説明

熱膨張性粒子含有嵩高紙及びその製造方法

【課題】低密度の熱膨張性粒子含有嵩高紙を安定的に製造する方法。
【解決手段】繊維層に熱膨張性粒子を配合して抄造した湿式混抄シートを、加熱により膨張させて低密度の嵩高な紙を製造する方法において、前記湿式混抄シートを加熱膨張工程において乾燥させることなく加熱膨張させた後、乾燥工程において乾燥させることによって熱膨張性粒子含有嵩高紙を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性粒子含有嵩高紙及びその製造方法に関する。特に、紙おむつや生理処理用品の吸収性物品、保湿性食品容器等に用いる熱膨張性粒子含有嵩高紙に関する。
【背景技術】
【0002】
天然パルプ主体の繊維に発泡性粒子を混抄して得た湿式混抄シートを、乾燥工程において加熱乾燥と同時に発泡性粒子を膨張させることによって、密度0.1〜0.3g/cm3の発泡性粒子均一混抄紙が得られることが知られている(特許文献1〜3)。更に、特許文献1〜3には、前記湿式混抄シートの加熱発泡前の含水率が、通常の紙の場合に比べて高い65〜72%の状態で加熱発泡すると、良好な発泡が得られ、低密度の紙が得られることが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−339898号公報
【特許文献2】特開平10−88495号公報
【特許文献3】特開2000−34695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3に開示されている熱膨張性粒子を含んだ湿式混抄シートは、熱膨張性粒子の膨張力によってシートの嵩高性が発現する。熱膨張性粒子は、ドライヤー等でシートを加熱することによって膨張させることができ、それと同時にシートは乾燥される。ここで、シートをドライヤー面に強く押し当てると、熱伝導性が高まり、乾燥や膨張の効率は良くなるが、一方で、押し当て力によって、嵩高性発現が抑制されてしまう。逆に、押し当て力を弱めると、嵩高性の発現の抑制は改善されるが、ドライヤーからシートへの熱伝導が低くなり、乾燥効率と熱膨張性粒子の膨張が十分でなくなる。また、押し当て力を弱めると、シートのドライヤー接触面と非接触面とで熱膨張性粒子にかかる温度に差が生じ、その結果、膨張の程度に差が生じてしまう。特許文献1〜3に開示されている方法では、乾燥前のシートの含水率を通常の紙の場合よりも高い含水率とすることで、上記のような膨張不良を改善しようとするものである。具体的には、前記湿式混抄シートの加熱膨張前の含水率が、通常の紙よりも高い65〜72%の状態で加熱膨張させると、より膨張しやすくなり低密度の紙が得られる。しかし、特許文献1〜3に開示されている方法は、上記の加熱・乾燥と発泡との間の問題を根本的に解消していない。また、加熱方法を熱ロール方式ではなく熱風加熱方法としても、上記の問題を解消することはできない。このように、従来の方法を用いれば、密度0.1〜0.3g/cm3のシートを安定して得ることはできるが、それよりも低い密度、例えば0.05g/cm3以下の超低密度紙を安定的に製造することはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の方法は、繊維層に熱膨張性粒子を配合して抄造した湿式混抄シートを、加熱により膨張させて低密度の嵩高な紙を製造する方法において、前記湿式混抄シートを加熱膨張工程において乾燥させることなく加熱膨張させた後、乾燥工程において乾燥させることを特徴とする熱膨張性粒子含有嵩高紙の製造方法である。
【0006】
本発明の好ましい態様においては、前記加熱膨張を、前記熱膨張性粒子の膨張開始温度以上の温度の湿熱空気又は水蒸気を前記湿式混抄シートに通過させることによって行うことを特徴とする。また、前記湿式混抄シートを支持体上に載せ、前記湿式混抄シートの上面側から前記湿熱空気又は水蒸気を吹き付けながら、下面側において前記湿熱空気又は水蒸気を吸引することで、前記湿熱空気又は水蒸気を前記湿式混抄シートに通過させることを特徴とする。また、前記熱膨張性粒子含有嵩高紙の密度が0.1g/cm3未満であることを特徴とする。
【0007】
本発明の熱膨張性粒子含有嵩高紙は、30〜100質量%の天然パルプと、0〜70質量%の合成パルプ、有機繊維及び無機繊維からなる群から選ばれる繊維とからなる繊維層100質量部当たり、膨張前の平均粒径が5〜30μmであって、加熱により体積が20〜125倍に膨張する熱膨張性粒子1〜40質量部を分散保持させた湿式混抄シートを、加熱膨張工程において乾燥させることなく加熱膨張させた後、乾燥工程において乾燥させることにより得られ、密度0.1g/cm3未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、熱膨張性粒子を混抄したシートの加熱膨張工程が乾燥工程と分離されている。加熱膨張工程では、所定温度の湿熱空気又は水蒸気で湿式混抄シートを乾燥しないように加熱した後、乾燥工程において膨張したシートを乾燥させる。これにより、混抄した熱膨張性粒子が十分に膨張することができ、低密度の紙が安定して得られる。特に、密度が0.1g/cm3未満、好ましくは0.05g/cm3以下の超低密度紙を安定的に製造することができる。
【0009】
本発明の嵩高紙は、0.1g/cm3未満、好ましくは0.05g/cm3以下の密度を有する。同等レベルの低密度シートであって、その嵩高特性と保液特性から吸収性物品の吸収コアの材料としてよく利用されているエアレイドパルプ不織布等の低密度シートは、液拡散性が悪いという欠点と、湿潤加圧によって嵩がへたるという欠点を有している。一方、本発明の嵩高紙は、熱膨張性粒子の膨張によって嵩高性が発現しており、繊維部分は比較的高密度状態を維持し、空隙部分には膨張した熱膨張性粒子のバルーンが詰まっているという形態になっている。従って、嵩がへたらないだけでなく、加圧に対する反発弾性も有するため、紙おむつや生理処理用品等の吸収性物品の吸収コアに用いれば、よじれが少ない製品を実現することができる。上記特性を活かすことのできるその他の用途としては、切花梱包シート、荷造りクッションシート、紙ワイプス等が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用される繊維層は、30〜100質量%の天然パルプと、0〜70質量%の合成パルプ、有機繊維及び無機繊維からなる群から選ばれる繊維とからなる。抄紙性の観点からすると、パルプを50質量%以上配合した方がシートの地合、強度において優れている。天然パルプ、合成パルプ、有機繊維及び無機繊維は、通常の製紙で使用されるものの何れもが使用可能である。天然パルプとしては、例えば針葉樹や広葉樹の化学パルプや機械パルプ等の木材パルプ、古紙パルプ、麻や綿等の非木材天然パルプが挙げられるが、これらに限定されない。合成パルプとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等を原料とした合成パルプが挙げられるが、これらに限定されない。有機繊維としては、アクリル繊維、レーヨン繊維、フェノール繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維が挙げられるが、これらに限定されない。無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維が挙げられるが、これらに限定されない。
【0011】
本発明に使用する熱膨張性粒子は、マイクロカプセル内に低沸点溶剤を封入した熱膨張性マイクロカプセルである。このカプセルは、膨張前の平均粒径が5〜30μm、好ましくは8〜14μmであり、80〜200℃の比較的低温度での短時間の加熱によって、体積が20〜125倍、好ましくは50〜80倍に膨張する粒子である。低沸点溶剤としてはイソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサン、低沸点ハロゲン化炭化水素、メチルシラン等の揮発性有機溶剤(膨張剤)を塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の共重合体から成る熱可塑性樹脂で包み込んだものであり、マイクロカプセルの膜ポリマーの軟化点以上に加熱されると膜ポリマーが軟化しはじめ、同時に内包されている膨張剤の蒸気圧が上昇し、膜が押し広げられてカプセルが膨張する。熱膨張性マイクロカプセルは比較的低温、短時間で膨張して独立気泡を形成し、断熱性に優れた材を提供でき、また比較的扱い易いので、本用途には最適である。これら熱膨張性粒子として、マツモトマイクロスフェアーF−36、同F−30D、F−30GS、F−20D、F−50D、F−80D(松本油脂製薬(株)製)、エクスパンセルWU、同DU(スウェーデン製、販売元日本フィライト(株))が知られているが、これらに限定されるわけではない。熱膨張性粒子の配合量は、パルプ繊維100質量部に対して1〜40質量部、好ましくは3〜20質量部であり、1質量部以下では十分な膨張が得られず、40質量部以上では経済性の面からあまり適当とはいえない。
【0012】
パルプスラリーにはその他に、各種のアニオン性、ノニオン性、カチオン性あるいは両性の歩留まり向上剤、紙力増強剤、サイズ剤等が適宜選択して使用される。具体的には、紙力増強剤、歩留まり向上剤として、ポリアクリルアミド系のカチオン性、ノニオン性、アニオン性及び両性の樹脂、ポリエチレンイミン及びその誘導体、ポリエチレンオキサイド、ポリアミン、ポリアミド、ポリアミドポリアミン及びその誘導体、カチオン性及び両性澱粉、酸化澱粉、カルボキシメチル化澱粉、植物ガム、ポリビニルアルコール、尿素ホルマリン樹脂、メラミンホルマリン樹脂、親水性のポリマー粒子等の有機系化合物、及び硫酸バンド、アルミナゾル、塩基性硫酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウム等のアルミ化合物、更に硫酸第一鉄、塩化第一鉄あるいはコロイダルシリカ、ベントナイト等の無機系化合物等を組み合わせて使用することができる。
【0013】
本発明の製造方法においては、まず、水中に所定の割合で配合されて得た原料スラリーを、抄紙工程のワイヤーパートでシート化した後、プレスパートで脱水する。一般的な抄紙工程においては、この脱水によって含水率は抄紙原料の60質量%前後とされる。しかし、本発明の場合には、加熱膨張工程において、乾燥しないように湿熱空気又は水蒸気を用いてシート全体の温度を所定温度まで効率よく上げる必要があるため、できるだけ含水率が低い状態、例えば40〜60質量%に脱水される方が望ましい。しかしながら、高い含水率であっても熱効率の問題はあるが、出来上がりの状態に問題が生じることはない。次いで、脱水したシートを加熱膨張工程に送り、所定温度の湿熱空気又は水蒸気を用いて前記脱水シートを加熱し、熱膨張性粒子を膨張させる。この時、シートを支持体上に載せ、その上面側から前記湿熱空気又は水蒸気を吹きつけながら、支持体の下面側から吸引すると、シート全体が素早く且つムラなく加熱され、それによって加熱膨張効果が高まるため、最も効率の良い方法であるといえる。ここで、支持体としては、ネットなどの搬送ベルトが挙げられるが、これに限定されない。本発明では、湿熱空気又は水蒸気でシートを加熱することから、所定温度の範囲内であればたとえ過剰な熱量を与えてもシートが乾燥することはなく、熱膨張性粒子の膨張を阻害する繊維間結合力は発生しないため、熱膨張性粒子を十分膨張させることができる。次いで、加熱膨張処理を施した湿潤状態の膨張シートを乾燥工程へ送り乾燥させる。乾燥工程では、従来からの一般的な乾燥方法を用いることができる。ただし、強いプレスをかけてシートを潰たり、膨張した粒子を破壊するような高い温度をかけてはならない。
【0014】
本発明の製造方法において用いる湿熱空気又は水蒸気の温度は、熱膨張性粒子のマイクロカプセル殻壁が軟化して膨張を開始する温度以上であれば良く、使用する熱膨張性粒子によって決められる。熱膨張工程において湿式混抄シートが乾燥しないようにするためには、相対湿度は100%であることが望ましいが、必ずしも100%である必要はない。湿熱空気又は水蒸気供給方法としては、ボイラから高温蒸気を取り出して直接シートに噴射する方法が最も望ましいが、乾燥装置からの湿排気を使うことも可能である。
【実施例】
【0015】
実施例1
針葉樹晒クラフトパルプ85質量部を水に分散させたパルプスラリーに、熱膨張性粒子として、マツモトマイクロスフィアーF−36(松本油脂製薬(株)製、粒径5〜15μm、膨張開始温度75〜85℃)15質量部、熱膨張性粒子定着剤として、ファイレックスRC−104(明成化学工業(株)製、カチオン変性アクリル系共重合体)0.2質量部及びファイレックスM(明成化学工業(株)製、アクリル系共重合体)0.2質量部を、よく撹拌しながら添加して、パルプ濃度1.0質量%の抄紙用原料とした。得られた抄紙用原料を用いて、常法に従って角型手抄きシートマシーン(80メッシュ)により坪量50g/m2の紙を抄紙し、ろ紙で挟んで脱水し、含水率60質量%の湿式混抄シートを得た。その後、湿式混抄シートの下面から水を煮沸して得た水蒸気を直接当てて加熱膨張処理を行い、次いで、100℃のロータリードライヤー(ジャポー(株)社製、速度0.5m/分)に通して乾燥処理を行うことで、熱膨張性粒子含有嵩高紙を得た。その後、坪量、厚さ、密度を測定した。
【0016】
実施例2
ろ紙で挟んで脱水し、含水率40質量%の湿式混抄シートとしたこと以外は、実施例1と同様に熱膨張性粒子含有嵩高紙を作製し、物性を測定した。
【0017】
実施例3
ろ紙で挟んで脱水し、含水率80質量%の湿式混抄シートとしたこと以外は、実施例1と同様に熱膨張性粒子含有嵩高紙を作製し、物性を測定した。
【0018】
実施例4
針葉樹晒クラフトパルプを90質量部、熱膨張性粒子を10質量部としたこと以外は、実施例1と同様に熱膨張性粒子含有嵩高紙を作製し、物性を測定した。
【0019】
実施例5
針葉樹晒クラフトパルプを95質量部、熱膨張性粒子を5質量部としたこと以外は、実施例1と同様に熱膨張性粒子含有嵩高紙を作製し、物性を測定した。
【0020】
比較例1
針葉樹晒クラフトパルプを100質量部、熱膨張性粒子を0質量部としたこと以外は、実施例1と同様にシートを作製し、物性を測定した。
【0021】
比較例2
手抄きして得た湿式混抄シートを、100℃のロータリードライヤーで膨張させながら乾燥したこと以外は、実施例1と同様にシートを作製し、物性を測定した。
【0022】
比較例3
ロータリードライヤーの温度を130℃にしたこと以外は、比較例2と同様にシートを作製し、物性を測定した。
【0023】
比較例4
手抄きして得た湿式混抄シートの下面から100℃の乾燥熱風を当てて膨張させたこと以外は、実施例1と同様にシートを作製し、物性を測定した。
【0024】
比較例5
乾燥熱風の温度を130℃にしたこと以外は、比較例4と同様にシートを作製し、物性を測定した。
【0025】
以上の結果を表1に示す。
【表1】

【0026】
表1から明らかなように、加熱膨張工程と乾燥工程を同時に実施する場合(比較例2〜5)には、膨張不良が生じ、得られるシートの密度は、0.05g/cm3を超えている。一方、湿熱空気又は水蒸気で湿式混抄シートを加熱した後、乾燥工程において膨張したシートを乾燥する場合(実施例1〜5)には、熱膨張性粒子の嵩高性の発現が十分に起こり、得られる熱膨張性粒子含有嵩高紙の密度はいずれも0.05g/cm3以下となっている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例3で得られた熱膨張性粒子含有嵩高紙の断面写真である。
【図2】実施例3で得られた熱膨張性粒子含有嵩高紙の表面写真である。
【図3】比較例3で得られたシートの断面写真である。
【図4】比較例3で得られたシートの表面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維層に熱膨張性粒子を配合して抄造した湿式混抄シートを、加熱により膨張させて低密度の嵩高な紙を製造する方法において、前記湿式混抄シートを加熱膨張工程において乾燥させることなく加熱膨張させた後、乾燥工程において乾燥させることを特徴とする熱膨張性粒子含有嵩高紙の製造方法。
【請求項2】
前記加熱膨張を、前記熱膨張性粒子の膨張開始温度以上の温度の湿熱空気又は水蒸気を前記湿式混抄シートに通過させることによって行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記湿式混抄シートを支持体上に載せ、前記湿式混抄シートの上面側から前記湿熱空気又は水蒸気を吹き付けながら、下面側において前記湿熱空気又は水蒸気を吸引することで、前記湿熱空気又は水蒸気を前記湿式混抄シートに通過させることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱膨張性粒子含有嵩高紙の密度が0.1g/cm3未満であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
30〜100質量%の天然パルプと、0〜70質量%の合成パルプ、有機繊維及び無機繊維からなる群から選ばれる繊維とからなる繊維層100質量部当たり、膨張前の平均粒径が5〜30μmであって、加熱により体積が20〜125倍に膨張する熱膨張性粒子1〜40質量部を分散保持させた湿式混抄シートを、加熱膨張工程において乾燥させることなく加熱膨張させた後、乾燥工程において乾燥させた、密度0.1g/cm3未満の熱膨張性粒子含有嵩高紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−235627(P2009−235627A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84455(P2008−84455)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】