説明

熱機関

【課題】凝縮した作動液を、外部エネルギーを極力用いずに高圧の蒸発部へ送還する。
【解決手段】蒸発室156、308は、液溜め室157a、309aに対して隔てられていて液溜め室157a、309aよりも高圧になっており、作動液導入用部材17は、2σ/r・cosθ>PH−PLの関係を満たすように構成され、ボイラー部11は、外部熱源3と熱的に接続され且つ作動液導入用部材17に当接する伝熱部材152、23、302を有し、作動液導入用部材17は伝熱部材152、23、302を介して外部熱源3から受熱し、伝熱部材152、23、302のうち作動液導入用部材17に当接する部位には、作動液導入用部材17から発生した蒸気を作動液導入用部材17の外部に排気するための排気通路21が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動液を加熱して蒸発させ、蒸発した蒸気のエネルギーを機械的エネルギーとして取り出した後に蒸気を凝縮させて送還する熱機関に関し、排熱回収装置に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の熱機関は、作動液を蒸発させる蒸発部(蒸発室)が高圧になるのに対し、蒸気を凝縮(復液)させる凝縮部が低圧になるので、凝縮部で凝縮した作動液を蒸発部に送還するためにポンプ等の装置を用いるのが一般的である(例えば特許文献1)。すなわち、ポンプ等の装置を外部エネルギーを用いて駆動することよって、凝縮部の作動液を圧送して蒸発部に送還する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−338207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のごとく、凝縮部で凝縮した作動液をポンプ等の機構で蒸発室に送還する熱機関においては、作動液を加熱して蒸発させる外部エネルギー(熱エネルギー)に加えてポンプ等の装置を駆動するための外部エネルギーも必要であるので、出力効率の向上に限界がある。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて成されたものであり、外部エネルギーを極力用いることなく、凝縮部で凝縮した作動液を高圧の蒸発室へ送還することが可能な熱機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、外部熱源(3)から供給される熱で作動液(14)を加熱して作動液(14)の蒸気を発生させる蒸発室(156、308)、および蒸発室(156、308)に供給される作動液(14)を溜める液溜め室(157a、309a)が形成されたボイラー部(11)と、
蒸発室(156、308)で発生した蒸気が流通し、蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換して取り出す出力部(12)と、
出力部(12)を通過した蒸気を凝縮させ、凝縮した作動液(14)を液溜め室(157a、309a)に還流させる凝縮部(13)と、
ボイラー部(11)内に配置され、液溜め室(157a、309a)の作動液(14)を毛管力で吸引して蒸発室(156、308)に供給する作動液導入用部材(17)とを備え、
蒸発室(156、308)は、液溜め室(157a、309a)に対して隔てられていて液溜め室(157a、309a)よりも高圧になっており、
作動液導入用部材(17)は、
(2σ/r)・cosθ>PH−PLの関係を満たすように構成され、
ボイラー部(11)は、外部熱源(3)と熱的に接続され且つ作動液導入用部材(17)に当接する伝熱部材(152、23、302)を有し、
作動液導入用部材(17)は伝熱部材(152、23、302)を介して外部熱源(3)から受熱し、
伝熱部材(152、23、302)のうち作動液導入用部材(17)に当接する部位には、作動液導入用部材(17)から発生した蒸気を作動液導入用部材(17)の外部に排気するための排気通路(21)が形成されていることを特徴とする。
【0007】
但し、σは作動液(14)の表面張力、rは作動液導入用部材(17)内の空隙の円相当半径、θは作動液導入用部材(17)に対する作動液(14)の濡れ角、PHは蒸発室(156、308)の圧力、PLは液溜め室(157a、309a)の圧力である。
【0008】
これによると、上記数式の関係を満たすように作動液導入用部材(17)を構成することにより、作動液導入用部材(17)の毛管力による圧力が、高圧の蒸発室(156、308)と低圧の液溜め室(157a、309a)との圧力差よりも大きくなるので、低圧の液溜め室(157a、309a)から高圧の蒸発室(156、308)への作動液(14)の供給を作動液導入用部材(17)の毛管力を利用して行うことができる。したがって、外部エネルギーを極力用いることなく、凝縮部(13)で凝縮した作動液(14)を高圧の蒸発室(156、308)へ送還することができる。
【0009】
さらに、伝熱部材(152、23、302)のうち作動液導入用部材(17)に当接する部位に、作動液導入用部材(17)から発生した蒸気を作動液導入用部材(17)の外部に排気するための排気通路(21)が形成されているので、蒸気が作動液導入用部材(17)の内部に滞留して作動液(14)の吸引を妨げてしまうことを回避できる。
【0010】
具体的には、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載の熱機関において、排気通路(21)は、伝熱部材(152)に形成された溝(22)によって構成されていればよい。
【0011】
また、請求項3に記載の発明のように、請求項1に記載の熱機関において、伝熱部材(152、23)は、排気通路(21)を形成する排気通路形成部材(23)と、残余の部位を構成する部材(152)とに分割して成形され、
排気通路形成部材(23)は、残余の部位を構成する部材(152)と作動液導入用部材(17)との間に挟まれた網状部材または複数の玉状部材であり、
蒸気通路(21)は、網状部材または複数の玉状部材が形成する空隙によって構成されていてもよい。
【0012】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の熱機関において、伝熱部材(152、23、302)は、水平方向に延びる上面部を有し、
作動液導入用部材(17)は、平板状に形成されて伝熱部材(152、23、302)の上面部に重ねられ、
作動液導入用部材(17)は、伝熱部材(152、23、302)を介して外部熱源(3)から受熱することを特徴とする。
【0013】
これにより、作動液導入用部材(17)の受熱面積を大きく確保することができるので、作動液導入用部材(17)によって吸引された作動液(14)を効果的に加熱することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の熱機関において、ボイラー部(11)は、作動液導入用部材(17)のうち伝熱部材(152、23、302)と反対側の面に重ねられ、外部熱源(3)からの熱を作動液導入用部材(17)に伝える伝熱板(19)を有していることを特徴とする。
【0015】
これにより、作動液導入用部材(17)が上面側から加熱されることとなる。このため、作動液導入用部材(17)の上面から作動液(14)が蒸発するので、作動液(14)の蒸気の放出が良くなり、ひいては出力を向上できる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、請求項4または5に記載の熱機関において、作動液導入用部材(17)のうち水平方向における端面(171)は、液溜め室(157a)の作動液(14)が流入する流入口を構成していることを特徴とする。
【0017】
これによると、作動液導入用部材(17)が作動液(14)を水平方向に吸引するので、作動液導入用部材(17)が作動液(14)を吸引する際に重力の影響を受けることを抑制できる。このため、作動液導入用部材(17)によって、液溜め室(157a)の作動液(14)を蒸発室(156)に確実に供給することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明では、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の熱機関において、ボイラー部(11)を収容するボイラー部ケース(30)と、
出力部(12)および凝縮部(13)を収容する還流部ケース(31)と、
ボイラー部(11)の蒸発室(308)と出力部(12)とを連通する蒸気通路(32a)を形成する蒸気通路形成部(32)と、
凝縮部(13)とボイラー部(11)の液溜め室(309a)とを連通する循環通路(33a)を形成する循環通路形成部(33)とを備え、
ボイラー部ケース(30)および還流部ケース(31)は、互いに離間して配置され且つ蒸気通路形成部(32)および循環通路形成部(33)を介して接続されていることを特徴とする。
【0019】
これによると、出力部(12)および凝縮部(13)がボイラー部(11)に対して離間して配置されているので、出力部(12)および凝縮部(13)にボイラー部(11)の熱が伝わりにくく、出力部(12)および凝縮部(13)の温度上昇が抑えられる。このため、出力部(12)から排出される蒸気の凝集・還流性能が向上する。
【0020】
請求項8に記載の発明では、請求項4ないし6のいずれか1つに記載の熱機関において、作動液導入用部材(17)のうち蒸発室(156)の内部に位置する部位には、その表裏を貫通する貫通孔(172)が形成されていることを特徴とする。
【0021】
これによると、伝熱部材(152、23、302)で加熱されて蒸発した蒸気を貫通孔(172)から作動液導入用部材(17)の上方側へ速やかに逃がすことができるので、蒸気が作動液導入用部材(17)内に滞留して作動液(14)の吸引を妨げてしまうことを抑制できる。
【0022】
請求項9に記載の発明では、請求項8に記載の熱機関において、貫通孔(172)は、排気通路(21)と連通していることを特徴とする。
【0023】
これにより、伝熱部材(152、23、302)で加熱されて蒸発した蒸気を排気通路(21)および貫通孔(172)から作動液導入用部材(17)の上方側へ速やかに逃がすことができるので、蒸気が作動液導入用部材(17)内に滞留して作動液(14)の吸引を妨げてしまうことを一層抑制できる。
【0024】
具体的には、請求項10に記載の発明のように、請求項8または9に記載の熱機関において、貫通孔(172)は、作動液導入用部材(17)の板面方向に延びる溝状に形成されていればよい。
【0025】
また、請求項11に記載の発明のように、請求項8または9に記載の熱機関において、貫通孔(172)は多数個分散して形成されていてもよい。
【0026】
請求項12に記載の発明では、請求項8ないし11のいずれか1つに記載の熱機関において、ボイラー部(11)は、貫通孔(172)の水平方向側に液溜め室(157a)を形成し、
伝熱部材(152)のうち貫通孔(172)よりも液溜め室(157a)側に位置する部位には、伝熱部材(152)の内部における熱伝導を抑制する断熱溝(152a)が形成され、
伝熱部材(152)は、断熱溝(152a)よりも貫通孔(172)側に位置する部位(152b)が外部熱源(3)から受熱することを特徴とする。
【0027】
これによると、作動液導入用部材(17)のうち貫通孔(172)近傍部位では受熱が良好に行われるのに対し、作動液導入用部材(17)のうち貫通孔(172)から離れた部位(液溜め室(157a)側の部位)の受熱が抑制される。このため、伝熱部材(152)で加熱されて蒸発した蒸気を貫通孔(172)から作動液導入用部材(17)の上方側へより速やかに逃がすことができるので、蒸気が作動液導入用部材(17)内に滞留して作動液(14)の吸引を妨げてしまうことをより回避できる。
【0028】
請求項13に記載の発明では、請求項1ないし12のいずれか1つに記載の熱機関において、ボイラー部(11)は、作動液導入用部材(17)内の空隙が縮小するように作動液導入用部材(17)に荷重を付与する荷重付与手段(161)を有し、
作動液導入用部材(17)は、荷重付与手段(161)から荷重が付与された状態でボイラー部(11)内に保持されていることを特徴とする。
【0029】
これによると、荷重付与手段(161)が作動液導入用部材(17)内の空隙を縮小させることにより作動液導入用部材(17)内の空隙の円相当半径rを小さくすることができるので、上記数式の関係を満たす作動液導入用部材(17)を容易に構成することができる。
【0030】
請求項14に記載の発明では、請求項13に記載の熱機関において、ボイラー部(11)は、蒸発室(156)と液溜め室(157a)とを隔てる隔壁(16)を有し、
隔壁(16)は、作動液導入用部材(17)に荷重を付与するようにボイラー部(11)内に配置され、
荷重付与手段(161)は、隔壁(16)で構成されていることを特徴とする。
【0031】
これによると、蒸発室(156)と液溜め室(157a)とを隔てる隔壁(16)が荷重付与手段としての役割をも果たすので、隔壁(16)と別個に荷重付与手段を設ける場合と比較して構成を簡素化できる。
【0032】
請求項15に記載の発明では、請求項14に記載の熱機関において、作動液導入用部材(17)は、荷重付与手段(161)よりも蒸発室(156)側まで延びていることを特徴とする。
【0033】
これにより、作動液導入用部材(17)によって、液溜め室(157a)の作動液(14)を蒸発室(156)に確実に供給することができる。
【0034】
請求項16に記載の発明では、請求項1ないし15のいずれか1つに記載の熱機関において、作動液導入用部材(17)は、少なくとも樹脂繊維を編み込んだ素材で構成されていることを特徴とする。
【0035】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の前提となる形態における排熱回収装置の断面図である。
【図2】本発明の前提となる形態における排熱回収装置の外観を示す斜視図である。
【図3】本発明の前提となる形態における排熱回収装置の内部構造を示す斜視図である。
【図4】本発明の前提となる形態における排熱回収装置のエンジンを示す断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態におけるボイラー部の要部を示す断面図および平面図である。
【図6】本発明の第1実施形態における溝のパターン例を示す平面図である。
【図7】本発明の第2実施形態におけるボイラー部の要部を示す断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態におけるボイラー部の要部を示す平面図および断面図である。
【図9】本発明の第4実施形態における排熱回収装置の断面図である。
【図10】本発明の第5実施形態におけるボイラー部の要部を示す平面図および断面図である。
【図11】本発明の第5実施形態の変形例におけるボイラー部の要部を示す平面図および断面図である。
【図12】本発明の第6実施形態におけるボイラー部の要部を示す断面図である。
【図13】本発明の第7実施形態におけるボイラー部の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(本発明の前提となる形態)
本発明の前提となる形態を図1〜図4に基づいて説明する。本形態では、熱機関を排熱回収装置に適用している。図1は、排熱回収装置の全体構成を示す断面図である。図2は、排熱回収装置の外観を示す斜視図である。図3は、排熱回収装置の内部構造を示す斜視図である。図1〜図4中、上下の矢印は、排熱回収装置の設置状態における上下方向(天地方向)を示している。
【0038】
本形態の排熱回収装置10は、ボイラー部11、出力部12、および凝縮部13に大別される。図1の例では、排熱回収装置10で取り出された機械的エネルギーを発電に用いるために、排熱回収装置10に発電機1が取り付けられている。図2の例では、排熱回収装置10で取り出された機械的エネルギーでファン2を回転駆動するようになっている。
【0039】
ボイラー部11は、外部熱源から供給される熱(排熱)で作動液14(本例では、水)を加熱して蒸発させ、作動液14の蒸気を出力部12に供給する。出力部12は、ボイラー部11から供給された蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換して出力する。
【0040】
凝縮部13は、出力部12通過後の蒸気を凝縮して作動液14に復液させ、復液した作動液14をボイラー部11に還流する。したがって、凝縮部13を還流部と表現することもできる。
【0041】
ボイラー部11および出力部12はケース15内に収容されている。本例では、ケース15は、単一の容器で構成されている。ケース15は、外部熱源をなす発熱体3の上に載せられている。本例では、発熱体3は、工場から出る排熱によって発熱するようになっている。
【0042】
ケース15は、水平方向に延びる2つの平板151、152と、2つの平板151、152の間で上下方向に延びる筒153とで構成されている。すなわち、平板151、152によってケース15の上下壁部が構成され、筒153によってケース15の側壁部が構成されている。
【0043】
本例では、作動液14として水を用いているので、平板151、152および筒153を、耐水性に優れたステンレスで形成するのが好ましい。また、本例では、平板151、152は矩形平板状に形成され、筒153は円筒状に形成されている。
【0044】
平板151、152と筒153との固定は、液密性および気密性が確保されるようになされている。図1の例では、平板151、152と筒153との間にシール部材154が介在している。なお、図2、図3の例では、筒153の外周側に、平板151、152同士を繋ぐ支柱155が配置されている。
【0045】
ケース15の内部空間は、隔壁16によって高圧室156と低圧室157とに隔てられている。隔壁16は、ケース15の下壁部152の上に配置された筒状壁部161と、筒状壁部161の上に被せられた板状壁部162とに分割形成されている。本例では、筒状壁部161は円筒状に形成され、板状壁部162は円板状に形成されている。
【0046】
高圧室156は、筒状壁部161の内側かつ板状壁部162の下側に形成される空間であり、作動液14が発熱体3の熱によって加熱されて蒸発する蒸発室を構成する。したがって、高圧室156は、作動液14の蒸気によって高圧になる。
【0047】
低圧室157は、筒状壁部161の外側および板状壁部162の上側に形成される空間である。低圧室157には、出力部12を流通した蒸気と、凝縮部13で凝縮された作動液14とが流入する。したがって、低圧室157は高圧室156よりも低圧になる。
【0048】
隔壁16は、蒸発室(高圧室)156の蒸気が冷えて凝縮しないよう、例えば耐熱樹脂のような耐熱性のある断熱素材で形成されている。
【0049】
低圧室157には出力部12を構成するエンジン121が配置されている。本例では、エンジン121は、隔壁16の板状壁部162の上側に固定されており、蒸発室156の蒸気をエンジン121に供給するための蒸気通路162aが板状壁部162に形成されている。
【0050】
低圧室157のうちケース15の筒153と隔壁16の筒状壁部161との間に位置する空間は、蒸発室156に供給される作動液14を溜める液溜め室157aを構成している。つまり、液溜め室157aは、蒸発室156の水平方向側に配置されている。
【0051】
ケース15の底壁部(下壁部)152と隔壁16の筒状壁部161との間には、作動液導入用部材に相当するウィック17が挟み込まれている。
【0052】
ここで、作動液導入用部材とは、液溜め室157の作動液14を吸引する毛管力を発生する部材(毛管力発生部材)のことを定義しており、例えば多孔質セラミックや金属焼結体のような多孔質体や繊維を編み込んだ構造体である。
【0053】
本例では、ウィック17は、耐熱性を有するシート素材で形成されている。具体的には、ウィック17は、ステンレスワイヤとアラミド繊維(樹脂繊維)の編み込み素材で形成されている。また、本例では、ウィック17は平板状、より具体的には円板状に形成されている。
【0054】
ウィック17は、平面状の底壁部152のうち水平方向に延びる上面部に重ねられている。底壁部152は発熱体3と熱的に接続されており、発熱体3からウィック17への伝熱を担う伝熱部材の役割を果たす。これにより、ウィック17の下面部(底壁部152側の平面部)173は、底壁部152を介して発熱体3から受熱する。
【0055】
ウィック17の外周縁部は、ケース15の底壁部152と隔壁16の筒状壁部161との間に挟み込まれている。これにより、ウィック17のうち水平方向における端面171は、液溜め室157の作動液14が流入する流入口を構成することとなる。
【0056】
ウィック17の中心部(筒状壁部161よりも中心側の部位)は、蒸発室156内に位置している。換言すれば、ウィック17は、筒状壁部161よりも蒸発室156側まで延びている。
【0057】
本例では、筒状壁部161およびウィック17は、ボルト18によってケース15の底壁部152に共締めされて固定されている。ボルト18の締め込みによって、ウィック17は、筒状壁部161から荷重を受けて圧縮された状態でケース15内に保持されている。
【0058】
ウィック17が筒状壁部161から荷重を受けて圧縮されることによって、ウィック17内の空隙は、荷重を受けていない状態(ウィック17の単体状態)に比べて縮小されている。換言すれば、筒状壁部161は、ウィック17内の空隙が縮小するようにウィック17に荷重を付与する荷重付与手段を構成している。
【0059】
ここで、ウィック17の内部には、毛管現象によって圧力差が生じる。この毛管現象による圧力差を以下、ウィック17の毛管力による圧力ΔPと言う。ウィック17の毛管力による圧力ΔPは次の数式1で表される。
【0060】
(数1)
ΔP=(2σ/r)・cosθ
但し、rはウィック17内の空隙の円相当半径(細管半径)、σは表面張力、θは濡れ角である。円相当半径とは、対象とする断面と同じ面積を持つ円の半径のことである。
【0061】
上述のごとく、ウィック17は、筒状壁部161から荷重を受けて圧縮されてウィック17内の空隙が縮小されている。これにより、上記数式1におけるウィック17内の空隙の円相当半径rを小さくして、ウィック17の毛管力による圧力ΔPが、高圧室156の圧力PHと低圧室157の圧力PLとの圧力差(PH−PL)よりも大きくなるようにしている(ΔP>PH−PL)。
【0062】
換言すれば、ウィック17は、次の数式2の関係を満たすように構成されている。
【0063】
(数2)
(2σ/r)・cosθ>PH−PL
ウィック17の中心部には、円板状のプレート19が載せられている。プレート19およびウィック17は、ボルト20によってケース15の底壁部152に共締めされて固定されている。これにより、ウィック17の中心部の浮き上がりが防止される。
【0064】
ウィック17およびプレート19のうち蒸発室156内に位置する部位には、上下方向に延びて表裏を貫通する貫通孔172、191が所定形状で所定個数、形成されている。貫通孔172、191は、蒸発室156内で発生した蒸気がウィック17およびプレート19の上方側へ抜けるようにするための蒸気抜き孔としての役割を果たす。
【0065】
換言すれば、蒸発室156内の作動液14は、ケース15の底壁部152からの伝熱によって蒸発すると、貫通孔172、191を通じてウィック17およびプレート19の上方側へ抜ける。
【0066】
底壁部152のうち貫通孔172、191よりも液溜め室157a側に位置する部位には、底壁部152内における熱伝導を抑制する断熱溝152aが周状、より具体的には円周状に形成されている。
【0067】
底壁部152のうち断熱溝152aの内側部位152b、すなわち断熱溝152aよりも貫通孔172、191側に位置する部位は、発熱体3上に載せられて発熱体3と接触している。これに対し、底壁部152のうち断熱溝152aの外側部位152cは、発熱体3上に載せられておらず発熱体3と接触していない。
【0068】
隔壁16の筒状壁部161は、底壁部152のうち断熱溝152aの外側部位152cの上に配置されている。
【0069】
出力部12のエンジン121は、本例では、ピストン122およびシリンダ123が振り子のように揺動する振り子式エンジンが用いられている。なお、エンジン121の代わりに蒸気タービン等を用いてもよい。
【0070】
図4は、エンジン121を示す断面図である。シリンダ123は、隔壁16の板状壁部162に固定されたベース124に対して、揺動軸125を中心に揺動可能に支持されている。
【0071】
ベース124には、蒸気通路162aと連通する吸気路124aが形成されている。吸気路124aは、シリンダ123に吸入される蒸気が流れる流路である。また、ベース124には、低圧室157と連通する排気路124bが形成されている。排気路124bは、シリンダ123から排出される蒸気が流れる流路である。吸気路124aの出口部および排気路124bの入口部は、ベース124の上面に開口している。
【0072】
本例では、ピストン122およびシリンダ123は水平方向に配置されており、揺動軸125は上下方向に配置されている。したがって、ピストン122およびシリンダ123は水平面内で揺動する。
【0073】
シリンダ123の下面には、蒸気を吸入・排気するポート123aが開口している。シリンダ123が揺動方向の一端側に位置している状態では、ポート123aが吸気路124aと連通する。シリンダ123が揺動方向の他端側に位置している状態では、ポート123aが排気路124bと連通する。
【0074】
シリンダ123が揺動方向の一端側に位置してポート123aが吸気路124aと連通していると、シリンダ123内に蒸発室156の蒸気が流入してピストン122が押し出されて往動する。
【0075】
ピストン122の先端部は、ロッド126を介してホイールギア127に連結されている。図1に示すように、ホイールギア127は、センターギア128に連結されている。センターギア128の中心には、出力軸129が固定されている。これにより、ピストン122が押し出されるとホイールギア127およびセンターギア128を介して出力軸129が回転する。
【0076】
また、ピストン122が押し出されてホイールギア127が回転することで、シリンダ123が揺動方向の他端側に向かって揺動してポート123aがベース124の上面によって閉塞される。
【0077】
ポート123aが閉塞されると、ホイールギア127は慣性力によって回転を継続し、ホイールギア127の慣性力によってピストン122が押し戻されて復動する。この際もシリンダ123の揺動は継続される。そして、シリンダ123が揺動方向の他端側に位置してポート123aが排気路124bと連通すると、シリンダ123内の蒸気が低圧室157に排出される。
【0078】
図1、図3の例では、エンジン121は、シリンダ123が複数個設けられた複気筒エンジンを構成しているが、シリンダ123が1個のみ設けられた単気筒エンジンを構成していてもよい。
【0079】
出力部12の出力軸129と発電機1の回転軸1aとの連結は、ケース15の上壁部151を介して、マグネットカップリングによってなされている。回転軸1aの回転によってロータ1bが回転し、ロータ1bの回転によってコイル1cで発電される。コイル1cで発電された電力は、発電機1に接続された任意の電気機器4に供給される。
【0080】
図1の例では、ケース15の上方側に凝縮部13が配置されている。ケース15の上壁部151には、出力部12から排出された低圧室157の蒸気を凝縮部13に流出させるための流出路151aと、凝縮部13で凝縮した作動液14を低圧室157に還流させるための還流路151bとが形成されている。
【0081】
凝縮部13は、所定形状の容器で形成されており、凝縮部13の内部空間は流出路151aおよび還流路151bと連通している。流出路151aを通じて凝縮部13に流入した蒸気は、凝縮部13にて大気中に放熱して凝縮する。つまり、凝縮部13では、蒸気が作動液14に復液する。凝縮部13で復液した作動液14は、還流路151bを通じて低圧室157に還流し、液溜め室157aに溜まる。
【0082】
図1の例では、凝縮部13における蒸気の放熱量を増大させるべく、発電機1の回転軸1aにファン1dを連結し、回転軸1aによってファン1dを回転させ、ファン1dの回転によって発生する送風空気で凝縮部13を冷却するようになっている。
【0083】
次に、上記構成における作動を説明する。発熱体3の熱は、ケース15の底壁部152を介して蒸発室156内の作動液14に伝わり、作動液14が蒸発する。蒸発室156で発生した蒸気は、蒸気通路162aを通じてエンジン121に供給される。
【0084】
エンジン121に供給された蒸気はピストン122を駆動する。これにより、蒸気のエネルギーが機械的エネルギーに変換される。ピストン122の駆動により出力軸129が回転し、発電機1で発電が行われる。このようにして、発熱体3の排熱エネルギーが電気エネルギーとして回収される。
【0085】
エンジン121内の蒸気はピストン122を駆動した後に排気路124bを通じて低圧室157に排出される。エンジン121から低圧室157に排出された蒸気は、流出路151aを通じて凝縮部13に流入し、凝縮部13で凝縮されて作動液14に復液する。凝縮部13で復液した作動液14は、還流路151bを通じて低圧室157に還流して液溜め室157aに溜まる。
【0086】
液溜め室157aに溜まった作動液14は、ウィック17に吸引されて蒸発室156に供給されて蒸発する。すなわち、ウィック17には、液溜め室157aの作動液14を吸引する毛管力が発生するので、この毛管力を利用して、低圧の液溜め室157aから高圧の蒸発室156に作動液14を供給する。
【0087】
より具体的には、圧力隔壁16のあるボイラー部11において、低温低圧の液溜め室157aの還流作動液14をウィック17の毛管力で高圧の蒸発室156へ引っ張り込み、ウィック17端に到達した作動液14のしずくを連続的に蒸発させる。
【0088】
ここで、上述の数式2を満たすように、ウィック17内の空隙を小さくしてウィック17内の空隙の円相当半径rを十分に小さくしているので、ウィック17の毛管力による圧力ΔPが、高圧室156の圧力PHと低圧室157の圧力PLとの圧力差(PH−PL)よりも大きくなる(ΔP>PH−PL)。
【0089】
このため、ウィック17の毛管力が高圧室156の圧力PHと低圧室157の圧力PLとの圧力差(PH−PL)に打ち勝って、低圧の液溜め室157aに溜まった作動液14を高圧の蒸発室156に良好に吸引することができる。
【0090】
換言すれば、圧力隔壁16によって液溜め室157aと蒸発室156との間に圧力差が生じている状態において、ウィック17を使って圧力差(PH−PL)に負けない毛管力を与えることにより低圧の液溜め室157aから高圧の蒸発室156へ作動液14を引っ張り込むことができる。したがって、液溜め室157aの作動液14を高圧の蒸発室156へ外部エネルギーを用いることなく送還することができる。
【0091】
また、蒸発室156における作動液14の蒸発量と液溜め室157aからの作動液14の移動量とが同一であるため、作動液14の還流量制御は自律的になる。このため、作動液14の還流量を制御するための制御機構が不要であるので、装置体格の小型化および低コスト化を図ることができる。
【0092】
また、ウィック17内の空隙を小さくしているので、蒸発室156で発生した蒸気がウィック17を通じて低圧室157に逆流してしまうことを防止できる。
【0093】
上述のごとく、本形態では、ウィック17の例として、ステンレスワイヤとアラミド繊維の編み込み素材を用いている。このようなウィック17が単体状態(圧縮されていない状態)で内部の空隙が大きい場合、ウィック17を圧縮して繊維を密にすることによってウィック17内の空隙を小さくしてウィック17内の空隙の円相当半径rを十分に小さくするのが好ましい。
【0094】
本形態では、隔壁16の筒状壁部161をケース15の底壁部152に対してボルト18で締め込むことによって、筒状壁部161と底壁部152との間でウィック17を圧縮している。このため、上記数式2の関係を満たすウィック17を容易に構成することができる。
【0095】
このようなウィック17の圧縮の一具体例を挙げると、素材厚みが5mmで密度が2.5m/cm3 、繊維径が8μmのウィック17を締め込んで12%まで圧縮することで、ウィック17の円相当半径rを12μmまで縮小させ、蒸発室156の圧力10kPaに打ち勝つ毛管力を起こすことができる。
【0096】
また、本形態では、隔壁16の一部である筒状壁部161によってウィック17に荷重を作用させてウィック17を圧縮しているので、ウィック17に荷重を作用させてウィック17を圧縮する荷重付与手段を隔壁16と別個に設ける場合と比較して構成を簡素化できる。
【0097】
なお、ウィック17内の空隙がウィック17の単体状態(圧縮されていない状態)でも既に十分小さい場合には、ウィック17を圧縮せずに用いても十分な毛管力を得ることができる。このようなウィック17としては、例えば多孔焼結金属プレートが挙げられる。
【0098】
また、本形態では、ウィック17が筒状壁部161よりも蒸発室156側まで延びているので、ウィック17が筒状壁部161とケース15の底壁部152との間にのみ配置されている場合と比較して、液溜め室157aの作動液14を蒸発室156に確実に供給することができる。
【0099】
また、本形態では、ウィック17のうち水平方向における端面171が、液溜め室157aの作動液14が流入する流入口を構成しているので、ウィック17が作動液14を水平方向に吸引することとなる。このため、ウィック17が作動液14を吸引する際に重力の影響を受けることを抑制できる。このため、ウィック17によって、液溜め室157aの作動液14を蒸発室156に確実に供給することができる。
【0100】
また、本形態では、ウィック17を、水平方向に延びる平板状に形成し、かつ底壁部152上に配置しているので、ウィック17のうち底壁部152側の平面部173が底壁部152を介して発熱体3から受熱することができる。このため、ウィック17の受熱面積を大きく確保することができるので、ウィック17によって吸引された作動液14を効果的に加熱することができる。
【0101】
また、本形態では、ウィック17のうち蒸発室156内に位置する部位に、上下方向に延びる貫通孔172を形成しているので、底壁部152で加熱されて蒸発した蒸気を貫通孔172からウィック17の上方側へ速やかに逃がすことができる。このため、蒸気がウィック17内に滞留してウィック17の内部を加熱・乾燥させて作動液14の吸引を妨げてしまうことを抑制できる。
【0102】
また、本形態では、底壁部152のうち貫通孔172よりも液溜め室157a側に位置する部位に、底壁部152内における熱伝導を抑制する周状の断熱溝152aを形成し、底壁部152のうち周状の断熱溝152aの内側部位152bを発熱体3と接触させている。
【0103】
このため、ウィック17のうち貫通孔172近傍部位では受熱が良好に行われるのに対し、ウィック17のうち貫通孔172から離れた部位(液溜め室157a側の部位)では受熱が抑制される。
【0104】
その結果、底壁部152で加熱されて蒸発した蒸気を貫通孔172からウィック17の上方側へより速やかに逃がすことができるので、蒸気がウィック17内に滞留してウィック17の内部を加熱・乾燥させて作動液14の吸引を妨げてしまうことをより回避できる。
【0105】
よって、ウィック17内の作動液14の流れが途切れないようにすることができるとともに、発熱体3の熱がケース15に逃げるというロス(熱損失)を抑制することができる。
【0106】
因みに、本例では、ケース15内を減圧することなく大気圧にし、外部熱源の温度を230℃にしており、作動時には、高圧室156の温度が102℃、低圧室157の温度が97℃になるようにしている。
【0107】
ここで、作動液14の沸点は作動液14の材料とケース15内の圧力で決まるため、例えば作動液14にアルコールを用い、ケース15内を真空にすれば外部熱源の温度が零度以下でも適用可能である。外部熱源の温度が低い場合には、ウィック17やボイラー部11の構造体(ケース15等)に耐熱性を持たせる必要はないので、ウィック17やボイラー部11の材料として耐熱性の低い材料(樹脂等)を用いることができる。
【0108】
(第1実施形態)
本第1実施形態では、図5に示すように、上述の本発明の前提となる形態におけるケース15の底壁部152に排気通路21が形成されている。具体的には、排気通路21は、底壁部152のうちウィック17に当接する当接部に形成された溝22によって構成されている。溝22は、ウィック17の貫通孔172と重合するように形成されている。したがって、ウィック17の貫通孔172は、排気通路21と連通している。
【0109】
図5の例では、溝21は、同心円状の複数の円形溝と、この円形溝同士を放射状に繋ぐ複数の直線溝とで構成されている。
【0110】
これによると、ウィック17の下面から蒸発した作動液14の蒸気は排気通路21を経てウィック17の貫通孔172に到達し、ウィック17の貫通孔172に到達した蒸気はウィック17の上方側に排気される。
【0111】
このように、ケース15の底壁部152に排気通路21が形成されていることにより、ウィック17の下面から蒸発した蒸気をウィック17の上方側へ逃げ易くすることができる。このため、作動液14の蒸気の放出が良くなり、ひいては出力を向上できる。
【0112】
また、蒸気は排気通路21を通る間にさらに加熱されて過熱蒸気となり、蒸気圧力が増えるのでエンジン推力が増す。換言すれば、出力エネルギーが増加する。ただし、排気通路21が増えると伝熱面積が減るので、排気性と伝熱性とはトレードオフの関係にある。
【0113】
なお、溝22のパターンは、図6に示すように種々変形が可能である。例えば図6(a)に示すように、溝22のパターンは、1つの円形溝と、円形溝と放射状に交差する長短2種類の複数の直線溝とを組み合わせたものにすることができる。
【0114】
例えば図6(b)に示すように、溝22のパターンは、複数の直線溝を互いに直交するように組み合わせたものにしてもよい。また、図6(c)、(d)に示すように、直線溝同士のピッチ等を適宜変形可能である。
【0115】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、排気通路21が溝22によって構成されているが、本第2実施形態では、図7に示すように、ケース15の底壁部152とウィック17との間に、排気通路を形成する排気通路形成部材23を挟み込むことによって排気通路21が構成されている。
【0116】
排気通路形成部材23は、伝熱性に優れた金属等で形成されており、ケース15の底壁部152からウィック17への伝熱をも担うようになっている。換言すれば、本実施形態では、発熱体3からウィック17への伝熱を担う伝熱部材が、底壁部152を構成する部材と排気通路形成部材23とに分割して成形されている。
【0117】
図7では、排気通路形成部材23として複数の玉状部材を用いた例を示している。玉状部材としては、例えば径φ3のベアリング玉を用いることができる。伝熱部材23として複数の玉状部材を用いることによって、ケース15の底壁部152とウィック17との間に、蒸気が流通可能な空隙が形成され、この空隙が排気通路21として機能することとなる。
【0118】
また、排気通路を形成する伝熱部材23として網状部材を用いてもよい。網状部材としては織金網が好適であり、例えば線形0.5mmのステンレスメッシュを用いることができる。
【0119】
織金網は、縦線と横線が一定の間隔を保ち、1本ずつ交互に交わって織られている金網である。織金網の縦線および横線は波状に屈曲している。したがって、織金網を伝熱部材23として用いることによって、ケース15の底壁部152とウィック17との間に、蒸気が流通可能な空隙が形成され、この空隙が排気通路21として機能することとなる。
【0120】
このように、本実施形態においても上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0121】
(第3実施形態)
上記各実施形態では、プレート19がウィック17の中心部の浮き上がりを防止する役割を果たしているが、本第3実施形態では、図8に示すように、プレート19は、発熱体3からウィック17への伝熱を担う伝熱板としての役割をも果たす。
【0122】
したがって、本実施形態のプレート19は、熱伝導性に優れた材料にて形成されている。図8の例では、プレート19が扇形に複数枚に分割され、扇形の分割プレート同士の間には所定間隔の隙間が設けられている。
【0123】
これによると、発熱体3→ケース15の底壁部152→ボルト20→プレート19→ウィック17という熱伝導経路が形成されるので、ウィック17が上面側から加熱されることとなる。このため、ウィック17の上面から作動液14が蒸発するので、作動液14の蒸気の放出が良くなり、ひいては出力を向上できる。
【0124】
(第4実施形態)
上記各実施形態では、ボイラー部11および出力部12が共通のケース15内に収容されているが、本第4実施形態では、図9に示すように、ボイラー部11がボイラー部ケース30内に収容され、出力部12および凝縮部13が還流部ケース31内に収容されている。
【0125】
ボイラー部ケース30および還流部ケース31は、互いに離間して配置され且つ蒸気通路形成部32および循環通路形成部33を介して接続されている。蒸気通路形成部32は、ボイラー部11と出力部12とを連通する蒸気通路32aを形成するものである。循環通路形成部33は、凝縮部13とボイラー部11とを連通する循環通路33aを形成するものである。
【0126】
これによると、出力部12および凝縮部13がボイラー部11に対して分離配置されているので、出力部12および凝縮部13にボイラー部11の熱が伝わりにくく、出力部12および凝縮部13の温度上昇が抑えられる。このため、出力部12から排出される蒸気の凝集・還流性能が向上する。
【0127】
なお、図9の例では、ボイラー部ケース30および還流部ケース31は以下のように構成されている。
【0128】
ボイラー部ケース30は、外部熱源をなす発熱体3の上に載せられている。ボイラー部ケース30は、水平方向に延びる2つの平板301、302と、2つの平板151、152の間で上下方向に延びる筒303、304とで構成されている。すなわち、平板301、302によってボイラー部ケース30の上下壁部が構成され、筒303、304によってボイラー部ケース30の側壁部が構成されている。筒303は筒304の上方側に配置されている。
【0129】
本例では、作動液14として水を用いているので、平板301、302および筒303、304を、耐水性に優れたステンレスで形成するのが好ましい。平板301、302および筒303、304の相互間には、シール部材305、306、307が介在している。平板302と筒304との間に介在しているシール部材307は、環板状に形成されており、筒304の上下方向位置を調整するスペーサとしての役割も果たす。
【0130】
ボイラー部ケース30の内部空間は、隔壁34によって高圧室308と低圧室309とに隔てられている。隔壁34は、ボイラー部ケース30の下壁部302の上に配置された筒状壁部341と、筒状壁部341の上に被せられた板状壁部342とに分割形成されている。本例では、筒状壁部341は有底円筒状に形成され、板状壁部342は円板状に形成されている。筒状壁部341の底面部は、ウィック17の浮き上がりを防止するプレートとしての役割を果たす。
【0131】
隔壁34は、高圧室(蒸発室)308の蒸気が冷えて凝縮しないよう、例えば耐熱樹脂のような耐熱性のある断熱素材で形成されている。
【0132】
蒸発室308には蒸気通路32aが連通している。蒸気通路32aを形成する蒸気通路形成部32は、ボイラー部ケース30の上壁部301を貫通し、隔壁34の板状壁部342に接続されている。蒸気通路形成部32には、蒸気圧を測定するためのセンサ35が配置されている。
【0133】
低圧室309には循環通路33aが連通している。循環通路33aを形成する循環通路形成部33は、ボイラー部ケース30の上壁部301に接続されている。
【0134】
低圧室309のうちボイラー部ケース30の筒303、304と隔壁34の筒状壁部341との間に位置する空間は、蒸発室308に供給される作動液14を溜める液溜め室309aを構成している。つまり、液溜め室309aは、蒸発室308の水平方向側に配置されている。
【0135】
ボイラー部ケース30の底壁部(下壁部)302と隔壁34の筒状壁部341との間には、ウィック17が挟み込まれている。ウィック17は、筒状壁部301から荷重を受けて圧縮された状態でボイラー部ケース30内に保持されている。
【0136】
ボイラー部ケース30の底壁部302は発熱体3と熱的に接続されているので、ウィック17はボイラー部ケース30の底壁部302を介して発熱体3から受熱することとなる。したがって、ボイラー部ケース30の底壁部302は、伝熱部材の役割を果たす。
【0137】
還流部ケース31は、ボイラー部ケース30の上方側に配置されている。出力部12は、還流部ケース31の下面中央部に取り付けられている。還流部ケース31の下面外周側部位には、循環通路33aを形成する循環通路形成部33が接続されている。凝縮部13は、ボイラー部ケース30の内部空間のうち出力部12の周囲の空間によって構成されている。
【0138】
ボイラー部ケース30には、ファン1dの回転数を測定するためのセンサ36が固定されている。
【0139】
上記構成によると、発熱体3の熱は、ボイラー部ケース30の底壁部302を介して蒸発室308内の作動液14に伝わり、作動液14が蒸発する。蒸発室308で発生した蒸気は、蒸気通路32aを通じて出力部12に供給される。これにより、蒸気のエネルギーが機械的エネルギーに変換される。
【0140】
出力部12から排出された蒸気は凝縮部13にて大気中に放熱して凝縮し、凝縮部13で凝縮した作動液14は循環通路33aを通じて低圧室309に還流して液溜め室309aに溜まる。液溜め室309aに溜まった作動液14は、ウィック17に吸引されて蒸発室308に供給されて蒸発する。
【0141】
このように、本実施形態においても、液溜め室309aの作動液14を高圧の蒸発室308へ外部エネルギーを用いることなく送還することができる。
【0142】
図示を省略しているが、本実施形態においても、上記第1、第2実施形態と同様の排気通路21をボイラー部ケース30の底壁部302に形成することができる。これにより、ウィック17の下面から蒸発した蒸気をウィック17の上方側へ逃げ易くすることができ、ひいては出力を向上できる。
【0143】
(第5実施形態)
本第5実施形態は、上記各実施形態におけるウィック17の貫通孔172の具体的構成例を示すものである。
【0144】
図10の例では、ウィック17の表裏を貫通する貫通孔172は、ウィック17の板面方向に延びる溝状に形成されている。より具体的には、貫通孔172は、ウィック17の中心から四方に放射状に延びる十字溝状に形成されている。
【0145】
図11の変形例では、貫通孔172は、多数個分散して形成されている。より具体的には、貫通孔172は多数個の円形孔で構成されており、多数個の円形孔はウィック17の板面に分散配置されている。
【0146】
これによると、貫通孔172の縁(界面)から蒸気が発生するので、蒸気量を向上することができ、ひいては出力を向上できる。特に図10、図11の例では、貫通孔172の縁(界面)の全長を長くすることができる。このため、蒸気量をより向上することができ、ひいては出力をより向上できる。
【0147】
なお、図10、図11の例では、プレート19が網板で構成されている。これにより、貫通孔172が広範囲にわたって形成されていても、貫通孔172の縁(界面)からの蒸気の放出を妨げることなく、ウィック17の浮き上がりを防止できる。
【0148】
(第6実施形態)
上記各実施形態では、ウィック17が1枚の平板状ウィックで構成されているが、本第6実施形態では、図12に示すように、ウィック17は、複数枚の平板状ウィック(平板状作動液導入用部材)40、41が積層されて構成されている。本例では、平板状ウィック40、41の各々は、ステンレスワイヤとアラミド繊維(樹脂繊維)の編み込み素材で形成されている。平板状ウィック40、41の各々は、RAB(アラミドの繊維とロックウール粒子の混合体)で形成されていてもよい。
【0149】
本実施形態では、平板状ウィック40、41は、互いに外径が同一になっていて、外周縁部が隔壁16の筒状壁部161の外周面に揃えられて積層されている。
【0150】
これによると、液溜め室157aの作動液14は各平板状ウィック40、41に吸引されて各平板状ウィック40、41の中心側へと流れる。平板状ウィック40、41のうちケース15の底壁部152に隣接する平板状ウィック40の中心部では、作動液14が底壁部152から加熱されて蒸発する。
【0151】
すると、平板状ウィック40の中心部には、平板状ウィック40の径方向外側から水平方向に作動液14が供給されるのみならず、他の平板状ウィック41の中心部から上下方向にも作動液14が供給される。このため、作動液14の供給性が向上し、ひいては出力を向上できる。
【0152】
(第7実施形態)
上記第6実施形態では、平板状ウィック40、41の外周縁部が隔壁16の筒状壁部161の外周面に揃えられているが、本第7実施形態では、図13に示すように、平板状ウィック40、41、42のうちケース15の底壁部152に隣接する平板状ウィック40の外周側部位40aが筒153の内周面まで拡大されている。
【0153】
これによると、平板状ウィック40の外周側部位40aは、底壁部152のうち液溜め室157aに面する部位に重ねられて液溜め室157aを断熱することとなるので、液溜め室157aで作動液14が蒸発することを抑制できる。このため、液溜め室157aの作動液14を蒸発室156に確実に供給することができ、ひいては出力を向上できる。
【0154】
なお、本実施形態に対して、上記第1、第2実施形態と同様に排気通路21を設ければ、上記第1、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0155】
(他の実施形態)
なお、上記第1〜第3実施形態では、凝縮部13をケース15の上方側に配置しているが、これに限定されることなく、例えば凝縮部13をケース15の側方側に配置してもよい。また、低圧室157の蒸気を凝縮部13に流出させるための流出路151a、および凝縮部13で凝縮した作動液14を低圧室157に還流させるための還流路151bの具体的構成は、凝縮部13の配置位置に応じて適宜変更可能である。
【0156】
また、上記各実施形態では、ボイラー部11が単一のケース内に収容されているが、ボイラー部11を複数のケース内に分割して収容し、複数のケース同士を適宜配管で接続するようにしてもよい。例えば、ボイラー部11の液溜め室157aを別個のケース内に収容し、液溜め室157aと蒸発室156とを配管で接続してもよい。この場合には、液溜め室157aと蒸発室156とを接続する配管内にウィック17を配置することができる。
【符号の説明】
【0157】
3 発熱体(外部熱源)
11 ボイラー部
12 出力部
13 凝縮部
14 作動液
15 ケース
16 隔壁
17 ウィック(作動液導入用部材)
19 プレート(伝熱板)
21 排気通路
23 排気通路形成部材
152 底壁部(伝熱部材)
152a 断熱溝
156 蒸発室
157a 液溜め室
161 円筒状壁部(荷重付与手段)
172 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部熱源(3)から供給される熱で作動液(14)を加熱して前記作動液(14)の蒸気を発生させる蒸発室(156、308)、および前記蒸発室(156、308)に供給される前記作動液(14)を溜める液溜め室(157a、309a)が形成されたボイラー部(11)と、
前記蒸発室(156、308)で発生した前記蒸気が流通し、前記蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換して取り出す出力部(12)と、
前記出力部(12)を通過した前記蒸気を凝縮させ、凝縮した前記作動液(14)を前記液溜め室(157a、309a)に還流させる凝縮部(13)と、
前記ボイラー部(11)内に配置され、前記液溜め室(157a、309a)の前記作動液(14)を毛管力で吸引して前記蒸発室(156、308)に供給する作動液導入用部材(17)とを備え、
前記蒸発室(156、308)は、前記液溜め室(157a、309a)に対して隔てられていて前記液溜め室(157a、309a)よりも高圧になっており、
前記作動液導入用部材(17)は、
(2σ/r)・cosθ>PH−PLの関係を満たすように構成され、
前記ボイラー部(11)は、前記外部熱源(3)と熱的に接続され且つ前記作動液導入用部材(17)に当接する伝熱部材(152、23、302)を有し、
前記作動液導入用部材(17)は前記伝熱部材(152、23、302)を介して前記外部熱源(3)から受熱し、
前記伝熱部材(152、23、302)のうち前記作動液導入用部材(17)に当接する部位には、前記作動液導入用部材(17)から発生した前記蒸気を前記作動液導入用部材(17)の外部に排気するための排気通路(21)が形成されていることを特徴とする熱機関。
但し、σは前記作動液(14)の表面張力、rは前記作動液導入用部材(17)内の空隙の円相当半径、θは前記作動液導入用部材(17)に対する前記作動液(14)の濡れ角、PHは前記蒸発室(156、308)の圧力、PLは前記液溜め室(157a、309a)の圧力である。
【請求項2】
前記排気通路(21)は、前記伝熱部材(152)に形成された溝(22)によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱機関。
【請求項3】
前記伝熱部材(152、23)は、前記排気通路(21)を形成する排気通路形成部材(23)と、残余の部位を構成する部材(152)とに分割して成形され、
前記排気通路形成部材(23)は、前記残余の部位を構成する部材(152)と前記作動液導入用部材(17)との間に挟まれた網状部材または複数の玉状部材であり、
前記蒸気通路(21)は、前記網状部材または前記複数の玉状部材が形成する空隙によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱機関。
【請求項4】
前記伝熱部材(152、23、302)は、水平方向に延びる上面部を有し、
前記作動液導入用部材(17)は、平板状に形成されて前記伝熱部材(152、23、302)の上面部に重ねられ、
前記作動液導入用部材(17)は、前記伝熱部材(152、23、302)を介して前記外部熱源(3)から受熱することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の熱機関。
【請求項5】
前記ボイラー部(11)は、前記作動液導入用部材(17)のうち前記伝熱部材(152、23、302)と反対側の面に重ねられ、前記外部熱源(3)からの熱を前記作動液導入用部材(17)に伝える伝熱板(19)を有していることを特徴とする請求項4に記載の熱機関。
【請求項6】
前記作動液導入用部材(17)のうち前記水平方向における端面(171)は、前記液溜め室(157a)の前記作動液(14)が流入する流入口を構成していることを特徴とする請求項4または5に記載の熱機関。
【請求項7】
前記ボイラー部(11)を収容するボイラー部ケース(30)と、
前記出力部(12)および前記凝縮部(13)を収容する還流部ケース(31)と、
前記ボイラー部(11)の前記蒸発室(308)と前記出力部(12)とを連通する蒸気通路(32a)を形成する蒸気通路形成部(32)と、
前記凝縮部(13)と前記ボイラー部(11)の前記液溜め室(309a)とを連通する循環通路(33a)を形成する循環通路形成部(33)とを備え、
前記ボイラー部ケース(30)および前記還流部ケース(31)は、互いに離間して配置され且つ蒸気通路形成部(32)および循環通路形成部(33)を介して接続されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の熱機関。
【請求項8】
前記作動液導入用部材(17)のうち前記蒸発室(156)の内部に位置する部位には、その表裏を貫通する貫通孔(172)が形成されていることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1つに記載の熱機関。
【請求項9】
前記貫通孔(172)は、前記排気通路(21)と連通していることを特徴とする請求項8に記載の熱機関。
【請求項10】
前記貫通孔(172)は、前記作動液導入用部材(17)の板面方向に延びる溝状に形成されていることを特徴とする請求項8または9に記載の熱機関。
【請求項11】
前記貫通孔(172)は多数個分散して形成されていることを特徴とする請求項8または9に記載の熱機関。
【請求項12】
前記ボイラー部(11)は、前記貫通孔(172)の水平方向側に前記液溜め室(157a)を形成し、
前記伝熱部材(152)のうち前記貫通孔(172)よりも前記液溜め室(157a)側に位置する部位には、前記伝熱部材(152)の内部における熱伝導を抑制する断熱溝(152a)が形成され、
前記伝熱部材(152)は、前記断熱溝(152a)よりも前記貫通孔(172)側に位置する部位(152b)が前記外部熱源(3)から受熱することを特徴とする請求項8ないし11のいずれか1つに記載の熱機関。
【請求項13】
前記ボイラー部(11)は、前記作動液導入用部材(17)内の空隙が縮小するように前記作動液導入用部材(17)に荷重を付与する荷重付与手段(161)を有し、
前記作動液導入用部材(17)は、前記荷重付与手段(161)から前記荷重が付与された状態で前記ボイラー部(11)内に保持されていることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1つに記載の熱機関。
【請求項14】
前記ボイラー部(11)は、前記蒸発室(156)と前記液溜め室(157a)とを隔てる隔壁(16)を有し、
前記隔壁(16)は、前記作動液導入用部材(17)に前記荷重を付与するように前記ボイラー部(11)内に配置され、
前記荷重付与手段(161)は、前記隔壁(16)で構成されていることを特徴とする請求項13に記載の熱機関。
【請求項15】
前記作動液導入用部材(17)は、前記荷重付与手段(161)よりも前記蒸発室(156)側まで延びていることを特徴とする請求項14に記載の熱機関。
【請求項16】
前記作動液導入用部材(17)は、少なくとも樹脂繊維を編み込んだ素材で構成されていることを特徴とする請求項1ないし15のいずれか1つに記載の熱機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−99662(P2011−99662A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145018(P2010−145018)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)