説明

熱潜在性硬化剤及びその製造方法並びに熱硬化型エポキシ樹脂組成物

【課題】 速硬化性と貯蔵安定性とを両立することが可能な熱潜在性硬化剤及びその製造方法並びに熱硬化型エポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明の熱潜在性硬化剤は、三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物を含む多官能イソシアネート化合物含有組成物の界面重合によって得られるポリウレア樹脂粒子に有機アルミニウム化合物が保持されてなる熱潜在性硬化剤であって、上記組成物が、三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物の総量100質量部に対して三官能イソシアネート化合物を50〜99.99質量部及び二官能イソシアネート化合物を0.01〜50質量部含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱潜在性硬化剤及びその製造方法に関し、より詳細には有機アルミニウム化合物を含有する熱潜在性硬化剤及びその製造方法に関する。本発明はまた、熱硬化型エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その硬化物が、機械的特性、電気的特性、熱的特性、耐薬品性、接着性等の点で優れた性能を有することから、塗料、電気電子用絶縁材料、接着剤等の幅広い用途に利用されている。
【0003】
エポキシ樹脂の硬化剤の一つとして熱潜在性硬化剤がある。このうちエポキシ樹脂に対する低温硬化性を示す硬化剤として、例えば、下記特許文献1には、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得たポリウレアからなる多孔性樹脂にアルミニウムキレート剤が保持されてなる熱潜在性硬化剤が開示されている。
【0004】
一方、低温領域での熱応答性の向上を目指した硬化剤として、例えば、下記特許文献2には、多管能イソシアネート化合物の界面重合の際に、イソシアネート基との反応性の低いラジカル重合性化合物を共存させ、ラジカル重合を同時に行うことにより製造したアルミニウムキレート系熱潜在性硬化剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4381255号
【特許文献2】特開2009−221465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の熱潜在性硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物は、貯蔵安定性は良好であるものの速硬化性に課題がある。一方、上記特許文献2に記載の熱潜在性硬化剤では、速硬化性は良好であるものの貯蔵安定性に課題がある。速硬化性と貯蔵安定性とはトレードオフの関係にあり、上記の熱潜在性硬化剤であっても実用化に供し得るためには未だ改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、速硬化性と貯蔵安定性とを両立することが可能な熱潜在性硬化剤及びその製造方法並びに熱硬化型エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を行った結果、三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物を特定の割合で含有する油相から界面重合によって得られるポリウレア樹脂粒子に有機アルミニウム化合物を保持させてなる熱潜在性硬化剤が、エポキシ樹脂組成物の速硬化性と貯蔵安定性を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物を含む多官能イソシアネート化合物含有組成物の界面重合によって得られるポリウレア樹脂粒子に有機アルミニウム化合物が保持されてなる熱潜在性硬化剤であって、上記組成物が、三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物の総量100質量部に対して三官能イソシアネート化合物を50〜99.99質量部及び二官能イソシアネート化合物を0.01〜50質量部含有することを特徴とする熱潜在性硬化剤を提供する。
【0010】
本発明の熱潜在性硬化剤によれば、上記構成を有することにより、熱硬化型エポキシ樹脂組成物の速硬化性と貯蔵安定性とを両立することができる。このような効果が得られる理由としては、本発明に係る上記特定の多官能イソシアネート化合物含有組成物から得られるポリウレア樹脂粒子が程度なポリウレア部位の架橋密度を有し、これにより40℃程度の環境下においては有機アルミニウム化合物の放出を十分抑制することができ、所定の熱が加えられたときには有機アルミニウム化合物を十分放出できるという良好な熱応答性を示す樹脂粒子となっているためと本発明者らは推察する。なお、上記特許文献1に記載の熱潜在性硬化剤が十分な速硬化性を有していない理由については、多官能イソシアネート化合物として三官能イソシアネート化合物のみを用いた場合にはポリウレア部位の架橋密度が高くなりすぎて、有機アルミニウム化合物の放出が抑制されることによることが考えられる。また、上記特許文献2に記載の熱潜在性硬化剤が十分な貯蔵安定性を有していない理由については、ラジカル重合性化合物を共存させる方法ではポリウレア部位の架橋密度が小さくなりすぎて低温における熱挙動が不安定になることが考えられる。
【0011】
本発明の熱潜在性硬化剤において、エポキシ樹脂の硬化性の点で、上記有機アルミニウム化合物が、アルミニウムキレート化合物又はアルミニウムアルコキシド化合物であることが好ましい。
【0012】
また、有機アルミニウム化合物の合成および入手のしやすさの点で、上記有機アルミニウム化合物が、アルミニウムエチレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレートモノセカンダリーブチレート、アルミニウムセカンダリーブチレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノセカンダリーブチレート、アルミニウムモノアセチルアセトネート・ビスオレイルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジセカンダリーブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート、及びアルミニウムトリスアセチルアセトネートのうちの少なくとも一種であることが好ましい。
【0013】
更に、有機溶媒との相溶性の点で、上記有機アルミニウム化合物が、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネートであることが好ましい。
【0014】
本発明はまた、有機アルミニウム化合物及び多官能イソシアネート化合物を含む油相を、界面活性剤及び分散剤を含む水相に投入しながら乳化混合し、さらに加熱撹拌することにより前記多官能イソシアネート化合物を界面重合させて、ポリウレア樹脂粒子に有機アルミニウム化合物が保持されてなる熱潜在性硬化剤を製造する方法であって、油相が、多官能イソシアネート化合物として三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物を含み且つ三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物の総量100質量部に対して三官能イソシアネート化合物を50〜99.99質量部及び二官能イソシアネート化合物を0.01〜50質量部含有することを特徴とする熱潜在性硬化剤の製造方法を提供する。
【0015】
本発明の熱潜在性硬化剤の製造方法によれば、速硬化性と貯蔵安定性とを両立することが可能な熱潜在性硬化剤を得ることができる。
【0016】
本発明はまた、上記本発明の熱潜在性硬化剤と、エポキシ樹脂と、を含有する熱硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、速硬化性と貯蔵安定性とを両立することができる。
【0017】
速硬化性の点で、上記エポキシ樹脂は脂環式エポキシ樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、速硬化性と貯蔵安定性とを両立することが可能な熱潜在性硬化剤及びその製造方法並びに熱硬化型エポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1、2、及び比較例1、2の熱潜在硬化剤樹脂のDSC測定図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の熱潜在性硬化剤は、三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物を含む多官能イソシアネート化合物含有組成物の界面重合によって得られるポリウレア樹脂粒子に有機アルミニウム化合物が保持されてなる熱潜在性硬化剤であって、上記組成物が、三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物の総量100質量部に対して三官能イソシアネート化合物を50〜99.99質量部及び二官能イソシアネート化合物を0.01〜50質量部含有することを特徴とする有機アルミニウム化合物含有熱潜在性硬化剤(以下、本発明に係る熱潜在性硬化剤という。)である。
【0021】
本発明に係る熱潜在性硬化剤は、ポリウレア樹脂中に有機アルミニウム化合物が保持されたマイクロカプセル構造を有する。このカプセル構造は、実粒子、中空粒子又は多孔質粒子のいずれであってもよい。
【0022】
本発明における保持とは、所望の硬化開始温度までの加熱又は加圧によっては有機アルミニウム化合物がポリウレア樹脂粒子から放出されない状態をいう。但し、本発明においては、熱潜在性硬化剤に所定の熱又は圧力を加えたときに、ポリウレア樹脂粒子に保持されている有機アルミニウム化合物が放出される状態となることが重要である。特に、80℃以上の熱を加えたときに有機アルミニウム化合物が放出される状態となることが好ましい。
【0023】
上記で定義される保持の状態を満たすのであれば、有機アルミニウム化合物は、ポリウレア樹脂粒子に分子間力による物理的な吸着又は化学的な結合生成等によって固定化された状態であってもよく、樹脂粒子中にある空孔中に吸着又は結合生成等によって固定化されずに存在していてもよい。更に、有機アルミニウム化合物は、ポリウレア樹脂粒子の表面に存在していてもよく、或いはポリウレア樹脂粒子に内包されていてもよい。
【0024】
本発明に係る熱潜在性硬化剤は界面重合法を利用して製造される。そのため、その形状は一般的に球状であり、その粒子径は硬化性及び分散性の観点から、好ましくは0.5〜100μmである。また、熱潜在性硬化剤を構成するポリウレア樹脂粒子が多孔質粒子である場合、その孔の大きさは硬化性及び潜在性の点から、好ましくは1〜150nmである。
【0025】
また、本発明に係る熱潜在性硬化剤は、ポリウレア樹脂粒子の架橋密度が小さすぎるとその潜在性が低下し、大きすぎるとその熱応答性が低下する傾向がある。したがって、使用目的に応じて、ポリウレア樹脂粒子の架橋密度を調節することが好ましい。ポリウレア樹脂粒子の架橋密度の調節は、例えば、粒子の調製に使用するイソシアネートの構造の選択によって行うことができる。ポリウレア樹脂粒子の架橋密度は、例えば微小圧縮試験により計測することができる。
【0026】
本発明に係る熱潜在性硬化剤は、その界面重合時に使用する有機溶媒を実質的に含有しないこと、具体的には、有機溶媒の含有量が1ppm以下であることが、硬化安定性の点で好ましい。
【0027】
本発明に係る熱潜在性硬化剤におけるポリウレア樹脂粒子及び有機アルミニウム化合物の含有量は、ポリウレア樹脂粒子を構成する多官能イソシアネート化合物の合計100質量部に対して、有機アルミニウム化合物の含有量が、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは10〜150質量部である。有機アルミニウム化合物の含有量が上記下限値よりも少ないと、硬化させるべきエポキシ樹脂の硬化性が低下し、上記上限値を上回ると有機アルミニウム化合物の潜在性が低下する傾向にある。
【0028】
本発明に係る熱潜在性硬化剤を構成する有機アルミニウム化合物としては、シラン系化合物と共働して熱硬化型エポキシ樹脂のカチオン重合を開始させる機能を有する化合物が挙げられる。カチオン重合性の点から、好適にはアルミニウムキレート化合物又はアルミニウムアルコキシド化合物が挙げられる。
【0029】
アルミニウムキレート化合物としては、下記一般式(1)で示される3つのβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物や、下記一般式(2)および(3)で示されるβ−ケトエノラート陰イオンの1つ又は2つがアルコキシドイオンに置換された化合物が挙げられる。
【0030】
【化1】



ここで、R〜Rはそれぞれ独立的に、アルキル基又はアルコキシル基を示す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基など炭素数1〜25のアルキル基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、ブトキシ基、オレイルオキシ基など炭素数1〜25のアルキル鎖をもつアルコキシル基が挙げられる。また、RおよびRはアルキル基を示す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基など炭素数1〜25のアルキル基が挙げられる。
【0031】
一般式(1)〜(3)で示されるアルミニウムキレート化合物の具体例としては、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジセカンダリーブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスオレイルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムアルキルアセテートジイソプロピレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0032】
アルミニウムアルコキシド化合物としては、下記一般式(4)で示される化合物が挙げられる。
【0033】
【化2】



【0034】
ここで、Rはアルキル基を示す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基など炭素数1〜25のアルキル基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、ブトキシ基、オレイルオキシ基など炭素数1〜25のアルキル鎖をもつアルコキシル基が挙げられる。
【0035】
一般式(4)で示されるアルミニウムアルコキシド化合物の具体例としては、アルミニウムエチレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレートモノセカンダリーブチレート、アルミニウムセカンダリーブチレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノセカンダリーブチレートなどが挙げられる。
【0036】
ポリウレア樹脂粒子を界面重合によって形成するための多官能イソシアネート化合物含有組成物は、一分子中に3個のイソシアネート基を有する三官能イソシアネート化合物と、一分子中に2個のイソシアネート基を有する二官能イソシアネート化合物とを含む。
【0037】
多官能イソシアネート化合物含有組成物における三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物の含有量はそれぞれ、三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物の総量100質量部に対して三官能イソシアネート化合物が50〜99.99質量部、及び二官能イソシアネート化合物が0.01〜50質量部であり、より好ましくは三官能イソシアネート化合物が55〜94.99質量部、及び二官能イソシアネート化合物が5.01〜45質量部であり、さらに好ましくは、三官能イソシアネート化合物が60〜89.99質量部、及び二官能イソシアネート化合物が10.01〜40質量部である。
【0038】
三官能イソシアネート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパン1モルに二官能イソシアネート化合物3モルを反応させた下記一般式(5)で示されるTMPアダクト体、二官能イソシアネート化合物3モルを自己縮合させた下記一般式(6)で示されるイソシアヌレート体、二官能イソシアネート化合物3モルのうち2モルから得られる二官能イソシアネートウレア化合物に残りの1モルの二官能イソシアネート化合物が縮合した下記一般式(7)で示されるビュウレット体、二官能イソシアネート化合物2モルのうち1モルと単官能アルコール化合物1モルから得られる単官能イソシアネートウレタン化合物に残りの1モルの二官能イソシアネート化合物が縮合した下記一般式(8)で示されるアロファネート体が挙げられる。
【0039】
【化3】



【0040】
一般式(5)〜(8)において、置換基R10は、二官能イソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分を示す。このような二官能イソシアネート化合物の例としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート等が挙げられる。
【0041】
多官能イソシアネート化合物含有組成物に含まれる二官能イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメレチンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネン・ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、ジクロロビフェニルジイソシアナート、フェニレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0042】
多官能イソシアネート化合物含有組成物を界面重合させて得られるポリウレア樹脂粒子は、界面重合の間にイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基とイソシアネート基とが反応してウレア結合を生成してポリマー化したものである。このようなポリウレア樹脂粒子に有機アルミニウム化合物が保持されてなる熱潜在性硬化剤は、硬化のために加熱されると、樹脂粒子に保持されていた有機アルミニウム化合物が放出され、例えば、熱潜在性硬化剤と併存させたシランカップリング剤やシラノールなどシラン系化合物と接触し、エポキシ樹脂のカチオン硬化反応を進行させることができる。
【0043】
本発明の熱潜在性硬化剤においては、二官能イソシアネート化合物が多官能イソシアネート化合物含有組成物の界面重合の際に、マイクロカプセルとなるポリウレア樹脂粒子の性質を改善し、貯蔵安定性を十分維持しつつ速硬化性を向上させることができる。二官能イソシアネート化合物による改善の詳細な作用は定かではないが、イソシアネートの架橋密度が低下することにより、ポリウレア樹脂粒子のガラス転移点が低下し、加熱時に有機アルミニウム化合物がポリウレア樹脂粒子から放出されやすくなると本発明者らは考察する。一方、ガラス転移点までは有機アルミニウム化合物がポリウレア樹脂に十分に保持されるため、速硬化性と貯蔵安定性との両立が可能となると本発明者らは考察する。
【0044】
多官能イソシアネート化合物含有組成物は、三官能イソシアネート化合物と二官能イソシアネート化合物を、大気下、室温で混合撹拌することにより調製することも可能であるが、必要に応じ、有機溶媒に溶解させて調製してもよい。
【0045】
多官能イソシアネート化合物含有組成物には、単官能イソシアネートまたは四官能以上のイソシアネート化合物を含有させることができる。単官能イソシアネートを添加した場合、界面重合で得られるポリウレア樹脂粒子のガラス転移点が低下し、保持されている有機アルミニウム化合物の放出が容易になり、速硬化性を向上させることが可能となる。四官能以上のイソシアネート化合物を添加した場合、界面重合で得られるポリウレア樹脂粒子のガラス転移点は上昇し、保持されている有機アルミニウム化合物の放出が抑制され、貯蔵安定性を向上させることが可能となる。
【0046】
なお、本発明の熱潜在性硬化剤においては、その構造上、樹脂粒子の最表面にも有機アルミニウム化合物が存在することとなるが、この有機アルミニウム化合物は界面重合の際に系中に存在する水により加水分解を受け不活性化し、樹脂粒子内部に保持された有機アルミニウム化合物だけが活性を保持していると考えられる。これにより、本発明の熱潜在性硬化剤は潜在性を獲得できているものと考えられる。
【0047】
本発明の熱潜在性硬化剤は、有機アルミニウム化合物と、多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液(油相溶液)を、界面活性剤及び分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させて製造することができる。本実施形態においては、上記油相溶液が、多官能イソシアネート化合物として三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物を本発明に係る割合で含有する。
【0048】
本実施形態に係る製造方法では、まず、有機アルミニウム化合物と、多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶媒に溶解させ、界面重合における油相となるよう溶液を調製する。ここで、揮発性有機溶媒を使用する理由は以下の通りである。すなわち、通常の界面重合で使用するような沸点が300℃を超える高沸点溶媒を用いた場合、界面重合の間に有機溶媒が揮発しないために、イソシアネートと水との接触確率が増大せず、それらの間での界面重合の進行度合いが不十分となるからである。そのため、界面重合させても良好な保形性の重合物が得られ難く、また、得られた場合でも重合物に高沸点溶媒が取り込まれたままとなり、熱硬化型樹脂組成物に配合した場合に、高沸点溶剤が熱硬化型樹脂組成物の硬化物の物性に悪影響を与えるからである。このため、本実施形態に係る製造方法においては、油相を調整する際に使用する有機溶媒として、揮発性のものを使用することが好ましい。
【0049】
このような揮発性有機溶媒としては、有機アルミニウム化合物と、多官能イソシアネート化合物との良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶媒)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶媒)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶媒の具体例としては、低級炭化水素類、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類が挙げられる。中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルが好ましい。
【0050】
揮発性有機溶媒の使用量は、有機アルミニウム化合物と、多官能イソシアネート化合物との合計量100質量部に対して、50〜100質量部であることが好ましい。揮発性有機溶媒の使用量が上記下限値よりも小さいと熱潜在性硬化剤の潜在性が低下し、上記上限値よりも大きいと熱潜在性硬化剤の熱応答性が低下する傾向にある。
【0051】
本実施形態において、揮発性有機溶媒の使用量を上記範囲内で比較的多くすることにより、油相となる溶液の粘度を下げることが好ましい。油相の粘度を下げると撹拌効率が向上するため、反応系における油相滴をより微細化かつ均一化することが可能となり、結果的に得られる熱潜在性硬化剤の粒子径をサブミクロン〜数ミクロン程度の大きさに制御しつつ、粒度分布を単分散とすることが可能となる。油相となる溶液の粘度は1〜100mPa・sに設定することが望ましい。
【0052】
本実施形態においては、作製する乳化液の安定性の観点から、有機アルミニウム化合物及び多官能イソシアネート化合物を含む油相を水相に乳化分散する際に、分散剤としてポリビニルアルコール(PVA)を水相に配合することができる。この場合、ポリビニルアルコールの水酸基と多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基とが反応してしまうため、副生成物が異物として熱潜在性硬化剤粒子の周囲に付着したり、粒子形状そのものが異形化したりする傾向にある。この現象を防ぐための方法としては、多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基と水との反応性を促進すること、あるいは多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基とポリビニルアルコールとの反応性を抑制することが挙げられる。
【0053】
多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基と水との反応性を促進するためには、有機アルミニウム化合物の配合量を多官能イソシアネート化合物の合計重量に対して好ましくは1/2以下、より好ましくは1/3以下とする。これにより、多官能イソシアネート化合物と水とが接触する確率が高くなり、PVAが油相滴表面に接触する前に多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基と水とが反応し易くなる。
【0054】
多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基とポリビニルアルコールとの反応性を抑制する方法としては、油相中の有機アルミニウム化合物の配合量を増大させることが挙げられる。具体的には、有機アルミニウム化合物の配合量を多官能イソシアネート化合物の合計重量に対して好ましくは等倍以上、より好ましくは1.0〜2.0倍とする。これにより、油相滴表面におけるイソシアネート濃度を低下させることができ、多官能イソシアネート化合物とポリビニルアルコールとの反応確率を低下させることができる。更に、多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基と加水分解により形成されるアミンとの反応(界面重合)速度は、イソシアネート基と水酸基との反応速度よりも大きいため、油相滴表面におけるイソシアネート濃度の低下は、多官能イソシアネート化合物とポリビニルアルコールとの反応の抑制に相乗的に働く。
【0055】
有機アルミニウム化合物及び多官能イソシアネート化合物を揮発性有機溶媒に溶解させる際には、大気圧下、室温で混合撹拌するだけでもよいが、必要に応じ、加熱することもできる。
【0056】
本実施形態に係る製造方法においては、有機アルミニウム化合物と多官能イソシアネート化合物とが揮発性有機溶媒に溶解した油相溶液を、界面活性剤及び分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させる。
【0057】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性海面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤などが挙げられる。この中でも、アニオン性界面活性剤であるアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびアルキルスルホン酸ナトリウムなどが好適に用いられる。界面活性剤の使用量は、水相の0.1〜5.0質量%が好ましい。
【0058】
分散剤としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の通常の界面重合法において使用されるものを使用することができる。分散剤の使用量は、水相の0.1〜10.0質量%が好ましい。
【0059】
油相溶液の配合量は水相100質量部に対して5〜70質量部が好ましい。油相溶液の割合が水相100質量部に対して5質量部を下回ると多分散化しやすくなり、70質量部を超えると微細化により凝集が生じやすくなる。
【0060】
界面重合における乳化条件としては、油相滴の大きさが好ましくは0.5〜100μmとなるような撹拌条件(例えば、撹拌装置ホモジナイザーを用い、撹拌速度6000rpm以上の条件)で、大気圧下、温度20〜80℃、撹拌時間5分〜12時間、加熱撹拌する条件を挙げることができる。
【0061】
界面重合終了後に、重合体微粒子を濾別し、自然乾燥もしくは真空乾燥することにより本発明に係る熱潜在性硬化剤を得ることができる。
【0062】
本実施形態においては、三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物の種類や使用量や使用割合、有機アルミニウム化合物の種類や使用量を変化させることにより、熱潜在性硬化剤の硬化特性を制御することができる。例えば、重合温度を低くすると硬化温度を低下させることができ、重合温度を高くすると硬化温度を上昇させることができる。
【0063】
本発明に係る熱在性硬化剤は、エポキシ樹脂及びシラン系化合物と併用して低温速硬化性の熱硬化型エポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【0064】
本実施形態の熱硬化型エポキシ樹脂組成物における本発明に係る熱潜在性硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して1〜70質量部が好ましく、1〜50質量部がより好ましい。熱潜在性硬化剤の含有量が、上記下限値を下回ると硬化性が十分に得られにくくなり、上記上限値を超えると、得られる硬化物の樹脂特性(例えば、可撓性)が低下する傾向にある。
【0065】
エポキシ樹脂としては、成膜成分として使用されているものを用いることができる。そのようなエポキシ樹脂としては、例えば、脂環式エポキシ樹脂、及びグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0066】
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、1,2:8,9ジエポキシリモネン、エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス−(3−シクロヘキセニルメチル)修飾ε−カプロラクトン、エポキシ化ポリブタジエン、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物などが挙げられる。
【0067】
本実施形態の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、速硬化性の点で、脂環式エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0068】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100〜4000程度であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エステル型エポキシ樹脂等を挙げることができる。中でも、樹脂特性の点からビスフェノールA型エポキシ樹脂を好ましく使用できる。また、これらのエポキシ樹脂にはモノマーやオリゴマーも含まれる。
【0069】
本実施形態の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、樹脂成分として、上記の脂環式エポキシ樹脂やグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の他に、発熱ピークをシャープにするために、オキセタン化合物を更に含むことができる。
【0070】
好ましいオキセタン化合物としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、4,4´−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4−ベンゼンジカルボン酸 ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)]メチルエステル、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン等を挙げることができる。オキセタン化合物を配合する場合、その配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して10〜100質量部が好ましく、20〜70質量部がより好ましい。
【0071】
本実施形態の熱硬化型エポキシ樹脂組成物に配合されるシラン系化合物は、特開2002−212537号公報の段落0007〜0010に記載されているように、本発明に係る熱潜在性硬化剤に保持されていた有機アルミニウム化合物と共働して熱硬化性樹脂(例えば、熱硬化性エポキシ樹脂)のカチオン重合を開始させる機能を有する。従って、このような、シラン系化合物を併用することにより、エポキシ樹脂の硬化を促進するという効果が得られる。このようなシラン系化合物としては、高立体障害性のシラノール化合物や、分子中に1〜3の低級アルコキシ基を有するシランカップリング剤等を挙げることができる。なお、シランカップリング剤は、分子中に熱硬化性樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。本発明に係る熱潜在性硬化剤はカチオン型硬化剤であるため、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、アミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0072】
高立体障害性のシラノール化合物としては、例えば、下記一般式(9)で示される構造を有するアリールシランオールが挙げられる。
【0073】
【化4】



【0074】
一般式(9)において、nは1〜3の整数であり、mは1〜3の整数である。但し、mとnとの和は4である。好ましくは、nが1であり、mが3である。式(9)中のArは、置換されてもよいアリール基を示す。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基(例えば、1または2−ナフチル基)、アントラセニル基(例えば、1、2または9−アントラセニル基、ベンズ[a]−9−アントラセニル基)、フェナリル基(例えば、3または9−フェナリル基)、ピレニル基(例えば、1−ピレニル基)、アズレニル基、フルオレニル基、ビフェニル基(例えば、2,3または4−ビフェニル基)、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリジル基等を挙げることができる。中でも、入手容易性、入手コストの観点からフェニル基が好ましい。m個のArは、いずれも同一でもよく異なっていてもよいが、入手容易性の点から同一であることが好ましい。
【0075】
上記のアリール基は、1〜3個の置換基を有することができ、例えば、クロロ、ブロモ等のハロゲン;トリフルオロメチル;ニトロ;スルホ;カルボキシル、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等のアルコキシカルボニル;ホルミル等の電子吸引基、メチル、エチル、プロピルなどのアルキル;メトキシ、エトキシ等のアルコキシ;ヒドロキシ;アミノ;モノメチルアミノ等のモノアルキルアミノ;ジメチルアミノ等のジアルキルアミノ等の電子供与基などが挙げられる。なお、置換基として電子吸引基を使用することによりシラノールの水酸基の酸度を上げることができ、逆に、電子供与基を使用することにより酸度を下げることができるので、硬化活性のコントロールが可能となる。ここで、m個のAr毎に、置換基が異なっていてもよいが、m個のArについて入手容易性の点から置換基は同一であることが好ましい。また、一部のArだけに置換基があり、他のArに置換基が無くてもよい。置換基を有するフェニル基の具体例としては、2、3または4−メチルフェニル基;2,6−ジメチル、3,5−ジメチル、2,4−ジメチル、2,3−ジメチル、2,5−ジメチルまたは3,4−ジメチルフェニル基;2,4,6−トリメチルフェニル基;2または4−エチルフェニル基等が挙げられる。
【0076】
一般式(9)で示されるシラノール化合物の中でも、好ましいものとして、トリフェニルシラノール又はジフェニルシランジオールが挙げられる。特に好ましいものは、トリフェニルシラノールである。
【0077】
分子中に1〜3の低級アルコキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0078】
本実施形態の熱硬化型エポキシ樹脂組成物におけるシラン系化合物の配合量は、本発明に係る熱潜在性硬化剤100質量部に対して10〜3000質量部が好ましい。シラン系化合物の配合量が上記下限値未満であると、エポキシ樹脂組成物の硬化性の向上効果が得られにくく、上記上限値を超えると、エポキシ樹脂組成物の硬化物物性が低下する傾向にある。
【0079】
シラン系化合物として高立体障害性のシラノール化合物を使用した場合、高立体障害性のシラノール化合物の配合量は、本発明に係る熱潜在性硬化剤100質量部に対して10〜2000質量部が好ましく、100〜1000質量部がより好ましい。高立体障害性のシラノール化合物の配合量が、上記下限値未満であると硬化性の向上効果が得られにくく、上記上限値を超えると硬化後の樹脂特性が低下する傾向にある。
【0080】
シラン系化合物として分子中に1〜3の低級アルコキシ基を有するシランカップリング剤を使用した場合、シランカップリング剤の配合量は、本発明に係る熱潜在性硬化剤100質量部に対して10〜3000質量部が好ましく、100〜2000質量部がより好ましい。シランカップリング剤の配合量は上記下限値未満であると硬化性の向上効果が得られにくく、上記上限値を超えるとシランカップリング剤から発生するシラノレートアニオンによる重合停止反応の影響が生じやすくなる。
【0081】
本実施形態の熱硬化型エポキシ樹脂組成物には、必要に応じてシリカ、マイカなどの充填剤、顔料、帯電防止剤などを含有させることができる。また、本実施形態の熱硬化型エポキシ樹脂組成物には、数μmオーダーの粒径の導電性粒子、金属粒子、樹脂コア表面を金属メッキ層で被覆したもの、それらの表面を絶縁薄膜で更に被覆したもの等を、熱硬化型エポキシ樹脂組成物全量を基準として1〜10質量%の配合量で配合することが好ましい。これにより、本実施形態の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、異方導電性接着ペースト、異方導電性フィルムとして使用することが可能となる。
【0082】
本実施形態の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、本発明に係る熱潜在性硬化剤、エポキシ樹脂、シラン系化合物、及び、必要に応じて添加される他の添加剤を、常法に従って均一に混合撹拌することにより製造することができる。
【0083】
こうして得られた本実施形態の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、硬化剤が潜在化しているので、一剤型であるにも拘わらず、保存安定性に優れている。また、本発明に係る潜在性硬化剤がシラン系化合物と共働して、エポキシ樹脂を低温速硬化でカチオン重合させることができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
<熱潜在性硬化剤の合成>
(実施例1)
水800質量部、界面活性剤(製品名:ニューレックスR、日油社製)0.05質量部、及びポリビニルアルコール(重合度約500)(和光純薬社製)4質量部を均一に混合し水相を調製した。一方で、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート(製品名:アルミニウムキレートD、川研ファインケミカル社製)11質量部、メタキシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加体(製品名:タケネートD−110N、三井化学社製)8.8質量部、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(製品名:タケネート600、三井化学社製)2.2質量部、及び酢酸エチル30質量部を均一混合し油相を調製した。ホモジナイザーで水相を撹拌(11000rpm)しながら、油相を水相に5分間かけて滴下し、さらにホモジナイザーで10分間撹拌(11000rpm)した後、60℃にて12時間撹拌し界面重合を行った。その後、室温に冷却し、遠心分離機で粒子を分離後、ろ過した。得られた粒子を自然乾燥し、平均粒子径11μmの熱潜在性硬化剤を得た。
【0086】
(実施例2)
1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(製品名:タケネート600、三井化学社製)2.2質量部の代わりに、ヘキサメチレンジイソシアネート(関東化学社製)を2.2質量部使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、平均粒子径12μmの熱潜在性硬化剤を得た。
【0087】
(比較例1)
水800質量部、界面活性剤(製品名:ニューレックスR、日油社製)0.05質量部、及びポリビニルアルコール(重合度約500)(和光純薬社製)4質量部を均一に混合し水相を調製した。一方で、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート(製品名:アルミニウムキレートD、川研ファインケミカル社製)11質量部、メタキシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加体(製品名:タケネートD−110N、三井化学社製)11質量部、及び酢酸エチル30質量部を均一混合し油相を調製した。ホモジナイザーで水相を撹拌(11000rpm)しながら、油相を水相に5分間かけて滴下し、さらにホモジナイザーで10分間撹拌(11000rpm)した後、60℃にて12時間撹拌し界面重合を行った。その後、室温に冷却し、遠心分離機で粒子を分離後、ろ過した。得られた粒子を自然乾燥し、平均粒子径10μmの熱潜在性硬化剤を得た。
【0088】
(比較例2)
水800質量部、界面活性剤(製品名:ニューレックスR、日油社製)0.05質量部、及びポリビニルアルコール(重合度約500)(和光純薬社製)4質量部を均一に混合し水相を調製した。一方で、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート(製品名:アルミニウムキレートD、川研ファインケミカル社製)100質量部、メタキシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加体(製品名:タケネートD−110N、三井化学社製)70質量部、ジビニルベンゼン(メルク社製)30質量部、ジラウロイルパーオキサイド(製品名:パーロイルL、日油社製)0.3質量部、及び酢酸エチル100質量部を均一混合し油相を調製した。ホモジナイザーで水相を撹拌(10000rpm)しながら、油相を水相に5分間かけて滴下し、さらにホモジナイザーで10分間撹拌(10000rpm)した後、80℃にて6時間撹拌し界面重合並びにラジカル重合を行った。その後、室温に冷却し、遠心分離機で粒子を分離後、ろ過した。得られた粒子を自然乾燥し、平均粒子径9μmの熱潜在性硬化剤を得た。
【0089】
[熱潜在性硬化剤のガラス転移点の測定]
実施例1及び2、並びに比較例1及び2で得られた熱潜在硬化剤粒子を、示差熱分析装置(Perkin−Elmer社製DSC7)を用いて窒素雰囲気下、測定温度範囲25℃〜250℃、昇温速度40℃/分の測定条件で熱分析しガラス転移点を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0090】
[熱硬化型エポキシ樹脂組成物の調製]
実施例1若しくは2又は比較例1若しくは2で得られた熱潜在性硬化剤20質量部と、トリフェニルシラノール10質量部と、脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学社製、セロキサイド2021P)90質量部とを均一に混合することにより、熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0091】
[熱硬化型エポキシ樹脂組成物の発熱挙動の測定]
上記で得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(Perkin−Elmer社製DSC7)を用いて窒素雰囲気下、測定温度範囲25℃〜250℃、昇温速度10℃/分の測定条件で熱分析した。得られた結果を表1及び図1に示す。なお、図1中のAは実施例1、Bは実施例2、Cは比較例1、Dは比較例2の熱潜在性硬化剤を含む熱硬化型エポキシ樹脂組成物の発熱挙動をそれぞれ示す。ここで、樹脂組成物の熱挙動に関して、発熱開始温度は硬化開始温度を意味しており、発熱ピーク温度は最も硬化反応は活性となる温度を意味しており、発熱終了温度は硬化終了温度を意味しており、そしてピーク面積は発熱量を意味している。
【0092】
[熱硬化型エポキシ樹脂組成物のゲルタイムの測定]
上記で得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、140℃、160℃、180℃、又は200℃に加熱したホットプレート上で加熱し、樹脂組成物の糸引きがなくなるまでの時間を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0093】
[熱硬化型エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性の測定]
上記で得られた熱硬化型エポキシ樹脂を40℃恒温槽中で5日間保管後、示差熱分析装置(Perkin−Elmer社製DSC7)を用いて窒素雰囲気下、測定温度範囲25℃〜250℃、昇温速度10℃/分の測定条件で熱分析した。測定により得られた発熱量と熱硬化型エポキシ樹脂組成物の発熱挙動の測定で得られた発熱量を比較し、発熱量減少率により貯蔵安定性を判断した。発熱量減少率が10%以下であれば◎、20%以下であれば○、40%以上であれば×として、表1に示す。
【0094】
【表1】



【0095】
表1に示すように実施例1及び2の熱潜在性硬化剤は、三官能イソシアネートのみを使用して合成した比較例1の熱潜在性硬化剤よりも低いガラス転移点を示した。また、実施例1及び2の熱潜在性硬化剤によれば、貯蔵安定性を維持しつつ、ゲルタイムが160℃で10秒以内となり、貯蔵安定性と低温速硬化性を両立することができた。
【0096】
本発明の熱潜在性硬化剤によれば、熱硬化型エポキシ樹脂組成物の低温速硬化性と貯蔵安定性とを両立することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物を含む多官能イソシアネート化合物含有組成物の界面重合によって得られるポリウレア樹脂粒子に有機アルミニウム化合物が保持されてなる熱潜在性硬化剤であって、
前記組成物が、前記三官能イソシアネート化合物及び前記二官能イソシアネート化合物の総量100質量部に対して前記三官能イソシアネート化合物を50〜99.99質量部及び前記二官能イソシアネート化合物を0.01〜50質量部含有することを特徴とする熱潜在性硬化剤。
【請求項2】
前記有機アルミニウム化合物が、アルミニウムキレート化合物又はアルミニウムアルコキシド化合物である、請求項1に記載の熱潜在性硬化剤。
【請求項3】
前記有機アルミニウム化合物が、アルミニウムエチレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレートモノセカンダリーブチレート、アルミニウムセカンダリーブチレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノセカンダリーブチレート、アルミニウムモノアセチルアセトネート・ビスオレイルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジセカンダリーブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート、及びアルミニウムトリスアセチルアセトネートのうちの少なくとも一種である、請求項1に記載の熱潜在性硬化剤。
【請求項4】
有機アルミニウム化合物が、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネートである、請求項1に記載の熱潜在性硬化剤。
【請求項5】
有機アルミニウム化合物及び多官能イソシアネート化合物を含む油相を、界面活性剤及び分散剤を含む水相に投入しながら乳化混合し、さらに加熱撹拌することにより前記多官能イソシアネート化合物を界面重合させて、ポリウレア樹脂粒子に有機アルミニウム化合物が保持されてなる熱潜在性硬化剤を製造する方法であって、
前記油相が、前記多官能イソシアネート化合物として三官能イソシアネート化合物及び二官能イソシアネート化合物を含み且つ前記三官能イソシアネート化合物及び前記二官能イソシアネート化合物の総量100質量部に対して前記三官能イソシアネート化合物を50〜99.99質量部及び前記二官能イソシアネート化合物を0.01〜50質量部含有することを特徴とする熱潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱潜在性硬化剤と、エポキシ樹脂と、を含有する、熱硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂が脂環式エポキシ樹脂である、請求項6に記載の熱硬化型エポキシ樹脂組成物。


【図1】
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