説明

熱線遮断膜

【目的】耐湿性に優れた熱線遮断膜を提供する。
【構成】基体1上に酸化物膜2、金属膜3、酸化物膜2、と交互に積層された(2n+1)層(n≧1)の熱線遮断膜において、基体からみて最も離れた酸化物膜4(B)を、Si、B、Ti、Mg、Cr、Sn、Gaのうち少なくとも1種をZnとの総量に対し、1〜10原子%、好ましくは2〜6原子%、ドープした酸化亜鉛膜を少なくとも1層含む膜とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は耐湿性の優れた熱線遮断膜に関する。
【0002】
【従来の技術】基体表面に酸化物膜,Ag膜,酸化物膜を順に積層した3層からなる膜、または酸化物膜,Ag膜,酸化物膜,Ag膜,酸化物膜を順次積層した5層からなる膜等の(2n+1)層(n≧1)からなる膜は、Low−E(Low-Emissivity)膜と呼ばれる熱線遮断膜であり、かかるLow−E膜を形成したガラスは、Low−Eガラスと呼ばれている。
【0003】これは、室内からの熱線を反射することにより室内の温度低下を防止できる機能ガラスであり、暖房負荷を軽減する目的でおもに寒冷地で用いられている。また、太陽熱の熱線遮断効果も有するため、自動車の窓ガラスにも採用されている。透明でありかつ導電性を示すため、電磁遮蔽ガラスとしての用途もある。導電性プリント等からなるバスバー等の通電加熱手段を設ければ、通電加熱ガラスとして用いることができる。
【0004】おもなLow−Eガラスとしては、ZnO/Ag/ZnO/ガラスという膜構成を有するものが挙げられる。しかし、このような膜では、耐擦傷性、化学的安定性などの耐久性に欠けるため、単板で使うことができず、合わせガラスまたは複層ガラスにする必要があった。特に耐湿性に問題があり、空気中の湿度や合わせガラスとする場合の中間膜に含まれる水分により、白色斑点や白濁を生じる。このようなことから、単板での保管やハンドリングに注意を要していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来技術が有していた上記の欠点を解決し、耐湿性の優れた熱線遮断膜を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上述の課題を解決すべくなされたものであり、基体上に酸化物膜、金属膜、酸化物膜、と交互に積層された(2n+1)層(n≧1)からなる熱線遮断膜において、基体から見て、基体から最も離れた金属膜(A)の反対側に形成された酸化物膜(B)はSi、Ti、Cr、B、Mg、Sn、Gaのうち少なくとも1種をZnとの総量に対し、1〜10原子%、好ましくは2〜6原子%、ドープした酸化亜鉛膜を少なくとも1層含むことを特徴とする熱線遮断膜である。
【0007】以下に本発明における酸化物膜(B)について説明する。上述のように、従来のLow−Eガラス(膜構成:ZnO/Ag/ZnO/ガラス)の場合、単板で室内放置すると、空気中の湿気により白色斑点や白濁を生じる。白色斑点や白濁の存在する膜を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、膜の表面にひびわれやしわの存在、および膜の剥離の存在が確認された。
【0008】この膜の剥離部について、AgおよびZnの各元素について元素分析を行ったところ、Agは剥離の有無にかかわらずほぼ一定量存在するのに対して、Znは剥離部で検出量がほぼ半分になっていた。つまり、剥離は最上層のZnO層とAg層の界面でおこっていることがわかった。
【0009】次に、耐湿試験(50℃、相対湿度95%雰囲気中、6日間放置)前後の試料をCuKα線を用いたX線回折法で調べた。六方晶酸化亜鉛の(002)回折線、立方晶Agの(111)回折線について、回折角2θ(ピークの重心位置)、結晶面間隔d、積分幅I.W.をそれぞれ表1に示す。
【0010】X線回折法におけるピークのずれの程度により内部応力による格子歪の程度を検出することができる。ZnO(b)/Ag/ZnO(a)/ガラスという試料の場合、最上層のZnO(b)によるピークが、ZnO(a)によるピークの5〜15倍の強さで検出されるため、試料全体におけるX線回折法のZnOのピークは、若干ZnO(a)による影響があるかもしれないが、ほとんど最上層の六方晶ZnO(b)によるピークと考えてよい。
【0011】
【表1】


【0012】表1より、耐湿試験前のLow−E膜のZnOの(002)回折線は、ZnO粉末の2θ=34.44 Åと比較するとかなり位置がずれている。これは、結晶歪の存在を示唆している。この結晶歪は、膜の内部応力によるものと考えられる。耐湿試験前サンプルでは、結晶面間隔d002 =2.650 Åとなっており、ZnO粉末のd002 =2.602 Åと比較すると1.8 %大きい。このことから、結晶がかなり大きな圧縮応力を受けていることがわかる。耐湿試験後のサンプルでは、d002 =2.641 Åとなっており、やや結晶歪が小さくなっている。これは、最上層の六方晶ZnOの内部応力が、ひび、しわ、剥離により一部緩和されたことと対応している。
【0013】Agの(111)回折線に関しては、耐湿試験後の積分幅が小さくなっていることから、耐湿試験を施すことにより、Agが粒成長すると考えられる。
【0014】つまり、白濁発生のメカニズムは、最上層のZnO膜が内部応力に耐えきれず、Ag膜との界面から剥離、破損し、次に銀の劣化、即ち粒径が増大し、かかる破損した表面および大きな銀粒子により光が散乱されて白濁して見えるものと考えられる。表1の例では、内部応力は圧縮応力であるが、内部応力には圧縮応力と引張応力の2種類があり、いずれも膜破損の原因となる。
【0015】以上のことから、湿気による白濁を抑えるためには、最上層ZnO膜の内部応力低減が有効であることがわかる。
【0016】本発明では、酸化亜鉛にSi、B、Ti、Mg、Cr、Sn、Gaのいずれか少なくとも1種をドープすることにより、内部応力を低減でき、熱線遮断膜の耐湿性が改善できることを見出した。
【0017】酸化物膜(B)1層(450Å)の内部応力、および、ガラス/ZnO(450Å)/Ag(100Å)の上に同様の酸化物膜(B)(450Å)をスパッタリング法により形成した熱線遮断膜の六方晶酸化亜鉛の(002)回折線の回折角2θ(重心位置)と、かかる熱線遮断膜の耐湿性の関係を表2に示す。
【0018】
【表2】


【0019】耐湿性は、50℃、相対湿度95%の雰囲気中に6日間放置するという試験を行い、評価した。評価基準は、膜の端部付近に白濁がなく、直径1mm以上の白色斑点が現れなければ○、膜の端部付近に白濁が現れたもの、または直径1mm以上の白色斑点が現れたものを△、膜の全面に白濁が生じたものを×とした。Si、B、Ti、Mg、Cr、Sn、Ga、Ca、Baのドープ量は、すべて、Znとの総量に対して原子比で4%である。
【0020】表2より、Si、B、Ti、Mg、Cr、Sn、Gaのいずれかを酸化亜鉛膜にドープした場合、酸化亜鉛膜の内部応力が低くなる。これらの各種元素をドープした酸化亜鉛膜を使用した熱線遮断膜の耐湿性が改善される。この場合、ノンドープのものと比較すると、ZnOの(002)回折線の回折角2θ(重心位置)が高角度側にシフトする。これは、結晶歪が、ノンドープのものより小さいことを示唆しており、膜の内部応力が小さいことの裏付けとなっている。
【0021】図1に本発明の熱線遮断膜の代表例の断面図を示す。図1(a)は、3層からなる熱線遮断膜の断面図、図1(b)は、(2n+1)層からなる熱線遮断膜の断面図である。1は基体、2は酸化物膜、3は金属膜、4はSi、Ti、Cr、B、Mg、Sn、Gaのうち少なくとも1種をドープした酸化亜鉛膜を少なくとも1層含む酸化物膜(B)である。
【0022】本発明における基体1としては、ガラス板の他、プラスチック等のフィルムや板も使用できる。
【0023】酸化物膜(B)は、Si、Ti、Cr、B、Mg、Sn、Gaのうち少なくとも1種をドープした酸化亜鉛膜を少なくとも1層含む。これらの元素のドープ量は、1原子%未満では、内部応力があまり低減せず、耐湿性改善に至らないし、10原子%を超えても内部応力低減効果はそれほど大きくは変らない。また、添加量が多くなると、湿気によりヘイズが出やすくなり、かえって耐湿性が悪くなる。さらに、添加量が多くなるほど成膜速度が遅くなり、生産性が悪くなる。以上のことを考慮すると最適なドープ量は、Znとの総量に対して、1〜10原子%、好ましくは2〜6原子%である。
【0024】酸化物膜(B)を構成するZnO膜に関しては、上述のように、六方晶酸化亜鉛の内部応力と、CuKα線を用いたX線回折による回折角2θ(重心位置)とがほぼ対応している。酸化亜鉛を主成分とする膜の結晶系は六方晶である。本発明の熱線遮断膜の耐湿性向上のためには、熱線遮断膜のCuKα線を用いたX線回折において、六方晶酸化亜鉛の(002)回折線の回折角2θ(重心位置)が33.88 ゜から 35.00゜の間の値、特に、 34.00゜から 34.88゜の値であることが好ましい。回折角2θが 34.44゜以下の値は、圧縮応力、 34.44゜以上の値は、引張応力を示す。
【0025】酸化物膜(B)の膜厚は、特に限定されないが、熱線遮断膜全体の色調、可視光透過率を考慮すると、200〜700Åが望ましい。酸化物膜(B)は、多層でもよい。例えば、本発明の熱線遮断膜を内側にしてプラスチック中間膜を介してもう1枚の基体と積層して合わせガラスとする場合に、かかるプラスチック中間膜との接着力の調整、もしくは、耐久性向上の目的で中間膜と接する層として、100Å以下の酸化物膜(例えば、酸化クロム膜)、他の元素をドープした酸化物からなる膜、複合酸化物膜などを形成する場合があるが、このような膜を含めて2層以上の構成とすることもできる。
【0026】酸化物膜(B)を酸素含有雰囲気中で反応性スパッタリングにより成膜する場合は、金属膜(A)の酸化を防ぐために、まず金属膜(A)上に酸素の少ない雰囲気中で薄い金属膜もしくは酸化不充分な金属酸化物膜を形成するのが望ましい。この薄い金属膜は、酸化物膜(B)の成膜中に酸化されて酸化物膜となる。したがって上述の酸化物膜(B)の好ましい膜厚は、かかる薄い金属膜が酸化されてできた酸化物膜の膜厚も含んだ膜厚である。本明細書において、金属膜3上に形成する酸化物膜に関しても、同様である。
【0027】酸化物膜(B)以外の酸化物膜2の材料は、特に限定されない。ZnO、SnO2 、TiO2 、これらの2種以上を含む積層膜、これらに他の元素を添加した膜等が使用できるが、さらに、生産性を考慮すると、ZnO、SnO2 、ZnO−SnO2 を交互に2層以上積層させた膜、Si、B、Ti、Mg、Cr、Sn、Gaのうち少なくとも一つをZnとの総量に対し合計10原子%以下ドープしたZnO膜が好ましい。
【0028】色調、可視光透過率を考慮すると、酸化物膜2は200Å〜700Åであることが望ましい。積層膜の場合、合計200Å〜700Åであればよく、それぞれの層の膜厚は限定されない。
【0029】特に、酸化物膜、金属膜、酸化物膜、金属膜、酸化物膜、という5層構成、あるいは5層以上の膜構成の熱線遮断膜の場合、最外層の酸化物膜(B)以外の酸化物膜2もSi、B、Ti、Mg、Cr、Sn、Gaのうち少なくとも1種をZnとの総量に対し、1〜10原子%、好ましくは2〜6原子%、ドープした酸化亜鉛膜を少なくとも1層含む膜を用いることが望ましい。
【0030】本発明における金属膜3としては、Ag、またはAu、Cu、Pdのうちの少なくとも一つを含むAgを主成分とする膜などの、熱線遮断性能を有する膜が使用できる。金属膜3は、かかる熱線遮断性能を有する金属膜の他に、各種の機能を有する金属層を有していてもよい。例えば、熱線遮断性能を有する金属膜と酸化物膜(B)や酸化物膜2との間の接着力を調整する金属層や、熱線遮断性能を有する金属膜からの金属の拡散防止機能を有する金属層等が挙げられる。これらの機能を有する金属層を構成する金属の例としては、Zn,Al,Cr,W,Ni,Tiや、これらのうち2種以上の金属の合金等が挙げられる。
【0031】これらの金属層を含む金属膜3全体の膜厚としては、熱線遮断性能および可視光透過率等とのかねあいを考慮して、50Å〜150Å、特に100Å程度が適当である。
【0032】
【作用】酸化物膜(B)としてSi、Ti、Cr、B、Mg、Sn、Gaのうち少なくとも1種をZnとの総量に対し、1〜10原子%、好ましくは2〜6原子%、ドープした酸化亜鉛膜を少なくとも1層含むことにより従来の熱線遮断膜に比べて耐湿性が著しく改善される。これは、酸化物膜の低内部応力化により、酸化物膜が破損しにくくなり、湿気による劣化が抑えられるためと考えられる。
【0033】
【実施例】
(実施例1)直流スパッタリング法により、ガラス基板上に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Znとの総量に対してSiを3.0原子%含むZnSi金属をターゲットとして、SiドープZnO膜を 450Å形成した。
【0034】次いで、Arのみの 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Agをターゲットとして、Ag膜を100 Å形成し、次いで雰囲気を変えずに、SiをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、20Å程度のごく薄いSiドープZn膜を形成した。最後に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、SiをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、上記Ag膜上にSiドープZnO膜を形成した。
【0035】SiドープZnO膜の成膜中に、SiドープZn膜が酸化雰囲気中で酸化されてSiドープZnO膜となったので、Ag膜上に形成されたSiドープZnO膜の総膜厚は、450 Åであった。成膜中の基板温度は室温、スパッタ電力密度は、SiドープZnO膜の成膜時には2.7W/cm2 、Ag膜の成膜時には、0.7W/cm2 であった。なお、SiドープZnO膜におけるSiとZnの割合は、ターゲットにおける割合と同じであった。
【0036】上記熱線遮断膜について、50℃、相対湿度95%の雰囲気中に6日間放置するという耐湿試験を行った。耐湿試験後の外観は、ごく微小の斑点は見られたものの、目立った白色斑点および白濁は観察されず良好であった。
【0037】(実施例2)直流スパッタリング法により、ガラス基板上に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Znとの総量に対してCrを3.0原子%含むZnCr金属をターゲットとして、CrドープZnO膜を450 Å形成した。
【0038】次いで、Arのみの 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Agをターゲットとして、Ag膜を100 Å形成し、次いで雰囲気を変えずに、CrをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、20Å程度のごく薄いCrドープZn膜を形成し、最後に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、CrをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、上記Ag膜上にCrドープZnO膜を形成した。
【0039】CrドープZnO膜の成膜中に、CrドープZn膜が酸化雰囲気中で酸化されてCrドープZnO膜となったので、Ag膜上に形成されたCrドープZnO膜の総膜厚は、450 Åであった。成膜中の基板温度は室温、スパッタ電力密度は、CrドープZnO膜の成膜時には2.7W/cm2 、Ag膜の成膜時には、0.7W/cm2 であった。なお、CrドープZnO膜におけるCrとZnの割合は、ターゲットにおける割合と同じであった。
【0040】ここで得た熱線遮断膜について上記実施例と同様の耐湿試験を行ったところ、耐湿試験後の外観は、上記実施例と同様良好であった。
【0041】(実施例3)直流スパッタリング法により、ガラス基板上に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Znとの総量に対してTiを3.0原子%含むZnTi金属をターゲットとして、TiドープZnO膜を450 Å形成した。
【0042】次いで、Arのみの 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Agをターゲットとして、Ag膜を100 Å形成し、次いで雰囲気を変えずに、TiをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、20Å程度のごく薄いTiドープZn膜を形成し、最後に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、TiをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、上記Ag膜上にTiドープZnO膜を形成した。
【0043】TiドープZnO膜の成膜中に、TiドープZn膜が酸化雰囲気中で酸化されてTiドープZnO膜となったので、Ag膜上に形成されたTiドープZnO膜の総膜厚は、450 Åであった。成膜中の基板温度は室温、スパッタ電力密度は、TiドープZnO膜の成膜時には2.7W/cm2 、Ag膜の成膜時には、0.7W/cm2 であった。なお、TiドープZnO膜におけるTiとZnの割合は、ターゲットにおける割合と同じであった。
【0044】ここで得た熱線遮断膜について上記実施例と同様の耐湿試験を行ったところ、耐湿試験後の外観は、上記実施例と同様良好であった。
【0045】(実施例4)直流スパッタリング法により、ガラス基板上に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Znとの総量に対してMgを3.0原子%含むZnMg金属をターゲットとして、MgドープZnO膜を450 Å形成した。
【0046】次いで、Arのみの 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Agをターゲットとして、Ag膜を100 Å形成し、次いで雰囲気を変えずに、MgをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、20Å程度のごく薄いMgドープZn膜を形成し、最後に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、MgをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、上記Ag膜上にMgドープZnO膜を形成した。
【0047】MgドープZnO膜の成膜中に、MgドープZn膜が酸化雰囲気中で酸化されてMgドープZnO膜となったので、Ag膜上に形成されたMgドープZnO膜の総膜厚は、450 Åであった。成膜中の基板温度は室温、スパッタ電力密度は、MgドープZnO膜の成膜時には2.7W/cm2 、Ag膜の成膜時には、0.7W/cm2 であった。なお、MgドープZnO膜におけるMgとZnの割合は、ターゲットにおける割合と同じであった。
【0048】ここで得た熱線遮断膜について上記実施例と同様の耐湿試験を行ったところ、耐湿試験後の外観は、上記実施例と同様良好であった。
【0049】(実施例5)直流スパッタリング法により、ガラス基板上に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Znとの総量に対してBを3.0原子%含むZnB金属をターゲットとして、BドープZnO膜を450 Å形成した。
【0050】次いで、Arのみの 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Agをターゲットとして、Ag膜を100 Å形成し、次いで雰囲気を変えずに、BをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、20Å程度のごく薄いBドープZn膜を形成し、最後に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、BをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、上記Ag膜上にBドープZnO膜を形成した。
【0051】BドープZnO膜の成膜中に、BドープZn膜が酸化雰囲気中で酸化されてBドープZnO膜となったので、Ag膜上に形成されたBドープZnO膜の総膜厚は、450 Åであった。成膜中の基板温度は室温、スパッタ電力密度は、BドープZnO膜の成膜時には2.7W/cm2 、Ag膜の成膜時には、0.7W/cm2 であった。なお、BドープZnO膜におけるBとZnの割合は、ターゲットにおける割合と同じであった。
【0052】ここで得た熱線遮断膜について上記実施例と同様の耐湿試験を行ったところ、耐湿試験後の外観は、上記実施例と同様良好であった。
【0053】(実施例6)直流スパッタリング法により、ガラス基板上に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Znとの総量に対してSnを3.0原子%含むZnSn金属をターゲットとして、SnドープZnO膜を450 Å形成した。
【0054】次いで、Arのみの 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Agをターゲットとして、Ag膜を100 Å形成し、次いで雰囲気を変えずに、SnをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、20Å程度のごく薄いSnドープZn膜を形成し、最後に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、SnをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、上記Ag膜上にSnドープZnO膜を形成した。
【0055】SnドープZnO膜の成膜中に、SnドープZn膜が酸化雰囲気中で酸化されてSnドープZnO膜となったので、Ag膜上に形成されたBドープZnO膜の総膜厚は、450 Åであった。成膜中の基板温度は室温、スパッタ電力密度は、SnドープZnO膜の成膜時には2.7W/cm2 、Ag膜の成膜時には、0.7W/cm2 であった。なお、SnドープZnO膜におけるSnとZnの割合は、ターゲットにおける割合と同じであった。
【0056】ここで得た熱線遮断膜について上記実施例と同様の耐湿試験を行ったところ、耐湿試験後の外観は、上記実施例と同様良好であった。
【0057】(実施例7)直流スパッタリング法により、ガラス基板上に、Arの雰囲気中で、Znとの総量に対して、Gaを5.0原子%含むGaドープZnOをターゲットとして、GaドープZnO膜を450 Å形成した。次いで、雰囲気を変えずに、Agをターゲットとして、Ag膜を100 Å形成した。最後に雰囲気を変えずに、Gaを5.0原子%含むGaドープZnOをターゲットとして、上記Ag膜上にGaドープZnO膜を 450Å形成した。
【0058】成膜中の基板温度は室温、スパッタ電力密度は、GaドープZnO膜の成膜時には1.1W/cm2 、Ag膜の成膜時には、0.7W/cm2 であった。なお、GaドープZnO膜におけるGaとZnの割合は、ターゲットにおける割合と同じであった。
【0059】ここで得た熱線遮断膜について上記実施例と同様の耐湿試験を行ったところ、耐湿試験後の外観は、上記実施例と同様良好であった。
【0060】(比較例1)直流スパッタリング法により、ガラス基板上に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Zn金属をターゲットとして、ZnO膜を450 Å形成した。
【0061】次いで、Arのみの 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Agをターゲットとして、Ag膜を100 Å形成し、次いで雰囲気を変えずに、Zn金属をターゲットとして、20Å程度のごく薄いZn膜を形成し、最後に、Ar:O2 =1:9の 2.0×10-3Torrの雰囲気中で、Znをターゲットとして、上記Ag膜上にZnO膜を形成した。
【0062】ZnO膜の成膜中に、Zn膜が酸化雰囲気中で酸化されてZnO膜となったので、Ag膜上に形成されたZnO膜の総膜厚は、450 Åであった。成膜中の基板温度は室温、スパッタ電力密度は、ZnO膜の成膜時には2.7W/cm2 、Ag膜の成膜時には、0.7W/cm2 であった。
【0063】ここで得た熱線遮断膜について上記実施例と同様の耐湿試験を行ったところ、耐湿試験後の外観は、直径1mm以上のはっきりした白色斑点、および周辺部に白濁がみられた。
【0064】
【発明の効果】本発明による熱線遮断膜は、耐湿性が著しく改善されている。このため、単板での取扱が容易になると考えられる。また単板での室内長期保存の可能性も実現する。さらに、自動車用、建築用熱線遮断ガラスの信頼性向上につながる。また、合わせガラスとした際にも中間膜が含有している水分によって劣化することがないので、自動車用、建築用等の合わせガラスの耐久性が向上する。
【0065】本発明の熱線遮断膜は、金属膜を有しているため、熱線遮断性能とともに導電性もある。したがって、本発明の熱線遮断膜は、この導電性を利用して、種々の技術分野に使用できる。例えば、エレクトロニクス分野においては、電極として(太陽電池の電極などにも使用できる)、また、通電加熱窓においては、発熱体として、あるいは、窓や電子部品においては、電磁波遮蔽膜として、使用できる。場合によっては、本発明の熱線遮断膜は、基体の上に、各種の機能を有する膜を介して形成することもできる。このような場合には、本発明の熱線遮断膜の各膜の最適膜厚を選択するなどにより、その用途に応じて、光学性能を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による熱線遮断膜をガラス上に形成した熱線遮断ガラスの一例の断面図
【符号の説明】
1:基体
2:酸化物膜
3:金属膜
4:酸化物膜(B)

【特許請求の範囲】
【請求項1】基体上に酸化物膜、金属膜、酸化物膜、と交互に積層された(2n+1)層(n≧1)からなる熱線遮断膜において、基体から見て、基体から最も離れた金属膜(A)の反対側に形成された酸化物膜(B)は、Si、Ti、Cr、B、Mg、Sn、Gaのうち少なくとも1種をZnとの総量に対し、1〜10原子%ドープした酸化亜鉛膜を少なくとも1層含むことを特徴とする熱線遮断膜。
【請求項2】前記酸化物膜(B)はSi、Ti、Cr、B、Mg、Sn、Gaのうち少なくとも1種をZnとの総量に対し、2〜6原子%ドープした酸化亜鉛膜を少なくとも1層含むことを特徴とする請求項1記載の熱線遮断膜。
【請求項3】前記金属膜(A)はAgを主成分とする金属膜であることを特徴とする請求項1記載の熱線遮断膜。
【請求項4】前記酸化亜鉛膜は、酸化亜鉛の結晶系が六方晶であり、CuKα線を用いたX線回折法による六方晶酸化亜鉛の(002)回折線の回折角2θ(重心位置)の値が 33.88゜以上 35.00゜以下の膜であることを特徴とする請求項1記載の熱線遮断膜。
【請求項5】前記酸化亜鉛膜は、CuKα線を用いたX線回折法による六方晶酸化亜鉛の(002)回折線の回折角2θ(重心位置)の値が 34.00゜以上 34.88゜以下の膜であることを特徴とする請求項1記載の熱線遮断膜。
【請求項6】前記酸化物膜(B)以外の酸化物膜のうち少なくとも1層も、Si、Ti、Cr、B、Mg、Sn、Gaのうち少なくとも1種をZnとの総量に対し、1〜10原子%ドープした酸化亜鉛膜であることを特徴とする請求項1記載の熱線遮断膜。
【請求項7】前記酸化物膜(B)以外の酸化物膜のうち少なくとも1層も、Si、Ti、Cr、B、Mg、Sn、Gaのうち少なくとも1種をZnとの総量に対し、2〜6原子%ドープした酸化亜鉛膜であることを特徴とする請求項1記載の熱線遮断膜。
【請求項8】前記酸化物膜(B)を構成する複数の層のうち、基体から最も離れた層は、他の基体と積層するために介在させるプラスチック中間膜との接着力調整層であることを特徴とする請求項1記載の熱線遮断膜。

【図1】
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