説明

熱硬化性樹脂制振鋼板の短間隔連続スポット溶接方法及び溶接機

【目的】 熱硬化性樹脂制振鋼板を短間隔で連続スポット溶接しても円周切れ等の欠陥の発生を防止した溶接方法及び溶接機の提案。
【構成】 電極間にスイッチを有するバイパス回路を設け、溶接電流iと電極間電圧vを監視し時間tに対する変化がdi/dt<0、dv/dt≧0となったとき、溶接電流をバイパス回路に流し、i=0となったときバイパス回路をオフとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、2枚の鋼板に熱硬化性樹脂を挟んで積層したサンドイッチ構造の複合型制振鋼板の連続交流スポット溶接方法及び溶接機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】制振鋼板は、スキン鋼板間に樹脂をサンドイッチする構造のため、本来導電性を有することはなく、このため樹脂中に金属粉、金属ファイバー、等を入れ直接溶接する技術が、特開昭57−51453 号公報、特開昭61−022495号公報、特開昭62−151332号公報、特開昭62−152752号公報等に開示されている。これらの技術は、樹脂中の金属粉の量、その大きさ、樹脂厚との関係を示しており、これにより二枚の鋼板間バイパス回路でつなぐことなくスポット溶接ができるようになった。
【0003】この他に、特開平3−86380 号公報には溶接方法として、2段通電法ナゲット(溶接個所の溶融部分)の成長を制御し良好な継手強度を得ることが示されている。これに付随して従来、薄膜樹脂コーティングメッキ鋼板に使用されている、アップスロープ溶接方法等が欠陥発生に効果ありとされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、制振鋼板は、自動車、家電、建材等の分野で需要を伸ばしており、生産性の点から通常の鋼板と同等の溶接性が求められることが多い。しかし、制振鋼板の場合は、樹脂をサンドイッチする構造上特有の溶接欠陥を発生することが知られている。
【0005】また、近年制振鋼板も耐食性の点から裸で使用されることは少なく、塗装・焼付けして使用される。この場合耐熱性が要求されるのであるが、樹脂の特性として耐熱性を有する熱硬化性樹脂が主流になりつつある。熱可塑性樹脂に比較して熱硬化性樹脂は溶接性が劣ることは公知である。特に短間隔で連続的に溶接点を形成する場合には、電極周囲がとけおちる、円周切れと呼ばれる欠陥が発生する。この欠陥は耐食性、ナゲットの形成の安定性からも問題にされ、解決することが望まれていた。
【0006】本発明は、熱硬化性樹脂を用いた制振鋼板を短間隔で連続スポット溶接しても上記のような欠陥の発生が防止可能な溶接方法及び溶接機を提案することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、熱硬化性樹脂を用いた制振鋼板を10〜60mmの間隔で連続交流スポット溶接するに際し、溶接電流iの波形と電極間電圧vの波形を監視し、該電流iの時間tに対する変化がdi/dt<0、かつ該電圧vの時間tに対する変化がdv/dt≧0となったとき、該溶接電流を回路抵抗値が 100μΩ以下のバイパス回路に流し、次いで該溶接電流iがi=0になったとき、該バイパス回路を絶縁状態にすることを特徴とする熱硬化性樹脂制振鋼板の短間隔連続スポット溶接方法であり、また熱硬化性樹脂制振鋼板の短間隔連続スポット溶接装置において、電極間にスイッチを有するバイパス回路を設け、かつ溶接電流iの波形と電極間電圧vの波形を採取する制御器を設け、該制御器において該電流iの時間tに対する変化di/dtならびに該電圧vの時間tに対する変化dv/dtを演算し、di/dt<0かつdv/dt≧0となったとき該スイッチをON状態にし、次いでi=0となったとき該スイッチをOFF状態にする指示回路を該制御器と該スイッチ間に設けたことを特徴とする熱硬化性樹脂制振鋼板の短間隔連続スポット溶接機である。またバイパス回路の回路抵抗は 100μΩ以下が望ましい。
【0008】
【作用】まず、基本的な制振鋼板のスポット溶接メカニズムを説明する。制振鋼板のスポット溶接は、まず樹脂中に混入された導電物質に電流が流れ、この発熱あるいは鋼板のジュール発熱による熱で、溶接電極下の樹脂が排除され、スキン鋼板の接触が始まり通常の溶接となる。
【0009】制振鋼板の連続打点時の円周切れ欠陥の発生メカニズムは、次のように考えられている。図2に示すように、短間隔で連続的にスポット溶接を行っている場合を考えると、溶接電流16は、今溶接しようとする電極下に流れるのみならず、既に溶接された溶接点にも分流する。この分流電流は、電極下の抵抗値と既溶接点2の間の抵抗値の大きさに依存している。冷延鋼板等のスポット溶接では、電極下の抵抗のほうが圧倒的に小さく普通は問題にならない。制振鋼板1の場合には溶接抵抗値が大きいために、分流電流が流れて電極3周囲の鋼板がジュール熱により発熱し、ここが溶解すると言われている。
【0010】ここで本発明者等は鋭意研究の結果以下の事実を見出した。熱硬化性樹脂を使用した制振鋼板の場合には、溶接過程において電極下の樹脂が明確な融点を持たないためになかなか排除されない。従って、樹脂中に混入された導電物質は溶接電流により発熱し、溶断し絶縁状態が現れる。溶接点が近くにない場合には、溶接機のリアクタンスLに蓄えられた電磁エネルギー1/2LI2 によるアーク放電が絶縁ポイントに発生する。しかし、溶接しようとする点の近傍にすでに溶接点が存在すると、この電磁エネルギーは、アーク放電電圧より低い既溶接点に放出される。この電磁エネルギーは、電極から電極周囲のスキン材を経て既溶接点に至る。従ってこの電磁エネルギーを別回路において逃がすことにより、スキン鋼板をジュール発熱から防止する。この効果により電極周囲の円周切れ欠陥を防止することができる。
【0011】このアークの発生は、溶接時の電流波形と電圧波形を監視することで検知可能である。アークの発生の特徴は、電流が低下して、電圧が上昇することで、従って各諸元の時間変化を監視することで検知可能である。すなわち、溶接機にバイパス回路を設けておき、di/dt<0かつdv/dt≧0のとき、蓄えられた電磁エネルギーを逃すことが必要で、バイパス回路の抵抗は既溶接点の抵抗値よりも充分に小さいことが要求される。一般に既溶接点抵抗は 500μΩ程度あるので、バイパス回路の回路抵抗は 100μΩ以下であれば十分である。
【0012】以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0013】
【実施例】まず実施例に使用した制振鋼板は、0.4mmtのスキン鋼板を使用し、ポリエステル系熱硬化性樹脂に金属粉を樹脂に対して0.5vol%混入し、樹脂厚を40μmとした。スポット溶接機は、図1に示す構成とし、比較例として制御回路12及びバイパス回路11を取り外して、スポット溶接を行った。また、バイパス回路11の抵抗値を50μΩ〜1Ωまで変えてスポット溶接を行った。なお、図1で4は電源、5は電極3、3間を流れる電流iを測る電流計、6は電極間電圧vを測る電圧計で、それぞれ制御器7にインプットされ、時間tに対する変化すなわちdi/dtおよびdv/dtが計算され、di/dt<0かつdv/dt≧0のとき指示回路によりスイッチ8をオン状態にし、次にi=0のときスイッチ8をオフ状態にする。9は抵抗器で10はその冷却装置を示す。
【0014】
電極 : Cr−Cu合金 先端形状がCF−5mmφ溶接電流: 8.0kA電極加圧力:180kgf溶接時間: 10cycle (50Hz)溶接継手: 制振鋼板/制振鋼板打点間隔: 10mm〜150mm各条件にてスポット溶接を連続で1000点行い、発生した欠陥率を求めた。
【0015】以上の結果を表1示す。
【0016】
【表1】


【0017】この実施例において本発明の範囲において、欠陥発生がないことが判る。
【0018】
【発明の効果】本発明によれば、熱硬化性樹脂を使用した制振鋼板であっても、円周切れ欠陥を発生することなく、充分な強度を有し、且つ耐食性にも優れた、スポット溶接が実現する。このため、樹脂複合鋼板の用途が拡大される結果、騒音や振動が軽減され、良好な環境が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のバイパス回路、制御回路付の交流スポット溶接機の配線概略図である。
【図2】制振鋼板の連続的なスポット溶接時の状況を模式的に示した図である。
1: 制振鋼板
2: 既溶接点(ナゲット)
3: 電極
4: 電源
5: 電流計
6: 電圧計
7: 制御器
8: スイッチ
9: 抵抗
10: 冷却装置
11: バイパス回路
12: 指示回路
13: 回路
14: 回路
15: 発熱領域
16: 分流電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱硬化性樹脂を用いた制振鋼板を10〜60mmの間隔で連続交流スポット溶接するに際し、溶接電流iの波形と電極間電圧vの波形を監視し、該電流iの時間tに対する変化がdi/dt<0、かつ該電圧vの時間tに対する変化がdv/dt≧0となったとき、該溶接電流を回路抵抗値が 100μΩ以下のバイパス回路に流し、次いで該溶接電流iがi=0になったとき、該バイパス回路を絶縁状態にすることを特徴とする熱硬化性樹脂制振鋼板の短間隔連続スポット溶接方法。
【請求項2】 熱硬化性樹脂制振鋼板の短間隔連続スポット溶接装置において、電極間にスイッチを有するバイパス回路を設け、かつ溶接電流iの波形と電極間電圧vの波形を採取する制御器を設け、該制御器において該電流iの時間tに対する変化di/dtならびに該電圧vの時間tに対する変化dv/dtを演算し、di/dt<0かつdv/dt≧0となったとき該スイッチをON状態にし、次いでi=0となったとき該スイッチをOFF状態にする指示回路を該制御器と該スイッチ間に設けたことを特徴とする熱硬化性樹脂制振鋼板の短間隔連続スポット溶接機。

【図2】
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【図1】
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