説明

熱電対固定装置

【課題】測点への装着を容易にするとともに、中空管の変形に関わらず精度良く温度測定を行うことができる熱電対固定装置を提供する。
【解決手段】中空管の表面に熱電対を固定して取りつける熱電対固定装置において、揺動支点で互いに結合して管軸中心方向に揺動する一対の揺動体を備え、該各揺動体は前記中空管を挟持する挟持部が設けられ、前記一対の揺動体は中空管の半径方向に中空管へ押圧力を付与し得るバネを有し、前記各挟持部の少なくとも1つに熱電対を設け、前記各挟持部の互いに対向する面に中空管を固定して熱電対を該中空管に圧接固定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空管の表面に熱電対を固定して取りつける熱電対固定装置にかかわり、特に一対の揺動体が夫々有する各挟持部の対向する面に中空管を固定して熱電対を該中空管に圧接固定させる熱電対固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントや化学プラント等の高温・高圧下で長時間使用される機器では、運転中に使用材料がクリープ、疲労損傷を受け、材質が劣化することはよく知られている。このような材質の劣化は、使用材料のメタル温度や、作用応力及び使用時間によって支配されるものであり、火力発電用ボイラではこれらの支配因子を考慮してある一定の寿命を保つように設計されている。
しかし、近年、設計寿命を超過して運転されているボイラが多くなってきており、また、運転時間が設計寿命以内であっても、燃焼ガスの偏流等によるメタル温度の上昇や、材料中の偏析等に起因する異常な材質の劣化が原因で材料が破損する事故も発生している。このような背景から、材料の余寿命を的確に予測し、部分的な取り換えや補修を計画的に行うために、実際またはそれを模擬した環境でボイラチューブのような中空管のクリープ破断試験を行い、高温腐食の影響を加味した試験とする必要がある。
【0003】
上述したクリープ試験は、中空管を一定の温度に保持し、これに一定の荷重を加えて時間とともに増大するひずみを測定する試験であって、すなわち、クリープひずみを生じる応力である破断強度(クリープ強度)を測定することが行われている。このクリープ試験では、熱電対を例えば紐で中空管に縛りつけたり、中空管の表面に点溶接したりするなどして固定する方法がとられるのが一般的である。
例えば、特許文献1(特開平9−33360号公報)には、ねじ止めや溶接を用いた熱電対の固定が開示されている。
【0004】
特許文献1では、対象物の温度を測定するために異種金属で構成されている熱電対を、前記対象物の測定点に接続するための熱電対の接続構造において、前記熱電対を構成する一方の金属線を、前記対象物と同一部材で形成するとともに、この一方の金属線を前記対象物の任意の箇所に接続し、前記熱電対を構成する他方の金属線を、前記対象物の前記測定点に接続して前記熱電対を前記対象物に2箇所に分離して接続する構造が提案されている。
【0005】
また、熱電対を取り付けるものとして、特許文献2(実用新案登録第3029162号公報)に開示される保持具が用いられている。
特許文献2に開示される熱電対保持具は、図5に示すものであり、前記中空管として丸棒状に切り出されたクリープ試験の供試材23を用いている。図5に示す熱電対保持具は、前記供試材23の表面に熱電対24を取り付けるための熱電対保持具21であって、耐熱合金素材からなる帯状片を供試材23の断面径にあわせて概略馬蹄形にバネ形成し、バネ状クリップとして使用することにより、供試材23との間に熱電対24の接合点挟持するようにして構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−33360号公報
【特許文献2】実用新案登録第3029162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、熱電対を紐で中空管に縛りつけたり、中空管の表面に点溶接したりするなどして固定する従来の手法では、複数箇所に測点を設けるための作業時間を要し、且つ熱電対が切損しやすいという問題がある。
また、特許文献1では熱電対の交換が困難であり、これは熱電対を複数個取りつける場合は特に顕著となる。
さらに、クリープ試験では一定の荷重を軸方向に中空管へ作用させているために、中空管が細くなって断面積が減少してしまう。このような場合、特許文献2に示されている熱電対保持具は、クリップ自体に弾性を有し、そのクリップの内側で熱電対と中空管を押える構造のため、断面積減少(形状変化)する中空管の軸径の変形量に対して追従できる範囲に限界があり、前記変形量を超えて中空管の軸径が収縮すると、中空管に熱電対が接触できなくなる。よって、熱電対が中空管表面から離れてその温度を正確に測定することができない可能性がある。また、特許文献2では中空管と熱電対が点接触するために、上述した中空管の断面積減少により圧接力が変動し、温度も変動しやすい。
【0008】
そこで、本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、測点への装着を容易にするとともに、中空管の変形に関わらず精度良く温度測定を行うことができる熱電対固定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、中空管の表面に熱電対を固定して取りつける熱電対固定装置において、揺動支点で互いに結合して管軸中心方向に揺動する一対の揺動体を備え、該各揺動体は前記中空管を挟持する挟持部が設けられ、前記一対の揺動体は中空管の半径方向に中空管へ押圧力を付与し得るバネを有し、前記各挟持部の少なくとも1つに熱電対を設け、前記各挟持部の互いに対向する面に中空管を固定して熱電対を該中空管に圧接固定させることを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、前記一対の揺動体は中空管の半径方向に中空管へ押圧力を付与し得るバネを有し、前記各挟持部の少なくとも1つに熱電対を設け、前記各挟持部の互いに対向する面に中空管を固定して熱電対を該中空管に圧接固定させることにより、中空管の軸径が収縮しても該軸径に追従して熱電対を圧接固定することができる。また、挟持部自体ではなく別にバネを設けているので、中空管の軸径の収縮に対して追従できる範囲が大きくなる。
【0011】
さらに、上述した構成とすることにより、中空管の軸径の収縮により中空管が変形しても直線変位的な圧接力の変位で済み、圧接力に変化が少なくて精度良い温度測定を行うことができる。
また、前記各挟持部の少なくとも1つ、好ましくは各挟持部の両方に熱電対を設けることにより、中空管の温度を両側から測定することができるため測定精度が向上する。
【0012】
また、前記各揺動体の挟持部に貫通孔を形成し、該貫通孔に熱電対を挿入してなることを特徴とする。
これにより、前記中空管に沿うように熱電対を面接触させることが可能となるため、測定精度が向上する。
【0013】
さらに、前記貫通孔に挿入させる熱電対は、箔型若しくはシース型であることを特徴とする。
前記貫通孔に挿入させる熱電対として箔型若しくはシース型を用いることができるので、揺動体の形状や状況に応じて熱電対を選択できる。また、従来の熱電対の取付けに対して本発明は箔型熱電対を用いることが可能であり、熱電対の中空管への密着性を向上させ、精度良い温度測定を行うことができる。
【0014】
また、前記一対の揺動体は、各揺動体に前記揺動支点を挟んで一方側に挟持部と、他方側に把持部とが夫々設けられたことを特徴とする。
このように、各揺動体に前記揺動支点を挟んで一方側に挟持部と、他方側に把持部とが夫々設けられる構成とすることにより、対象となる中空管の測点への装着を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測点への装着を容易にするとともに、中空管の変形に関わらず精度良く温度測定を行うことができる熱電対固定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態1に係る熱電対固定装置の使用状態を説明する斜視図である。
【図2】実施形態1に係る熱電対固定装置の正面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】実施形態2に係る熱電対固定装置の正面図である。
【図5】従来の熱電対固定装置の使用状態を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0018】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る熱電対固定装置の使用状態を説明する斜視図である。図1に示す熱電対固定装置は本体(耐熱バネバサミ)1であって、中空管3に熱電対4を固定するものである。本体1は揺動支点で互いに結合して管軸中心方向に揺動する一対の揺動体によって構成され、該各揺動体は前記揺動支点9を挟んで一方側に挟持部6と、他方側に把持部2とが夫々設けられている。前記把持部2を握って揺動させることにより、中空管3に挟持部6を容易に装着して固定することができる。本体1を構成する一対の揺動体は、耐熱鋼やセラミックスからなる。
なお、中空管3としては例えばボイラチューブが挙げられ、本実施形態ではこのボイラチューブの形状に対応するように湾曲形状を有する挟持部について説明する。
【0019】
また、本体1は、中空管3の半径方向に中空管3へ押圧力を付与し得る、すなわち挟持部6を閉じる方向に押圧力を付与し得る耐熱バネ5を備えており、熱電対4を中空管3の直径に応じて圧接固定させている。耐熱バネ5は耐熱鋼やSUS鋼等で形成される。
このように、耐熱バネ5の付勢力で中空管3に熱電対4を押しつけることができるため、例え中空管3がクリープ試験のような一定の荷重を受けて変形し、中空管3の軸径が減少したとしても、熱電対4は中空管3の表面から離脱することなく常に密着させることができる。よって、圧接力に変化が少なくて精度良い温度測定を行うことができる。
【0020】
さらに、図2に実施形態に係る熱電対固定装置の正面図、図3に図2のA−A線断面図を示す。なお、図中に示した図1と同じ構成の部分には説明を省略するため同じ符号を示している。
図2に示すように、熱電対4は本体1の各挟持部6に夫々設けられている。熱電対を片側に設けるだけでも温度測定は可能であるが、各挟持部6の両方に熱電対4を設けることにより、中空管3の温度を両側から測定することができるため測定精度が向上する。また、例え片側の熱電対が損傷しても、他方の熱電対は正常に使用することができるため、効率性や安定性のうえでも両側、すなわち挟持部6の夫々に熱電対4を設けることは好ましい。
【0021】
また、図3に示すように、本体1は熱電対を挿入固定できる熱電対挿入口7が形成されている。熱電対挿入口7は貫通孔であり、耐熱バネ5を挟んで両側に対峙するように本体1を構成する各揺動体に夫々形成される。温度測定をするときは熱電対を熱電対挿入口7から本体1に挿入し、温度測定対象となる中空管に圧接固定する。
なお、熱電対挿入口7に挿入される熱電対は、シース型や箔型など様々な種類を使用することが可能であり、熱電対挿入口7に挿入可能であればその形状は問わない。特に、箔型熱電対は熱電対の中空管への密着性を向上させるため好適である。また、シース型熱電対は安価でコストを低減することができる。
このようにして、測点への装着を容易にするとともに、中空管の変形に関わらず精度良く温度測定を行うことができる。
【0022】
(実施形態2)
次に、図4を用いて実施形態2に係る熱電対固定装置について説明する。実施形態1と同様に、図4に示す熱電対固定装置は本体(耐熱バネバサミ)1であって、中空管3に熱電対4を固定するものである。本体1は揺動支点で互いに結合して管軸中心方向に揺動する一対の揺動体によって構成され、該各揺動体は挟持部6と、該挟持部6の先端に形成される把持部8とが夫々設けられている。本体1を構成する一対の揺動体は、耐熱鋼やセラミックスからなる。
【0023】
また、本体1は、中空管3の半径方向に中空管3へ押圧力を付与し得る、すなわち挟持部6を閉じる方向に押圧力を付与し得る耐熱バネ5を備えており、熱電対4を中空管3の直径に応じて圧接固定させている。耐熱バネ5は耐熱鋼やSUS鋼等で形成される。
このように、耐熱バネ5の付勢力で中空管3に熱電対4を押しつけることができるため、例え中空管3がクリープ試験のような一定の荷重を受けて変形し、中空管3の軸径が減少したとしても、熱電対4は中空管3の表面から離脱することなく常に密着させることができる。よって、圧接力に変化が少なくて精度良い温度測定を行うことができる。
【0024】
また、実施形態1と同様に、熱電対4は本体1の各挟持部6に夫々設けられている。熱電対を片側に設けるだけでも温度測定は可能であるが、各挟持部6の両方に熱電対4を設けることにより、中空管3の温度を両側から測定することができるため測定精度が向上する。さらに、図示しないが実施形態1と同様に、本体1は熱電対を挿入固定できる熱電対挿入口7が形成されている。熱電対挿入口7に挿入される熱電対は、シース型や箔型など様々な種類を使用することが可能であり、熱電対挿入口7に挿入可能であればその形状は問わない。
このようにして、精度良い温度測定を行うことができる。
【0025】
なお、以上述べた本発明の実施形態1、2では、試験片として中空管3を対象としたために挟持部6の形状として湾曲形状を用いているが、この挟持部6として湾曲を有しない平面形状を用いたりすることにより、例えば平板状の試験片や矩形断面を有する試験片などにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、測点への装着を容易にするとともに、中空管の変形に関わらず精度良く温度測定を行うことができるので、熱電対固定装置への適用に際して有益である。
【符号の説明】
【0027】
1 本体(耐熱バネバサミ)
2 把持部
3 中空管
4 熱電対
5 耐熱バネ
6 挟持部
7 熱電対挿入口
9 揺動支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空管の表面に熱電対を固定して取りつける熱電対固定装置において、
揺動支点で互いに結合して管軸中心方向に揺動する一対の揺動体を備え、該各揺動体は前記中空管を挟持する挟持部が設けられ、前記一対の揺動体は中空管の半径方向に中空管へ押圧力を付与し得るバネを有し、
前記各挟持部の少なくとも1つに熱電対を設け、前記各挟持部の互いに対向する面に中空管を固定して熱電対を該中空管に圧接固定させることを特徴とする熱電対固定装置。
【請求項2】
前記各揺動体の挟持部に貫通孔を形成し、該貫通孔に熱電対を挿入してなることを特徴とする請求項1記載の熱電対固定装置。
【請求項3】
前記貫通孔に挿入させる熱電対は、箔型若しくはシース型であることを特徴とする請求項2記載の熱電対固定装置。
【請求項4】
前記一対の揺動体は、各揺動体に前記揺動支点を挟んで一方側に挟持部と、他方側に把持部とが夫々設けられたことを特徴とする請求項1記載の熱電対固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−175373(P2010−175373A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17996(P2009−17996)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】