説明

熱電変換材料と熱電変換素子

【課題】 Bi-Te系の熱電材料の性能指数を高く保ちながらその機械的強度を向上させた熱電変換材料と熱電変換素子の提供。
【解決手段】 Bi-Te系熱電変換材料の溶融固化又はホットプレスの際に、一軸性の温度勾配をかけて冷却すると、温度勾配の方向に垂直な面で測定した特定面の反射のX線回折強度比が特定値を示し、性能指数を大きく向上させる。熱電変換材料素材の両端面に金属材を配置する素子全長と熱電変換材料の長さを特定比率とすると、素子全体の電気抵抗率ρが低下し、ゼーベック係数が金属材と熱電変換材料との間の界面効果と金属のヒートシンク効果により飛躍的に増大し、発電効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ペルチェ冷却素子および熱電変換素子に使用するBi-Te系熱電変換材料及び熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換素子は電子冷却機、光通信機器や計測機器、培養器の温度制御等に既に使用されており、今後さらに高性能化されればフロンガスを使用しない冷蔵庫や車載用のエアコンの製品化も可能になる。
【0003】
また熱電変換素子は、最近の産業界において要求の高い熱エネルギーの有効活用の観点から実用化が期待されているデバイスであり、例えば、排熱を利用し電気エネルギーに変換するシステムや、屋外で簡単に電気を得るための小型携帯用発電装置、ガス機器の炎センサー等にも使用が可能である。さらに高性能化すれば、車載用の燃料電池の燃料改質装置の温度制御用としての用途も生まれる。
【0004】
熱電変換素子は、P型とN型の熱電変換材料の両端に温度勾配を設けて熱を電気に変換したり、逆に上記材料に電圧を印加して電気を熱に変換したりすることができる素子であり、後者はペルチェ素子としてよく知られている。
【0005】
熱電変換素子は、例えば、P型とN型半導体をめっきや半田、あるいは銀ろう等によりPN接合して素子となした構成である。これらの素子を形成するための熱電変換材料として、高性能を有するZn4Sb3、IrSb3、Bi2Te3、PbTe等のカルコゲン系化合物のほか、熱電特性は低いが資源的に豊富なFeSi2、SiGe等のケイ化物が知られている。
【0006】
従来の熱電変換素子(ペルチェ素子)は、材料に与えた温度勾配(電位差)を利用して熱起電力(温度差)を発生させており、その変換効率は熱電(電熱)変換素子の性能指数(ZT=TS2/ρκ、ここでTは絶対温度、Sはゼーベック係数、ρは電気抵抗率、κは熱伝導率)の関数で表され、現状ではZTがほぼ1程度であり、その変換効率は数%と低く十分とは言えないものであった。この変換効率はZTが高い程向上するために、出来る限り高い性能指数を有する材料が求められている。
【0007】
現在、ほとんどのBi-Te系の熱電変換材料はブリッジマン法、チョクラルスキー法、ゾーンメルト法による単結晶技術を使ってほぼ単結晶に近い結晶状態で作製するか、あるいはホットプレスによる粉末冶金法を使って多結晶体として作製されている。
【0008】
熱電変換素子の製造方法等に関する技術としては、例えば特許文献1には粉末を焼結させて熱電変換素子を作製することが記載されており、またBi2Te3を主材としSe、Sbを添加することが記載されているが、それぞれBi2Se3、Sb2Te3等の形で含有されるものであり、Bi2Te3の基本構造を崩すものではない。
【特許文献1】特開2002-33525
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電熱あるいは熱電の変換素子の変換効率は、太陽電池の約20%等に比べて非常に低く、現状ではわずか数%にすぎず、これが熱電変換素子あるいはペルチェ素子の用途を狭めている原因であり、また熱電変換素子が普及しない理由でもある。
【0010】
Bi-Te系熱電変換材料の単結晶は、溶湯に温度勾配をかけて冷却し結晶のc面を温度勾配の方向に沿って成長させることによって通常作製されている。単結晶体は(001)の碧開面(c面)に沿ってクラックが入りやすいという性質がある。
【0011】
一方、多結晶体ではキャリアーの粒界散乱により電気抵抗率が高くなり性能指数が低下するという問題がある。このために高い性能指数(ZT)を有するモジュールを作製する場合には単結晶体を使用し、機械的強度を優先させる場合には多結晶体を使用している。
【0012】
一般にBi-Te系熱電変換材料を単結晶に近い状態でペルチェモジュールとして使用するときには、発生する温度勾配の方向と電流を流す方向が共に結晶のc軸に垂直になるように組み立てられており、このため今まで結晶のc軸に垂直な成分の熱電特性のみが利用され、c軸成分の熱電特性はほとんど利用されていなかった。
【0013】
性能指数と機械的強度の両者を満足させるために、Bi-Teの組成や添加物の種類、添加量等も種々検討されたが、室温での性能指数が1を大きく超えることはなかった。またゼーベック係数は結晶の異方性には敏感ではないが、熱伝導率はc軸に平行な方向では低く、逆に電気抵抗率はc軸に平行な方向で高くなるので、結晶方位の選択によって性能指数は大きく変化する。
【0014】
この発明は、Bi-Te系熱電変換材料において、性能指数を向上させた熱電変換材料と発電効率の高い構成からなる熱電変換素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、Bi-Te系熱電変換材料において、性能指数を向上させ得る構成について、鋭意検討した結果、Bi-Te系化合物の極性を決める添加元素を単独又は複合添加したBi-Te系熱電変換材料の溶融固化あるいはホットプレスの際に、一軸性の温度勾配をかけて冷却することで、温度勾配の方向に垂直な面で測定した(006)と(105)反射のX線回折強度比I(006)/I(105)が特定値を示すようになり、性能指数を大きく向上させることが可能であることを知見した。
【0016】
また、発明者らは、発電効率の高い熱電変換素子の構成について、鋭意検討した結果、インゴットを切断研磨加工した熱電変換材料素材の両端面にめっきした後、金属材とはんだ付けして組み立てる構成において、熱電変換材料の長さを素子全長の特定比率とすることにより、素子全体の電気抵抗率ρが低下すると同時に、ゼーベック係数Sが金属材と熱電変換材料との間の界面効果と金属のヒートシンク効果により飛躍的に増大し、発電効率を向上させることが可能であることを知見した。
【0017】
さらに、熱電変換材料素材の両端に金属材を配置した熱電変換素子において、熱電変換材料の長さと金属材に設けたリード線間距離の比率が特定比率となるようにし、さらにリード線取り付け位置から放熱板もしくは吸熱板に接触している金属材の端面までの距離が熱電変換材料の両端面からリード線までの距離と同等もしくはそれ以上とするように組み立てることにより、発電効率を向上させることが可能であることを知見し、この発明を完成した。
【0018】
すなわち、この発明は、Bi2Te3を主材とした熱電変換材料であって、該材料の温度勾配の方向に垂直な面で測定した(006)と(105)反射のX線回折強度比I(006)/I(105)が2〜15%であることを特徴とする熱電変換材料である。
【0019】
また、この発明は、熱電変換材料(長さlB)の両端に金属材(長さlM)を配置した複合型熱電変換素子であり、前記熱電変換材料長さと熱電変換素子全長(lB+2lM)の比率(lB/(lB+2lM))が0.03〜0.10であり、P型とN型の該熱電変換素子の各金属端面が同一平面を形成するよう配列されて一体固化され、前記各平面内でリード結合されて絶縁被覆を有することを特徴とする発電用複合型熱電変換素子である。
【0020】
また、この発明は、熱電変換材料(長さlB)の両端に金属材(長さlM)を配置した複合型熱電変換素子であり、前記熱電変換材料長さと熱電変換素子全長(lB+2lM)の比率(lB/(lB+2lM))が0.60〜0.98であり、P型とN型の該熱電変換素子の各金属端面が同一平面を形成するよう配列されて一体固化され、前記各平面内でリード結合されて絶縁被覆を有することを特徴とする発電用複合型熱電変換素子である。
【0021】
また、この発明は、熱電変換材料(長さlB)の両端に配置した金属材(長さlM)にリード線間距離(t)で設けたリードを有し、かつ全長lの複合型熱電変換素子の両端面から(t-lB)/2の位置の金属材にリードを有し、P型とN型の該熱電変換素子の各金属端面が同一平面を形成するよう配列されて放熱板又は吸熱板に接触している構成であり、金属の端面までの距離(=(l-t)/2)が(t-lB)/2と同等もしくはそれ以上とすると同時に、lB/tが0.60〜0.98であることを特徴とする発電用複合型熱電変換素子である。
【発明の効果】
【0022】
この発明によると、多結晶体のBi-Te系熱電変換材料は、十分な強度を得ると同時に、性能指数の高い材料が得られ、金属と熱電変換材料の長さを所定の比率にして熱電変換素子を組み立てることにより、素子全体の電気抵抗率ρを低下させると同時に、金属電極と熱電変換材料との間の界面効果と金属のヒートシンク効果によりゼーベック係数Sが飛躍的に増大し、性能指数が大幅に改善できる。
【0023】
この発明によると、熱電変換素子において、熱電変換材料の長さと金属材に設けたリード線間距離の比率や、リードの取り付け位置から金属材の端面までの距離を特定することにより、熱電変換材料の性能を効果的に活用でき、大きく発電効率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
この発明において、Bi-Te系熱電変換材料は、rhombohedral型結晶構造を有するBi2Te3化合物中のBi原子の一部を5族元素で置換した化合物に、あるいはTe原子の一部を6族元素で置換した化合物に、添加元素として4族元素、6族元素や7族元素を単独もしくは複合添加した材料である。
【0025】
発明者らは、Bi-Te系化合物の極性を決める添加元素を単独又は複合添加して溶かした溶湯を、溶湯内およびインゴット内の温度勾配を1℃/cm〜15℃/cmとし、且つ0.1℃/分〜5℃/分の冷却速度で冷却し、一部の結晶粒のc軸を温度勾配の方向に揃えることにより、材料の機械的強度を保ちながら熱伝導率が大幅に低下し、性能指数の高い材料が得られることを見出した。
【0026】
Bi2Te3系熱電変換材料は、本来はP型の熱電特性を示すが、Bi2Te3は正孔のキャリアー濃度が高すぎるので、正孔のキャリアー濃度を減らすように結晶中に入った時に電子を放出する6族のカルコゲン元素を添加して性能指数を高めている。
【0027】
また、Bi2Te3系熱電変換材料において、N型半導体として適用する実施の形態においては、6族のカルコゲン元素、7族のハロゲン元素あるいは金属元素のハロゲン化物を添加して極性を正から負にかえると同時に、その添加量でキャリアー濃度を調整して性能指数を向上させている。
【0028】
Bi2Te3系熱電変換材料への添加元素や添加物の添加量は、目的とする極性とキャリアー濃度(〜1019cm-3)を有する半導体となすためには、P型では少なくとも1種を3wt%以上添加することが望ましく、また15wt%を越えて添加すると、逆に不純物効果によって電気抵抗率が増加する場合もあるため、15wt%以下であることが好ましく、特に好ましくは3〜12wt%である。複合して添加する場合には、総添加量で4〜13wt%にすることが望ましい。
【0029】
また、N型では少なくとも1種を0.01wt%以上の添加が必要であり、また0.10wt%を越えて添加すると逆に不純物効果によって電気抵抗率が増加する場合もあるため0.10wt%以下であることが好ましい。複合して添加する場合には、総添加量で0.09〜0.25wt%にすることが望ましい。
【0030】
添加元素は、4族元素としては、Si、Ge、Sn、Pb、6族元素としては、S、Se、Te、7族元素としては、Br、Iが好ましく、複合添加するときにはこれら各種元素の化合物やまた主成分元素との化合物を用いても良い。
【0031】
一般に、ペルチェ素子や熱電変換素子の使用温度域は用途によって異なるために、当然要求される温度域で高い性能指数(ZT)を示す材料が求められる。従って、Bi-Te系熱電変換材料の主成分は用途に応じて適宜選択される。例えば、低温で使用する場合には、P型であればBiをSbより多く含有させ、室温付近で使用する場合は、逆にBiをSbより少なくする、というように選択する。
【0032】
熱電変換材料を溶融凝固にて製造する際に、冷却速度が5℃/分を超えると、ゼーベック係数が低下して性能指数は低下するが、冷却速度が0.1℃/分未満の場合でも同様にゼーベック係数が低下して性能指数は低下する。したがって冷却速度は0.1℃/分〜5℃/分が好ましい。
【0033】
また、溶融凝固時の温度勾配は、溶湯内およびインゴット内の温度勾配が15℃/cmを超えると、温度勾配の方向に沿ってc面がほぼ揃うために熱伝導率が増加すると同時に、結晶が成長し過ぎて結晶粒径が3mmを超え、多結晶体の機械的強度が低下する。逆に、溶湯内およびインゴット内の温度勾配を1℃/cm未満にすると、ほぼ等方的な多結晶体になって結晶粒径が0.2mm未満になり、インゴットの電気抵抗率が増大し性能指数が低下する。したがって、温度勾配は、1℃/cm〜15℃/cm、インゴットの平均結晶粒径は0.2〜3mmが好ましい。
【0034】
この熱電変換材料は多結晶体であり、その温度勾配の方向に垂直な面で測定した(006)と(105)反射のX線回折強度比I(006)/I(105)は、2〜15%が好ましい。すなわち、この熱電変換材料は、熱伝導率の非常に低いc軸方向の成分を利用するために、材料全体の熱伝導率の大幅な低下が期待できるので、性能指数を大幅に改善できる。
【0035】
溶湯から多結晶体を作製する方法としては、ブリッジマン法、ゾーンメルト法のいずれの方法で作製してもよいが、多結晶体にするために溶湯内の温度勾配を1℃/cm〜15℃/cmにし、インゴットの結晶粒径が上述のように3mm以下になるようにする必要がある。
【0036】
速い速度で冷却したインゴットの結晶粒界には、添加元素や添加物が多く偏析あるいは析出しており、それらは結晶粒内にはあまり分散していないが、遅い速度で冷却したインゴットの結晶組織は結晶粒径が大きくしかも添加元素や添加物が結晶粒内にもかなり分散する。
【0037】
添加元素が結晶粒内に適度に分散するとフォノンによる熱伝導率が低下し、また添加元素がイオン化してキャリアーを放出するので、電気抵抗率も低下する傾向を示す。また添加元素が偏析しているとこの逆の傾向を示す。従って、添加元素が適度な分散状態になるように制御すれば、一部の結晶粒がc軸方向に配向しても電気抵抗率の増加を抑えることができるので、性能指数を高めることが可能になる。
【0038】
この熱電変換材料は、適度な冷却速度で作製すると、添加元素を結晶粒内に適度に分散させることができる。しかし、最適な冷却速度はインゴットの大きさ、インゴットの結晶粒径、材料の組成、添加元素によっても大きく変化するので、インゴットの作製条件に応じて適した冷却条件を選べばよい。インゴットの冷却開始は、Bi2Te3系化合物が溶けた状態であれば、いずれの温度であってもよいが、溶融、冷却雰囲気は真空もしくは不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0039】
また、この熱電変換材料は、上述した溶融凝固のみならず、公知の粉末冶金法による製造でもその製造思想は全く同様であり、所要粒度の粉末をホットプレスにて製造する際、一軸性の温度勾配をかけて焼結し、一部の結晶粒のc軸を温度勾配の方向に揃えることにより、上述の機構によって熱伝導率が大幅に低下し、性能指数の高い材料が得られる。
【0040】
以下に熱電変換素子の構成を説明する。図1に示すごとく、所要長さlBの熱電変換材料2の両端に所要長さlMの金属材3,3を配置したM/B/Mの複合型熱電変換素子1を組み立てたとき、lBの全長lに対する比率xを、x=lB/lの関数として当該素子のバワーファクターP(=S2/ρ)を求めることができる。
【0041】
この熱電変換素子を電気回路や熱回路として取り扱うと、素子の電気抵抗率ρは下記(1)式となる。
ρ=1/l・(2ρMlMBlB) (1)式
【0042】
ここで、ρMとρBは金属と熱電変換材料の電気抵抗率である。さらにb=ρMBとすると、下記(2)式となる。
ρ=ρB{x+b(1-x)} (2)式
【0043】
ここで金属と熱電変換材料の熱伝導率をκMとκBとし、ある温度差をこの素子に掛けたときに各材料に発生する温度差をΔTMとΔTBとすると、下記(3)式となる。
【0044】
【数1】

【0045】
ここでc=κMBである。したがって素子全体の温度差は(4)式となる。
ΔT=2ΔTM+ΔTB (4)式
【0046】
そのとき発生する電圧は、金属と熱電変換材料のゼーベック係数をSMとSBとすると、(5)式となる。
ΔV=2ΔTMSM+ΔTBSB (5)式
【0047】
従って、熱電変換素子全体のゼーベック係数Sは、下記(6)式となる。
【0048】
【数2】

【0049】
ここでa=SM/SBである。熱電変換素子のパワーファクターPは(7)式と得られる。ここでPB=SB2Bである。熱電変換素子のパワーファクターP/PBは、PB>PM のときには、ある最適なxで必ず1より大きくなり、増大する。
【0050】
【数3】

【0051】
素子を構成している金属Mの電気抵抗率が低く、且つ熱伝導率が高くて、熱電変換材料Bのゼーベック係数が高く、且つ熱伝導率が低いときに、所定のxでパワーファクターはもっとも大きくなる。熱電変換材料としては、特に規定しないが、性能指数の高い材料を使用した方が素子のパワーファクターは大きくなる。
【0052】
この発明のBi2Te3系熱電変換材料と金属にCuとの組み合わせの場合には、x=lB/l (ここでlは素子の全長)が0.03〜0.10の範囲で最大になる。そのときの最大パワーファクターPmaxは約100(mW/K2m)を超え、Bi2Te3系熱電変換材料のそれの約十数倍にも達する。
【0053】
このようにパワーファクターを向上させたx=0.03〜0.10の複合型熱電変換素子は、熱伝導率を犠牲にした構造のために、絶えず温度差のかかる場所、つまり原発の冷却水と海水との温度差を利用した発電機のようなものに使用できる。それは熱が素子を通って伝達されても熱源の熱容量が大きいために、サンドイッチされた熱電変換材料にかかる温度差はほとんど変化しないからである。しかもパワーファクターが大きいために、小さな温度差で大電流、大出力が得られる利点がある。また、熱電変換材料の使用量を少なくできるので、コスト削減にも効果がある。
【0054】
このような熱電変換素子を組み立てる方法として、従来のような単にP型とN型熱電変換素子の組み立て方法ではなくて、熱電変換材料と金属の長さの比が所定の比率になるように組み立てたP型熱電変換素子1PとN型熱電変換素子1Nを絶縁性の高い液状樹脂の中に交互に埋め込んだ後、樹脂6を乾燥固化させ一体化する方法を提案するものである。
【0055】
樹脂6が固まった後で、図2Aに示すようにリード線5でP型熱電変換素子1PとN型熱電変換素子1Nを直列に連結させた後、熱伝導性の良好な薄い絶縁皮膜を施すことにより、モジュールの密閉性が向上するので、発電用に使用するときに温度の異なる液体がモジュールを通って混ざり合うことがなくなると同時に、モジュールの防水性と耐食性の向上にもなる。また、樹脂で固めることにより、組み立てた熱電変換素子の機械的強度も著しく向上する利点がある。
【0056】
例えば、使用する樹脂としては、エポキシ樹脂と硬化剤を混合したものが適している。さらに個々の熱電変換素子を図2Bに示すように、千鳥構造にして全ての熱電変換素子1P,1Nがモジュール全体に占める割合を増加させて単位面積当りのエネルギー吸収効率を向上させることも可能である。
【0057】
一方、lBの全長lに対する比率xが、0.60〜0.98の複合型熱電変換素子では、金属電極と熱電変換材料との間の界面効果によりゼーベック係数Sが上記(6)式の計算値よりも飛躍的に増大する現象があり、結果的に性能指数が大幅に増加する。このゼーベック係数の増加率は熱電変換材料と金属の接合方法によって変化すると考えられるが、金属としては電気抵抗率が低く、熱伝導率が高いときに、界面効果は特に大きくなる。
【0058】
Bi-Te系熱電変換材料とCuを組み合わせたときには、P型、N型共にゼーベック係数はx=0.98で30%程度向上し、絶対値で約260μV/Kにも達する。これは性能指数ZTでは1.7倍の増加に相当する。使用する金属は耐食性に優れた材料である必要があるために、Cu、Ag、Au等の貴金属の単体もしくは合金が好ましい。熱電変換材料としては、特に規定しないが、性能指数の高い上述の熱電変換材料を使った方が素子の性能指数は向上する。
【0059】
界面効果を利用する熱電変換素子では、このx=lB/l
が0.60未満のときには、素子全体の熱伝導率が高くなるので性能指数は低くなる。しかし、xが0.98を超えると、素子全体の電気抵抗率が大きくなり、性能指数は熱電変換材料そのものの性能指数とほとんど変わらなくなるので、xは0.60〜0.98が最も好ましい。
【0060】
このような熱電変換素子を組み立てる方法として、従来のようなP型とN型熱電変換素子の連結方法ではなくて、リード線4,4間距離(t)と熱電変換材料の長さ(lB)の比(lB/t)が、上述したような所定の比率(x)になるように、P型とN型の熱電変換素子1の金属材3,3の特定の位置(図3A参照)にリード線4を半田付けし、P型とN型の熱電変換素子1を直列に連結した後、従来と同様な方法で放熱板7と吸熱板8を取り付ける方法を提案する。
【0061】
リード線の取り付け位置から放熱板、吸熱板に接触している金属の端面までの金属は、熱電変換素子のヒートシンクの役割を果たし、界面効果によるゼーベック係数を増大させる効果がある。
【0062】
リード線の取り付け位置から放熱・吸熱板に接触している金属の端面までの長さ((l-t)/2)はリード線取り付け位置から熱電変換材料の端面までの距離((t-lB)/2)と同等もしくはそれ以上あることが好ましい。
【0063】
従来型のモジュールでゼーベック係数の増大効果が見られなかったのは、
((t-lB)/2)と((l-t)/2)の距離が非常に短すぎたためである。また機械的強度を向上させるために、図3Bに示すような熱電変換素子間の空隙に液状樹脂を流し込んで、熱電変換素子と放熱板や吸熱板と一体化させても良い。
【0064】
熱電変換材料と金属材の接合は、接合金属が熱電変換材料や金属と固溶したり、反応したりしなければ、Niなどをめっきした後にはんだ接合するか、もしくはBiやBi-Sb合金を溶融させて接合材として利用してもよい。めっき膜厚や接合金属の厚みを薄くすれば、いずれの方法でも特性に大きな影響はない。
【実施例】
【0065】
実施例1
熱電変換材料およびその製造方法の実施例について説明する。N型とP型のBi-Te系熱電変換材料を作製するために、使用した主成分および添加元素の各種配合を表1に示す。
【0066】
このように元素や化合物を所定の割合で配合した後、12mm径の石英管の中に真空封入して高周波溶解して(使用原料の純度99.99%以上)、材料を溶解後、冷却速度と試料部の温度勾配を変えて作製した円柱状のインゴットの中央部から測定用試料を切断加工して25℃で熱電変換特性を測定した。これら試料の作製条件を表2に、また、熱電変換特性の測定結果を表3に示す。
【0067】
なお、同じ原料の溶解前の粉末を用いて混合混練した後、ホットプレス容器に真空封入してホットプレス法にて冷却速度と試料部の温度勾配を変えて作製した円柱状の焼結によるインゴットの場合も上記の溶融凝固による材料と同様特性であった。
【0068】
なお、性能指数の合否基準は1.30とし、これ以上を合格とした。また、試料No.2、No.5とNo.9については、機械的強度を調べるために、5×5×25mmの形状に加工してスパン15mmで抗折強度を測定した。その結果を表4に示す。
【0069】
実施例2
熱電変換素子の組み立ては、P型は表3中のNo.3の材料を使用して、N型はNo.7のそれを使用して、2×2mm2の形状に切断加工した後、表5に示す長さ寸法に切断した。また、電極材として使用するCuとAgも表に示す長さ寸法に加工した。熱電変換材料の両端にNiメッキした後、CuあるいはAgと共晶はんだで接合してP型とN型の熱電変換素子を作製した。作製した熱電変換素子の熱電特性を25℃で測定した結果を表5に示す。ゼーベック係数の測定は、該素子の両端に温度差を与えて測定した。
【0070】
次に、作製したP型とN型の熱電変換素子各18個を図2Aに示すように交互に配列してモジュールを作製した。二つの水槽の仕切板の代わりに、このモジュールを取り付けて水温30℃と80℃の水を各槽に入れて50℃の温度差をモジュールにつけて発生した電圧と電流を測定し、取り出し可能な出力電力を算出した。その結果を表6に示す。合否判定として出力電力が0.9(W)以上を合格とした。
【0071】
ここではめっきとはんだの厚みは無視して相対的な長さx=lB/l
を算出した。なお、出力電力WはW=V2/R(W)ではなくて、取り出し可能な出力電力の式W=V2/4R(W)を用いて計算した。
【0072】
実施例3
複合化によるゼーベック係数の増大効果を調べるために、熱電変換素子の組み立てを行った。P型は表3のNo.3の材料を用いて、N型は表3のNo.7のそれを用いて、2×2mm2の形状に切断加工した後、表7に示す長さ寸法に切断した。また、電極として使用するCuとAgも同様に加工した。
【0073】
熱電変換材料にNiメッキした後、CuあるいはAgと共晶半田で接合して熱電変換素子を作製した。作製した熱電変換素子の熱電特性を25℃で測定した結果を表7に示す。ゼーベック係数の測定は素子の両端に温度差を与えて測定した。合否判定として性能指数ZT1.5以上を合格とした。
【0074】
実施例4
熱電変換素子の金属電極のヒートシンク効果を調べるために、x=lB/l=0.38のP型とN型複合型熱電変換素子を表8に示す長さ寸法で作製し、図3に示すようにリード線の接続位置を変えて、接続位置と性能指数の関係を調べた。
【0075】
金属端面からリード線接続位置までの距離(l-t)/2と熱電変換材料の端面からリード線接続位置までの距離(t-lB)/2の比率(l-t)/(t-lB)を変えて25℃で測定した熱電特性の結果を表8に示す。ゼーベック係数の測定は素子の両端に温度差を与えて測定した。
【0076】
表3、表4に示すように温度勾配を小さくして作製した試料では機械的強度が向上していることがわかる。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【0083】
【表7】

【0084】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明による、Bi2Te3系熱電変換材料とCuとの組み合わせの場合には、パワーファクターは増大し、熱伝導率を犠牲した構造のために、絶えず温度差のかかる場所、例えば原子力発電の冷却水と海水との温度差を利用した発電機のようなものに使用できる。また、熱電変換材料の両端の金属の途中にリード線を取り付けて金属のヒートシンク効果を利用することにより、性能指数を飛躍的に増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は複合型熱電変換素子の斜視説明図である。
【図2】図2はP型とN型熱電変換素子の配置例を示す平面図と側面説明図であり、図2Aは素子を並列した場合、図2Bは素子を千鳥配置した構成を示す。
【図3】図3Aは複合型熱電変換素子の斜視説明図であり、図3BはP型とN型熱電変換素子の組み立て構成例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0087】
1 複合型熱電変換素子
1P P型熱電変換素子
1N N型熱電変換素子
2 熱電変換材料
3 金属材
4,5 リード線
6 樹脂
7 放熱板
8 吸熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi2Te3を主材とした熱電変換材料であって、前記材料の温度勾配の方向に垂直な面で測定した(006)と(105)反射のX線回折強度比I(006)/I(105)が2〜15%である熱電変換材料。
【請求項2】
溶融後に一軸性の温度勾配をかけて冷却した熱電変換材料であり、平均結晶粒径が0.1〜3mmの多結晶体である請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
材料粉末を一軸性の温度勾配をかけて焼結した熱電変換材料であり、平均結晶粒径が0.1〜3mmの多結晶体である請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
熱電変換材料(長さlB)の両端に金属材(長さlM)を配置した複合型熱電変換素子であり、前記熱電変換材料長さと熱電変換素子全長(lB+2lM)の比率(lB/(lB+2lM))が0.03〜0.10であり、P型とN型の前記熱電変換素子の各金属端面が同一平面を形成するよう配列されて一体固化され、前記各平面内でリード結合されて絶縁被覆を有する発電用複合型熱電変換素子。
【請求項5】
熱電変換材料(長さlB)の両端に金属材(長さlM)を配置した複合型熱電変換素子であり、前記熱電変換材料長さと熱電変換素子全長(lB+2lM)の比率(lB/(lB+2lM))が0.60〜0.98であり、P型とN型の前記熱電変換素子の各金属端面が同一平面を形成するよう配列されて一体固化され、前記各平面内でリード結合されて絶縁被覆を有する発電用複合型熱電変換素子。
【請求項6】
熱電変換材料(長さlB)の両端に配置した金属材(長さlM)にリード間距離(t)で設けたリードを有し、かつ全長lの複合型熱電変換素子の両端面から(t-lB)/2の位置の金属材にリードを有し、P型とN型の前記熱電変換素子の各金属端面が同一平面を形成するよう配列されて放熱板又は吸熱板に接触している構成であり、金属の端面までの距離(=(l-t)/2)が(t-lB)/2と同等もしくはそれ以上とすると同時に、lB/tが0.60〜0.98である発電用複合型熱電変換素子。
【請求項7】
熱電変換材料は、Bi2Te3を主材とした材料の温度勾配の方向に垂直な面で測定した(006)と(105)反射のX線回折強度比I(006)/I(105)が2〜15%である請求項4から請求項6のいずれかに記載の発電用複合型熱電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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