説明

熱間穿孔用ビットおよびこれを用いた転炉の出湯孔スリーブ穿孔方法

【課題】超硬チップを酸化させたり脱落させたりすることなく、高温域の出湯孔スリーブ能率的に穿孔できる熱間穿孔用ビットおよびこれを用いた転炉の出湯孔スリーブ穿孔方法を提供する。
【解決手段】ビット本体の穿孔面13、14に多数の超硬チップ15を溶接した熱間穿孔用ビットであって、超硬チップの回転方向前方側5〜20mmの近傍位置に冷却孔16、17を形成し、水、不活性ガス、液体窒素から選択された冷却流体を対応する超硬チップに供給して確実に冷却し、高温気相酸化を防止する。冷却流体に酸素を含まないので、穿孔対象である耐火れんが中に含まれる炭素の燃焼を防止し、ビット表面温度の上昇を抑制することができ、使用寿命を飛躍的に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間穿孔用ビットおよびこれを用いた転炉の出湯孔スリーブ穿孔方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転炉の出湯孔には耐火れんが製の出湯孔スリーブが設けられているが、出鋼流による摩耗や溶損により次第に内径が拡大し、適正な出湯が行えなくなる。このため数百チャージ毎に出湯孔スリーブを解体し、新品と交換する必要がある。この作業は図1に示されるように解体機1のロッド2の先端に穿孔用ビット3を取り付け、回転させつつ出湯孔スリーブ4を穿孔する方法で行われる。穿孔時の出湯孔スリーブ4の温度は、500〜1000℃の高温である。
【0003】
このための穿孔用ビット3は、図2に示すようにシャンクの先端に形成されたビット本体5の穿孔面に、多数の超硬チップ6を溶接した構造のものである。このような穿孔用ビット3は、建設あるいは鉱山掘削用の削岩機に用いられている技術の転用であり、500〜1000℃の高温領域における使用についての十分な配慮はなされていなかった。
【0004】
そこで例えば特許文献1には、花弁状のビット本体5の各花弁に相当する部分の中央に水または空気の噴出孔7を形成し、ビット本体5を冷却するようにした熱間穿孔用ビットが提案されている。また図2に示すように、各花弁間の溝の部分にも水または空気の噴出孔7を形成した熱間穿孔用ビットも用いられている。
【0005】
しかしこのような従来の熱間穿孔用ビットはビット本体5の全体を冷却しようとするものであって、実際に耐火れんが製の出湯孔スリーブ4を切削する超硬チップ6の局部的な酸化摩耗や溶損を効果的に防止することはできなかった。しかも冷却用空気中の酸素が耐火れんが中に含まれる炭素分と高温領域において反応して燃焼し、超硬チップ6が更に高温となって劣化し、早期に脱落するおそれがあった。なお一度脱落した超硬チップ6は再溶接してもビット本体5への埋め込みがゆるくなり、再び脱落し易い欠点があった。
【0006】
従って高価な熱間穿孔用ビットを頻繁に交換しなければならず、コストアップ要因となっていた。また超硬チップ6の脱落を防止するために熱間穿孔用ビットの回転数を落とすなど負荷を軽減すると、出湯孔スリーブの穿孔作業に長い時間を要して生産性の低下を招くという問題があった。
【特許文献1】実開平6−47348号公報(請求項2、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、超硬チップを酸化させたり脱落させたりすることなく、500〜1000℃の高温域において出湯孔スリーブを穿孔することができる熱間穿孔用ビットおよびこれを用いた転炉の出湯孔スリーブ穿孔方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明の熱間穿孔用ビットは、シャンクの先端に形成されたビット本体の穿孔面に、多数の超硬チップを溶接した熱間穿孔用ビットにおいて、水、不活性ガス、液体窒素から選択された冷却流体を超硬チップに供給する冷却孔を、対応する超硬チップの回転方向前方側の近傍位置に形成したことを特徴とするものである。なお、冷却孔を対応する超硬チップの縁から5〜20mmの位置に形成することが好ましい。
【0009】
また本発明の転炉の出湯孔スリーブ穿孔方法は、上記した熱間穿孔用ビットを用いて転炉の出湯孔スリーブを穿孔する際に、水、不活性ガス、液体窒素から選択された冷却流体を、冷却孔から供給しつつ穿孔することを特徴とするものであり、冷却流体の圧力を、0.3〜1.5MPaとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱間穿孔用ビットは、ビット本体の穿孔面に溶接された超硬チップの回転方向前方側の近傍位置から、水、不活性ガス、液体窒素のうち何れかの冷却流体を、個々の超硬チップに供給して冷却する。しかも従来のように酸素を含む冷却流体は使用しないので、耐火れんが中に含まれる炭素分と冷却流体中の酸素とが反応して燃焼することもなく、実際に耐火れんが製の出湯孔スリーブを切削する超硬チップの局部的な酸化摩耗や溶損を効果的に防止することができる。この結果、超硬チップを酸化させたり脱落させたりすることなく、500〜1000℃の高温域において出湯孔スリーブを能率よく穿孔することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図3と図4は本発明の熱間穿孔用ビットの実施形態を示すものであり、10は解体機1のロッド2の先端に装着されるシャンク、11はシャンク10の先端に形成されたビット本体であり、この実施形態では外径が520mmの大型ドリルビットである。ビット本体11は図3の断面では傘状、図4の正面図では放射溝12により区画された8弁の花弁状である。ビット本体11のテーパ状の前面および外周面は穿孔面13、14となっており、これらの穿孔面13、14には超硬合金よりなる多数の超硬チップ15が溶接により固定されている。以上の構造は図2に示した従来品と同様である。
【0012】
しかし本発明の熱間穿孔用ビットでは、個々の超硬チップ15に対応させて冷却孔16、17がビット本体11に形成されている。すなわち、前面中心部の穿孔面13に溶接された各超硬チップ15についてはそれぞれ対応する冷却孔16が形成されており、全面外周寄りの穿孔面14に溶接された2個の超硬チップ15については中央に1個の冷却孔17が形成されている。これらの冷却孔16、17は対応する超硬チップ15の回転方向前方側の近傍位置に形成されている。また冷却孔17は、回転方向後側にある超硬チップ15の回転方向前方側の近傍位置に形成されていることとなる。このように回転方向前方側の近傍位置に冷却孔を設けることにより、図5に示すように冷却流体を超硬チップ15の方向に流し、優れた冷却効果を得ることが可能となる。さらに放射溝12の中央寄りの部分にも冷却孔18が形成されている。
【0013】
各冷却孔16、17、18の孔径は5〜20mmが適当である。孔径がこれよりも小さいと冷却効果が不足し、孔径がこれよりも大きいと多量の冷却流体が必要となる。また各冷却孔16、17から超硬チップ15の縁までの距離は、5〜20mmが適当である。これよりも近いと冷却流体が対応する超硬チップ15の全体に行き渡らず、遠すぎると冷却流体が対応する超硬チップ15を越えて拡散するため、十分な冷却効果が得られなくなる。
【0014】
各冷却孔16、17はビット本体11の内部に形成された中心孔19に連通しており、水、不活性ガス、液体窒素から選択された冷却流体を冷却孔16、17、18から噴出させる。不活性ガスは窒素ガス、アルゴンガスなどであるが、経済性の面からは窒素ガスが有利である。これらは単独であっても組み合わせて用いてもよく、好ましい実施形態では水と窒素ガスを組み合わせて用いている。従来のように酸素を含む冷却流体は使用しないので、酸素が耐火れんが中に含まれる炭素分と高温領域において反応し、燃焼するおそれはない。しかも窒素を使用すれば、超硬チップ15の表面に窒化物の薄い保護層をその場で生成させることができ、耐磨耗性が向上する効果がある。
【0015】
なお冷却流体の供給圧力は、0.3〜1.5MPaの範囲、より好ましくは0.5〜1MPaの範囲とする。0.3MPa未満では冷却や酸化防止に必要な流量が得られず、また切削粉により目詰まりが発生する可能性がある。逆に1.5MPaを越えると維持費を含む設備コストが高くなり、好ましくない。
【0016】
以上に説明した本発明の熱間穿孔用ビットを用い、水、不活性ガス、液体窒素から選択された冷却流体を供給しながら図2に示す転炉の出湯孔スリーブの穿孔作業を行えば、それぞれの超硬チップ15に対応する冷却孔16、17から噴出する冷却流体が超硬チップ15を確実に冷却してかつ酸素分圧を低下させ、高温気相酸化を防止する。また穿孔対象である耐火れんが中に含まれる炭素の燃焼を防止し、ビット表面温度の上昇を抑制することができる。従って熱間穿孔用ビットの使用寿命を飛躍的に向上させることができ、出湯孔スリーブの穿孔作業を能率よく行うことができる。
【実施例】
【0017】
下記の表1に示す5種類の穿孔用ビットを用い、転炉の出湯孔スリーブの穿孔作業を行った。そして解体に要する時間と、耐用性を測定して表中に示した。なお、従来技術であるボタンビットはシャンクの先端に直接超硬チップを埋設した小径のもので、作業性は悪いが耐用性に優れているため、これを基準として耐用性を評価した。実施例は実施形態で説明した構造のものである。実施例の穿孔用ビットが優れた特性を示すことが判る。
【0018】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】出湯孔スリーブの穿孔作業の説明図である。
【図2】従来の穿孔用ビットの正面図である。
【図3】本発明の穿孔用ビットの断面図である。
【図4】本発明の穿孔用ビットの正面図である。
【図5】冷却作用の説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1 解体機
2 ロッド
3 穿孔用ビット
4 出湯孔スリーブ
5 ビット本体
6 超硬チップ
7 水または空気の噴出孔
10 シャンク
11 ビット本体
12 放射溝
13 穿孔面
14 穿孔面
15 超硬チップ
16 冷却孔
17 冷却孔
18 冷却孔
19 中心孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャンクの先端に形成されたビット本体の穿孔面に、多数の超硬チップを溶接した熱間穿孔用ビットにおいて、水、不活性ガス、液体窒素から選択された冷却流体を超硬チップに供給する冷却孔を、対応する超硬チップの回転方向前方側の近傍位置に形成したことを特徴とする熱間穿孔用ビット。
【請求項2】
冷却孔を、対応する超硬チップの縁から5〜20mmの位置に形成したことを特徴とする請求項1記載の熱間穿孔用ビット。
【請求項3】
請求項1または2記載の熱間穿孔用ビットを用いて転炉の出湯孔スリーブを穿孔する際に、水、不活性ガス、液体窒素から選択された冷却流体を、冷却孔から供給しつつ穿孔することを特徴とする転炉の出湯孔スリーブ穿孔方法。
【請求項4】
冷却流体の圧力を、0.3〜1.5MPaとしたことを特徴とする請求項3記載の転炉の出湯孔スリーブ穿孔方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−46078(P2007−46078A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229209(P2005−229209)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】