説明

熱転写箔

【課題】被転写材の表面に優れた衝撃緩衝性を与え、あるいは優れた意匠性を与えることができる熱転写箔を提供すること。
【解決手段】基材フィルムの表面に熱転写層を設けた熱転写箔において、該熱転写層を形成する各層の少なくとも1層が熱発泡剤を含むことを特徴とする熱転写箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写により被転写材に空気含有層を付与させる熱転写箔に関する。さらに詳しくは、熱発泡剤を含む層を少なくとも1層有する熱転写箔を転写加工する際、転写時の熱量によって熱発泡剤が発泡し、被転写材表面に空気層を含む熱転写層を転写させ、被転写材表面に衝撃緩衝性を付与させる、または被転写材表面に擬似スウェード調の意匠性を付与させる熱転写箔に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱転写箔(熱転写フィルム)はその熱転写層を被転写材に転移させて、被転写材の表面に絵柄などの意匠を簡便に付与するために広く用いられている。このような熱転写箔の1例を図1に示す。図1に示す熱転写箔Aは、基材フィルム(支持フィルム)1上に剥離層2、絵柄などの装飾層3および接着剤層4からなる熱転写層Bを積層した構成を有する。
【0003】
図1に示す熱転写箔Aは、図2に示すように、熱転写箔の最表面部にある接着剤層4を被転写材5に対向させて重ね合わせ、上部から熱と圧力を加え、次いで図3に示すように、基材フィルム1を、基材フィルム1と剥離層2との界面で剥離させ、熱転写層Bを被転写材5に転移させて、被転写材5の表面に絵柄などを付与するために用いられている。
【0004】
また、図1に示す熱転写箔Aは、熱転写箔を成型同時転写機の金型内に装着させ、接着剤層上に被転写材を溶融射出することにより、溶融樹脂の熱で接着剤層を溶融させ、図3に示すように、基材フィルムを基材フィルムと剥離層との界面で剥離させ、熱転写層を被転写材に転移させて、被転写材の表面に絵柄などを付与するために用いられている。
【0005】
このような熱転写箔により、被転写材表面に衝撃緩衝層を付与するには、積層される剥離層、装飾層および接着剤層のそれぞれの樹脂に柔らかいものを選定したり、シリカなどを多量に含有させた層を設けたりする方法が主であった。しかし、その方法で付与される衝撃緩衝層としての機能が低いものであった。また、熱転写箔により被転写材表面へ特殊な触感の意匠性を付与するには、基材フィルムの表面をシリカなどの顔料を用いてマット化する方法が主であった。しかし、その方法は基材フィルムの表面状態を転写後の剥離層表面に転写させるに留まるため、転写後の剥離層の表面をマット化させただけの固い触感であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、被転写材の表面に優れた衝撃緩衝性を与え、あるいは優れた意匠性を与えることができる熱転写箔を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、基材フィルムの表面に熱転写層を設けた熱転写箔において、該熱転写層を形成する各層の少なくとも1層が熱発泡剤を含むことを特徴とする熱転写箔を提供する。この転写箔においては、熱転写層が剥離層と絵柄層と感熱接着剤層とからなり、上記剥離層および/または絵柄層が熱発泡剤を含有していることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、上記本発明の熱転写箔を、その熱転写層を被転写材表面に対向させて積層させ、該積層物を加熱して熱転写層中の熱発泡剤を発泡させるとともに、基材フィルムを剥離することを特徴とする転写方法、および該方法によって得られ、被転写材の表面に絵柄層と剥離層とを有し、剥離層および/または絵柄層が発泡していることを特徴とする物品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱転写箔の熱転写層を構成する各層のいずれかの層、例えば、剥離層に熱発泡剤を含有させることで、転写時の熱量により剥離層が発泡して気泡を含む発泡層とし、該発泡層を被転写材に転写し、被転写材表面に衝撃緩衝の機能を付与させることができる。また、被転写材表面に擬似スウェード調の意匠性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に好ましい実施態様を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の熱転写箔は、図1に示すように、基材フィルム(支持フィルム)1上に熱転写層Bを積層した構成を有し、該熱転写層Bが、基材フィルム側から順に剥離層2、絵柄層3および感熱接着剤層4を有することが好ましく、上記絵柄層3および/または剥離層4が熱発泡剤を含有していることを特徴とする。
【0011】
本発明で使用する基材フィルム(キャリヤフィルム)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、エチレン−テレフタレート−イソフタレート共重合体などの熱可塑性ポリエステル樹脂など、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性オレフィン樹脂、ナイロン、セロファン、アクリルなどからなるフィルムが挙げられる。
【0012】
上記基材フィルムの表面は、未処理でもよく、また、コロナ放電処理や易接着コート処理されていてもよい。中でもポリエステルフィルムが好ましく、特に2軸延伸ポリエステルフィルムが最適である。基材フィルムの厚みは特に制限されないが、熱転写時の熱量に耐えられる観点からは12〜38μmのものが適している。
【0013】
上記基材フィルムの表面には熱転写時に基材フィルムから剥離して被転写材に熱転写層が転写された際、その最表面(保護層)となる剥離層が形成されている。この剥離層は通常、基材フィルムから易剥離性であるアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂などの樹脂を適当な溶剤に溶解してなる塗料を塗布および乾燥させて約0.5〜30μmの厚みに形成する。
【0014】
本発明においては、上記剥離層に熱発泡剤を包含させて発泡性剥離層とすることが好ましい。ここで使用する熱発泡剤としては、化学発泡剤、熱膨張性マイクロカプセルなどが使用できる。化学発泡剤としては、アゾジカルボアミド、アゾビスイソブチロニトリル、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、オキザロ酢酸、マロン酸、タートニック酸、アセトンジカルボン酸、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0015】
また、熱発泡剤としては、熱膨張性マイクロカプセル、例えば、n−ブタン、i−ブタン、ペンタン、ネオペンタンのような低沸点の炭化水素を内包し、カプセルの壁膜材として塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートのようなアクリル酸エステル、スチレンのような芳香族ビニル化合物を主成分とする熱可塑性樹脂を利用したものがあり、市販品としては、マツモトマイクロスフェアF−30、F−50、F−80(松本油脂(株)製商品名)などが挙げられる。
【0016】
以上の如き熱発泡剤の使用量は、剥離層形成用塗料中の前記樹脂の100質量部当たり約0.1〜50質量部の範囲であることが好ましい。さらに上記剥離層形成用塗料中には、熱発泡剤以外に流動性改良剤、表面改質などのためにレベリング剤、静電防止剤、可塑剤、滑剤、界面活性剤などの各種添加剤を配合することができる。
【0017】
前記絵柄層は、例えば、ウレタン系、アクリル系、ポリアミド系、セルロース系、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系のバインダーを含むグラビアインキにより常法に従って形成される。前記剥離層に熱発泡剤を添加する代わりに、または同時に上記グラビアインキに前記の熱発泡剤を前記と同様な割合で添加して発泡性絵柄層とすることもできる。
【0018】
前記接着層を形成する接着剤は、被転写材表面に熱時接着可能な熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。例えば、被転写材がアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体からなる成形品などである場合は、接着剤としてスチレン−アクリル系樹脂が好ましく、被転写材がポリプロピレンからなる成形品などである場合は、接着剤として塩素化ポリプロピレン系樹脂を、そして被転写材が木質である場合は、接着剤としてエチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などが挙げられる。このような接着剤層は、上記接着剤の有機溶剤の塗布および乾燥、あるいは押出コーティングなどで形成することができる。このように形成する接着剤層の厚みは約1.0〜30.0μmであることが好ましい。
【0019】
本発明の転写方法は、図2に示すように、上記本発明の熱転写箔Aを、その熱転写層Bを被転写材5の表面に対向させて積層させ、該積層物を加熱・加圧して熱転写層中の熱発泡剤を発泡させるとともに、基材フィルム1を剥離することを特徴としている。ここで使用する被転写材としては特に限定されないが、主にその表面が衝撃によって傷つき易いプラスチック成形品や金属製品、木材製品などが挙げられる。これらの被転写材の必要個所に衝撃緩衝層を付与でき、同時に意匠性に優れた擬似スウェード表面を付与することができる。
【0020】
上記転写方法で使用する転写装置は特に限定されず、従来公知の熱転写装置、例えば、ホットスタンパー、加熱ロールなどがいずれも使用できる。このような装置で熱転写を行なう場合の加熱温度は、低くても熱発泡剤が発泡する温度、例えば、約40〜200℃の温度が好ましい。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、文中「部」とあるのは質量基準である。
【0022】
[実施例1]
水性ウレタン樹脂[ゼネカ(株)、ネオレッツR960]70部に、熱発泡剤[松本油脂製薬(株)、マイクロスフェアーF50D]30部、イソプロピルアルコール10部および水10部を混合して、発泡性剥離層形成用塗料を得た。該塗料を、リバースコーターにて厚さ25μmの未処理ポリエステルフィルム上に乾燥膜厚5μmに塗布および乾燥して発泡性剥離層を形成した。
【0023】
次いでグラビアインキ[大日精化工業(株)、ハイドリックPRP−401、水性ウレタン型グラビアインキ]に、熱発泡剤[松本油脂製薬(株)、マイクロスフェアーF50D]10部、イソプロピルアルコール10部および水10部を混合して発泡性インキを得た。該インキを用いて、ヘリオ175線、コンプレスト130°の版にて、前記発泡性剥離層の上に絵柄層を印刷形成した。
【0024】
次いで、接着剤用塗料[大日精化工業(株)、TM−R300(S)メヂウム、熱転写箔用スチレンアクリル系接着剤]を前記絵柄層上に乾燥膜厚10μmに塗布し、ドライヤーにて充分乾燥させて接着剤層を形成し、本発明の発泡熱転写箔を作成した。
【0025】
上記本発明の発泡熱転写箔を用いて、その熱転写層を220℃の転写ロールを用いてアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体から成形した厚み1mmの板に転写させ、基材フィルムを剥離し、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体板の表面に熱転写層を転写した。転写された熱転写層は、熱発泡剤の発泡により気泡を含んでいるため、衝撃緩衝層としての機能を持つ転写成型物が得られた。
【0026】
[実施例2]
アクリル樹脂[三菱レイヨン(株)、ダイヤナールBR−80]40部を、トルエン30部およびメチルエチルケトン30部に加え、50℃に加熱し、アクリル樹脂を撹拌溶解させて剥離層用塗料を調製した。次いで、得られた塗料を液温25℃に冷却し、この中に熱発泡剤[松本油脂製薬(株)、マイクロスフェアーF50D]40部を加えて撹拌して混合し、発泡性剥離層形成用塗料を調製した。該塗料を、リバースコーターにて厚さ25μmの未処理ポリエステルフィルム上に乾燥膜厚5μmに塗布および乾燥して発泡性剥離層を形成した。
【0027】
次いでグラビアインキ[大日精化工業(株)、TMCシリーズ、熱転写用グラビアインキ]に、熱発泡剤[松本油脂製薬(株)、マイクロスフェアーF50D]10部、トルエン10部およびメチルエチルケトン10部を混合してインキを作製した。該インキを用いて、ヘリオ175線、コンプレスト130°の版に印刷して、発泡性剥離層の上に絵柄層を形成した。
【0028】
上記絵柄層の上に接着剤用インキ[大日精化工業(株)、TM−R300(S)メヂウム、熱転写箔用スチレン−アクリル系接着剤]を乾燥膜厚10μmに塗布し、ドライヤーにて充分乾燥させて接着剤層を形成し、本発明の発泡熱転写箔を作成した。
【0029】
上記本発明の発泡熱転写箔を用いて、その熱転写層を220℃の転写ロールを用いてアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体から成形した厚み1mmの板に転写させ、基材フィルムを剥離し、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体板の表面に熱転写層を転写した。転写された熱転写層は、熱発泡剤の発泡により気泡を含んでいるため、衝撃緩衝層としての機能を持つ転写成型物が得られた。
【0030】
[実施例3]
水性ウレタン樹脂[ゼネカ(株)、ネオレッツR960]70部に、熱発泡剤[松本油脂製薬(株)、マイクロスフェアーF50D]30部、イソプロピルアルコール10部および水10部を混合して発泡性剥離層形成用塗料を作製した。この塗料を用いて、リバースコーターにて厚さ25μmの未処理ポリエステルフィルム上に乾燥膜厚5μmに塗布および乾燥し、発泡性剥離層を形成した。
【0031】
次いでグラビアインキ[大日精化工業(株)、ハイドリックPRP401、水性ウレタングラビアインキ]を用いて発泡性剥離層の上に絵柄層を形成した。該上記絵柄層の上に接着剤用インキ[大日精化工業(株)、TM−R300(S)メヂウム、熱転写箔用スチレン−アクリル系接着剤]を乾燥膜として厚み10μmに塗布し、ドライヤーにて充分乾燥させて接着剤層を形成し、本発明の発泡熱転写箔を作成した。
【0032】
上記本発明の発泡熱転写箔を用いて、その熱転写層を220℃の転写ロールを用いてアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体から成形した厚み1mmの板に転写させ、基材フィルムを剥離し、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体板の表面に熱転写層を転写した。転写された熱転写層は、熱転写時の熱による熱発泡剤の発泡により、擬似スウェード調の表面を有する転写成型物が得られた。
【0033】
[実施例4]
アクリル樹脂[三菱レイヨン(株)、ダイヤナールBR−80]40部を、トルエン30部およびメチルエチルケトン30部の混合溶剤を加え、50℃に加熱し、アクリル樹脂を撹拌溶解させた。次いで、該溶液を液温25℃に冷却し、熱発泡剤[松本油脂製薬(株)、マイクロスフェアーF50D]40部を加えて撹拌し、発泡性剥離剤形成用塗料を得た。該塗料を、リバースコーターにて、厚さ25μmの未処理ポリエステルフィルム上に乾燥膜厚5μmに塗布および乾燥して発泡性剥離層を形成した。
【0034】
次いで上記絵柄層の上にグラビアインキ[大日精化工業(株)、TMCシリーズ、熱転写用グラビアインキ]を用いて絵柄層を形成し、さらにその上に接着剤層用塗料[大日精化工業(株)、TM−R300(S)メヂウム、熱転写箔用スチレンアクリル系接着剤]を乾燥膜厚10μmに塗布および乾燥して接着剤層を形成して、本発明の発泡熱転写箔を作成した。
【0035】
この発泡熱転写箔を用いて、220℃の転写ロールを用いて1mm厚のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体から成形した板に転写させ、基材フィルムを剥離し、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体製の板の表面に転写された発泡性剥離層が熱ロールから受けた熱量により発泡し、擬似スウェード調の転写成型物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上の本発明により、熱転写により被転写材に簡便に空気含有層を付与することができ、その空気含有層が、衝撃緩衝層、または擬似スウェード調の意匠性として機能する熱転写箔、および転写成型物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の熱転写箔を説明する図。
【図2】本発明の熱転写方法を説明する図。
【図3】本発明の熱転写方法を説明する図。
【符号の説明】
【0038】
1:基材フィルム
2:剥離層
3:絵柄層
4:感熱接着剤層
5:被転写材
A:熱転写箔
B:熱転写層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの表面に熱転写層を設けた熱転写箔において、該熱転写層を形成する各層の少なくとも1層が熱発泡剤を含むことを特徴とする熱転写箔。
【請求項2】
熱転写層が、剥離層と絵柄層と感熱接着剤層とからなり、上記剥離層および/または絵柄層が熱発泡剤を含有している請求項1に記載の熱転写箔。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱転写箔を、その熱転写層を被転写材表面に対向させて積層させ、該積層物を加熱して熱転写層中の熱発泡剤を発泡させるとともに、基材フィルムを剥離することを特徴とする転写方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法で得られ、被転写材の表面に絵柄層と剥離層とを有し、剥離層および/または絵柄層が発泡していることを特徴とする物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−168079(P2007−168079A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364325(P2005−364325)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】