説明

熱電池のカソード材料およびそれを含有する電池

熱電池用のカソード材料を開示する。かかるカソード材料は、主要な活物質と、特定量のCuFeSのようなバイメタルの硫化物とを含む。かかるカソード材料を含有する電池(例えば熱電池)も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年4月6日提出の米国特許仮出願第61/167,042号の優先権を主張するものであり、その全体を参照してここに援用する。
【0002】
本発明の分野は、一般に熱電池用のカソード材料に関し、特に一次活物質と、例えばCuFeSのようなある量の硫化二金属とを含むカソード材料に関する。本発明はまた、かかるカソード材料を含有する電池(例えば熱電池)に関する。
【背景技術】
【0003】
熱電池は比較的寿命が長く、エネルギー密度が高い傾向があり、メンテナンスに比較的手がかからず、また比較的高温に耐えることができる。熱電池はまた、比較的短期間で一挙に電力を供給する傾向がある。かかる一挙とは、1秒未満〜1時間以上の範囲となることがあり、電力は通常約1ワット以下から数キロワットの範囲である。このような性質が熱電池を軍隊(例えば、ミサイル誘導システム用の電池)および宇宙探査用途に適するようにする。また、熱電池は電気自動車のような別の用途に用いることができる。
【0004】
典型的な熱電池は、アノードと、カソードと、常温で非導電性の固体電解質を含有する電解質−セパレータと、電池に熱源を提供する火工材料(例えばFe−KClOの粉末を含み得る図1にあるような熱ペレット)とを含む。電池を作動したいときは、外的刺激を電池に与える。例えば、電流を電池に印加して電気マッチまたは電気活性な爆竹に点火するか、若しくは機械的な力(例えば機械的衝撃)を加えて衝撃プライマーに点火することができる。外的刺激により、火工材料は発火し、加熱し始める。火工材料から発生した熱により、予め固体の電解質を溶融して導電性になり、かかる電池が所望の用途向けに電力を供給するのを可能にする。
【0005】
熱電池は、電解質、カソードおよび熱源のそれぞれをウエハーに成形するようなペレット技術を用いて、しばしば作製される。この場合、それぞれのセル構成材の化学物質を粉末に加工し、この粉末を一緒にプレスしてセルを形成する。各構成材を個別の部品として形成するか、またはアノードおよび/またはカソードがセルの導電性を改善するための電解質材料を含む(即ち、該材料に浸液させる)ことができる。
【0006】
熱電池のアノードは、一般にアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属またはその合金からできている。代表的なアノードとしては、リチウム金属、またはリチウムアルミニウム、リチウムケイ素またはリチウムホウ素のようなリチウム合金が挙げられる。
【0007】
熱電池での使用のための電解質はしばしば、塩化リチウムと塩化カリウムとの共融混合物(即ち、個々の成分のそれぞれのものより低い温度で凝固する混合物)と、毛管作用、表面張力またはその両方によるように電解質を熱電池の組立体内に収容するのを手助けするMgO、ヒュームド・シリカまたはカオリナイトのような粘度鉱物(カオリナイト中に豊富にあると知られるカオリン粘土を含む)のような結合剤とを含む。電解質−セパレータはしばしば、常温以上の200℃〜600℃の間の温度で溶融する二成分塩または三成分塩からなる。十分な結合剤なしに代表的な熱電池の電解質を用いると、電解質材料が電池全体にわたって分散して、セル中に好ましくない分路または短絡を引き起こす場合がある。
【0008】
熱電池用のカソード材料は、様々な設計パラメータに従って変化し得るが、一般に金属酸化物または金属硫化物を含む。一例として、酸化鉄、二硫化鉄または二硫化コバルトをカソード材料としてしばしば用いる。
【0009】
代表的な熱電池は、実質的にモノリシックなカソード材料であるものを使用する。カソードはカソード活物質以外の構成材、例えば浸液をもたらすための電解質や、電圧を制御するためのリチウム化添加剤(即ち、リチウム塩以外のリチウム化合物)を含有することができる一方、従来は金属酸化物(例えばFeO)または金属硫化物(例えばCoSまたはFeS)のような活物質しかない。別の硫化物の添加剤を組み込んで改善された性能を付与する研究がいくつか行われており、例えば米国特許第3,992,222号においてウァルシュらは、FeSのカソードに改善された性能をもたらすための添加剤として第二の硫化物を組み込むことを検討した。しかしながら、検討した硫化物は、二硫化チタン、硫化ニッケルまたは硫化セリウムのような単一の金属硫化物に限定されていた。
【0010】
従って、導電性、電圧および寿命の改善をもたらす添加剤を含有するカソード材料に対する継続的必要性がある。また、かかるカソード材料が組み込み、かかる改善された性能を示す熱電池に対する継続的必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、熱電池用の改善されたカソード材料およびかかる材料を含む電池を提供する。本発明に係るカソードおよびかかるカソードを含有する電池は、一般に従来のカソードおよび電池と比較して導電性が高く、電圧が増加し、および/または寿命が長いことを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様において、熱電池用のカソード材料は、金属硫化物および金属酸化物の少なくとも一つを含有する。また、かかるカソード材料はバイメタルの硫化物を含有する。
【0013】
本発明の別の態様において、電池はアノード材料、カソード材料及び電解質材料を具える。カソード材料は、金属硫化物および金属酸化物の少なくとも一つを含有する。また、かかるカソード材料はバイメタルの硫化物を含有する。
【0014】
本発明の上記態様に関して言及した特徴の様々な改良点が存在する。また、さらなる特徴を本発明の上記態様に組み込んでもよい。これらの改良点および追加の特徴は、単独または任意に組み合わせで存在し得る。例えば、本発明で開示したあらゆる実施形態に関して下記で論述する様々な特徴を、単独または任意に組み合わせて本発明の上記態様に組み込んでもよい。
【0015】
本発明のより完全な理解は、図面に関連して考慮しつつ、詳細な説明および請求の範囲を参照することにより得ることができ、ここで同一の参照番号は図面中における同一の構成要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の様々な実施形態に係る電気化学装置を示す。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る熱電池セルの電圧出力図および従来のセルの出力図を示す。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る熱電池セルおよび従来のセルのインピーダンス出力を示す。
【図4】本発明の第二の実施形態に係る熱電池セルおよび従来のセルの電圧出力を示す。
【図5】本発明の第二の実施形態に係る熱電池セルおよび従来のセルのインピーダンス出力を示す。
【図6】本発明の第三の実施形態に従って作製した熱電池セルおよび従来のセルの電圧出力を示す。
【図7】本発明の第三の実施形態に係る熱電池セルおよび従来のセルのインピーダンス出力を示す。
【0017】
対応する参照文字は、図面中の対応部分を示す。図面中の構成要素は簡単かつ明確化のために示され、必ずしも縮尺通りに描かれていないことに留意すべきである。例えば、本発明の実施形態の理解の改善を促すため、図面におけるいくつかの構成要素の寸法を他の要素に比べて大きく示していることがある。
【0018】
本発明は、一般に改善された熱電池のカソード製剤およびかかるカソード材料を含む電池に関する。図1は、本発明の熱電池での使用に適した典型的な構造を有する熱電池100を示す。熱電池は、アノード102、電解質−セパレータ(電解質)104およびカソード106を具える。本発明によれば、カソード材料はバイメタルの硫化物添加剤を含むことができる。以下に詳細に記載するように、バイメタルの硫化物添加剤をカソード材料(例えばFeO、FeSまたはCoS)に加えると、改善されたセル性能をもたらす。
【0019】
本明細書で使用する「電気化学装置」は、ここでは電池(またいくつかの実施形態においては「熱電池」)、キャパシタ、セル、電気化学セル等を指すものとすることができる。これら呼称は限定されず、電極と電解質との間で電子移動を伴うあらゆる装置が本発明の範囲内であると理解すべきである。さらに、電気化学装置は、エネルギーを電気機器に供給し得る単一または多重接続の電気化学装置、電気化学セル、電池またはキャパシタを指すこともあり、本明細書における任意特定の装置への言及が決して本発明を限定するものと考えるべきではない。
【0020】
本発明の様々な実施形態によれば、粉末を機械的プレス操作またはテープキャスティングのような他の粉体取扱手段により固めてペレット(即ちウエハー)を作ることにより、熱電池用のカソード材料を作製する。その後、ペレットを電池が活性化される際に電圧及び電流をもたらすのに望ましい配列にスタックする。
【0021】
カソードの主要活物質は、FeOのような金属酸化物、若しくはFeS、CoSのような金属硫化物、またはその混合物である。この点において、金属酸化物及び金属硫化物の組み合わせを限定することなく任意の相対比率で用いてもよいことに留意すべきである。
【0022】
本発明によれば、主要活物質を第二の活物質、典型的にはCuFeSのようなバイメタルの硫化物と組み合わせて、カソードを含む電池の導電性を高め、電圧を増加させ、および/または寿命を延ばしてもよい。バイメタルの硫化物材料(例えばCuFeS)の源は天然鉱物学的な源(例えば黄銅鉱)とするか、またはバイメタルの硫化物材料を当業者に既知の任意の方法により合成的に製造してもよい。カソード材料はまた、電池電圧を調節ためにある量のLiOのようなリチウム(例えば、少なくとも約1重量%または約1重量%〜約5重量%のLiO)を含有することができる。
【0023】
カソード材料の組成は、所望のセル用途により変化し得る。カソード材料の典型的で限定されない組成を以下に示す。
【表1】

【0024】
この点、様々な例示的な実施形態において、より一般的には、カソード材料が第一の金属化合物(例えばFeO、FeSまたはCoS)を少なくとも約46重量%、少なくとも約50重量%、少なくとも約55重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約65重量%、少なくとも約70重量%、または実に少なくとも約75%と;バイメタルの硫化物(例えばCuFeS)を少なくとも約2重量%、少なくとも約5重量%、少なくとも約8重量%、または実に少なくとも約11重量%と;電解質材料を少なくとも約20重量%、少なくとも約24重量%、少なくとも約28重量%、少なくとも約32重量%、または実に少なくとも約36重量%と;任意にリチウム化添加剤を少なくとも約1重量%、または少なくとも約3重量%とを含有し得ることに留意すべきである。これらまたは他の例示的な実施形態において、カソード材料が第一の金属化合物をせいぜい約80重量%と、バイメタルの硫化物をせいぜい約14重量%と、電解質材料をせいぜい約40重量%と、存在する場合にリチウム化添加剤をせいぜい5重量%と含有してもよい点にさらに留意すべきである。さらに、本明細書で詳述する一つ以上の実施形態において、列挙した構成材の濃度は、本発明の対象とする範囲から逸脱することなく、本明細書で述べた上限と下限の濃度(例えば、バイメタルの硫化物は約2重量%と約14重量%との間、または約5重量%と約14重量%との間である)の任意の組み合わせまたは順列により制限した範囲内としてもよいことに留意すべきである。
【0025】
さらにこの点において、本発明の熱電池のカソードが通常浸液電解質を含有するため、カソード材料の構成材を通常カソード活物質、電解質材料およびリチウム化添加剤(もしあれば)の総量のパーセンテージとして明細書中(例えば、上記の表1および後述の段落におけるように)に示すことに留意すべきである。さらにまたは或いは、いくつかの実施形態において、カソードは電解質材料を含有しない(アノードのみが浸液電解質を含有する)、および/またはリチウム化添加剤を含有しないことにも留意すべきである。例えば、上記表1のカソード材料が電解質又はリチウム化添加剤を含有しない場合、かかるカソード材料は、下記の例示的で限定されない組成を有することができる。
【表2】

【0026】
この点、電極材料が電解質又はリチウム化添加剤を含有しない例示的な実施形態において、より一般的には、カソード材料が第一の金属化合物を少なくとも約76重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約85重量%、少なくとも約90重量%、または少なくとも約95%含有することができる。これらおよび他の実施形態において、カソード材料はバイメタルの硫化物を少なくとも約2重量%、少なくとも約5重量%、少なくとも約10重量%、少なくとも約15重量%、または実に少なくとも約20重量%含有することができる。これらおよび他の例示的な実施形態において、カソード材料が約98重量%以下の第一の金属化合物を含有し、また約24重量%以下のバイメタルの硫化物を含有し得ることにさらに留意すべきである。上述の通り、列挙した成分の濃度は、限定されることなく、本明細書で述べた上限と下限の濃度の任意の組み合わせまたは順列により囲まれた範囲内としてもよい。
【0027】
従って、カソード材料が電解質材料又はリチウム化添加剤を含有しないこれらまたは他の実施形態において、カソード材料は列挙した成分(例えば、第一の金属化合物およびバイメタルの硫化物)からなるか、或いはまた本質的にこれら成分(即ち、他の成分を含んでもよいが、電解質材料、リチウム化添加剤およびその他全てのカソード活物質は除外される)からなってもよい。さらに、先に詳述したカソード材料が第一の金属化合物、バイメタルの硫化物、電解質材料および任意にリチウム化添加剤を含む実施形態においては、カソード材料はこれら化合物からなるか、或いは本質的にこれら化合物からなってもよい(例えば、第一の金属化合物およびバイメタルの硫化物以外のカソード活物質は除外される)。
【0028】
カソードを浸液させるのに適し、セルの寿命を延ばすことのできる電解質は、塩、例えば塩化カリウム(KCl)および塩化リチウム(LiCl)の共融混合物をMgOのような結合剤材料と混合し、かかる塩を液相温度以上の温度(例えば、少なくとも約500℃または実に少なくとも約650℃)で溶融することにより調製することができる。この溶融した塩−結合剤の混合物を粉砕し、篩にかけて粒径分布を限定する。一般に、電解質材料の粒径は重要ではないが、かかる粒径を当業者により理解されるような電池の設計に依存するよう代表的な電池製造操作と調和すべきである。例えば、テープキャスティング法は、一般にペレットプレス法よりも小さい粒子を用いる。ペレットプレス法を用いて電解質材料を作製する場合(例えば電解質材料を用いてカソードまたはアノードを浸液させる場合)、電解質の粒子は、ダイスを適当に充填できる程度に十分に小さいが、それでもポンチとダイスとの間の隙間に入り込まない程度に十分に大きいものとなるように篩にかけるべきである。テープキャスティング法では、粒子は薄いテープをキャスティングを可能にするに十分小さくすべきである。適切な粒径の範囲は、当業者によって容易に決定することができる。
【0029】
塩の出発材料は、粉末状でも粒状であってもよく、一定量の吸収水分(もしあれば)を除去するに十分な温度で乾燥するのが好ましい。水分は、経済的に実施可能なだけ多く、また選択した製造プロセス上実施可能なだけ多く除去することができる。一般に、水分量は容認できない量のアノード材料の酸化を引き起こさないレベルまで除去すべきである。本発明のいくつかの実施形態において、電解質の塩材料を例えば約100℃から約400℃の温度にまで加熱して、該材料から水分を除去することができる。
【0030】
所要に応じて、酸化リチウム(LiO)のようなリチウム化添加剤を電解質材料に加えてセルのピーク電圧を制限することにより電圧の制御をもたらしてもよい。
【0031】
電池構成材の作製においては、構成成分(例えば電解質塩、第一の金属化合物およびバイメタルの硫化物)を上述の組成と一致した比率のような適切な比率で秤量し、混合して均質な粉末を得る。第一の金属化合物およびバイメタルの硫化物を電解質塩材料に直接加えるか、或いは第一の金属化合物と二金属硫化物を最初に合わせて混合し、その後電解質材料に加えて混合してもよい。物理的混合は、例えば手作業による塩のかき混ぜ、タービュラー・ブレンダーでの撹拌、容器のボールミル上での回転といった任意の機械的混合方法で行ってもよい。混合は、塩の総量および混合方法に応じて15分〜2時間行うことができる。
【0032】
浸液をもたらすための従来型の電解質と合わせて添加剤を用いたカソードの作製に加え、実質的に結合剤の無い電解質(即ち、実質的にMgOまたは他の結合剤を含有しない)を用いた追加的な製剤をカソード材料に混和して、バイメタルの硫化物(例えばCuFeS)の添加剤と合わせてカソードの追加的な性能改善を付与することができる。この実質的に結合剤の無い電解質を、熱電池に従来用いるKCl−LiClの共融電解質材料のような結合剤含有電解質の代わりとして用いてもよい。
【0033】
この点において、本明細書で使用する「結合剤のない」電解質材料(或いは、「実質的に結合剤の無い」電解質材料)は一般に、従来の結合剤(例えばMgO、ヒュームド・シリカ、またはカオリナイトのような粘度鉱物)を本質的に含有しない電解質を指す。例えば、様々な実施形態において、電解質材料は結合剤を約5重量%未満(電解質材料の全重量に基づき)、約3重量%未満、約1重量%未満若しくは約0.1重量%未満で含有するか、または結合剤が全くないことさえある。或いはまたはさらに、電解質材料構成材(例えば臭化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウム、および任意に臭化カリウム)の濃度の合計(電解質材料の全重量に基づき)が、少なくとも約95重量%、少なくとも約96重量%、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%若しくは少なくとも約99重量%となることがあり、または約100重量%となることさえある。従って、これらのまたは別の実施形態において、電解質材料は先に列挙した成分(電解質材料が、例えば、本質的に三種の成分の三成分混合物または本質的に四種の成分の四成分混合物である)からなるか、或いは本質的になってもよい。
【0034】
0 本発明の様々な実施形態によれば、様々な例示的な結合剤の無い電解質材料は、臭化リチウム(LiBr)、塩化リチウム(LiCl)、フッ化リチウム(LiF)および任意にフッ化カリウム(KBr)の混合塩を含む。この三種または四種の塩の比率は、好適な実施形態では、以下に示す範囲となる。
【表3】

【0035】
この点、様々な例示的な実施形態において、より一般的には、電解質材料が臭化リチウムを少なくとも約25重量%、少なくとも約30重量%、少なくとも約35重量%、または実に少なくとも約40%と;塩化リチウムを少なくとも約4重量%、少なくとも約6重量%、少なくとも約8重量%、少なくとも約10重量%、または実に少なくとも約12重量%と;フッ化リチウムを少なくとも約42重量%、少なくとも約45重量%、少なくとも約50重量%、少なくとも約55重量%、または実に少なくとも約60重量%と;任意に臭化カリウムを少なくとも約1重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約4重量%、少なくとも約8重量%、または実に少なくとも約10重量%とを含有することがある点に留意すべきである。これらのまたは他の例示的な実施形態において、電解質材料が約41重量%以下の臭化リチウムと、約14重量%以下の塩化リチウムと、約64重量%以下のフッ化リチウムと、存在する場合には約12重量%以下の臭化カリウムとを含有してもよい点にさらに留意すべきである。最後に、本明細書で詳述する一つ以上の実施形態において、列挙した成分の濃度は、本発明の対象とする範囲から逸脱することなく、本明細書で述べた上限と下限の濃度(例えば、臭化リチウムは約25重量%と約41重量%との間、または約30重量%と約41重量%との間である)の任意の組み合わせまたは順列により囲まれた範囲内としてもよいことに留意すべきである。
【0036】
カソード用のカソード材料の作製においては、金属硫化物および/または金属酸化物並びにバイメタルの硫化物を、水および酸洗浄技術並びに磁気遮蔽を用いて精製(必要であれば)して不純物を除去してもよく、また必要に応じて篩にかけ、粒径をある特定の範囲に限定してもよい。電解質塩に関して上述した通り、カソード材料の粒径を使用するセルの製造方法(例えば、テープキャスティングまたはペレット圧縮)と調和するように選択すべきであり、また容認できないほどのセルの酸化を引き起こさない水分レベルが達成されるまで水分を除去すべきである。カソード材料の作製に粉末プレスを用いる場合、混合した粉末を秤量し、ダイスに導入し、機械的一軸加圧プロセスを用いて固める。後述の実施例にあるデータは、プレスした粉末ペレットを用いて試験した材料に関するものであるが、テープキャスティングまたは他の圧密方法のような手段による熱電池用の構成材を作製するのにこの材料を適用することも可能である。
【0037】
プレスした構成材をペレットに固めると、アノード102、電解質−セパレータ104およびカソード106、さらには特定の電池設計に適用し得る際の熱源ペレット108を含む様々な構成材をスタックに組み立てることにより熱電池を作製することができる。各一つずつのアノード102、電解質−セパレータ104およびカソード106の組立体は、単一セルを構成する。複数のセルを直列にスタックして熱電池を作製することができる。この点において、図1に示す以外の電池設計を本発明の範囲から逸脱することなく用いてもよいことを理解すべきである。
【実施例】
【0038】
以下の実施例は、単一セル試験の比較データによる新しいカソード製剤の有用性を示す。以下に説明する限定されない実施例は、本発明の特定の例示的な実施形態における様々な態様を反映したものである。組成物、方法およびそれに反映した様々なパラメータは、本発明の様々な態様および実施形態を例証することだけを目的としており、本発明の請求した範囲を限定するものではない。
【0039】
図1は、熱電池のスタック配列を示し、電池の活性化により電解質を溶融するのに用いる熱ペレット108を含む。この配列を、熱ペレット108なしで、以下の実施例で述べる単一セル試験に用いた。
【0040】
実施例1:CuFeSの有無による非リチウム化FeSを有するセルの電圧出力およびインピーダンス
図2は、5アンペアのパルスを有する1アンペアのベース負荷を60秒ごとに1秒間与えることを適用して500℃で試験した2つの単一熱電池セルの電圧出力を示す。第一の単一セルは、KCl−LiClの共融電解質で浸液させたリチウム−ケイ素合金のアノードと、MgOで結合したLiBr−LiCl−LiFの電解質−セパレータと、残り30重量%のカソードペレットになるようMgO−結合のKCl−LiClの共融電解質で浸液させた主としてFeS(約63重量%)およびCuFeSの合成添加剤(約7重量%)を含有するカソードとを具えた。第二の単一熱電池セルは、同一のアノードおよび電解質材料を具えるが、以後「標準カソード」と称する同一のMgO結合の電解質で浸液させたFeS(約70重量%)のみを含有するカソードを用いた。2つのセルの性能を示すため、電圧出力の重複を回避することにより標準カソードの電圧を修正した(各データ点を0.25ボルト差し引いた)。図3は、図2に示した試験による単一セルのインピーダンスを示す。図3において、白のシンボルは標準カソードを用いた単一セルについて示し、色つきのシンボルは本発明のFeS−CuFeSのカソード製剤を用いた単一セルについて示す。インピーダンスを、下式:
【数1】


を用いて算出し、ここでVベースはパルス印加前の1アンペアのベース負荷下の最終的な電圧データであり、Vパルスは5アンペアパルスの印加後の最初のデータ点であり、iベースおよびiパルスは、VベースおよびVパルスのデータ点を収集したときの対応する電流引き込みのデータ点である。図3に示すように、CuFeSの合成添加剤を混和し、他の全ての構成材(アノード、電解質−セパレータ)はそのまま保持すると、標準カソードと比較して性能が著しく改善される。
【0041】
実施例2:CuFeSの有無によるリチウム化FeSを有するセルの電圧出力およびインピーダンス
図4は、実施例1の標準カソードと実質的に同一であるが、リチウム化添加剤(酸化リチウム、LiO)を加え、「リチウム化標準カソード」の組成が約70重量%のFeS、約2重量%のLiO、約28重量%のMgO−結合のKCl−LiClの共融電解質であるカソードの電圧出力を示す。説明のため、リチウム化標準カソードの電圧を修正した(各データ点を0.25ボルト差し引いた)。図4はまた、実施例1に記載した同じアノードおよび電解質−セパレータペレット材料からなるが、FeS(約58重量%)と、天然素材のCuFeS(約10重量%)と、LiO(約2重量%)と、KBr、LiBr、LiClおよびLiFを含有する実質的に結合剤の無い電解質(約30重量%)とを含有するカソード製剤を用いた単一セルの電圧出力を示す。電解質材料中の各塩の量は、KBrが10.4重量%、LiBrが35.5重量%、LiClが6.4重量%、およびLiFが47.7重量%であった。
【0042】
図5は、図4の単一セルのインピーダンス出力を示す。白のシンボルはリチウム化標準カソードを用いた単一セルについてのデータを示し、色つきのシンボルは新しいカソード製剤について示す。添加剤が天然素材又は合成のCuFeSであるかに関わらず、種々の電解質およびリチウム化添加剤(その欠落を含む)を新しいカソードの添加剤とともに用いてもよい。
【0043】
図4から明らかなように、新しいリチウム化セルの電圧は、標準カソードに比べて維持され、試験のかなり後になるまで「ロールオフ」しない。図5から分かるように、新しいセルは、標準のセルに比べ、試験全体にわたってインピーダンスがより低い。
【0044】
実施例3:CuFeSの有無によるCoSカソードを有するセルの電圧出力およびインピーダンス
実施例1の試験をCoS系のカソードを用いて繰り返した。一つのカソードは、CoS(約56重量%)を残り30重量%のカソードペレットになるようMgO−結合のKCl−LiClの共融電解質で浸液させたCuFeSの合成添加剤(約14重量%)と共に含有した。別のカソードは、MgO−結合の電解質(30重量%)で浸液させたCoS(70重量%)のみを含有した。
【0045】
図6は二つのセルの電圧出力(どちらも補正していない)を示し、図7はかかる単一セルのインピーダンスを示す。白のシンボルは標準カソードを用いた単一セルについてのデータを示し、色つきのシンボルは新しいCoS−CuFeSのカソード製剤について示す。図6および図7から分かるように、CuFeS添加剤を含有するカソードは、優れた電圧およびインピーダンス特性を示した。
【0046】
本発明の様々な原則を例示的な実施形態に記載した。しかしながら、本発明の実践に用いる上述した製剤、比率、構成要素、材料および構成材の多くの組み合わせおよび変更を、それらの原則から逸脱することなく様々に行ってもよく、特定の環境および作業要件に特に適応させてもよい。本発明の他のバリエーションおよび変更については当業者にとって明らかであり、かかるバリエーションおよび変更は本発明の範囲内であることを意図している。
【0047】
さらに、本明細書の様々な実施形態の記述は、添付図面を参照してなされたもので、例示目的であって限定されない実施例を示す。これら実施形態は当業者が本発明を実施できるよう十分詳細に記載しているが、当然のことながら他の実施形態を実現することができ、また本発明の精神と範囲から逸脱することなく論理上および機械上の変更を行うこともできる。従って、本明細書の発明は説明のみの目的のものであり、限定されるものではない。例えば、何れの方法または処理の説明において列挙した工程は任意の順序で遂行すねことができ、提示する順序に限定されるものではない。さらに、何れの機能または工程も、一以上の第三者に外注してもよく、またはかかる者が実施してもよい。なお、単数の表現は何れも複数の実施形態を含み、および一つ以上の構成材の表現は何れも単数の実施形態を含むことがある。
【0048】
本明細書では、利益、他の利点、および問題解決策を、特定の実施形態について記載している。しかしながら、かかる利益、利点、問題解決策および何れの利益、利点または解決法を生じさせ、またはより顕著にし得るあらゆる構成要素は、本発明の重大な、必要な、または不可欠な特徴若しくは要素として解釈されるものではない。従って、本発明の範囲は、本願の利益を主張する願書であって、ある単数の要素の表現が、特に明記がない限り「唯一の」ではなく「1つまたはそれ以上」を意味することを意図している願書に含まれる特許請求の範囲以外には限定されない。さらに、特許請求の範囲において「A、BおよびCのうちの少なくとも1つ」と同様の表現を用いているところでは、かかる表現は、ある実施形態においてはAが単独で存在することがあり、ある実施形態においてはBが単独で存在することがあり、ある実施形態においてはCが単独で存在することがあり、または一実施形態においては要素A、BおよびCのうちの任意の組み合わせが存在することがある(例えば、AとB、AとC、BとC、またはAとBとC等)ことを意味すると解釈されるべきであるという意図がある。特定の実施形態を一方法として記載したが、かかる方法を、磁気メモリ若しくは光メモリまたは磁気ディスク若しくは光ディスク等のコンピューターが読み取れる有形のキャリアおよび/またはメディアに関するコンピュータープログラム命令として具現化することができると考える。先述の実施形態の構成要素と構造的、化学的および機能的に同等なものは全て、本発明の範囲内であると考える。
【0049】
本発明の構成要素またはその好適な実施形態を導入する際に、「ある」、「かかる」、「該」および「前記」という冠詞には、1つ以上の要素があることを意味するような意図がある。「含む」、「含有する」および「有する」という用語には、包括的で、記載された要素以外にも追加的な要素があり得ることを意味するような意図がある。
【0050】
上記装置および方法における様々な変更を本発明の範囲から逸脱することなく行うことができたように、上記の説明に含まれ、また添付図面に示される全ての事項は一例として解釈されるものとし、限定された意味ではないことを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属硫化物および金属酸化物のうちの少なくとも一つと、
バイメタルの硫化物と
を含む熱電池用のカソード材料。
【請求項2】
FeS、CoSおよびそれらの混合物からなる群より選択される金属硫化物を含む請求項1に記載のカソード材料。
【請求項3】
前記バイメタルの硫化物がCuFeSである請求項1または2に記載のカソード材料。
【請求項4】
特定量の電解質材料を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のカソード材料。
【請求項5】
少なくとも約46重量%のFeS、CoSおよびそれらの混合物からなる群より選択した金属硫化物と、
少なくとも約2重量%のCuFeS
を含む請求項4に記載のカソード材料。
【請求項6】
約80重量%以下のFeS、CoSおよびそれらの混合物からなる群より選択した金属硫化物と、
約14重量%以下のCuFeS
を含む請求項5に記載のカソード材料。
【請求項7】
少なくとも約6重量%のCuFeSを含む請求項5または6に記載のカソード材料。
【請求項8】
少なくとも約25重量%の臭化リチウムと、
少なくとも約4重量%の塩化リチウムと、
少なくとも約42重量%のフッ化リチウムと、
少なくとも約1%の臭化カリウムと
を含む請求項4〜7のいずれか一項に記載のカソード材料。
【請求項9】
少なくとも約76重量%のFeS、CoSおよびそれらの混合物からなる群より選択した金属硫化物と、
少なくとも約2重量%のCuFeS
を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のカソード材料。
【請求項10】
少なくとも約9重量%のCuFeSを含む請求項9に記載のカソード材料。
【請求項11】
前記CuFeSは合成物質であるか、または黄銅鉱から得られる請求項1〜10のいずれか一項に記載のカソード材料。
【請求項12】
少なくとも約1重量%のLiOを含む請求項1〜11のいずれか一項に記載のカソード材料。
【請求項13】
アノード材料と、カソード材料と、電解質材料とを含む電池であって、前記カソード材料が金属硫化物および金属酸化物のうちの少なくとも一つと、バイメタルの硫化物とを含む電池。
【請求項14】
前記カソード材料が、FeS、CoSおよびそれらの混合物からなる群より選択した金属硫化物を含む請求項13に記載の電池。
【請求項15】
前記バイメタルの硫化物が、CuFeSである請求項13または14に記載の電池。
【請求項16】
前記カソード材料が、特定量の電解質材料を含む請求項13〜15のいずれか一項に記載の電池。
【請求項17】
前記カソード材料が、少なくとも約46重量%のFeS、CoSおよびそれらの混合物からなる群より選択した金属硫化物と、少なくとも約2重量%のCuFeSとを含む請求項16に記載の電池。
【請求項18】
前記カソード材料が、約80重量%以下のFeS、CoSおよびそれらの混合物からなる群より選択した金属硫化物と、約14重量%以下のCuFeSとを含む請求項17に記載の電池。
【請求項19】
前記カソード材料が、少なくとも約6重量%のCuFeSを含む請求項17または18に記載の電池。
【請求項20】
前記CuFeSは合成物質であるか、または黄銅鉱から得られる請求項13〜19のいずれか一項に記載の電池。
【請求項21】
前記電解質材料が、
少なくとも約25重量%の臭化リチウムと、
少なくとも約4重量%の塩化リチウムと、
少なくとも約42重量%のフッ化リチウムと、
少なくとも約1%の臭化カリウムと
を含む請求項13〜20のいずれか一項に記載の電池。
【請求項22】
前記電解質材料は、実質的に結合剤が無い請求項21に記載の電池。
【請求項23】
前記電解質材料は、実質的にMgOが無い請求項21または22に記載の電池。
【請求項24】
前記臭化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウムおよび臭化カリウムが共融混合物を形成する請求項21〜23のいずれか一項に記載の電池。
【請求項25】
前記電解質材料が、
約41重量%以下の臭化リチウムと、
約14重量%以下の塩化リチウムと、
約64重量%以下のフッ化リチウムと、
約12重量%以下の臭化カリウムと
を含む請求項21〜23のいずれか一項に記載の電池。
【請求項26】
前記カソード材料が、少なくとも1重量%のLiOを含む請求項13〜25のいずれか一項に記載の電池。
【請求項27】
熱電池であり、また火工材料を含む請求項13〜26のいずれか一項に記載の電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2012−523100(P2012−523100A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504752(P2012−504752)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/029984
【国際公開番号】WO2010/117956
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(510238959)イーグルピッチャー テクノロジーズ,エルエルシー (14)
【Fターム(参考)】