説明

熱風炉蓄熱室の部分改修工事方法

【課題】熱風炉蓄熱室の部分改修工事の期間を短縮し、かつ省力化が可能な、熱風炉蓄熱室の部分改修工事方法を提供する。
【解決手段】熱風炉蓄熱室3の一部分の煉瓦を改修するにあたり、改修部2bの煉瓦を解体する前に、蓄熱室のギッター煉瓦のカナール孔に、好ましくは下側から不定形材注入用のノズル11を挿入し、該ノズルを介して、発泡性不定形材を注入し発泡させて、改修される蓄熱室の最下段ギッター煉瓦2bfのカナール孔20を閉塞する。これにより、ギッター煉瓦解体時に発生する煉瓦屑が非改修部2aのカナール孔に落下し孔を閉塞することを確実に防止できる。使用する発泡性不定形材としては、硬質ウレタンフォームとすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱風炉蓄熱室の部分改修工事方法に係り、とくに残存させるギッター煉瓦のカナール孔の保護に関する。
【背景技術】
【0002】
熱風炉蓄熱室の改修工事では、従来、蓄熱室の煉瓦全体を解体し、煉瓦全体を煉瓦積みしなおす工事が一般的に行われていた。しかし、近年、煉瓦の再利用技術の向上により、損傷の激しい、すなわち蓄熱室中段以上または上段を改修する、図4に示すような、部分改修工事が一般的になっている。
熱風炉蓄熱室の部分改修工事では、改修時に上部の煉瓦屑が、残存させる下部の、非改修部ギッター煉瓦2aのカナール孔に入り、該カナール孔を閉塞させることがある。熱風炉蓄熱室の熱交換能は、ギッター煉瓦のカナール孔の開孔率によって決定されるため、カナール孔の閉塞は、蓄熱室の熱交換能の低下を招くことになる。そのため、熱風炉蓄熱室の部分改修工事では、煉瓦を残存させる非改修部のギッター煉瓦2aのカナール孔の保護が重要となる。
【0003】
そこで、従来は、ギッター煉瓦の上端面2ba1に、保護板を設置して、上部側煉瓦4を解体し、改修に際し上部で発生する煉瓦屑を保護板上に集め、上部側煉瓦の解体終了後、その保護板上に集まった煉瓦屑を除去し、ついでギッター煉瓦2baを解体し取り除くという工程を、下部の非改修部のギッター煉瓦2aの上端面2a1まで繰り返す、部分改修工事方法が採用されていた。しかし、この工事方法では、上部側煉瓦の解体に際し発生する煉瓦屑は除去できても、ギッター煉瓦2ba、2bb、…、2bf自体の解体に際し発生する煉瓦屑の下部への落下を防止することはできないため、ギッター煉瓦2ba、2bb、…、2bf解体時に発生した煉瓦屑が、下部の非改修部ギッター煉瓦2aのカナール孔に落下し該カナール孔を閉塞させるという問題が頻発した。このため、改修範囲の解体工事終了後に、さらにカナール孔の開孔工事を行う必要があった。カナール孔の開孔工事は、カナール孔数が多いこともあり、多大の時間と労力を必要とした。
【0004】
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、図3に示すように、予め、熱風炉蓄熱室のギッター煉瓦2b最上段から、弾力性があり自在に変形する、ゴム、スポンジ、コンデンサー等製の栓30を分銅31等の重しとともに、ワイヤー32等で下降させ、改修部最下段のギッター煉瓦2bfのカナール孔20に、嵌入し、分銅等の重しをワイヤーで回収する、熱風炉蓄熱室部分改修工事方法が開示されている。33はストッパーである。
【0005】
特許文献1に記載された技術によれば、従来に比べて改修工事期間を短縮できるうえ、非改修部ギッター煉瓦のカナール孔の閉塞による熱交換能の低下を防止できるとしている。
【特許文献1】特許第3276978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術では、熱風炉蓄熱室煉瓦の解体前に予め、弾力性があり自在に変形する栓をギッター煉瓦の最上段から、分銅等の重しとともにワイヤー等で、カナール孔内を下降させ、改修部の最下段ギッター煉瓦の下端面に嵌入する必要がある。しかし、最近では、改修部分が多くなり、蓄熱室ギッター煉瓦の最上段から改修部ギッター煉瓦の下端面までの距離が長くなり、栓をワイヤー等で、カナール孔内を下降させ、改修部の最下段ギッター煉瓦の下端面に嵌入する作業が困難となる場合が多くなっていた。というのは、改修すべき熱風炉蓄熱室ギッター煉瓦のカナール孔は、使用時の熱応力等により煉瓦のずれが生じ、必ずしも真直ぐのままであるとは限らないうえ、途中で閉塞が生じている場合もある。このため、栓をワイヤー等で、カナール孔内を下降させ、所定の位置に停止させ、改修部ギッター煉瓦のカナール孔を封止する作業は、成功率が低下し、煉瓦解体後の閉塞したカナール孔の開孔工事に多大の時間と労力を必要とするという問題が生じていた。
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題に鑑みて、熱風炉蓄熱室の部分改修工事の期間を短縮し、かつ省力化が可能な、熱風炉蓄熱室の部分改修工事方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、熱風炉蓄熱室の部分改修工事において、非改修部ギッター煉瓦のカナール孔の閉塞防止を簡便にしかも確実に行える方策について、鋭意研究した。その結果、改修部最下段ギッター煉瓦のカナール孔に発泡性不定形材を注入し、発泡させてカナール孔を閉塞することが、作業上簡便で、しかも非改修部ギッター煉瓦のカナール孔の閉塞を効率的に防止することができることに想到した。改修部最下段ギッター煉瓦のカナール孔の所定位置に、発泡剤を配合した発泡性不定形材を注入し、配合された発泡剤により不定形材を発泡させることにより、カナール孔を確実に封止でき、改修時の煉瓦屑の落下による非改修部ギッター煉瓦のカナール孔の閉塞を容易にしかも確実に防止できることを知見した。また、発泡性不定形材の注入作業は、蓄熱室の下部側から行うことが作業効率の観点から好ましいという知見も得た。
【0009】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)熱風炉の蓄熱室の一部分を改修する部分改修工事方法であって、改修される前記蓄熱室の一部分の煉瓦を解体する前に、該蓄熱室のギッター煉瓦のカナール孔に、不定形材注入用のノズルを挿入し、該ノズルを介し発泡性不定形材を注入し発泡させて、前記改修される蓄熱室の一部分における最下段ギッター煉瓦のカナール孔を閉塞することを特徴とする熱風炉蓄熱室の部分改修工事方法。
【0010】
(2)(1)において、前記発泡性不定形材が、硬質ウレタンフォームであることを特徴とする熱風炉蓄熱室の部分改修工事方法。
(3)(1)または(2)において、前記ノズルの挿入を、蓄熱室の下部から行うことを特徴とする熱風炉蓄熱室の部分改修工事方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱風炉蓄熱室の部分改修工事に際し、非改修部ギッター煉瓦のカナール孔の閉塞を容易に、しかも確実に防止できるため、工事期間の短縮および工事の省力化が達成でき、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、図1に示すように、熱風炉の蓄熱室3の一部分を改修する部分改修工事方法である。本発明では、改修される蓄熱室の一部分、すなわち改修部の煉瓦を解体する前に、予め、改修部の最下段ギッター煉瓦2bfのカナール孔20を閉塞しておく。改修部最下段ギッター煉瓦2bfのカナール孔20を予め閉塞するために、本発明では、発泡性不定形材1を用いる。
【0013】
本発明で発泡性不定形材を用いる理由は、発泡性不定形材であれば、カナール孔の所定の位置までは容易に送給でき、しかもカナール孔20の所望の位置に注入、発泡させることにより、体積を急激に増加させ固化させることができ、カナール孔20の内壁との間を、容易に、しかも隙間なく確実に閉塞することができるからである。
本発明で使用する発泡性不定形材1としては、発泡剤を配合され、送給可能な流動性を有するとともに、カナール孔に注入され発泡したのち、カナール孔内壁との間を隙間なく容易に充満して、固化するものであれば、その種類はとくに限定されない。なお、不定形材が、送給可能な流動性を有し、固化した後も高温に再加熱されれば溶融する、例えば、熱可塑性樹脂、プラスチック発泡体等とすることが好ましい。このような材料であれば、誤って非改修部のカナ−ル孔中に噴出された場合でも、高温に加熱されれば、溶融しカナ−ル孔の完全閉塞という問題は生じない。また、安価であるという経済的な観点から、不定形材は汎用の熱可塑性樹脂である、ポリウレタン樹脂、あるいは硬質ウレタンフォーム(プラスチック発泡体として利用)とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0014】
本発明では、上記した発泡性不定形材1を、ノズル11を介し、改修部最下段ギッター煉瓦2bfのカナール孔20の、所定の位置に注入し、発泡させ、固化させる。なお、所定の位置としては、改修部最下段ギッター煉瓦2bfの下端面2bf2近傍とすることが好ましい。この発泡性不定形材1の注入は、改修部最下段ギッター煉瓦2bfのカナール孔20の全てについて、行うことは言うまでもない。
【0015】
発泡性不定形材1のカナ−ル孔への注入は、不定形材注入装置10を用いて行われる。不定形材注入用装置10の構成は、発泡性不定形材を所定の位置で噴出させることができればよく、とくに限定されないが、例えば、図1(b)に示すように、混練槽14と、ポンプP13と、フレキシブルパイプ(フレキシブル導管)12と、注入ノズル11とから構成される。混練槽14では、発泡性不定形材を混練し、混練され供給可能とされた発泡性不定形材は、ポンプP13でフレキシブルパイプ(フレキシブル導管)12に送り出され、さらに改修部最下段ギッター煉瓦2bfのカナール孔20の所定の位置まで送給されて、注入ノズル11から、カナール孔20に注入され、発泡させられる。
【0016】
また、図1(c)に示すように、ボンベ15に充填された発泡性不定形材(液)をアタッチメント16を介して、フレキシブルパイプ12、注入ノズル11へボンベ圧で送給し、注入ノズル11からカナール孔20に注入されるようにしてもよい。なお、発泡性不定形材の注入量は、解体煉瓦屑が落下しても、不定形材が破損しカナール孔の閉塞が破れない程度の厚さとすることが好ましい。また、ノズル11、フレキシブルパイプ(フレキシブル導管)12は、熱風炉蓄熱室ギッター煉瓦のカナ−ル孔20を、所定の位置まで通過可能である、大きさ、長さ、可撓性を有していることが必要となる。
【0017】
また、発泡性不定形材を所定の位置に注入し、発泡させるために、本発明で好適に使用する不定形材注入用装置10には、注入ノズル11を、注入ノズル11に接続されたフレキシブルパイプ(フレキシブル導管)12とともに、所定の位置に設定するための、ノズル位置計測手段、およびノズルの送給・停止手段、ノズルの送給・停止制御手段(図示せず)を備えていることが好ましいことは言うまでもない。
【0018】
本発明では、上記した、発泡性不定形材1の所定の位置への注入は、作業効率の観点から、蓄熱室3のギッター煉瓦の下部側から行うことが好ましい。というのは、最近では、改修部分が多くなり、蓄熱室ギッター煉瓦の最上段から改修部ギッター煉瓦の下端面までの距離が長くなり、しかも煉瓦のずれ等による、段差等の存在頻度が増大することから、ギッター煉瓦最上段からでは作業がやりにくく、注入ノズル11をカナール孔20の所定の位置に設置するために、多大の時間と労力を必要とするためである。
【実施例】
【0019】
図1(a)に示すように、蓄熱室下部のギッター煉瓦の一部分を非改修部とし、上部のギッター煉瓦2b、および上部側壁4を改修部として、煉瓦の解体を行う、部分改修工事を行った。煉瓦の解体を行う前に、改修部の最下段ギッター煉瓦2bfの下端面2bf2近傍のカナール孔20を、発泡性不定形材1を用いて閉塞した。使用した発泡性不定形材1は、硬質ウレタンフォームとした。硬質ウレタンフォームは、加熱・保温が不要で、施行現場での取扱いが容易で施行性に優れるという利点がある。
【0020】
図1(c)に模式的に示す不定形材注入用装置10を用いて、発泡性不定形材1(硬質ウレタンフォーム)を所定のカナール孔20内に注入した。ボリオール成分充填ボンベ15とポリイソシアネート成分充填ボンベ15を用い、ボンベ充填圧力を利用してアタッチメント(発泡機)16を介して、フレキシブルパイプ(フレキシブル導管)12、注入ノズル11へ、ボンベ圧で送給し、注入ノズル11からカナール孔20内に注入した。なお、注入ノズル11は、予め所定の位置である、改修部の最下段ギッター煉瓦2bfの下端面2bf2近傍のカナール孔20に挿入した。注入された発泡性不定形材は、発泡し、内壁との隙間を生じることなくカナール孔20内に充満し、固化した。なお、発泡性不定形材の注入量は、解体煉瓦屑が落下してきても、不定形材が破損しカナール孔の閉塞が破れない程度の厚さが確保できる量とした。
【0021】
上記した工程を、蓄熱室ギッター煉瓦のカナ−ル孔全部について行った。
この作業を完了したのち、改修部の煉瓦解体を行った。煉瓦解体後に、非改修部ギッター煉瓦のカナ−ル孔の閉塞は皆無であった。
なお、図3に示す方法による部分改修工事を従来例(基準)として、本発明になる部分改修工事の所要期間、作業の所要人数を比較すると、所要時間が従来例の1/2であり、作業人員は1/3であった。本発明の部分改修工事方法が、工事期間の短縮および工事の省力化に有効であることがわかる。
【0022】
なお、上記した方法に代えて、次のような方法(フロス注入法)でカナール孔の閉塞を行ってもよい。この方法は、ボンベ15に充填されたポリオール成分とポリイソシアネート成分をアタッチメント(発泡機)16で混合するに際し、第3成分として常温で気体になる発泡剤を添加し、シェービングクリーム状としてカナール孔に注入し発泡、固化させる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)本発明方法を模式的に示す断面図であり、(b)本発明方法で好適に使用できる不定形材注入装置の一例を模式的に示す説明図である。
【図2】ギッター煉瓦の概要を模式的に示す平面図である。
【図3】従来の方法を模式的に示す説明図である。
【図4】熱風炉蓄熱室の部分改修工事の概要を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 発泡性不定形材
2 ギッター煉瓦
2a 非改修部ギッター煉瓦
2b 改修部ギッター煉瓦
2ba1、2bb1 改修部ギッター煉瓦の上端面
2bf2 改修部ギッター煉瓦の最下端面
2ba、2bb、2bf 改修部ギッター煉瓦
3 蓄熱室
4 熱風炉ドーム
5 燃焼室
10 不定形材注入用装置
11 注入ノズル
12 フレキシブルパイプ(フレキシブル導管)
13 ポンプ
14 混練槽
15 ボンベ
16 アタッチメント
20 カナ−ル孔
30 栓
31 分銅
32 ワイヤー
33 ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱風炉の蓄熱室の一部分を改修する部分改修工事方法であって、改修される前記蓄熱室の一部分の煉瓦を解体する前に、該蓄熱室のギッター煉瓦のカナール孔に、不定形材注入用のノズルを挿入し、該ノズルを介し発泡性不定形材を注入し発泡させて、前記改修される蓄熱室の一部分における最下段ギッター煉瓦のカナール孔を閉塞することを特徴とする熱風炉蓄熱室の部分改修工事方法。
【請求項2】
前記発泡性不定形材が、硬質ウレタンフォームであることを特徴とする請求項1に記載の熱風炉蓄熱室の部分改修工事方法。
【請求項3】
前記ノズルの挿入を、蓄熱室の下部から行うことを特徴とする請求項1または2に記載の熱風炉蓄熱室の部分改修工事方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−202129(P2008−202129A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42295(P2007−42295)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】