説明

熱膨張性歯科用粘膜調整材

【課題】 歯科用粘膜調整材において、口腔粘膜の回復具合に応じて張替えを行う際に、義歯床からの除去が容易なものを開発すること。
【解決手段】 熱可塑性樹脂製の中空状粒子に液化ガスを封入する等して、加熱により体積が膨張する性状を有する熱膨張性粒子、好適には熱膨張開始温度が70℃〜110℃であり、該熱膨張開始温度以上の熱を加えた際の体積膨張倍率が10〜100倍であるものを含有させてなることを特徴とする、使用後において加熱するだけで義歯床から容易に除去可能にできる歯科用粘膜調整材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯床より容易に除去することができる歯科用粘膜調整材に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯使用者が義歯を長期にわたって使用していると顎堤を形成する歯槽骨の吸収等が原因となり口腔の形状が次第に変化することが知られている。この様な場合、義歯床と口腔粘膜との適合が悪くなり、義歯が不安定になる。適合不良な義歯をそのまま使用し続けると義歯床下粘膜に不均一な圧力が加わるため、該粘膜に潰瘍や炎症が発生したり、咬合圧による疼痛が引き起こされたりするようになる。上記のような不適合が起こった場合には新しい義歯を作製するか、使用中の義歯を裏装するなどして、義歯の粘膜に対する適合性を回復させる必要がある。
【0003】
しかしながら、著しい潰瘍や炎症がある患者の口腔粘膜は極めて不安定な状態であるため、新しい義歯の作製や裏装の前に口腔粘膜が比較的健全な状態になるのを待ち、義歯床下粘膜との良好な適合性を確保する必要がある。このような場合に使用される材料が歯科用粘膜調整材である。即ち、歯科用粘膜調整材は義歯床下粘膜の形態、色調が正常な状態に回復するまで使用中の義歯の粘膜面に裏装して用いられる治療用材料である。
【0004】
現在、義歯床に関連する軟質材料としては、大きく分けて義歯床固定用糊材(いわゆる義歯安定材)、歯科用粘膜調整材、軟質裏装材の3種類があるが、これらはいずれも使用目的、方法、使用期間、所要性状などが異なっている。
【0005】
例えば義歯床固定用糊材は、疼痛緩和のために患者本人が自ら施術して非常に短い期間使用するものである。一時的な使用に限定されるものであり治療を目的とする材料ではない。粉状、クリーム状、シール状のものがあり、水溶性のものと非水溶性のものがある。前者はだ液の粘性を高め、義歯床の粘膜面との粘着力の増大を期待する。非水溶性のものは義歯床と粘膜面の隙間をなくして適合性をよくするとともに辺縁封鎖効果による吸着力などを期待している。その組成物はほとんど弾性を有しておらず、咬合するたびにその咬合圧に応じた大きな塑性変形が起こるため、該義歯床固定用糊材の使用期間は1日ないしは数日間に限定される。
【0006】
これに対し、歯科用粘膜調整材(以下、単に粘膜調整材)は暫間的な材料である点で、義歯床固定用糊材と同じであるが、その目的は大きく異なっている。即ち、前述したように粘膜調整材は、軟質裏装材等の義歯床裏装材による義歯修理の前段階で口腔粘膜の治療用として使用するものである。義歯床下粘膜のひずみ、圧痕を開放し、各部の被圧変位性に対応した機能的な形態を印記するために、義歯床下粘膜面に用いられる軟性高分子材である。粉末と液の混和によって、始めは流動性の高いペースト状を示すが、液が粉末に浸透して粘弾性が発現してくる。ペーストに流動性のあるうちに義歯床粘膜面に盛りつけ、口腔内に挿入して賦形する。使用期間としては口腔粘膜が健全な状態に回復するまでの1週間〜数週間が必要である。その目的からして咬合時に義歯と粘膜面の間より押し出されず粘膜面に保持されながらも、柔軟で且つ口腔粘膜の回復に追従する程度の微小変形が可能でなければならない。
【0007】
一方、軟質裏装材等の義歯床裏装材は半永久的な義歯の適合性改善を目的とする材料であり、顎堤のさらなる形状変更などのために再裏装が必要な場合を除き、その撤去が前提にされた材料ではない。
【0008】
上記のように、粘膜調整材にはそれほど高い強度が求められない反面、高い柔軟性と可塑性が要求されており種々の組成が提案されている。具体的には、シリコーンゴムを素材として用いたものも提案されているが(特許文献1参照)、
主流は、有機樹脂を可塑剤により膨潤又は溶解させてペースト化したものである。このタイプの粘膜調整材は、取り扱いが容易であるため、及び保存安定性の観点から、その包装・保存形態は、a)有機樹脂粉末からなる粉材と、b)上記可塑剤からなる液材とに分割された包装・保存形態であるのが普通である。そうして、上記有機樹脂粉末としては、(メタ)アクリレート系樹脂粉末が好適に使用されている(例えば、非特許文献1、2、特許文献2、3参照)。また、可塑剤は柔軟性と可塑性を発現させるために必要な成分であり、以前は、フタレート系(フタル酸エステル系)の可塑剤が主流であったが、健康への悪影響が疑われたため、現在はセバケート系(セバシン酸エステル系)も多く用いられている。
【0009】
より詳細には、(メタ)アクリル系の粘膜調整材としては、ポリエチルメタクリレートもしくはその共重合体などの(メタ)アクリル系の重合体粉末からなる粉成分と、エタノールを4〜30質量%程度含有するフタレート系可塑剤からなる液成分との練成材料が広く使用されている。なお、液成分には、練和性や練和後の物性などを改良するために、エタノールが配合されることが多い。
【0010】
【非特許文献1】川口 稔、外3名、「試作粘膜調整材からのフタル酸エステル類の溶出性に影響をおよぼす因子について」、歯科材料・器械、日本歯科理工学会、平成16年7月、第23巻、第4号、p.273−278
【非特許文献2】濱田泰三編著、「ティッシュコンディショナー」、株式会社デンタルダイヤモンド社、2007年4月1日、p.45−48
【特許文献1】特開2001−79020号公報
【特許文献2】特開平3−20204号公報
【特許文献3】特開平2−297358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
粘膜調整材は口腔粘膜の回復具合に応じて数回の張替えを行うことが一般的である。しかしながら、上記のような組成の粘膜調整材を(メタ)アクリル系の義歯床に適用すると、義歯床と粘膜調整材の境界部分で両者が一体化して容易に除去できなくなる傾向にある。言い換えると、義歯床と粘膜調整材の接着性が徐々に高くなっていく傾向がある。これは粘膜調整材に含まれる可塑剤が徐々に溶出、拡散し、義歯床に移行して一体化していくためであると推測される。逆に、張替え時に容易に除去可能なようにしようとすると、今度は初期の接着性が低くなりすぎ、粘膜調整材としての目的を果たすことができなくなる。
【0012】
そのため、現在用いられている粘膜調整材では、張替え時には、引き剥がしやスパチュラを用いて大部分を除去した後、さらに、歯科用研削器具等による機械的な方法で義歯床から粘膜調整材を除去する方法がとられている。このような方法では手間がかかるのみならず、強い臭気が生じることも問題になっている。この臭気は、粘膜調整材や義歯床に付着したプラーク等の異物が、機械的研削に伴う発熱等により分解や飛散などするためであると考えられている。
【0013】
従って、粘膜調整材の除去を容易にする手段を開発することが大きな課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱を与えることによって体積が膨張する熱膨張性粒子を粘膜調整材に加えることで、加熱するだけで義歯床から粘膜調整材を容易に除去できるように改良できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち本発明は、熱膨張性粒子が含有されてなることを特徴とする歯科用粘膜調整材である。
【発明の効果】
【0016】
本発明における歯科用粘膜調整材は、熱を与えることによって体積が膨張する熱膨張性粒子を含有することを特徴としており、加熱すると粘膜調整材の内部で熱膨張性粒子が膨張し全体的に疎な構造になるため、義歯床との接着力が弱まり、容易に除去することができるものになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における歯科用粘膜調整材は、熱を与えることによって体積が膨張する熱膨張性粒子を含有させた点に最大の特徴を有している。
【0018】
ここで、熱膨張性粒子は、熱を与えることによって体積が膨張する性質を持ち、加熱によってその体積が2倍以上に膨張する粉体であり、公知のものがなんら制限なく使用可能である。急激な熱膨張が開始される温度である、熱膨張開始温度以上の熱を加えた際において、義歯床との接着力を低下させる効果を十分に発揮させる観点からは、該加熱時の体積膨張倍率は、10〜100倍であるのが好ましく、40〜80倍であるのが特に好ましい。
【0019】
また、該熱膨張性粒子の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、
発明の効果をより効果的に発現させるためには、0.1〜100μmであるのが好ましく、5〜80μmであるのがより好ましい。
【0020】
こうした熱膨張性粒子としては、熱可塑性樹脂で作られた中空状粒子中に液化ガスを封入したものが挙げられる。該粒子では、加熱されると、外殻になる中空状粒子が加熱により軟化するとともに、これに封入される液化ガスがガス化し体積が膨張する。
【0021】
中空状粉体を形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ガスバリアー性を有するものが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。他方、中空状粉体中に封入する液化ガスとしては、例えばトリクロロフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン、ジクロロフルオロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパンのような塩素含有フッ素系の有機化合物類、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、ブタン、イソブタン、ヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類、塩化メチル、ジクロロエチレン、トリクロロエタン、トリクロロエチレンなどの塩素化炭化水素等が挙げられる。このような粒子では、中空状粉体を形成する熱可塑性樹脂の熱変形温度と内包された液化ガスの気化する温度を調整することによって熱膨張開始温度を調整することができる。中空状粉体の形状は特に制限されないが、通常は、球状または略球状である。
【0022】
熱膨張性粒子は、例えば、コアセルベーション法、界面重合法、インサイト重合法等の公知の方法により製造することができる。
【0023】
なお、上記熱膨張性粒子は、互いに異なる複数の層から構成されていても良い。また、これらの熱膨張性粒子は、1種又は2種以上混合して使用してもよい。
【0024】
これら熱膨張性粒子の熱膨張開始温度は、70℃〜110℃であることが好ましい。人が飲食する際に口腔内に入れることができる温度は最大で70℃程度であるといわれており、熱膨張開始温度が70℃以下だと熱いものを口腔内に入れた時に膨張してしまう可能性がある。また、義歯床の主成分であるポリメチルメタクリレート(PMMA)のガラス転移温度は110℃であるため、この温度以上まで加熱すると義歯床が変形してしまう可能性がある。そのため、80℃〜100℃の範囲がより好ましい。
【0025】
上記熱膨張性粒子としては、例えば、熱可塑性樹脂として塩化ビニリデン重合体、アクリロニトリル共重合体、アクリル重合体などを用い、その中に封入される液化ガスとしてイソブタンやイソペンタンを用いた「マツモトマイクロスフェアー」(商品名:松本油脂製薬株式会社製)などの市販品を使用することができる。また、アクリル重合体やアクリロニトリル重合体などの殻に液状炭化水素が内包された「エクスパンセル」(日本フィライト株式会社製)なども市販されており、良好に使用できる。
【0026】
本発明の粘膜調整材において、熱膨張性粒子の含有量は、粘膜調整に必要な物性が損なわれない範囲であれば、何ら制限はないが、本発明における効果を、より効果的に発揮させるためには粘膜調整材の全体量に対して10〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは20〜30重量%である。
【0027】
次に、斯様な熱膨張性粒子を含有させる歯科用粘膜調整材としては、公知の同材料が制限なく適用可能であり、例えば、シリコーンゴムを素材として用いたものも良好に適用可能である。好適には、有機樹脂を可塑剤により膨潤又は溶解させたペーストであり、前記したように、このタイプの粘膜調整材は、a)有機樹脂粉末からなる粉材と、b)上記可塑剤からなる液材とに分割された包装・保存形態であるのが普通である。こうした粉液型の形態の場合において、前記熱膨張性粒子は、a)粉材およびb)液材の少なくともいずれか一方に配合されていれば良いが、通常は、取り扱いが容易なことからa)粉材に配合されているのが好ましい。
【0028】
前記可塑剤に膨潤又は溶解させる有機樹脂としては、(メタ)アクリレート系樹脂が好適に使用される。係る(メタ)アクリレート系樹脂としては、一般に歯科材料で使用可能な公知の同樹脂が何ら制限なく使用できる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、イソブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートの単重合体又は共重合体等が挙げられる。
【0029】
これらの有機樹脂を粉材として使用する場合において、粉末の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、粉と液を混和する際の操作性の観点から、0.1〜100μmであるのが好ましく、5〜80μmであるのがより好ましい。
【0030】
粘膜調整材における、上記有機樹脂の含有量は、粘膜調整材の物性を損なわない範囲であれば何ら制限はないが、通常は、粘膜調整材の全体量に対して35〜70重量%であることが好ましく、より好ましくは40〜50重量%である。
【0031】
一方、こうした有機樹脂を膨潤又は溶解させる可塑剤は、歯科材料に用いられている可塑剤のうち、上記使用する有機樹脂に対する性状を満足するものが制限なく使用できる。例えば、ジブチルフタレート,ジヘプチルフタレート,ジ−2−エチルヘキシルフタレート,ジ−n−オクチルフタレート,ジイソデシルフタレート,ブチルベンジルフタレート,ジイソノニルフタレート,エチルフタリルエチルグリコレート,ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸系可塑剤、ジエチルセバケート、ジブチルセバケート、オクチルセバケート等のセバシン酸系可塑剤等が上げられる。この他に、液状のポリマーも可塑剤として使用することができる。こうした液状ポリマーは、具体的には特開2006−225281号公報等により開示されているものが使用できる。通常、工業的にも広く用いられており入手が容易で比較的安価であるフタル酸系、セバシン酸系の可塑剤が使用されることが多い。
【0032】
また、これらの可塑剤は必要に応じて2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
粘膜調整材における、これら可塑剤の含有量は、粘膜調整材の物性を損なわない範囲であれば何ら制限はないが、通常は、粘膜調整材の全体量に対して20〜55重量%であることが好ましく、より好ましくは30〜40重量%である。
【0034】
さらに、上記有機樹脂を可塑剤により膨潤又は溶解させてペースト化する粘膜調整材には、粘膜調整材に必要な物性である柔軟性や可塑性を高度に維持する目的で、本発明の効果を阻害しない範囲内で重合性単量体及び重合開始剤を添加してもよい。重合性単量体としては、(メタ)アクリレートモノマーが好適であり、重合開始剤は、一般に歯科材料に用いられているものが何ら制限なく使用可能である。上記重合性単量体の重合発熱により熱膨張粒子の膨張開始温度に達すると、該熱膨張粒子がその時点で膨張してしまう可能性があるため、これら重合性単量体と重合開始剤は重合発熱温度が、熱膨張性粒子の熱膨張開始温度未満である組み合わせで用いるのが好ましい。この粘膜調整材が前記粉液型からなる場合、重合性単量体は通常、b)可塑剤からなる液材に配合される。重合開始剤は、a)粉材およびb)液材のいずれに配合してもよいが、2種以上の化合物により構成される場合は、保存中に重合反応が生じないように両材に分割して配合するのが好ましい。
【0035】
さらに、この粘膜調整剤には、有機樹脂および可塑剤の混和性の向上の観点から、その安全性を損なわない範囲で適量に有機溶媒を添加してもよい。中でも、取り扱いの容易さ及び安全性の点から、特にエタノールが好ましい。粘膜調整材が前記粉液型からなる場合、該有機溶媒は、b)可塑剤からなる液材に配合されるのが一般的である。
【0036】
なお、本発明の歯科用粘膜調整材には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、顔料や香料等の添加剤を添加することもできる。
【0037】
また、本発明における歯科用粘膜調整材の包装・保存形態は、上記したとおり、a)有機樹脂粉末からなる粉材とb)該有機樹脂粉末を膨潤又は溶解する可塑剤からなる液材とに分割された粉液型が、その取り扱いや製造の容易さなどの観点から最も好ましい。しかしながら、この包装・保存形態に限定されるものではなく、例えば、重合性単量体と重合開始剤を配合させない場合や、配合させても、使用する重合開始剤が分割不要の光重合型であれば、予め、シングルペースト型とすることも可能である。また、その採択された組成によってはペースト/ペースト型とすることもあり得る。
【0038】
義歯床は人工歯を保持し口腔内に義歯を維持、安定させる役割をするものであり、義歯床用の材料としては、コバルト・クロム合金、金合金などの金属材料や、(メタ)アクリル系樹脂、ポリサルフォンなどのレジンが使用されているが、本発明の歯科用粘膜調整材を適用する義歯床は、通常は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を主成分とするもの等の、(メタ)アクリル系樹脂からなるものが好ましく適用される。
【0039】
本発明の歯科用粘膜調整材は、義歯床粘膜面に盛りつけ、口腔内に挿入して賦形して必要期間使用すれば良いが、使用後において、これを義歯床から除去する際は、配合されている熱膨張性粒子の熱膨張開始温度以上、好適には熱膨張開始温度の下限値から2℃以上高い温度、さらに好適には10℃以上高い温度に加熱して、該熱膨張性粒子を熱膨張させれば良い。この加熱は、義歯に影響を与えない方法(具体的には、義歯を構成する樹脂のガラス転移温度を超えない温度、通常は、同樹脂として汎用されているポリメチルメタクリレート(PMMA)のガラス転移温度である110℃未満とすること等)であればなんら制限はなく、例えば、沸騰しているお湯に数分浸漬したり、ホットプレートで加熱する方法などが挙げられる。加熱後は、手または、スパチュラ等で引き剥がす力を加えれば、容易に除去することが可能である。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。各実施例、比較例における使用材料は以下の通りである。
(1)熱膨張性粒子
・マツモトマイクロスフェアーF−30(商品名、松本油脂製薬株式会社製、体積膨張倍率70倍、膨張開始温度:80℃、平均粒子径10〜20μm;「F−30」と略す)
・マツモトマイクロスフェアーF−20(商品名、松本油脂製薬株式会社製、体積膨張倍率70倍、膨張開始温度:75℃、平均粒子径10〜20μm;「F−20」と略す)
*F−30およびF−20のいずれも、塩化ビニリデン−アクリル系粉ポリマーの中空状粒子に低沸点炭化水素を封入した粒子である。
【0041】
・エクスパンセルWU007−40(商品名、日本フィライト株式会社製、体積膨張倍率40倍、膨張開始温度、90℃、平均粒子径10〜16μm;「WU007−40」と略す)
(2)(メタ)アクリレート系樹脂粉末
・ポリエチルメタクリレート粉末(根上工業株式会社製、平均粒子径35μm;「PEMA」と略す)
・ポリブチルメタクリレート粉末(根上工業株式会社製、平均粒子径40μm;「PBMA」と略す)
(3)可塑剤
・ブチルフタリルブチルグリコレート(東京化成工業株式会社製;「BPBG」と略す)
・フタル酸ジブチル(東京化成工業株式会社製;「DBP」と略す)
・セバシン酸ジブチル(和光純薬工業株式会社製;「DBS」と略す)
(4)エタノール(和光純薬工業株式会社製)
(5)メタクリル系義歯床用レジン
・アクロン(商品名、株式会社ジーシー製)
実施例1
表1に示した熱膨張性粒子を含む粉液型の歯科用粘膜調整材を製造した。次いで、「アクロン」を用いて作製した30×30×2mmの義歯床板上に20×20×2mmのモールドを用いてこの粘膜調整材を盛り付けたサンプルを作製し、37℃水中に1週間浸漬した後、100℃のお湯に5分間浸漬させた。その後、粘膜調整材について手での引き剥がしによる義歯床板からの除去を試み、その際の除去の容易さを以下の判定基準に従いA〜Cで評価した。また、除去するのに要した時間(除去時間)を測定した。それらの結果を表1に示した。
A:粘膜調整材が義歯床板に残ることなく、容易に除去できる
B:粘膜調整材は大部分が除去できるが、その一部が義歯床板に残る
C:粘膜調整材は除去できない
表1に示したように、除去時間10秒で粘膜調整材を全て義歯床板から除去することができた。このことから、熱膨張性粒子を添加することで、粘膜調整材の除去性が向上することが分かった。
【0042】
実施例2〜12
実施例1と同様に表1示した各組成の粉、及び液を調整し、表1に示した条件で評価を行った。これらの評価結果を表1にそれぞれ示した。
【0043】
表1に示したように、本発明の歯科用粘膜調整材は、除去性が非常に優れていることが分かった。
【0044】
比較例1
実施例1と同様に表1示した各組成の粉、及び液を調整し、評価を行った。これらの評価結果を表1にそれぞれ示した。
【0045】
表1に示したように、粘膜調整材を容易に除去することはできず、良好な除去性は得られなかった。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張性粒子が含有されてなることを特徴とする歯科用粘膜調整材。
【請求項2】
熱膨張性粒子の熱膨張開始温度が70℃〜110℃であり、該熱膨張開始温度以上の熱を加えた際の体積膨張倍率が10〜100倍である請求項1記載の歯科用粘膜調整材。
【請求項3】
熱膨張性粒子が、熱可塑性樹脂製の中空状粒子に液化ガスを封入したものである請求項1または請求項2記載の歯科用粘膜調整材。
【請求項4】
歯科用粘膜調整材が、a)有機樹脂粉末からなる粉材とb)該有機樹脂粉末を膨潤又は溶解する可塑剤からなる液材とに分割して包装、保存されており、使用時には両材を混和したペーストとして用いる形態のものであって、熱膨張性粒子は前記a)粉材およびb)液材の少なくともいずれか一方に配合されてなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用粘膜調整材。
【請求項5】
a)粉材を構成する有機樹脂粉末が、(メタ)アクリレート系樹脂粉末である請求項4記載の歯科用粘膜調整材。
【請求項6】
熱膨張性粒子の含有量が、歯科用粘膜調整材の全体量に対して10〜40重量%である請求項1〜5のいずれか一項に記載の歯科用粘膜調整材。



【公開番号】特開2009−221160(P2009−221160A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68119(P2008−68119)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】