間が経つにつれて、発色濃度が大きく変化し、安定性が低かった。
【0082】
融点≦150℃の電子受容性化合物を2種類と、融点>150℃の電子受容性化合物を1種類とを併用した、実施例16〜18は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10以下であり、優れた発色濃度経時安定性を示した。融点>150℃の電子受容性化合物を3種類併用した比較例18は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10を超えており、時間が経つにつれて、発色濃度が大きく変化し、安定性が低かった。
【0083】
融点≦150℃の顕色剤を単独あるいは2種併用し、紫外線吸収剤を添加した実施例20〜22、24〜26は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10以下であり、優れた発色濃度経時安定性を示した。融点>150℃の顕色剤を使用し、紫外線吸収剤を添加した比較例20は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10を超えており、時間が経つにつれて、発色濃度が大きく変化し、安定性が低かった。電子供与性呈色性有機化合物を2種類併用し、融点≦150℃の電子受容性化合物を使用した実施例23は、保存後の保存後のΔEの変化率の絶対値が10以下であり、優れた発色濃度経時安定性を示した。電子供与性呈色性有機化合物を2種類併用し、融点>150℃の電子受容性化合物を使用した比較例19は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10を超えており、時間が経つにつれて、発色濃度が大きく変化し、安定性が低かった。
【0084】
発色濃度経時安定性が良好である、熱変色性組成物(実施例1、3、5、7、23〜26)をマイクロカプセル化した実施例27〜34は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10以下であり、優れた発色濃度経時安定性を示した。比較例5、11、19、20の熱変色性組成物をマイクロカプセル化した、比較例21〜24は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10を超えており、時間が経つにつれて、発色濃度が大きく変化し、安定性が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の熱変色性組成物は、可逆的に変色することができ、かつ発色濃度経時安定性に優れているので、繊維製品、インキ、塗料、陶器、ガラス製品、プラスチック成形体、包装材料、記録材料、および印刷物に、可逆的な熱変色性を付与するための着色剤として使用され得る

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、および減感剤を含み、電子受容性化合物として、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで示され、かつ融点が150℃以下である化合物を1種または複数種含む、熱変色性組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

(一般式(1)〜(3)において、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、シクロへキシル基であり、X、YおよびZはそれぞれ独立して、ハロゲン、OH基、アルコキシ基、アルコキシアリル基、アリル基、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、またはシクロへキシル基であり、Cは、置換基を有してもよい炭素数5〜8のシクロアルカンまたは置換基を有してもよいフルオレン環である。)
【請求項2】
前記電子受容性化合物として、2,2’−ジアリル−4,4’ジヒドロキシジフェニルスルホン、または4−ヒドロキシ−4’−イソプロポキシジフェニルスルホンを含む、請求項1に記載の熱変色性組成物。
【請求項3】
前記電子受容性化合物として、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで示され、かつ融点が150℃よりも高い化合物を少なくとも1種、さらに含む、請求項1または2に記載の熱変色性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱変色性組成物が内包された、熱変色性マイクロカプセル。

【公開番号】特開2010−126549(P2010−126549A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299476(P2008−299476)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】