説明

熱負荷されるターボ機械の回転構成部材と固定構成部材との間の特に半径方向の間隙を制御する自己調節型装置

【課題】構成が簡単であり、機械の移行運転中に間隙が最小値になる場合でさえも間隙の安全な制御を許容する、間隙を制御するための自己調節型装置を提供する。
【解決手段】本発明は、熱負荷されたターボ機械(10)の回転構成部材と固定構成部材と(21,23)の間の、特に半径方向の、間隙(C)を制御する自己調節型装置(25)に関する。間隙(C)は停止状態と定常状態運転との間の機械の移行中に非線形に変化する。簡単かつ有効な制御は、移行運転中の間隙の非線形変化の場合でも、自己調節型装置(25)が、回転構成部材及び固定構成部材(21,23)を、回転構成部材と固定構成部材との間の間隙(C)を変化させるよう互いに対して移動させるために、少なくとも2つの異なる駆動エレメント(A,B)を有し、かつ異なる駆動エレメント(A,B)は機械の移行中の異なる時間に作動させられるよう構成されることにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機、ガスタービン、又はその他のようなターボ機械の技術に関する。本発明は、請求項1の前提部に記載の熱負荷されるターボ機械の回転構成部材と固定構成部材との間の、特に半径方向の間隙を制御する自己調節型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作動中の例えば蒸気タービン、ガスタービン、ジェットエンジン、圧縮機、又はターボチャージャのようなターボ機械の固定部分と回転部分との間の間隙、特に、半径方向間隙の最小化は、流れ損失を最小限に減じ、ひいてはこのような機関の効率を最大限に高めるために必須である。
【0003】
例示の目的で、図1はタービン構成の例を示している。前記ターボ機械段10は、ブレード14及びベーン15を有する。ブレード14及びベーン15は、回転軸12(軸線11を中心にして回転速度Ωで回転する)とハウジング部分13とに各々取り付けられており、この場合、流体チャネル(ガスタービン用の高温ガスチャネル)16は軸12とハウジング13との間に形成されている。半径方向間隙Cb(ブレード間隙)及びCv(ベーン間隙)を最小限に減じることにより、ブレード先端部及びベーン先端部を横切る漏れ流、ひいては流れ損失を減じることができる。半径方向間隙は、各々のロータ構成部材とステータ構成部材との円筒形又は円錐形の面によって形成されている。しかしながら、基本的に円筒形又は円錐形を有するが、全ての部分が付加的な形状的特徴を有してよい。
【0004】
例えばブレード14のブレード先端部とハウジング13との間の相対移動が生じることにより、半径方向間隙Cbをゼロに設定することはできない。作動中のこれらの部分の接触は、機関全体の損傷、さらには破壊につながる恐れがある。
【0005】
概して、このような機関を設計するに当たり、作動中の半径方向間隙("高温間隙")は多数の要因によって決定される。これらの要因は、アセンブリ間隙(通常、周囲温度を意味する"低温"機関のための停止条件下での"低温間隙")に関して考慮される必要がある:
・製造公差
・組立て(アセンブリ)公差
・定常運転条件下での軸12及びハウジング13の変形(例えば必要とされる円形状からのケーシングのだ円化)
・熱成長及び遠心力による作動中のブレード/ベーンの膨張
・機関の始動及び停止のような、機関移行運転中の時間依存変形及び相対移動。
【0006】
後者の2つの要因、つまり、移行状態及び定常状態の熱膨張は、機関内の温度差により引き起こされる。例えばタービン内の典型的な温度分布は、半径方向に関して、ある軸方向位置における不定温度分布につながる(半径方向の温度勾配)。最高温度は、ブレード14及びベーン15が配置されている流体チャネル16に生じると仮定される。周囲温度はTAである。図3は、異なる時点(t1−t6)における、タービン内の空間的(半径方向、つまり半径Rに依存した)温度分布を示している。
【0007】
図3に示した半径方向断面は、タービンの構造的特徴、つまり、軸12と、ブレード14と、ハウジング13と、ブレード14の基部17と、ブレード14の先端部に向き合った熱シールド18と、熱シールド18の背後のチャンバ19と、機械の外面20とによって形成されている。図3の上側部分は、時間領域tにおける瞬間t3−t6における冷却(T↓)中の半径方向Rに沿った温度分布T(R)の可能な変化を示している。図3の下側部分は、瞬間t1−t3における加熱(T↑)中の温度分布T(R)の可能な変化を示している。両方の場合に、変化温度範囲は、図3に影付きの範囲によって示されている。移行運転(加熱/冷却)中の温度の時間ごとの変化は、流体チャネル16におけるブレード14において最大である。
【0008】
特に、機関移行運転中の主要構成部材の時間依存変形及び相対移動は、低温停止間隙CSSを決定するために及び結果として生じる定常状態高温間隙若しくは公称間隙Cnomのために重要である。設計目標は、定常状態条件中に、結果として生じる高温間隙Cnomが最小限になるように、低温間隙を決定することである。しかしながら、機関の暖機(始動)又は冷却(停止)中のブレード、ハウジング及び軸の様々な異なる幾何学的寸法、材料及び熱容量により、最小高温間隙は、最小間隙が望まれる高温定常状態条件においては現れない。さらに、機関が急速な負荷変化を受けたり、又は主要な構成要素が前の運転期間から依然として高温である場合に始動されたりすることを考慮すると、運転中の最小可能間隙(図2における"ピンチポイント"、CPP)は、時に、移行機関運転(始動条件S−Uであるが、定常状態条件S−Sではない、図2(a)参照)の間に現れることがある。この場合、このような移行運転の間の静止部分と回転部分との間の"激しい"接触を回避するために低温間隙をさらに増大させる必要があり、このことは、したがって、定常状態条件下で、所望のものよりも大きな高温間隙を生じる。
【0009】
例えば、機関の始動の間、ブレードの熱膨張は、通常は、ブレードと比較してより大きな質量のためより高い熱慣性を有するケーシング部分又は軸よりも、著しく迅速である。つまり、軸又は構造部分の加熱及び熱膨張(図2(b)に一点鎖線で示されている)は、作動流体温度(図2(b)に点線で示されている)が公称レベルTnに達した後でさえも、最終的に公称(金属)レベルTmnに達するまで継続する。
【0010】
さらに、ケーシング及び軸は、通常、高温ガスに直接に曝されることはない。このことは、いわゆる半径方向間隙が最小値(Cpp)に達する瞬間を意味するピンチポイントにつながる。したがって、公称定常状態運転条件のために、結果として生じる公称間隙Cnomは、ピンチポイント及びさらなる熱膨張をカバーする間隙値を有さなければならず、この値は、回転構成要素及び固定構成要素の熱境界条件、寸法及び材料特性に基づき分析的に決定される。
【0011】
高温間隙を残すことによって生ぜしめられる流れ損失を最小限に減じるための公知の手段は、例えば、ブレード及びベーンの翼の先端部にシュラウドを導入することである。シュラウドとケーシング又はロータとによって形成された環状間隙を通る流れを最小限にするために、回転部分にフィンの複数の列が提供される一方で、固定部分の表面は平坦であるか又は段状であり、全体がラビリンスシールを形成している。
【0012】
さらに、固定部分の表面にハニカムが取り付けられ、移行運転中にフィンがハニカムに切り込むようになっており、これにより、段状のラビリンスを形成し、定常状態運転中の漏れ流をさらに減じる。高温間隙を最小限に減じるための別の公知の手段は、固定部分に取り付けられたいわゆるリーフシール又はブラシシールを用いることであり、このリーフシール又はブラシシールは、移行運転中の間隙のある程度の変化に対応することができる。
【0013】
最後に、対向する部材における研磨性能及びアブレイダブル皮膜の組合せを、例えば構造部品のだ円化又はケーシング内での軸の偏心によって生ぜしめられる周方向間隙のばらつきの効果を軽減するために使用することができる。
【0014】
上記ソリューションの全ては純粋に受動的なシステムであり、作動中の温度、圧力又はその他の負荷に対するいかなる調整をも行うことなく高温間隙を最小限に減じることができるが、多くのその他の能動的な間隙減少手段も知られている。
【0015】
機関が定常状態条件に達した後にガスタービンのロータ全体が軸方向にシフトさせられるシステムが記載されている。円錐形の流体流路との組合せにおいて、前記システムは、高温タービン間隙を能動的に最小限に減じることができ、上記受動的手段のいずれとも組み合わせることができる。しかしながら、ロータ列全体を移動させる必要があるので、これは、圧縮機側における間隙の増大も生じる。したがって、この手段は、タービンにおける利得が、圧縮機側における付加的な損失を上回る場合に限り、有利である。
【0016】
全体的な軸方向の軸移動の代わりに、全ての各々のタービン段のためのソリューションは、ブレード/ベーンの半径方向熱膨張を制御するか、又は熱シールドの付加的な半径方向移動を許容するばねシステムを制御することによって提案されている(例えば米国特許第7596954号明細書)。
【0017】
米国特許出願公開第2009/0226327号明細書には、ロータディスクに組み付けられた、形状記憶合金から成るスリーブが記載されている。周囲温度に関して、スリーブのど部は、タービンブレードへの冷却剤流質量を制御する。より少ない冷却剤を提供することにより、ブレードは熱膨張し、翼先端部とケーシングとの間の間隙を減じる。より多くの冷却剤を提供することにより、ブレードは収縮し、タービン段の半径方向間隙を拡大する。
【0018】
英国特許第2354290号明細書には、ガスタービンブレードの冷却通路内に取り付けられた形状記憶合金弁が記載されている。この形状記憶合金弁は、構成部材の温度に応じて冷却剤の使用量を調節することができる。しかしながら、英国特許第2354290号明細書は、回転ブレード及び固定ベーンのための間隙制御のためのソリューションを請求していない。
【0019】
米国特許第7686569号明細書は、ブレードリングの前後に提供される差圧、リンク機構の熱膨張及び/又は収縮によって、又はピストンによって駆動される、ブレードリングの軸方向移動のためのシステムを示している。形状記憶合金が所要の移動を引き起こすこともできる。
【0020】
概して、ブレード14とハウジング13との間、及びベーン15とロータ又は軸12との間の間隙管理のために、異なる受動的、準能動的及び能動的システムを考えることができる。間隙Cb又はCv(図1)は、回転構成部材と固定構成部材との間の相対距離を示し、この相対距離は、機関の始動又は停止のような移行運転条件の間に、様々な機関構成部材の体積、高温流体又は低温流体への露出、及び用いられた合金の熱特性に応じて、様々な機関構成部材の異なる熱慣性により、異なる速度で変化する。
【0021】
これらの差により、定常状態条件下での"高温"間隙Cnomは、機関の移行運転中の回転構成部材及び固定構成部材の熱膨張の差に相当する移行寄与率Cnom−Cppを含む必要がある。この差は、低温時に設定された間隙の決定の際に考慮されなければならず、ターボ機械の空力効率を悪化させる。最終目標は、機関運転の全時間の間、常に半径方向間隙をCppと同じに小さく保つことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第7596954号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0226327号明細書
【特許文献3】英国特許第2354290号明細書
【特許文献4】米国特許第7686569号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の課題は、従来の装置の欠点を回避し、構成が簡単であり、機械の移行運転中に間隙が最小値になる場合でさえも間隙の安全な制御を許容する、間隙を制御するための自己調節型装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記課題及びその他の課題は、請求項1記載の自己調節型装置によって得られる。
【0025】
本発明による自己調節型装置は、回転構成部材と固定構成部材との間の間隙を変化させるために前記回転構成部材と前記固定構成部材とを互いに対して移動させるための少なくとも2つの異なる駆動エレメントを備え、異なる駆動エレメントは、機械の移行中に異なる時点で作動させられるよう構成されていることを特徴とする。
【0026】
発明の実施の形態は、停止状態と定常運転との間の機械の移行の間に間隙が最小になり、少なくとも2つの異なる駆動エレメントのうちの1つが、前記回転構成部材と前記固定構成部材との間の距離を減じるよう構成されており、少なくとも2つの異なる駆動エレメントのうちの別のものが、作動させられたときに前記回転構成部材と前記固定構成部材との間の距離を増大させるよう構成されていることを特徴とする。
【0027】
発明の別の実施の形態によれば、少なくとも2つの異なる駆動エレメントは、所定の作動温度に達したときに自動的に作動させられる。
【0028】
特に、少なくとも2つの異なる駆動エレメントは、同じ作動温度を有するが、機械の移行中に異なる時点で作動温度に達するように、自己調節型装置内に配置されている。
【0029】
これに代えて、少なくとも2つの異なる駆動エレメントは、異なる作動温度を有し、機械の移行中に同じ又はほぼ同じ温度条件に曝されるように、自己調節型装置内に配置されている。
【0030】
発明の別の実施の形態によれば、自己調節型装置は、半径方向及び/又は軸方向での回転構成部材及び固定構成部材の互いに対する移動を行うよう構成されている。
【0031】
発明の別の実施の形態は、前記回転構成部材及び前記固定構成部材は、特に圧縮機又はガスタービンの回転ブレード及び/又は固定ベーンを含み、前記回転ブレード及び/又は固定ベーンには、各々のブレード/ベーン先端部と、各々のブレード/ベーン先端部に向き合って配置された関連する熱シールドとが設けられており、自己調節型装置は、直接に又は機械的トランスミッションを介して、前記関連する熱シールドのうちの少なくとも1つに駆動結合されていることを特徴とする。
【0032】
発明の別の実施の形態は、前記駆動エレメントが、バイメタル及び/又は形状記憶合金システム及び/又は温度、圧力又は機械的負荷のしきい値を超えたときに弾性的、超弾性的又は偽弾性的に変形するあらゆるその他の材料から成ることを特徴とする。
【0033】
発明の別の実施の形態によれば、前記駆動エレメントは、ターボ機械における温度を直接検出し、前記検出された温度が作動温度に達したときに作動させられる。
【0034】
発明の別の実施の形態は、ターボ機械の温度が別個の温度センサによって検出され、前記検出された温度が作動温度に達したときに、前記駆動エレメントが作動機構又は作動回路によって作動させられることを特徴とする。
【0035】
発明の別の実施の形態によれば、駆動エレメントは、位置エネルギを保存及び放出する能力を有するばね又はその他の装置の形態である。
【0036】
特に、駆動エレメントは、各々の駆動エレメントとは反対方向に作用する戻しばねと組み合わされている。
【0037】
発明の別の実施の形態によれば、移動させられる構成部材は、支持体に可動に支持されており、駆動エレメントは、移動させられる構成部材と支持体との間に配置されている。
【0038】
ここで本発明を添付の図面を参照しながら様々な実施の形態によってさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ブレード及びベーンを備えたターボ機械段の一部と、回転軸と固定のハウジングとの間に形成された流体チャネルとを示す図である。
【図2】移行運転中のターボ機械段の時間依存間隙を示す典型的な曲線(図2(a))と、移行運転中のターボ機械の作動流体と金属部品との温度の時間依存における差を示す典型的な曲線(図2(b))とを示す図である。
【図3】様々な時点における冷却及び加熱中のターボ機械の温度の半径方向ばらつきを示す図である。
【図4】2つの異なる駆動エレメントA及びBを備えた、本発明の実施の形態による自己調節型装置の原理的な構成を、停止条件(a)、移行条件(b)、及び公称運転条件(c)における制御されない間隙と比較して示す図である。
【図5】半径方向に可動な熱シールドによる熱膨張及び/又は遠心膨張に関する間隙調節を示す図である。
【図6】軸方向に可動な熱シールドによる熱膨張及び/又は遠心膨張に関する間隙調節を示す図である。
【図7】ケーシングとブレードとの傾斜面接触のための有効間隙を説明する図である。
【図8】発明の1つの実施の形態による、形状記憶合金(SMA)、又は同様の特性を示すその他の材料から形成された2つの異なる駆動エレメントA及びBを備えた、半径方向に可動な熱シールドの概略図である。
【図9】発明の別の実施の形態による、形状記憶合金(SMA)、又は同様の特性を示すその他の材料から形成された2つの異なる駆動エレメントA及びBと、戻しばねDとを備える、軸方向及び半径方向に可動な熱シールドの概略図である。
【図10】発明の別の実施の形態による、形状記憶合金(SMA)、又は同様の特性を示すその他の材料から形成された2つの異なる駆動エレメントA及びBを備えた、軸方向に可動な熱シールドの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は、バイメタル及び/又は形状記憶合金(SMA)システム及び/又は温度、圧力又は機械的負荷のしきい値を超えた場合に弾性的、超弾性的又は偽弾性的に変形するあらゆるその他の材料から成る、自己調節型装置又はシステム(SAS)の適用に関する。このシステムは、能動的又は受動的に起動させられる。システムは、タービンブレード又は圧縮機ブレード、ステータ熱シールド又はロータ熱シールド、ベーンキャリヤ、又は作動中に間隙を最小化する目的でターボ機械のロータ又は外側ケーシングに組み付けられるその他の回転構成部材又は固定構成部材のアセンブリセクション内に取り付けられる。
【0041】
以下では、開示された革新の典型的な適用として、ステータ内へのタービンステータ熱シールドのアセンブリが選択されるが、開示は熱シールドだけに限定されない。
【0042】
機関内の熱膨張の補償は、駆動エレメント又はSAS部材を、タービンブレード及びベーンを包囲する熱シールドに取り付けることによって行われる。駆動エレメント又はSAS部材の作動温度に達すると、取り付けられた熱シールドは、機関軸線11から離れるように又は機関軸線11に向かって移動を行う。
【0043】
慣用の従来技術の間隙挙動(図4の上側部分)と、SAS制御された間隙挙動(図4の下側部分)との比較により、この原理は図4に示されている。ブレード/ベーン先端部21と、関連する固定熱シールド22との間(図4の上側部分)、又は自己調節型装置25の可動でかつ制御可能な熱シールド23との間(図4の下が部分)との間の相対距離が、図4に示されている。
【0044】
タービンが作動し始めると、タービン内の温度は作動点まで上昇する。ロータに対してブレードの熱容量は小さいので、ブレードが熱膨張させられた後、ロータ及びステータの熱膨張の差によりロータがステータに対して軸方向に変位させられる。これは、ロータブレード(ブレード先端部21)とケーシング(熱シールド23)との間の間隙Cを一定に保つために、第1のステップ(a)−>(b)において、この所定の軸方向位置においてステータ部分の半径を増大させるように熱シールド23が移動させられなければならないことを意味する。第2のステップ(b)−>(c)において、熱シールド23は、この所定の軸方向位置におけるステータ部分の半径を減じるように移動させられなければならない。なぜならば、ロータブレードは軸方向で傾斜した外面を有し、かつロータ及びステータの熱膨張の差によりロータがステータに対して軸方向に移動させられるからである。
【0045】
このような作動ステップの数は2に限定されるわけではなく、作動的及び設計的考慮による要求に応じた数であることができる。
【0046】
上記の2ステップ移動は、例えば形状記憶合金(SMA)部材であることができる図4に示した2つ以上の異なる駆動エレメント又はSASパッケージA及びBの作用−反作用構成(an agonist-antagonist configuration)により行うことができる。これらの部材は、任意の形状の1つ以上のばね、例えばコイルばね又は板ばねから成ることができる。ばねの任意の形状を用いることができる。熱シールド23は、一種のピストン・シリンダ配列において支持体24に可動に取り付けられている。支持体において熱シールド23を2つの反対方向に移動させるために、駆動エレメントA及びBが設けられている。
【0047】
エンジン構成部材の温度を上昇させると、駆動エレメントA及びBの位置の周囲の伝熱作用により駆動エレメントA及びBの温度も上昇し始める。この温度上昇は、SMA駆動エレメントA及びBの形状変化を引き起こすことができる。
【0048】
作用駆動エレメント又はSMAパッケージAは、膨張すると、熱シールド23の内面の半径を増大させ(図4(b))、これに対して反作用駆動エレメント又はSMAパッケージBは、膨張すると、熱シールド23の内面の半径を減少させる(図4(c))。これにより、作用駆動エレメント又はSMAパッケージAは、ケーシングの加熱中により低い温度で又はより早い時間に作動させられ、反作用駆動エレメント又はSMAパッケージBは、ケーシングの加熱中のより高い温度で又はより遅い時間に作動させられる。部材A又はB又はその他の部材のいずれも、設計的要求に応じて、並列ばねシステム又は直列ばねシステム又はそれらの組合せから形成することができる。全てのばねは、別のばねと同じ又は異なる材料から形成することができる。
【0049】
自己調節型装置の形状は任意であることができ、概して、利用できる設計的スペースに依存する。自己調節型装置の形状における決定的な要因は、図4に示したようにCnom−Cppの差だけブレード又はベーン先端部21から離れる方向に熱シールド23を移動させることができる寸法であることである。
【0050】
本発明による自己調節型装置の複数の実施の形態が以下に説明される。SMA特性に基づくこれらの説明は、開示の原理を理解するために有効である。しかしながら、自己調節型装置は、他の材料を用いてもよく、他の構成で配置されていてもよい。
【0051】
同じ変換(作動)温度を有するSMA駆動エレメント若しくはパッケージ
同じSMAから形成された複数の駆動エレメントは、半径方向距離に関して異なる位置に配置されている。ハウジング内の熱勾配により(図3参照)、タービン内の温度が上昇してハウジングを加熱するときに、駆動エレメント又はSMA装置は異なる時間に作動させられる。一方の駆動エレメント又はSMAパッケージは、時間t=t2に作動させられるような半径方向距離に配置されている。別の駆動エレメント又はSMAパッケージは、第1のパッケージと比較してより大きな半径方向距離に配置されており、時間t=t3に作動させられる(図3参照)。
【0052】
異なる変換(作動)温度を有するSMA駆動エレメント若しくはパッケージ
複数のSMAパッケージが直列に適用され、この場合、特定のパッケージ内のSMAは同じ変換温度を有するが、異なるパッケージのSMAは異なる変換温度を有する。したがって、特定のパッケージは、異なる温度において作動させられ、増分的な変位を行う。
【0053】
図5によれば、ブレード14が半径方向に熱膨張させられると、ロータブレードと熱シールドとの間の間隙を一定に保つために、熱シールド26は同じ半径方向へ移動させられる(図5、中央部分)。ブレード14がロータの熱膨張により軸方向に移動させられると、熱シールド26は半径方向で戻るように移動させられる(図5、右側部分)。
【0054】
図6によれば、ブレード14が半径方向で熱膨張させられると、ロータブレード14と熱シールド26′との間の間隙を一定に保つために、熱シールド26′は軸方向に移動させられる(図6、中央部分)。ロータの熱膨張によりブレード14が軸方向に移動させられると、熱シールド26′は軸方向で戻るように移動させられる(図6右側部分)。
【0055】
熱シールドの所要の軸方向変位"s"(図7参照)は、ブレードの外面の半径の変化"δ"と、ロータ軸線に対するブレードの傾斜した外面の角度"α"とに依存する(図6も参照)。
【0056】
図8から図10まで、幾つかの他の可能な構成を示している。
【0057】
二方向の力を利用する半径方向移動(図8)
x方向でのロータの相対的な軸方向移動による間隙の増大は、R方向での、円錐面29を有する熱シールド28の半径方向移動により排除することができる。図8に示した実施の形態において、熱シールド28と支持体30との間の異なるSMA駆動エレメントA及びBの作用−反作用構成を有する自己調節型装置27は、二方向の力によって熱シールド28の半径方向移動を生ぜしめる(図8)。
【0058】
二方向の力を利用する軸方向移動(図10)
図10に示した別の実施の形態は、図8の実施の形態において説明したように、駆動エレメントA及びBと支持体38とを備えた自己調節型装置36内の同じ作用−反作用構成を用いるが、ただしこれは、熱シールド37の軸方向移動のためである。この場合、互いに隣接する熱シールドの間の間隙は、移動によって影響されない。
【0059】
組み合わされた半径方向/軸方向移動(図9)
熱シールドの半径方向のみ又は軸方向のみの移動ではなく、組み合わされた半径方向/軸方向移動も可能である。
【0060】
熱シールド28と、軸方向案内部33を備えた第1の可動な支持体32と、第1の支持体32のための第2の固定の支持体35と、第3の支持体34と、駆動エレメントA及びBと、戻しばねDとを有する自己調節型装置31を含む、図9に示した実施の形態は、互いに対して所定の角度(図示の実施例では90゜)で配置された2つの駆動エレメント又はSMAパッケージA及びBによる平面移動を生ぜしめることができる。図9の構成において、各々の駆動エレメント又はSMAパッケージA及びBは、リセットのための付加的な戻しばねDを必要とする。
【0061】
これまでに示された実施の形態において、駆動エレメント又はSMA作動装置A及びBの力及び行程は、移動させられる熱シールドに直接に作用していた。しかしながら、駆動エレメントの力及び行程を、レバー機構(図示せず)によって、熱シールドの作動のための所要の性能に適応させることができることは、発明の範囲内である。
【0062】
取付けの位置
これまで、NiTi(ここでNi及びTiはそれぞれニッケル及びチタンを意味する)をベースとする利用可能なSMAは、ガスタービンの熱シールドに存在する高温に耐えることはできない。したがって、自己調節型SMA作動装置は、ホットスポットから離れて配置すべきである。
【0063】
ヒートシールドに隣接して高温センサ/スイッチを配置することにより、駆動エレメント又はSMA装置の作動のための信号を生成することができる。作動は、SMAのジュール加熱のために電流を切り換えることによって又はSMAへの高温流体流を操作することによって実現することができる。
【0064】
この開示において、所要の挙動を示す様々な形状記憶合金、バイメタル及び/又はその他の材料が考慮されている。これらの材料の製造及び構成部材への組込みは、ここでは詳細に説明されていないが、従来技術の形状記憶合金及びバイメタルの研究及び製造に対応する。
【0065】
例えば、許容できる作動温度が200℃までであるNiTiベース形状記憶合金を、ガスタービン機関において利用できる二次空気流冷却を提供することによってブレードの高温根元部分において考慮することができる。
【0066】
三元高温NiTiX合金であって、Xが、ハフニウム(Hf)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ジルコニウム(Zr)又はプラチナ(Pt)であることができる、三元高温NiTiX合金は、鉄(Fe)ベース及び銅(Cu)ベースの形状記憶合金よりも、作動温度を800℃以上にまで高める。
【符号の説明】
【0067】
10 ターボ機械
11 軸線
12 軸
13 ハウジング
14 ブレード
15 ベーン
16 流体チャネル
17 基部
18 熱シールド
19 チャンバ
20 外面
21 ブレード/ベーン先端部
22,23,26,26′ 熱シールド
24,30,32 支持部
25,27,31,36 自己調節型装置
28,37 熱シールド
29 円錐面
33 案内部
34,35,38 支持部
A,B 駆動エレメント
C 間隙
b ブレード間隙(半径方向)
v ベーン間隙(半径方向)
pp ピッチポイント間隙
ss 静止間隙
nom 公称間隙
D 戻しばね
R 半径
S−U 始動条件
S−S 定常状態条件
t 時間
T 温度
A 周囲温度
n 公称ガス温度
mn 公称金属温度
x 軸方向距離(任意)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱負荷されるターボ機械(10)の回転構成部材と固定構成部材(14,15,21,23,26,26′,28,37)との間の、特に半径方向の、間隙(C)を制御する自己調節型装置(25,27,31,36)であって、前記間隙(C)は、停止状態と定常状態運転との間の機械の移行中に非線形に変化する、自己調節型装置であって、該自己調節型装置(25,27,31,36)は、前記回転構成部材及び前記固定構成部材(14,15,21,23,26,26′,28,37)を、前記回転構成部材と前記固定構成部材との間の間隙(C)を変化させるように互いに対して移動させるために、少なくとも2つの異なる駆動エレメント(A,B,D)を有し、該異なる駆動エレメント(A,B,D)は、前記機械の移行中の異なる時間に作動させられるよう構成されていることを特徴とする、自己調節型装置。
【請求項2】
前記間隙(C)は、前記停止状態と前記定常状態運転との間の機械の移行中に最小値(Cpp)となり、前記少なくとも2つの異なる駆動エレメント(A,B)うちの1つは、前記回転構成部材と前記固定構成部材(14,15,21,23,26,26′,28,37)との間の距離を減じるよう構成されており、前記少なくとも2つの異なる駆動エレメント(A,B)うちの別のものは、作動させられたときに前記回転構成部材と前記固定構成部材と(14,15,21,23,26,26′,28,37)の間の距離を増大するよう構成されている、請求項1記載の自己調節型装置。
【請求項3】
所定の作動温度に達したときに前記少なくとも2つの異なる駆動エレメント(A,B)は自動的に作動させられる、請求項1又は2記載の自己調節型装置。
【請求項4】
前記少なくとも2つの異なる駆動エレメント(A,B)は、同じ作動温度を有するが、前記機械の移行中の異なる時間に作動温度に達するように前記自己調節型装置内に配置されている、請求項3記載の自己調節型装置。
【請求項5】
前記少なくとも2つの異なる駆動エレメント(A,B)は、異なる作動温度を有し、前記機械の移行中に同じ又はほぼ同じ温度条件に曝されるように自己調節装置内に配置されている、請求項3記載の自己調節型装置。
【請求項6】
前記自己調節型装置(25,27,31,36)は、半径方向及び/又は軸方向で前記回転構成部材及び前記固定構成部材(14,15,21,23,26,26′,28,37)の互いに対する移動を行うよう構成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の自己調節型装置。
【請求項7】
前記回転構成部材及び前記固定構成部材(14,15,21,23,26,26′,28,37)は、特に圧縮機又はガスタービンの回転ブレード(14)及び/又は固定ベーン(15)であって、前記回転ブレード(14)及び/又は前記固定ベーン(15)には各々のブレード先端部又はベーン先端部(21)が設けられている、回転ブレード(14)及び/又は固定ベーン(15)と、各々のブレード先端部又はベーン先端部(21)と向き合って配置された関連する熱シールド(23,26,26′,28,37)とを有し、前記自己調節型装置(25,27,31,36)は、直接又は機械的トランスミッションを介して、前記関連する熱シールド(23,26,26′,28,37)の少なくとも1つに駆動接続されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の自己調節型装置。
【請求項8】
前記駆動エレメント(A,B)は、バイメタル及び/又は形状記憶合金(SMA)システム及び/又は温度、圧力又は機械的負荷のしきい値を超えたときに弾性的、超弾性的又は偽弾性的に変形するあらゆる他の材料から成る、請求項1から7までのいずれか1項記載の自己調節型装置。
【請求項9】
前記駆動エレメント(A,B)は、前記ターボ機械(10)における温度を直接検出し、前記検出された温度が駆動エレメントの作動温度に達したときに作動させられる、請求項1から8までのいずれか1項記載の自己調節型装置。
【請求項10】
前記ターボ機械(10)における温度は、別個の温度センサによって検出され、前記検出された温度が前記駆動エレメント(A,B)の作動温度に達したときに、前記駆動エレメント(A,B)は、作動機構又は作動回路によって作動させられる、請求項1から8までのいずれか1項記載の自己調節型装置。
【請求項11】
前記駆動エレメント(A,B)は、位置エネルギを保存しかつ放出する能力を有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の自己調節型装置。
【請求項12】
前記駆動エレメント(A,B)は、ばねの形態である、請求項11記載の自己調節型装置。
【請求項13】
前記駆動エレメント(A,B)は、各々の駆動エレメント(A,B)と反対方向に作用する戻しばね(D)と組み合わされている、請求項11又は12記載の自己調節型装置。
【請求項14】
前記移動させられる構成部材(23,28,37)は、支持体(24,30,32,38)に可動に支持されており、前記駆動エレメント(A,B)は、前記移動させられる構成部材(23,28,37)と、前記支持体(24,30,32,38)との間に配置されている、請求項1から13までのいずれか1項記載の自己調節型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−64404(P2013−64404A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−206199(P2012−206199)
【出願日】平成24年9月19日(2012.9.19)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5400 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】