説明

熱転写記録方法

【課題】 オーバーコート層の形成のための発熱素子に対する印加エネルギを低減させるとともに、熱昇華性インクリボンを用いたカラー画像を長期間にわたって印字品質を保持することのできる熱転写記録方法を提供する。
【解決手段】
サーマルヘッド7の複数の発熱素子に選択的にエネルギを印加してカラー印刷用の熱昇華性インクを用紙の画像形成領域に転写させてカラー画像を形成した後、前記各発熱素子にエネルギを印加してオーバーコート用の熱溶融性インクを前記画像形成領域に転写させてオーバーコート層を形成する熱転写記録方法であって、オーバーコート用の熱溶融性インクを転写させる際に、前記画像形成領域を構成する各ドットDについて前記カラー画像のグレースケールとしての階調値を検出し、前記階調値に基づいて前記各発熱素子に対するオーバーコート用の印加エネルギを求め、そのオーバーコート用の印加エネルギを前記各発熱素子にそれぞれ印加するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカラー画像の表面にオーバーコート層を形成する熱転写記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱転写プリンタは、高記録品質、低騒音、低コスト、メンテナンスの容易性等の理由により、コンピュータ、ワードプロセッサ等の出力装置として多用されている。
【0003】
このような従来の熱転写プリンタの一例として、プラテンに沿ってキャリッジを移動自在に形成し、このキャリッジに複数の発熱素子が形成されたサーマルヘッドを搭載するとともに、所望の色のインクリボンが収納されたリボンカセットを着脱自在に装着して構成されているものがある。
【0004】
そして、前記プラテンとサーマルヘッドとの間に前記リボンカセットから送出されるインクリボンと用紙とを挟持し、サーマルヘッドをキャリッジとともにプラテンに沿って往復動させるとともに、前記インクリボンを巻取りながら、制御部の制御によって、画像情報に基づいて前記サーマルヘッドの発熱素子に選択的に通電して発熱させることにより、インクリボンのインクを部分的に用紙に転写して用紙上に所望の文字等の画像の記録を行なうようになっている。
【0005】
このような熱転写プリンタにおいては、プラスチックフィルム等からなる基体に熱溶融性インクが塗布された熱溶融性インクリボンを用いて用紙に記録を行なうものがよく知られているが、近年、このほか基体に熱昇華性インクが塗布された熱昇華性インクリボンを用いて用紙に記録を行なうものも知られている。
【0006】
このうち、熱溶融性インクリボンを用いて用紙に記録を行なう場合は、普通紙、厚紙、葉書等の幅広い種類の用紙に記録することができ、使い勝手が優れたものである。そして、この熱溶融性インクリボンを用いて階調記録を行なうには、発熱素子1個単位での濃度階調ができないためディザ法等を用いていた。
【0007】
これに対し、熱昇華性インクリボンを用いて用紙に記録を行なう場合は、制御部により、サーマルヘッドの各発熱素子に印加するエネルギを制御することにより、熱昇華性インクの昇華量を調整してインク用紙に転写するインクの量を制御でき、用紙上における記録画像の濃度を調節できるため、用紙として表面処理が施された専用紙とイエロー、マゼンタ、およびシアンなどのカラーインクを用いることにより銀塩写真に匹敵する高画質のフルカラー記録画像を得ることができる。このため、熱昇華性インクリボンを用いた熱転写プリンタは、近年、高画質のビデオプリンタ等として広く利用されるようになってきている(例えば、特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】特開平10−100552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、熱昇華性インクリボンを用いて記録を行なった場合、その染料の性質上、耐候性が低いことから、長期間放置した場合に紫外線等により退色したり、用紙を擦った場合等に転写されたインクが落ちることがあり、長期間にわたって印字品質を保持することが困難であるという問題があった。そのため、各色の熱昇華性インクリボンにより記録された画像の表面に、オーバーコート用の透明の熱溶融性インクを転写してオーバーコート層を形成することを行っていた。その際、従来は、熱昇華性インクリボンにより記録された画像の記録状態(階調値)に拘わらず、印刷領域に位置する各ドットに対応する発熱素子に対して一律のエネルギを印加し、オーバーコート層を形成していた。
【0010】
具体的には、図3に示すように、発熱素子に対する印加エネルギとしての最大値(図3において、数値100で示す)を印刷領域の各ドットに対応する各発熱素子に対して一律に印加することによりオーバーコート層を形成している。
【0011】
しかしながら、オーバーコート層の形成に要する印加エネルギは、オーバーコート層の下地となる前記画像の記録状態により異なる。よって、従来のオーバーコート層の形成時のように、発熱素子に対する印加エネルギとしての最大値を各発熱素子に対して一律に印加することとすれば、駆動エネルギの消費が大きくなり、逆に、発熱素子に対する印加エネルギを低く設定して各発熱素子に対して一律に印加することとすれば、下地となるカラー画像によっては、オーバーコートとして不十分なものとなる虞がある。
【0012】
本発明は前記した点に鑑みてなされたもので、オーバーコート層の形成のための発熱素子に対する印加エネルギを低減させるとともに、熱昇華性インクリボンを用いたカラー画像を長期間にわたって印字品質を保持することのできる熱転写記録方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するため、本発明の熱転写記録方法は、サーマルヘッドの複数の発熱素子に選択的にエネルギを印加してカラー印刷用の熱昇華性インクを用紙の画像形成領域に転写させてカラー画像を形成した後、前記各発熱素子にエネルギを印加してオーバーコート用の熱溶融性インクを前記画像形成領域に転写させてオーバーコート層を形成する熱転写記録方法であって、前記オーバーコート用の熱溶融性インクを転写させる際に、前記画像形成領域を構成する各ドットについて前記カラー画像のグレースケールとしての階調値を検出し、前記階調値に基づいて前記各発熱素子に対するオーバーコート用の印加エネルギを求め、そのオーバーコート用の印加エネルギを前記各発熱素子にそれぞれ印加することを特徴とする。
【0014】
また、前記オーバーコート用の印加エネルギは、前記階調値が0である場合の印加エネルギを基準とし、前記各ドットについて前記階調値に基づいて絞り込み補正値を決定し、前記絞り込み補正値により前記基準の印加エネルギを補正して求めることを特徴とする。
【0015】
さらに、前記画像形成領域は、前記カラー印刷用の熱昇華性インクを用紙に転写させて形成されたカラー画像の縦、横の最大値を満たす全領域とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱転写記録方法によれば、オーバーコート層の形成時の発熱素子に対する印加エネルギを、熱昇華性インクリボンにより記録されたカラー画像の記録状態(階調値)を考慮し、各発熱素子によって調整するので、従来のオーバーコート層の形成時のように、発熱素子に対する印加エネルギとしての最大値を各発熱素子に対して一律に印加する場合に比して、全体として、オーバーコート層の形成のための発熱素子に対する印加エネルギを低減させることが可能となる。しかも、前記オーバーコート層は、熱昇華性インクリボンにより記録された画像を長期間にわたって印字品質を保持するのに十分なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の熱転写記録方法の実施形態について、図1乃至図4を用いて説明する。
【0018】
図1は本発明に係る熱転写記録方法を適用する熱転写プリンタの実施の一形態を示したものである。
【0019】
本実施形態の熱転写プリンタ1は、図示しないプリンタのフレームの所定位置に記録面がほぼ垂直となるように配設された平板状のプラテン2を有しており、このプラテン2の前側下方には、ガイドシャフト3が前記プラテン2と平行に配設されている。このガイドシャフト3には、上下に分割されたキャリッジ4が取付けられており、このキャリッジ4の下側は、前記ガイドシャフト3に取付けられる下キャリッジ4aとされるとともに、キャリッジ4の上側は、後述するリボンカセット5が装着され前記下キャリッジ4aに対して上下方向に接離可能とされた上キャリッジ4bとされている。このキャリッジ4は、一対のプーリ(図示せず)に巻回された駆動ベルト6の一部に固着されており、この駆動ベルト6をステッピングモータ等の駆動手段(図示せず)により駆動することにより、前記キャリッジ4を前記ガイドシャフト3に沿って往復動させるようになっている。
【0020】
前記キャリッジ4には、プラテン2に対向しかつプラテン2に対して接離自在とされ、圧接状態においてプラテン2上の用紙(図示せず)に記録を行なうサーマルヘッド7が配設されており、このサーマルヘッド7は、ホストコンピュータ、イメージリーダ等、あるいはキーボード等の適宜な入力装置(図示せず)により入力された所望の記録情報に基づいて選択的に発熱される複数の発熱素子(図示せず)が整列配置されている。なお、前記用紙は、熱昇華性インクが安定的に定着されるように表面処理の施された専用紙とされている。
【0021】
また、前記キャリッジ4の左右両側部には、一対の平行クランク機構(図示せず)が配設されており、この平行クランク機構により、ガイドシャフト3に取着される下キャリッジ4aに対して、上キャリッジ4bが接離するように平行に移動可能に構成されている。
【0022】
また、前記上キャリッジ4bの左右両側部上面には、相互に内側に緩やかに湾曲してなる板状の一対のアーム15がほぼリボンカセット5の幅と等しい間隔を隔てて立設されており、このアーム15の先端部には、上下端に突起が形成された係合部15aが形成されている。また、前記上キャリッジ4bの中央部には、インクリボン17を巻取る巻取ボビン16aおよびインクリボン17を送出する送出ボビン16bが互いに所定間隔を隔てて回転自在に配設されており、前記巻取ボビン16aを回転駆動することにより、インクリボン17を所定の方向に走行させるようになされている。
【0023】
さらに、前記キャリッジ4のプラテン2に対して遠方側の端縁上面には、リボンカセット5に収納されたインクリボンの種類を検出する光センサ18が配設されており、この光センサ18は、熱転写プリンタ1の所望の位置に配設されこの熱転写プリンタ1の記録動作等の制御を行なう制御部25に接続されている。この制御部25は、少なくともキャリッジ4の移動に伴う光センサ18からの出力信号に基づいて、リボンカセット5の有無およびリボンカセット5に収納されたインクリボン17の種類、ホームポジションに対するキャリッジ4の移動距離、後述するキャノピ19の開閉状態、隣位あるいは離間した一対のリボンカセット5間の距離等を判別または検出可能とされている。
【0024】
また、前記キャリッジ4の上方には、前記フレームに開閉自在に支持されたほぼ板状のキャノピ19が前記キャリッジ4に対して所定間隔を有するように配設されている。このキャノピ19は、閉状態において、紙送り機構(図示せず)の出口側の紙押えとして機能するものであり、キャリッジ4と対向するようにして、キャリッジ4の移動領域とほぼ同一の長さとされている。
【0025】
前記キャノピ19のキャリッジ4と対向する下面の所定位置には、リボンカセット5を保持する複数のカセットホルダ(図示せず)が設けられており、各カセットホルダにより、カラー画像の記録を行なうための3色の熱昇華性インクからなるインクリボン17a,17b,17cが収納されたリボンカセット5a,5b,5cおよびオーバーコート用の透明の熱溶融性インクからなるインクリボン17dが収納されたリボンカセット5dがキャリッジ4の移動方向に沿って1列に配列されるようになっている。このうち、リボンカセット5aには、イエローの熱昇華性インクからなるインクリボン17aが、リボンカセット5bには、マゼンタの熱昇華性インクからなるインクリボン17bが、リボンカセット5cには、シアンの熱昇華性インクからなるインクリボン17cがそれぞれ収納されている。
【0026】
そして、各リボンカセット5a,5b,5c,5dは、キャノピ19と上キャリッジ4bとの間で選択的に受け渡しが行なわれるようになっている。
【0027】
前記各リボンカセット5a,5b,5c,5dのケース本体20は、インクリボン17の種類に拘わらず、すべてが同一形状、同一寸法に形成されており、このケース本体20の内部には、インクリボン17が巻回され記録に供した部分のインクリボン17を巻取る巻取リール21aおよびインクリボン17を送り出す送出リール21bが回転自在に収容されている。また、前記リボンカセット5のキャリッジ4に搭載された状態でプラテン2と対向する面には、サーマルヘッド7が臨む凹部22が形成されており、この凹部22の内側においてインクリボン17の中間部が外部に導出されるようになっている。さらに、前記ケース本体20の内部であって前記インクリボン17の走行経路途中には、回転自在に支持された一対のリボン送りローラ(図示せず)および複数のガイドローラ(図示せず)等が配設されている。
【0028】
また、リボンカセット5の凹部22が形成された面と平行に延在する後面には、各リボンカセット5内に収納されているインクリボン17の種類を判別するための識別マーク23が形成されており、この識別マーク23は、インクリボン17の種類によって異なる数の縞状の非反射部24aを有する反射シール24により形成されている。本実施形態においては、図1において左端に示すリボンカセット5aには、3本の非反射部24aを有する反射シール24Aが識別マーク23として貼着されており、以下順に、リボンカセット5bには、4本の非反射部24aを有する反射シール24Bが識別マーク23として貼着されており、リボンカセット5cには、2本の非反射部24aを有する反射シール24Cが識別マーク23として貼着されており、リボンカセット5dには、1本の非反射部24aを有する反射シール24Dが識別マーク23として貼着されている。そして、リボンカセット5の後面の左端部が識別マーク23の検出のための基準位置BPとされ、識別マーク23の図1において右端に位置する非反射部24aの右端位置までの距離Lを、すべての識別マーク23において同一とするとともに、この距離L内にインクリボン17の種類を識別するための所望の非反射部24aを形成するようになされている。
【0029】
そして、この識別マーク23をキャリッジ4に設けた光センサ18によって検出し、この検出信号をプリンタの制御部25に出力し、この制御部25内において各リボンカセット5における識別マーク23の非反射部24aの数を計数することによりリボンカセット5内に収納されているインクリボン17の種類を判別するようになっている。さらに、使用に供するインクリボン17の種類に対応する識別マーク23を光センサ18が検出した状態でキャリッジ4が停止可能とされており、キャリッジ4が停止した状態で、キャノピ19のカセットホルダに配設されているリボンカセット5が上キャリッジ4bに受け渡されるようになっている。
【0030】
前記制御部25には、記録のためのR(赤)、G(緑)、そしてB(青)の各色の階調値から構成される画像情報が、イエロー、マゼンタ、シアンの3色に色分解して色別の記録データとして格納されるとともに、本実施形態においては、イエロー、マゼンダ、シアンの熱昇華性インクを用いて記録される画像の縦、横の最大値を満たす範囲内、すなわち画像形成範囲における各ドットDに対応する発熱素子の通電情報がオーバーコート用の透明インクの記録データとして格納される。
【0031】
その際、前記制御部25では、前記画像形成領域を構成する各ドットDについて、前記カラー画像の階調値を検出し、前記階調値に基づいて前記各発熱素子に対するオーバーコート用の印加エネルギを求め、前記オーバーコート用の透明インクの記録データとする。
【0032】
つまり、前記制御部25においては、先ず、前記画像形成領域を構成する各ドットDについて、前記記録のための画像情報のR(赤)、G(緑)、そしてB(青)の各色の階調値の平均値を求める。前記階調値は、カラー画像の記録が全く行われていない状態を示す0から、カラー画像の記録がフルで行われた状態を示す255までの256階調で表す。そして、その平均値はいわゆるグレースケールとしての階調を示すこととなる。つまり、前記平均値が大きな数値の階調となれば、その記録はグレースケールにおいて黒に近い記録であり、前記平均値が小さな数値の階調となれば、その記録はグレースケールにおいて白に近い記録であることを示す。そして、各色の階調値の平均値が小さいドットDほど前記オーバーコート用の透明インクは用紙に転写されにくい。よって、前記制御部25では、各色の階調値の平均値が小さいドットDほど、大きな印加エネルギを印加し、逆に、各色の階調値の平均値が大きいドットDほど、小さな印加エネルギを印加するように調整する。
【0033】
具体的には、前記オーバーコート用の印加エネルギを求める際、前記各色の階調値の平均値が最も小さい数値である0となったときに必要十分な印加エネルギ、すなわち、前記階調値が0である場合の印加エネルギを基準とする。そして、各ドットDについて、前記基準となる印加エネルギを削減して小さい印加エネルギとするための絞り込み補正値(以下、単に補正値という。)を決定し、前記補正値により前記基準の印加エネルギを補正して、各ドットD毎の印加エネルギを求める。
【0034】
なお、本実施形態においては、図2に示すように、前記補正値の最大値を100(%)とする。前述のようにそのドットDの階調値が0である場合に印加する最大の印加エネルギである。逆に、その最小値は、オーバーコート用の熱溶融インクの転写に最低必要な印加エネルギを確保するべく、概ね70(%)前後の数値とする。これは前記階調値が255である場合に印加する際のエネルギである。このように、前記階調値および補正値は、前記階調値が大きくなるにつれて補正値は小さくなる、反比例の関係となるように設定することとなる。
【0035】
また、前記補正値は逐次、前記制御部25において、換算式を用いて求めるようにしてもよいし、予め前記換算式の結果をテーブルにして制御部に格納しておき、前記階調値に基づいてテーブルを参照し、補正値を得るようにしてもよい。
【0036】
例えば、前記補正値として69〜100(単位%)を設定した場合、前記換算式は、
100−n/8(n=階調値:小数点以下切り捨て)
とすることができる。
【0037】
この換算式によれば、階調値が255であれば、補正値は69となり、階調値が125であれば、補正値は85となる。階調値が0であれば、補正値は100となる。なお、この換算式の結果をテーブルにした場合を図3に示す。
【0038】
そして、前記制御部25は、カラー画像を形成する場合には、使用するインクリボン17の色に対応する記録データに基づき、サーマルヘッド7の複数の発熱素子を選択的に、かつ印加エネルギを調整しつつ駆動させ、オーバーコート層を形成する場合には、前記オーバーコート用の透明インクの記録データに基づき、サーマルヘッド7の複数の発熱素子を選択的に、かつ印加エネルギを調整しつつ駆動させるようになっている。
【0039】
次に、前記構成の熱転写プリンタを用いた本実施形態の熱転写記録方法について説明する。
【0040】
本実施形態においては、図示しないホストコンピュータやイメージリーダ等から熱転写プリンタ1の制御部25に入力された画像情報は、使用されるイエロー、マゼンタおよびシアンの3色に色分解して色別の記録データとして制御部25に保存される。そして、実際の記録は、リボンカセット5a,5b,5cの順に使用してイエロー、マゼンタ、シアンのインクを用いてカラー画像を形成後、リボンカセット5dを使用して透明の熱溶融性インクを用いてオーバーコート層を形成する。なお、有彩色は、イエロー、マゼンタ、シアンの3色のインクのうちのいずれか1色もしくは2色の組合せに濃度階調を加えて形成されるものであり、無彩色は、イエロー、マゼンタ、シアンの3色のインクの組合せに濃度階調を加えて形成される。
【0041】
まず、最初に行なわれるイエローのインクの記録を行なう場合について説明する。イエローの熱昇華性インクリボン17aが収納されているリボンカセット5aの検出動作は、制御部25からの指令によりホームポジションに位置するキャリッジ4を図1において右方向に移動させることにより、キャリッジ4に配設した光センサ18が、リボンカセット5の識別マーク23を検出することにより行なわれる。そして、光センサ18は、非反射部24aの配列およびピッチ等の構成による各識別マーク23の固有の検出信号を制御部25に送出し、制御部25において指令に対応するリボンカセット5aの識別マーク23かどうかを判断し、指令に対応するリボンカセット5aの識別マーク23の場合には、キャリッジ4の移動を停止し、指令に対応するリボンカセット5aの識別マーク23でない場合には、指令に対応するリボンカセット5aの識別マーク23を検出するまでキャリッジ4の移動を継続する。
【0042】
その後、対応するリボンカセット5aに対向する位置でキャリッジ4を停止し、各平行クランク機構8と回転クランク機構11を駆動して上キャリッジ4bを上昇させ、キャノピ19のカセットホルダに保持されイエローの熱昇華性インクリボン17aが収納されているリボンカセット5aを上キャリッジ4に受け渡す。そして、再度、各平行クランク機構8と回転クランク機構11を駆動して上キャリッジ4bを下キャリッジ4aに接触するように下降させる。
【0043】
この状態で、サーマルヘッドとプラテンとの間に所定の用紙を搬送し、前記サーマルヘッドをイエローのインクリボンを介して前記用紙に圧接させた状態で、キャリッジをプラテンに沿って移動させるとともに、前記インクリボンを巻取りながら、制御部25により記録画像の濃度に応じて前記サーマルヘッドの発熱素子に選択的に通電して発熱させることにより、インクリボンのイエローインクを部分的に用紙に転写して用紙上にイエローの記録を行なうようになっている。
【0044】
このイエローの記録が終了したら、使用に供したイエローインクのリボンカセット5aがあらかじめ保持されていたカセットホルダに対向する位置にキャリッジ4を停止させ、前述した動作と同様に上キャリッジ4bを上昇させ、この上キャリッジ4bに搭載されているイエローインクのリボンカセット5aをカセットホルダに受け渡す。
【0045】
次いで、光センサ18により次の記録に供されるマゼンタのリボンカセット5bの識別マーク23を検出し、このリボンカセット5bをキャリッジ4に搭載し、前記イエローの記録の場合と同様に、リボンカセット5bを使用したマゼンタの記録を行なうようになっている。
【0046】
このマゼンタの記録が終了したら、同様にしてシアンの記録が行なわれる。
【0047】
そして、この3色の記録が終了した後、本実施形態においては、制御部25からオーバーコート用の熱溶融性の透明インクを使用する記録データが出力され、イエロー、マゼンダ、シアンにより記録された画像の縦、横の最大値を満たす全領域とする画像形成領域に、前記カラー画像の表面に重ねてオーバーコート層が形成される(オーバープリント)。この場合に、本実施形態においては、前記制御部25において、前述のようにして各ドットDのグレースケールの階調値に基づいて求められた補正値により調整されたオーバーコート用の印加エネルギが前記各発熱素子にそれぞれ印加される。図4は、各ドットD毎のオーバーコート用の印加エネルギを説明するための図であり、前述の従来例の説明で用いた図5に対応するものである。例えば、前記画像形成領域内にカラー画像が形成されないドットDがあった場合、該ドットDについては前記グレースケールの階調値は0であるため、オーバーコート用の印加エネルギは、基準値の印加エネルギを補正値の最大値である100(%)で調整し、結果として、オーバーコート用の印加エネルギとしての最大エネルギが印加される。また、前記画像形成領域内にカラー画像として黒の記録が成されたドットDがあった場合、該ドットDについては前記グレースケールの階調値は255であるため、オーバーコート用の印加エネルギは、基準値の印加エネルギを補正値の最小値である69(%)で調整し、結果として、オーバーコート用の印加エネルギとしての最小エネルギが印加される。
【0048】
このように、本実施形態においては、オーバーコート層の形成時の各発熱素子に対する印加エネルギを、熱昇華性インクにより記録されたカラー画像の記録状態(階調値)を考慮し、補正値を用いて調整するので、従来のオーバーコート層の形成時のように、発熱素子に対する印加エネルギとしての最大値を各発熱素子に対して一律に印加する場合に比して、全体として、オーバーコート層の形成のための発熱素子に対する印加エネルギを低減させることが可能となる。よって、例えば、該熱転写プリンタ1が電池駆動の場合などには、電池寿命を長くすることができ、印刷枚数を増加させることもできる。
【0049】
そして、このようにして印加エネルギを低減させたとしても、該ドットDについては、前記オーバーコート層の下地となる記録状態が考慮され、オーバーコート層の形成とその機能を果たさせるに必要十分な印加エネルギが確保されているので、このオーバーコート層により、熱昇華性インクにより記録されたカラー画像を保護することができ、その結果、記録後に長期間放置した場合でも、紫外線等による退色やインク落ち等の発生を確実に防止することができ、長期間にわたって印字品質を保持することができる。
【0050】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々変更することができる。
【0051】
例えば、前記オーバーコート層の形成領域を画像形成領域の全領域とせず、カラー画像が転写されたドットのみを対象として、前記カラー画像にオーバーコート層を重ねて形成するようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る熱転写記録方法を適用する熱転写プリンタの実施の一形態を示す要部概略図
【図2】本実施形態の熱転写記録法におけるオーバーコート用の印加エネルギと下地のグレースケールの階調値との関係を示すグラフ
【図3】本実施形態の熱転写記録方法において絞り込み補正を求めるためのテーブルの一例
【図4】本実施形態の画像形成方法における画像形成領域内の各ドット毎のオーバーコート用の印加エネルギを示す説明図
【図5】従来の画像形成方法における画像形成領域内の各ドット毎のオーバーコート用の印加エネルギを示す説明図
【符号の説明】
【0053】
1 熱転写プリンタ
2 プラテン
7 サーマルヘッド
D ドット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーマルヘッドの複数の発熱素子に選択的にエネルギを印加してカラー印刷用の熱昇華性インクを用紙の画像形成領域に転写させてカラー画像を形成した後、前記各発熱素子にエネルギを印加してオーバーコート用の熱溶融性インクを前記画像形成領域に転写させてオーバーコート層を形成する熱転写記録方法であって、
前記オーバーコート用の熱溶融性インクを転写させる際に、前記画像形成領域を構成する各ドットについて前記カラー画像のグレースケールとしての階調値を検出し、前記階調値に基づいて前記各発熱素子に対するオーバーコート用の印加エネルギを求め、そのオーバーコート用の印加エネルギを前記各発熱素子にそれぞれ印加することを特徴とする熱転写記録方法。
【請求項2】
前記オーバーコート用の印加エネルギは、前記階調値が0である場合の印加エネルギを基準とし、前記各ドットについて前記階調値に基づいて絞り込み補正値を決定し、前記絞り込み補正値により前記基準の印加エネルギを補正して求めることを特徴とする請求項1に記載の熱転写記録方法。
【請求項3】
前記画像形成領域は、前記カラー印刷用の熱昇華性インクを用紙に転写させて形成されたカラー画像の縦、横の最大値を満たす全領域とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱転写記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−15699(P2006−15699A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198131(P2004−198131)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】