説明

熱放射体の製造方法

【課題】 本発明の目的は、効率の良い熱放射体を簡単に製造する製造方法を提供することにある。
【解決手段】 レーザを用いてポリイミドフィルムに穴あけ加工することにより微細な空孔の多いグラファイトシートが得られ、効率のよい熱放射体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、グラファイトシートからなる熱放射体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】グラファイトシートは熱伝導性と電気伝導性に優れたもので、近年、携帯機器用の放熱素子、電池などの電極材料などに応用されている。グラファイトシートとして、高分子フィルムを焼成して作製されるものと膨張グラファイト粉末をバインダー樹脂などと混合して圧延などによりシート状に作製されるものがある。グラファイト粉末を用いたシートは、表面の凹凸が大きく、内部も不規則な空隙が存在しており微細な穴などを均一に加工するのはむずかしい。
【0003】また、シートの柔軟性がなく折れ曲げなどの機械的強度に弱い。電気的素子として用いる場合もシートの面内での粉末間の接触性により電気抵抗のばらつきが大きいものになる。金属に微細孔を設けた熱放射体は、特開平6−2167号公報などに示されている。ポリマーフィルムを加工して、穴加工されたグラファイトシートの熱放射体への応用は、特開平10−312778号公報に開示されている。しかしながら、微細な穴を多数有するグラファイトシートの作製のための製造方法は確立されていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】以上で述べた微細な穴を多数有するグラファイトシートの加工法を具体的に提供することと優れた熱放射体として応用が可能であることを提供することが本特許の目的である。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、ポリイミドフィルムを焼成することから作製されるグラファイトシートで多数個の穴を有するのが特徴である。ポリイミドフィルム状で穴加工後、焼成を行って、穴形状を規則的につくる方法とポリイミドフィルムに多量のフィラーを混入させておき焼成過程で蒸発をさせることにより、穴を多数個つくる方法がある。ただし、この後者の場合は規則性のある穴を形成するのは困難である。
【0006】ポリイミドフィルムの状態で規則的な穴を加工するのに、機械的装置を用いる方法などがあるが、径が10μm以下になると困難が増してくる。半導体加工プロセスを利用することも考えられるが、量産、コスト性から割が合わない。
【0007】そこで、エキシマレーザーを用いた加工を試みた。ポリイミドフィルムはエキシマレーザーで加工できることは、すでに知られているが、微細な穴加工後、焼成してグラファイト化しても穴の形状を保持するには、最適な焼成条件が必要である。
【0008】また、ポリイミドフィルム時の加工寸法より、焼成によるグラファイト化により寸法は20から40%程度小さくなる。エキシマレーザーによる加工する場合も微細な穴加工するには、レンズを用いて縮小投影法を用いるなど工夫が必要である。穴の形状も照射条件によっては、深さ方向に対して円錐状に加工される。深さ方向に平行穴の加工をしたい場合は、ポリイミドフィルムの厚さを薄いものを用いたり、照射量や焦点を変化させて最適化が必要となる。形状が一定ではない微細な穴を含有したグラファイトシートの作製法の一つに焼成過程での発泡の利用がある。ポリイミドフィルムのみの焼成においても焼成条件によっては、グラファイト化時のガス脱離の影響などにより、発泡状態のグラファイトシートが得られる。
【0009】これをさらに有効に発泡による穴を形成するために予めポリイミドフィルムに焼成時に焼失するようなフィラーを多量に含有させておく。フィラーとしてはAl23、SiO2などが最適で、粉末として30体積%以上にも混入すると効果的である。。これを焼成すると空孔の非常に多いグラファイトシートが得られる。発泡したグラファイトシートの密度は0.8g/cm3から1.5g/cm3程度になる。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の請求項1に記載の発明は、ポリイミドフィルムに穴又は凹部を形成する加工工程と、前記加工工程で加工された前記ポリイミドフィルムを不活性ガス雰囲気中で室温から温度を上昇させた後、1000℃以上1500℃以下の範囲で所定の時間焼成する第一焼成工程と、前記第一焼成工程で焼成された前記ポリイミドフィルムを不活性ガス雰囲気中で室温から温度を上昇させた後、2600℃以上の温度で所定の時間焼成する第二焼成工程を有する熱放射体の製造方法であり、効率の良い熱放射体が簡単な方法で製造できるという作用を有する。
【0011】本発明の請求項2に記載の発明は、加工工程の前に、ポリイミドフィルムを延伸して5μm以上75μm以下の厚さに加工する延伸工程を有する請求項1記載の熱放射体の製造方法であり、効率の良い熱放射体が簡単な方法で製造できるという作用を有する。
【0012】本発明の請求項3に記載の発明は、加工工程において、ポリイミドフィルムの表面積の50%以上の部分に穴又は凹部を形成する請求項1又は2記載の熱放射体の製造方法であり、効率の良い熱放射体が簡単な方法で製造できるという作用を有する。
【0013】本発明の請求項4に記載の発明は、加工工程において、エキシマレーザを用いてポリイミドフィルムに穴又は凹部を形成する請求項1、2、又は3記載の熱放射体の製造方法であり、効率の良い熱放射体が簡単な方法で製造できるという作用を有する。
【0014】本発明の請求項5に記載の発明は、粒状の無機物フィラーが体積割合で30%以上含有されているポリイミドフィルムを不活性ガス雰囲気中で室温から温度を上昇させた後、1000℃以上1500℃以下の範囲で所定の時間焼成する第一焼成工程と、前記第一焼成工程で焼成された前記ポリイミドフィルムを不活性ガス雰囲気中で室温から温度を上昇させた後、2600℃以上の温度で所定の時間焼成する第二焼成工程を有する熱放射体の製造方法であり、効率の良い熱放射体が簡単な方法で製造できるという作用を有する。
【0015】本発明の請求項6に記載の発明は、無機物フィラーがAl23又はSiO2である請求項5記載の熱放射体の製造方法であり、効率の良い熱放射体が簡単な方法で製造できるという作用を有する。
【0016】本発明の請求項7に記載の発明は、ポリイミドフィルムの厚さが75μm以上である請求項5又は6記載の熱放射体の製造方法であり、効率の良い熱放射体が簡単な方法で製造できるという作用を有する。
【0017】本発明の請求項8に記載の発明は、第一焼成工程及び第二焼成工程において、室温から温度を上昇させる際の昇温速度が5℃/min以上20℃/min以下である請求項1ないし7のいずれか記載の熱放射体の製造方法であり、効率の良い熱放射体が簡単な方法で製造できるという作用を有する。
【0018】本発明の請求項9に記載の発明は、第二焼成工程において、ポリイミドフィルムに3kg/cm2以上50kg/cm2以下の圧力を印加することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか記載の熱放射体の製造方法であり、効率の良い熱放射体が簡単な方法で製造できるという作用を有する。
【0019】本発明の請求項10に記載の発明は、第二焼成工程において室温から2600度以上まで温度を上昇させる際に、2150℃以上2250℃以下の所定の温度で所定の時間温度を保持する過程を有する請求項1ないし9のいずれか記載の熱放射体の製造方法であり、効率の良い熱放射体が簡単な方法で製造できるという作用を有する。
【0020】本発明の請求項11に記載の発明は、請求項1ないし10のいずれか記載の熱放射体の製造方法により製造された熱放射体を光源とする熱放射光源であり、可視光の発光効率が改善された熱放射光源が簡単に製造できるという作用を有する。
【0021】
【実施例】次に、本発明の実施例を以下に説明する。
【0022】なお、以下の説明では、本発明を実験結果に基づいて説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではなく、主旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できるものである。
【0023】(実施例1)膜厚25μmのポリイミドフィルムにエキシマーレーザを用いて穴径が5μmから30μmほどの穴を多数設けた。穴の存在比率は面積比率で30%以上であった。次に焼成を行ったが、比較のために穴加工をしていないポリイミドフィルムの焼成も同時に行った。焼成をまず、窒素ガス雰囲気中で、昇温速度を10℃/minで温度1200℃で2時間行った後、室温まで冷却した。さらに同じ昇温速度で、2650℃まで上げ1時間の処理を行った。この場合は穴加工がされているいないにかかわらず、シート状のグラファイトが得られた。穴の形状も10から20%ほど径の寸法が収縮するが、形状は良好に保持できていた。
【0024】(実施例2)膜厚25μmのポリイミドフィルムにエキシマレーザを用いて穴径が10μm程度の穴を面積比率60%程度の部分に形成した。そのフィルムについて、焼成条件を制御することにより、収縮の制御を試みた。焼成条件としては、第1の実施例と同様であるが、2650℃まで上げる2度目の焼成の際、2200℃で一定温度での処理により穴の収縮率が異なった。この場合、時間を1時間から10時間まで1時間ごとにかえてみたが、収縮率は時間が短い方が大きかった。大きいもので20%を越えて、小さいものでは5%程度であった。
【0025】(実施例3)ポリイミドフィルムにあらかじめSiO2のフィラーを体積比率で40%以上を含有したものを同様に焼成して、グラファイトシートを作製した。フイラー含有のフィルムは発泡性が強くなり、不規則な穴ではあるが見かけ上ふやすことになる。密度も発泡性により異なるが0.5g/cm3から0.8g/cm3程度は焼成条件でかわる。ローラで圧延することで密度は1.0 g/cm3まではできた。
【0026】(実施例4)上記の第1、2及び3の実施例で作製されたグラファイトシートを短冊状に切って、直接電流を流して熱放射の状況を調べた。グラファイトシートは他の無機物を用いた熱放射物と比較して、電流を印加してからの熱放射の立ち上がりが早く、かつ熱効率がよいことがわかった。グラファイトシートの中でもフィラー含有より作製したもので微細な穴が多い方が熱効率がよかった。
【0027】なお、上記の実施例では膜厚25μmのポリイミドフィルムを用いたが、予め延伸加工された厚さ5μmから75μmのものを用いても同様の結果を得た。
【0028】また、上記の実施例では焼成時の昇温速度を10℃/minで行ったが、5℃/minから20℃/minで行っても同様の結果を得た。また、第二の焼成工程において、ポリイミドフィルムに3kg/cm2以上50kg/cm2以下の圧力を印加しても同様の結果を得た。また、上記第3の実施例においてフィラーとしてSiO2である場合について記載したが、Al23でも同様の結果を得た。
【0029】(実施例5)短冊状のグラファイトシートに真空中で電流を流して発光状況を調べた。可視波長域から赤外波長域までの発光効率を調べた。第1の実施例で作製した標準的グラファイトシートと比較して微細な穴の数が多い方が可視波長域の発光が強かった。穴の大きさも2μmから5μm程度の孔径より2μm以下の小さい穴が大きい方が可視波長域の発光が赤外波長域と比較して強かった。ポリイミドフィルムとしてはエキシマレーザでより微細な穴を多く加工した方が、大きい発泡を押さえた圧力を印加しながらの焼成法の方、フィラーを適当に多く含有したもの方が可視波長域の発光が赤外波長域と比較して強かった。
【0030】なお、上記の実施例では膜厚25μmのポリイミドフィルムを用いたが、予め延伸加工された厚さ5μmから75μmのものを用いても同様の結果を得た。
【0031】また、上記の実施例では焼成時の昇温速度を10℃/minで行ったが、5℃/minから20℃/minで行っても同様の結果を得た。また、第二の焼成工程において、ポリイミドフィルムに3kg/cm2以上50kg/cm2以下の圧力を印加しても同様の結果を得た。また、上記第3の実施例においてフィラーとしてSiO2である場合について記載したが、Al23でも同様の結果を得た。
【0032】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、微細な空孔を有するグラファイトシートが効率よく製造が実施できる。また、このようなグラファイトシーを熱放射体として用いると効率のよい熱放射体、高温おいては発光効率の高い熱放射光源が提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリイミドフィルムに穴又は凹部を形成する加工工程と、前記加工工程で加工された前記ポリイミドフィルムを不活性ガス雰囲気中で室温から温度を上昇させた後、1000℃以上1500℃以下の範囲で所定の時間焼成する第一焼成工程と、前記第一焼成工程で焼成された前記ポリイミドフィルムを不活性ガス雰囲気中で室温から温度を上昇させた後、2600℃以上の温度で所定の時間焼成する第二焼成工程を有する熱放射体の製造方法。
【請求項2】 加工工程の前に、ポリイミドフィルムを延伸して5μm以上75μm以下の厚さに加工する延伸工程を有する請求項1記載の熱放射体の製造方法。
【請求項3】 加工工程において、ポリイミドフィルムの表面積の50%以上の部分に穴又は凹部を形成する請求項1又は2記載の熱放射体の製造方法。
【請求項4】 加工工程において、エキシマレーザを用いてポリイミドフィルムに穴又は凹部を形成する請求項1、2、又は3記載の熱放射体の製造方法。
【請求項5】 粒状の無機物フィラーが体積割合で30%以上含有されているポリイミドフィルムを不活性ガス雰囲気中で室温から温度を上昇させた後、1000℃以上1500℃以下の範囲で所定の時間焼成する第一焼成工程と、前記第一焼成工程で焼成された前記ポリイミドフィルムを不活性ガス雰囲気中で室温から温度を上昇させた後、2600℃以上の温度で所定の時間焼成する第二焼成工程を有する熱放射体の製造方法。
【請求項6】 無機物フィラーがAl23又はSiO2である請求項5記載の熱放射体の製造方法。
【請求項7】 ポリイミドフィルムの厚さが75μm以上である請求項5又は6記載の熱放射体の製造方法。
【請求項8】 第一焼成工程及び第二焼成工程において、室温から温度を上昇させる際の昇温速度が5℃/min以上20℃/min以下である請求項1ないし7のいずれか記載の熱放射体の製造方法。
【請求項9】 第二焼成工程において、ポリイミドフィルムに3kg/cm2以上50kg/cm2以下の圧力を印加することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか記載の熱放射体の製造方法。
【請求項10】 第二焼成工程において室温から2600度以上まで温度を上昇させる際に、2150℃以上2250℃以下の所定の温度で所定の時間温度を保持する過程を有する請求項1ないし9のいずれか記載の熱放射体の製造方法。
【請求項11】 請求項1ないし10のいずれか記載の熱放射体の製造方法により製造された熱放射体を光源とする熱放射光源。

【公開番号】特開2001−278608(P2001−278608A)
【公開日】平成13年10月10日(2001.10.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−97332(P2000−97332)
【出願日】平成12年3月31日(2000.3.31)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】