熱電変換材料
【課題】環境負荷の小さく、低コストであり、かつ熱電変換性能指数の大きいFe2VAl系熱電変換材料を提供する。
【解決手段】Fe2VAlの基本構造に対して、FeとVの化学組成比を調整量nで調整するとともに、構成元素の一部を他の元素で置換した化合物からなり、FeとVの化学組成比を調整量nで調整していない化合物と比較して熱電変換効率が向上し得る調整量の範囲並びに総価電子数の範囲に制御されているp型及びn型の熱電変換材料を提供する。
【解決手段】Fe2VAlの基本構造に対して、FeとVの化学組成比を調整量nで調整するとともに、構成元素の一部を他の元素で置換した化合物からなり、FeとVの化学組成比を調整量nで調整していない化合物と比較して熱電変換効率が向上し得る調整量の範囲並びに総価電子数の範囲に制御されているp型及びn型の熱電変換材料を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーを電気エネルギーに変換する材料として熱電変換材料がある。この熱電変換材料はn型又はp型の二種類に大別される。n型の熱電変換材料とp型の熱電変換材料とを電気的に直列、熱的に並列となるよう交互に配置、結線すれば、熱電変換素子が得られる。この熱電変換素子の両面間に温度差を与えれば、発電を行うことが可能となる。また、熱電変換素子の両端子間に電圧を印加すれば、両面間に温度差が発生する。
【0003】
一般的な熱電変換材料としてBi−Te系金属間化合物があり、これは高いゼーベック係数を有し、比較的良好な発電効率を有することから広く用いられている(非特許文献1)。また、他の一般的な熱電変換材料としてPb−Te系金属間化合物や、Zn−Sb系金属間化合物があり、金属間化合物以外の熱電変換材料として、酸化物系の熱電変換材料がある(非特許文献1)。
【0004】
また、本願発明者らは特許文献1記載の熱電変換材料を提案した。この熱電変換材料は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24である基本構造Fe2VAlに対し、化学組成比を調整したり、構成元素の一部を他の元素で置換したりし、化学式当たりの総価電子数を制御したものである。
【0005】
また、発明者らは特許文献2記載の熱電変換材料も提案した。この熱電変換材料は、Fe2VAlの基本構造に対し、構成元素の一部を他の元素で置換するとともに、置換する元素の原子量等を制御したものである。
【0006】
これらの提案に係る熱電変換材料は、化学量論組成のFe2VAlにおける構成元素の一部をほかの元素で置換した場合には,総価電子数が24超でn型、24未満でp型となる(特許文献2の図13)。例えば、総価電子数が24超となるn型のFe2V(Al1-αMα)(M=Si、Ge又はSn、0<α<1)は、ゼーベック係数が約−120μV/Kの高い絶対値を示す(特許文献1、2、非特許文献2)。一方、総価電子数が24未満となるp型のFe2(V1-αMα)Al(M=Ti、0<α<1)は、ゼーベック係数が約+80μV/Kである(特許文献1、2、非特許文献3)。
【0007】
また、熱電変換材料として、より良好な発電効率の熱電変換材料が望まれている。このため、発明者らは、特許文献3において、Fe2VAlの基本構造に対し、Fe及びVのそれぞれ少なくとも一部を他の元素で置換した熱電変換材料を提案した。
【0008】
この熱電変換材料においては、Feに替えて置換する他の元素がM1である場合には、元素M1が周期表における第4〜6周期の7〜10族からなる群から選ばれ、Vに替えて置換する他の元素がM2である場合には、元素M2が周期表における第4〜6周期の4〜6族からなる群から選ばれる。また、この熱電変換材料は、元素M1及び元素M2の置換量は、一般式(Fe1-αM1α)2(V1-βM2β)Alを満たす0<α<1及び0<β<1の範囲内で調整される。さらに、この熱電変換材料は、化学式当たりの総価電子数が24未満になるようにしてp型に制御され、24を超えるようにしてn型に制御される。例えば、M1がIr、M2がTiの熱電変換材料は、ゼーベック係数が約+90μV/Kであり、M2をTiとして置換しただけの熱電変換材料よりも、出力因子及び性能指数が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2003/019681
【特許文献2】特開2004−253618号公報
【特許文献3】WO2007/108176
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「新教科書シリーズ 熱電変換−基礎と応用−」96〜97頁、裳華房(2005)坂田亮編
【非特許文献2】「擬ギャップ系ホイスラー化合物の熱電特性」まてりあ第44巻第8号(2005)648〜653頁、西野洋一著
【非特許文献3】「擬ギャップ系Fe2VAl合金の熱電特性に及ぼす元素置換効果」日本金属学会誌第66巻第7号(2002)767〜771頁、松浦仁・西野洋一・水谷宇一郎・浅野滋著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、自動車や自動二輪車のエンジン、家庭用燃料電池やガスコージェネレーション等の廃熱を利用する発電装置に熱電変換材料を応用するためには、その熱電変換材料が良好な発電効率を発揮するだけでなく、環境に対する負荷が小さく、さらに耐酸化性や機械的強度も高いことが必要である。
【0012】
上記したBi−Te系金属間化合物からなる熱電変換材料は、室温付近で大きなゼーベック係数を示すことが知られている。しかし、構成元素であるBiやTeが高価な金属であるため、高コストとなるだけでなく、n型の熱電変換材料を形成する際にはSeが添加されるが、SeやTeは毒性を有するため、この熱電変換材料は環境に対する負荷も大きなものとなる。さらに、Bi−Te系金属間化合物からなる熱電変換材料は、耐酸化性や機械的強度が低いことなどから、現実の500〜700Kなどの中温域の廃熱への応用を想定した場合には耐久性を保証するための高度な周辺技術が必要となる。このため、Bi−Te系金属間化合物の中温域廃熱への応用は困難である。
また、上記したPb−Te系金属間化合物も、Bi−Te系金属間化合物と同様に構成元素であるPbは人体にとって有害有毒であり、また地球環境の観点からも、Pb−Te系金属間化合物の使用は好ましくない。
【0013】
また、上記したZn−Sb系金属間化合物は、特にp型半導体であるZnSbはゼーベック係数が+200μV/Kと高く、かつ電気抵抗も低いことから古くから熱電半導体として研究されてきた。しかし、材料として低強度かつ低靱性であることから、モジュールへの組み込みを考えると機械的特性を相当に改善しないと実用化は困難であるため、結果的に熱電変換素子の製造コストの高騰化を招来する。
【0014】
また、酸化物系の熱電変換材料は、1000K付近の高温域で高いゼーベック係数を示すという利点を有している。しかし、酸化物系の熱電変換材料は、Bi―Te系熱電変換材料と同様、脆くて加工が困難であるという性質を有する。このため、酸化物系の熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、やはり切断のための削り代が必要になるとともに、切断時においてインゴットが割れやすく、歩留まりが非常に悪く、熱電変換素子の製造コストの高騰化を招来する。
【0015】
一方、特許文献1−3に記載のFe2VAl系熱電変換材料は、Fe、V、Alの比較的安価な元素からなり、また、各元素は毒性を有さない点で、Bi−Te系金属間化合物やPb−Te系金属間化合物よりも優れた熱電変換材料である。また、特許文献1−3に記載の通り、基本構造であるFe2VAlは、半導体と金属との間に位置づけされる半金属であることから、半導体、酸化物よりも靱性が高く機械的特性に優れている。したがって、特許文献1−3に記載のFe2VAl系熱電変換材料は、Zn−Sb系金属間化合物や酸化物系の熱電変換材料よりも、機械的特性が優れた熱電変換材料である。
【0016】
ただし、特許文献2の比較試験で記載のように、Fe2VAlの基本構造に対し、3元素の組成比を調整することなく、構成元素の一部を他の元素で置換したものは、ゼーベック係数と置換量の関係は置換する元素の種類によって、置換量に対する変化の仕方は異なっているが、総価電子数で整理したとき、ゼーベック係数は置換する元素の種類によらず,1本のマスターカーブで記述できるような変化の仕方になっている。このため,置換する元素の種類を選択することにより、ゼーベック係数の符号を制御することができるために、p型とn型の熱電変換材料を作製することが可能にはなるが、置換する元素の種類を選択するだけでゼーベック係数の絶対値を大幅に増大させることは困難となる。
【0017】
このため、特許文献1に記載のFe2−nV1+n(Al1−ySiy)のように、Fe2VAlの基本構造に対して、FeとVの化学組成比を調整量nで調整するとともに、Alの少なくとも一部をSiで置換した熱電変換材料を用いれば、Alの少なくとも一部をSiで置換しただけの熱電変換材料と比べ、ゼーベック係数はさらに増加しており、良好な発電効率が発揮されることが望まれる。
しかし、FeとVの化学組成比を調整量nで調整する特許文献1の化合物は、良好な発電効率が発揮される調整量の範囲が開示されておらず、しかもn型のみならずp型についても特許文献1〜3に記載の調整量で調整していない化合物よりも良好な発電効率が発揮される熱電変換材料が求められる。
【0018】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、Fe2VAlの基本構造に対して、FeとVの化学組成比を調整量nで調整するとともに、構成元素の一部を他の元素で置換した化合物からなり、特許文献1に記載のFeとVを調整量nで調整するとともに、Alの少なくとも一部をSiで置換した化合物と比較して、良好な発電効率が発揮される熱電変換材料を提供することを解決すべき課題としている。また、本発明は、Fe2VAlの基本構造に対して、FeとVの化学組成比を調整量nで調整するとともに、構成元素の一部を他の元素で置換した化合物からなり、FeとVの化学組成比を調整量nで調整していない化合物と比較して熱電変換効率が向上し得る調整量の範囲並びに総価電子数の範囲に制御されているp型及びn型の熱電変換材料を提供することを他の解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明者らが先の出願(特許文献1)で確認したように、ホイスラー合金型の結晶構造をもつFe2VAlの基本構造は化学式当たりの総価電子数が24である。すなわち原子当たりの平均電子濃度が24/4=6である場合、この熱電変換材料は、フェルミ準位に鋭い擬ギャップをもつ。そして、この基本構造に対し、基本構造のFe及びVの化学組成比を調整し,さらに構成元素の一部をほかの元素で置換することにより化学式当たりの総価電子数を制御すれば、フェルミ準位を擬ギャップの中心からシフトさせることができ、ゼーベック係数の符号や大きさを変化させ得る。
【0020】
今回、発明者らは、Fe2VAlの基本構造に対して、Fe及びVの化学組成比を特定の範囲内の調整量で調整し、さらに構成元素の一部をほかの元素で置換した場合に、Fe及びVの化学組成比を調整していない化合物に対して元素置換した場合と比較して、ゼーベック係数の絶対値を大幅に増大させることができることを見出し、本願発明を完成させるに至った。そしてFe2VAlの基本構造に対して元素置換した場合の総価電子数は、p型の場合は24未満、一方n型の場合は24超であり、24を中心としているのに対して、本願発明のp型あるいはn型の熱電変換材料の総価電子数は24を中心とした分布とならず、基本構造の総価電子数とは異なることを見出した。
【0021】
すなわち、請求項1に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のAlに替えて置換する元素Dの置換量yが一般式Fe2−xV1+x(Al1−yDy)を満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Alに替えて置換する他の元素がDである場合には、元素Dが周期表における第3〜6周期の14〜16族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量yが一般式Fe2−x(V1+x−yNy)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の6族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量yが一般式Fe2−x(V1+x−yNy)Alを満たす−0.07≦x<0の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、24を超え、24.3以下になるようにしてp型に制御することを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のFeに替えて置換する元素Mの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式(Fe2−x−yMy)(V1+x−zTaz)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Feに替えて置換する他の元素がMである場合には、元素Mが周期表における第4〜6周期の9族及び10族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のFeに替えて置換する元素Mの置換量yが一般式(Fe2−x−yMy)V1+xAlを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Feに替えて置換する他の元素がMである場合には、元素Mが周期表における第4〜6周期の9族及び10族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式Fe2−x(V1+x−y−zNyTaz)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の6族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式Fe2−x(V1+x−y−zNyTaz)Alを満たす−0.07≦x<0の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、
Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、24を超え、24.3以下になるようにしてp型に制御することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1の熱電変換材料(Fe1.95V1.05(Al1―ySiy)(y=0、0.03、0.05、0.10))に係り、温度とゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【図2】実施例1の熱電変換材料(Fe1.95V1.05(Al1―ySiy)(y=0、0.03、0.05、0.10))に係り、温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1の熱電変換材料(Fe2−xV1+x(Al1―ySiy)(x=−0.07、 −0.04、0.02、0.05、0.08)(y=0、0.01、0.03、0.05、0.07、0.10))及び比較例1の熱電変換材料(Fe2V(Al1―ySiy)(y=0,0.03、0.05、0.10))に係り、Si組成と300Kにおけるゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【図4】実施例2の熱電変換材料(Fe2.04(V0.96−yTiy)Al(y=0、0.01、0.03、0.05、0.10))に係り、温度とゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【図5】実施例2の熱電変換材料((Fe2.04(V0.96−yTiy)Al(y=0、0.01、0.03、0.05、0.10))に係り、温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【図6】実施例2の熱電変換材料(Fe2−x(V1+x−yTiy)Al(x=−0.07、 −0.04、0.02、0.05)(y=0、0.01、0.02,0.03、0.05、0.10))及び比較例2の熱電変換材料(Fe2(V1−yTiy)Al(y=0、0.01、0.02,0.03、0.05、0.10))に係り、Ti組成と300Kにおけるゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【図7】実施例1の熱電変換材料(Fe1.98V1.02(Al0.90Si0.10)),比較例1の熱電変換材料(Fe2V(Al0.90Si0.10)),実施例2の熱電変換材料(Fe2.04(V0.86Ti0.10)Al)及び比較例2の熱電変換材料(Fe2(V0.90Ti0.10)Al)に係り、温度と出力因子との関係を示すグラフである。
【図8】実施例3の熱電変換材料((Fe1.95−yIry)(V0.95Ta0.10)Al(y=0、0.03、0.05、0.10))に係り、温度とゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【図9】実施例3の熱電変換材料((Fe1.95−yIry)(V0.95Ta0.10)Al(y=0、0.03、0.05、0.10))に係り、温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【図10】実施例3の熱電変換材料((Fe2−x−yIry)(V0.90+xTa0.10)Al(x=0.02、0.05))に係り、Ir組成と300Kにおける熱伝導率との関係を示すグラフである。
【図11】実施例3の熱電変換材料(Fe1.98−yIry)(V0.92Ta0.10)Alと実施例4の熱電変換材料(Fe1.98−yIry)V1.02Alに係り、Ir組成と300Kにおける性能指数との関係を示すグラフである。
【図12】実施例1の熱電変換材料(Fe2−xV1+x(Al1―ySiy)、実施例2の熱電変換材料(Fe2−x(V1+x−yTiy)Al、実施例3の熱電変換材料((Fe2−x−yIry)(V0.90+xTa0.10)Al、実施例4の熱電変換材料((Fe1.98−yIry)V1.02Al)、実施例5の熱電変換材料(Fe2−x(V1+x−yMoy)Al、実施例6の熱電変換材料(Fe2−x(V0.90+x−yTiyTa0.10)Al、比較例1の熱電変換材料(Fe2V(Al1―ySiy)、比較例2の熱電変換材料(Fe2(V1−yTiy)Al、比較例3の熱電変換材料(Fe2−yIry)VAl及び比較例4の熱電変換材料(Fe2(V1−yMoy)Alに係り、総価電子数と300Kにおけるゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の熱電変換材料は、例えば以下の製造方法により製造され得る。この製造方法は、上記熱電変換材料を製造可能な元素と構成比率とを有する原料混合物を用意する第1工程と、該原料混合物を真空中又は不活性ガス中において溶融又は気化及び固化し、熱電変換材料を得る第2工程とを有する。
【0024】
この製造方法で上記熱電変換材料を製造すれば、得られる熱電変換材料のゼーベック係数が比較的高くなる。このため、この製造方法によれば、廃熱回収効率が高く、環境汚染のおそれも少ない熱電変換材料を低廉に製造できる。
【0025】
第2工程としては、例えば、原料混合物を真空中や不活性ガス中において溶解させた後で冷却する方法を採用することができる。n型の熱電変換材料又はp型の熱電変換材料を可及的に小さな粒径の粉体の集合体とするためには、まず、原料混合物をアーク溶解等により溶解した後に固化することによりインゴットを作製し、これを不活性ガス又は窒素ガス雰囲気中で機械的に粉砕してほぼ均粒の粉体を得る方法、溶湯粉化(アトマイズ)やガスアトマイズ法によってほぼ均粒の粉体を得る方法、メカニカルアロイング法により不活性ガス又は窒素ガス雰囲気中で原料混合物の圧着と破断を繰り返すことによってほぼ均粒の粉体を得る方法等を採用することができる。そして、こうして得られた粉体を真空中のホットプレス法、HIP(熱間等方圧成形)法、放電プラズマ焼結法、パルス通電法等により焼結することが可能である。HIP法により粉体を焼結する場合、例えば800°Cで150MPaのアルゴンガスにより圧縮成形と焼結とを同時に進行させ、真密度で固化を行うことができる。また、擬HIP法によれば成形プレスを利用して安価に真密度固化を行うことができる。また、n型の熱電変換材料又はp型の熱電変換材料を可及的に小さな粒径の結晶粒の集合体とするためには、熱間圧延等の歪加工を行ったり、溶融した原料を急冷したりすること等により結晶粒を小さくする方法を採用することができる。
【0026】
本発明の熱電変換材料により熱電変換素子を製造することが可能である。こうして得られる熱電変換素子は、ゼーベック係数の符号が正の上記熱電変換材料がp型としての挙動を示し、ゼーベック係数の符号が負の上記熱電変換材料がn型としての挙動を示す。これらの熱電変換素子は、熱電変換効率が高く、製造コストの低廉化が可能であり、環境汚染のおそれが少ない。
【実施例】
【0027】
[実施例1〜6]
実施例1〜6の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、一般式Fe2―xV1+xAlの調整量xが−0.07≦x≦0.08の範囲内で選択されており、さらに構成元素の一部が他の元素で置換されている。
【0028】
Fe2VAlの基本構造の化学式当たりの総価電子数は、以下の計算により24である。つまり、Feの価電子数は4s軌道の2と3d軌道の6との合計8に係数2を乗じた16である。また、Vの価電子数は4s軌道の2と3d軌道の3との合計5である。また、Alの価電子数は3s軌道の2と3p軌道の1との合計3である。これらFe、V及びAlの価電子数の合計24が基本構造の化学式当たりの総価電子数である。
【0029】
この基本構造に対し、一般式Fe2―xV1+xAlで表される化合物において、0<x≦0.08とすることで、総価電子数は24未満となり、n型熱電変換材料となる。また、−0.07≦x<0とすることで、総価電子数は24を超え、p型熱電変換材料となる。
【0030】
この熱電変換材料は以下のように製造される。まず、上記組成条件を満たすように、Fe、V及びAlの3種類の元素を秤量した。これら元素をアルゴンアークを用いて溶解し、ボタン状のインゴットを作製した。均質なインゴットを得るため、得られたインゴットを再溶解した。この再溶解を2回以上行い、均質なインゴットを得た。溶解前後での重量変化は0.1%以内であるため、溶解による組成の変化は無視できる程度であると仮定した。
【0031】
作製したインゴットに対し、5×10-3Pa以下の高真空中で1273K×48hrの均質化処理を行い、短冊状、粉末及びブロック状の各測定形状に成型した。この後、真空中で1273K×1hrの歪取処理と、673K×4hrの規則化処理とを行った。こうして、実施例1〜6の熱電変換材料を得た。なお、実施例1、2の熱電変換材料は、FeとVとの間の組成比をわずかに調整するだけで、総価電子数を基本構造の24からずらしたものである。ここで、化学量論組成からの組成比の調整量が小さいほど、固溶体の形態が維持され、化学量論組成からの組成比の調整量が大きいと、析出物が生成し、構成元素の全てが固溶体の形態で存在しなくなる。
このため、実施例1〜6の熱電変換材料は、調整量が小さいので、基本構造が維持されている。
【0032】
[比較例1〜4]
比較例1〜4の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、構成元素の一部を他の元素で置換したものである。
【0033】
[評価方法]
実施例1〜6および比較例1〜4の熱電変換材料について、以下の評価を行った。
【0034】
(X線回折)
各材料の構造を決定するため、上記方法で作製した粉末を用い、X線回折を行った。評価にはCuKα線を用いた。これらはFeを含む合金系であるため、バックグラウンドを除去する目的でモノクロメータを用いた。この結果、作製した材料はすべてホイスラー構造を有していた。
【0035】
(ゼーベック係数の測定)
0.5×0.5×5.0mm3の試験片を用い、MMR−Technologies社製「SB−100」にて、ゼーベック係数S(μV/K)を100K〜400Kの温度範囲で測定した。
【0036】
(電気抵抗率の測定)
1×1×15mm3の短冊状試料を用い、直流四端子法にて電気抵抗率ρ(μΩcm)を測定した。測定温度範囲は液体He温度(4.2K)から800Kまでである。4.2Kから室温までは自然昇温して測定を行った。室温から800Kまでは、電気炉を用い、5×10-3Pa以下の真空雰囲気中で0.05K/秒で昇温して測定を行った。
【0037】
(熱伝導率の測定)
各熱電変換材料を炭化ケイ素の切断刃によって切断して3.5×3.5×4.0(mm3)の角柱状の試験片とする。そして、4×10−4Paの真空中において、熱流法による定常比較測定法を用いて各試験片の熱伝導率κ(W/mK)を測定する。
【0038】
(出力因子と性能指数)
熱電変換材料を評価する指数として、出力因子:P=S2/ρ及び性能指数:Z=S2/(ρκ)が挙げられる。ここで、Sはゼーベック係数、ρは電気抵抗率、κは熱伝導率である。これらの値は上記の各測定値とし、出力因子P(10-3W/mK2)及び性能指数Z(10-4/K)を求めた。
【0039】
実施例1の熱電変換材料(Fe1.95V1.05(Al1―ySiy)(y=0、0.03、0.05、0.10))について、温度とゼーベック係数との関係を図1に示し、温度と電気抵抗率との関係を図2に示す。また、実施例1の熱電変換材料(Fe2−xV1+x(Al1―ySiy)(x=−0.07、 −0.04、0.02、0.05、0.08)(y=0、0.01、0.03、0.05、0.07、0.10))及び比較例1の熱電変換材料(Fe2V(Al1―ySiy)(y=0,0.03、0.05、0.10))について、Si組成と300Kにおけるゼーベック係数との関係を図3に示す。
【0040】
図1より、実施例1の熱電変換材料は、Siの添加量が0.03でゼーベック係数の絶対値が300K付近で最大の180μV/Kになっている。また,さらにSiの添加量が増加するとゼーベック係数の絶対値は減少している。また、図2に示すように、実施例1の熱電変換材料は、Siの添加量が増加するに従って、500K以下の電気抵抗率が減少することがわかる。とくにy=0.10となる熱電変換材料は、4.2Kでの電気抵抗率が約300μΩcmと低い値を示しており、また、500K以下では温度上昇に伴って電気抵抗率が上昇し,半導体的なものから金属的な挙動を示した。また、図3に示すように、実施例1の熱電変換材料は、化学組成比の調整量x=0.02〜0.08の範囲ではSi組成によらずゼーベック係数の符号が負となり,n型であることがわかる。さらに、比較例1の熱電変換材料と比較して、すべてのSi組成において300Kにおけるゼーベック係数の絶対値が大きくなっている。中でも,x=0.05となる熱電変換材料は最大のゼーベック係数になっている。なお、実施例1ではAlをSiにより置換したが、Ge、Sn、あるいはPによる置換でもよい。
【0041】
実施例2の熱電変換材料(Fe2.04(V0.96−yTiy)Al(y=0、0.01、0.03、0.05、0.10))について、温度とゼーベック係数との関係を図4に示し、温度と電気抵抗率との関係を図5に示す。また、実施例2の熱電変換材料(Fe2−x(V1+x−yTiy)Al(x=−0.04、 −0.07、0.02、0.05)(y=0、0.01、0.02,0.03、0.05、0.10))及び比較例2の熱電変換材料(Fe2(V1−yTiy)Al(y=0、0.01、0.02,0.03、0.05、0.10))について、Ti組成と300Kにおけるゼーベック係数との関係を図6に示す。なお、実施例2ではVをTiにより置換したが、Zrによる置換でもよい。
【0042】
図4より、実施例2の熱電変換材料は、Tiの添加量が0.03でゼーベック係数の絶対値が300K付近で最大の110μV/Kになっている。また,さらにTiの添加量が増加するとゼーベック係数の絶対値は減少している。また、図5に示すように、実施例2の熱電変換材料は、Tiの添加量が増加するに従って、700K以下の電気抵抗率が減少することがわかる。とくにy=0.10となる熱電変換材料は、4.2Kでの電気抵抗率が約130μΩcmと低い値を示しており、また、800K以下では温度上昇に伴って電気抵抗率が上昇し,半導体的なものから金属的な挙動を示した。また、図6に示すように、実施例2の熱電変換材料は、化学組成比の調整量x=−0.07〜0の範囲ではTi組成によらずゼーベック係数の符号が正となり,p型であることがわかる。さらに、比較例2の熱電変換材料と比較して、x=−0.04と−0.07となる熱電変換材料はすべてのTi 組成において300Kにおけるゼーベック係数の絶対値が大きくなっている。中でも,x=−0.04となる熱電変換材料はTi組成yが0.03のときに最大のゼーベック係数になっている。
【0043】
実施例1の熱電変換材料(Fe1.98V1.02(Al0.90Si0.10))と比較例1の熱電変換材料(Fe2V(Al0.90Si0.10)),及び実施例2の熱電変換材料(Fe2.04(V0.86Ti0.10)Al)と比較例2の熱電変換材料(Fe2(V0.90Ti0.10)Al)について、出力因子の温度依存性を求めた。この結果を図7に示す。
【0044】
図7より、実施例1の熱電変換材料の出力因子は300Kで7×10−3W/mK2達しており,同じSi組成となる比較例1の熱電変換材料よりも大きいことがわかる。さらに、従来の代表的な熱電変換材料であるBi−Te系n型熱電変換材料の出力因子の代表値4.5×10−3W/mK2を上回る大きさである。一方,実施例2の熱電変換材料はp型であるが,最大4×10−3W/mK2に達しており、同じTi組成となる比較例2の熱電変換材料よりも大きいことがわかる。さらに、従来の代表的な熱電変換材料であるBi−Te系p型熱電変換材料の出力因子の代表値3×10−3W/mK2を上回る大きさである。
【0045】
実施例3の熱電変換材料((Fe1.95−yIry)(V0.95Ta0.10)Al(y=0、0.03、0.05、0.10))について,温度とゼーベック係数との関係を図8に示し、温度と電気抵抗率の関係を図9に示す。
【0046】
図8より,FeとVの化学組成比を調整してVの一部をTaで置換した熱電変換材料は、Feの一部をIrで置換していないときに,ゼーベック係数は負で200Kにおいて−200μV/Kという大きな値になっていることがわかる。また,Ir組成の増加に伴ってゼーベック係数の絶対値は減少している。また、図9に示すように、FeとVの化学組成比を調整してVの一部をTaで置換した熱電変換材料において、低温で大きな電気抵抗率を示すとともに、半導体的な負の温度依存性が現われている。しかし、Ir置換量の増加とともに400K以下の電気抵抗率は急激に減少しており、y=0.10では金属的な温度依存性を示す。
【0047】
実施例3の熱電変換材料((Fe2−x−yIry)(V0.90+xTa0.10)Al(x=0.02、0.05))について、Ir組成と300Kにおける熱伝導率との関係を図10に示す。
【0048】
基本構造(置換量y=0)である実施例3の熱電変換材料は、すでにVをTaで10%置換しているので、300Kにおいて10.5W/mKという比較的小さい値になっている。ところが、FeをIrで置換すると、熱伝導率は著しく減少している。特に、y=0.10の置換量において、調整量xに関わらず6.5W/mKまで減少している。したがって、原子量の大きい元素で置換することにより、熱伝導率の減少は顕著になることがわかる。
【0049】
また、熱伝導率はキャリアによる成分と格子振動による成分の和であることが知られている。Wiedemann−Franz則を用いて図9の電気抵抗率からキャリアによる熱伝導率を見積もると、図10に示した全体の熱伝導率の3分の1から半分程度と比較的大きいことがわかる。したがって、実施例3の熱電変換材料においては熱伝導率に対する格子振動とキャリアによる寄与が同程度であり、原子量の大きい元素による置換は、格子振動による熱伝導率を大幅に低減するうえで有効である。このため、実施例3の熱電変換材料を用いれば、熱伝導率が小さく、ひいては熱電変換の性能に優れた熱電変換素子を得られることがわかる。すなわち、FeをIrで置換すると、ゼーベック係数の絶対値が小さくなるが、電気抵抗率および熱伝導率が顕著に小さくなり、結果として性能指数が大きくなる。FeのIrによる置換量yが0.10以上で特に好ましい。なお、実施例3ではFeをIrにより置換したが、Pd,Co,あるいはNiでもよい。
【0050】
実施例3の熱電変換材料(Fe1.98−yIry)(V0.92Ta0.10)Alと実施例4の熱電変換材料(Fe1.98−yIry)V1.02Alについて、Ir組成と300Kにおける性能指数との関係を図11に示す。
【0051】
図11より、Feの一部をIrで置換することで性能指数は大幅に増加することがわかる。特に、予めVを10%のTaで置換した実施例3の熱電変換材料では性能指数の増加が顕著であり,Ir組成y=0.15において1×10−3/Kに達している。Irによる置換だけでなく、Taで同時置換することによりの性能指数が大きくなっており、原子量の大きい元素で置換した熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
【0052】
さらに、実施例4として熱電変換材料(Fe2−x−yIry)V1+xAl(x=−0.04、0.02、0.05)、実施例5として熱電変換材料(Fe2−x(V1+x−yMoy)Al(x=−0.04、0.02)、および実施例6として熱電変換材料Fe2−x(V0.90+x−yTiyTa0.10)Al(x=−0.04)の300Kにおけるゼーベック係数を測定した。
【0053】
実施例1の熱電変換材料Fe2−xV1+x(Al1―ySiy)と、実施例2の熱電変換材料Fe2−x(V1+x−yTiy)Alと、実施例3の熱電変換材料(Fe2−x−yIry)(V0.90+xTa0.10)Alと、実施例4の熱電変換材料(Fe2−x−yIry)V1+xAlと、実施例5の熱電変換材料Fe2−x(V1+x−yMoy)Alと、実施例6の熱電変換材料Fe2−x(V0.90+x−yTiyTa0.10)Al、以上6種類の実施例と、比較例1の熱電変換材料Fe2V(Al1―ySiy)と、比較例2の熱電変換材料Fe2(V1−yTiy)Alと、比較例3の熱電変換材料(Fe2−yIry)VAlと、比較例4の熱電変換材料Fe2(V1−yMoy)Al、以上4種類の比較例について、300Kにおけるゼーベック係数(μV/K)と総価電子数との関係を求める。結果を図12に示す。なお、実施例および比較例の各試料の組成を表1に記載する。
【0054】
【表1】
【0055】
図12において、比較例1〜4の熱電変換材料のように化学組成比を調整量xで調整しない場合(x=0)、基本構造のFe2VAlの総価電子数は24.0であり、元素置換によって総価電子数が24.0未満になる場合も、総価電子数が24.0超になる場合も、ゼーベック係数の絶対値は大幅に増大している。このようなゼーベック係数の変化は総価電子数が24.0となる近傍において特に顕著である。また、比較例1、3及び4の熱電変換材料は、総価電子数が24.0超となっており、ゼーベック係数はすべて負の値になることから、n型の熱電変換特性を示すことがわかる。一方、比較例2の熱電変換材料では、総価電子数が24.0未満となっており、ゼーベック係数はすべて正の値になることから、p型の熱電変換特性を示すことがわかる。
【0056】
図12のように総価電子数で整理したとき、ゼーベック係数は置換する元素の種類によらず、1本のマスターカーブで記述できるような変化の仕方になっている。このため、本発明で明らかにしたように、置換する元素の種類を選択することにより、擬ギャップ内のフェルミ準位のエネルギー位置を最適化することが可能であり、ひいてはゼーベック係数の符号を制御することができるために、基本構造のFe2VAlをベースとしてp型とn型の熱電変換材料を作製することが可能になるだけでなく、ゼーベック係数の絶対値を大幅に増大することによって、優れた熱電特性を発揮できる熱電変換材料を製造することが可能となる。
【0057】
図12において、実施例1〜6の熱電変換材料のように化学組成比を調整量xで調整した場合、x=0.02〜0.08ではマスターカーブは総価電子数が24以下の方に向かってシフトしており、しかも調整量が大きいほど大きくシフトしている。一方、x=−0.04と−0.07ではマスターカーブは総価電子数が24以上の方に向かってシフトしており,しかも調整量の絶対値が大きいほど大きくシフトしている。ここで、ゼーベック係数が負となるn型の熱電変換材料は、調整量xが正の値のときに絶対値が大きく増大していることがわかる。具体的には調整量xが0<x≦0.08の範囲内で優れた熱電特性を発揮できるn型熱電変換材料を製造することが可能となる。一方、ゼーベック係数が正となるp型の熱電変換材料は、調整量xが負の値のときに絶対値が大きく増大していることがわかる。具体的には調整量xが−0.07≦x<0の範囲内で優れた熱電特性を発揮できるp型熱電変換材料を製造することが可能となる。
【0058】
また、実施例1〜6の熱電変換材料からp型とn型を選択した1組又は実施例1〜6の熱電変換材料と公知の他の熱電変換材料との組み合わせによって、熱電変換素子を製造することができる。実施例1〜6の熱電変換材料は汎用の金属を用いて安価に製造可能であるため、これらの熱電変換素子の製造コストも低廉である。さらに、実施例1〜6の熱電変換材料が毒性の極めて弱い成分のみで構成されるため、これらの熱電変換素子は環境汚染の原因となる恐れも少ない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、自動車や自動二輪車のエンジン、家庭用燃料電池やガスコージェネレーション等、中温域の廃熱を利用して発電装置等に利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーを電気エネルギーに変換する材料として熱電変換材料がある。この熱電変換材料はn型又はp型の二種類に大別される。n型の熱電変換材料とp型の熱電変換材料とを電気的に直列、熱的に並列となるよう交互に配置、結線すれば、熱電変換素子が得られる。この熱電変換素子の両面間に温度差を与えれば、発電を行うことが可能となる。また、熱電変換素子の両端子間に電圧を印加すれば、両面間に温度差が発生する。
【0003】
一般的な熱電変換材料としてBi−Te系金属間化合物があり、これは高いゼーベック係数を有し、比較的良好な発電効率を有することから広く用いられている(非特許文献1)。また、他の一般的な熱電変換材料としてPb−Te系金属間化合物や、Zn−Sb系金属間化合物があり、金属間化合物以外の熱電変換材料として、酸化物系の熱電変換材料がある(非特許文献1)。
【0004】
また、本願発明者らは特許文献1記載の熱電変換材料を提案した。この熱電変換材料は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24である基本構造Fe2VAlに対し、化学組成比を調整したり、構成元素の一部を他の元素で置換したりし、化学式当たりの総価電子数を制御したものである。
【0005】
また、発明者らは特許文献2記載の熱電変換材料も提案した。この熱電変換材料は、Fe2VAlの基本構造に対し、構成元素の一部を他の元素で置換するとともに、置換する元素の原子量等を制御したものである。
【0006】
これらの提案に係る熱電変換材料は、化学量論組成のFe2VAlにおける構成元素の一部をほかの元素で置換した場合には,総価電子数が24超でn型、24未満でp型となる(特許文献2の図13)。例えば、総価電子数が24超となるn型のFe2V(Al1-αMα)(M=Si、Ge又はSn、0<α<1)は、ゼーベック係数が約−120μV/Kの高い絶対値を示す(特許文献1、2、非特許文献2)。一方、総価電子数が24未満となるp型のFe2(V1-αMα)Al(M=Ti、0<α<1)は、ゼーベック係数が約+80μV/Kである(特許文献1、2、非特許文献3)。
【0007】
また、熱電変換材料として、より良好な発電効率の熱電変換材料が望まれている。このため、発明者らは、特許文献3において、Fe2VAlの基本構造に対し、Fe及びVのそれぞれ少なくとも一部を他の元素で置換した熱電変換材料を提案した。
【0008】
この熱電変換材料においては、Feに替えて置換する他の元素がM1である場合には、元素M1が周期表における第4〜6周期の7〜10族からなる群から選ばれ、Vに替えて置換する他の元素がM2である場合には、元素M2が周期表における第4〜6周期の4〜6族からなる群から選ばれる。また、この熱電変換材料は、元素M1及び元素M2の置換量は、一般式(Fe1-αM1α)2(V1-βM2β)Alを満たす0<α<1及び0<β<1の範囲内で調整される。さらに、この熱電変換材料は、化学式当たりの総価電子数が24未満になるようにしてp型に制御され、24を超えるようにしてn型に制御される。例えば、M1がIr、M2がTiの熱電変換材料は、ゼーベック係数が約+90μV/Kであり、M2をTiとして置換しただけの熱電変換材料よりも、出力因子及び性能指数が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2003/019681
【特許文献2】特開2004−253618号公報
【特許文献3】WO2007/108176
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「新教科書シリーズ 熱電変換−基礎と応用−」96〜97頁、裳華房(2005)坂田亮編
【非特許文献2】「擬ギャップ系ホイスラー化合物の熱電特性」まてりあ第44巻第8号(2005)648〜653頁、西野洋一著
【非特許文献3】「擬ギャップ系Fe2VAl合金の熱電特性に及ぼす元素置換効果」日本金属学会誌第66巻第7号(2002)767〜771頁、松浦仁・西野洋一・水谷宇一郎・浅野滋著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、自動車や自動二輪車のエンジン、家庭用燃料電池やガスコージェネレーション等の廃熱を利用する発電装置に熱電変換材料を応用するためには、その熱電変換材料が良好な発電効率を発揮するだけでなく、環境に対する負荷が小さく、さらに耐酸化性や機械的強度も高いことが必要である。
【0012】
上記したBi−Te系金属間化合物からなる熱電変換材料は、室温付近で大きなゼーベック係数を示すことが知られている。しかし、構成元素であるBiやTeが高価な金属であるため、高コストとなるだけでなく、n型の熱電変換材料を形成する際にはSeが添加されるが、SeやTeは毒性を有するため、この熱電変換材料は環境に対する負荷も大きなものとなる。さらに、Bi−Te系金属間化合物からなる熱電変換材料は、耐酸化性や機械的強度が低いことなどから、現実の500〜700Kなどの中温域の廃熱への応用を想定した場合には耐久性を保証するための高度な周辺技術が必要となる。このため、Bi−Te系金属間化合物の中温域廃熱への応用は困難である。
また、上記したPb−Te系金属間化合物も、Bi−Te系金属間化合物と同様に構成元素であるPbは人体にとって有害有毒であり、また地球環境の観点からも、Pb−Te系金属間化合物の使用は好ましくない。
【0013】
また、上記したZn−Sb系金属間化合物は、特にp型半導体であるZnSbはゼーベック係数が+200μV/Kと高く、かつ電気抵抗も低いことから古くから熱電半導体として研究されてきた。しかし、材料として低強度かつ低靱性であることから、モジュールへの組み込みを考えると機械的特性を相当に改善しないと実用化は困難であるため、結果的に熱電変換素子の製造コストの高騰化を招来する。
【0014】
また、酸化物系の熱電変換材料は、1000K付近の高温域で高いゼーベック係数を示すという利点を有している。しかし、酸化物系の熱電変換材料は、Bi―Te系熱電変換材料と同様、脆くて加工が困難であるという性質を有する。このため、酸化物系の熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、やはり切断のための削り代が必要になるとともに、切断時においてインゴットが割れやすく、歩留まりが非常に悪く、熱電変換素子の製造コストの高騰化を招来する。
【0015】
一方、特許文献1−3に記載のFe2VAl系熱電変換材料は、Fe、V、Alの比較的安価な元素からなり、また、各元素は毒性を有さない点で、Bi−Te系金属間化合物やPb−Te系金属間化合物よりも優れた熱電変換材料である。また、特許文献1−3に記載の通り、基本構造であるFe2VAlは、半導体と金属との間に位置づけされる半金属であることから、半導体、酸化物よりも靱性が高く機械的特性に優れている。したがって、特許文献1−3に記載のFe2VAl系熱電変換材料は、Zn−Sb系金属間化合物や酸化物系の熱電変換材料よりも、機械的特性が優れた熱電変換材料である。
【0016】
ただし、特許文献2の比較試験で記載のように、Fe2VAlの基本構造に対し、3元素の組成比を調整することなく、構成元素の一部を他の元素で置換したものは、ゼーベック係数と置換量の関係は置換する元素の種類によって、置換量に対する変化の仕方は異なっているが、総価電子数で整理したとき、ゼーベック係数は置換する元素の種類によらず,1本のマスターカーブで記述できるような変化の仕方になっている。このため,置換する元素の種類を選択することにより、ゼーベック係数の符号を制御することができるために、p型とn型の熱電変換材料を作製することが可能にはなるが、置換する元素の種類を選択するだけでゼーベック係数の絶対値を大幅に増大させることは困難となる。
【0017】
このため、特許文献1に記載のFe2−nV1+n(Al1−ySiy)のように、Fe2VAlの基本構造に対して、FeとVの化学組成比を調整量nで調整するとともに、Alの少なくとも一部をSiで置換した熱電変換材料を用いれば、Alの少なくとも一部をSiで置換しただけの熱電変換材料と比べ、ゼーベック係数はさらに増加しており、良好な発電効率が発揮されることが望まれる。
しかし、FeとVの化学組成比を調整量nで調整する特許文献1の化合物は、良好な発電効率が発揮される調整量の範囲が開示されておらず、しかもn型のみならずp型についても特許文献1〜3に記載の調整量で調整していない化合物よりも良好な発電効率が発揮される熱電変換材料が求められる。
【0018】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、Fe2VAlの基本構造に対して、FeとVの化学組成比を調整量nで調整するとともに、構成元素の一部を他の元素で置換した化合物からなり、特許文献1に記載のFeとVを調整量nで調整するとともに、Alの少なくとも一部をSiで置換した化合物と比較して、良好な発電効率が発揮される熱電変換材料を提供することを解決すべき課題としている。また、本発明は、Fe2VAlの基本構造に対して、FeとVの化学組成比を調整量nで調整するとともに、構成元素の一部を他の元素で置換した化合物からなり、FeとVの化学組成比を調整量nで調整していない化合物と比較して熱電変換効率が向上し得る調整量の範囲並びに総価電子数の範囲に制御されているp型及びn型の熱電変換材料を提供することを他の解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明者らが先の出願(特許文献1)で確認したように、ホイスラー合金型の結晶構造をもつFe2VAlの基本構造は化学式当たりの総価電子数が24である。すなわち原子当たりの平均電子濃度が24/4=6である場合、この熱電変換材料は、フェルミ準位に鋭い擬ギャップをもつ。そして、この基本構造に対し、基本構造のFe及びVの化学組成比を調整し,さらに構成元素の一部をほかの元素で置換することにより化学式当たりの総価電子数を制御すれば、フェルミ準位を擬ギャップの中心からシフトさせることができ、ゼーベック係数の符号や大きさを変化させ得る。
【0020】
今回、発明者らは、Fe2VAlの基本構造に対して、Fe及びVの化学組成比を特定の範囲内の調整量で調整し、さらに構成元素の一部をほかの元素で置換した場合に、Fe及びVの化学組成比を調整していない化合物に対して元素置換した場合と比較して、ゼーベック係数の絶対値を大幅に増大させることができることを見出し、本願発明を完成させるに至った。そしてFe2VAlの基本構造に対して元素置換した場合の総価電子数は、p型の場合は24未満、一方n型の場合は24超であり、24を中心としているのに対して、本願発明のp型あるいはn型の熱電変換材料の総価電子数は24を中心とした分布とならず、基本構造の総価電子数とは異なることを見出した。
【0021】
すなわち、請求項1に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のAlに替えて置換する元素Dの置換量yが一般式Fe2−xV1+x(Al1−yDy)を満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Alに替えて置換する他の元素がDである場合には、元素Dが周期表における第3〜6周期の14〜16族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量yが一般式Fe2−x(V1+x−yNy)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の6族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量yが一般式Fe2−x(V1+x−yNy)Alを満たす−0.07≦x<0の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、24を超え、24.3以下になるようにしてp型に制御することを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のFeに替えて置換する元素Mの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式(Fe2−x−yMy)(V1+x−zTaz)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Feに替えて置換する他の元素がMである場合には、元素Mが周期表における第4〜6周期の9族及び10族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のFeに替えて置換する元素Mの置換量yが一般式(Fe2−x−yMy)V1+xAlを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Feに替えて置換する他の元素がMである場合には、元素Mが周期表における第4〜6周期の9族及び10族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式Fe2−x(V1+x−y−zNyTaz)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の6族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式Fe2−x(V1+x−y−zNyTaz)Alを満たす−0.07≦x<0の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、
Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、24を超え、24.3以下になるようにしてp型に制御することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1の熱電変換材料(Fe1.95V1.05(Al1―ySiy)(y=0、0.03、0.05、0.10))に係り、温度とゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【図2】実施例1の熱電変換材料(Fe1.95V1.05(Al1―ySiy)(y=0、0.03、0.05、0.10))に係り、温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1の熱電変換材料(Fe2−xV1+x(Al1―ySiy)(x=−0.07、 −0.04、0.02、0.05、0.08)(y=0、0.01、0.03、0.05、0.07、0.10))及び比較例1の熱電変換材料(Fe2V(Al1―ySiy)(y=0,0.03、0.05、0.10))に係り、Si組成と300Kにおけるゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【図4】実施例2の熱電変換材料(Fe2.04(V0.96−yTiy)Al(y=0、0.01、0.03、0.05、0.10))に係り、温度とゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【図5】実施例2の熱電変換材料((Fe2.04(V0.96−yTiy)Al(y=0、0.01、0.03、0.05、0.10))に係り、温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【図6】実施例2の熱電変換材料(Fe2−x(V1+x−yTiy)Al(x=−0.07、 −0.04、0.02、0.05)(y=0、0.01、0.02,0.03、0.05、0.10))及び比較例2の熱電変換材料(Fe2(V1−yTiy)Al(y=0、0.01、0.02,0.03、0.05、0.10))に係り、Ti組成と300Kにおけるゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【図7】実施例1の熱電変換材料(Fe1.98V1.02(Al0.90Si0.10)),比較例1の熱電変換材料(Fe2V(Al0.90Si0.10)),実施例2の熱電変換材料(Fe2.04(V0.86Ti0.10)Al)及び比較例2の熱電変換材料(Fe2(V0.90Ti0.10)Al)に係り、温度と出力因子との関係を示すグラフである。
【図8】実施例3の熱電変換材料((Fe1.95−yIry)(V0.95Ta0.10)Al(y=0、0.03、0.05、0.10))に係り、温度とゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【図9】実施例3の熱電変換材料((Fe1.95−yIry)(V0.95Ta0.10)Al(y=0、0.03、0.05、0.10))に係り、温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【図10】実施例3の熱電変換材料((Fe2−x−yIry)(V0.90+xTa0.10)Al(x=0.02、0.05))に係り、Ir組成と300Kにおける熱伝導率との関係を示すグラフである。
【図11】実施例3の熱電変換材料(Fe1.98−yIry)(V0.92Ta0.10)Alと実施例4の熱電変換材料(Fe1.98−yIry)V1.02Alに係り、Ir組成と300Kにおける性能指数との関係を示すグラフである。
【図12】実施例1の熱電変換材料(Fe2−xV1+x(Al1―ySiy)、実施例2の熱電変換材料(Fe2−x(V1+x−yTiy)Al、実施例3の熱電変換材料((Fe2−x−yIry)(V0.90+xTa0.10)Al、実施例4の熱電変換材料((Fe1.98−yIry)V1.02Al)、実施例5の熱電変換材料(Fe2−x(V1+x−yMoy)Al、実施例6の熱電変換材料(Fe2−x(V0.90+x−yTiyTa0.10)Al、比較例1の熱電変換材料(Fe2V(Al1―ySiy)、比較例2の熱電変換材料(Fe2(V1−yTiy)Al、比較例3の熱電変換材料(Fe2−yIry)VAl及び比較例4の熱電変換材料(Fe2(V1−yMoy)Alに係り、総価電子数と300Kにおけるゼーベック係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の熱電変換材料は、例えば以下の製造方法により製造され得る。この製造方法は、上記熱電変換材料を製造可能な元素と構成比率とを有する原料混合物を用意する第1工程と、該原料混合物を真空中又は不活性ガス中において溶融又は気化及び固化し、熱電変換材料を得る第2工程とを有する。
【0024】
この製造方法で上記熱電変換材料を製造すれば、得られる熱電変換材料のゼーベック係数が比較的高くなる。このため、この製造方法によれば、廃熱回収効率が高く、環境汚染のおそれも少ない熱電変換材料を低廉に製造できる。
【0025】
第2工程としては、例えば、原料混合物を真空中や不活性ガス中において溶解させた後で冷却する方法を採用することができる。n型の熱電変換材料又はp型の熱電変換材料を可及的に小さな粒径の粉体の集合体とするためには、まず、原料混合物をアーク溶解等により溶解した後に固化することによりインゴットを作製し、これを不活性ガス又は窒素ガス雰囲気中で機械的に粉砕してほぼ均粒の粉体を得る方法、溶湯粉化(アトマイズ)やガスアトマイズ法によってほぼ均粒の粉体を得る方法、メカニカルアロイング法により不活性ガス又は窒素ガス雰囲気中で原料混合物の圧着と破断を繰り返すことによってほぼ均粒の粉体を得る方法等を採用することができる。そして、こうして得られた粉体を真空中のホットプレス法、HIP(熱間等方圧成形)法、放電プラズマ焼結法、パルス通電法等により焼結することが可能である。HIP法により粉体を焼結する場合、例えば800°Cで150MPaのアルゴンガスにより圧縮成形と焼結とを同時に進行させ、真密度で固化を行うことができる。また、擬HIP法によれば成形プレスを利用して安価に真密度固化を行うことができる。また、n型の熱電変換材料又はp型の熱電変換材料を可及的に小さな粒径の結晶粒の集合体とするためには、熱間圧延等の歪加工を行ったり、溶融した原料を急冷したりすること等により結晶粒を小さくする方法を採用することができる。
【0026】
本発明の熱電変換材料により熱電変換素子を製造することが可能である。こうして得られる熱電変換素子は、ゼーベック係数の符号が正の上記熱電変換材料がp型としての挙動を示し、ゼーベック係数の符号が負の上記熱電変換材料がn型としての挙動を示す。これらの熱電変換素子は、熱電変換効率が高く、製造コストの低廉化が可能であり、環境汚染のおそれが少ない。
【実施例】
【0027】
[実施例1〜6]
実施例1〜6の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、一般式Fe2―xV1+xAlの調整量xが−0.07≦x≦0.08の範囲内で選択されており、さらに構成元素の一部が他の元素で置換されている。
【0028】
Fe2VAlの基本構造の化学式当たりの総価電子数は、以下の計算により24である。つまり、Feの価電子数は4s軌道の2と3d軌道の6との合計8に係数2を乗じた16である。また、Vの価電子数は4s軌道の2と3d軌道の3との合計5である。また、Alの価電子数は3s軌道の2と3p軌道の1との合計3である。これらFe、V及びAlの価電子数の合計24が基本構造の化学式当たりの総価電子数である。
【0029】
この基本構造に対し、一般式Fe2―xV1+xAlで表される化合物において、0<x≦0.08とすることで、総価電子数は24未満となり、n型熱電変換材料となる。また、−0.07≦x<0とすることで、総価電子数は24を超え、p型熱電変換材料となる。
【0030】
この熱電変換材料は以下のように製造される。まず、上記組成条件を満たすように、Fe、V及びAlの3種類の元素を秤量した。これら元素をアルゴンアークを用いて溶解し、ボタン状のインゴットを作製した。均質なインゴットを得るため、得られたインゴットを再溶解した。この再溶解を2回以上行い、均質なインゴットを得た。溶解前後での重量変化は0.1%以内であるため、溶解による組成の変化は無視できる程度であると仮定した。
【0031】
作製したインゴットに対し、5×10-3Pa以下の高真空中で1273K×48hrの均質化処理を行い、短冊状、粉末及びブロック状の各測定形状に成型した。この後、真空中で1273K×1hrの歪取処理と、673K×4hrの規則化処理とを行った。こうして、実施例1〜6の熱電変換材料を得た。なお、実施例1、2の熱電変換材料は、FeとVとの間の組成比をわずかに調整するだけで、総価電子数を基本構造の24からずらしたものである。ここで、化学量論組成からの組成比の調整量が小さいほど、固溶体の形態が維持され、化学量論組成からの組成比の調整量が大きいと、析出物が生成し、構成元素の全てが固溶体の形態で存在しなくなる。
このため、実施例1〜6の熱電変換材料は、調整量が小さいので、基本構造が維持されている。
【0032】
[比較例1〜4]
比較例1〜4の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、構成元素の一部を他の元素で置換したものである。
【0033】
[評価方法]
実施例1〜6および比較例1〜4の熱電変換材料について、以下の評価を行った。
【0034】
(X線回折)
各材料の構造を決定するため、上記方法で作製した粉末を用い、X線回折を行った。評価にはCuKα線を用いた。これらはFeを含む合金系であるため、バックグラウンドを除去する目的でモノクロメータを用いた。この結果、作製した材料はすべてホイスラー構造を有していた。
【0035】
(ゼーベック係数の測定)
0.5×0.5×5.0mm3の試験片を用い、MMR−Technologies社製「SB−100」にて、ゼーベック係数S(μV/K)を100K〜400Kの温度範囲で測定した。
【0036】
(電気抵抗率の測定)
1×1×15mm3の短冊状試料を用い、直流四端子法にて電気抵抗率ρ(μΩcm)を測定した。測定温度範囲は液体He温度(4.2K)から800Kまでである。4.2Kから室温までは自然昇温して測定を行った。室温から800Kまでは、電気炉を用い、5×10-3Pa以下の真空雰囲気中で0.05K/秒で昇温して測定を行った。
【0037】
(熱伝導率の測定)
各熱電変換材料を炭化ケイ素の切断刃によって切断して3.5×3.5×4.0(mm3)の角柱状の試験片とする。そして、4×10−4Paの真空中において、熱流法による定常比較測定法を用いて各試験片の熱伝導率κ(W/mK)を測定する。
【0038】
(出力因子と性能指数)
熱電変換材料を評価する指数として、出力因子:P=S2/ρ及び性能指数:Z=S2/(ρκ)が挙げられる。ここで、Sはゼーベック係数、ρは電気抵抗率、κは熱伝導率である。これらの値は上記の各測定値とし、出力因子P(10-3W/mK2)及び性能指数Z(10-4/K)を求めた。
【0039】
実施例1の熱電変換材料(Fe1.95V1.05(Al1―ySiy)(y=0、0.03、0.05、0.10))について、温度とゼーベック係数との関係を図1に示し、温度と電気抵抗率との関係を図2に示す。また、実施例1の熱電変換材料(Fe2−xV1+x(Al1―ySiy)(x=−0.07、 −0.04、0.02、0.05、0.08)(y=0、0.01、0.03、0.05、0.07、0.10))及び比較例1の熱電変換材料(Fe2V(Al1―ySiy)(y=0,0.03、0.05、0.10))について、Si組成と300Kにおけるゼーベック係数との関係を図3に示す。
【0040】
図1より、実施例1の熱電変換材料は、Siの添加量が0.03でゼーベック係数の絶対値が300K付近で最大の180μV/Kになっている。また,さらにSiの添加量が増加するとゼーベック係数の絶対値は減少している。また、図2に示すように、実施例1の熱電変換材料は、Siの添加量が増加するに従って、500K以下の電気抵抗率が減少することがわかる。とくにy=0.10となる熱電変換材料は、4.2Kでの電気抵抗率が約300μΩcmと低い値を示しており、また、500K以下では温度上昇に伴って電気抵抗率が上昇し,半導体的なものから金属的な挙動を示した。また、図3に示すように、実施例1の熱電変換材料は、化学組成比の調整量x=0.02〜0.08の範囲ではSi組成によらずゼーベック係数の符号が負となり,n型であることがわかる。さらに、比較例1の熱電変換材料と比較して、すべてのSi組成において300Kにおけるゼーベック係数の絶対値が大きくなっている。中でも,x=0.05となる熱電変換材料は最大のゼーベック係数になっている。なお、実施例1ではAlをSiにより置換したが、Ge、Sn、あるいはPによる置換でもよい。
【0041】
実施例2の熱電変換材料(Fe2.04(V0.96−yTiy)Al(y=0、0.01、0.03、0.05、0.10))について、温度とゼーベック係数との関係を図4に示し、温度と電気抵抗率との関係を図5に示す。また、実施例2の熱電変換材料(Fe2−x(V1+x−yTiy)Al(x=−0.04、 −0.07、0.02、0.05)(y=0、0.01、0.02,0.03、0.05、0.10))及び比較例2の熱電変換材料(Fe2(V1−yTiy)Al(y=0、0.01、0.02,0.03、0.05、0.10))について、Ti組成と300Kにおけるゼーベック係数との関係を図6に示す。なお、実施例2ではVをTiにより置換したが、Zrによる置換でもよい。
【0042】
図4より、実施例2の熱電変換材料は、Tiの添加量が0.03でゼーベック係数の絶対値が300K付近で最大の110μV/Kになっている。また,さらにTiの添加量が増加するとゼーベック係数の絶対値は減少している。また、図5に示すように、実施例2の熱電変換材料は、Tiの添加量が増加するに従って、700K以下の電気抵抗率が減少することがわかる。とくにy=0.10となる熱電変換材料は、4.2Kでの電気抵抗率が約130μΩcmと低い値を示しており、また、800K以下では温度上昇に伴って電気抵抗率が上昇し,半導体的なものから金属的な挙動を示した。また、図6に示すように、実施例2の熱電変換材料は、化学組成比の調整量x=−0.07〜0の範囲ではTi組成によらずゼーベック係数の符号が正となり,p型であることがわかる。さらに、比較例2の熱電変換材料と比較して、x=−0.04と−0.07となる熱電変換材料はすべてのTi 組成において300Kにおけるゼーベック係数の絶対値が大きくなっている。中でも,x=−0.04となる熱電変換材料はTi組成yが0.03のときに最大のゼーベック係数になっている。
【0043】
実施例1の熱電変換材料(Fe1.98V1.02(Al0.90Si0.10))と比較例1の熱電変換材料(Fe2V(Al0.90Si0.10)),及び実施例2の熱電変換材料(Fe2.04(V0.86Ti0.10)Al)と比較例2の熱電変換材料(Fe2(V0.90Ti0.10)Al)について、出力因子の温度依存性を求めた。この結果を図7に示す。
【0044】
図7より、実施例1の熱電変換材料の出力因子は300Kで7×10−3W/mK2達しており,同じSi組成となる比較例1の熱電変換材料よりも大きいことがわかる。さらに、従来の代表的な熱電変換材料であるBi−Te系n型熱電変換材料の出力因子の代表値4.5×10−3W/mK2を上回る大きさである。一方,実施例2の熱電変換材料はp型であるが,最大4×10−3W/mK2に達しており、同じTi組成となる比較例2の熱電変換材料よりも大きいことがわかる。さらに、従来の代表的な熱電変換材料であるBi−Te系p型熱電変換材料の出力因子の代表値3×10−3W/mK2を上回る大きさである。
【0045】
実施例3の熱電変換材料((Fe1.95−yIry)(V0.95Ta0.10)Al(y=0、0.03、0.05、0.10))について,温度とゼーベック係数との関係を図8に示し、温度と電気抵抗率の関係を図9に示す。
【0046】
図8より,FeとVの化学組成比を調整してVの一部をTaで置換した熱電変換材料は、Feの一部をIrで置換していないときに,ゼーベック係数は負で200Kにおいて−200μV/Kという大きな値になっていることがわかる。また,Ir組成の増加に伴ってゼーベック係数の絶対値は減少している。また、図9に示すように、FeとVの化学組成比を調整してVの一部をTaで置換した熱電変換材料において、低温で大きな電気抵抗率を示すとともに、半導体的な負の温度依存性が現われている。しかし、Ir置換量の増加とともに400K以下の電気抵抗率は急激に減少しており、y=0.10では金属的な温度依存性を示す。
【0047】
実施例3の熱電変換材料((Fe2−x−yIry)(V0.90+xTa0.10)Al(x=0.02、0.05))について、Ir組成と300Kにおける熱伝導率との関係を図10に示す。
【0048】
基本構造(置換量y=0)である実施例3の熱電変換材料は、すでにVをTaで10%置換しているので、300Kにおいて10.5W/mKという比較的小さい値になっている。ところが、FeをIrで置換すると、熱伝導率は著しく減少している。特に、y=0.10の置換量において、調整量xに関わらず6.5W/mKまで減少している。したがって、原子量の大きい元素で置換することにより、熱伝導率の減少は顕著になることがわかる。
【0049】
また、熱伝導率はキャリアによる成分と格子振動による成分の和であることが知られている。Wiedemann−Franz則を用いて図9の電気抵抗率からキャリアによる熱伝導率を見積もると、図10に示した全体の熱伝導率の3分の1から半分程度と比較的大きいことがわかる。したがって、実施例3の熱電変換材料においては熱伝導率に対する格子振動とキャリアによる寄与が同程度であり、原子量の大きい元素による置換は、格子振動による熱伝導率を大幅に低減するうえで有効である。このため、実施例3の熱電変換材料を用いれば、熱伝導率が小さく、ひいては熱電変換の性能に優れた熱電変換素子を得られることがわかる。すなわち、FeをIrで置換すると、ゼーベック係数の絶対値が小さくなるが、電気抵抗率および熱伝導率が顕著に小さくなり、結果として性能指数が大きくなる。FeのIrによる置換量yが0.10以上で特に好ましい。なお、実施例3ではFeをIrにより置換したが、Pd,Co,あるいはNiでもよい。
【0050】
実施例3の熱電変換材料(Fe1.98−yIry)(V0.92Ta0.10)Alと実施例4の熱電変換材料(Fe1.98−yIry)V1.02Alについて、Ir組成と300Kにおける性能指数との関係を図11に示す。
【0051】
図11より、Feの一部をIrで置換することで性能指数は大幅に増加することがわかる。特に、予めVを10%のTaで置換した実施例3の熱電変換材料では性能指数の増加が顕著であり,Ir組成y=0.15において1×10−3/Kに達している。Irによる置換だけでなく、Taで同時置換することによりの性能指数が大きくなっており、原子量の大きい元素で置換した熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
【0052】
さらに、実施例4として熱電変換材料(Fe2−x−yIry)V1+xAl(x=−0.04、0.02、0.05)、実施例5として熱電変換材料(Fe2−x(V1+x−yMoy)Al(x=−0.04、0.02)、および実施例6として熱電変換材料Fe2−x(V0.90+x−yTiyTa0.10)Al(x=−0.04)の300Kにおけるゼーベック係数を測定した。
【0053】
実施例1の熱電変換材料Fe2−xV1+x(Al1―ySiy)と、実施例2の熱電変換材料Fe2−x(V1+x−yTiy)Alと、実施例3の熱電変換材料(Fe2−x−yIry)(V0.90+xTa0.10)Alと、実施例4の熱電変換材料(Fe2−x−yIry)V1+xAlと、実施例5の熱電変換材料Fe2−x(V1+x−yMoy)Alと、実施例6の熱電変換材料Fe2−x(V0.90+x−yTiyTa0.10)Al、以上6種類の実施例と、比較例1の熱電変換材料Fe2V(Al1―ySiy)と、比較例2の熱電変換材料Fe2(V1−yTiy)Alと、比較例3の熱電変換材料(Fe2−yIry)VAlと、比較例4の熱電変換材料Fe2(V1−yMoy)Al、以上4種類の比較例について、300Kにおけるゼーベック係数(μV/K)と総価電子数との関係を求める。結果を図12に示す。なお、実施例および比較例の各試料の組成を表1に記載する。
【0054】
【表1】
【0055】
図12において、比較例1〜4の熱電変換材料のように化学組成比を調整量xで調整しない場合(x=0)、基本構造のFe2VAlの総価電子数は24.0であり、元素置換によって総価電子数が24.0未満になる場合も、総価電子数が24.0超になる場合も、ゼーベック係数の絶対値は大幅に増大している。このようなゼーベック係数の変化は総価電子数が24.0となる近傍において特に顕著である。また、比較例1、3及び4の熱電変換材料は、総価電子数が24.0超となっており、ゼーベック係数はすべて負の値になることから、n型の熱電変換特性を示すことがわかる。一方、比較例2の熱電変換材料では、総価電子数が24.0未満となっており、ゼーベック係数はすべて正の値になることから、p型の熱電変換特性を示すことがわかる。
【0056】
図12のように総価電子数で整理したとき、ゼーベック係数は置換する元素の種類によらず、1本のマスターカーブで記述できるような変化の仕方になっている。このため、本発明で明らかにしたように、置換する元素の種類を選択することにより、擬ギャップ内のフェルミ準位のエネルギー位置を最適化することが可能であり、ひいてはゼーベック係数の符号を制御することができるために、基本構造のFe2VAlをベースとしてp型とn型の熱電変換材料を作製することが可能になるだけでなく、ゼーベック係数の絶対値を大幅に増大することによって、優れた熱電特性を発揮できる熱電変換材料を製造することが可能となる。
【0057】
図12において、実施例1〜6の熱電変換材料のように化学組成比を調整量xで調整した場合、x=0.02〜0.08ではマスターカーブは総価電子数が24以下の方に向かってシフトしており、しかも調整量が大きいほど大きくシフトしている。一方、x=−0.04と−0.07ではマスターカーブは総価電子数が24以上の方に向かってシフトしており,しかも調整量の絶対値が大きいほど大きくシフトしている。ここで、ゼーベック係数が負となるn型の熱電変換材料は、調整量xが正の値のときに絶対値が大きく増大していることがわかる。具体的には調整量xが0<x≦0.08の範囲内で優れた熱電特性を発揮できるn型熱電変換材料を製造することが可能となる。一方、ゼーベック係数が正となるp型の熱電変換材料は、調整量xが負の値のときに絶対値が大きく増大していることがわかる。具体的には調整量xが−0.07≦x<0の範囲内で優れた熱電特性を発揮できるp型熱電変換材料を製造することが可能となる。
【0058】
また、実施例1〜6の熱電変換材料からp型とn型を選択した1組又は実施例1〜6の熱電変換材料と公知の他の熱電変換材料との組み合わせによって、熱電変換素子を製造することができる。実施例1〜6の熱電変換材料は汎用の金属を用いて安価に製造可能であるため、これらの熱電変換素子の製造コストも低廉である。さらに、実施例1〜6の熱電変換材料が毒性の極めて弱い成分のみで構成されるため、これらの熱電変換素子は環境汚染の原因となる恐れも少ない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、自動車や自動二輪車のエンジン、家庭用燃料電池やガスコージェネレーション等、中温域の廃熱を利用して発電装置等に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のAlに替えて置換する元素Dの置換量yが一般式Fe2−xV1+x(Al1−yDy)を満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Alに替えて置換する他の元素がDである場合には、元素Dが周期表における第3〜6周期の14〜16族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量yが一般式Fe2−x(V1+x−yNy)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の6族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項3】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量yが一般式Fe2−x(V1+x−yNy)Alを満たす−0.07≦x<0の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、24を超え、24.3以下になるようにしてp型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項4】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のFeに替えて置換する元素Mの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式(Fe2−x−yMy)(V1+x−zTaz)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Feに替えて置換する他の元素がMである場合には、元素Mが周期表における第4〜6周期の9族及び10族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項5】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のFeに替えて置換する元素Mの置換量yが一般式(Fe2−x−yMy)V1+xAlを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Feに替えて置換する他の元素がMである場合には、元素Mが周期表における第4〜6周期の9族及び10族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項6】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式Fe2−x(V1+x−y−zNyTaz)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の6族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項7】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式Fe2−x(V1+x−y−zNyTaz)Alを満たす−0.07≦x<0の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を24を超え、24.3以下になるようにしてp型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項1】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のAlに替えて置換する元素Dの置換量yが一般式Fe2−xV1+x(Al1−yDy)を満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Alに替えて置換する他の元素がDである場合には、元素Dが周期表における第3〜6周期の14〜16族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量yが一般式Fe2−x(V1+x−yNy)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の6族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項3】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量yが一般式Fe2−x(V1+x−yNy)Alを満たす−0.07≦x<0の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、24を超え、24.3以下になるようにしてp型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項4】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のFeに替えて置換する元素Mの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式(Fe2−x−yMy)(V1+x−zTaz)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Feに替えて置換する他の元素がMである場合には、元素Mが周期表における第4〜6周期の9族及び10族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項5】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のFeに替えて置換する元素Mの置換量yが一般式(Fe2−x−yMy)V1+xAlを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Feに替えて置換する他の元素がMである場合には、元素Mが周期表における第4〜6周期の9族及び10族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項6】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式Fe2−x(V1+x−y−zNyTaz)Alを満たす0.02≦x≦0.08の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の6族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を、23.7を超え、24.1以下になるようにしてn型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項7】
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、化学組成比の調整量x並びに基本構造のVに替えて置換する元素Nの置換量y及びVに替えて置換する元素Taの置換量zが一般式Fe2−x(V1+x−y−zNyTaz)Alを満たす−0.07≦x<0の範囲内で調整量xを選択する熱電変換材料において、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれた元素であり、化学式当たりの総価電子数を24を超え、24.3以下になるようにしてp型に制御することを特徴とする熱電変換材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−89882(P2013−89882A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231196(P2011−231196)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
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