説明

燃料集合体および超臨界圧原子炉

【課題】超臨界圧原子炉に装荷される燃料集合体の局所的な温度上昇を抑制する。
【解決手段】燃料集合体10は、複数の燃料棒12とスペーサ16とを有している。燃料棒12には、軸方向に延びる所定の燃料発熱部20にウランなどの核燃料物質が収められる。スペーサ16は、軸方向の複数の位置に設けられている。燃料集合体10には、スペーサ16が密に配置されたスペーサ稠密領域21と、スペーサ稠密領域よりも広い間隔でスペーサ16が配置された領域とが形成されている。スペーサ稠密領域21では、軸方向のスペーサ16の間隔が燃料棒12の間に形成された冷却水の通過領域の水力等価直径の40倍以下となるようにスペーサ16が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料集合体およびそれを用いた超臨界圧原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、冷却材として超臨界圧水を用いた超臨界圧軽水炉の開発が行われている。超臨界圧軽水炉は、高温高圧の超臨界圧水を冷却材とする原子炉である。
【0003】
超臨界圧軽水炉では、今までの軽水炉よりも200度以上高い温度領域で燃料集合体が使われる。このため、燃料集合体の健全性を保つために、局所的な温度上昇量の低減が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−294878号公報
【特許文献2】特開2007−139615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原子炉に装荷された燃料集合体中の局所的な温度上昇量の低減の方策としては、燃料集合体の形状の最適化、集合体形状にあわせた濃縮度分布の設定、および、原子炉における燃料集合体配置が重要である。たとえば、局所的な温度上昇量の低減方法として、燃料集合体内出力分布の平坦化に着目し、燃料集合体の外周部に水ロッドを配置する方法がある。また、濃縮度分布やH/U(水対ウラン比)の最適化、燃料棒径と燃料棒間隙の最適化を図る方法がある。しかし、これらを合わせた包括的な検討は、一部なされている程度に過ぎないのが現状である。
【0006】
そこで、本発明は、超臨界圧原子炉に装荷される燃料集合体の局所的な温度上昇を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明は、燃料集合体において、軸方向に延びる所定の燃料発熱部に核燃料物質を収めた複数の燃料棒と、前記燃料棒の軸方向の複数の位置に設けられたスペーサと、を備えて超臨界圧原子炉に装荷される燃料集合体において、前記燃料棒の軸方向の前記スペーサの間隔が前記燃料棒の間に形成された冷却水の通過領域の水力等価直径の40倍以下であるスペーサ稠密領域と、前記燃料棒の軸方向の前記スペーサの間隔が前記スペーサ稠密領域よりも大きい領域とが形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、超臨界圧原子炉において、原子炉容器と、軸方向に延びる所定の燃料発熱部に核燃料物質を収めた複数の燃料棒と隣り合う前記燃料棒の間の間隔を保持する前記燃料棒の軸方向の複数の位置に設けられたスペーサとを備えて前記燃料棒の軸方向の前記スペーサの間隔が前記燃料棒の間に形成された冷却水の通過領域の水力等価直径の40倍以下であるスペーサ稠密領域と前記燃料棒の軸方向の前記スペーサの間隔が前記スペーサ稠密領域よりも大きい領域とが形成された燃料集合体を前記原子炉容器の内部に配列した炉心と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超臨界圧原子炉に装荷される燃料集合体の局所的な温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る燃料集合体の一実施の形態の一部を切り欠いた側面図である。
【図2】図1のII−II矢視断面図である。
【図3】本発明に係る燃料集合体の一実施の形態を装荷した超臨界圧原子炉の横断面図である。
【図4】スペーサ出口からの距離と燃料棒から冷却水への熱伝達率との関係を示すグラフである。
【図5】スペーサ配置間隔とMCST(最高被覆管表面温度:Maximum Cladding Surface Temperature)低下量との関係を示すグラフである。
【図6】スペーサ稠密領域下端の軸方向位置とMCST低下量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る燃料集合体の一実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、この実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれに限定されない。
【0012】
図1は、本発明に係る燃料集合体の一実施の形態の一部を切り欠いた側面図である。図2は、図1のII−II矢視断面図である。
【0013】
本実施の形態の燃料集合体10は、複数の燃料棒12を有している。燃料棒12は、金属製の円管に核燃料物質を収めたものである。核燃料物質は、たとえばウランを焼結したペレット30の状態で燃料棒12に収められる。ペレット30に可燃性毒物を含有させてもよい。燃料棒12の両端は、端栓31で封じられる。
【0014】
複数の燃料棒12は、互いに平行に束ねられる。それぞれの燃料棒12は、たとえば16行16列の正方格子の格子位置に配置される。この16行16列の正方格子の中央には、8行8列の格子位置を占める角管状の水ロッド13が配置される。燃料棒12および水ロッド13は、角管状のチャンネルボックス11の内側の領域に配置される。
【0015】
燃料棒12および水ロッド13は、上部タイプレート14、下部タイプレート15で支持される。上部タイプレート14と下部タイプレート15との間には、複数のスペーサ16が配置される。スペーサ16は、燃料棒12相互の間および燃料棒12と水ロッド13との間を適切な間隔に保つ。
【0016】
燃料棒12の外径は、たとえば7mmである。隣り合う燃料棒12の中心間の距離、すなわち、燃料棒12のピッチは、たとえば8mmである。燃料棒12に核燃料物質が収められた領域、すなわち、燃料発熱部20の軸方向長さLは、たとえば4.2mである。スペーサ16の軸方向の高さは、たとえば3cmである。チャンネルボックス11の内幅は、たとえば13cmである。
【0017】
燃料集合体10の軸方向には、スペーサ16が他の部分よりも密に配置されたスペーサ稠密領域21が設けられている。スペーサ稠密領域21は、燃料発熱部20の下端から2.8mの位置から上方に向かって形成されている。スペーサ稠密領域21では、たとえば4個のスペーサ16がたとえば15cm間隔で配置されている。
【0018】
スペーサ稠密領域21よりも下方には、5個のスペーサ16が配置されている。スペーサ稠密領域21よりも上方には、たとえば1個のスペーサ16が配置されている。スペーサ稠密領域21以外の部分では、スペーサ16間の軸方向距離は、たとえば50cmである。
【0019】
図3は、本実施の形態の燃料集合体を装荷した超臨界圧原子炉の横断面図である。
【0020】
超臨界圧軽水炉は、原子炉圧力容器41を有している。原子炉圧力容器41は、たとえば両端が半球状に形成された円筒である。原子炉圧力容器41の内部には、円筒42が設けられている。燃料集合体10は、この円筒42の内部に装荷されて炉心40を形成する。
【0021】
超臨界圧軽水炉の炉心40は、複数の燃料集合体10をそれぞれの軸が平行で全体としてほぼ円柱状になるように、原子炉圧力容器内に配置したものである。燃料集合体間には、たとえば4体の燃料集合体10ごとに1本の制御棒が挿抜可能に設けられる。
【0022】
原子炉圧力容器41には、側面から冷却水が導入され、原子炉圧力容器41とその内部に設けられた円筒42との間を通って、炉心40の下部に流れ込む。炉心40に下部から流れ込んだ冷却水は、炉心40での発熱によって加熱される。加熱された冷却水は、原子炉圧力容器41の側面から排出される。原子炉圧力容器41から排出された冷却水は、発電タービンを駆動して発電させ、その後、再び原子炉圧力容器41に供給される。
【0023】
炉心40の入り口における冷却水の温度は、たとえば290℃である。炉心40の出口での冷却水の温度は、たとえば560℃である。原子炉圧力容器41の内部の圧力は、たとえば25MPaである。
【0024】
本実施の形態の燃料集合体10は、その健全性を決める指標であるMCST(最高被覆管表面温度:Maximum Cladding Surface Temperature)を低下させることができる。
【0025】
図4は、スペーサ出口からの距離と燃料棒から冷却水への熱伝達率との関係を示すグラフである。このグラフは、燃料棒の外径が7mmで、燃料棒の中心間の距離が8mmの燃料集合体についてのサブチャンネル解析コードを用いたシミュレーションの結果である。このシミュレーションでは、スペーサ16は、グリッドタイプであるとした。スペーサ出口とは、スペーサ16の上端のことである。横軸は、スペーサ出口からの距離を水力等価直径で規格化した値である。この水力等価直径とは、燃料棒12の間に形成された冷却水の通過領域についての値である。水力等価直径とは、冷却水の通過領域の断面積の4倍を、ぬれぶち長さすなわちその通過領域に接した燃料棒の外周の長さで除した値である。縦軸は、スペーサから無限に離れた位置での熱伝達率で規格化した値である。
【0026】
図4から燃料棒から冷却水への熱伝達率は、スペーサ16から下流側に離れるほど小さくなっている。これは、スペーサ16による冷却水の撹拌によって高まった燃料棒12からの除熱効果が、スペーサ16から離れることによって冷却水が整流されて小さくなっているためである。スペーサ16出口からの距離が水力等価直径の150倍程度の位置では、スペーサ16から無限に離れた位置での値とほぼ等しくなっている。
【0027】
したがって、スペーサ16の間隔を小さくするほど、MCSTを低下させることができる。超臨界圧軽水炉において、燃料棒表面の局所的な温度は、隣接する冷却材である超臨界圧水の平均温度に対し100℃程度高い。この上昇温度は、燃料棒から冷却水への熱伝達率に依存する。この熱伝達率が10%以上向上すれば、燃料棒表面の局所的な温度上昇を10℃以上下げることができる。熱伝達率を10%向上させるためには、あるスペーサ16の出口から次のスペーサ16の入口までの距離が、水力等価直径の40倍程度以下である必要がある。なお、燃料棒の外形が7mm、燃料棒の中心間の距離が8mm以外の場合であっても、水力直径とスペーサ16の大きさを比例させれば、同じ効果が得られる。
【0028】
図5は、スペーサ配置間隔とMCST低下量との関係を示すグラフである。このグラフは、燃料棒12の外径が7mmで、燃料棒12の中心間の距離が8mmの燃料集合体10についてのサブチャンネル解析コードを用いたシミュレーションの結果である。評価対象の燃料棒12は、燃料集合体10の内周位置で、かつ、水ロッド13に隣接しないものである。MCST低下量とは、スペーサ16の軸方向間隔が50cmである燃料集合体の場合のMCSTに対する低下量である。
【0029】
スペーサ16による熱伝達率の低減効果は、スペーサ16から離れるにつれて減衰曲線に沿って減少してしまう。その結果、スペーサ16の間隔によって、MCSTの低下量が変化する。図5から、MCST低下量はスペーサ間隔が短くなるにつれて大きくなることが分かる。また、MCST低下量は、スペーサ16の間隔が約18cmよりも短くなると、飽和傾向を示している。
【0030】
このときのスペーサ16の間隔である18cmは、燃料棒の外径が7mmで、燃料棒の中心間の距離が8mmの燃料集合体において水力等価直径の40倍に相当する。したがって、スペーサ16の間隔は、水力等価直径の40倍以下であることが好ましい。本実施の形態の燃料集合体10であれば、18cm以下であることが好ましい。
【0031】
しかし、燃料集合体10全体の圧力損失が過度に高くなることは好ましくない。また、スペーサ16の数が多くなりすぎると、燃料集合体10の組立が困難になる。そこで、燃料棒12の表面温度があまり高くならない軸方向位置では、スペーサ16の間隔は、スペーサ稠密領域21よりも長くしておく。
【0032】
図6は、スペーサ稠密領域下端の軸方向位置とMCST低下量との関係を示すグラフである。図6は、スペーサ稠密領域21に設けるスペーサ16の数を4個とし、スペーサ稠密領域21に設けるスペーサ16の軸方向の間隔を18cmとした場合の結果である。
【0033】
図6に示すように、スペーサ稠密領域下端の軸方向位置、すなわち、稠密化開始高さが約2.6mから大きくなっていくと、それに伴って、MCST低下量(℃)は一旦上昇して約2.9mで最大となった後、低下し、約3.3mを超えたあたりでその低減量は0となる。つまり、稠密化開始高さを所定の範囲にすることにより、MCSTをより低下させることができることが分かる。本実施の形態では、たとえば稠密化開始高さを2.8mから2.97mの間とすれば、MCST低下量を8℃以上とすることができる。本実施の形態では、稠密化開始高さを2.8mとした。この稠密化開始高さは、燃料発熱部20の下端から燃料発熱部20の長さの約2/3の位置に相当する。
【0034】
また、燃料発熱部20の両端部近傍では、中央部分に比べて発熱量が小さい。このため、燃料発熱部20の上端近傍のスペーサ16の軸方向間隔を小さくしてもMCSTの低減には、ほとんど寄与しない。したがって、スペーサ稠密領域21は、燃料発熱部20の下端から燃料発熱部20の長さの約4/5の高さよりも低い位置に形成されていることが好ましい。したがって、スペーサ稠密領域21は、燃料発熱部の長さの約2/3の高さから約4/5の高さの間に形成されていることが好ましい。
【0035】
また、本実施の形態は、燃料棒12を正方格子状に配置した燃料集合体10を例として説明したが、燃料棒を三角格子状に配列した燃料集合体10であってもよい。また、スペーサ16としては、グリッド型のものだけでなく、熱伝達率向上を目的として丸セル型のスペーサを用いてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10…燃料集合体、11…チャンネルボックス、12…燃料棒、13…水ロッド、14…上部タイプレート、15…下部タイプレート、16…スペーサ、20…燃料発熱部、21…スペーサ稠密領域、30…ペレット、31…端栓、40…炉心、41…原子炉圧力容器、42…円筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる所定の燃料発熱部に核燃料物質を収めた複数の燃料棒と、前記燃料棒の軸方向の複数の位置に設けられたスペーサと、を備えて超臨界圧原子炉に装荷される燃料集合体において、前記燃料棒の軸方向の前記スペーサの間隔が前記燃料棒の間に形成された冷却水の通過領域の水力等価直径の40倍以下であるスペーサ稠密領域と、前記燃料棒の軸方向の前記スペーサの間隔が前記スペーサ稠密領域よりも大きい領域とが形成されていることを特徴とする燃料集合体。
【請求項2】
前記スペーサ稠密領域には前記スペーサが4個以上配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体。
【請求項3】
前記スペーサ稠密領域は、前記燃料発熱部の下端から前記燃料発熱部の長さの2/3より高い位置に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料集合体。
【請求項4】
前記スペーサ稠密領域は、前記燃料発熱部の下端から前記燃料発熱部の長さの4/5より低い位置に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の燃料集合体。
【請求項5】
原子炉容器と、
軸方向に延びる所定の燃料発熱部に核燃料物質を収めた複数の燃料棒と隣り合う前記燃料棒の間の間隔を保持する前記燃料棒の軸方向の複数の位置に設けられたスペーサとを備えて前記燃料棒の軸方向の前記スペーサの間隔が前記燃料棒の間に形成された冷却水の通過領域の水力等価直径の40倍以下であるスペーサ稠密領域と前記燃料棒の軸方向の前記スペーサの間隔が前記スペーサ稠密領域よりも大きい領域とが形成された燃料集合体を前記原子炉容器の内部に配列した炉心と、
を有することを特徴とする超臨界圧原子炉。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−107928(P2012−107928A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255834(P2010−255834)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)