説明

熱現像方法及び熱現像装置

【課題】 10秒以下の迅速処理で熱現像プロセスを実行する際に濃度を安定化でき画質を安定できるようにした熱現像方法及び熱現像装置を提供する。
【解決手段】 この熱現像方法は、支持基体の片面上に熱現像感光材料が塗布されたフィルムFを加熱時間が10秒以下となるように加熱手段50,53により加熱し、次いで冷却手段54に搬送するものであって、フィルムの熱現像感光材料の塗布されたEC面側を開放し、支持基体面(BC面)側から加熱するとともに、フィルムのEC面側を重力方向に対し反対上側で開放しながらフィルムを冷却手段に搬送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱現像感光材料が塗布されたシートフィルムを加熱し次いで冷却する迅速処理可能な熱現像方法及び熱現像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、柔軟層を有する加熱された加熱ドラムと、複数の対向ローラとの間で、シートフィルムをEC面(乳剤面)側で摺動させながら加熱することで、潜像の形成されたフィルムを現像する熱現像装置を開示する。下記特許文献2は、上記加熱ドラムの代わりに、3分割された固定ヒータを用い、当該ヒータ上でフィルムのBC面側(支持基体面側)を摺動させて加熱する方式の熱現像装置を開示する。
【0003】
従来の熱現像装置では、熱現像時間は一般的に14秒前後(搬送方向長さ17インチ)であったが、更なる熱現像プロセスの迅速化及び高画質化が求められている。しかし、特許文献1,2には、迅速な熱現像プロセスに関する対策は示唆も開示もない。
【特許文献1】特表平10−500497号公報
【特許文献2】特開2003−287862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、10秒以下の迅速処理で熱現像プロセスを実行する際に濃度を安定化でき画質を安定できるようにした熱現像方法及び熱現像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明による熱現像方法は、支持基体の片面上に熱現像感光材料が塗布されたシートフィルムを加熱時間が10秒以下となるように加熱手段により加熱し、次いで冷却手段に搬送する熱現像方法であって、前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を開放し、支持基体面側から加熱するとともに、前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を重力方向に対し反対上側に開放しながら前記シートフィルムを前記冷却手段に搬送することを特徴とする。
【0006】
潜像の形成されたシートフィルムの加熱時間が14秒前後であれば、熱現像感光材料の塗布面側からの加熱でも反塗布面側からの加熱でも、塗布剤中に含まれる溶媒成分(MEK・水分等)はほぼ揮発(蒸発)しきるので、画質(濃度)は安定するのに対し、加熱時間を短縮し加熱時間が10秒以下となるような迅速処理においては、塗布面側の加熱と反塗布面側の加熱とでは濃度に差が生じるが、本発明の熱現像方法のように、塗布された面側を開放し支持基体面側から加熱するとともに、当該加熱されたシートフィルムを、塗布面側を重力方向に対し反対上側に開放しながら冷却工程へ搬送することで、この加熱〜冷却の搬送の間で加熱されたシートフィルムから溶媒が最短距離で揮発し易くなり、濃度に差が生じ難くなって濃度がより安定する。
【0007】
上記熱現像方法において前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を重力方向に対し反対上側に開放しながら前記シートフィルムを前記冷却手段から外部に搬送することで、冷却〜外部搬送の間でもシートフィルムから溶媒が最短距離で揮発を続け、濃度に差が一層生じ難くなって濃度がより安定する。
【0008】
本発明による熱現像装置は、支持基体の片面上に熱現像感光材料が塗布されたシートフィルムを加熱時間が10秒以下となるように加熱手段により加熱し搬送し、次いで冷却手段により冷却する熱現像装置であって、前記加熱手段は、前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を開放し、支持基体面側から加熱し、前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を重力方向に対し反対上側に開放しながら、前記シートフィルムを前記冷却手段に搬送するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
この熱現像装置によれば、上述の熱現像方法を実行可能であり、塗布された面側を開放し支持基体面側から加熱するとともに、当該加熱されたシートフィルムを、塗布面側を重力方向に対し反対上側に開放しながら冷却手段へ搬送することで、この加熱〜冷却の搬送の間で加熱されたシートフィルムから溶媒が最短距離で揮発し易くなり、濃度に差が生じ難くなって濃度がより安定する。
【0010】
上記熱現像装置において前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を重力方向に対し反対上側に開放しながら前記シートフィルムを前記冷却手段から装置外部に搬送することで、冷却〜外部搬送の間にもシートフィルムから溶媒が最短距離で揮発を続け、濃度に差が一層生じ難くなって濃度がより安定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱現像方法及び熱現像装置によれば、10秒以下の迅速処理で熱現像プロセスを実行する際に濃度を安定化でき画質を安定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。図1は本実施の形態による熱現像装置の要部を概略的に示す側面図である。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態の熱現像装置40は、PET等からなるシート状の支持基体の片面上に熱現像感光材料が塗布されたEC面と、EC面と反対面の支持基体側のBC面とを有するフィルムFを副走査搬送しながら光走査露光部55からのレーザ光LでEC面に潜像を形成し、次に、フィルムFをBC面側から加熱して現像し潜像を可視化し、曲率のある搬送経路を通して装置上方に搬送し排出するものである。
【0014】
図1の熱現像装置40は、装置筐体40aの底部近傍に設けられ未使用の多数枚のフィルムFを収納するフィルム収納部45と、フィルム収納部45の最上のフィルムFをピックアップして搬送するピックアップローラ46と、ピックアップローラ46からのフィルムFを搬送する搬送ローラ対47と、搬送ローラ対47からのフィルムFをガイドし搬送方向をほぼ反転させながらフィルムFを上下反転させて搬送するように曲面状に構成された曲面ガイド48と、曲面ガイド48からのフィルムFを副走査搬送するための搬送ローラ対49a,49bと、搬送ローラ対49aと49bとの間でフィルムFに画像データに基づいてレーザ光Lを光走査して露光することによりEC面に潜像を形成する光走査露光部55と、を備える。
【0015】
熱現像装置40は、更に、潜像の形成されたフィルムFをBC面側から加熱し所定の熱現像温度まで昇温させる昇温部50と、昇温されたフィルムFを加熱して所定の熱現像温度に保温する保温部53と、加熱されたフィルムFをBC面側から冷却する冷却部54と、冷却部54の出口側に配置されてフィルムFの濃度を測定する濃度計56と、濃度計56からのフィルムFを排出する搬送ローラ対57と、搬送ローラ対57から排出されたフィルムFを一時的に保管するように装置筐体40aの側面に傾斜して設けられたフィルム排出部58と、を備える。
【0016】
図1のように、熱現像装置40では、装置筐体40aの底部から上方に向けて、フィルム収納部45、基板部59、搬送ローラ対49a,49b・昇温部50・保温部53(上流側)の順に配置されており、フィルム収納部45が最下方にあり、また昇温部50・保温部53との間に基板部59があるので、熱影響を受け難くなっている。
【0017】
また、副走査搬送の搬送ローラ対49a,49bから昇温部50までの搬送路は比較的短く構成されているので、光走査露光部55によりフィルムFに対し露光が行われながらフィルムFの先端側では昇温部50、保温部53で熱現像加熱が行われる。
【0018】
昇温部50と保温部53とで加熱部を構成し、フィルムFを熱現像温度まで加熱し熱現像温度に保持する。昇温部50は、フィルムFを上流側で熱現像開始温度以下まで加熱する第1の加熱部51と、下流側で熱現像温度まで加熱する第2の加熱部52と、を有する。
【0019】
第1の加熱部51は、アルミニウム等の金属材料からなり固定された平面状の加熱ガイド51bと、加熱ガイド51bの裏面に密着されたシリコンラバーヒータ等からなる平面状の加熱ヒータ51cと、加熱ガイド51bの固定ガイド面51dにフィルムを押圧可能にフィルム厚さよりも狭い隙間を維持するように配置されかつ表面が金属等に比べ熱絶縁性のあるシリコンゴム等からなる複数の対向ローラ51aと、を有する。
【0020】
第2の加熱部52は、アルミニウム等の金属材料からなり固定された平面状の加熱ガイド52bと、加熱ガイド52bの裏面に密着されたシリコンラバーヒータ等からなる平面状の加熱ヒータ52cと、加熱ガイド52bの固定ガイド面52dにフィルムを押圧可能にフィルム厚さよりも狭い隙間を維持するように配置されかつ表面が金属等に比べ熱絶縁性のあるシリコンゴム等からなる複数の対向ローラ52aと、を有する。
【0021】
保温部53は、アルミニウム等の金属材料からなり所定の曲率で構成され固定された加熱ガイド53bと、曲面状の加熱ガイド53bの裏面に密着されたシリコンラバーヒータ等からなる曲面状の加熱ヒータ53cと、加熱ガイド53bの表面の固定ガイド面53dに対し所定の隙間(スリット)dを有するように対向して配置され所定の曲率で構成された断熱材等からなる曲面ガイド53aと、を有する。
【0022】
昇温部50の第1の加熱部51では、昇温部50の上流側から搬送ローラ対49a,49bにより搬送されてきたフィルムFが回転駆動された各対向ローラ51aにより固定ガイド面51dに押圧されることでBC面が固定ガイド面51dに密に接触して加熱されながら搬送されるようになっている。
【0023】
第2の加熱部52でも同様に、第1の加熱部51から搬送されてきたフィルムFが回転駆動された各対向ローラ52aにより固定ガイド面52dに押圧されることでBC面が固定ガイド面51dに密に接触して加熱されながら搬送されるようになっている。
【0024】
フィルムFは昇温部50において第1、第2の加熱部51,52の平面状の固定ガイド面51d、52dにより直線的に搬送されるが、これに対応して、フィルムFが第1の加熱部51に向け搬送ローラ対49a,49bにより直線的に搬送されるので、フィルムFの先端が第1の加熱部51の最上流の対向ローラ51aに突入するときの衝撃が低下する。
【0025】
図1では、保温部53のフィルム進入口53e及びフィルム排出口53fが所定曲率の加熱ガイド53bの曲率中心Pを通る水平線よりも下方位置にあり、保温部53のフィルム進入口53eと、フィルム排出口53fとがなす角度が90度以下であるように構成されている。
【0026】
保温部53においてフィルムは、フィルム進入口53eに対し略水平方向に進入し、所定曲率の加熱ガイド53bと曲面ガイド53aとの間の隙間dを通過して加熱(保温)されながら次第に上方に向きを変え、フィルム排出口53fから鉛直方向斜めに排出され、冷却部54に向かうようになっている。このように、保温部53では、上流側の第2の加熱部52の対向ローラ52aによるフィルム搬送方向を曲率ガイドの中心Pから離間方向とするとともに、対向ローラ52a、51aによる搬送力により保温部53の隙間dで徐々にその搬送方向を変えることで、保温部53を介して反重力方向(鉛直方向)から若干斜めにEC面が上側の状態でフィルムを案内する。
【0027】
冷却部54では、保温部53から鉛直方向斜めにEC面が上側で搬送されてきたフィルムFを金属材料等からなる冷却プレート54bの冷却ガイド面54cに対向ローラ54aにより接触させて冷却しながら、そのまま鉛直方向斜めにほぼ直線的に搬送するようになっている。なお、冷却プレート54bをフィン付きのヒートシンク構造とすることで冷却効果を増すことができる。また、冷却プレート54bの一部をフィン付きのヒートシンク構造にしてもよい。
【0028】
冷却部54から出た冷却されたフィルムFは濃度計56で濃度測定され、搬送ローラ対57により搬送されて筐体40aの外部へと破線で示す矢印方向cに鉛直方向から斜めにEC面が上側で排出され、フィルムFの先端が傾斜したフィルム排出部58に案内されながらフイルムF全体が外部に出ると、フィルムFはEC面が上側のままでその後端が図の一点鎖線で示す矢印方向dにフィルム排出部58に沿って重力方向斜めに落下し、フィルム排出部58に収まるようになっている。
【0029】
上述のように、図1の熱現像装置40では、フィルムFは、昇温部50及び保温部53においてBC面が加熱状態の固定ガイド面51d、52d、53dに向いており、熱現像感光材料の塗布されたEC面が重力方向に対し反対の上側に開放された状態で搬送される。また、冷却部54でも、フィルムFは、BC面が冷却ガイド面54cに接触し冷却され、EC面が重力方向に対し反対上側に開放された状態で搬送される。更に、冷却部54から装置筐体40aの外部に排出されフィルム排出部58に収まるまでフィルムFはEC面が重力方向に対し反対上側に開放された状態で搬送され続ける。
【0030】
また、フィルムFは、昇温部50及び保温部53において対向ローラ51a、52aによりフィルムFの加熱時間が10秒以下となるように搬送される。
【0031】
以上のように、図1の熱現像装置40によれば、均一熱伝達が必要な昇温部50において、加熱ガイド51b、52bと、フィルムFを加熱ガイド51b、52bに押圧する複数の対向ローラ51a,52aとによりフィルムFを固定ガイド面51d、52dに密着させることで接触伝熱を確保しながらフィルムFを搬送するので、濃度むらの発生を抑えた高品質の画質を得ることができる。
【0032】
また、熱現像温度への昇温後は、保温部53で加熱ガイド53bの固定ガイド面53dと曲面ガイド53aとの間の隙間dにフィルムを搬送し、特に固定ガイド面53dに密着させずに隙間dにおいて加熱(固定ガイド面53dに直接接触し伝熱加熱する、及び/又は、周囲の高温空気との接触による伝熱)しても、フィルム温度は現像温度(例えば123℃)に対し所定の範囲内(例えば0.5℃)に収まる。このように、フィルムが隙間dにおいて加熱ガイド53bの壁面または曲面ガイド53aの壁面のどちらに沿って搬送されても、フィルム温度差は0.5℃未満であり、均一な保温状態を維持できるので、仕上がりフィルムにおける濃度むら発生の虞はほとんど生じない。このため、保温部53にローラ等の駆動部品を設ける必要がないので、部品点数削減を達成できる。
【0033】
また、保温部53を介して反重力方向にフィルムを案内し、保温部53から鉛直方向斜めに冷却部54へ向けフィルムを案内するので、鉛直方向に搬送されるフィルムに比べて搬送されるフィルムの姿勢を安定化できるとともに、隙間dにおいて保温部53内で発生した揮発物質が上昇気流となり保温部53から排出し易くなり好ましい。
【0034】
更に、フィルムFの加熱時間が10秒以下で済むので、迅速な熱現像プロセスを実現でき、また、保温部53が曲面状になって鉛直方向斜めに向くよう構成され、フィルムFは冷却部54からそのまま斜め方向にフィルム排出部58へと排出されるので、装置レイアウトに応じて冷却部54を所定の曲率とすることで、設置面積の小型化・装置全体の小型化に対応可能となる。
【0035】
従来の大型機ではフィルムを現像温度に昇温以降の保温機能で充分な部分にも、昇温部と同一な加熱搬送機構としていたため、結果的に不必要な部材を使用してしまっており、部品点数の増加やコストアップを招いており、また、従来の小型機では昇温時の熱伝達を保障し難いため濃度むら発生の問題があり高画質の保障が困難であったのに対し、本実施の形態によれば、熱現像プロセスを昇温部50と保温部53とで別々に実行することで、かかる問題をいずれも解消することができる。
【0036】
また、フィルムFを昇温部50及び保温部53で熱現像感光材料の塗布されたEC面が開放された状態でBC面側から加熱することで、10秒以下の迅速処理で熱現像プロセスを実行する際に、EC面側の開放により、加熱され揮発(蒸発)しようとするフィルムFに含まれる溶媒(水分、有機溶剤等)が最短距離で離散するので、加熱時間(揮発時間)が短くなっても時間短縮の影響を受け難くなるとともに、部分的にフィルムFと固定ガイド面51d、52dとの接触性が悪い部分があっても、BC面のPETベースによる熱拡散効果により、接触性の良い部分との温度差が緩和され、結果として濃度差が起こりにくいので、濃度を安定化でき、画質が安定する。なお、一般的に加熱効率を考慮すると、EC面側加熱の方が良いと考えられていたが、フィルムFの支持基体のPETの熱伝導率0.17W/m℃、PETベースの厚さ170μm前後であることを考慮すると、時間遅れはわずかであり、ヒータ容量アップ等で容易に相殺可能であり、上記の接触むらを緩和する効果の方が期待できる方が好ましい。
【0037】
更に、保温部53を出て、冷却部54に至る間にもフィルムF中の溶媒(水分、有機溶剤等)は高温であるため揮発(蒸発)しようとしているが、冷却部54でもフィルムFのEC面が重力方向に対し反対上側に開放状態であるので、溶媒(水分、有機溶剤等)がトラップされずフィルムFから最短距離で揮発し易くなり、より長い時間、揮発させることになり、更に、フィルムFはEC面が重力方向に対し反対上側に開放されたまま装置筐体40aの外部に排出されてフィルム排出部58に収まるので、冷却〜外部搬送の間でもフィルムから溶媒が最短距離で揮発を続け、より画質(濃度)が安定する。このように、迅速処理時には冷却時間も無視できず、加熱時間10秒以下の迅速処理には特に有効となる。
【0038】
次に、本実施の形態における熱現像プロセスの迅速処理について図2を参照して説明する。図2(a)は図1の熱現像装置40における熱現像プロセスの第1の迅速処理方法における温度プロファイルを示すグラフであり、図2(b)は第2の迅速処理方法における温度プロファイルを示すグラフである。
【0039】
第1の迅速処理方法は、図2(a)に示すように、図1の熱現像装置40におけるフィルムの全処理時間Aを短縮するために加熱時間Bをより短くするものである。このために、現像最適温度Eまでの昇温時間Cをより短くするべく、昇温部50においてフィルムFを対向ローラ51a,52aで付勢し固定ガイド面51d、52dに密に接触させている。
【0040】
そして、フィルムFが現像最適温度Eに達した後、保温部53においてフィルムFを保温時間Dに熱現像温度で保温する。保温部53では、上述の通り、隙間(スリット)d内を対向ローラ等の付勢手段は無しで固定ガイド面53dに密着させないで搬送する。なお、図2(a)の冷却部における急冷は、冷却部54にヒートシンクや冷却ファン等を配置することで実現できる。
【0041】
上述のようにして、加熱時間B(昇温時間C+保温時間D)を従来の14秒前後から10秒以下に短縮でき、全処理時間Aを短縮することができる。
【0042】
また、第2の迅速処理方法は、図2(b)に示すように、図1の熱現像装置40におけるフィルムの全処理時間Aを短縮するために、フィルムで現像反応が起こる100℃以上の温度域で加熱する時間Bをより短くするものである。このために、現像最適温度Eまでの昇温時間Cをより短くするべく、昇温部50の第2の加熱部52においてフィルムFを対向ローラ52aで付勢し固定ガイド面51dに密に接触させている。
【0043】
そして、フィルムFが現像最適温度Eに達した後、保温部53においてフィルムFを保温時間Dに熱現像温度で保温する。保温部53では、上述の通り、隙間(スリット)d内を対向ローラ等の付勢手段は無しで固定ガイド面53dに密着させないで搬送する。なお、図2(b)の冷却部における急冷は、冷却部54でヒートシンクや冷却ファン等を配置することで実現できる。
【0044】
上述のようにして、加熱時間B(昇温時間C+保温時間D)を従来の14秒前後から10秒以下に短縮でき、全処理時間Aを短縮することができる。
【0045】
また、昇温部50では、図2(b)のように、フィルムFを上流側の第1の加熱部51で熱現像開始温度(例えば、100℃)以下まで予備的に加熱し、下流側の第2の加熱部52で熱現像温度まで加熱するように各加熱部51,52の加熱ヒータ51c、52cの温度制御を独立して行い、上流側で室温から熱現像開始温度以下まで加熱することで、室温から熱現像温度まで温度上昇させるよりも特に加熱ヒータ52cにおける負荷変動が少なくなるため、下流側の加熱ヒータ52cで熱現像温度まで上昇させる際の温度制御性を向上でき、現像促進温度域での第2の加熱部52での温度変動を抑制でき、また、急激な熱膨張によるフィルムの皺状変形を抑制できる。
【0046】
上述のように、本実施の形態の熱現像装置によれば、特に設置面積的な占有を抑制しかつ画質を維持できる効果を発揮し、特に、小型装置の場合、装置内では加熱部からの上昇気流が発生し温度上昇し易くなるので、フィルムの収納部45は本体の底部に設けることが好ましく、この底部に設けた収納部45を用いたとき、占有面積を増大することがなく、好ましい。なお、フィルム収納部45において、フィルムFはEC面が下向きに配置されているため、EC面からの溶媒揮発が最上位のフィルムでも最下位のフィルムでも一定になり易くかつ異物の堆積がないので、微小白点が生じ難い。
【実施例】
【0047】
次に、実施例により迅速処理加熱プロセスにおけるBC面加熱・EC面開放の効果について説明する。図4に示す熱現像装置を実験で使用し、次のような構成とした。
【0048】
加熱系として、厚さ10mmのアルミニウムプレートの裏面にシリコンラバーヒータを貼付しプレート状の加熱プレートとした。加熱プレートのガイド面に、厚さ1mmのシリコンゴム層を表層に設けた直径12mm、有効搬送長380mmのシリコンゴムローラを約8gf/cmの線圧となるよう配置し、このシリコンゴムローラで熱現像感光材料を塗布したフィルムを押圧しBC面を加熱プレートに接触させながら搬送した。加熱プレートの搬送長は210mmである。
【0049】
冷却系として、厚さ10mmのアルミニウムプレートを第1〜第3の冷却プレートとし、第1及び第2の冷却プレートには、それぞれシリコンラバーヒータを設け、冷却温度を制御可能にし、第3の冷却プレートのアルミニウムプレートの裏面に厚さ0.7mm、高さ35mm、奥行き390mmのフィン21枚をピッチ4mmで配置したヒートシンクを接合した。第1〜第3の冷却プレートに、厚さ1mmのシリコンゴム層を表層に設けた直径12mm、有効搬送長380mmのシリコンゴムローラを約8gf/cmの線圧で配置し、フィルムを押圧しながら搬送した。第1〜第3の冷却プレートの搬送長は、それぞれ60mm、105mm、105mmである。
【0050】
搬送速度は、通常処理のとき、15.1mm/sとし、迅速処理のとき21.2mm/sに変更した。加熱プレートの温度は123℃とし、第1の冷却プレートの温度は110℃、第2の冷却プレートの温度は90℃、第3の冷却プレート温度は30〜60℃とした。加熱プレートと冷却プレートの間は、プレート間での熱移動を抑制するために2mmの間隙を設けた。
【0051】
熱現像用フィルムは、特開2004−102263号公報に開示されているような有機溶剤系の熱現像用フィルムである、コニカミノルタ社製のSD-Pを使用した。
【0052】
上記フィルムをノーマル(25℃50%RH)・高湿(25℃80%RH)・低湿(25℃20%RH)の3環境下に放置し馴染ませた。(こうすることで、フィルム中の含水率も変化する。)
【0053】
これらのフィルムを用いて、図4の熱現像装置において熱現像プロセスを実行した。即ち、実施例1として、塗布液を塗布した乳剤層面(EC面)側を開放してシリコンゴムローラで押圧しBC面を加熱プレートに接触させながら搬送し、図3の加熱時間Bを10秒にして熱現像を行った(EC面開放・BC面加熱・迅速処理)。フィルムのEC面は重力方向に対し反対上側に開放されている。
【0054】
比較例1として、フィルムを上下反転してBC面側開放・EC面側加熱した以外は実施例1と同様の条件で熱現像を行った(BC面開放・EC面加熱・迅速処理)。
【0055】
比較例2として、EC面側を開放しBC面側で加熱し、加熱時間Bが14秒の通常処理とした以外は実施例1と同様の条件で熱現像を行った(EC面開放・BC面加熱・通常処理)。
【0056】
比較例3として、BC面側を開放しEC面側で加熱し、加熱時間Bが14秒の通常処理とした以外は実施例1と同様の条件で熱現像を行った(BC面開放・EC面加熱・通常処理)。
【0057】
図5(a)、(b)は、迅速処理の実施例1及び比較例1における露光量と濃度との関係を表すセンシトカーブ(γカーブ)を示す図である。図6(a)、(b)は、通常処理の比較例2及び比較例3における露光量と濃度との関係を表すセンシトカーブ(γカーブ)を示す図である。
【0058】
図6(a)、(b)のように、従来の通常処理では、BC面加熱及びEC面加熱ともにノーマル・高湿・低湿に関わりなく絶対濃度・センシトカーブにさほど差は生じなかった。
【0059】
一方、図5(a)、(b)のように、迅速処理した場合、ノーマル・高湿・低湿により比較例1のEC面加熱ではセンシトカーブがかなり変化したのに対し、実施例1のBC面加熱ではさほど変化せず、比較例3程度しかばらつかず、従来の通常処理並に維持できた。これは、EC面開放・BC面加熱とすることで、加熱され揮発(蒸発)しようとするフィルム中の残留溶媒(水分・有機溶剤等)が最短距離で離散するので、加熱時間(揮発時間)が短くなっても時間短縮の影響を受け難いためと考えられる。更に、冷却系においてもフィルムのEC面が開放状態であるので、水分等がトラップされず、より長い時間、揮発させることになり、時間短縮の影響を受け難くなると考えられる。
【0060】
以上のように本発明を実施するための最良の形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図1の保温部53は図3のように構成してもよい。即ち、図3の保温部63は、アルミニウム等の金属材料からなり所定の曲率で構成され固定された加熱ガイド63bと、曲面状の加熱ガイド63bの裏面に密着されたシリコンラバーヒータ等からなる曲面状の加熱ヒータ63cと、加熱ガイド63bの表面の固定ガイド面63dに対し所定の隙間(スリット)dを有するように対向して配置され所定の曲率で構成された断熱材等からなる曲面ガイド63aと、を有する。
【0061】
図3の保温部63のフィルム進入口63eに対しフィルムが図1の昇温部50とほぼ同様に構成された昇温部60から斜め下方に搬送される。保温部63のフィルム進入口63e及びフィルム排出口63fは所定曲率の加熱ガイド63bの曲率中心P’を通る水平線よりも下方位置にあり、曲率中心P’を基準としてフィルム進入口63eとフィルム排出口63fとがなす角度が90度以上180度未満となっている。保温部53で加熱(保温)されたフィルムが保温部63のフィルム排出口63fから鉛直方向斜めに搬送され、図1の冷却部54とほぼ同様の構成の冷却部64へ向けて案内される。このように、保温部64では、上流側の昇温部60の対向ローラ62aによるフィルム搬送方向を曲率ガイドの中心P’から離間方向とするとともに、対向ローラ62a等による搬送力により保温部64の隙間dで徐々にその搬送方向を下向きから上向きへと変えることで、保温部64を介して反重力方向斜めにフィルムを案内する。このように、フィルムはEC面が重力方向に対し反対上側に開放状態で保温部63を出て冷却部64へと案内され、更に、冷却部64から図1と同様の装置筐体外部のフィルム排出部に収まるまでEC面が重力方向に対し反対上側に開放状態で搬送される。
【0062】
以上のように、保温部63から冷却部64に至る間にもフィルム中の溶媒(水分、有機溶剤等)は高温であるため揮発(蒸発)しようとしているが、冷却部64でもフィルムのEC面が重力方向に対し反対上側に開放状態であるので、溶媒(水分、有機溶剤等)がトラップされずフィルムから最短距離で揮発し易くなり、より長い時間、揮発させることになり、更に、フィルムFはEC面が重力方向に対し反対上側に開放されたまま装置筐体の外部に排出されてフィルム排出部に収まるので、冷却〜外部搬送の間でもフィルムから溶媒が最短距離で揮発を続け、より画質(濃度)が安定する。
【0063】
また、図3の保温部63には、図1の保温部53と同様にローラ等の駆動部品を設ける必要がないので、点数削減を達成できるとともに、保温部63を介して反重力方向にフィルムを案内し、保温部63の曲率ガイドが曲率中心P’よりも下方位置で冷却部64へ向けフィルムを案内するので、鉛直方向に搬送されるフィルムに比べて搬送されるフィルムの姿勢を安定化できるとともに、隙間dにおいて保温部63内で発生した揮発物質が上昇気流となり保温部63から排出し易くなる。
【0064】
また、本実施例では、フィルム作製の際に有機溶剤系溶媒を用いたが、水系溶媒を使用することもできる。水系溶媒を使用する熱現像用フィルムは次のようにして作製できる。
【0065】
即ち、有機銀塩含有層が溶媒の30質量%以上が水である塗布液を用いてPETフィルムに塗布し、乾燥して形成し、厚さ200μmの熱現像感光性のフィルムを作製する。この有機銀塩含有層のバインダーが水系溶媒(水溶媒)に可溶または分散可能であり、25℃60%RHでの平衡含水率が2質量%以下のポリマーのラテックスからなる。このポリマーが可溶または分散可能である水系溶媒とは、水または水に70質量%以下の水混和性の有機溶媒を混合したものである。水混和性の有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルコール系、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系、酢酸エチル、ジメチルホルミアミドなどを挙げることができる。
【0066】
具体的には乳剤層(感光性層)塗布液は次のように調製する。脂肪酸銀分散物1000g、水276mlに顔料−1分散物、有機ポリハロゲン化合物−1分散物、有機ポリハロゲン化合物−2分散物、フタラジン化合物―1溶液、SBRラテックス(Tg:17℃)液、還元剤−1分散物、還元剤−2分散物、水素結合性化合物−1分散物、現像促進剤−1分散物、現像促進剤−2分散物、色調調整剤−1分散物、メルカプト化合物−1水溶液、メルカプト化合物−2水溶液を順次添加し、塗布直前にハロゲン化銀混合乳剤を添加して良く混合した乳剤層塗布液をそのままコーティングダイへ送液し塗布する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施の形態による熱現像装置の要部を概略的に示す側面図である。
【図2】図2(a)は図1の熱現像装置40における熱現像プロセスの第1の迅速処理方法における温度プロファイルを示すグラフであり、図2(b)は第2の迅速処理方法における温度プロファイルを示すグラフである。
【図3】図1の熱現像装置の保温部の変形例を概略的に示す要部側面図である。
【図4】実施例1で使用した熱現像装置の要部構成を示す側面図である。
【図5】迅速処理の実施例1(a)及び比較例1(b)における露光量と濃度との関係を表すセンシトカーブ(γカーブ)を示す図である。
【図6】通常処理の比較例2(a)及び比較例3(b)における露光量と濃度との関係を表すセンシトカーブ(γカーブ)を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
40 熱現像装置
40a 装置筐体
45 フィルム収納部
48 曲面ガイド
49a,49b 搬送ローラ対
50 昇温部(加熱手段)
51 第1の加熱部
51a 対向ローラ
51b 加熱ガイド
51c 加熱ヒータ
51d 固定ガイド面
52 第2の加熱部
52a 対向ローラ
52b 加熱ガイド
52c 加熱ヒータ
52d 固定ガイド面
53 保温部(加熱手段)
53a 曲面ガイド
53b 加熱ガイド
53c 加熱ヒータ
53d 固定ガイド面
53e フィルム進入口
53f フィルム排出口
54 冷却部(冷却手段)
54a 対向ローラ
54b 冷却プレート
54c 冷却ガイド面
55 光走査露光部
58 フィルム排出部
63 保温部(加熱手段)
63a 曲面ガイド
63b 加熱ガイド
63c 加熱ヒータ
63e フィルム進入口
63f フィルム排出口
64 冷却部(冷却手段)
F フィルム、シートフィルム
d 隙間
P、P’ 曲率ガイドの曲率中心


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基体の片面上に熱現像感光材料が塗布されたシートフィルムを加熱時間が10秒以下となるように加熱手段により加熱し、次いで冷却手段に搬送する熱現像方法であって、
前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を開放し、支持基体面側から加熱するとともに、前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を重力方向に対し反対上側に開放しながら前記シートフィルムを前記冷却手段に搬送することを特徴とする熱現像方法。
【請求項2】
前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を重力方向に対し反対上側に開放しながら前記シートフィルムを前記冷却手段から外部に搬送することを特徴とする請求項1に記載の熱現像方法。
【請求項3】
支持基体の片面上に熱現像感光材料が塗布されたシートフィルムを加熱時間が10秒以下となるように加熱手段により加熱し搬送し、次いで冷却手段により冷却する熱現像装置であって、
前記加熱手段は、前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を開放し、支持基体面側から加熱し、
前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を重力方向に対し反対上側に開放しながら、前記シートフィルムを前記冷却手段に搬送するように構成されていることを特徴とする熱現像装置。
【請求項4】
前記シートフィルムの熱現像感光材料の塗布された面側を重力方向に対し反対上側に開放しながら前記シートフィルムを前記冷却手段から装置外部に搬送することを特徴とする請求項3に記載の熱現像装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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