説明

熱電材料、その製造方法、及びこれを含む熱電モジュール

【課題】熱電素子として使用される熱電材料の構造を変更して熱電材料の熱伝導度を低減し、熱電素子の性能を極大化できる熱電材料を提供する。
【解決手段】熱電材料はA2B3で表され、AはBi及びSbから選択される1種以上の元素であり、BはSe及びTeから選択される1種以上の元素である。ノナメートルサイズの板状の層状構造(layeredstructure)を有し、各層の厚さが30nm以下である。熱電材料は、各層の結晶性に優れており、電子の電気伝導度が向上され、層と層との間の粒界でフォノン回折を誘導することができるため、熱電特性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電材料、その製造方法、及びこれを含む熱電モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
化石エネルギー使用の急増は、地球温暖化及びエネルギー枯渇問題をもたらす。このような問題の対応策として、近年、新再生エネルギー及び熱電素子の開発プログラムが韓国を含め全世界において活発に行われている。特に、全ての装備及び電子機器は、熱力学的にカルノ−サイクル(Carnot cycle)の限界を克服できないため、廃熱が投入エネルギーのほとんどを占めている。そのため、廃熱エネルギーを再使用して新しい領域に応用することができれば、エネルギー危機を克服する良い方法となる。
【0003】
熱電素子及びモジュールは、ゼーベック効果(seebeck effect)を利用する発電分野と、ペルチェ効果(peltier effect)を応用した冷却分野と、に大別される。冷却分野では、IT産業の発達に伴う電子部品の小型化、高電力化、高集積化、スリム化により発熱量が増加しており、発生された熱は、電子機器の誤作動及び効率低下の重要な要因として作用している。
【0004】
このような問題点を解決するために熱電素子を使用しており、また、熱電素子の長所である無騒音、速い冷却速度、局所冷却、親環境性を考慮すると、今後の応用性はさらに大きくなる。
【0005】
熱電発電分野でも自動車、廃棄物焼却炉、製鉄所、発電所、地熱、電子機器、体温などから廃棄される多くの廃熱を利用して電気エネルギーに再生産しようとする研究が全世界において多く行われている。特に、熱電発電は体積発電であり、他の発電との融合が可能であるため、今後の応用性は非常に大きいといえる。また、電気エネルギーを生産する間に地球汚染物質を放出しないため、親環境性にもつながり、今後、熱電発電の応用分野は急速に拡大する。
【0006】
しかし、熱電冷却及び発電は世界的に実用化されておらず、その研究も国家出願研究所及び学界の実験室規模程度に行われている。しかし、近年、エネルギーのコスト上昇及び環境問題の解決策として、熱電素子及びモジュールが多く研究され、その応用性を考慮すると、未来の市場は大きいといえる。
【0007】
添付の図1は、現在使用されている電源部を除いた熱電装置モジュール部の構造を示すものである。熱電素子は、大きく、N型半導体11とP型半導体12とが使用され、前記N型半導体11とP型半導体12とを連結する金属電極13及びセラミック基板14で構成され、これを単一モジュールと言う。
【0008】
単一モジュールが冷却または発電素子として使用されるためには、前記N型半導体11とP型半導体12から電荷を生成した後、金属電極13を介してそれぞれの端子から回路に連結されなければならない。
【0009】
そのため、単一モジュールの効率を高めるためには、モジュールを構成する各部分を高効率化し、構成する各部分の相互効率が最適になるように設計しなければならない。しかし、単一モジュールの低い変換効率のため、高い変換効率を要求する熱電モジュールの応用分野では、単一モジュールを複数使用した複合モジュールの使用を要求している。
【0010】
既存の複合モジュールは、P−Nで構成された単一モジュールを使用条件に合わせて直列に繰り返して製造する。各単一モジュールは金属電極で連結され、金属電極はセラミック基板に連結されている。各単一モジュールは熱源から互いに平行して設けられているため、熱源からの半導体材料自体の温度勾配は単一モジュールの間において同一である。
【0011】
このような既存の直列型モジュール構造は、回路断線に対する問題点を含んでおり、構成する単一モジュールのうち一つでも故障となると、全体複合モジュールが作動しないという致命的な危険を有している。また、直列型のモジュールであるため、電圧依存度が大きいという短所を有している。
【0012】
一方、従来の熱電材料は、インゴット成長法(Ingot growing)や機械的合金法(Mechanical Alloying)で合成した。前記のように製造された熱電材料は、図2に示されたように、粒子サイズが数μmであり、その形状が球形であり一定規則なしにランダムに分布された構造を有する。
【0013】
近年、熱電材料の研究は、特に、フォノン散乱(Phonon scattering)により熱伝導度を低減させる方向に進められている。このようなフォノン散乱のためには、材料の大きさがフォノンの波長より小さくなければならず、これは通常数十nmの大きさを有する。
【0014】
そのため、多くの開発者がフォノン散乱を誘導して熱伝導度を低減できるnm材料を合成するために多くの努力と実験を繰り返しているが、依然としてその結果は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−067163号公報
【特許文献2】韓国特許公開10−2002−0096491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明は、このような従来熱電モジュールが有する様々な問題を解決するためのものであって、本発明は、熱電素子として使用される熱電材料の構造を変更して熱電材料の熱伝導度を低減し、熱電素子の性能を極大化できる熱電材料を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、前記熱電材料の製造方法を提供することを他の目的とする。
また、本発明は、前記熱電材料を熱電素子として含む熱電モジュールを提供することをまた他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の課題を解決するための熱電材料は、板状の層状構造(layered structure)を有し、各層の厚さは30nm以下であることを特徴とする。
【0019】
前記熱電材料はAで表され、ここでAはBi及びSbから選択される1種以上の元素であり、BはSe及びTeから選択される1種以上の元素であることが好ましい。
【0020】
前記板状の層状構造の各層はC軸方向に配向されることが好ましい。
【0021】
また、本発明の他の課題を解決するための熱電材料の製造方法は、原材料を真空状態で封入させる第1段階と、前記封入された原材料を溶解させる第2段階と、前記溶解された原材料を0℃以下の温度で急冷させる第3段階と、を含むことを特徴とする。
【0022】
前記第1段階の原材料の封入は、真空度1.0×10−3〜1.0×10−6torrの条件下で行われることができる。
【0023】
前記第2段階の溶解は、600〜700℃の温度で行われることが好ましい。
【0024】
前記第3段階の急冷時間は1〜20秒であることが好ましい。
【0025】
また、本発明は、前記熱電材料を含む熱電モジュールを提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、ナノメートルサイズの層状構造を有する熱電材料は、各層の結晶性に優れており、電子の電気伝導度が向上され、層と層との間の粒界でフォノン回折を誘導することができるため、熱電特性に優れた熱電モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実用化された熱電モジュールの構造を示す図面である。
【図2】従来技術による熱電材料の微細構造を示すものである。
【図3】本発明による層状構造を有する熱電材料の微細構造を示すものである。
【図4】比較例により製造された熱電材料の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5a】実施例により製造された熱電材料の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5b】実施例により製造された熱電材料の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】比較例と実施例により製造された熱電材料の結晶性測定(XRD)の結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。
【0029】
本明細書で用いられる用語は、特定の実施例を説明するために用いられ、本発明を限定するためのものではない。本明細書に用いられたように、単数型は文脈上異なる場合を明白に指摘するものでない限り、複数型を含むことができる。また、本明細書で用いられる「含む(comprise)」及び/または「含んでいる(comprising)」は言及された形状、数字、段階、動作、部材、要素、及び/またはこれらの組み合わせが存在することを特定するものであり、一つ以上の他の形状、数字、段階、動作、部材、要素、及び/またはこれらの組み合わせの存在または付加を排除するものではない。
【0030】
本発明は新規構造を有する熱電材料とその製造方法、及びこれを含む熱電モジュールに関する。
【0031】
本発明の熱電材料は、板状の層状構造を有し、各層の厚さは30nm以下であることを特徴とする。
【0032】
本発明の熱電材料は、結晶性をほとんど有しない球形でなく、一定方向、好ましくは、C軸方向(厚さ方向)に結晶性を有する板状の構造を有し、約30nm以下の厚さを有する層が積層された構造を有する。
【0033】
本発明による層状構造を有する熱電材料において、各層の厚さが30nmを超えるとフォノン散乱のためのフォノンの波長より長くなり、フォノン散乱による熱伝導度減少効果が低下するため好ましくない。
【0034】
本発明による熱電材料はAで表されるものであり、ここでAはBi及びSbから選択される1種以上の元素であり、BはSe及びTeから選択される1種以上の元素を使用することができる。また、前記熱電材料はP型半導体及びN型半導体両方ともに使用されることができる。
【0035】
前記熱電材料は、具体的に、例えは、SbTe、BiSe、BiTeなどがあるが、これに限定されるものではない。
【0036】
本発明による板状の層状構造を有する熱電材料は、原材料を真空状態で封入させる第1段階と、前記封入された原材料を溶解させる第2段階と、前記溶解された原材料を0℃以下の温度で急冷させる第3段階と、を経て製造されることができる。
【0037】
第1段階は、P型またはN型半導体の原材料を所定の真空が維持される条件下で封入させる段階である。本発明の封入処理は、石英管に一定量の前記原材料粉末を秤量して注入し、真空ポンプを用いて真空状態を形成した後、水素を一定量注入して一定温度で一定時間維持させる。
【0038】
ここで、真空度は1.0×10−3〜1.0×10−6torrの条件に維持させることが好ましい。
【0039】
第2段階は、前記封入された原材料をファーネスに入れて溶解させる段階である。溶解は、前記原材料が溶解される温度である600〜700℃の温度で行われることができる。前記段階では、P型及びN型半導体の原材料にそれぞれのドーパントを添加することができ、添加されるドーパントの種類は特に限定されない。
【0040】
第3段階は、前記溶解された原材料を0℃以下の温度、好ましくは−196〜−10℃の温度で急冷させる段階である。前記急冷時間は1〜20秒であって、非常に短い時間で急速に凝固させることにより、結晶性に優れた層状構造の熱電材料を製造することができる。また、前記各層の距離は約30nm以下であり、微細な結晶性を有する熱電材料を製造することができる。
【0041】
本発明は、また、前記製造された熱電材料を熱電素子に用いた熱電モジュール(module)を提供することができる。即ち、前記熱電材料を用いた複数の熱電素子を、セラミックなどの絶縁材料からなる表面に電極が形成される基板上に搭載して熱電モジュールを製造することができる。
【0042】
前記熱電モジュールに搭載される熱電素子は急速冷却法により製造され、板状の層状構造を有し、一層の厚さが30nm以下の熱電材料を使用することができる。このような熱電材料を使用してフォノン散乱により伝導度の改善により、熱電特性に優れた熱電モジュールを製造できるという効果を有する。
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明すると次のとおりである。本発明の実施例は、当該技術分野で通常の知識を有した者に本発明をより完全に説明するために提供するものであり、下記実施例は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が下記実施例に限定されるものではない。むしろ、これら実施例は、本開示をより充実で完全にさせ、当業者に本発明の思想を完全に伝達するために提供するものである。
【0044】
実施例
P型及びN型半導体材料としてBiTeを秤量して石英管に真空で封入した。ここで前記石英管の真空度は1.0×10−6torrに維持した。
【0045】
前記材料を700℃のファーネスで溶解した後、−196℃の液体窒素に入れて10秒間急速に冷却して熱電材料を製造した。
【0046】
比較例
従来の機械的合金法を用いて製造されたBiTeを比較例として使用した。
【0047】
実験例1:構造の確認
前記比較例と実施例により製造された熱電材料の構造を走査型電子顕微鏡で測定し、その結果を図4及び図5a〜図5bに示した。
【0048】
図4のように、既存の機械的合金法により製造された熱電材料は、粒子サイズが数μmであり、分布が大きく、球形であったりランダムな形状であることが分かる。
【0049】
しかし、本発明の方法により製造された熱電材料は、図5aと5bのように、粒子形状が板状である層状構造(図5a)を有しており、これを拡大して観察した結果(図5b)、前記板状の層状構造における各層は約24nmの厚さを有すると確認された。
【0050】
実験例2:結晶性の確認
前記比較例と実施例により製造された熱電材料の結晶性をXRDで測定し、その結果を図6に示した。
【0051】
図6の結果のように、本発明の方法により製造された熱電材料の結晶性がより優れていると確認された。これは、SEM測定結果でも、急速凝固法で合成した本発明の熱電材料がナノ層状構造を有すると観察されたように、XRD測定によりその結晶性が優れていることが分かる。このような結果から、前記熱電材料粒子の内部には数nmを有する層がナノ粒子を形成し、それぞれの層は結晶性が改善されたことが分かる。
【0052】
従って、本発明により製造された熱電材料は、ナノ層状構造を有し、一層の厚さが30nm以下と微細であるため、フォノン散乱により電気伝導度の改善効果に優れていることが予測され、これを熱電モジュールに使用する場合、従来使用される熱電材料より優れた熱電特性が発現されることができる。
【符号の説明】
【0053】
11 N型半導体
12 P型半導体
13 金属電極
14 セラミック基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の層状構造(layered structure)を有し、各層の厚さは30nm以下である熱電材料。
【請求項2】
前記熱電材料はAで表され、ここでAはBi及びSbから選択される1種以上の元素であり、BはSe及びTeから選択される1種以上の元素である請求項1に記載の熱電材料。
【請求項3】
前記板状の層状構造の各層はC軸方向に配向される請求項1に記載の熱電材料。
【請求項4】
原材料を真空状態で封入させる第1段階と、
前記封入された原材料を溶解させる第2段階と、
前記溶解された原材料を0℃以下の温度で急冷させる第3段階と、を含む熱電材料の製造方法。
【請求項5】
前記第1段階の原材料の封入は、真空度1.0×10−3〜1.0×10−6torrの条件下で行われる請求項4に記載の熱電材料の製造方法。
【請求項6】
前記第2段階の溶解は、600〜700℃の温度で行われる請求項4に記載の熱電材料の製造方法。
【請求項7】
前記第3段階の急冷時間は1〜20秒である請求項4に記載の熱電材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の熱電材料を含む熱電モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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