説明

燃料電池およびセパレータ

【課題】セパレータ内のガス通路が生成水に起因して閉塞されることを防止する。
【解決手段】燃料電池は、膜電極接合体と、膜電極接合体の方向に開口するスリット62を備えるセパレータと、膜電極接合体とセパレータとの間に配置される多孔体27とを備える。セパレータには、水素排出用のマニホールド54が設けられ、マニホールド54は、水素出口集合流路72を介してスリット62と連通する。スリット62とマニホールド54との間には、一方端81bがスリット62のマニホールド側端部62aに掛かる部材81を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池と、燃料電池用のセパレータとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池として、膜電極接合体と、膜電極接合体の両側に配置されるセパレータとを備え、膜電極接合体とセパレータとの間に多孔質性の多孔体が設けられたものが知られている(特許文献1および2)。この構成によれば、セパレータに形成されたガス通路と多孔体とにより、膜電極接合体へのガスの給排通路が形成されることになる。また、膜電極接合体における生成水は、毛細管現象により多孔体に集まり、多孔体内を流れて前記ガス通路を介して、燃料電池から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−280904号公報
【特許文献2】特開2007−213928号公報
【0004】
しかしながら、前記従来の燃料電池では、生成水が前記セパレータ内のガス通路に滞留し、冷間時に凍結する等して、前記ガス通路を閉塞する虞があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、セパレータ内のガス通路が、滞留した生成水に起因して閉塞されることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1] 燃料電池であって、膜電極接合体と、前記膜電極接合体に向かい合って配置されるセパレータと、前記膜電極接合体と前記セパレータとの間に配置される多孔質性の多孔体とを備える燃料電池であって、前記セパレータは、前記膜電極接合体の方向に開口するガス導通孔と、前記膜電極接合体から前記多孔体および前記ガス導通孔を介して送られて来るオフガスを、前記燃料電池から排出するガス排出マニホールドと、前記ガス導通孔と前記ガス排出マニホールドとの間に配置され、一方端が前記ガス導通孔の前記ガス排出マニホールド側の端部に掛かる部材とを備える燃料電池。
【0008】
適用例1に係る燃料電池によれば、膜電極接合体の生成水は、毛細管力により多孔体に集まり、多孔体内を流れ、ガス導通孔からガス排出マニホールドに至り、燃料電池外に排出される。さらに、ガス導通孔からガス排出マニホールドに至るガス通路中に滞留する生成水は、部材をつたってガス導通孔から多孔体により吸い戻されることから、前記ガス通路中に滞留することがない。特に、従来、ガス導通孔の前記ガス排出マニホールド側の端部に発生する表面張力は、前記生成水の吸い戻しを妨げようとするが、適用例1に係る燃料電池では、前記部材の一方端が前記端部に掛かることから、前記表面張力を弱めることができる。このため、適用例1に係る燃料電池では、多孔体により吸い戻される力が大きく、前記ガス通路における生成水の滞留を確実に防ぐことができる。
【0009】
[適用例2] 適用例1に記載の燃料電池であって、前記部材は、前記セパレータの積層方向から視たとき、前記部材の前記一方端を含む部分が、前記ガス導通孔とオーバラップするように配置される、燃料電池。
【0010】
適用例2に係る燃料電池によれば、部材がガス導通孔とオーバラップするように配置されることから、多孔体による生成水の吸い戻しがより確実になされる。したがって、ガス通路の閉塞をより防止することができる。
【0011】
[適用例3] 適用例1または2に記載の燃料電池であって、前記セパレータは、前記多孔体側に配置される第1のプレートと、前記第1のプレートと対になる第2のプレートと、両プレート間に空間を形成する中間プレートとを備え、前記ガス排出マニホールドは、前記第1のプレート、第2のプレート、および中間プレートを、各プレートの積層方向に貫通する構成であり、前記所定のガス通路は、前記中間プレートに形成されるガス集合流路であり、前記ガス導通孔は、前記第1のプレートを、当該第1のプレートの厚さ方向に貫通する構成である、燃料電池。
【0012】
適用例3に係る燃料電池によれば、第1のプレート、第2のプレート、および中間プレートからなる三層積層型のセパレータを利用することで、ガス排出マニホールドおよびガス導通孔を容易に形成することができる。
【0013】
[適用例4] 適用例3に記載の燃料電池であって、前記部材は、前記第1のプレートに固設された構成である、燃料電池。
【0014】
適用例4に係る燃料電池によれば、部材の配設が容易である。
【0015】
[適用例5] 適用例1ないし4のうちのいずれかに記載の燃料電池であって、複数本の前記部材により櫛歯部を構成する、燃料電池。
【0016】
適用例5に係る燃料電池によれば、ガス通路の閉塞をよりいっそう防止することができる。
【0017】
[適用例6] 膜電極接合体に向かい合って配置される燃料電池用のセパレータであって、前記膜電極接合体の方向に開口するガス導通孔と、前前記膜電極接合体から前記ガス導通孔を介して送られて来るオフガスを、燃料電池から排出するガス排出マニホールドと、前記ガス導通孔と前記ガス排出マニホールドとの間に配置され、一方端が前記ガス導通孔の前記ガス排出マニホールド側の端部に掛かる部材とを備えるセパレータ。
【0018】
適用例6に係るセパレータによれば、燃料電池に用いたときに、セパレータ内に滞留した生成水に起因するガス通路の閉塞を防止することができる。
【0019】
さらに、本発明は、上記適用例1ないし6以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、本発明の燃料電池を備える燃料電池システムなどの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池の概略構成を示す説明図である。
【図2】セパレータ40に備えられる中間プレート42の平面を示す説明図である。
【図3】中間プレート42を含むセパレータ40、多孔体27、および発電体20を積層方向に切断した端面図である。
【図4】水素出口集合流路72とマニホールド54との連結部周辺を拡大して示す説明図である。
【図5】図4で示した連結部周辺を積層方向に切断した端面図である。
【図6】板状部材81の作用を説明するための説明図である。
【図7】第2実施例としての燃料電池における水素出口集合流路72とマニホールド54との連結部周辺を示す説明図である。
【図8】第1変形例の燃料電池における水素出口集合流路72とマニホールド54との連結部周辺を示す説明図である。
【図9】第2変形例の燃料電池における水素出口集合流路72とマニホールド54との連結部周辺を示す説明図である。
【図10】第4変形例の燃料電池における水素出口集合流路72とマニホールド54との連結部周辺を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら、実施例に基づき説明する。
【0022】
A.第1実施例:
A−1.燃料電池の全体構成:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池の概略構成を示す説明図である。この燃料電池10は、水素ガスと空気との供給を受け、水素と酸素との電気化学反応により発電する固体高分子型の燃料電池である。この燃料電池10は、例えば、車両に搭載され、車両の動力源として使用される。
【0023】
図示するように、この燃料電池10は、主に、電解質膜21を有する発電体20、水素ガスおよび空気(反応ガスと呼ぶ)が流れる多孔体26,27、電気化学反応により生ずる電気を集電する隔壁としてのセパレータ40等を備え、これらを、セパレータ40,多孔体27,発電体20,多孔体26,セパレータ40の順に繰り返して積層し、その両端からエンドプレート85,86で挟んで形成されている。なお、本明細書では、単に「積層方向」と呼ぶときは、上記の積層の方向を示すものとする。
【0024】
なお、エンドプレート85には、反応ガス等を供給あるいは排出する貫通孔が形成されており、この貫通孔を介して図示しない外部の水素タンクやコンプレッサ等から、燃料電池10の内部に反応ガスが滞りなく供給されている。
【0025】
発電体20は、固体高分子の電解質膜21を含む膜電極接合体24(Membrne Electrode Assembly:以下、「MEA」と呼ぶ)の外側にガス拡散層23a,23bを配置した部材25の外周をシールガスケット30で囲んで一体として形成されている。なお、このMEA24,ガス拡散層23a,23bからなる部材25を、以下、MEGA25と呼ぶ。
【0026】
MEGA25を形成するMEA24は、電解質膜21の表面上に、それぞれ電極触媒層22a,22b(カソード,アノード)を備えている。電解質膜21は、プロトン伝導性を備え、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す固体高分子材料の薄膜であり、セパレータ40の外形よりも小さい長方形外形に形成されている。この電解質膜21の表面上に形成された電極触媒層22a,22bは、電気化学反応を促進する触媒、例えば、白金などを備えている。
【0027】
MEA24の外側に配置されるガス拡散層23a,23bは、気孔率が60〜70%程度のカーボン製の多孔体であり、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパによって形成されている。こうした材料からなるガス拡散層23a,23bは、接合によりMEA24と一体化されてMEGA25となる。なお、ガス拡散層23aはMEA24のカソード側に、ガス拡散層23bはアノード側に、それぞれ配置され、各ガス拡散層23a,23bは、供給された反応ガスをその厚み方向に拡散して、対応する電極触媒層22a,22bの全面に反応ガスを供給している。
【0028】
MEGA25の外周を囲むシールガスケット30は、シリコンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴムなど、弾性を有するゴム製の絶縁性樹脂材料からなり、MEGA25の外周に射出成形され、MEGA25外周の一部を厚み方向に挟むように形成されている。
【0029】
シールガスケット30の外形は、セパレータ40と同一の略長方形形状に形成されており、その4辺に沿って、反応ガスおよび冷却水のマニホールドを形成する貫通孔が設けられている。このマニホールド用の貫通孔は、セパレータ40に設けられた貫通孔と同一であるため、セパレータ40の構造とともに、後述する。
【0030】
こうしたマニホールド用の貫通孔の周囲には、各連通孔を囲み、シールガスケット30の厚み方向に凸の部位が形成されている。この凸の部位は、シールガスケット30を挟むセパレータ40に実質的に当接し、積層方向の所定の締結力を受け、潰れて変形する。その結果、凸の部位は、マニホールド内を流れる流体(水素,空気,冷却水)の漏れを抑制するシールラインを形成する。
【0031】
次に、反応ガスが流れる多孔体26,27について説明する。多孔体26,27は、ステンレス鋼やチタン,チタン合金等の発泡金属や金属メッシュなど、内部に多数の細孔を備えた金属の多孔体からなる。この多孔体26,27は、MEGA25より小さい略長方形外形であって、シールガスケット30内に収まる大きさに形成されている。
【0032】
この多孔体26,27の気孔率は、MEGA25を構成するガス拡散層23a,23bの気孔率よりも大きく、約70〜80%程度であり、MEGA25に反応ガスを供給する通路として機能する。
【0033】
例えば、多孔体26は、MEGA25のカソード側(MEA24のカソード側)とセパレータ40との間に配置され、セパレータ40を介して供給された空気を図示する上方から下方へ流し、MEGA25のカソード側に空気を供給する。
【0034】
他方、多孔体27は、MEGA25のアノード側(MEA24のアノード側)とセパレータ40との間に配置され、セパレータ40を介して供給された水素ガスを図示する左方から右方へ流し、MEGA25のアノード側に供給する。
【0035】
つまり、多孔体26,27は、所定方向へ反応ガスを流すことを主目的とするため、反応ガスの流れの圧力損失を抑え、排水性を向上するよう、比較的気孔率を大きく形成している。これに対して、上述のガス拡散層23a,23bは、厚み方向への拡散を主目的とするため、比較的気孔率を小さく形成している。
【0036】
こうした多孔体26,27を流れる反応ガスは、流れの過程でMEGA25に供給され、MEGA25のガス拡散層23a,23bの作用により、各電極触媒層22a,22bに拡散され、反応に供される。なお、この電気化学反応は発熱反応であり、燃料電池10を所定温度範囲で運転するため、燃料電池10内には冷却水が供給されている。
【0037】
次に電気化学反応により生ずる電気を集電するセパレータ40について説明する。セパレータ40は、三つの金属の薄板を積層して形成される三層積層型のセパレータである。具体的には、空気が流れる多孔体26と接触するカソードプレート41と、水素ガスが流れる多孔体27と接触するアノードプレート43と、両プレート41、43の中間に挟まれ、主に冷却水の流路となる中間プレート42とから構成されている。なお、カソードプレート41は適用例3に記載の「第2のプレート」に相当し、アノードプレート43は適用例3に記載の「第1のプレート」に相当する。
【0038】
三つのプレート41〜43は、その厚み方向に、流路用の凹凸形状のない平坦な表面を有し(つまり、多孔体26,27との接触面が平坦であり)、ステンレス鋼やチタン,チタン合金など、導電性の金属材料から構成されている。
【0039】
三つのプレートには、上述の各種マニホールドを構成する貫通孔が設けられている。具体的には、略長方形形状のセパレータ40の長辺のうち、図示する上方に空気供給用の貫通孔51が、図示する下方に空気排出用の貫通孔52が、それぞれ設けられている。また、セパレータ40の短辺のうち、図示する左下方向に水素供給用の貫通孔53が、図示する右上方向に水素排出用の貫通孔54が、それぞれ設けられている。なお、冷却水の貫通孔については、図示は省略したが、セパレータ40のいずれかの位置に供給用と排出用の貫通孔が、それぞれ設けられている。
【0040】
カソードプレート41には、こうしたマニホールド用の貫通孔51〜54に加え、多孔体26への空気の出入口となる孔部57,58が複数形成されている。同様に、アノードプレート43には、マニホールド用の貫通孔に加え、多孔体27への水素ガスの出入口となる孔部61(図2)、62が形成されている。孔部61,62は、長尺状の貫通孔であることから、以下、「スリット」と呼ぶ。
【0041】
中間プレート42に設けられた複数のマニホールド用の貫通孔のうち、空気の流れるマニホールド用の貫通孔(以下、「マニホールド」とも呼ぶ)51,52は、カソードプレート41の孔部45,46と連通するように形成されている。また、水素ガスの流れるマニホールド用の貫通孔(以下、「マニホールド」とも呼ぶ)53,54は、アノードプレート43のスリット61と連通するように形成されている。
【0042】
こうした構造の三つのプレートを積層して接合することで、セパレータ40の内部には、各種流体の通路が形成される。水素ガスについての通路の構成について、さらに詳述する。
【0043】
A−2.セパレータにおける水素ガスの通路:
図2は、セパレータ40に備えられる中間プレート42の平面を示す説明図である。図示するように、中間プレート42には、図中の左上に、開口形状が矩形の水素供給用のマニホールド53が設けられており、図中の上部には、中間プレートの短辺と平行に延びる水素入口集合流路71が形成されている。水素入口集合流路71のマニホールド53側の端部71aは、スリット幅が広くなってマニホールド53と連結されている。
【0044】
図示における水素入口集合流路71の中に見える長尺状の楕円は、アノードプレート43に形成されたスリット61である。なお、本実施例では、水素入口集合流路71は、中間プレート42のスリット61よりも幅長が大きくなっているが、これに換えて、水素入口集合流路71とスリット61とが同一の幅長である構成としてもよい。
【0045】
前記マニホールド53と水素入口集合流路71は、水素供給用のものであるが、中間プレート42には、水素排出用のマニホールド54と水素出口集合流路72が対となって形成されている。詳しくは、水素排出用のマニホールド54と水素出口集合流路72は、水素供給用のマニホールド53と水素入口集合流路71に対して、中間プレート42の平面における中心を中心とする点対称な形状となっている。
【0046】
図3は、前記中間プレート42を含むセパレータ40、多孔体27、および発電体20を積層方向に切断した端面図である。切断方向は、図2におけるA−A線の位置と対応する。図3に示すように、セパレータ40に形成された水素供給用のマニホールド53内を流れる水素ガスの一部は、水素入口集合流路71を通って、スリット61から多孔体27へ供給される。そして、反応に供された後のガス、あるいは、供されない水素ガスは、多孔体27を流れて、スリット62から水素出口集合流路72を経て、水素排出用のマニホールド54へ流れる。なお、空気の流れについての説明は省略するが、水素ガスの流れと同様である。水素出口集合流路72が、適用例1に記載の「所定のガス通路」に相当し、水素出口集合流路72と接続されるスリット62が、適用例1に記載の「ガス導通孔」に相当する。水素排出用のマニホールド54が、適用例1に記載の「ガス排出マニホールド」に相当する。
【0047】
図4は、水素出口集合流路72とマニホールド54との連結部周辺を拡大して示す説明図である。図5は、図4で示した連結部周辺を積層方向に切断した端面図である。両図に示すように、水素出口集合流路72における端部72a付近には、アノードプレート43に形成されたスリット62とマニホールド54との間を架け渡す板状部材81が配置されている。
【0048】
板状部材81は、ほぼ直方体形状(短辺の面が湾曲している点で厳密には直方体ではないが直方体に近い形状)で、長辺方向(図4、5における左右方向)における図中右側の端部81aは、マニホールド54のスリット62側の端部(以下、「スリット側端部」と呼ぶ)54aに達している。板状部材81の図中左側の端部81bは、積層方向(図4における紙面方向、図5における上下方向)から視たとき、スリット62のマニホールド54側の端部(以下、「マニホールド側端部」と呼ぶ)62aよりもさらにスリット62の内側方向(図中、左側方向)に突出した構成となっている。すなわち、板状部材81は、マニホールド54とスリット62との間に配置されるとともに、積層方向から視たとき、板状部材81の端部81bを含む部分(図5中のVの間)が、アノードプレート43に形成されたスリット62とオーバラップする(重なる)ように配置されている。
【0049】
なお、板状部材81は、前述したように、中間プレート42の水素出口集合流路72内に配置されるが、実際は、カソードプレート41の内側表面に固設されることで、その配置がなされている。
【0050】
また、板状部材81の短辺方向‘図5の上下方向の長さ、すなわちカソードプレート41からの突出長は、中間プレート42の厚さと同一である。これにより、カソードプレート41、中間プレート42、およびアノードプレート43を組み合わせたときに、板状部材81は、アノードプレート43の中間プレート42側の面と接する。なお、板状部材81の前記突出長は、中間プレート42の厚さと必ずしも同一である必要はなく、中間プレート42の厚さよりも小さい構成としてもよい。板状部材81は、適用例1に記載の「部材」に相当する。
【0051】
A−3.実施例効果:
以上の各部品からなる本実施例の燃料電池10は、発電体20に反応ガスを効率的に供給することができることから、発電効率に優れている。さらに、燃料電池10は、次の理由により、セパレータ40内のガス通路が生成水に起因して閉塞されることを防止することができる。
【0052】
通常、MEA24における生成水Wは、毛細管力により多孔体26,27に集まり多孔体26,27内を流れてセパレータ40内のガス通路を介して、燃料電池から排出される。アノード側に着目したとき、図6に示すように、毛細管力により多孔体27に吸い上げられた生成水は、アノードプレート43に形成されたスリット62、中間プレート42の水素出口集合流路72と順に移動し、マニホールド54から排出される。燃料電池10が停止すると、水素出口集合流路72におけるマニホールド54側の端部72a付近に、図示するように生成水Wが滞留しようとする。これに対して、本実施例の燃料電池10では、前記滞留しようとする生成水Wは、板状部材81をつたってスリット62から多孔体27により吸い戻される。
【0053】
特に、従来、スリット62のマニホールド側端部62aに発生する表面張力は、前記生成水の吸い戻しを妨げようとするが、本実施例の燃料電池10では、板状部材81の一方端が前記マニホールド側端部62aに掛かることから、前記表面張力を弱めることができる。このため、燃料電池10では、多孔体27により吸い戻される力が大きく、セパレータ内のガス通路における生成水Wの滞留を確実に防ぐことができる。したがって、滞留した生成水Wに起因するガス通路の閉塞を防止することができる。
【0054】
特に本実施例では、板状部材81の端部81bを含む一部分がスリット62とオーバラップするように配置されていることから、板状部材81によるスリット62への生成水Wの引き戻しが確実になされる。したがって、ガス通路の閉塞をより防止することができる。
【0055】
B.第2実施例
本発明の第2実施例について説明する。第2実施例としての燃料電池における水素出口集合流路72とマニホールド54との連結部周辺を図7に示す。図7では、第1実施例と同一の構成については、第1実施例と同一の符号を付している。以下、第1実施例と異なる点についてのみ説明する。
【0056】
図示するように、水素出口集合流路72における端部72a付近には、第1実施例と同一の1本の板状部材81が配置され、さらに、板状部材81と平行に2本の板状部材82,83が配置される。すなわち、3本の板状部材81〜83により櫛歯部が構成される。なお、板状部材82,83は、板状部材81よりも短く、板状部材82、83における図中の右側の端部82a、83aが、板状部材81と同様にマニホールド54のスリット側端部54aに達している。
【0057】
前記構成の第2実施例の燃料電池によれば、櫛歯部による作用により、第1実施例と同様に、生成水Wは、スリット62から多孔体27に引き戻され、ガス通路中に滞留することがない。したがって、第1実施例と同様に、滞留した生成水Wに起因するガス通路の閉塞を防止することができる。特に、この第2実施例では、第1実施例と比べて板状部材の本数が多いことから、生成水の滞留をより防ぐことができる。
【0058】
なお、第2実施例では、櫛歯部は3本の板状部材81〜83を備える構成としたが、これに換えて、板状部材の本数は他の数、すなわち、2本、4本、5本等としてもよい。
【0059】
C.他の実施形態:
この発明は第1および第2実施例やそれらの変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0060】
・第1変形例:
図8は、第1変形例の燃料電池における水素出口集合流路72とマニホールド54との連結部周辺を示す説明図である。第1変形例は、第1実施例の変形例である。第1実施例における板状部材の長辺方向は直線状に延びるものであったが、これに換えて、第1変形例の板状部材181は、スリット62側の端部181a近くで、折れ曲がっている。なお、図8において第1実施例と同一の構成については、第1実施例と同一の符号を付している(下記の第2変形例および第3変形例も同じ)。
【0061】
この構成によれば、板状部材181の固設位置が、図中、上下方向に位置ずれした場合にも、スリット62に板状部材181を確実にオーバラップさせることができる。したがって、生成水の滞留を確実に防ぐことができる。
【0062】
・第2変形例:
図9は、第2変形例の燃料電池における水素出口集合流路72とマニホールド54との連結部周辺を示す説明図である。第2変形例は、第1実施例と同じ板状部材81を備え、さらに、板状部材81に平行に同一長さの1本の板状部材281が配置される。なお、板状部材281は、板状部材81に対して図中における上側に位置する。その上で、アノードプレートに形成されたスリット162の端部162a付近を、図中における上側に拡張した構成となっている。この構成により、板状部材81,281の一部分は、アノードプレートに形成されたスリット162とオーバラップするように配置される。
【0063】
この構成によれば、櫛歯部が複数本の板状部材81,281により構成されているにも拘わらず、各板状部材81,281の一部分を、アノードプレートに形成されたスリット162と確実にオーバラップさせることができる。したがって、櫛歯部による作用がより大きくなることから、ガス通路中における生成水の滞留をより防止することができる。
【0064】
・第3変形例:
前記第1および第2実施例やそれらの変形例では、板状部材81の一方端が、スリット62のマニホールド側端部62aよりもさらに突出し、板状部材81の他方端が、マニホールド54のスリット側端部54aに達する構成とすることで、板状部材81がスリット62とマニホールド54との間を架け渡す構成としたが、必ずしも、架け渡す必要はなく、板状部材81の他方端とマニホールド54のスリット側端部54aとの間が離間していてもよい。また、板状部材81の他方端が、マニホールド54のスリット側端部54aよりもさらにマニホールド54の内側に達する構成であってもよい。
【0065】
さらに、板状部材81の一方端がスリット62のマニホールド側端部62aと一致する構成であってもよい。要は、板状部材81の一方端がスリット62のマニホールド側端部62aに掛かる構成であれば、いずれの構成としてもよい。
【0066】
・第4変形例:
図10は、第4変形例の燃料電池における水素出口集合流路72とマニホールド54との連結部周辺を示す説明図である。第1実施例では、板状部材81は、カソードプレート41の内側表面に固設されることで、中間プレート42の水素出口集合流路72内に配置されるが、これに換えて、第4変形例では、水素出口集合流路72内の壁面に取り付けられた複数本の取付棒301〜304により、板状部材81は、第1実施例と同じ位置に配置される構成とした。この構成によれば、板状部材をセパレータと一体化させることができることから、部品点数が少なくてすむ。
【0067】
・第5変形例:
前述した第1および第2実施例や変形例では、板状部材を水素ガス系統に採用した構成として説明したが、これに換えて、板状部材を空気系統に採用する構成としてもよい。すなわち、空気排出用のマニホールド52と空気の出口となる穴部58とを結ぶ経路上に板状部材を配置した構成としてもよい。
【0068】
・第6変形例:
前述した第1および第2実施例や変形例では、ガス導通孔と前記ガス排出マニホールドとの間に配置される部材は、板状の部材としたが、必ずしも、板状である必要はなく、これに換えて、棒状(角棒状、丸棒状等)等の他の形状としてもよい。また、前述してきた板状部材のように、ガス導通孔とガス排出マニホールドとを結ぶ方向に長手形状であることが好ましいが、必ずしもそうする必要もない。
【0069】
・第7変形例:
前記実施例では、セパレータ40は、三層積層型のものとしたが、必ずしも3層である必要はなく、例えば一層としてもよい。
【0070】
・第8変形例:
また、前記実施例および変形例とは異なる種類の燃料電池に本発明を適用することとしてもよい。例えば、ダイレクトメタノール型燃料電池に適用することができる。あるいは、固体高分子以外の電解質層を有する燃料電池であってもよく、本発明を適用することで同様の効果が得られる。
【0071】
なお、前述した実施例および各変形例における構成要素の中の、独立請求項で記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明はこれらの実施例および各変形例になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の態様での実施が可能である。
【符号の説明】
【0072】
10…燃料電池
20…発電体
21…電解質膜
22a…電極触媒層
23a…ガス拡散層
23b…ガス拡散層
24…膜電極接合体
25…部材
26…多孔体
27…多孔体
30…シールガスケット
40…セパレータ
41…カソードプレート
42…中間プレート
43…アノードプレート
45…孔部
51、52…空気供給用のマニホールド
53、54…水素供給用のマニホールド
54a…スリット側端部
61、62…スリット
62a…マニホールド側端部
71…水素入口集合流路
72…水素出口集合流路
81…板状部材
82、83…板状部材
162…スリット
181…板状部材
281…板状部材
301〜304…取付棒
W…生成水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体と、
前記膜電極接合体に向かい合って配置されるセパレータと、
前記膜電極接合体と前記セパレータとの間に配置される多孔質性の多孔体と
を備える燃料電池であって、
前記セパレータは、
前記膜電極接合体の方向に開口するガス導通孔と、
前記膜電極接合体から前記多孔体および前記ガス導通孔を介して送られて来るオフガスを、前記燃料電池から排出するガス排出マニホールドと、
前記ガス導通孔と前記ガス排出マニホールドとの間に配置され、一方端が前記ガス導通孔の前記ガス排出マニホールド側の端部に掛かる部材と
を備える燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
前記部材は、
前記セパレータの積層方向から視たとき、前記部材の前記一方端を含む部分が、前記ガス導通孔とオーバラップするように配置される、燃料電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池であって、
前記セパレータは、
前記多孔体側に配置される第1のプレートと、前記第1のプレートと対になる第2のプレートと、
両プレート間に空間を形成する中間プレートと
を備え、
前記ガス排出マニホールドは、
前記第1のプレート、第2のプレート、および中間プレートを、各プレートの積層方向に貫通する構成であり、
前記所定のガス通路は、
前記中間プレートに形成されるガス集合流路であり、
前記ガス導通孔は、
前記第1のプレートを、当該第1のプレートの厚さ方向に貫通する構成である、燃料電池。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池であって、
前記部材は、
前記第1のプレートに固設された構成である、燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれかに記載の燃料電池であって、
複数本の前記部材により櫛歯部を構成する、燃料電池。
【請求項6】
膜電極接合体に向かい合って配置される燃料電池用のセパレータであって、
前記膜電極接合体の方向に開口するガス導通孔と、
前前記膜電極接合体から前記ガス導通孔を介して送られて来るオフガスを、燃料電池から排出するガス排出マニホールドと、
前記ガス導通孔と前記ガス排出マニホールドとの間に配置され、一方端が前記ガス導通孔の前記ガス排出マニホールド側の端部に掛かる部材と
を備えるセパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−108523(P2011−108523A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263104(P2009−263104)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】