説明

熱電変換モジュール

【課題】十分な耐酸化性及び耐腐食性と、十分な熱電変換効率と、を兼ね備える熱電変換モジュールを提供する。
【解決手段】熱電変換モジュールは、熱電変換素子1と、熱電変換素子1を気密封止した容器2を有する。熱電変換モジュールは、更に、熱電変換素子1の一端と容器2の天面21の内面との間に挿入された第1熱伝導性絶縁体3と、熱電変換素子1の他端と容器2の底面22の内面との間に挿入された第2熱伝導性絶縁体4を有する。容器2は、少なくともその側壁62と天面21とが板材により構成され、その板材の厚みが0.3mm以上である。容器2の天面21側を400℃以上に昇温した後で室温に戻すことにより、底面22と天面21との最短距離が、天面21の周縁と底面22との距離よりも小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換モジュールにおいては、多数のp型熱電変換素子(熱電変換半導体)及びn型熱電変換素子が交互に配置され、これらp型熱電変換素子及びn型熱電変換素子が電極を介して相互に電気的に直列接続されている。
【0003】
p型熱電変換素子又はn型熱電変換素子の両端に温度差が存在すれば、ゼーベック効果による電気が発生する。すなわち、熱エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。
【0004】
一方、熱電変換モジュールに電気を印加すれば、ペルチェ効果によりp型熱電変換素子又はn型熱電変換素子の両端に温度差が生じ、加熱又は冷却を行うことができる。
【0005】
室温よりも高い温度で熱電変換素子を使うと、熱電変換モジュールを構成する熱電変換素子、電極材料等が酸化されてしまい、熱電変換モジュールの使用寿命が短くなる。熱電変換モジュールは、熱電変換素子等の構成要素が酸化してしまうことを抑制するために、熱電変換素子等の構成要素を容器(筐体)内に気密封止した構造とされる場合がある。容器内は真空とされたり、或いは、容器内に不活性ガスが充填されたりする。熱エネルギーを電気エネルギーに変換する場合、容器の外部から、その天面を介して、容器内の熱電変換素子へ熱が伝達される。
【0006】
特許文献1〜3では、容器(筐体)内の圧力が容器外の圧力よりも低い容器、即ち負圧筐体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−049872号公報
【特許文献2】特開2006−128522号公報
【特許文献3】特開2006−332398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者の検討により、以下のことが分かった。容器の板厚が充分に薄いとき、例えば板厚が0.1mm程度の場合には、負圧筐体はその天面と容器内の熱電変換素子との良好な接触を保つことが可能である。しかし、板厚が厚くなるにつれて熱応力が大きくなって、容器の天面の変形が生じるため、モジュールの天面と容器内の熱電変換素子との良好な接触を負圧により維持するのが困難となる。さらに、板厚の薄い熱電変換モジュールの容器には、耐酸化性及び耐腐食性が不足する場合があることが分かった。本発明者は、耐酸化性及び耐腐食性の不足は容器の板厚不足に起因すると考え、容器の板厚を厚くして耐酸化性及び耐腐食性を向上させる試みを行った。
【0009】
その結果、本発明者は、板厚が0.1mm程度の場合には熱電変換効率には問題が無いが耐酸化性及び耐腐食性が不足し、板厚を0.3mm以上とすると耐酸化性及び耐腐食性は十分に向上するものの熱電変換効率が低下することを見出した。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、十分な耐酸化性及び耐腐食性と、十分な熱電変換効率と、を兼ね備える熱電変換モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述のように、本発明者により、板厚が0.1mm程度の場合には熱電変換効率には問題が無いが耐酸化性及び耐腐食性が不足し、板厚を0.3mm以上とすると耐酸化性及び耐腐食性は十分に向上するものの熱電変換効率が低下する、という知見が得られた。
【0012】
そのような熱電変換効率の低下の原因を本発明者が更に検討したところ、熱電変換モジュールの一端側が高温になったときに、容器の天面と熱電変換素子とが離れる方向へと容器が変形し、容器とその内部の熱電変換素子との間の熱交換が阻害される現象が生じていることを見出した。
【0013】
本発明者は、この現象の発生を抑制するためには、容器と熱電交換素子とが離間する方向への容器の変形を抑制することが必要と考えた。様々な試行錯誤の結果、本発明者は、熱電変換モジュールを一旦高温で作動させた後で室温に戻したときの容器天面のZ方向変位と、熱電変換効率と、を測定するという試験を行ったところ、そのZ方向変位と熱電変換効率との間に高い相関があることを見出した。具体的には、容器の天面側を400℃以上に昇温した後で室温に戻したときに、容器の底面と天面との最短距離が、天面の周縁と底面との距離よりも小さくなるように、容器の形状を設定した場合に、十分な熱電変換効率を確保できる、という知見を得た。
【0014】
そこで、本発明は、熱電変換素子と、
前記熱電変換素子を気密封止した容器と、
前記熱電変換素子の一端と前記容器の天面の内面との間に挿入された第1熱伝導性絶縁体と、
前記熱電変換素子の他端と前記容器の底面の内面との間に挿入された第2熱伝導性絶縁体と、
を有し、
前記容器は、少なくともその側壁と前記天面とが板材により構成され、前記板材の厚みが0.3mm以上であり、
前記容器の天面側を400℃以上に昇温した後で室温に戻すことにより、前記底面と前記天面との最短距離が、前記天面の周縁と前記底面との距離よりも小さくなることを特徴とする熱電変換モジュールを提供する。
【0015】
この熱電変換モジュールによれば、容器の板材の厚みが0.3mm以上であるため、十分な耐酸化性及び耐腐食性が得られる。
しかも、容器の天面側を400℃以上に昇温した後で室温に戻すことにより、容器の底面と天面との最短距離が、天面の周縁と底面との距離よりも小さくなるように熱電変換モジュールが構成されているので、容器の板材の厚みを0.3mm以上にしても、天面と底面との離間を抑制できる。よって、熱電変換素子と第1熱伝導性絶縁体との密着、並びに、第1熱伝導性絶縁体と容器の天面との密着を維持でき、十分な熱電変換効率を確保することができる。
要するに、本発明に係る熱電変換モジュールは、十分な耐酸化性及び耐腐食性と、十分な熱電変換効率と、を兼ね備える。
【0016】
また、本発明者は、容器の形状として、平面形状と、側壁の高さが重要であるという知見を得た。より具体的には、容器の天面の平面視における外形線の曲率半径が、該外形線の全域に亘って15mm以上であり、側壁の高さが6mm以上である場合に、十分な熱電変換効率を確保できる、という知見を得た。
【0017】
そこで、本発明は、熱電変換素子と、
前記熱電変換素子を気密封止した容器と、
前記熱電変換素子の一端と前記容器の天面の内面との間に挿入された第1熱伝導性絶縁体と、
前記熱電変換素子の他端と前記容器の底面の内面との間に挿入された第2熱伝導性絶縁体と、
を有し、
前記容器は、少なくともその側壁と前記天面とが板材により構成され、前記板材の厚みが0.3mm以上であり、
前記天面の平面視における外形線の曲率半径が、該外形線の全域に亘って15mm以上であり、
前記側壁の高さが6mm以上であることを特徴とする熱電変換モジュールを提供する。
【0018】
この熱電変換モジュールによれば、容器の板材の厚みが0.3mm以上であるため、十分な耐酸化性及び耐腐食性が得られる。
しかも、容器の天面の平面視における外形線の曲率半径が、該外形線の全域に亘って15mm以上であり、容器の側壁の高さが6mm以上であるので、容器の板材の厚みを0.3mm以上にしても、側壁が容易に側方に倒れることができる。よって、天面と底面との離間を抑制できるため、熱電変換素子と第1熱伝導性絶縁体との密着、並びに、第1熱伝導性絶縁体と容器の天面との密着を維持でき、十分な熱電変換効率を確保することができる。
要するに、本発明に係る熱電変換モジュールは、十分な耐酸化性及び耐腐食性と、十分な熱電変換効率と、を兼ね備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、十分な耐酸化性及び耐腐食性と、十分な熱電変換効率と、を兼ね備える熱電変換モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係る熱電変換モジュールの模式的な側断面図である。
【図2】図1とは直交する方向での実施形態に係る熱電変換モジュールの側断面図である。
【図3】実施形態に係る熱電変換モジュールの平断面図である。
【図4】加熱により変形した後の、実施形態に係る熱電変換モジュールの模式的な側断面図である。
【図5】実施形態に係る熱電変換モジュールの平面図である。
【図6】実施例に係る熱電変換モジュールと比較例に係る熱電変換モジュールの開放電圧と天面のZ方向変位との関係を示す図である。
【図7】実施例に係る熱電変換モジュールと比較例に係る熱電変換モジュールの出力と天面のZ方向変位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0022】
図1乃至図5は実施形態に係る熱電変換モジュールを示す図である。このうち、図1は模式的な側断面図、図2は図1とは直交する方向での側断面図、図3は平断面図(図2のI−I矢視断面図)、図4は加熱により変形した後の模式的な側断面図、図5は平面図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係る熱電変換モジュールは、熱電変換素子1と、熱電変換素子1を気密封止した容器2と、熱電変換素子1の一端と容器2の天面21の内面との間に挿入された第1熱伝導性絶縁体3と、熱電変換素子1の他端と容器2の底面22の内面との間に挿入された第2熱伝導性絶縁体4と、を有している。第1熱伝導性絶縁体3は、熱電変換素子1の一端と容器2の天面21の内面とに密着し、第2熱伝導性絶縁体4は、熱電変換素子1の他端と容器2の底面22の内面とに密着している。
【0024】
熱電変換素子1は、p型熱電変換素子(p型熱電変換半導体)11と、n型熱電変換素子(n型熱電変換半導体)12と、を有している。
熱電変換素子1は、更に、p型熱電変換素子11の一端とn型熱電変換素子12の一端とを相互に電気的に接続している第1電極13と、p型熱電変換素子11の他端に接続されている第2電極14と、n型熱電変換素子12の他端に接続されている第3電極15と、を有している。
【0025】
p型熱電変換素子11及びn型熱電変換素子12を構成する熱電変換材料としては、BiTe系、PbTe系、GeTe−AgSbTe系、SiGe系、FeSi系、ZnSb系、BC系、スクッテルダイト構造及びフィルドスクッテルダイト構造を有するRESb12(REは第1族のアルカリ元素、第2族のアルカリ土類元素、第3族の希土類元素、第4族元素、第13族元素からなる群から選択された少なくとも一種類以上の元素であり、0<x≦1であり、MはFe、Co、Ni等のFe族から選択された少なくとも一種以上の元素である)系材料、(Ti、Zr、Hf)NiSnを代表とするハーフホイスラー系材料、酸化物系材料などが挙げられる。
【0026】
第1電極13は、例えば、鉄系、チタン系、銅系、アルミニウム系等の金属材料により構成されている。
【0027】
第2及び第3電極14、15は、例えば、銅系、アルミニウム系、鉄系、チタン系等の金属材料により構成されている。
【0028】
熱電変換素子1は、更に、p型熱電変換素子11と第1電極13との間に介装されている第1バリアメタル16と、n型熱電変換素子12と第1電極13との間に介装されている第2バリアメタル17と、を有している。これら第1及び第2バリアメタル16、17は、p型熱電変換素子11及びn型熱電変換素子12を構成する元素の拡散を抑制するためのものであり、例えば、それぞれFe合金、Ti合金等により構成されている。
【0029】
第1熱伝導性絶縁体3は、例えば、Al、AlN(アルミナナイトライド)等のセラミック材料からなるセラミック材料板31と、このセラミック材料板31と第1電極13との間に介装されたカーボンシート32と、セラミック材料板31と容器2の天面21の内面との間に介装されたカーボンシート33と、を有している。
【0030】
第2熱伝導性絶縁体4は、例えば、Al、AlN等のセラミック材料からなるセラミック材料板41と、このセラミック材料板41と第2電極14との間に介装されたカーボンシート42と、セラミック材料板41と第3電極15との間に介装されたカーボンシート43と、セラミック材料板41と容器2の底面22との間に介装されたカーボンシート44と、を有している。
【0031】
セラミック材料板31を構成する材料、例えば、Al、AlNは、高い熱伝導性と、絶縁性とを兼ね備える。なお、セラミック材料板31の材料としては、Al、AlN以外でも、高い熱伝導性と、絶縁性とを兼ね備えるその他の材料を用いることができる。第1及び第2熱伝導性絶縁体3、4のカーボンシート32、33、42、43、44は、熱的な接触を良好にさせるとともに緩衝材として機能する。
【0032】
容器2は、例えば、基板5と、基板5上に固定された蓋体6と、を有している。
【0033】
基板5は、平坦に形成されている。図2に示すように、基板5は、例えば、その周縁部を構成する枠状体5bと、その中央部を構成する熱伝導体5aと、を有している。枠状体5bの中央部は、円形にくり抜かれている。熱伝導体5aは、円盤状に形成され、枠状体5b内に嵌入されている。枠状体5bと熱伝導体5aは、それぞれ平坦、且つ、互いに同程度の厚みに形成され、互いの上面及び下面がそれぞれ面一となっている。
枠状体5bは、ステンレス、ニッケル、炭素鋼或いはその他の金属材料により構成することができる。
熱伝導体5aは、基板5よりも熱伝導性の高い材料(例えば銅、アルミニウム、カーボンなど)により構成されている。
熱伝導体5a上に、第2熱伝導性絶縁体4を介して熱電変換素子1が配置され、更に、熱電変換素子1上に第1熱伝導性絶縁体3が配置されている。
【0034】
蓋体6は、板材により構成され、その板厚は0.3mm以上とされている。
蓋体6は、基板5側に向けて開口する半筐体状に形成されている。
蓋体6を構成する板材は、例えば、ステンレス、ニッケル、炭素鋼或いはその他の耐熱性金属材料により構成することができる。
蓋体6は、平坦な天面21と、側壁62と、を有している。側壁62は筒状であり、その平断面形状は天面21と同じ形状となっている。なお、蓋体6の基板5側の端面は、例えば、フランジ状に張り出したフランジ部63となっている。そして、フランジ部63が、基板5の上面(例えば、枠状体5bの上面)に対して溶接(例えば、電子ビーム溶接)により固定されることによって、熱電変換素子1が容器2内に気密封止されている。
【0035】
このように、容器2は、少なくともその側壁62と天面21とが板材により構成され、その板材の厚みが0.3mm以上である。
そして、容器2の天面21側を400℃以上に昇温した後で室温に戻すことにより、底面22と天面21との最短距離L1(図4参照)が、天面21の周縁と底面22との距離L2(図4参照)よりも小さくなるように(好ましくは0.01mm以上小さくなるように)、容器2の形状等の因子が設定されている。すなわち、容器2の天面21側を400℃以上に昇温した後で室温に戻すことにより、天面21が昇温前よりもマイナスZ方向に変位するようになっている。
【0036】
このような構成とすることにより、昇温時においても、熱電変換素子1と第1熱伝導性絶縁体3との密着、並びに、第1熱伝導性絶縁体3と容器2の天面21との密着を維持でき、十分な熱電変換効率を確保することができる。
【0037】
また、蓋体6の板厚は0.3mm以上とされているので、十分に多くの腐食しろ(腐食しても品質に影響を与えない寸法マージン)及び酸化しろ(酸化しても品質に影響を与えない寸法マージン)を確保することができる。なお、蓋体6の板厚は、熱伝達を確保する観点から、1mm以下であることが好ましい。
【0038】
側壁62の立ち上がりの高さTは、例えば、6mm以上とされている。ここで、高さTは、蓋体6の下端から上端までの距離から、蓋体6の板厚の2倍の長さを差し引いた値である(図1参照)。
また、天面21の平面視における外形線の曲率半径は、該外形線の全域に亘って15mm以上とされている。具体的には、天面21の平面視における外形線は、例えば、円形とされ、その半径は15mm以上である。
また、天面21の面積は、80cm以下であることが好ましい。
【0039】
なお、容器2内は、例えば、真空とされているか、或いは、使用温度で大気圧以下の圧力になるように不活性ガス(窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン及びキセノンのうちの少なくとも何れか1種のガス)が充填されている。
【0040】
また、図1に示すように、基板5には、該基板5の表裏を貫通するように一対の絶縁体53が埋め込まれている。第2電極14には、第1リード51の一端が接続され、この第1リード51は、絶縁体53の内部を通して、基板5の下方に導出されている。同様に、第3電極15には、第2リード52の一端が接続され、この第2リード52は、絶縁体53の内部を通して、基板5の下方に導出されている。そして、第1リード51の他端と、第2リード52の他端との間に、電気的負荷7が接続されている。図1における第1リード51及び絶縁体53のアセンブリ、並びに、第2リード52及び絶縁体53のアセンブリは、それぞれ図2、図5中の真空導入端子54に相当する。
【0041】
なお、図1は、容器2内に1つの熱電変換素子1が配置されている場合を模式的に示したものである。
ただし、具体的には、図2及び図3に示すように、容器2内には複数の熱電変換素子1がアレイ状に配置され、且つ、これら熱電変換素子1が直列に接続されている。この場合、最前段の熱電変換素子1の第2電極14に第1リード51の一端が接続され、以下、前段側の熱電変換素子1の第3電極15と後段側の熱電変換素子1の第2電極14とが接続され、最後段の熱電変換素子1の第3電極15に第2リード52の一端が接続されている。
【0042】
更に、図2に示すように、容器2は、基板5側を下にして水冷ブロック8上に配置されている。この水冷ブロック8には、冷却水路81が埋め込まれており、この冷却水路81に冷却水を循環させることにより、水冷ブロック8上の容器2(の基板5側)を水冷することができるようになっている。
【0043】
次に、動作を説明する。
先ず、図示しない冷却水供給部から、冷却水路81内に冷却水を供給し、循環させながら、容器2の天面21側を室温から400℃〜600℃以上に昇温する。これにより、熱電変換素子1の一端側(天面21側)と他端側(基板5側)とに温度差が生じるので、熱電効果により、各熱電変換素子1のp型熱電変換素子11の他端とn型熱電変換素子12の他端との間に電流が流れる。よって、電気的負荷7に電源を供給することができる。
【0044】
ここで、本実施形態では、容器2の天面21側を400℃以上に昇温した後で室温に戻すことにより、底面22と天面21との最短距離L1が、天面21の周縁と底面22との距離L2よりも小さくなるように、容器2の形状等の因子が設定されている。
このため、昇温時においても、熱電変換素子1と第1熱伝導性絶縁体3との密着、並びに、第1熱伝導性絶縁体3と容器2の天面21との密着を維持でき、十分な熱電変換効率を確保することができる。
【0045】
より具体的には、天面21の平面視における外形線の曲率半径が、該外形線の全域に亘って15mm以上であり、側壁62の高さTが6mm以上である。これにより、図4に示すように、昇温時において側壁62が(その上端側の開口面積が広がる方向に)倒れやすくなり、熱電変換素子1と第1熱伝導性絶縁体3との密着、並びに、第1熱伝導性絶縁体3と容器2の天面21との密着を維持でき、十分な熱電変換効率を確保することができる。
【0046】
なお、昇温中は、容器2が熱膨張するだけでなく、内部の熱電変換素子1も熱膨張する。昇温後、容器2の天面21側を室温に戻すと、容器2は、その周縁部が塑性変形したままで、その中央部が大気圧により押されて下にへこむ。その結果、図4に示すように、天面21が凹曲面状となる。
【0047】
ここで、容器2の底面22と天面21との距離L(図1参照)の具体的な計測値の例を説明する。
【0048】
昇温前の距離Lは、10mmであり、天面21の全面に亘ってほぼ均一であった。また、昇温前の側壁62の立ち上がりの高さTは、9.4mmであった。また、蓋体6の板厚は0.3mm、天面21の面積は45cm、蓋体6の材質はステンレスであった。
【0049】
この場合に、容器2の天面21側を400℃以上に昇温した後で室温に戻したとき、容器2の周縁部の4箇所と中央部の1箇所との合計5箇所(図5の位置A〜E)の距離L(図4の最短距離L1、距離L2)は、以下の通りであった。
位置A(周縁部)での距離L(距離L2)・・・10.05mm
位置B(周縁部)での距離L(距離L2)・・・10.04mm
位置C(周縁部)での距離L(距離L2)・・・10.05mm
位置D(周縁部)での距離L(距離L2)・・・10.06mm
位置E(中央部)での距離L(最短距離L1)・・・9.95mm
【0050】
このように、最短距離L1は、周縁部での距離L2の平均値(=約10.05mm)と比べて、約0.10mm小さくなった。また、天面21は凹曲面状となった。
【0051】
次に、本発明者が認識した知見について説明する。
特許文献1乃至3の熱電変換モジュールの容器の蓋体は、平面視における外形形状が矩形状であるか、又は、角が丸められた矩形状となっている。本発明者は、熱電変換モジュールの蓋体の平面形状がこれらの形状の場合には、以下のような課題があることを見出した。
すなわち、熱電変換モジュールにおいては、昇温時の熱によって、蓋体が熱膨張し、熱応力が生じる。蓋体の平面形状が矩形状の場合、熱膨張の際に、蓋体の互いに交差する側面が互いに突っ張り合うため、蓋体がうまく側方に変形することが困難である。蓋体の角の部分の強度が局所的に強く、その部分で特に変形がし難い。
蓋体の平面形状が矩形状の場合に、その板厚を0.3mm以上にすると、側方へ逃げることができない応力が天面に作用し、天面の中央部が基板から離れる方向に変形してしまう。その結果、蓋体とその内部の熱電変換素子との間の熱交換が阻害されてしまう。このため、十分な熱電変換効率を得ることが困難である。特に、筐体内部を真空封止した場合には、蓋体とその内部の熱電変換素子との間の熱伝導の低下が顕著となる。蓋体の平面形状が角が丸められた矩形状の場合にも、同様の課題がある。
なお、昇温時の熱膨張により容器は塑性変形し、その後に室温に戻した後も、容器は変形したままの形状となる。
【0052】
これに対し、本実施形態では、蓋体6の平面視における外形線が円形であるため、蓋体6の板厚を0.3mm以上にしても、天面21が周囲全方向に均一に熱膨張するので、側壁62が容易に側方に倒れることができる。よって、天面21と底面22との離間を抑制できるため、熱電変換素子1と第1熱伝導性絶縁体3との密着、並びに、第1熱伝導性絶縁体3と容器2の天面21との密着を維持でき、十分な熱電変換効率を確保することができる。
【0053】
次に、本実施形態の実施例に係る熱電変換モジュールと、比較例に係る熱電変換モジュールとの特性の違いついて説明する。図6は実施例に係る熱電変換モジュールと比較例に係る熱電変換モジュールの開放電圧と天面21のZ方向変位との関係を示す図であり、図7は実施例に係る熱電変換モジュールと比較例に係る熱電変換モジュールの出力(電力)と天面21のZ方向変位との関係を示す図である。
【0054】
実施例に係る熱電変換モジュールは、側壁62の高さ(立ち上がりの寸法)が9.4mmで、蓋体6の板厚は0.3mm、天面21の面積は45cm、蓋体6の材質はステンレスであった。
比較例1に係る熱電変換モジュールは、天面21の平面形状が矩形状であり、且つ、側壁62が矩形枠状である点でのみ実施例に係る熱電変換モジュールと相違する。なお、この矩形形状は、一辺の長さが6.7cmの正方形であった。
比較例2に係る熱電変換モジュールは、側壁62の高さが2mmである点でのみ実施例に係る熱電変換モジュールと相違する。
【0055】
図6及び図7に示すデータは、何れも、天面21側の温度を400℃に維持しているときのデータ(開放電圧、出力)である。また、図6及び図7に示すデータのZ方向変位は、何れも、昇温後に室温に戻したときのデータである。
ここで、Z方向変位は、天面21の中央部での蓋体6の高さから、天面21の周縁部での蓋体6の高さを引いた値である。
Z方向変位がプラスであることは、天面21の中央部が周縁部に対して相対的に上方に膨らんだことを意味し、更に言えば、天面21の中央部が昇温前よりも上方に膨らんだことを意味する。
また、Z方向変位がマイナスであることは、天面21の中央部が周縁部に対して相対的に下方に凹んだことを意味し、更に言えば、天面21の中央部が昇温前よりも下方に凹んだことを意味する。
【0056】
図6において、P11とP12は、実施例に係る熱電変換モジュールの開放電圧を示す。このうちP11においては、Z方向変位は−0.1mmであり、開放電圧は2.55Vであった。また、P12においては、Z方向変位は0mmであり、開放電圧は2.3Vであった。何れも、良好な開放電圧が得られている。
【0057】
これに対し、図6において、P14は比較例1に係る熱電変換モジュールの開放電圧を示し、P13は比較例2に係る熱電変換モジュールの開放電圧を示す。このうちP13においては、Z方向変位は+3.0mmであり、開放電圧は0Vであった。また、P14においては、Z方向変位は+5.0mmであり、やはり開放電圧は0Vであった。
【0058】
また、図7において、P21とP22は、実施例に係る熱電変換モジュールの出力を示す。このうちP21においては、Z方向変位は−0.1mmであり、出力は7.88Wであった。また、P22においては、Z方向変位は0mmであり、出力は6.34Wであった。何れも、良好な出力が得られている。
【0059】
これに対し、図7において、P24は比較例1に係る熱電変換モジュールの出力を示し、P23は比較例2に係る熱電変換モジュールの出力を示す。このうちP23においては、Z方向変位は+3.0mmであり、出力は0Wであった。また、P24においては、Z方向変位は+5.0mmであり、やはり出力は0Wであった。
【0060】
図6及び図7の結果から分かるように、Z方向変位が0mm以下、マイナスの範囲では、開放電圧及び出力が良好となるが、Z方向変位がプラスになると、開放電圧及び出力が悪くなる。
熱電変換モジュールの容器2(特に蓋体6)の形状因子としては、平面形状が矩形状のものよりも円形のものの方がZ方向変位が小さくなることが分かり、また、側壁62の高さ(立ち上がりの寸法)が大きいほどZ方向変位が小さくなることが分かる。
【0061】
以上のような実施形態によれば、容器2の板材の厚みが0.3mm以上であるため、十分な耐酸化性及び耐腐食性が得られる。また、蓋体6の板厚が0.3mm以上であるため、蓋体6を基板5に対して電子ビーム溶接をしやすくなる。
しかも、容器2の天面21側を400℃以上に昇温した後で室温に戻すことにより、容器2の底面22と天面21との最短距離が、天面の周縁と底面との距離よりも小さくなるように熱電変換モジュールが構成されている。これにより、蓋体6の板厚を0.3mm以上にしても、天面21と底面22との離間を抑制できるため、熱電変換素子1と第1熱伝導性絶縁体3との密着、並びに、第1熱伝導性絶縁体3と容器2の天面21との密着を維持でき、十分な熱電変換効率を確保することができる。
【0062】
或いは、本実施形態によれば、容器2の天面21の平面視における外形線の曲率半径が、該外形線の全域に亘って15mm以上であり、容器2の側壁62の高さが6mm以上であるので、容器2の板材の厚みを0.3mm以上にしても、側壁62が容易に側方に倒れることができる。よって、天面21と底面22との離間を抑制できるため、熱電変換素子1と第1熱伝導性絶縁体3との密着、並びに、第1熱伝導性絶縁体3と容器2の天面21との密着を維持でき、十分な熱電変換効率を確保することができる。
【0063】
要するに、本実施形態に係る熱電変換モジュールは、十分な耐酸化性及び耐腐食性と、十分な熱電変換効率と、を兼ね備える。
【0064】
上記の実施形態では、容器2の天面21の平面視における外形線が円形である例を説明したが、円形以外の角がない形状(例えば、楕円、長円など)としても良い。
更に、容器2の天面21の平面視における外形線は、矩形状でも良いし、五角形以上の多角形であっても良い。
【符号の説明】
【0065】
1 熱電変換素子
2 容器
3 第1熱伝導性絶縁体
4 第2熱伝導性絶縁体
5 基板
5a 熱伝導体
5b 枠状体
6 蓋体
7 電気的負荷
8 水冷ブロック
11 p型熱電変換素子
12 n型熱電変換素子
13 第1電極
14 第2電極
15 第3電極
16 第1バリアメタル
17 第2バリアメタル
21 天面
22 底面
31 セラミック材料板
32 カーボンシート
33 カーボンシート
41 セラミック材料板
42 カーボンシート
43 カーボンシート
44 カーボンシート
51 第1リード
52 第2リード
53 絶縁体
54 真空導入端子
62 側壁
63 フランジ部
81 冷却水路
A 位置
B 位置
C 位置
D 位置
E 位置
L 距離
L1 最短距離
L2 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換素子と、
前記熱電変換素子を気密封止した容器と、
前記熱電変換素子の一端と前記容器の天面の内面との間に挿入された第1熱伝導性絶縁体と、
前記熱電変換素子の他端と前記容器の底面の内面との間に挿入された第2熱伝導性絶縁体と、
を有し、
前記容器は、少なくともその側壁と前記天面とが板材により構成され、前記板材の厚みが0.3mm以上であり、
前記容器の天面側を400℃以上に昇温した後で室温に戻すことにより、前記底面と前記天面との最短距離が、前記天面の周縁と前記底面との距離よりも小さくなることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記最短距離が、前記天面の周縁と前記底面との距離よりも0.01mm以上小さくなることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記側壁の高さが6mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記天面の平面視における外形線の曲率半径が、該外形線の全域に亘って15mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記外形線は円形、楕円形又は長円形であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項6】
前記天面の平面視における外形線は、五角形以上の多角形であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項7】
前記天面の面積が80cm以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項8】
熱電変換素子と、
前記熱電変換素子を気密封止した容器と、
前記熱電変換素子の一端と前記容器の天面の内面との間に挿入された第1熱伝導性絶縁体と、
前記熱電変換素子の他端と前記容器の底面の内面との間に挿入された第2熱伝導性絶縁体と、
を有し、
前記容器は、少なくともその側壁と前記天面とが板材により構成され、前記板材の厚みが0.3mm以上であり、
前記天面の平面視における外形線の曲率半径が、該外形線の全域に亘って15mm以上であり、
前記側壁の高さが6mm以上であることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項9】
前記外形線は円形、楕円形又は長円形であることを特徴とする請求項8に記載の熱電変換モジュール。
【請求項10】
前記天面の面積が80cm以下であることを特徴とする請求項8又は9に記載の熱電変換モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−119457(P2012−119457A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267213(P2010−267213)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)