説明

熱電対

【課題】高温における耐久性に優れ、長時間使用することができ、かつ、低コストである保護管を備えており、焼成炉の測温に好適に用いることができる熱電対を提供する。
【解決手段】中空筒形状の保護管2内に、2本の素線がそれぞれ筒状の磁製管3により被覆されて配置されている焼成炉用熱電対1において、前記保護管2および磁製管3を、純度99.9%以上、平均結晶粒径40μm以上50μm以下のイットリアセラミックスにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の焼成炉において用いられる測温用の熱電対に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス等の焼成は、電気炉、雰囲気加熱炉、真空焼成炉等において、熱電対での測温による温度管理の下で行われる。このような焼成炉において1000℃以上の高温の測温に用いられる熱電対は、その素線や熱接点を炉内雰囲気から保護するために、保護管に収容されて用いられる。
【0003】
従来、上記のような焼成炉における測温用の熱電対の保護管の材質としては、高強度で、絶縁性に優れ、比較的安価であることから、主に、アルミナや窒化ケイ素等のセラミックスが用いられていた。また、保護管内で2本の熱電対素線を被覆絶縁するための磁製管にも、同様の材質のセラミックスが用いられていた(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開平11−180775号公報
【特許文献2】特開2003−344179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のアルミナセラミックスからなる保護管は、1800℃以上でクリープ変形を生じたり、炉内雰囲気によっては腐食や蒸発が進行し、閉鎖されている保護管の先端部に穴が開いたり、熱電対素線が剥き出しの状態になり、短絡する場合もあった。
【0005】
このため、高温で使用される熱電対においては、ジルコニアセラミックス等が用いられる場合もあったが、重量が嵩むため、これは、耐荷重性の点で課題を有していた。
また、酸素イオン伝導性等の観点から、ジルコニアを用いた保護管は使用に適さない場合も多かった。このような場合は、ジルコニアに代えて、ハフニアセラミックスを用いる場合もあったが、これは高価であるという課題を有していた。
【0006】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、熱電対の保護管等の保護部材に、アルミナセラミックスよりも高融点であるイットリアセラミックスを用いることにより、高温における耐久性に優れ、長時間使用することができ、かつ、低コストであり、焼成炉の測温に好適に用いることができる熱電対を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る熱電対は、中空筒形状の保護管内に、2本の素線がそれぞれ筒状の磁製管により被覆されて配置されている焼成炉用熱電対であって、前記保護管および磁製管が、純度99.9%以上、平均結晶粒径40μm以上50μm以下のイットリアセラミックスからなることを特徴とする。
このように、熱電対の保護管およびその内部の磁製管のいずれもが、イットリアセラミックスにより構成されることにより、高温においても、熱電対の短絡が防止され、長時間の繰り返し使用にも耐え得るものとなる。
【0008】
また、本発明に係る他の態様の熱電対は、中空筒形状の保護管内に、2本の素線がそれぞれ筒状の磁製管により被覆されて配置されている焼成炉用熱電対であって、前記保護管の少なくとも炉内に露出している部分が、純度99.9%以上、平均結晶粒径40μm以上50μm以下のイットリアセラミックスからなり、その内側に位置する部分の磁製管が、純度99.9%以上、平均結晶粒径40μm以上50μm以下のイットリアセラミックスからなることを特徴とする。
炉を構成する耐火物がアルミナ系である場合においては、このように、炉内に露出し、高温となる保護管および磁製管の先端部分のみ、イットリアセラミックスにより構成することが有効である。
【発明の効果】
【0009】
上述したとおり、本発明に係る熱電対によれば、従来、アルミナセラミックスが用いられていた保護管等の保護部材において、アルミナセラミックスよりも高融点であるイットリアセラミックスを採用することにより、高温でも、短絡が抑制され、耐久性に優れ、長時間の使用が可能となる。
また、本発明に係る熱電対は、低コストで得られ、特に、高温での焼成炉の測温に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、図面を参照して、より詳細に説明する。
図1〜3に、本発明に係る熱電対の一例を示す。
図1に示す熱電対は、先端が閉鎖された中空筒形状のイットリアセラミックス製保護管2内に、熱電対1の2本の素線がそれぞれ筒状のイットリアセラミックス製磁製管3により被覆されて配置された構造からなる。
このような構造の熱電対は、焼成炉の測温においては、熱電対の保護管内は、保護管先端が閉塞しているため、炉内と遮断され、熱電対は炉内雰囲気に曝されない状態で用いることができる。
【0011】
前記磁製管3は、2本の素線同士の接触による短絡を防止するためのものであり、保護管2と同様の材質であるイットリアセラミックスにより構成する。
これにより、従来、短絡しやすかった熱電対が、長時間の繰り返し使用にも耐えられるものとなる。
【0012】
従来のようなアルミナセラミックス製の保護管では、1800℃以上の高温では、保護管がクリープ変形を生じたり、蒸発によって保護管先端部に穴が開き、熱電対が剥き出しになり、短絡する場合があった。
また、保護管のみをイットリアセラミックス製とし、磁製管はアルミナセラミックス製である場合は、1800℃以上の高温での測温の際、アルミナとイットリアとが反応し、イットリアが溶融して、YAG(イットリア・アルミニウム・ガーネット)を形成し、変形したり、溶融したりする場合もあり、寿命が短かった。
したがって、本発明に係る熱電対においては、保護管およびその内部の磁製管のいずれも、アルミナセラミックスよりも高融点であるイットリアセラミックスにより構成する。
なお、本発明において用いられるイットリアセラミックスは、上記のような短絡の防止や耐久性の向上の効果を得る観点から、純度99.9%以上、平均結晶粒径40μm以上50μm以下とする。
【0013】
図2は、本発明に係る他の態様の熱電対であり、先端が閉鎖された中空筒形状の保護管において、少なくとも炉内に露出している部分2がイットリアセラミックスからなり、その内側に位置する部分の磁製管3がイットリアセラミックスからなるように構成されたものである。
すなわち、従来のアルミナセラミックス製の保護管4および磁製管5の先端部分のみイットリアセラミックスを適用したものである。
【0014】
このように、イットリアセラミックスにより構成する部分は、必ずしも、熱電対の保護管および磁製管の全体である必要はなく、焼成炉の炉内に露出する部分のみであってもよい。
特に、炉を構成する耐火物がアルミナ系である場合、このように、保護管のアルミナ系耐火物に接する部分はアルミナセラミックスとし、炉内に露出し、高温となる保護管および磁製管の先端部分のみ、イットリアセラミックスを適用することが好ましい。
これにより、炉を構成するアルミナ系耐火物と、図1に示したようなイットリアセラミックス製の保護管との接触によって、YAGを生じ、溶融しやすくなることを防止することができる。
【0015】
なお、この場合も、保護管の先端部分のみをイットリアセラミックス製とすると、上記の場合と同様に、1800℃以上の高温で、磁製管を構成するアルミナセラミックスとイットリアとの反応によりイットリアが溶融し、YAGを形成し、変形したり、溶融したりするおそれがあることから、イットリアセラミックス製の保護管の先端部分の内側に位置する部分の磁製管もイットリアセラミックス製とする。
【0016】
前記熱電対においては、保護管のアルミナセラミックス部5とイットリアセラミックス部2との接合方法は、熱電対の使用時に炉内と保護管内とが遮断される状態とすることができる限り、特に限定されるものではなく、はめ込みによるものでも、あるいはまた、ねじ切りによるものであってもよい。
【0017】
さらに、図3は、本発明に係る他の態様の熱電対であり、水素焼成炉等において、ガスを流通させて使用される熱電対の一例である。この熱電対は、保護管2の先端部が開口しており、また、該保護管の後端部にガス導入口を備えており、保護管内に反応性ガスが流入しないように、水素や不活性ガス等を供給し、図中の矢印方向に流通させて用いられるものである。
【0018】
この場合も、保護管2および磁製管3は、図1の場合と同様に、イットリアセラミックスにより構成される。このように、イットリアセラミックス製による保護管および磁製管は、先端部が開口した開放系で用いられる熱電対にも、好適に適用することができる。
【0019】
また、図3に示すような保護管の先端部が開口している構造の熱電対においても、図2に示した熱電対と同様に、アルミナセラミックス部とイットリアセラミックス部とを接合させた構成とすることもできる。
【0020】
上記のような本発明に係る熱電対のイットリアセラミックス製の保護管は、例えば、以下に示すような製造方法により得ることができる。なお、磁製管も同様の方法により、製造することができる。
まず、純度99.9%以上、平均粒径1μm以下のイットリア粉末を純水中に添加して撹拌し、スラリーを調製し、これをスプレードライヤにて造粒し、造粒粉を作製する。
この造粒粉を、金型とゴム型との隙間に粉詰めし、CIP成形法にて1t/cm2以上の加圧により、保護管形状の成形体を得る。
なお、成型方法は、保護管形状の成形体が得られる方法であれば、特に限定されるものではなく、押出し成形、射出成形、鋳込み成形等の方法を用いることもできる。
【0021】
上記により得られた成形体は、焼成収縮を考慮して加工し、脱脂後、1750〜1900℃の温度で焼成し、必要に応じて、切断、面出し加工、円筒加工等を施すことにより、純度99.9%以上、平均結晶粒径40μm以上50μm以下のイットリアセラミックス製の保護管が得られる。
前記焼成雰囲気は、アルゴン等の不活性ガス、水素等の還元性ガス、あるいはまた、真空焼成とすることが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
純度99.9%、平均粒径1μm以下のイットリア原料粉末を純水中に添加して撹拌し、スラリーを調製し、これをスプレードライヤにて造粒した。
得られた造粒粉を、金型とゴム型との隙間に粉詰めし、CIP成形法にて1.5t/cm2で加圧成形し、保護管形状の成形体を得た。得られた成形体を焼成収縮を考慮して加工し、脱脂後、水素雰囲気下で1800℃で焼成し、平均結晶粒径40μmのイットリアセラミックス製の保護管を作製した。
同様にして、イットリアセラミックス製の磁製管も作製し、図1に示すような構成の熱電対を作製した。
【0023】
この熱電対について、昇温速度40℃/hr、保持時間6hr、降温速度40℃/hrで、1850℃までの昇降温を繰り返し、熱電対保護管の耐久性の評価を行った。
その結果、120回までは、変化なく繰り返し使用可能であり、その後、先端が破損した。
【0024】
[実施例2]
実施例1と同様にして、イットリアセラミックス製の保護管および磁製管を作製し、図2に示すような従来のアルミナ製の保護管の先端部にのみ、イットリアセラミックス製の保護管および磁製管を適用した熱電対を作製した。
この熱電対について、実施例1と同様にして、耐久性評価を行ったところ、120回までは、変化なく繰り返し使用可能であり、その後、先端が破損した。
【0025】
[実施例3]
実施例1と同様にして、イットリアセラミックス製の保護管および磁製管を作製し、図3に示すような先端部が開口している熱電対を作製した。
この熱電対について、実施例1と同様にして、耐久性評価を行ったところ、100回までは、変化なく繰り返し使用可能であり、その後、先端が破損した。
【0026】
[比較例1]
従来のアルミナ製の保護管および磁製管を備えた熱電対について、実施例1と同様にして、耐久性評価を行ったところ、30回までは、変化なく繰り返し使用可能であったが、その後、先端が溶融し、蒸発し始めた。
【0027】
[比較例2]
従来のアルミナ製の保護管および磁製管を備えており、図3に示すような先端部が開口している熱電対について、実施例1と同様にして、耐久性評価を行ったところ、25回までは、変化なく繰り返し使用可能であったが、その後、先端が溶融し、蒸発し始めた。
【0028】
上記実施例および比較例の評価結果から、本発明に係るイットリアセラミックス製の熱電対保護管は、従来のアルミナ製のものに比べて、高温においても、長時間繰り返し使用に耐え得るものであることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る熱電対の構成を示した概略断面図である。
【図2】本発明に係る熱電対の構成の他の一態様を示した概略断面図である。
【図3】本発明に係る熱電対の構成の他の一態様を示した概略断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 熱電対
2 保護管
3 磁製管
4 アルミナセラミックス製保護管
5 アルミナセラミックス製磁製管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空筒形状の保護管内に、2本の素線がそれぞれ筒状の磁製管により被覆されて配置されている焼成炉用熱電対であって、前記保護管および磁製管が、純度99.9%以上、平均結晶粒径40μm以上50μm以下のイットリアセラミックスからなることを特徴とする熱電対。
【請求項2】
中空筒形状の保護管内に、2本の素線がそれぞれ筒状の磁製管により被覆されて配置されている焼成炉用熱電対であって、前記保護管の少なくとも炉内に露出している部分が、純度99.9%以上、平均結晶粒径40μm以上50μm以下のイットリアセラミックスからなり、その内側に位置する部分の磁製管が、純度99.9%以上、平均結晶粒径40μm以上50μm以下のイットリアセラミックスからなることを特徴とする熱電対。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−241660(P2008−241660A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86696(P2007−86696)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】